タイトル:魔女裁判マスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/01 23:50

●オープニング本文


 魔女は人でなくなる呪いを受けている。
 その魔女が街の何処かに潜んでいる。
 この街には、そう言った噂が流れている。
 都市伝説とか、そういう類の物だ。
 ベルフラウは特にそういった物に興味を持たない。
 いや、そもそも戦う事以外に興味など無いのだ。
 そんなベルフラウは、どういう風の吹き回しか、自らの意思で此処にやって来た。
 そして「魔女」と目される存在と戦っている。

 ベルフラウは短く息を吐き、漆黒の大剣を地面に対し垂直に振り下ろす。
 魔女はそれを寸での所でかわし、ベルフラウとの距離を取る。
「ULTの犬めっ!!」
 黒いオーラを撒き散らし、魔女は叫び、その槍を構える。
 ベルフラウは無言で大剣を構え直すと、その切っ先を魔女の胸に向ける。
 魔女は禍々しい程の殺気を放ちながらも、ベルフラウに勝てない事を直感した。
 実力が違うと言うだけじゃない。
 ベルフラウは戦いを純粋に楽しんでいる。
 それ故に躊躇いが無い。
「これだから、能力者は‥‥バグアと何も変わらない」
 魔女は黄金に輝く目を細め、卑屈っぽく笑う。
 魔女の構える槍が高速の突きを繰り出す。
 ベルフラウは大剣を使い、その軌道を器用にずらし、直撃を避ける。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
 乱暴に繰り出される攻撃を至って冷静に捌く、ベルフラウ。
 そして――
「っ!!」
 右から左へ、内側に薙ぐ様に大剣を一閃。
 魔女は声を上げる間も無く、地面に崩れ落ちる。

 判決は既に確定している。
 それは覆らない事だ。
 仲間殺しと言う罪を負った、能力者を排除する。
 死刑を下す。
 それがこの依頼の真の目的。
 だからこそ、ベルフラウはこの依頼に志願した。
「殺すなら、殺せ‥‥」
 血溜りの中に沈んだ、女は抵抗する気も失せている様だ。
 覚醒を解き、魔女と呼ばれる姿から唯の人間の姿に戻っている。
 先程の一撃は致命傷だ。
 放っておいても、いずれ死ぬだろう。
 そんな事を思いながら、ベルフラウの興味は目の前の女から無くなっていた。
 女が何かを言っているが、ベルフラウにとってはどうでも良い事だった。
 もう戦えないのならば用は無い。
 真紅の髪が風で揺れる。
 さて、どうするか?
 残りの「二人」の内、どちらの刑を先に執行するか。
 ベルフラウはそんな事を考えながら、次の標的を探す為にその場を去る。
 倒れた女を尻目に。

●参加者一覧

紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
J.D(gb1533
16歳・♀・GP
風花 澪(gb1573
15歳・♀・FC
クリス・フレイシア(gb2547
22歳・♀・JG
ヴィンセント・ライザス(gb2625
20歳・♂・ER
ティリア=シルフィード(gb4903
17歳・♀・PN
加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA
真山 亮(gb7624
23歳・♂・ST

●リプレイ本文

 深夜の街の中を歩く。
 J.D(gb1533)は背負ったギターケースの重みを確認する。
 鈍い金属の音は明らかにギターのソレではない。
 その隣には、同じ様に紙箱の中に通常では考えられない物を隠して歩く作業員風の男。
 ヴィンセント・ライザス(gb2625)は「撮影」を装った格好を選んだのだ。
 勿論、深夜とは言えダンボールやギターケースを持って歩く事は些か不審では有る。
 しかし、その格好のまま映画やPVの撮影だと言ってしまえば何となく納得してしまう。
 それも、ヴィンセントの格好とJ.Dの元々の見た目のお陰でも有るのだろう。
「‥‥夜の街ってちょっとドキドキします」
「そうであるな」
 そもそも裏切り者の能力者が二人も潜んでいるのだ。
 無駄に緊張もするだろう。

 クリス・フレイシア(gb2547)は少し疲れた様に思い出す。
 この街に送られてきた、今回の依頼の為のメンバー。
 ベルフラウも含め戦闘狂が多い。
 金を貰う分、それに見合った働きはするつもりのクリスだが既にげんなりしている。
 それでも迷いの無い足取りで見知らぬ街を進む。
 それは加賀・忍(gb7519)が少し前を歩いているからだろう。
 街の人通りの少ない場所などを中心に歩き回っているのだ。
 彼女も戦闘狂と言われる存在だ。
 必殺か、そうではないか。
 ベルフラウとの違いはその部分のみ。
 しかし、決定的な差だ。
 忍は両側にそそり立つ、高い壁から覗く夜空を見上げる。
 今夜は満月だ。
 不気味な程に明るい空だ。

 煙草に火は点いていない。
 我慢だ。
 真山 亮(gb7624)は煙草を咥えて辺りを見回す。
 裏切り者が裏切った理由は知らない。
 けれども仕事はきっちりとこなす。
 それが亮なりの社会人としてのけじめらしかった。
「吸わないんですか?」
 ティリア=シルフィード(gb4903)は物陰に身を潜めながら亮に聞く。
「火を点けると目立つからな。 仕事が終わるまで我慢だ‥‥」
 折角、目立たない様に行動しているのだ。
 煙草の火と煙は目立つ。
 そうですか、とティリアは呟くと通りの反対側に目をやる。
 裏切り者には死を。
 そんな事は分かっている。
 自分の居る世界の掟だ。
 けれども、ティリアの覚悟が決まらないのは彼女が未だに人を手に掛けた事が無いからか。
(「とにかく一刻も早く見つけ出して‥‥それから――」)
 どうしてこうなったのか、聞き出さなければ。
 亮とティリア、二人の魔女狩りは始まったばかりだった。

「ちょ、マジ止めて、マジストップ‥‥!」
 路地裏で格闘するのは紅月・焔(gb1386)と風花 澪(gb1573)だ。
「だって、今通り過ぎてった女の人に声掛けようとしてたでしょ? 煩悩全開で」
 澪がぐいぐいと引っ張っているのは焔のガスマスク。
「いや、そんな事無い‥‥そんな事有りません‥‥紳士として深夜に一人で歩く女性の安全をっ‥‥!」
 必死に抵抗する焔を見て、急に手を放す澪。
「ま、いっかー♪ それじゃ、さっさと探して、ぱっぱと殺っちゃおう♪」
 可愛い外見とは裏腹に、物騒な言葉を吐き捨てる。
 戦闘狂とは違うが、澪も人との殺し合いに対してかなり特殊な感性の持ち主だった。
 澪には似つかわしくない二振りの月詠がそれを表していた。
「ところで、どこに向かって歩いてるの?」
「‥‥俺を甘く見るなよ‥‥この白い布でベルたんの匂いはばっちりだ‥‥」
 以前、模擬戦をした時にベルフラウの胸の谷間から出てきた白旗。
 それを大事に持っていた焔は匂いを嗅ごうとする。
 ガスマスクなので嗅げないのだが。
「‥‥‥‥えい」
 澪は非常に冷めた目でガスマスクを剥ぎ取る。
 焔は無駄にキリッとしながら――
「‥‥恩に着る‥‥」
 白旗の匂いを嗅ぐ。

 おかしい。
 カミラが戻って来ない。
 シルヴィアは廃屋の窓辺から外の景色を眺める。
 白銀の槍を持った彼女の姿を思い浮かべる。
 やはり、傭兵達が此処を嗅ぎ付けたのか。
 逃げるにしても、戦うにしても完全に後手に回ってしまった。
 大鎌を手に取りながら、ハンドレッドの方に向き直る。
「‥‥行こう、どの道避けられない‥‥時間も限られているしな」
「はい」
 ハンドレッドは黒い刀身の刀を抜き、刃を小さな明かりで照らし確認する。
 抜かりなど無い。
 こういう時の為の、戦う技術や知識だ。
 傭兵達がこの街に来ているならば、戦って生き残らねばならない。
 簡単に勝てる相手ではないだろう。
 しかし、それ以上に逃がしてくれる相手ではないはずだ。
 だからこそ、此処は戦って、それから逃げれば良い。
 自分達の死期が早まるか、そうでないかの違いだ。
 シルヴィアとハンドレッドはお互い頷き――
 静まり返った街へとそれぞれ姿を消した。


 路地裏を抜けて人気が全く無い工場の跡地に差し掛かった時だった。
 ティリアはそれを察知する。
 目の前に振り下ろされたのは死神の鎌。
「こんな夜遅くに子供が何をしている? 尤も、傭兵ならおかしな話でもないか」
 銀髪碧眼の女。
 大鎌の起こした風圧で揺れる髪は、妙な妖艶さを持っている。
 魔女と噂になるのも頷ける。
「シルヴィアさんですね?」
 ティリアが問う。
 何も答えずに、シルヴィアは鎌を地面から引き抜く。
「目標を発見した、武器や外見からシルヴィア・アナスイと判断」
 亮が無線で他の班に連絡を入れる。
 それを確認したティリアが焦る様に更に続ける。
「どうして‥‥どうして仲間を‥‥?」
 シルヴィアはその言葉に眉を顰める。
「問答無用で来ると思っていたが‥‥知りたければ、私を倒す事だな」
 鎌を頭上で大きく回転させて、構える。
 そんな、と小声で呟くティリアを手で制したのは亮だった。
 亮は首を振る。
 ティリアはそれを見て、一度目を閉じる。
 そして二刀を引き抜き、シルヴィアという名の目標と対峙する。
 鎌が空気を裂き、斬線を横一文字に描く。
 ティリアは上に跳び、亮は屈みながら後ろに下がる。
「私は生き残る、貴様達を殺してでもな」
 シルヴィアの瞳には強固な意志が宿る。

 急襲。
 雷の様な閃光と共に黒刀が突き出される。
 左右に分かれる様に跳ぶ、J.Dとヴィンセント。
 そして、体勢を立て直し、それぞれの得物を構える。
「クスクス‥‥こんばんは、仲間殺しさん♪」
 J.Dが狂気の笑みを浮かべる。
 先程までの彼女の雰囲気とは違う。
 月詠の反射する弱々しい光がその表情を照らす。
「やはり、ですか‥‥」
 悲しそうに目を伏せるハンドレッド。
 それでもその刀の切っ先を下ろす事は無い。
「‥‥敵になったのならば容赦しない。 逃げたくば、俺達の屍を踏み倒して行く事だ」
「‥‥最初からそのつもりです」
 ヴィンセントの右目に捉えられた、ハンドレッドは電流の様な物を体に流しながら顔を上げる。
「そうでなければ、逃げられるとは思っていません」
 成る程、とヴィンセントは思う。
 外見的には魔女というのもあながち間違いではないのだろう。
 普通の人間には有り得ない現象が、彼女の身体に起こっている訳で――
 それでいて、あの美貌だ。
 魔女と噂されるのも納得がいく。
 J.Dが斬り込んで行ったのはその直後だった。
 彼女の高笑いが人気の無い、古いビルに囲まれた広場に木霊する。

 愛銃ナタリーを構えるクリス。
 照準を合わせ、トリガーを引く。
 放たれた銃弾は、J.Dの斬撃をかわしたハンドレッドの頭部を襲う。
 ギリギリになって気付いたハンドレッドは何とか刀をその射線上に合わせながら、上体を逸らす。
 刀に斬り裂かれ、二つに割れた弾丸の片方はハンドレッドの右目を潰す。
 そこに更に忍が迅雷で突貫してくる。
 右目の負傷に構っている暇も無く、忍の一撃を刀で受け流し、ハンドレッドは後退する。
「愚鈍過ぎるな」
 ヴィンセントがロケット弾を放つ。
 爆音、爆風。
 炎に因る、閃光が辺りを包む。
 その業火の中から飛び出して来たのは雷。 
 右目から血を大量に流しながらも、J.Dを斬り飛ばす。
 クリスは次の動作に入ろうとするハンドレッドの足元を狙撃して、行動を遅らせる。
 その隙を狙って、忍が斬撃を加える。
 上手くかわし、体勢を立て直そうとするが、それは叶わない。
 それよりも早く、J.Dの一太刀がハンドレッドの右腿を斬り裂いていたのだ。
 しかし、未だ倒れる気配は見せない。
 ハンドレッドはもう一度雷と化して、今度はヴィンセントに飛ぶ。
 そのタイミングを見計らい、ヴィンセントはロケット砲を思い切り横に振るう。
 そして回転し、そのまま上段へとロケット砲を振り上げ投げ捨てる。
 ハンドレッドはそれを難なくかわし、黒い刀を振るう。
 ヴィンセントの奇襲とも呼べる、近距離からの射撃を浴びても止まる事は無い。
 刀はヴィンセントの右肩口に斬り込む。
 しかし、浅い所で刀は止まる。
 左の太股をクリスが撃ち抜いていたのだ。
 両腿に力が上手く入らずに、刀に威力が乗らなかったのだ。
「唯では倒れん‥‥!」
 ハンドレッドは、武器を掴もうとするヴィンセントの行動を嫌い、何とか後ろへ飛び退く。
 そこに詰めて来たのは忍だった。
 ガチッと大きな音を立てて奥歯を噛み締め、その場に踏ん張り刀を振るう。
 が、勝負の刹那を見切ったのは忍の方だった。
 持ち返られた、クロックギアソードが刀を握った腕を落とす。
 そして――
「それじゃ、死刑執行ね♪」
 その胸を背後から貫いたのはJ.Dの月詠だった。

 衝撃波が地面を削りながら工場内部から走ってくる。
 その奥に黒い大剣を肩に背負ったベルフラウの姿が見える。
 更には、焔と澪の姿も確認出来る。
 焔レーダーがベルたんを捕らえたらしい。
 シルヴィアはそんな状況でも退く姿勢など見せない。
 亮の目には寧ろ、先程よりも活き活きとしてきている様に映っていた。
「はじめましてー♪ 依頼で貴女を殺しに来ました澪でーす♪ よろしくねっ!」
 緊迫した状況には似つかわしくない高めのテンションで自己紹介をする澪。
 刹那、澪とシルヴィアは一気に間合いを詰める。
 そして大きな金属音が響く。
 お互い、地面を削りながら後方へと退く。
 もう一度突撃してくるシルヴィアに対し、焔がSMGで牽制を行う。
 弾幕の間隙をすり抜け、大鎌の一撃が焔を狙う。
 その横から、いつの間にか距離を詰めて来ていたティリアが身体を回転させながら二刀を叩き込む。
 咄嗟に反応し、何とか致命傷を避けるシルヴィア。
 それでもその場に膝を着いてしまったのは、亮のエネルギーガンが直撃していたからだった。
 ベルフラウが大剣を軽々と片手で振り上げる。
 無言の一撃がその首に向かって振り下ろされる。
 シルヴィアはその大剣を鎌の柄で受け止め、更に押し返す。
 そして横一線に鎌を払う。
 ティリアと焔、ベルフラウは後退し、武器を構え直す。
 それと同時に焔はSMGを乱射して、シルヴィアを休ませない様に動かす。
 空中へと飛び上がった、シルヴィアは縦方向に身体を回転させ鎌を一閃。
 澪を狙った一撃だったが、それは当たらずに地面に深く突き刺さる。
「残念っ」
 澪は右手の月詠を横に薙ぎ、シルヴィアに斬りつけた。
 血飛沫が飛び散る。
 シルヴィアは後ろに倒れる反動で鎌を引き抜き、柄を突き出し澪に反撃を加える。
 踏み止まりながらも、周りの状況を確認するシルヴィア。
(「此処が私の死ぬ場所か」)
 諦めた訳ではない、直感したのだ。
 肩で大きく息をしながら、鎌を構え、そして叫ぶ。
「貴様らに言っておく事が一つだけ有る」
 その言葉にティリアが二刀の切っ先を少しだけ下げる。
「裏切ったのは私達ではない。私達が殺した奴らだ」
「‥‥どういう事だ?」
 亮が目を細めて聞く。
 澪と焔、ベルフラウは沈黙したままだった。
「奴らがバグアに寝返ろうとしていたからな、実力行使で止めたんだよ‥‥が、どういう訳かこうなった」
 最初からシルヴィア達が裏切り者として処理される様に仕組まれていたらしい。
 苦笑しつつ、シルヴィアが周りを見渡す。
「まぁ、そんな事はどうでも良くて‥‥私達はその時初めて能力者の力を思い知ったよ」
 そう言って、鎌を振り上げるシルヴィア。
 そして――
「バグアは勿論‥‥能力者も人間なんかじゃない、唯の化け物だよ」
 悲哀に満ちた笑みで鎌を振り下ろす。
 強力な衝撃波がその直線上の物を次々と吹き飛ばしていく。
 それを正面から止めたのはベルフラウの起こした衝撃波だった。
 単純な力比べがしたかったらしい彼女は満足そうに笑う。
 その間に間合いを詰めていた澪が両手の月詠を振り抜く。
 十字に斬り裂かれたシルヴィアは呆気無く、その場に崩れ落ちた。


「映画の撮影中だ、火薬も使ってるから危険である」
 深夜だというのに、若い男女のグループが野次馬根性丸出しで現場に近付いてきていた。
 ヴィンセントが物音に気付いた野次馬を追い返している。
 そんな光景を見ながら、シルヴィアの遺体を運び、合流したティリアは思う。
 次の朝には何もかも片付いてしまっている。
 それが何故か悲しい、と。
 その後姿を何も言わずにベルフラウはただ眺めていた。
 二つのズタ袋の傍には煙草が二本。
 煙を上げていた。