●リプレイ本文
木々の合間を縫う様にヴェロニク・ヴァルタン(
gb2488)は進む。
バイク形態のリンドヴルムに跨る彼女。
その座席の後ろの方には辰巳 空(
ga4698)が確りと掴まっている。
「寒いの嫌いですのに‥‥うぅ‥‥」
ヴェロニクはハンドルを切りながらぼそりと呟く。
今現在、報告に有った吹雪は止んでおり、積雪も意外と少ない。
しかし、空気は恐ろしい程に冷え込んでいたのだ。
「生き残りが居れば良いのですが‥‥」
辰巳は疾走するバイクの後ろから辺りを見渡す。
積雪の少ない場所の中でも、バイクで先行できる場所を捜索中の二人。
対象は捜索隊の生き残りとキメラだ。
「Ok、皆集まったかしら?」
ルキアが、続々と集まって来た面々に声をかける。
「厄介な事になったねぇ‥‥落ち着いてチョコも食べられないよ、もぉ」
樋口 舞奈(
gb4568)は慣れない防寒具に身を包みながら困った様に言う。
その隣でうんうんと頷いているのは山崎・恵太郎(
gb1902)。
「何がなんだか分からない依頼ですね」
ルキアはそんな山崎の言葉に、そうねと肩を竦める。
辺りには雪がちらほらと降り始めていた。
「この雪もキメラのせいなのでしょうか?」
マヘル・ハシバス(
gb3207)は鈍食色の空を見上げる。
「報告からすると刀、がキメラだと推測‥‥加えて気象、気温も操作できると思うノダー」
レベッカ・マーエン(
gb4204)がマヘルの疑問に答える。
アンナ・グリム(
gb6136)は地図や方位磁石の確認をしながら、レベッカに同意する様に頷く。
「今回が初任務となりますが、宜しくお願いします」
アーシュ・オブライエン(
gb5460)はそうは見えない落ち着いた態度で挨拶をする。
ルキアはそんな面々をもう一度見渡し、振り返り一歩。
「Ready? 行きましょう」
こうして後続隊は雪が降り始め、先程より一層寒くなった山の中に入っていった。
アーシュは地図を片手に辺りを見回す。
「しかし、吹雪が思った以上に強いですね‥‥逸れない様にしましょう‥‥」
「視界の悪さは声を出していくノダー」
アーシュの言葉を受け、レベッカが吹雪で視界の悪い中、全員に声をかける。
吹雪は先程より強くなり、視界は悪くなる一方だったのだ。
「連絡から大分時間が経ってるわ」
ルキアは時計を確認して、少し焦った様に早足になる。
発見が遅れるという事は、捜索隊の生存確率が下がるという事なのだ。
「そう言えば、何で捜索隊の人達は一人が暴れだした事を知ってるんだろうか?」
山崎は少し疑問に思っていたらしく、誰にとも無く聞いてみる。
捜索を行っていたのならば個人、もしくは何人かずつに分かれるのが普通だ。
今回、捜索に向かったのは五人。
内訳は、三人がグラップラーで二人がサイエンティスト。
突然暴れだしたのがグラップラーと言うことだった。
「そうね、詳しい話は聞けず終いだったけど‥‥多分、刀を見つけて一度集まった時に叩かれたんだと思うわ」
ルキアは少し先を歩きながら、山崎の疑問に答える。
「つまり‥‥」
マヘルは一つの予測を立てる。
レベッカの言う通り、キメラの本体が刀だったとしたら。
刀が能力者を操ってるのだとしたら。
刀に知能が有るのか、刀が操っている人間の知能を使っているのか。
この事から言葉は通じる存在だという事は考えられる。
もしくは操っているのではなく、幻覚を見せられているのだろうか。
「どちらにしろ、説得は無理だろうけれども」
ヴェロニクから連絡が入ったのはマヘルが吹雪の音に消される位の小声で呟いた時だった。
降雪や視界の悪さ、そして積雪量から既にバイクでの移動は諦め、辰巳とヴェロニクは徒歩による捜索を行っていた。
丁度、定期連絡を入れようと辰巳が無線を手に取った時だった。
「大丈夫ですか!?」
少し先を歩いていたヴェロニクが声を上げる。
ヴェロニクが駆け寄った先に倒れていたのは、捜索隊と思われる人物。
「う‥‥良かった、応援か‥‥? 早くしないと‥‥」
他の仲間が、と言ったところで彼は意識を失ってしまった。
「連絡お願いします」
辰巳は自らの医師としての経験を活かし、意識を失った彼の簡単な検査を行う。
目立った外傷も無く、突然暴れだした捜索隊の一人からは上手く逃げ切れたようだった。
「連絡完了しました」
ヴェロニクは無線機をしまいながら周辺の警戒を行う。
要救助者の一人が此処に倒れていたという事は近くに襲った相手がいる可能性が高いからだ。
二人は近くの洞窟の様な場所に移動し、後続隊の到着を待った。
「此処なら、少し位時間を稼げる‥‥」
辰巳は背負っていた捜索隊の一人を寝かせ、少し吹雪の強くなった外を見る。
「装備から見て、彼はサイエンティストでしょうか?」
「ですね」
となると、残る捜索隊はサイエンティストが一人、グラップラーが二人。
「レベッカさんも言っていましたが、刀型キメラに洗脳もしくは寄生された人が一人ですね」
ヴェロニクはリンドヴルムに身を包み、洞窟の入り口近くまで歩いていく。
そしてため息を一つつく。
「後続隊が到着するまでどの位かしら?」
そんなヴェロニクの言葉に辰巳は立ち上がり、雲隠をゆっくりと引き抜いた。
「キメラと接触したようです」
アンナが無線を片手に走り出す。
吹雪が吹き荒れる中、後続隊の面々はそれに続く。
吹雪は先程指定された先発隊が避難している座標に近づくにつれ強くなる。
「もう少しよ!」
ルキアが全員に声をかけ、自らの銃を構える。
そして先頭を行く山崎が少し小高くなった丘を駆け上り、一気に飛び降りる。
着地し、顔を上げるとそこに彼は居た。
吹雪が渦巻くように彼を取り囲んでいる。
「到着したようですね」
ヴェロニクが山崎の姿を確認して、安堵する。
「呪いの刀剣の類の話は世界中に有る。バグアも面白い所に目を着けたといった所なノダー」
追いついて来たレベッカはその吹雪の中心の様子を見て、確信する。
「刀がキメラです! 確認済みです!」
辰巳は後続隊が着くまでに、予め用意しておいた石で刀自体のFFの確認を行っていたのだった。
その刹那、到着したばかりの後続隊の中央に向かって一陣の風が吹く。
「全員、此処で死んでもらう‥‥」
辛うじて、と言った所で全員は散開する。
しかし、刀型キメラを手にしたグラップラーの男のスピードは予想以上。
アンナとマヘルは斬撃を避けきれずそれぞれ右腕と左腕に怪我を負ってしまう。
「こんなキメラ‥‥情報が無かったらまず対処できないでしょうね」
アンナの切り裂かれた衣服には血が滲んでいる。
それだけではなく、血の滲んでいる部分の衣類が凍っている。
「正気ではないようですね‥‥」
マヘルはそう呟くと、その二つの黒い瞳でグラップラーを見る。
「どうしてこんな事をするんだ?」
山崎がそのグラップラーに声をかけながら相手の出方を伺う。
薄っすらと青く妖しく光るその刀身を眺めながら、グラップラーは一言。
「お前達が私の敵だからだ‥‥」
積もった雪を舞い上げ、一気に接近してくるグラップラー。
アーシュが円閃を使い相手の手先に打ち付ける様に攻撃をして迎撃する。
刀を落とす為に狙ったのだろう。
「‥‥?」
確かな違和感が彼女を襲う。
刀を握っているグラップラーの手は凍っていたのだ。
グラップラーはニヤリと笑い体勢を無理矢理戻し、アーシュを襲う。
そこに舞奈が割って入り、盾で斬撃を受け止める。
そして一瞬動きの止まったグラップラーにレベッカは虚実空間をかける。
電波増幅にてその効力は高まっているのだが、すぐにグラップラーに離脱されてしまう。
「何をした?」
グラップラー自身には何も変化は無い。
しかし、辺りの吹雪が弱まってきている。
「効果が有り‥‥みたいね」
ルキアが、グラップラーに向かっていく辰巳と山崎の援護射撃を行う。
銃弾は軽くかわされ、グラップラーも二人に向かっていく。
辰巳は盾で斬撃を受けつつ、刀を落とさせるチャンスを窺う。
一気に片付けたい所だったが、山崎の腹部にグラップラーは尋常ではない程の衝撃を与える。
単純なミドルキック。
そのはずなのだが、刀型キメラにより能力が限界以上に発揮されているらしくミカエルを着た山崎を軽々と後退させた。
攻撃後の体の硬直は見逃せないとヴェロニクはすかさず銃弾を撃ち込む。
「ごめんなさい」
刀型キメラを狙おうにも明らかにその所有者を黙らせる必要が有ると判断したのだった。
「え?」
しかし、銃弾は標的に届く事はなかった。
ヴェロニクとグラップラーの丁度中間に一枚の分厚い氷の壁が現れたのだ。
辰巳を力任せに弾いた後、地面に刀を刺し氷壁を発生させたらしい。
「悪いわね、少し痛い思いしてもらうわよ」
アンナはイアリスを構えながら追撃する。
流石に反応しきれなかったのか、グラップラーは右太腿を切り裂かれる。
「舞奈もいっくよー!」
舞い上げた雪がジュッと音をたてながら舞奈の機械剣に溶かされていく。
その刃は深々と左太腿に突き刺さる。
刀型キメラ自体にダメージは無いので動かそうと思えば、グラップラーの体は動いたはずだった。
しかし、グラップラーはその場に膝を着く形になる。
「厄介な能力でしたけれども、正体さえ掴んでしまえば手強い相手では有りませんでしたわね」
マヘルのかけた虚実空間が肉体の限界を突破した強化の効力を弱めていたのだ。
更に練成治療を適宜受けていた為、未だ勢いの衰えない前衛班が畳み掛ける。
「ちっ!」
刀を袈裟切りに振るうグラップラーだったが、それを舞奈は盾で受け止めそのまま弾き返した。
そこへ辰巳が足払いで体勢を崩しにかかり、更にアンナが刀を持っている右腕を斬りつける。
体勢を立て直そうとグラップラーが左手を地面に着いた時だった。
山崎のゲイルナイフに乗った竜の咆哮が右腕をミシリという音と共に弾き飛ばす。
「私達剣士にとって剣は身体の一部。 決して身体を操る類の物ではありません」
アーシュは酷く冷静に蒼銀色の髪を揺らしながら円閃を刀に打ち込む。
今度こそ凍りついた手から、その刀『アイスブランド』を引き剥がす事が出来た。
雪の中に埋もれた刀を念入りに処分する、面々。
マヘルとレベッカは件のグラップラーの治療に当たっている。
「‥‥どうやら手遅れだったみたいだわ」
ルキアは刀の破壊を皆に任せ、周辺の調査を行っていたらしい。
ルキアの言葉は捜索隊の生き残りが五人中二人しか居ないという事実を表していた。
「そうですか」
アンナの周りを飛んでいた、覚醒中にのみ現れる黒い蝶が銀色の粒子になって霧散する。
「早く人里に降りましょうか」
山崎とマヘルは声を揃えてルキアに言う。
「OK‥‥諸々の回収作業はまた別の部隊にしてもらいましょう」
ルキアは木々の奥の方を見て溜息をつく。
それと同じ様に溜息をつき、ポケットから銀色の包みを取り出す舞奈。
「チョコがカチカチになってる。 硬ぁ〜い、冷凍庫に入れてたチョコなんか目じゃないねこれ」
粉々になってしまった刀を横目に舞奈はチョコに噛り付くのであった。