タイトル:抹消事項マスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/27 23:34

●オープニング本文


「何だ、生きていたのか‥‥」
 ディゼル(gz0206)はポツリと呟く。
 確かにこの手であの女の肩から腰にかけて切り裂いてやったはずだ。
 だが、どうして中々しぶといじゃないか。
「エーリッヒと言ったか、あの男も死んでないか‥‥」
 バグア側にとって何が不利益になるのかは分からない。
 しかし、人間へのキメラの売買を主な活動として行っていた会社の幹部を始末しろと命令が下された。
 勿論、実質関係は無くとも家族ごと消してしまった方が確実、というか抹殺者としての基本だ。
 そういう訳で、ディゼルの仕事は完璧ではなかったのだ。
「少し腹が立つな‥‥能力者とやらに邪魔されなかったら完璧だった‥‥」
 薄暗い部屋の中、ディゼルは自身の得物である片手斧を壁に投げつける。
「良いだろう‥‥手は抜かん‥‥私の本気を見せてやる」
 壁に刺さった片手斧が鈍く光る。
「おい」
 ディゼルは暗がりに向かって何かに呼びかける。
「今すぐ集められるだけキメラを集めろ‥‥あのエーリッヒとか言うお坊ちゃまを今度こそ消す、ついでにあの女もだ」
 壁に刺さった片手斧を引き抜きながらディゼルの表情は険しくなる。
「最重要抹消事項だ」

「彼女に適正‥‥?」
 左肩を包帯で巻かれているエーリッヒが不思議そうに聞き返す。
 とある病院の集中治療室のベッドに横たわっているのは、指名手配されている殺人鬼フィオナ・コール。
 彼女は前回のディゼルによるオーウェン家襲撃でエーリッヒを守るべく戦い重傷を負ったのであった。
「そうです」
 その一言、能力者は頷く。
「つまり彼女は能力者になれる素質があると‥‥」
「そういう事になりますね。 エミタを移植すれば昏睡状態から回復するかもしれません」
「‥‥なぜ僕にそんな話を?」
「彼女の関係者が貴方しか居ないからです」
「ですがそれは‥‥彼女に傭兵になって、あの女の様な人間と戦えということですか?」
「人間では有りません、バグアです」
 分かっている、そんな事。
 確かに彼女は犯罪者だけれども、良いのだろうか。
「僕は彼女の意思を尊重したいと思います」
 なので起きてからでも、と言うと目の前の能力者は少し皮肉を込めて言う。
「戦争が終わる前に起きてもらいたい所ですけれども」

 一方、その頃病院の回りは静まり返っていた。
 ナーガキメラ、影キメラの軍団とディゼルによって掃除されていたのだ。
 勿論、襲撃に備えて外にも新人能力者二人が見張りを行っていた。
 しかし、圧倒的なディゼルの強さの前に二人の新人は道路の血溜まりの中に転がっていた。
「‥‥侵入開始だ‥‥」
 静かに、そして急速に脅威は迫りつつあった。

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
斑鳩・眩(ga1433
30歳・♀・PN
緑川安則(ga4773
27歳・♂・BM
ドリル(gb2538
23歳・♀・DG
クリス・フレイシア(gb2547
22歳・♀・JG
柊 沙雪(gb4452
18歳・♀・PN

●リプレイ本文

「おい、聞こえるか? おい‥‥駄目だ、繋がりもしない」
 伊佐美 希明(ga0214)は舌打ちをしながら頭を掻く。
「様子見に行きましょうか?」
 柊 沙雪(gb4452)は確認を取るように他の面々を見回す。
 クリス・フレイシア(gb2547)はライフルに手をかけながら頷く。
「連絡が取れなくなったのは、敵襲の可能性が有るな」
 緑川安則(ga4773)が警戒を強める。
 ドリル(gb2538)はリンドヴルムを装着し、準備運動をし始めている。
 斑鳩・眩(ga1433)は廊下の先を見つめながらポツリと呟く、ごくごく普通な感じで。
「最悪、死んでるかもしれませんね、新人二人」
 死んでいる、か。
 壁際に座っていた、エーリッヒはその言葉を心の中で反芻してみる。
 あんなに死を望んでいたのにも関わらず、約束を守る為に死ぬわけにはいかない。
 そうやって自分は生き残った。
「皆さん、よろしくお願いします」
 エーリッヒは頭を下げる。
 約束の為だ、自分もフィオナもこのまま死んではならないのだ。
「それでは私が様子を見に行ってきます」
「私も行く」
 沙雪の後ろを伊佐美が追いかける。
「彼女が出張ってくるんでしょうか‥‥?」
 沙雪は伊佐美に問いかける様に話しかけた。

 ――病院入り口付近――
(「そろそろ気付かれた頃か‥‥?」)
 ディゼルは変装もせずに堂々と正面から入ってくる。
 そして辺りを見回してふっと鼻で笑う。
 迷う事無く、一般人達の合間を縫って廊下を進み始める。
「‥‥」
 その後ろを新人能力者二人がついて行く。
 新人二人はディゼルにあっけなく殺されてしまったのだが、影キメラがその二人に擬態しているのだ。
 病院の職員も二人の能力者の前を行く、ディゼルについて特に不審がる事はない。
 どうやら擬態した影キメラを見て、ディゼルを関係者だと思い込んでしまっているらしい。
 勿論、他の能力者達が気付くのは時間の問題だ。
「ほんの少し、時間が稼げれば良い‥‥」
 ディゼルはもう一度鼻で笑うと、迷う事無く廊下を進んでいく。
 新人能力者を消す前にエーリッヒとフィオナの居場所を吐かせていたのだ。
「今度は必ず消してやる‥‥能力者共々な‥‥」
 
 ――ICU前――
 クリスは院内の至る所に仕掛けたカメラの映像をノートパソコンでチェックしていた。
「特に怪しい所は‥‥いや‥‥」
 パソコンの画面を見つめる青い瞳はその僅かな違和感に気付く。
「これは‥‥」
 隣で画面を覗き込んでいた安則もその違和感に気付く。
 ある場所のカメラの位置が仕掛けた時よりも上を向いているのだ。
 何度もチェックしていたからこそ、気付く違和感。
「この女性、動き方が少し変じゃない?」
 ドリルはそのカメラに映った一人の女性を指差して指摘する。
 確かに妙な動き方をする女性だ。
 歩くというより、滑る様な動き。
 上半身しか映っていないので、確認はできない。
「カメラの位置は何処だ? ‥‥近いな‥‥」
 クリスがカメラの位置を確認して、斑鳩と共にそのカメラが仕掛けられている場所が見える位置まで行く事にした。
 すれ違う看護師や、一般人に対してすら警戒を怠らずに歩く二人。
 しかし、その場所には先ほどの女性の姿は見当たらない。
 一旦、ICU前まで戻りノートパソコンをもう一度確認し始めるクリス。
「医師や看護師、患者も確認したけど居なかったね」
 ドリルと安則は警戒を怠らなかったがキメラは出現しなかったらしい。
「いや‥‥やっぱり、新人二人は最悪の事態に陥ったみたいですよ」
 壁に寄りかかっていた斑鳩が廊下の先を睨みつけながら、武器を構える。
 その視線の先には女性、しかし、それは上半身だけの話。
 下半身は蛇のナーガキメラがICUに続く廊下に現れたのだった。
 ノートパソコンを閉じ、ライフルを構えるクリス。
「キメラの襲撃です! 皆さん、部屋に篭るか避難してください!」
 斑鳩の声が廊下中、階中に響き渡る。
「気付かれないように最低限の労力でここまで来たという訳か」
 安則は迫りくるナーガキメラの爪や尾っぽについた血を確認して呟く。
 来る途中、最低限の人間を殺し少しでも発覚を遅らせていたらしい。
 殺された新人二人によってディゼルにもたらされた情報は最大限活かされているようだった。

 ――階段――
 ICUの有る二階から一階に降りる途中、ICU前から連絡が入る。
「こちらドリル、敵が現れた。 どうやら新人二人はやられたみたいだね」
 同時に職員によるアナウンスが流れる。
 そしてそれっきり無線は通じなくなる。
 沙雪は目の前の仲間のはずの二人を見やる。
「最悪です、本当にこんな所で遭うとは‥‥」
 その二人の後ろからゆっくりと階段を上ってくるのはディゼル。
「‥‥お前だけで私が止められると思ってるのか‥‥?」
 不敵な笑みを浮かべるディゼルは片手斧を何処からともなく出して構える。
「面会謝絶だぜ、オバサン!」
 隠密潜行で気配を消していた伊佐美は、先手必勝と言わんばかりに影射ちで擬態した影キメラ一体を撃ち抜く。
 それを合図に沙雪はもう一体の影キメラを二刀で十字に切り裂く。
 更に伊佐美はディゼルに向けて攻撃を続ける。
「甘い‥‥」
 弓による射撃をかわしながら、沙雪へ片手斧による斬撃を放つディゼル。
 その刹那を見切り、沙雪は躍り上がるように伊佐美の下まで戻る。
 階段に深々と突き刺さった斧を抜き、目を丸くするディゼル。
「ほう‥‥早いな‥‥本気で片付けないとな‥‥」
 伊佐美は不敵に微笑むディゼルの様子を窺いながら閃光手榴弾のピンを抜こうとする。
 しかし、それは許さないとディゼルは一気に距離を詰めて斬撃を繰り出す。
 それは伊佐美を掠め、僅かに肩を裂いた。
「ほら、どうした?」
 隙を突いた沙雪の攻撃を難なく避け、ディゼルは反撃に転じる。
「くっ‥‥」
 沙雪にその斬撃は当たる事は無い、が当たったら最後なのはそのプレッシャーから感じる事ができる。
「っのやろ‥‥!」
 伊佐美の長弓による攻撃を回避しながらもディゼルは進む。

――再びICU前――
 信じられない光景だ。
 エーリッヒは目の前に広がる光景に唖然としていた。
 一人、二人、三人。
 ディゼルが続々と姿を現すのだ。
 影キメラがディゼルに化けて、ICU前に集まってきているのだった。
 ナーガキメラの大群と戦っていたICU前の四人。
 本物のディゼルと戦っていた二人との連絡は途絶えたままだった。
 その為、カメラからの情報は寧ろ混乱を招いていたのだった。
「とりあえず、そこまで強くないから」
 斑鳩が廊下という限定空間中を縦横無尽に飛び回りながら偽ディゼルを消していく。
 ナーガキメラの脳天を撃ち抜き、クリスは溜息をつく。
「ここに本物が加わったらどうなる事やら」
 その時だった。
「皆! ディゼルが‥‥って、うわ!?」
 二人でディゼルと戦うのは危険と判断した、沙雪と伊佐美は何とかICU前まで戻ってきたのだ。
 安則のイアリスによる一撃で霧散する偽ディゼル。
「御鹿が来た」
 安則はイアリスを振り払いながら沙雪と伊佐美に問いかける。
 その後ろではクリスがライフルを構えて、警戒している。
「了解」
 伊佐美と沙雪がそれぞれ答えると、ライフルの照準を外す。
「まさかディゼルに擬態するなんてね」
 ドリルが少し疲れたように肩を竦める。
「気持ちわりぃな‥‥強さは同じじゃないみたいだけど‥‥」
 伊佐美が矢を引き、警戒を強める。
 足音は無い、が圧倒的なプレッシャーは明らかにディゼルのそれだった。
 どうやら隠す気は無いらしい。
「本物が、どんな凄腕か興味湧くね」
 AU−KVの駆動音が響き渡る中、ドリルはディガイアを構える。

「さて‥‥面倒だな」
 ディゼルは大量に送り込んだはずのキメラの死体が転がっているのを見て、呟く。
「まぁ、問題無いか」
 ディゼルの足元の影から何匹もの影キメラが姿を現し、更にディゼルに擬態していく。
「要人はここにはおらず、前回の襲撃者を迎撃し抹殺する為に流したダミー情報」
 クリスはディゼルに対しこう言い放った。
「ほぅ‥‥そうか、残念だな。 私の仕事が終わらないじゃないか‥‥」
 しょうがない、と呟き片手斧を二本、両手に持ちながら笑う。
「お前らを消して、少しでも成果を上げていかないとな」
 反応は至って冷静。
 クリスは目の前の抹殺者が本物だという事に敵ながら感心する。
「そう言えば前もお前らに邪魔されたんだったな‥‥」
 ディゼル達は斧を構え一斉に走り出す。
 伊佐美は長弓から矢を放ちながら、エーリッヒに声をかける。
「側に居てやんな」
 エーリッヒは頷いてICUの扉の前に移動する。
 
 瞬天速で一気に距離を詰めたり、天井に跳び、壁を蹴り、立体的に動きながら偽ディゼルを次々と葬る斑鳩。
 ディゼルの姿はしていても所詮強さは影キメラ、沙雪は偽ディゼルの間を流れるように駆け抜ける。
 霧散する偽ディゼルの間を縫ってクリスと伊佐美の銃弾と矢が敵を射抜く。
 ドリルは爪を偽ディゼルに突き立てて投げ飛ばし、後ろから来る偽ディゼルの足を止める。
 押しているように見える。
 しかし、それは偽ディゼル相手の話だった。
 速攻、というのはこういう事を言うのだろう。
 傭兵が手間取っている間に一気に駆け抜けるディゼル。
「させないよ!」
 それに気付いたドリルがディゼルに竜の咆哮を見舞う。
 ディゼルは吹き飛ばされる刹那に右手の斧を振り下ろしていた。
 リンドヴルムごと切り裂かれたドリルはその場に崩れ落ちる。
 消耗していたとは言え、能力者を一撃で沈めてしまった。
 体勢を立て直そうとするディゼルに対し、クリスの銃弾が右太腿に突き刺さり。
 更に伊佐美の矢が右肩に深々と突き刺さる。
 止めと言わんばかりに斑鳩が近づくがそうはさせまいとディゼルは無理矢理体勢を立て直す。
 そして撃たれた右足で全力の蹴りを放ち、斑鳩を壁に叩きつける。
「はっ‥‥! まだまだ!」
 ディゼルはエーリッヒを狂気に染まった目で睨みつけ進もうとする。
「装甲が厚いからな! 本来は突撃役だが、どんな攻撃でも耐えてみせらぁ!」
 一匹の龍、安則が瞬天速で距離を詰め、獣の皮膚で防御力を上げその前に立ち塞がる。
「邪魔だ」
 左手の斧で盾を薙ぎ払い、右手の斧でイアリスを弾き飛ばす。
 そして、足元から予想外の一撃が安則の腹部を貫く。
 ディゼルの足元の影から延びた、その黒い剣。
「影‥‥キメラ‥‥か‥‥」
 倒れる安則を尻目に更に進もうとするディゼルだったが、その僅かな間の足止めが効いた。
 敵はディゼルのみになっていたのだ。
「どうします?」
 ディゼルの背後から声をかける沙雪。
「どうするも何も‥‥」
 ディゼルは舌打ちをして、近くの窓を破り逃走。
「ここ、二階だぞ‥‥足に怪我してんのに、よくやるな」
 伊佐美は半分呆れながら呟く。

「皆さん、ありがとうございました」
 安則とドリルがベッドの上に寝かされている。
 そんな中、エーリッヒは能力者達に頭を下げる。
 フィオナと自分はこうしてまだ生きている。
「後はボウヤが考えな」
 伊佐美はエミタの特性や能力者の犯罪者、バグア派が存在する事をエーリッヒに説明する。
 確かに普通に考えれば、殺人鬼であるフィオナがこちら側につくとは限らない。
 しかし、エーリッヒには妙な確信が有った。
 ディゼルが生きている限り、フィオナがあちら側につく事は無いと。
「彼女、変にプライドが高い所ありますから」
 ディゼルに切り伏せられた事、それと自分との約束の事。
 その事を考えればディゼルと同じ組織に属するとは考えられないのだ。
「それと、僕一応成人してるのでボウヤというのはちょっと‥‥」
 苦笑しつつ、伊佐美に頭を下げるエーリッヒであった。