タイトル:非武装戦線異状無しマスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/16 00:54

●オープニング本文


 某プロレス団体社長のA氏はこう言う。
「武器ばっかりに頼ってたら駄目になります」
 力強く更に念を押して言う。
「頼れる物は己の拳、脚のみ、実に素晴らしいじゃないですか」
 右拳を握り締めて何かぶつぶつ言っている。
 あぁ、と声を上げ満面の笑みだ。
「この前のLHでの興行は良かった‥‥男も女も全力で‥‥」
 A氏は何かを思い出し、興奮しっきりだった。
「私にもやんちゃをしていた事が有ったねぇ‥‥プロレスやる前の事だったか‥‥」

 警察官K氏はこう言う。
「あ? 俺のガキの頃か?」
 少し考えた後に呟く様に語り始める。
「そりゃもう、警官のおっさん達に世話になりっぱなしだったよ」
 喧嘩に次ぐ喧嘩。
 毎晩の如く喧嘩を続けて生傷が絶えなかったらしい。
「無法地帯って訳でもなかったな、一つだけ暗黙のルールが有った」
 K氏は懐かしむ様に茜色の空を見上げる。
「武器なんて使う奴は居なかったな、卑怯な手使ってくる奴は居ても」
 ふっ、と笑うと右手を握って天に突き上げる。
「どうしようもなく、馬鹿で純粋だったな」

 此処はある都市のビル街。
 時刻は深夜。
 普段なら人も少なく静まり返っている。
 しかし今夜は違う。
 ある一角に人が大勢集まっている。
 大勢の人の輪の中心に二人の人。
 拳と拳、脚と脚。
 己の体のみで戦う純粋な戦い。
 大勢の人の中に紛れ込んだA氏もK氏も口を揃えて言う。
 今夜も非武装戦線に異常無し、と。

●参加者一覧

フェブ・ル・アール(ga0655
26歳・♀・FT
鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
緑川安則(ga4773
27歳・♂・BM
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
アルクトゥルス(ga8218
26歳・♀・DF
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA

●リプレイ本文

「何だ、今日はやけに人が集まってんなぁ‥‥」
 現役警察官は私服で深夜のビル街を歩く。
 どうやら一日の職務は終わっているようだ。
 彼が言うように、今日は人が多い。
「今日は能力者同士のストリートファイト、そういう噂だからね」
「うお!? な、なんだ‥‥アーデルハイドのおっさんか‥‥」
「なんだ、とは心外だね。 京君」
「後ろからいきなり声かけるからだよ‥‥」
 豪快に笑い、現役警察官の京の肩を叩くのはプロレス団体の代表アーデルハイドだ。
「しっかし、能力者がストリートファイトね‥‥」
 京は濃紺の空を見上げる。
 今夜は満月、絶好のストリートファイト日和である。

 ‐‐路地裏‐‐
 緑川安則(ga4773)は大通りから路地裏に入っていく。
 何人かガラの悪い人間が座り込んでいる中、ゆっくりとその場所に向かう。
 ずんずんと進んで行くと少し広い場所に出る。
 そこに赤いマフラーを靡かせ佇んでいたのはゼラス(ga2924)だ。
「今日この時、ここに来たってこたぁ‥‥分かってんよな?」
 ゼラスは振り返り大きく両手を広げる。
「来いよ! 喧嘩初めだ!」
「ここじゃあ、人目がつかないから‥‥派手に行けるぜ!」
 迷彩服の安則はジャングルブーツでしっかりと地面を蹴りゼラスに突っ込む。
 安則は先手必勝とばかりに右の拳で顔面を左の拳で腹部を狙う。
 ゼラスはそれを腕で受けきる。
 安則が一瞬硬直したのを見計らいゼラスは顔面目掛けて拳を放つ。
 タイミングは完璧だったはずだがその拳は空を切る。
 安則の攻撃の動作、回避の動作。
 その二つの情報からゼラスはある事に気付く。
 格好からすれば軍隊仕込みの格闘術オンリーの戦法だと思われた。
 しかし、それだけではない。
 何か不規則な我流の動きが混じっている。
「やるね、ドンドン行くぜ!」
 ゼラスは上体を捻って強烈な右フックを放つ。
 安則は何とかガードするが、ミシミシと音が左腕から聞こえてくる。
 更にゼラスはヤクザキックで追撃。
 奥歯を噛み締め、安則は蹴りと拳のコンビネーションを繰り出す。
「こいつならどうかな? 結構効くと思うんだが」
 右のミドル、左のロー、そして鳩尾に突き一閃。
 蹴りは耐える、そして鳩尾への一撃は両手でがっちりガードするゼラス。
「ぐっ」
 衝撃で体が硬直するゼラス。
 安則はその隙を見逃さない。
「行くぜ! 龍の力! 見せてやるぜ!」
 瞬間、安則はまるで龍の如く咆哮。
 そして覚醒、龍へと変貌を遂げた安則は一瞬で間合いを詰める。
 そして更にゼラスの左側面に回りこみ思い切り握った拳を彼の脇腹に全力で叩き込もうとする。
「死なば諸共ってなぁ!?」
 体を捻って勢いを拳に乗せるゼラス。
 グシャ、何かが潰れるような音が響く。
 倒れたのは龍人、安則。
 試合の行方を見守っていたガラの悪い数人の男達は息を呑む。
 被弾覚悟、決死のクロスカウンターが安則の顔面に入ったのだ。
 ゼラスは倒れこんだ安則に手を差し出す。
「くっ、はっはっはっは」
 安則は殴られた場所を擦りながらゼラスの手を取り、つられて笑う。
「今は入手困難なキューバ物だ。 どうだ?」
 高級煙草を咥えながらゼラスに差し出す安則だった。
 
 ‐‐大通り‐‐
 ゼラスと安則が裏路地で戦っている時。
 大通りには人だかりが出来ていた。
 それもそのはず、此処での戦いは女と女のガチンコ勝負なのだ。
 フェブ・ル・アール(ga0655)がMAKOTO(ga4693)に手を差し出す。
 素直にその手を手に取ろうとするMAKOTO。
 フェブはその手を逃げられないようガッシリと握り、不意打ち気味にローキックをお見舞いする。
「っ!?」
 MAKOTOは体勢を崩しながらも手を振り解きフェブから距離を置く。
 そして一気に羽織っていたマントを脱ぎ捨てる。
 その姿を見て観客から歓声が上がる。
 大きく胸元が開き、大きくスリットの入った真っ赤なチャイナ服。
 歓声を上げない男が居るだろうか。
「むきー! Jカップだか、なんだか知らないけど‥‥!」
 フェブはその姿を見て、間合いを詰めていく。
 そしてMAKOTOの胸目掛けて裏拳を放つ。
「おぉ、良いね」
 観客の中に紛れ込んでいた京は顎に手を当てる。
 胸を重点的に攻めてくるフェブに対しMAKOTOは猫パンチを応酬する。
「ほらほら、これでどう?」
 フェブはひょいひょいかわしながら、MAKOTOの胸を見やる。
 揺れるその胸はなんだか羨ましい、いや憎たらしい。
 ややフック気味の猫パンチを後方へ上体を反らしてかわすフェブ。
 重心を後ろに残したままフェブはMAKOTOの胸を蹴り上げる。
 やはり揺れる胸は羨ましい。
 フェブの被っていたキャスケットが地面に落ちる。
 フェブの体勢を見てMAKOTOはギアを入れ替える。
「ふっ!」
 ハイキックを牽制として放つ、MAKOTO。
 その脚線美が殆どつけ根の方まで露わになる。
 勿論、観客のテンションは上がる一方だ。
 フェブは体勢を立て直し背中を向けて走り出す。
「ふぅ‥‥危ない、危ない」
 それを許さないMAKOTOはどんどん間合いを詰めてくる。
 フェブは蹴りを中心に試合を組み立てようとするが、間合いは詰められる一方だ。
 MAKOTOはフェブの攻撃を捌きながら懐に飛び込みダッキング。
 そして肘をフェブの鳩尾に叩き込む。
「ぐぅ…」
 もう一度、もう一度肘を叩き込めば相手を一時的に行動不能に出来る。
 MAKOTOはもう一度距離を詰めて肘を叩き込もうとする。
「海兵魂見せちゃるぜ! Semper fidelis!」
 フェブは自分からも間合いを詰め、至近距離までMAKOTOに近づく。
 そして覚醒、目、鼻筋、人中、首筋、腋、腹部、足の付け根などを一気に突く。
 フェブの必殺『ガンホー・ガンホー』だ。
 これをまともに受けたら、能力者とて立ってはいられないだろう。
 しかし、それは普通の能力者の話。
 その『ガンホー・ガンホー』を受けたのは大胆なチャイナ服のMAKOTOではなかった。
「虎‥‥」
 京は唖然としながら呟く。
 覚醒し、完全に虎の姿となったMAKOTO。
 彼女はそのまま一気に踏み込み地面を割る。
 そして全力の肘をフェブに叩き込んだのであった。

 ‐‐屋上‐‐
 紅いバンダナが風に靡く。
 白いロングコートの裾が風に靡く。
「昔取った杵柄でね‥‥時々血が疼くのよ‥‥」
「御託は要らねぇ‥‥始めようぜ!」
 ビルの屋上で対峙するのはブレイズ・S・イーグル(ga7498)とアルクトゥルス(ga8218)だ。
 観客と言っていいのだろうか、ビルの守衛が二、三人、その様子を窺っている。
 ちなみに、彼らは自分達から屋上を開放しているらしい。
 ゆっくり間合いを詰めていく二人。
 先手はアルクトゥルス。
 前蹴りでブレイズを牽制、そしてブレイズがその蹴りをガード。
 大きく一歩踏み込み右拳をブレイズにお見舞いする。
 ブレイズは更にガードを固め、後ろに跳ぶ。
 そして着地と同時にブレイズは体を低くして一気に相手に肉薄。
「グランドォォォ‥‥ランッチャー!!」
 体重を乗せた腹部へのアッパーがアルクトゥルスを襲う。
 両手でガードを固めるがブレイズの一撃は強烈、後ろに吹っ飛ばされる。
 更に距離を詰めてくるブレイズに対し、アルクトゥルスも躊躇無く近づく。
 そしてブレイズの拳をかわし、胸ぐらを掴み寄せ、頭突きをお見舞いする。
「これで‥‥どうっ!?」
「ぬ‥‥ぐぅ‥‥」
 ダメージは有ったが、ブレイズは怯まない。
 ダメージに屈せず進んでくるブレイズを見て、アルクトゥルスは試合の流れをいまいち掴めずに居た。
 舌打ちをして、向かってくるブレイズの足目掛けてタックルを仕掛けるアルクトゥルス。
「うぉ!?」
「ふふ‥‥」
 上手くマウントを取ったアルクトゥルスは不敵に笑い、拳を握る。
 しかし、ブレイズにとってマウントを取られた事は然程問題ではなかった。
「こ、これは‥‥戦いだ、拳と拳の、ぐふぉ‥‥!」
「どうしたの? いきなり勢いが無くなったじゃないっ!」
 右、左、右、左と顔面に拳を打ち込むアルクトゥルス。
 しかし、ブレイズは動けない。
 彼は女性に触れられるのが苦手なのだ。
 打撃は大丈夫なのだが、打撃ではない部分。
 つまりアルクトゥルスが乗っている部分に関しては話が違う。
「ぐっ‥‥これはた、戦いだ‥‥これはぁ‥‥戦いだぁ!!」
 何発も拳を貰った後にブレイズは自分を奮い立たせて、全力でアルクトゥルスを吹き飛ばす。
「きゃあ‥‥!」
「はぁはぁ‥‥いってぇ‥‥さっさと決着つけちまおうぜ」
 立ち上がったアルクトゥルスは大きく頷き、コートを脱ぎ捨て特攻服一丁で走る。
 迎え撃つブレイズは覚醒、そして更に凶暴性を解放する。
 間合いに入ったアルクトゥルスは覚醒と同時にブレイズの側面に回りこむ。
 ブレイズはそれにあわせて左でボディーを狙うがそれをかわされ、逆に強烈な一撃を喰らってしまう。
 しかし、ブレイズは止まらなかった。
「これで終りだ‥‥ファフナァァァ! ブレイッッ!!」
 纏った赤いオーラが巨大な炎の様に揺れる。
 アルクトゥルスはその場に崩れ落ちる。
 ブレイズの右ストレートは完璧に彼女を捕らえていた。

 ‐‐公園‐‐
「チョリーッス!」
 植松・カルマ(ga8288)は軽い感じで挨拶をする。
 彼の相手はMAKOTOに負けないダイナマイトボディ、鷹司 小雛(ga1008)だ。
「よろしくお願いしますわ、植松様」
 下乳だの、ホットパンツだの、観客の間から聞こえるが小雛は気にしていないようだ。
「おや、彼女は‥‥」
 アーデルハイドは小雛を見て目を丸くする。
 小雛は一度アーデルハイド主催のプロレストーナメントに出場した事が有ったのだ。
 観客がだんだんヒートアップしていく中、カルマは小雛から少し距離を取る。
 直後、カルマは突然走り出し小雛に向かってドロップキックを見舞う。
 開始の合図がないうちの不意打ちに小雛はモロにその攻撃を受けて派手に後ろに転がる。
「ひゃっは! 俺、極悪っす!」
 小雛は立ち上がり、カルマに向かって手招きをする。
「我慢出来ませんの? しょうがないですわね‥‥たぁっぷりと、可愛がって差し上げますわ」
 その挑発を受けてか、カルマはまたも小雛に向かって突進。
 それを見て小雛は右腕を大きく振りかぶってラリアートを狙う。
 カルマはそれを避けようともせず、思いっきり胸で受け止める。
「俺、我慢の子なんで」
 何かのテクニックだったわけではなく、ただの根性で耐えたらしい。
 しかし、こういう分かり易いファイトは観客うけが良い。
 歓声の中、カルマは小雛の隙を付き脇腹に右フックを叩き込む。
「うっ」
 体を苦しそうに捩る、小雛。
 更にカルマは体勢を立て直す前に小雛の足を踏みつけて、更に怯ませる。
 もう一発っす、とまたも右フックを脇腹に叩き込もうとするカルマ。
 しかし、前蹴りで距離を取られてしまう。
「おやぁ? 早くも逃げッスか?」
「まさか」
 次は小雛の方から距離を詰める。
 カルマはそれに合わせ、ケンカキックを浴びせようとする。
 小雛はそれをかわし、足を取りドラゴンスクリューで足の関節を壊しにかかる。
 そして、すぐさま起き上がりラリアートでカルマを地面に叩きつけようと襲う。
 カルマは我慢の子、またも根性で耐える。
 しかし、少し足元がふらつき怯んだところを小雛は見逃さなかった。
「行きますわよ!」
 観客に向かってアピールをし、覚醒。
 そしてカルマを抱え込み、思いっきり跳躍。
 それは綺麗なジャンピングパワーボム、カルマを地面へと突き刺した。
「マ、マジ‥‥パネェ」
 カルマはふらつきながら立ち上がる。
「まだやりますの?」
 胸を抱え込むようにして腕を組み、お色気満点なポーズをとる小雛。
「上等ッスよ」
 小雛はとどめにハンマーパンチで攻める。
 カルマはそれをひょいとかわして腕を取り、がっちり閂を極める。
 一気に覚醒して、凶悪な姿になったカルマが必殺を繰り出す。
「もう一丁! もう一丁! もう一丁! これでッ! ラァストォーーッッ!!」
 マシンガンパチキ、連続の頭突きが小雛を襲う。
 これは決定的なダメージかと思われた。
 しかし、先に地面に伏したのはカルマだった。
 ジャンピングパワーボムのダメージが残った頭で頭突きの連発。
 倒れるのも無理はない。
 小雛の方は我慢の子、根性で立っていた。
「うぅ‥‥か、勝ちましたわ」
 観客は歓声をより一層強めた。


 京は帰り始める人達の中、アーデルハイドに声をかける。
「よぅ、おっさん。 どうだった?」
「ふむ‥‥やはり能力者だな、迫力あったね」
「やっぱりか、色気もあったしな‥‥あのチャイナ服、きわどかったな」
「何の話しかね」
 京は苦笑しながら、何でもねーよと頭を掻く。
「まぁ、なんつーか」
「そうだね」
 今夜も非武装戦線に異常無し、二人は口を揃えて言う。