●オープニング本文

　謎の博士ナカマツは興奮しながら振り返る。
「これが僕の開発したアクロバティック・ローラーだ！！」
　呼びつけたルキアと能力者達の前にある物を差し出す。
　それは所謂インラインスケートと呼ばれるもの。
「どうだ、凄いだろう？　略してＡ・Ｒだ」
「Ｏｈ‥‥ただのインラインスケートね‥‥」
　ルキアが少し呆れたように呟く。
「何を言う！？　これはだな‥‥」
　ナカマツはルキアの不用意な一言に反応。
　火が点いた様に、アクロバティック・ローラーについて語りだす。
　それはもう芸人も驚く様なマシンガントーク。
　その中には難解な専門用語などが含まれていて分かる人にしか分からない様な説明になっている。
　そういう訳で、ルキアはじめ能力者は殆ど話半分で聞いていた。

「どうだい‥‥？　はぁはぁ‥‥凄いだろう‥‥？　簡単な説明だったから‥‥物足りないと思ったけど‥‥」
　息を切らせたナカマツが再び振り返る。
「つまり練力流せば早く走れる、高く飛べるって事ね」
　ルキアが数十分の説明を数秒で終わらせる。
「そういう事だけど‥‥君は冷めてるね‥‥」
　少し呆れたように頷くナカマツ。
　どうやらこのＡ・Ｒの試運転が今回の依頼らしい。
「報酬なら少しくらいだすよ、少しくらい」
　自称鬼才の博士ナカマツは案外ケチだった。

●参加者一覧

●リプレイ本文

　深夜、ビルが乱立したオフィス街の中でも歓楽街に近い場所。
　９人の能力者がトラックの荷台から降り立つ。
「ＯＫ‥‥皆、早速だけど準備だけしちゃいましょう」
　ルキア・ジェーン（gz0192）はジュラルミンケースを開く。
　その中には博士ナカマツが発明したＡ・Ｒ。
「テストなんだ、壊さないよう派手に動いてくれ」
　データを取る為に同行してきたナカマツが矛盾した事を言い放つ。
　その横で矢神小雪（gb3650）が稲荷寿司をみんなに配っている。
「夜は寒いですし、遊ぶならお腹いっぱいにしてから遊びましょ〜」
「いや、これは遊びではなくて‥‥」
　無邪気な笑顔に負けたのかナカマツは苦笑して黙ってしまう。
「にしても意外と人が集まってきたな、宣伝したかいがあったな」
　黒川丈一朗（ga0776）はＡ・Ｒを履きながら辺りを見回す。
　昼間の内にローカル放送のラジオ番組で宣伝をしていたらしい。
「街の掲示板にもチラシを貼っておいたからな」
　そう言った、アルヴァイム（ga5051）は既にＡ・Ｒを履いてパイプ椅子に座り資料を確認している。
　街の地図、ローラースケートや４ＷＤ車についての資料らしい。
　レティ・クリムゾン（ga8679）は前の依頼で負った怪我の具合を確かめながら準備運動をしている。
「Ｈｉ！　一度点呼するから集まって」
　ルキアは名簿を確認しながら、名前を呼んでいく。
「えーと‥‥最後は鈴木、ね‥‥鈴木？」
　ルキアが首を傾げながら見つめる先に一人の男。
　ＵＮＫＮＯＷＮ（ga4276）だ。
　参加予定だった本物の鈴木と入れ替わったらしい。
　本物の鈴木はと言うと何処かで眠っている、はずだ。
「‥‥鈴木？」
「鈴木だが、問題あるかね？」
　ルキアはじっと見つめて何かを考えていたようだったが何かを諦めたらしかった。
「まぁ、良いわ」
　細かい事は気にしない、それが彼女の信条らしい。
　ルキアは深夜のオフィス街を見回す。
「さぁ、始めましょうか？　警察やらなんやらには許可をもらったから」

「ルールとコースの確認です」
　アリエーニ（gb4654）がルールやコースが書かれた紙を確認しながら立ち上がる。
　チェックポイント式のＡ・Ｒを使ったレース。
　１位から３位までのチェックポイント通過者はその順位に応じたポイントが貰える。
　そのポイントが高い者が優勝というルールだ。
「この鬼才ナカマツが作った物なんだ、絶対に素晴らしいも‥‥」
「『鬼才』を称するなら非能力者使用前提のＦＦに関する装置でも作ってくれたまえ〜」
　そう言って、ドクター・ウェスト（ga0241）はカーボン弾を手渡す。
　ＦＦを電磁波と前提の上で、弾頭を電波吸収素材のカーボンナノコイルで作成した物。
　実験の結果が芳しくなかった為、倉庫で埃を被っていたらしい。
「ほう‥‥これは‥‥どうやら君とは一度二人で話をしなければならないようだ」
　興味を持ったらしい、ナカマツはカーボン弾を色々と調べている。
　そんなナカマツを尻目に能力者達はスタートラインに着く。
　それぞれＡ・Ｒを履き準備運動も完璧。
「Ａｅｒ　ｙｏｕ　ｒｅａｄｙ？」
　ルキアが声をかけると、能力者達は一斉に頷く。
　ナカマツがカーボン弾を片手に旗を振りあげる。
「レディィィィィ‥‥ゴー！！！」
　テンション高めのスタートの合図。
　能力者達は一斉に覚醒、走り出す。
　騎士の様に堂々と名乗りを上げて前に出たのはトクム・カーン（gb4270）だ。
「我が名はトクム、トクム・カーン‥‥いざ参る！」
　彼を先頭に能力者達はビルの角を曲がっていく。

　‐‐第１コース・歓楽街周辺‐‐
　深夜のオフィス街と言っても歓楽街の近くになってくると流石に障害物は多い。
　ゴミ箱や、看板、少ないとは言え人通りもあるし、コースの経路上には狭い路地もあった。
　その中を、９人の能力者は駆け抜ける。
「これ、すごーい！」
　小雪は狐の様な耳と尻尾の形をした金色のオーラを纏いながらＡ・Ｒを飛ばす。
　黒のロングコートの裾をはためかせカーブを曲がり、狭い路地に入ると一気に加速を始める。
「全速前進〜！」
　小雪はスピードを上げて障害物を何とかかわしながら進んでいる。
　とは言え、やはり障害物の関係上中々スピードは上げられない。
　その小雪の横を追い抜いていく影が２つ。
　レティと鈴木、改めＵＮＫＮＯＷＮだ。
　この２人は壁を上手い事走って、障害物を回避していた。
　ＵＮＫＮＯＷＮに至っては手を器用に使いまるで壁に絵を書く様に走っている。
「確かにこれは爽快感が違うな」
　レティはカーブの手前で減速、そして壁から降りながら呟く。
　その後ろでスピードを出しすぎたルキアがゴミ箱を盛大に倒し、転ぶ。
　小雪はその瞬間にルキアを抜き去り、トクムは大きく横にスライドしてゴミ箱を避ける。
　アルヴァイムは障害物の上を華麗に跳び、更に次の障害物へと、そしてそのまた次へ。
　慎重に走っていた黒川は難なくゴミ箱を避け、起き上がったルキアを見て苦笑する。
「我輩は上手くないのだからルキア君の方が退きたまえ〜！」
　後ろからはわたわたとしながらウェストが走ってくる。
「え、ちょ‥‥あぶな‥‥」
　ルキアはゴミ箱の転がってる方に飛び込み、緊急回避。
「ひ〜」
　ウェストは何とかカーブを曲がって行ったようだった。
「Ｏｈ‥‥」
　バナナの皮を頭から取って、肩を竦めるルキア。
「あはは、大丈夫ですか？」
　この先のコースの見所を書いたビラを配りながら走っていたアリエーニが声をかけて駆け抜けていく。
　トップを走るのはレティとＵＮＫＮＯＷＮだが、後ろとの差は殆どついていない。
　集団となってチェックポイントを目指す。
　遅れているのはルキアのみ。
　微妙な判定だが、１位通過はＵＮＫＮＯＷＮ。
　２位通過がレティ、３位通過が小雪という結果になった。

　‐‐第２コース・公園‐‐
　チェックポイントを通過し、歓楽街近くのごちゃごちゃしたコースを抜けて右に曲がる。
　そうするとオフィス街の中心を走っている大通りに出る。
　その先の方に大きな公園が見える。
「あれか‥‥」
　街の地図が頭の中に入っているアルヴァイム。
　勿論公園の中の地図も彼の頭の中に入っている。
　一団は加速して、そのまま公園の中に入っていく。
　公園の中に入ると、予想以上の人だかり。
「やっぱりスケートではこれが最近話題だからな」
　そう言ってトクムは練力を多めにＡ・Ｒに流し込みスピードを上げる。
　公園の中央にある噴水広場に降りる為の階段。
　その段差を利用して、トクムはジャンプ。
　そして空中でトリプルアクセルを決める。
　スケート違い、では有るが観客に魅せるには充分だった。
「わわっ、危ない危ない‥‥」
　小雪は階段を小さく跳ねて、着地の際転びそうになるが何とかクリアする。
　黒川は大きくターンして後ろ向きに滑る。
　噴水はスピードを出し近づき、ドリフトをかけながら回り込んでいく。
　その奥の人だかりを黒川はボクシングで鍛えたステップを駆使して稲妻の様に縫っていく。
　その後ろからＵＮＫＮＯＷＮとアルヴァイムが追走してくる。
　手を軸にしたスピンやウィンドミル、前宙、バク宙。
　即興のストリートダンスで公園に集まった観客を魅了していく２人。
　その派手なパフォーマンスの裏でレティは冷静に走る。
　走ってきた勢いそのままに手摺を使ってのグラインド、最後に大ジャンプを決める。
　そのままアルヴァイムとＵＮＫＮＯＷＮを飛び越え、走り去っていく。
　これだけでは終わらないのがさすがＬＨから来た能力者達だろうか。
　アリエーニはトップスピードのままレティと同じ様にグラインド。
　そのままの勢いで跳躍、そして体を少し横に倒しながら回転。
　体を捻って着地、空中で二回転するこのトリックは派手。
　更に勢いを殺さずにアリエーニはもう一度地面を蹴る。
　体育座りの様な体勢から片足を伸ばしそのつま先を掴む。
　体は相当柔らかくなければ出来ない技だが、何とか彼女は成功させる事が出来た。
　因みに彼女はスカートなのだが、下に穿いていたのはショートパンツ。
　Ｓｏｒｒｙ♪の文字のワッペン入りだ。
　少し遅れてウェストとルキアが追いついてくる。
「わ、わ我輩は、う上手く、なないといっ‥‥」
　どうやら階段を降りる時にウェストは舌を噛んだらしく、がりっと音が聞こえた
　ルキアは大丈夫だろうかと視線を送るが、ウェストはそれどころではなかった。
　公園の出口付近。
　チェックポイント最初に通過したのは小雪。
　次にレティ、その次にトクムが走り抜けていった。

　‐‐第３コース・大通り‐‐
　観客は道路を挟んで歩道に群がっている。
　深夜のオフィス街には有り得ない光景で、予想以上の集客が見込めたようだった。
「オニューの服にフライパン〜」
　小雪は黒いスーツにロングコートという格好なのだが何故か手にフライパンを持っている。
　にやりと微笑み、すぐ後ろを走っているトクムを振り返る。
　そして、大きく振りかぶって一閃。
「高機動性能と私の腕さえ確かならばそのような攻撃は当たらぬ！」
　トクムは小雪のフライパン攻撃をひょいとかわす。
　その様子を見てレティは少しスピードを落とす。
　やはり、怪我の事を考えると走りながらの戦闘は不利なのだ。
「お先に失礼」
「折角、用意したんだがな、ハリセン」
　後ろから黒川とＵＮＫＮＯＷＮがＡ・Ｒを使って高速ボクシングをしながら追い抜いていく。
　拳で牽制しあいながらスピードを上げていく２人。
　しかし、ただ単純なボクシングではなく空中戦もありのＡ・Ｒボクシング。
　ようやく追いついてきたルキアはアリエーニとアルヴァイムに攻撃を仕掛け始める。
「悪いけど、少しでも順位は上の方が‥‥ねっ！」
　走ってきた勢いでそのまま飛び蹴りを並んで走っているアリエーニとアルヴァイムに向かって放つ。
　しかし、アリエーニにはあっさりとかわされ、アルヴァイムには２本のエアーソフト剣で迎撃されてしまう。
　更にアルヴァイムの攻撃を受け一気にブレーキ。
　後ろから走ってきたウェストに抜かされてしまった。
　そのウェストはと言うと、格闘ゲームのヒロインと血煙上等と描かれている【ＯＲ】イタい白衣をなびかせて進む。
　そのスピードは物凄く早くさっきまでの彼とは違う。
　コツをつかんだのか、練力を注げるだけ注いで真っ直ぐに推進力のみで進んでいる。
　ゴール地点は目前。
　先にゴール地点に移動していたナカマツは大きく頷く。
「充分過ぎるな」
　それぞれのＡ・Ｒから転送されてくるデータを見ながら満足しているようだ。
　
　最初にゴールラインを走り抜けて言ったのは小雪。
　フライパンでトクムを押さえ込んでそのままゴールとなった。
　トクムは何とかフライパンをかわしきって２位。
　３位は最後の最後に強烈な右フックでＵＮＫＮＯＷＮに浴びせた黒川。
　後退したＵＮＫＮＯＷＮを抜き去ったのはレティ。
　アルヴァイムとＵＮＫＮＯＷＮはほぼ同着でゴールラインを割る。
　アリエーニはギリギリでウェストから逃げ切ってゴール。
　ダントツのビリはルキア、という結果になった。
　ポイントでは小雪が１６ポイントで総合優勝。
　トクムが１０ポイントで総合２位。
　レティが総合３位となった。
　レース後はそれぞれがＡ・Ｒについての感想。
　そしてＡ・Ｒに関して意見などを纏めてナカマツに提出した。
「ふむ‥‥中々新鮮な意見が聞けたな‥‥今度、改良してもうちょっとつかえるようにしておこう」
　ナカマツは不敵な笑みを浮かべ、データや提出された意見を持って去っていった。
　観客は去り、能力者達も撤収。
　オフィス街はいつもの静けさを取り戻していた。