タイトル:グリーンランド犬ぞり旅マスター:深紅蒼

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/30 00:04

●オープニング本文


「グリーンランドに住む皆さんに物資を届けるお仕事をして欲しいの」
 ケイト・ラングリスはなんでもなさそうに言った。

 UPCの基地からさして遠くはない場所に先住民族カラーリット達が住む集落が点在している。人道的な観点から特に困窮している村に物資を届けて欲しいのだという。普通に考えればそれはカンパネラ学園の学生が行うべき事柄ではない。ケイトが無理を言ってもぎとった仕事であった。
「だってぇ、みんなの身体が〜覚醒したらどぉーんな風に変わっちゃうのかぁ、せんせい興味があるのぉ。保険のせんせいだもん、みんなの身体の事はな〜んでも知りたいの。それにグリーンランドで犬ぞりってぇロマンでしょう?」

 というわけで、カンパネラ学園の学生および聴講生に特別任務が下った。速やかに犬ぞりを用い、4〜8カ所のカラーリットの村へ援助物資を運搬せよ。尚、ソリは準備されているが、ソリを引く犬は確保されていない。各員はまず野生の犬を捕獲訓練し、ソリを引かせて20kmの行程を往復せよ。尚、万が一敵性勢力に発見されないようKVなど機器の使用は不可とする。

「あ、せんせいは遠くからそっとみんなを見守っているわ、たぶん。だって外は寒いんでだもん。でもぉ、みんなは身体の隅々まで、ぜぇ〜んぶさらけ出してね。うふっ」
 ケイトは自分の身体を両手で抱きしめ、身もだえるように身体をくねらせた。

●参加者一覧

鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
ハルトマン(ga6603
14歳・♀・JG
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
朔月(gb1440
13歳・♀・BM
大槻 大慈(gb2013
13歳・♂・DG
レミィ・バートン(gb2575
18歳・♀・HD
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG

●リプレイ本文

●大自然とわんこ
「ケイトせんせ〜でも俺には彼女がいるんだっ! そんな目で見つめないでくれ〜」
 集合場所では既に騒動が起こっていたが、それはあまりにも日常茶飯事であったので、もう誰もツッコミや文句は言わない。例え互いが半裸となってても、だ。
「見つめるだけじゃないのよぉ。ほら、ほらぁ〜」
「ふわもこな犬と遊べるって聞いてきたのに、俺が遊ばれているのかぁ〜?」
 大型犬と力一杯遊ぶかのように、ケイト・ラングリス(gz0130)は大槻 大慈(gb2013)で楽しんでいる。一番早く集合場所に到着しただけでこのような嬉しいような困る様な状況にされた大慈には全く持って‥‥お疲れさまである。
「この辺りか‥‥」
 にらみつける様なぶしつけで厳しい目を雪原に向け、朔月(gb1440)はつぶやいた。事前の情報収集により、この辺りでは野犬の群が幾度も目撃されている。今は見えないが、探せばあちこちにその痕跡が見つかるはずだ。
「なんだか‥‥またしても雪中行動なのよね。もうこうなったらとことんつき合うけどね。本部から目的地までの地図は確保したから、なるべく安全なルートをはじき出すわ」
 朔月の傍らで暖かそうな外衣を身につけた百地・悠季(ga8270)が言う。今は凍てつく氷の大地を覆うのはヘブンブルーの空と柔らかい太陽だが、ひとたび天候が変われば世界は氷雪の地獄と化す。
「まずはわんこを捕まえなきゃならないからな。しかも、かなりの数が必要になるし‥‥」
 捕獲用の網を点検しつつ、依神 隼瀬(gb2747)もつぶやいた。数が確保出来なければ物資を届ける村の数にも到着時間にも支障が出る。凛々しげな顔には決意の色が浮かぶ。
「食べ物でおびき出して一網打尽、続いて群れのリーダーと対決して服従させる。今回は時間もないし、この作戦が最も効率良いと思うのです」
 風邪などひかないようにとモコモコと厚着をしたハルトマン(ga6603)は作戦指令書を皆に配る。そこには既にソリの班分けまできっちりとなされている。未だ捕獲出来る犬の数は流動的なので、班分けにもいくつかのパターンがあるが可能な限りの事態を想定したものだ。
「しらみつぶしに当たってみるしかない‥‥かしらね」
 鷹司 小雛(ga1008)はため息混じりにそうつぶやいた。見渡す限りの氷原には白以外に存在する色はなく、犬の姿もまったく見えない。というより、見ているだけでまばゆい白に惑乱してしまいそうになる。
「みんな頼りになる人で安心だよね。だからあたしはほら、あったかいココアとスープ、それから紅茶とコーヒーを持ってきたんだよ」
 レミィ・バートン(gb2575)が持ってきた荷物の大半は、暖かい飲み物の入れ物であった。皆が別れて移動することも考えて沢山の入れ物を使ったため、今はかなりの大荷物となっている。
「フフーフ。私も漲りますよ? 野生の力が!」
 誰もが大自然の神秘と脅威に圧倒されるなか、鈴葉・シロウ(ga4772)の反応はやや‥‥いえ、すこ〜し違っていた。ありていにいえば歓喜に打ち震えている様にもみえたし、理由はわからないながらも常軌を逸脱しているようにも見える。
「ではみなさ〜ん、いってらっしゃ〜い。骨になる前にカラダは拾って弄んであげちゃうから、死を恐れずに頑張ってぇね〜」
 ニコニコと冗談ではなさそうな顔でケイトは学生達を見送った。

●わんことまてまて〜
 事前に予防接種と薬剤投与を受けているので、野犬たちと接触しても安全はほぼ確立されている。誘き寄せるための餌を設置して8時間後、やっと空気が変わった。辺りはとっくに夜となり深淵たる闇と寒さが覆っていたが、防寒準備も万全であったため、それだけで動けなくなり様なことはない。用心深く犬たちが餌に近づく。同時に別の犬たちが周囲を警戒しつつ散開し臭いを嗅ぐ。更に群れの中からひときわ大きな犬が進み出た。その犬が群れのリーダーなのだろう。餌の臭いを嗅ぐと一口食べ、すぐにガツガツと食べ始める。周りの犬たちは餌場へと集まり始める。
「今だ!」
 朔月が叫ぶと同時に強く激しく犬笛を吹いた。人間達にはかすれた様な不格好な音が漏れただけであったが、可聴音域の異なる犬たちにとっては突然の大音響であった。キャンと悲しげな悲鳴をあげて犬たちが飛び上がる。
「ケイト先生の為ですわ」
 小雛は、いや小雛だけではない。あちこちから大きな捕獲用の網が幾重にも犬たちへと向かった放たれた。不意をつかれた犬たちは逃げられずにまさに一網打尽となってしまう。
「次はリーダーと勝負ですね」
 そう言ったハルトマンの目は普段よりも黒目が大きい。暗闇だからというだけではなく、『覚醒』後の兆候なのだろう。発する気に反応するのか犬たちが低く高く威嚇のうなりをあげる。
「くっ‥‥この音は結構、効くな」
 少し遅れて岩場の影から表れたシロウは渋面を作り、手で何度も両方の耳を叩いている。ここからは群れのリーダーの座を掛けての勝負となるようであった。

「最低でも28匹は使えるようにしたかったんだけどね。やっぱりここの自然は一筋縄ではいかなかったみたいだよ」
 僅かに肩をすくめ、隼瀬は小さくため息をついた。28匹、いや32匹の犬を4班に分けたかったのだが、それだけの犬を確保することが出来なかったのだ。
「仕方がないね。3班で行動することにしよう」
 あらかじめ作成しておいたリストを大慈は提示した。1班は大慈、朔月、悠季。2班が
シロウとレミィ。そして3班が小雛とハルトマン、隼瀬だ。
「ぎりぎりの時間しかないからね。こんなもんで我慢するしかないだろうね」
 捉えた野犬の数は34。うち調教に従順な犬の数は22匹。本当はもう少し時間も犬も必要なのだが、それでは期日までに物資を届けることが出来ない。悠季は小さくため息をついて資料をテーブルに放り投げた。

「かっわいい! みんなモコモコで暖かいよ。って、こら、こらこら! そんなに舐めちゃくすぐったいってば」
 レミィは犬たちにのしかかられ、顔中をなめ回されている。どうやらわんこ達とすっかり仲良しになったようであった。

●わんことお仕事
 シロウとレミィの一行も順調に進んでいた。群れのボスを任じるシロウはほぼ犬達と寝食を共にしていた。
「シロウさんは凄いんだね。ここ数日、あたしにはシロウさんもおっきな野生の動物みたいに見えちゃうよ」
 感嘆の表情のままレミィは感心したように言った。その間も双眼鏡は手放さずに、周囲への気配りは怠らない。
「ハッハー。日本の漫画には犬を主人公にしたヤツがありましてね。群れを率いて戦う物語なんです」
「すごいジャンルだね」
 合っているのか、ミスマッチなのか‥‥けれどソリが引く総重量が軽いためか、走破した距離は予定よりもずっと長い。

「まいど〜カンパネラ運送です〜」
 犬たちをやや強引なくらい強くなで回していた大慈は村の入り口近くにある家から人が出て来ると、ごく気さくな感じで言った。
「おお、お待ちしておりました!」
 村人だろうその老人は大げさなくらい大仰に驚き、3人と犬たちを歓迎してくれた。
「で、申し訳ないけどこの村で一泊出来ないかしら? さすがに今から戻るのは危険だと思うのよ」
「もちろんですとも。さっそく村の長に話してまいりましょう」
 悠季の言葉に村人はあわてて村の奥へと走り出した。
「‥‥ありがとう」
 朔月は犬たちの身体を丹念に撫で、人には見せない様な魅惑的な笑みをその硬質な肌で小作りな顔にそっと浮かべた。

「そろそろ小休止が必要」
「待て!」
 犬たちの様子をじっと観察していたハルトマンがつぶやくと、小雛は短く犬たちに指示を出した。短時間によくしつけられた犬たちはその言葉を聞くと動きがぴたっと止まる。1つめの村を廻り、2つ目へと向かう途中だ。小雛は犬たちの身体からハーネスを外していく。
「この辺りに危険はなさそう」
 周囲を警戒していた隼瀬がふっと身体の力を抜いた。周囲に自分たちしかいないような場所で敵に襲われたらひとたまりもない。それに、じっとしていると足下からゾクゾクと寒さが伝わってくる。
「村までは後少しですわ」
 小雛の言葉に一行はすぐに出発をした。

●わんことキラキラ
 村を廻った翌日、学園へと戻る前に全員が合流した。待ち合わせの場所はとても見晴らしの良い場所だったので、そこからは起伏に富む真っ白な雪原がどこまでも見える。夕暮れの空には光のカーテンの様なオーロラが浮かんでは消え、消えては揺らめいてまた空を彩っていた。
「綺麗だな」
 素直に大慈はつぶやく。夜ともなればもっと幻想的で美しい光がこの大空一杯に広がるのだろう。
「どうぞ」
 ハルトマンは皆に温かいココアを配っていく。一口飲むと体中がぽっと暖まって、どれ程寒く凍えていたのかがわかる。
「あれは何かしら?」
 悠季が指さす彼方に光を反射する物体が映る。この場所からはかなりの距離があるというのに、その光る物体は集落1つ分ぐらいの巨大なものだ。淡い太陽の光を受けて全体がキラキラと輝いているのは確かに美しいが、それだけに異質で不気味でもある。
「‥‥大丈夫」
 人の心を感じるのか、不安そうに低く鳴く犬たちをなだめるかのように朔月は身体をかがめてそっとつぶやく。けれど異様に光る物体を見る視線は冷たく厳しい。
「私がいる。安心するがいい」
 シロウも群れのボスとして、犬たちを廻りなだめていく。寝食を共にした犬達とはすっかり同族の様である。
「あれ、もしかして動いている?」
 双眼鏡を使って観察していたレミィがつぶやく。そう、物体は静止しているわけではなく、小さな物が絶えず動き回っていて、全体として集落程度の大きさとなっている様なのだ。勿論、それが人間の手‥‥長き時間このグリーンランドに生きる先住民達によるものとは思えない。
「メイズリフレクター‥‥だとすれば、まだ小さい、いや数が少ないと言うべきか」
 ごく最近出現したばかりの敵性物体は『メイズリフレクター(MR)』と称され、報告が義務づけられているのを隼瀬は知っていた。いや、誰もが知っていたが、まさかこんな場所に一大群生していたとは思わなかった。
「きっとケイト先生がわたくし達の事を首を長くしてお待ちになっていますわ」
 動かない仲間達へと小雛が言った。
「とにかく戻ろう」
 悠季の持つ詳細な地図に印を付けると、この場での連絡は避けそれぞれ犬ぞりに分乗すると、可能な限りの速度で集合場所へと走り始めた。