タイトル:新型汎用機開発マスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/18 01:27

●オープニング本文


「‥‥ふむ」
 雷電。
 銀河重工の最新鋭KV。
 重厚にして強靭。その名の通り、実に素晴らしい機体だ。
 だが。
「如何せん、高すぎるか」
 そう言って、男はディスプレイに目を落とした。

 彼の名はフィリップ=アベル(gz0093)。ドロームからメルス・メスへ技術顧問として派遣されたサイエンティストだ。
 フィリップ自身、この地位が体の良い左遷という事実に気付いてはいる。
 もっとも、だからと言って何を思うわけでも無いのが彼という人間だった。

 バグアを相手取って世界中で戦う人類。
 その戦線を支える核の一つは、間違いなくKVである。
 必然的に求められる能力はより高く、より強く。
 比例してコストは上がる。そして、メンテナンスの手間も増える。
 ディスタンが良い例だ。
「アレも性能は良いんだがなぁ」
 フィリップはふと呟く。
 ディスタンの性能は、今更言うまでも無く高性能である。
 だが、それがメルス・メスのお膝元、南米に合ったものであるかと言われれば‥‥疑問符を呈さざるを得ない。
「S‐01とR‐01の合いの子がまかり通る戦線、か」
 ぎし、と安物の椅子が音を立てる。
 そこで、フィリップはふと思いついた。
 ドローム社製のKVはパーツの互換性が高く、S‐01とR‐01の合いの子といった一見無茶なメンテナンスが可能だ。
 補修物資が足りず、純正品のKVが足りないというのが、今の南米戦線の状態だ。
 ならばその実状に合ったものは、パーツの大半を共有できるKVだろう。
 凄まじい速度でキーが叩かれ始め、画面上には目まぐるしく数々の数値が乱舞した。

 数時間後、そこにはぐったりとデスクに突っ伏すフィリップの姿があった。
 画面上には、CGモデリングされたKVが回転している。
 CGの下に表記された名前は、GF‐V『マテリアル』。
「今の俺では、ここまでが限界か。後は‥‥実際に乗る奴らに聞くのが一番だな」



●GF‐V 『マテリアル』
 機体概要
  多様化する敵と戦場に合わせて、KVには更なる柔軟性が求められている。
  この機体は、それに対する回答としてメルス・メスが提示したものだ。
  性能は扱いやすさに重点を置いており、際立って突出したものは無い。
  悪く言えば平凡な機体となっているが、逆に言えばどの戦場においても安定した戦果を発揮できる。
  海中を除いた全ての戦場に対応することを目指し、メンテナンスは極限まで簡略化できるよう設計されている。
  特筆すべきはその機体構成で、実に半分以上のパーツをドローム社のKVから流用することが可能である。
  これによって、かなりのコストダウン効果が期待されている。

 アクセサリスロット
  四つを予定している。

 特殊能力
 『ピンポイント・コーティング』
  ディスタンのアクセル・コーティングを応用し、任意の場所の装甲を一時的に強化する。
  錬力を消費して、受防に+の修正が入る。

●参加者一覧

エクセレント秋那(ga0027
23歳・♀・GP
ツィレル・トネリカリフ(ga0217
28歳・♂・ST
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
不破 梓(ga3236
28歳・♀・PN
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
柊 香登(ga6982
15歳・♂・SN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
水円・一(gb0495
25歳・♂・EP

●リプレイ本文

●アベル開発室にて
 GF−V、開発名『マテリアル』。
 ドロームから技術顧問としてメルス・メスへ派遣されたサイエンティスト、フィリップ=アベル(gz0093)が主導して開発を進めている機体だ。
 メルス・メス本社のある南米はバグア勢力が比較的弱体とはいえ、予断を許さない状況であることに違いは無い。
 不穏な噂の絶えないエルドラドが存在するのも、また南米である。
 そうした中で、南米戦線を支えるKVがS−01とR−01、そしてそれらの合いの子では、不安を払拭できるはずも無い。また、先に開発されたディスタンは強力な戦力だが、コスト的に戦線をひっくり返せるほどの数は配備できない。
 この状態を打破できるKV開発は、メルス・メスにとっては急務とも言えた。
 ドロームとの提携関係を最大限に活かせる『マテリアル』は、まだまだ独自開発能力が貧弱なメルス・メスにとっても魅力のある機体だ。
 ディスタンに次いでマテリアルを経験すれば、そのノウハウを活かして後に続く純粋なオリジナル機開発の道も拓けるだろう。
 それに、補給が十分でない地域は他にもある。このコンセプトは、有用なはずだ。

「アベル博士」
「何だ?」
 思索に耽っていたフィリップは、彼を呼ぶ部下の声で現実へと引き戻される。
「ラストホープから能力者が見えました」
「‥‥来たか」
 部下へ通すように伝えると、程なくして八人の能力者が室内へと招き入れられた。
 フィリップは立ち上がり、軽く頭を下げる。
「良く来てくれた。礼を言う」
「ディスタンを使っている身としては、メルス・メスの新型には興味があるのでね」
「新型機ってのはわくわくするからねぇ。それに少しでも携われるなら、尚更ってもんさ」
 不破 梓(ga3236)が笑顔を見せれば、エクセレント秋那(ga0027)も期待を込めた眼差しを送る。
「ご期待に沿えればいいがね。‥‥そろそろ本題に入ろう。こちらへ」
 男は研究室の一角に設けられた応接用のスペースへ一行を誘う。
 用意されていた席に八人が座ったのを確認すると、フィリップもまた着席した。

●君の意見を聞こう
 忌憚の無い意見を聞かせてくれ。
 フィリップのその言葉に、まず口火を切ったのはツィレル・トネリカリフ(ga0217)だ。
「とりあえずアベルさんが気にしてるスロットだが‥‥アクセ四つ、武装は計三つで良いと思う」
「いやいや、武装は四つ欲しいね〜」
 反論したのはドクター・ウェスト(ga0241)。
「汎用機ならば、あらゆる状況に対応できなければならないからね〜」
 ウェストの言葉に、時枝・悠(ga8810)と水円・一(gb0495)も頷いた。
「武器の選択肢が増えるのは、単純に心強い。ハードポイントを増設するだけだし、簡単じゃあないのか?」
 とは悠の弁だ。
 簡単、という単語にフィリップは少しだけ笑う。
 実際はそう簡単でも無いのだが、そこは製作者と使用者の認識の違いなのだろう。
「まぁ、大雑把な方が信頼性は高まるってことで」
 その違いについては悠自身も自覚しているらしく、多少照れたようにそう付け加える。
「俺も武装は全部で四つ欲しい。もちろん、装備力は十分確保した上で」
 一が悠の後を引き継いで言う。
 例え搭載できる数が多くとも、それに見合った装備力が無ければ宝の持ち腐れだ。
 無論開発陣もそれは意識しているが、能力者の指摘があると無いではその度合いが違う。
 フィリップは装備力に対する自らの優先度を多少引き上げることにした。
「欲を言えば、私も四つ欲しいのだが‥‥」
 少しだけ歯切れ悪く、梓が口を開く。
「汎用型を謳うなら、積載量も極端には上げられんのだろう?」
「といっても、分業はし辛いだろうから、やっぱり多めに欲しいと思いますね」
 今まで黙っていた瓜生 巴(ga5119)が言う。
 彼女の指摘通り、数が揃わない戦線では一機で複数の役割をこなさねばならない事態はままあるだろう。
 南米という条件を考えれば、実に理に適った指摘だ。
「‥‥数、か」
 思わずフィリップは唸る。
「戦いは数、と誰かも言っている。それを考えれば、瓜生さんの意見はもっともかもな」
 ツィレルがぼやくように言った。
 絶対数が用意できないのであれば、一機で複数分の働きをせねばならない。
 それは道理だろう。
 そんな折、おずおずと手を上げたのは柊 香登(ga6982)だ。
「でも、僕は三つが良いと思います。装備を揃えるのもお金がかかるし、スロット抑える分価格も抑え目ってことで」
 KVというのはとかく手間のかかる代物だ。
 香登の心配するお金の問題にしても、不自由なくやりくりできるのはほんの一部だろう。
 要はバランスの問題なのだが、それが一番難しいのかもしれない。
「あたしも三つで良いと思うよ。基本性能上げれば、カバーできるんじゃないかねぇ?」
 秋那は香登に賛成のようだった。
「ふーむ、割れたようだね〜」
 意見の相違をむしろ楽しむように、ウェストがけひゃひゃと笑う。
 現状、武装スロットの数については三つか四つのいずれか、と結論付けるしか無いだろう。
 アクセサリに関しては、四つで問題は無さそうなのが救いだろうか。

 序盤からやや白熱した議論が展開されたため、少々の休憩が挟まれる。
 五分ほどして、再び能力者たちは着席した。
 次のテーマは特殊能力。
 好意的な見方をするのは秋那だけであり、残りのは大なり小なり否定的な見解だ。
「特殊能力としては地味すぎる」
 総括すれば、それが理由だった。
 痛いところを突かれたな、というのはフィリップの心情だ。
 彼が何故ピンポイント・コーティングを考えたかといえば、ディスタンで培われた技術を応用することで、技術的な敷居をぐっと下げられるからだ。
 機体が安く済んだとしても、特殊能力でコストが嵩んでは元も子もない。
 彼の言い訳としては、こんなものだろう。
「防御は案外簡単に底上げできるんだ」
 アクセサリや改造で比較的安価に防御は上げられる。受防はそれに連動するのだから、能力として旨みに欠けるのだ。
 ツィレルがそう言う。
「あたしは好きだけどねぇ、こういう能力」
「使いようによっては面白いのは確かだろう」
 秋那の呟きに悠が応える。
「だが、果たしてそれが実用に耐えるか、ということだ」
 言外に、使えないだろう、という意思を滲ませての言葉に、巴が頷いた。
「正直要らないと思います。能力をカットする代わりに、その分のコストを基本性能に回せませんか?」
 些か極論だ。
 KVを従来の戦闘機と区別する重要な要素の一つが、特殊能力である。
 それをオミットしたものを開発したとしても、生産ラインに乗ることは無いだろう。
「カットは極端だが、変更はしていいんじゃないかな。例えば――抵抗を上げるとか」
「上昇させる能力を変えるのは、私も賛成だ」
 ツィレルの提案に、梓が同意した。
「だが、転用するならば攻撃にまわせないだろうか? 例えば、ナックル・フットコートの要領で」
「俺も賛成」
 一が手を上げる。
「攻撃と防御を両立できるなら、それは利点だと思う。無論、消費錬力は低めで」
「あるいは、阿修羅みたいな追加武装として用意するとか?」
 ピンポイント・コーティングの攻撃転用には興味をそそられる者が多いようで、香登もまた参加する。
「抵抗、攻撃‥‥。ふむ」
 フィリップは考える。
 技術的には、可能だろう。
 追加武装というのも面白いが、確か似たコンセプトの開発を行う部署があったはずだ。
 それとなく、そちらへ情報を回しておこう。
 そう結論付け、彼は議論へと意識を戻した。

「機体コンセプトを考えれば、先の搭載力は当然として、戦闘持続力が求められるだろうね〜」
 話題は基本性能に移っている。
 ウェストの指摘に、巴が頷いた。
「S−01、R−01のパーツを元にするのだから信頼性は高くなるはずです。燃費も、工夫次第で伸ばせると思います」
「錬力確保は重要だと思う」
 梓が口を開く。
「後は防御性能だな。抵抗が欲しい。現行機では、十分な抵抗を持つ機体が高級機にしか無い」
「防御と抵抗が両立できれば、大きな利点になるだろう」
 ツィレルが言う。
「後は命中と攻撃だな。‥‥知覚まで求めるのは無理だろう」
「いや、我輩は錬力と装備力があれば、後はカスで構わないと思うね。装備で補えば良いのだよ〜」
 ウェストの意見はやや極端だが、アクセサリを四つ載せられるというメリットをどう活かすか、という意味では有意義な視点であった。
 つまりは、不足値を補うのか、更なる高みを目指すのか、どちらを選ぶのかということだ。
「そうは言っても、やっぱりある程度の基本性能は欲しいさね」
 秋那はそう言って苦笑する。
 汎用機、どの戦場においても通用する機体を目指すのであれば、やはりそれに見合った性能は必要だろう。
 最低ラインをどこに据えるか。その見極めはやはり難しい。
「俺は、低価格の知覚型機体ってのは面白いと思うんだが」
「確かに面白いが、知覚装備はまだまだ高価だ。種類もそれ程無いしな」
 一の発言に悠が応じる。
「僕も、重視するなら攻撃の方だと思います。長距離兵装も実弾が多いですしね」
 香登の観点はスナイパーらしいものだった。
「流通している武器を考えれば、攻撃重視の方が都合が良い‥‥か」
 なるほど、と一は心中で頷く。
 知覚兵器は有用だが、戦線の中心となるにはまだ配備数が足りないかもしれない。
 ともあれ基本性能に関しては、概ね意見は一致しているようだ。
 スロット数を活かせる十分な装備力。
 長時間の戦闘を可能にする錬力。
 生存性を高める防御性能。
 攻撃力と命中力の確保。
「客の望む性能は過大なのが常だ。その辺りは技術者の腕の見せ所、だろう?」
 求められる数値に渋い顔をしたフィリップを見て、悠がニヤリと笑った。
 
「大方の意見は出たと思うが‥‥他に何かあるか?」
 すでに開始からかなりの時間が経ち、フィリップの持つメモ帳にはびっしりと能力者たちの意見が纏められている。
 そろそろ締めに入ろう、と彼はそう切り出した。
「機体とは別のものだが‥‥一つ開発案を持ってきた」
 ツィレルが言いながらある図面を取り出す。
 マルチタスクFCS。図にはそう記されている。
 その内容は、KV版二段撃といえばよいだろうか。
「GF−Vではどうしても攻撃力は見劣りするだろう。それをカバーする意味では、有効なものだと思う」
「‥‥ふむ」
 フィリップが宙を仰ぐ。
 面白そうな案だが、果たしてどうなるだろう。
 ドロームでも、似たようなモノを開発するチームがある、という噂を聞いたことがあった。
(「アレは特殊能力だったか?」)
「おおっと、そういう案で良いのなら我輩のものも見てもらいたいね〜」
 脇からウェストが身を乗り出してくる。
「コア、つまりコクピットそのものをブロック化してしまうのだよ〜」
 喜々として自身の構想を披露するウェスト。
 頭部と胴体のみを本体ユニットとし、手足はオプションとして扱う。無論、本体に飛行と変形の能力を持たせる。
 発想は面白いが、フィリップは乗り気ではなかった。
「コストが嵩みすぎる」
 ばっさりとそう切り捨てられ、ウェストは真っ白な放心状態になる。
 実際、数を揃えるべき機種では、そういった煩雑なシステムは控えるべきだろう。
 加えて、関節部分の脆弱性に繋がる恐れもある。
「部署は違うと思うのだが、ディスタンのバージョンアップはまだだろうか?」
 口から魂が抜けたようになっているウェストを尻目に、梓が発言する。
 次々と新型がリリースされる中、従来の機種はバージョンアップで性能の底上げを図っている。
 だが、ディスタンはまだまだ高性能機と言えるだろう。
 それに一度、機体性能の向上化が図られているので、仮にバージョンアップが行われるとしても、それはまだ先の話になるはずだ。
 そうフィリップが説明すると、梓は少しだけ寂しげな顔をした。

●機体への期待
 能力者たちが帰途に着き、閑散とした研究室でフィリップは一人ごちた。
「まさか、名前にまで突込みが入るとはな」
 思わぬ意見の飛び火に、今更ながらに苦笑する。
「マテリアル、か」
 ネーミングセンスに自信は無いが、気が向いたら再考してみよう。
 そう気を取り直し、フィリップは能力者たちの意見を少しでも反映させるべく、機体図面に向き直った。

 帰りの高速移動艇にて、八人の能力者はそれぞれに『マテリアル』への意見を交わしていた。
 新型機というのは、どうしても関心を抱かずにはいられないものだろう。
 その途中、巴がふと思い出したように呟いた。
「こういうのって、むしろ奉天向きじゃないですかね」
 ぴたり、と議論の声が止まる。
「それを言っちゃあ‥‥」
 一が苦笑すれば、他のメンバーも困ったように顔を見合わせた。
 丁度その頃。
 何故かフィリップはくしゃみが止まらず、難儀したそうである。