●リプレイ本文
●プロットなんて、あるわけない
もはや変換が面倒くさい羅巣穂府学園(文字数節約のため、以下ラ学と称する)は、今日も賑やかだ。
ラ学高等部、3年の教室棟。
3年といえば、本来なら大学受験に備えた勉強漬けの日々を過ごすはずだが、ラ学は大学までエスカレーター式である。
設備は超一流、教授陣も超一流(人格に難有り)となれば、外部の大学に行く生徒は少数派であり、大多数は怠惰な日常の延長を過ごしている。羨ましい。
「ウィリアムはいるかっ!」
「その時、3年4組の扉がけたたましく開かれた。入ってきたのは煉条トヲイ(
ga0236)。鬼気迫る表情で、アルゲディの元に近づいてくる‥‥と」
「何だそのナレーション!?」
突然無駄なナレーションを入れ始めたウィリアムことアルゲディに、ヘイル(
gc4085)が驚く。
いや、よく見ればナレーションではなく、手元のタブレットに何かを書き込んでいるらしい。入力速度が恐ろしく速い。
それを、トヲイが引ったくる。
「何をするトヲイ!」
「何をするじゃない! いい加減、期限を過ぎてる本を返せ!」
「ああ、リア充を借りてたな」
「リ・ア・王、だっ!」
「え? リリア様?」
「ウィリアム、その辺にしといてやれ」
見かねて、シルヴァリオが割って入った。
アルゲディは、いけ好かないキザ野郎のような感じで肩をすくめてみせる。
「シルヴァリオ、こいつ殴っていいか?」
「好きにすればいいが‥‥目を離すと、ほら」
「はーははは! さらばだ返却の鬼神! 気が向いたら図書室行くわ!」
「――あっ! まてこらウィリアム!」
僅かな隙に教室を脱出したアルゲを、トヲイが追っていく。
「‥‥今日は平和だな」
「平和ねぇ」
遠い目でシルヴァリオが呟くと、いつの間にか隣にいたリノが頷く。
この程度、事件のうちには入らない。
「――彼は『返却の鬼神』と呼ばれた学生。『図書室』の取り立て役だった男」
ヘイルが何事かを呟き始めた。
毒されたな、とリノは一人頷くと、この騒ぎでも眠ったままのシェアトの額に肉の字を書き込み、満足気に微笑んだ。
「やほー、シェアト君ー帰ろーぶふー」
放課後、シェアトを迎えに来たラルス・フェルセン(
ga5133)がナチュラルに吹き出した。
「ふははは! 俺のオーラに耐え切れなかったか!」
「――っ!」
声もなく腹を抱えるラルスと、4組の学生たち。
得意気に胸を張るシェアト。その額に燦然と輝く『肉』。
知らぬが仏、である。
「へいへーい! シェアト帰ろうぜーってうはははは何だその顔!」
次いで現れた綾河 疾音(
gc6835)が、馬鹿の顔を見るなり第二の犠牲者となる。
顔、の指摘に、流石のシェアトも異変に気づいたらしい。
「シルヴァリオ、鏡を持て」
「トイレ行ってこいダァホ」
シルヴァリオに教室から蹴り出され、トイレに向かったシェアトが目撃したものとは!
「驚きの結果はCMの後に!」
「‥‥赤村先生?」
職員室で唐突に叫んだ赤村 咲(
ga1042)に、同僚のUNKNOWN(
ga4276)が怪訝そうな声を上げる。
また酔っ払っているのか、とでも言いたげな表情だ。
「‥‥トレンディ‥‥」
謎の一言を残し、咲は再び机に沈む。
UNKNOWNはやれやれとため息をつき、自分の仕事に戻った。
放課後の廊下を、一人の女生徒が歩いている。遠石 一千風(
ga3970)だ。
お金持ちのお嬢様だそうだが、いまいちそう見えないのは、そのモデル体型故かもしれない。
「遅くなっちゃったな‥‥」
ぽつりと一千風が呟く。
日直の仕事を、少しばかり真面目にやり過ぎたらしい。既に日は傾き、廊下は朱に染まっている。
暗くなる前に帰ろう、と頷いた彼女の目に、窓から外を眺める一人の男子生徒が映った。
その表情は憂いを帯び、銀の髪が夕日を受けて赤く輝いている。
彼がアルゲであることを、一千風は知らなかった。
と、彼が少女に気づき、顔を向ける。
「――よし」
「え?」
アルゲは一千風の顔をまじまじと見つめると、頷いた。
「今夜のデザートが決まった」
「‥‥あの?」
繰り返すが、初対面である。
はてな顔の一千風に、アルゲは爽やかな笑顔を浮かべると、シュタッと手を挙げた。
「ありがとう見知らぬ人! 君は今日からデザートさんだ! そうと決まれば、材料を買いに行かねば! わはは!」
言うが早いか、アルゲは疾風のように去っていく。
残されたのは、ぽかんとした一千風。
「‥‥だ」
思わず、叫びがこみ上げてきた。
「誰がデザートよっ!」
無人の廊下に、少女の叫びが響く。
所変わってバグア荘。
「わんわん、ボクはバグア荘に住む犬のオッキーさ!」
「ボクはマスコットの白虎だよっ!」
「何で俺ここにいるの!?」
上から、鯨井起太(
ga0984)、白虎(
ga9191)、ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)である。
どうしてこうなった。
「ははは、細かいことは気にしない! ボクは歓迎だぜ、ユーリ・ちまトライゼン!」
「違っ!」
「お、シェアト先輩たちだ」
白虎の声に、起太の顔が一気に劇画チックになった。楳○かずお風味である。
「ふははは! 今帰っ――」
「てめぇはダメだ!」
声も高らかに帰還したシェアトに、起太が飛びかかる――寸前で首輪についた鎖がその凶行を止めた。
「ぬお! 貴様、性懲りもなく毎日毎日!」
「キャラがかぶんだよてめーは! くそ、何で紐が首輪に!」
「自分でやってたろ‥‥」
ユーリが呆れたように呟く。
その背後に立つシルヴァリオ。その気配を察し、ユーリの顔がパピヨン夫人となった。
「撫でさせろ」
「挨拶もなしに‥‥恐ろしい子ッ!」
「そりゃ硝子のマスクじゃよ」
したり顔で、一緒に帰ってきていた疾音が頷いた。というか、彼もユーリもUPC寮の所属のはずだが。
「あり? 綾河先輩にちまトライゼンじゃん。また来てんの?」
そこに現れたは依神 隼瀬(
gb2747)。
バグア荘住民にして巫女さんである。何故、巫女なんだ。
「イーじゃんイーじゃん! 堅いこと言いっこなしってさ!」
疾音はからりと笑い、ユーリは答える余裕すらない逃走劇を繰り広げている。
よくやるねぇ、と隼瀬も笑うと、思い出したように周りを見渡した。
「ドロシーがいるのに」
「はい?」
アルゲの妹、ドロシーが小首を傾げた。
「アルデンテ先輩がいないのは何で?」
「何だその名前!?」
「あ、いた。おかえりなさーい」
折よく、アルゲが帰ってくる。パスタなニックネームにドン引きのご様子。
「‥‥お似合いですよ、アルデンテ」
「皆、おかえりなさい」
と、寮の中から鳴神 伊織(
ga0421)とリリア・ベルナールが出てきた。
伊織もUPC寮なのだが、リリアとは茶飲み友達だそうである。バグア荘とは何だったのか。
「イオリ、だから俺はアルゲディだと何度言えば」
「スパゲティ?」
「パイフー!」
白虎の絶妙な合いの手に、周囲の人間は皆頷いた。
ドロシーでさえ、思わず納得の呼び名だ。グルメも納得。猫まっしぐらである。
スパゲティとアルゲディ、どこで差がついたのか‥‥慢心、環境の違い‥‥。
「猫と聞いて〜」
ラルスがあらぬ方向に語りかけながら帰ってきた。
地の文と会話するのは勘弁していただきたい。
この時点で収集はつかなくなっているのだが、そこへ更に登場人物が追加されてしまう。
「出迎えご苦労じゃ、愚民ども」
唐突にレッドカーペットがしかれ、その上に美具・ザム・ツバイ(
gc0857)が降り立った。
嘘か真か、彼女の父はラ学の理事にも名前を連ねているらしい。
少なくとも、それが本当に見える程度には美具は傍若無人であり、金持ちオーラを振りまいている。
当然、対抗馬はシェアトであった。
「俺がお前の出迎えだと! 違うな! お前が俺を出迎えたのだ、わざわざな!」
「あー、その理屈は分かんねぇわ」
疾音が肩を竦める。
だが、美具もさるもので、謎理論に動揺も見せない。
「ほーぅ? 美具を敵に回す気じゃな? 余程退学になりたいと見える」
「ふん、できるものならやってみるがいい」
両者の間に火花が散り、険悪な雰囲気が辺りを包んだ
訂正。
面白いものを観戦するような雰囲気が辺りを包んだ。
美具にとって予想外の事態があったとすれば、この寮の住人たちの気質であろう。
少女のひけらかす権威にも、金にも引かぬ媚びぬ省みぬ。寮生に後退はないのだ。
「はい、そろそろご飯ですよ」
ぽんとリリアが手を叩くと、寮生が一斉に移動し始めた。
腹が減っては聖○十字陵は建たぬのである。
「アルデンテ先輩、今日のご飯なんだと思います?」
「スパゲティ、ちょっとジュース買ってこいよ」
「お前ら」
一気に閑散とする中で、対峙した2人は無駄な高笑いを始め、近所迷惑だとリリアに叱られるのだった。
その頃、UPC寮ではリヴァル・クロウ(
gb2337)が寮監のヴェレッタ・オリムにあんらきすけを決め、カラシニコフの裁きを受けると共にセラ・ヘイムダル(
gc6766)の(性的な)攻撃を受け、静かに息を引き取った。
「扱い酷くね!?」
「‥‥まだ息があったか」
「お兄様、私というものがありながら!」
「何だこの状況!」
逃げ惑うリヴァルを、(化粧的な意味で)濃い目の美女と(性癖的な意味で)濃い目の美少女が追う。
その様を、クラーク・エアハルト(
ga4961)が穏やかに見つめていた。
完全武装で。
「まぁ、いつもの事じゃないか」
見た目はもはやロボットの青年は、これでもレオノーラという恋人がいる。
人間、中身が大事なのであろう。
UPC寮はバグア荘に比べてマトモだと言ったな。
アレは嘘だ。
「ウワァァァァァァァ‥‥」
遂にオリムの魔手にかかって気絶したリヴァルを、セラが舌なめずりをしながら引きずっていく。
だいじょうぶ。きっとていそうはぶじだよ。
●よくも俺たちの計画を邪魔する気だな!
「温いわ」
夜のラ学大学の学食で、赤崎羽矢子(
gb2140)が腕組みをして唸った。
現在の時刻から考えて、門限はとうに過ぎている。今夜は学食で徹夜コース決定だ。
「‥‥何がです?」
誰も反応せず、少しだけ涙目になっていた羽矢子を見かねて、鐘依 透(
ga6282)が応じた。
遠距離恋愛中の年下の彼女とのメール交換は、今日のところはお終いである。もげろ。
「高等部の連中よ」
「はぁ」
生返事を返す透は、周囲を見回した。
同じ大学に通う他の仲間は、それぞれにメールしたり眠ったりしている。
自分が聞くしかないのか、と青年は改めて覚悟を決めた。
「ちょっと退屈、もとい、活を入れるためにも、先輩であるあたしらが一肌脱ぐべきじゃない?」
「‥‥あァ?」
折よく、うたた寝から目覚めたジャンが、怪訝そうな声を上げる。
低血圧なのか、酷く不機嫌そうだ。
「アホくサ、塾長にでも言えヨ」
「それだ!」
「あン?」
よく言ったとばかりに、羽矢子がジャンの肩をバンバンと叩く。
男は迷惑そうにそれを振り払うと、机に突っ伏した。
「チャーリーもそれでいいよね?」
「‥‥え? いいんじゃない?」
唐突に話題を振られたチャールズは、携帯画面から目を離さずに相槌を打つ。
余りの適当さに、透はため息をつく。
「‥‥そこの不良学生、人気のない学食とはいえ、夜はお静かに」
不意にハンナ・ルーベンス(
ga5138)が現れた。
少々辛辣だが、口調そのものは穏やかである。反面、金髪グラサンというその出で立ちは怪しいにも程があった。
そんな彼女、このラ学の購買部を仕切る辣腕部長であると同時に、高等部以下の道徳教諭も兼務している。
学食に現れたのも、いわゆる巡回である。
そして、シスター・ハンナの危険性もとい凶暴性違った厳格さは年長者程心得ていた。
二つ返事で、大学生4人組は大人しくなる。
「いあ! いあ!」
「あら、アルヴァイム(
ga5051)さん。お疲れ様です」
「くとぐあ! ふたぐん!」
そこへ、更に這い寄る黒子が。彼は用務員である。
「施錠確認に? それなら、学食は私がやっておきますから」
「うがふなぐる」
「はい。ではまた」
黒子の話す冒涜的な言葉は、訓練されたラ学生にのみ聞き取ることができる特殊言語である。
重要なのは角度だ。
「あれで既婚者なんですよね、用務員さん‥‥」
「差別はいけませんよ、鐘依さん」
「あ、はい。すいません」
至極不思議そうに呟いた透を、ハンナがやんわりと嗜める。
なお、黒子の奥さんが百地・悠季(
ga8270)である事は、一部の教師を除いて秘密となっている。
何故かといえば、彼女は高等部2年だからだ。
世間的にはヤバイ設定はであるが、黒子さんは旧支配者なので人類の法は適用外である。
宇宙ヤバイ。
翌日。
ブライトン校長からの唐突なアナウンスが、朝一で流れた。
「なんと、『羅巣穂府学園難出喪亜裏亜理生刀壊超戦挙』!」
弓亜 石榴(
ga0468)が叫ぶ。
「知っているのかゆあっちー!」
劇画調で応じたのは村雨 紫狼(
gc7632)である。
ノリが良いのは嫌いではないが、いかんせんその目線が石榴の胸に、もといおっぱいに向いているのはいかがなものかと僕ぁ思うね。けしからん。
当の石榴はと言えば、そんな目線にはチラとも動揺せず、重々しく頷いて見せていた。
「うむ‥‥要するに生徒会長選挙なんだけどさ」
「選挙なのかー」
上の空の紫狼。その目は、腕組みで強調された石榴の胸に、いやさおっぱい! に釘付けだ。
実にけしからん。
「選挙っていうか、障害物競争? みたいな?」
「何だそれ」
脇で聞いていた隼瀬が、藁人形に釘を打ち込みながら首を傾げた。
どうも、シェアトを模ったもののようであるって何やってんだあんた。
なお、ここは高等部2年の教室であり、悠季も在籍しているクラスだ。ご都合主義である。
「勘弁して‥‥」
その悠季は、放送を聞くなり突っ伏してしまっている。
「どしたん、悠季?」
カーン、と金槌の音が響く。
呼応して、3年の教室の方から愉快な悲鳴が響いた気がした。
「あたし、寮から選出される雑用役なのよね‥‥。だからきっと、いや、確実にこれから面倒な事になるわ‥‥。ねぇ依神さん、バグア荘の担当は誰?」
「いやー、聞いたことないなー」
カーンと(ry 3年の教室から愉快な(ry
「うっそ、私の年収、低すぎ‥‥?」
「年収? まぁ、貧乏くじなのは確かじゃない?」
カ(ry 3(ry
藁人形に深々と釘が刺さったところで、隼瀬はすっきりした笑顔を浮かべると、人形をカバンにしまい込む。
巫女な彼女のストレス解消法だ。丈夫な先輩を持つと色々便利である。
「いいわね、それ」
「いいでしょ」
羨ましげに悠季はそれを横目で眺め、帰ったら旦那を抱き枕にしようと決意した。彼女のストレス解消法だ。ちくしょうもげろ。
突然の、針で刺されるかのような腹痛から立ち直ったシェアトは、意気揚々と宣言していた。
「遂に俺の時代が来た!」
「おー、マジマジ。絶対お前の時代だわ、すっげー面しr‥‥最高の生徒会長になれるぜ!」
隣で、別のクラスのはずの疾音が執拗におだてている。
そうだろうそうだろうと頷くシェアトに、シルヴァリオは沈痛な面持ちで頭を抱えていた。
「この馬鹿、体力だけはあるからな‥‥」
「噂通りの選挙? なら、本当に勝っちゃうかもねー」
けらけらとリノが笑う。
「僕もー出ますー」
唐突にラルスが湧いた。彼もクラスは別である。
「ほー、出席日数がヤバイと噂のストレイキャットが、どういう風の吹き回しだ?」
「猫のー楽園をー、作るためにー、予算をがっぽり〜、ですよ、パスタ君」
「ちっがーう!」
興味深げに問うたアルゲに、悪意なき微笑みでラルスは返した。
「うるさいですよ、4組。というか、アルゲ‥‥アルデンテ」
「そうだぞウィリア‥‥パスタ」
「何で言い直した!?」
隣の組から、伊織とトヲイも乗り込んでくる。これもうわかんねぇな。
『そうそう言い忘れておったが』
と、ブライトン校長からの放送が再び鳴った。
『生徒会長候補者については、自薦他薦を問わん』
爆弾発言が飛び出す。
しばしの沈黙の後、どよめきが全校を包み込んだ。
最早、全員が当事者である。
3年4組におけるその騒ぎは、UNKNOWNが高笑いを続けるシェアトをしばき倒すまで続いた。
というわけで、選挙当日。
無駄に広い校庭が、いつの間にか阿鼻叫喚のフィールドに変貌している。黒子が一晩でやってくれました。
『というわけでやって参りました! 生徒会長の座は実力でもぎ取れ! 難出喪亜裏亜理生刀壊超戦挙! 司会進行はあたし、赤崎羽矢子がお送りします!』
「何で大学生がここにいるんだ?」
もっともな疑問をシルヴァリオが口にする。
『面白そうだからに決まってんでしょ!』
「!?」
即答であった。
大学生とは暇人であるな^^
というか、その格好も中々キている。マイクはいいとして、もう片方の手には鉄パイプ。
サイズの合わないセーラー服からはヘソが見えているし、風の具合によっては胸に巻かれたサラシさえ見えそうだ。
「うおおおお! シャッターチャンスッ!」
盗撮小僧、もとい紫狼がそれを虎視眈々と狙っている。
「‥‥何で僕らもいるんだろうね」
「さあなー‥‥」
羽矢子の後方には、学ランを着た透とチャールズがいた。
応援団の体である。それなら羽矢子も学ランが望ましいだろうに。
「それを敢えて外すのが美学ですわ!」
「けっひゃっひゃっ、我輩、ドクター・ウェスト(
ga0241)とミリハナク(
gc4008)保健医がいるからには、安心して怪我をしたまえ〜」
謎の持論を展開したミリハナクと、ウェスト。ちなみに、ウェストは生物教師である。
本日の救護所は盛況が予想されたため、保健医だけでなく、オカルト医学なる怪しげな術を使う彼も駆り出されたのだが、正直なところ全く安心はできない。
なおミリハナクの方は、腕はともかくとして、その色気から男子生徒の人気は高い。
高いのだが、男子生徒に対する彼女の治療は網場式である。命が燃焼系である。
「というわけで、男子はウェスト先生に、女子は私のところにいらっしゃい」
「うむうむ。貴重な実験体、もとい被験者、いやいや患者だからね〜。ちゃーんと施術するよー」
そんな2人の存在に、参加者は絶対に怪我をするまいと誓う。
無論、それは単なる願望でしかないのだが。
「――羅巣穂府学園生へ。早退は許可できない。出場せよ」
ぶつぶつとヘイルが呟いている。
この間からずっとこんな調子だ。そばで聞いている分には愉快であるので、クラスメイトは彼をそっとしている。ハイカラだろ。
「‥‥あ、やっぱり兄さんも出るんだ‥‥」
出場者名簿に目を通したドロシーが、がっくりと肩を落とす。
アルゲの備考欄には「他薦」の字があったものの、行き着く先が同じなら理由など関係ない。
もっとも、バグア荘の愉快なメンツは概ねがエントリーされているようだが。
『はいはーい、折角の競技なんで、優勝者には賞品が出ます! 折角の! 折角のお祭りなのでぇー‥‥!』
唐突に、石榴が羽矢子の持つマイクに飛びついた。
その目は怪しく光っている。
『バグア荘の方が勝ったら、リリア様のエロメイド姿の特大パネルが! UPC寮の方が勝ったら、オリムせんせーのセクシーナース姿の特大壁紙が! それぞれに贈られまっす♪』
ざわ、とどよめきが起こった。
皆の視線が、2人の寮監に注がれる。リリアは困ったように微笑むのみで、オリムは表情を変えすらしない。
勝ったな、と石榴は心中でほくそ笑んだ。既成事実、ゲットだぜ!
「よーやるわ‥‥」
「お? アルゲさんだー。私、愛子ちゃんの友達の石榴でっす」
「ほう。アイコにも友達がいたのか。よきかなよきかな」
偉そうに頷くアルゲに、石榴は再び目を光らせる。
「でね、愛子ちゃんは快諾してくれたんだけど、是非ともこれにサインを」
「む? よく分からんが、サインだな」
アルゲがさらりと名前を書いた途端、石榴はその紙を素早くしまうと、営業スマイルを浮かべて走り去った。
その紙には、地雷、と書いてあったことをアルゲは知らない。
●もしかしてこれって‥‥リプレイじゃない!?
図らずも、バグア荘とUPC寮の対抗戦の様相も帯びてきた生徒会長選挙。
『今日は飛び入りも可!』
というノリに任せた司会の宣言により、お互いの戦力が全く読めない。
出場者名簿に記載された人数を遥かに超えた選手が、魔窟と化した校庭の片隅で待機している。
その中には、うっかりアルゲの姿を見かけてしまった一千風の姿もあった。
「‥‥いた!」
人ごみをかきわけかきわけ、遂に彼女はアルゲを発見する。目的はひとつ。『デザートさん』なる呼び名の撤回である。
「そ、そこの貴方!」
「‥‥む、俺か? って、何だデザートさんではないか」
「――っ! その呼び方を止めなさい!」
一千風も健全な乙女であれば、その呼称にちょっとした羞恥を抱かないはずがなかった。
男が女をデザート扱いするなど、思春期真っ盛りでは要するにアレがアレである。
もっとも、アルゲは好きな子に嫌がらせをしよう的なメンタルの持ち主だったので、恥ずかしげに頬を染める一千風の頼みを聞き入れるはずはなかった。
爽やかな笑顔を浮かべ、一言。
「断る!」
「なっ!」
「わははは! 止めてほしくば、このレースで俺に勝つがいい! そしたら言うことを聞いてやる!」
言うなり、アルゲは人ごみの中を強引に走りだした。
一瞬呆気に取られた一千風は、初動で出遅れる。
だが、勝利の女神はまだ彼女を見放していなかった。
「ボクがアルゲに買ったら、おにぎり10年分をおごってくれると聞いて」
「言質は取ったぞウィリアム!」
「兄さんが真人間になってくれると聞いて!」
「何だお前ら!?」
図らずも、4人が1人を追う構図である。
なし崩し的に周囲の生徒らも動き出し、それを追認するようにスタートを告げる号砲が鳴った。
「シェアト、危ない〜」
同時に、ラルスがシェアトをドンと押した。
一歩前につんのめった馬鹿に、号砲として発射された否殺傷型バズーカが見事に命中する。
号砲を撃ったのは、雑用役の悠季であった。
「‥‥シスター・ハンナ、本当に用意してくれたんだ」
他人事のように呟く。
何でも揃うと評判の暴力購買に、『号砲とかにバズーカ使えたら面白そう』、と疲れた頭で提案したのは事実である。
『では、賛美歌13番が流れたら受け取りにいらっしゃい。報酬はいつもの通りに』
と、ハンナが受け答えたのもまた事実であった。
だからといって、と悠季はしげしげと着弾点を見つめる。
黒焦げアフロになったシェアトが、肩を震わせてラルスをがくがくと揺すっていた。
「まさか、ねぇ。‥‥いいか、シェアト先輩だし、ちょっとスッキリしたし」
彼女は今日の準備のため、連日の徹夜を‥‥強いられていたんだ!
というわけで、溜まっていたストレスが僅かなりとも発散された悠季は、唐突に猛烈な睡魔に襲われた。
「いあ! しゅぶにぐらす!」
折よく、愛しの混沌が校庭の細部を整えている。
悠季はその襟首をしっかと掴むと、そのまま2人で保健室へと消えていった。
「はっ! 今僕のリア充センサーに反応が! これでもかという反応がっ!」
白虎が唐突に叫ぶ。
しっと団の総帥として、男女のキャッキャウフフを許すわけにはいかない。
「出てきましたね、白虎さん! 今回も容赦しませんよ?」
同時に、秩序を維持するために世界がカウンターを発動させた。
クラーク‥‥いや、今の彼はアーマード・クラーク(A・C)である。攻強皇國機甲である。
「ぬう、しつこいリア充め! 僕に萌えずに、他の女の子とリア充するような奴らは粛清されるべきだというのにっ!」
「エゴですよそれは!」
ごもっとも。
さて、そうした世界の秩序を守るための戦いはともかくとして、障害物競争に話を戻す。
開始から間もなく、トップに立っていたのは美具であった。
『おーっとこれは意外! 美具選手が現時点で単独トップ! その差は3リリアから4リリア!』
羽矢子の実況に、観客席からどよめきにも似た歓声が響く。
なお、1リリア=98センチである。豆な。今考えたんだ。閑話休題。
美具がトップに立てた理由は、主にその経済力だ。
「わは〜! 愚民ども、ほ〜れ金じゃ金じゃ! 欲しくば道を空けよ! 美具の足となれ!」
札束をばらまきながら、まるで騎馬戦のような体勢で美具はひた走る。もとい、馬役の生徒をひた走らせる。
生徒会長たるもの、部下をこき使ってなんぼ。美具の生き様は、それを如実に示していた。
へばった生徒は容赦なく馬役から放り出され、捨て置かれていく。
そして、倒れこんだ生徒は素早くミリハナクとウェストが回収する。
「うふふ、大丈夫ですわ。私にかかればこんな疲労の回復などビフォアモーニン‥‥ん、間違ったかしら?」
「おっと、これはいけないね〜。‥‥ラウラベッカン‥‥」
怪しげな治療と怪しげな呪文が、救護テントを包み込んでいる。
「ねぇ、お兄ちゃん、アレ何?」
「トリス、見ちゃいけません」
チャールズは、そっと妹の目を押さえた。
いたいけな少女に、あの光景は目の毒である。なんとなれば、ミリハナクの魔手が可愛い妹に伸びる恐れさえ感じさせた。
「チャーリー、君の妹さんは確かに可愛い‥‥。だけど、僕の母さんはもっと良い!」
「トリス、ちょっとジュース買って来なさい」
何の前触れもなく、透のマザコンスイッチが入った。
こうなると長い。そっとしておこう。
そうしている間に、レースに動きがあったようです。現場にお返しします。
『現場のヘイルです! コース上は阿鼻叫喚の渦です! 牙を剥き始めた地獄の獄卒が、容赦なく選手を苦しめて――あ! 今先頭の美具選手の騎馬が崩れました!』
某サ○ケの全コースを足して5を掛けたような障害物が、その本領を発揮しだしているようだ。
流石に、これは騎馬では突破できない。
崩れた組体操の中に埋もれた美具を尻目に、後続の生徒が次々と追い抜いていく。
こうなると単独トップは存在しない。
団子状の一位集団を率いているのは、なんとユーリである。
『おーっと、ユーリ・ちまトライゼン選手、ちまボディを活かして障害物を次々と潜り抜けていく! ‥‥くっ、歩幅(ガッツ)が足りないっ!』
「余計なお世話だよ!?」
ついつい突っ込む甲斐性が致命傷となった。
「きゃんっ!?」
なまじ適当な大きさであるがゆえに、後続の選手にサッカーボールのように蹴られてしまうユーリ。
ゴムマリのように弾んだちまい少年は、目前の障害物にぶつかって跳ね返り、不規則にバウンドしつつコース外へ。
『‥‥死亡確認』
重々しい羽矢子のアナウンス。
「死んでないよ!?」
幻聴が聞こえる。
「‥‥ちまの美少年は、女の子枠に入れるべきかしら?」
「!?」
ミリハナクが転がったユーリに近寄っていく。
妖艶に唇を舐める様子は、まさに肉食系。
バラの花が散るのも時間の問題である。
なお、後ほどシルヴァリオに助けられた模様。間に合ったかどうかまでは保証しない。
「‥‥いつの間にか先頭に立ってしまいました」
「他の奴ら、案外だらしないねぇ」
涼しげな顔で障害をクリアしつつ、伊織がぼやく。
その隣で、リノが笑っていた。それぞれ、UPC寮とバグア荘のエース級である。というかチートである。
後方は、アルゲが羽矢子の手で濃硫酸の池に落とされそうになったりしている他は、概ね一般的な地獄絵図であった。
外野も案外と激しい事になっている。主に、白虎とクラーク、もといA・Cの争いのせいだが。
「ええい、リノお姉ちゃんに合流しつつ、全学園の生徒を僕に萌えさせるチャンスだというのに!」
「そんなチャンスにはペナルティーだ!」
お互いの拳が、クロスカウンターの要領で同時に顎にヒットする。
装甲服に身を包んだA・Cには効果が薄いかとも見えたが、そこはギャグ時空である。その方が面白そうなのでダブルノックダウンだ。
倒れ伏した2人を、嬉々としてウェストが引きずっていく。
実験材料が増えるよ! やったね西ちゃん!
さて、一方でレースにて意外なタッグが構築されつつあった。
「ええと、ドロシー‥‥さん?」
「呼び捨てででいいですよ、一千風先輩。一緒に兄さんをとっちめましょう!」
「‥‥貴女も大変なのね」
グッと手を握り締めるドロシーに、一千風は思わずその頭を撫でてしまう。
何故か、無性に同情できてしまったのだ。きっと彼女も、あらぬ名前で呼ばれているに違いない。
唐突なナデナデに、ドロシーは赤面する。
「うおおおおドロシーたーん!」
レアショットのチャンスに、コース外でカメコに徹していた紫狼が一気にシャッターを切った。
彼のカメラには、他にもどさくさに紛れて撮影した盗撮もとい芸術品が詰まっている。
恐ろしいことに、その対象はハンナやリリアといったラ学でアンタッチャブルとされる女性であった。
当然、紫狼は彼自身も知らぬ間にマークされており、レアショットに浮かれた一瞬の隙を突かれてラ学で最も恐ろしい人々の接近を許してしまった。
「――貴方には黙秘権も弁護士を呼ぶ権利もありません」
「はっ!?」
滔々と死刑宣告が読み上げられた。
壊れたブリキ人形のように紫狼が振り返った先には、笑顔を浮かべる3人の女性。
笑顔とは本来攻撃的なものである。合掌。
いよいよ収集がつかなくなってきた。
「ぬ〜‥‥!」
「‥‥何やってんだ、依神?」
観客席のド真ん中で何事かを必死に祈る隼瀬に、咲が怪訝そうに尋ねる。
「邪魔しないで酒先生。今、バグア荘の皆に勝利のために祝福の祝詞を‥‥」
「酒先生ってお前‥‥」
ビールの空き缶を潰しながら、咲が呆れたように息を吐いた。酒臭い。
「‥‥うあー! 間違っちゃったじゃないですかー! もう!」
どうも集中が削がれたらしい。
憂さを晴らすように、隼瀬は素早く藁人形を取り出すと、勢いよく釘を打ち込んだ。
カーンと音が鳴り響き、コースのド真ん中でシェアトが白目を剥く。
「そりゃー悪かった。まぁ、程々にしとけよ〜」
酔った咲の頭でも、関わらないほうが良い、と判断できる程度には危ない光景だった。
最近の生徒はわかんねぇな〜、と愚痴を零しながら男は去っていく。
「うう、こうなったらUPC寮に呪詛を‥‥!」
教師の苦悩などどこ吹く風と、隼瀬は次なる一手に踏み切った!
その頃、白目を剥いたシェアトを疾音がつついていた。
「おーい‥‥相棒? 起きねーと俺の面白お前観察計画が台無しだぜ?」
返事がない。ただの屍のようだ。
無言で疾音は何かを取り出すと、シェアトの頭に取り付ける。
「こんな事もあろうかと、ネコミミだけは用意しておいたんだ」
凄ェ!
完成したるはネコミミシェアト。
「よーしよしよし!」
そして一瞬で現れたラルス。ここぞとばかりにシェアトをモフっている。
(計画通り‥‥っ!)
邪悪な笑みを浮かべる疾音。
「何をやってるんだ、綾河‥‥」
偶然その場を目にしたリヴァルが、同寮の生徒の奇行にため息をついた。
「私もお兄様をモフ‥‥いえ、お兄様にモフっていただきますわっ」
青年の腕にひっついていたセラが、その身を更に押し付ける。
身体能力は低くないリヴァルが後から来たのは、要するに彼女を振り払うに払えなかったからであった。
男が遠い目をしているのは、きっと疲れているからである。
『3人はどういう集まりなんだっけ?』
不意に羽矢子のアナウンスが響く。
「アメフトォ」
すぐ後ろで、野太い声がした。
バッと振り返ったリヴァルと疾音の目に映ったのは、ラ学大学アメフト部の面々。
なお、部長はザ・デヴィルの異名をもつ何とかさんである。副部長はドットと詩虎。
『コースのド真ん中でうだうだやってる野郎どもは、うちのアメフト部にもみくちゃにしてもらっちゃうからね!』
「セーッツ! ハット!」
ガチムチどもが隊形を組む。
「その言葉、宣戦布告と判断する」
リヴァルが向き直った。
「当方に迎撃の用意あり!」
「‥‥え、俺も!?」
いつの間にか疾音もリヴァルに立たされている。
にらみ合いの時間は一瞬で過ぎ去り、怒涛の如きラッシュが始まった。
「覚悟完了!」
「いやいやいや俺はできてねーからアッー! ‥‥アッー!!!」
歪みねえ洪水がリヴァルと疾音、そして気絶したままのシェアトとそれを無心でモフるラルスを飲み込んだ
「‥‥ヒャアがまんできねーですわ! こうなったら、私も脱ぎます!」
一旦離れて様子を見ていたセラだったが、ハートガッチプリヴァルと化した義兄の姿にリミッターが外れたようだ。
前も後ろも貞操の危機である。仕方ないね。
なお、小一時間後に5人は熱中症でミリハナク先生の魔の手に、もとい治療を受けたそうである。
治療の後、疾音はシオニルヴァと名乗るようになってしまったのは別のお話。
残り2000字を切っている。こうなったらダイジェストだ。
「ああ! 鯨井くんのリーゼントが‥‥ブロックの間に‥‥!」
「ボクはここまでだ‥‥あばよみんな‥‥! ってボクリーゼントじゃねーだろ! あ、でもシェアトには勝ってるからいいか! わははギャー!」
「鯨井ー!」
「合わせろシルヴァリオ!」
「はン、遅れんなよ煉条!」
「泣きを見るか、土下座するか‥‥好きな方を選びなさいな」
「くくく! 久々に楽しいなイオリ!」
「男の子はウェスト先生へ、女の子は私の方へ運びなさい。‥‥下心なんて、なくってよ?」
「ええい、手が足りないね〜‥‥。むぅ、いっそのことフランクスを‥‥」
「訂正なさい! 私はで、デザートじゃないわよっ!」
「うわーん、兄さんのアホー!」
「だから僕の母さんは――!」
「うっせェこのマザコン! だァ、チャールズてめェ、逃げてんじゃねェヨ!」
「あっはっは! いい酒の肴だぜ、若人ども!」
「‥‥赤村先生、酒はそろそろ終いにしたまえ」
「まぐぬむ! いのみなんどぅむ!」
「‥‥んー、あと5分‥‥」
「馬鹿者め。後で説教だな」
「まぁまぁヴェレッタ先生」
「あらあら」
「愛子ちゃーん、一緒にお弁当食べよう!(提案)」
「引っ張らなくても逃げないわよ‥‥(諦め)」
「僕の思い(呪詛)、UPC寮に届け!」
『おっとぉ、現時点のトップはリノ! このまま決まるかー!?』
「――生徒会長? ああ、知ってる。話せば長い」
閑散とした校庭で、ヘイルが黄昏ている。
あれだけカオスだった様相は、閉会してから程なく元に戻っている。
用務員の黒子さんとは一体‥‥うごごご!
と、組体操の崩落に巻き込まれた美具がようやく保健室から解放された。
その頬は妙に上気している。ミリハナク先生の守備範囲パネェ。
「ぐぬぬ‥‥疲れた‥‥。き、今日はとりあえず帰って、シェフのフルコースを」
「み、美具‥‥」
「‥‥父上?」
現れたのは、放心状態の紳士。美具の父親らしい。
「父さんは倒産だ!」
「‥‥‥‥父上?」
それだけを叫ぶと、紳士は壊れたラジオのように笑い出すと走り去った。
取り残された娘一人、言葉の意味を噛み締め噛み締め、ちょっとずつ実感が湧いてくる。
「ふははは! 無様だな美具!」
シェアトがCV銀河○丈の声で話しかけてきた。多芸だなあんた。
「ぬぅ、シェアト!」
「金がなければ何もできないのか? 愚民に相応しい器よ゛っ!?」
「よーしそろそろ黙れよ」
その頭をシルヴァリオが殴りつけた。
見れば、バグア荘やUPC寮の面々が揃って下校に入ったようだ。
「ほれ、お前も帰るぞ」
「‥‥しかし、美具は‥‥」
「ええい面倒だ、さらえ」
「ガッテンだ!」
「な、何をする!?」
アルゲの号令で、起太が美具を担ぎ上げるや走り出す。
キャンキャンと賑やかな声が遠ざかっていく。
「‥‥強引なのね、貴方」
「嫌いかね、イチカ」
「う、て、訂正しろとは言ったけど‥‥最初から下の名前‥‥」
「‥‥ドロシーとしては、あの光景はどうなんだ?」
「どうって‥‥別に、あれで兄さんが真人間になるなら、それで」
「まぁ、アレがあの程度で変わるとも思いませんが‥‥」
何故かストロベリった雰囲気のアルゲと一千風に、トヲイとドロシー、伊織がこそこそと話し込んでいる。
「ぐぬぬ、リア充のオーラを感じるけど‥‥リノお姉ちゃんの生徒会長就任の祝の席だ。見逃してやろう」
「偉そうですねぇ、白虎さん」
白虎とクラークが再び火花を散らしかけるも、ラルスがおっとりとなだめた。
「まぁまぁ〜。今日は、とりあえず休戦ですよー」
「流石に同感だぜ‥‥」
疾音が疲れたように笑う。今日は色々とありすぎた。
「にしても、リノが生徒会長ねぇ‥‥漁夫の利ってーか」
「君子危うきに近寄らず、よ」
呟く疾音の肩を、そのリノが叩いた。
思わず咳き込む男を、少女はけらけらと笑う。
「さ〜て、ガキどもは帰ったし、今日は残業ですねぇ」
「ま、子供の後始末も、大人の仕事さ」
学生らの下校を見送り、咲とUNKNOWNは職員室へと戻った。
残務処理が山と積まれているに違いない。
そして、昇降口の鍵が黒子によって閉められた。
「にゃる・しゅたん‥‥ん、この物語はフィクションであり、実際の企業、人物、団体とは一切関係ありません。あったら困る」
キャアアアアシャベッタアアアアア!