タイトル:新しい翼と力のためにマスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/11 17:52

●オープニング本文


 ある日、フィリップ=アベル(gz0093)が研究室の扉を開けると、途端に喧騒が聞こえてきた。
 何ごとか、と室内の様子を伺う彼の目に飛び込んだのは、丸めた新聞紙を片手に奮闘する研究員の姿だ。
 ゆっくりと扉を閉めながらよくよく観察すれば、どうにも入り込んだハエを追っているらしい。
 と、ぱしん、と音がして快哉の声が上がった。
「て、手強い相手だった‥‥」
 そう言って、疲れたように椅子に座り込んだのはアラン=ハイゼンベルグ。ここの研究員の1人で、フィリップの直弟子でもある。
 KVやフレームの設計に秀でており、水中用KVアルバトロス開発を主導した若き俊英だ。
「お疲れ様だ」
「あ、博士!? 見てらしたんですか!?」
 フィリップが苦笑しながら声をかけると、アランは驚いたように立ち上がると、照れくさそうに頭をかいた。
「いやぁ、ハエ1匹で酷い騒ぎですよ。あの機動性は、まるでヘルメットワームですね」
 冗談めかしたような形容だったが、それを聞いたフィリップはふむと考え込む。
 確かに、ハエはすばしっこい。
 だがその素早さは、HWのような慣性制御というオーバーテクノロジーの産物ではない。
「‥‥最近、そんな論文が出ていたな」
「博士?」
「すまん、少し借りるぞ」
 アランの問いには直接答えず、フィリップはその机にあるコンピュータを起動する。
 程なくして、ある研究とその内容が画面に表示された。
 それは、ハエの飛行メカニズムについてある種の発見が行われた、というものだ。
 最初は困惑したようにその画面を見つめていたアランの顔も、その辺りから真剣味を帯び始める。
「――つまり、推進機関を独立させることで、空気中を『漕ぐ』。しかも、これは単なる推力偏向ではなくて‥‥」
「そうだ。この理論を応用できれば、最終的には『空中で超信地旋回』が可能となる。現状のブーストのような力任せではなく、より洗練した形でな」
「しかし、可能ですか? 昆虫のサイズなら、羽根と胴体がトーションばねのような接続でも強度は保ちますが‥‥」
 アランのその心配はもっともだ。
 機体から推進機関を独立させるというのは、簡単に言えばトンボの羽根のような、あるいは可変翼にエンジンをつけるようなものであって、強度的に脆いというのは誰でも分かる。
 だが、フィリップは僅かに考える素振りを見せると、頷く。
「そこは、問題ないはずだ。虫でいうバネの部分は、人工筋肉で構成し‥‥バトルフレームのデータがあったろう? そう、これだ。推進部の駆動は、このバネを微弱な電流で刺激することで――問題ないな。機体の過剰電力で制御自体はOKだ。で、強度は、アクセル・コーティングを使う」
「あ」
 その発想があったか、と思わずアランは声をあげる。
 つまり、常に駆動する状態でなければならない、というわけではないのだ。普段は固定しておけば、強度的な問題はない。むしろ、KVの変形機構の方が余程脆弱だ。
 そして、いざ稼動させる段になれば、その間だけ接合部をアクセル・コーティングで保護し、強度を補ってやればよい。
「問題は、この機構で推力偏向を行うときは多少練力を食うことだが‥‥まぁ、アクセル・コーティングの燃費は良い方だ。それくらいは我慢してもらおう」
「‥‥改良の余地はあった方が、僕らの食い扶持が減りませんよ」
 どこか呆れるようなアランの言葉に、フィリップは、違いない、と笑う。

 エンジン自体に、高度な加工技術でもって推力偏向ノズルを取り付けるのは、現在のメルス・メスでは少々荷が重い。不可能ではないが、採算が取れないのだ。
 故に推力偏向系技術を導入しようとすれば、ドロームに頭を下げるしかないと思われていた。
 だが、『ノズルを動かせないなら、翼ごと動かせば良いじゃない』、というある種強引なこの発想は、コーティング技術に一日の長のあるメルス・メスならでは、というべきかも知れない。

 偶然によって生み出された成果に研究室が沸くのと、そこの扉が開くのは殆ど同時だった。
「アベル博士! リベンジを持ってきましたっ!」
 入るなりそう声を張り上げたのは、キャサリン=ペレー。アランと同じく、フィリップの弟子である。
 その専門はどちらかといえば兵装関連で、アラン程の実績はまだないが、サイファー関連の推奨装備のいくつかに関与している。
 ともあれ、会心の笑顔で何かの図面を持ってきたのを見る限り、余程の自信作ができたようだ。
 近くのテーブルの上に勢い込んでそれを広げると、キャサリンは自慢げに胸を張る。
「M−MG60! サイファーには間に合いませんでしたが、その分煮詰めました!」
「‥‥20mm機関銃か。単銃身で‥‥秒間60発!? ガトリングじゃないんだぞ!?」
 図面と仕様を読んだアランが、素っ頓狂な声を上げる。
 単純に、10秒で600発。1分で3600発を撃ちつくす計算だ。これでは銃身が加熱しすぎ、銃の寿命が短くなってしまう。
 ちなみに、機関銃の一般的な連射速度は、1分間に500〜1000発程度であるらしい。
「甘いわね、アラン。よく見なさいよ。銃身は独立してるの。だから、弾丸と一緒に銃身を交換すれば問題なし!」
 恐れ入ったか、とキャサリンはアランに人差し指を突きつける。
 呆れ半分といった様子で、彼はそのまま閉口した。
「‥‥構造自体はシンプルだな。銃身も、交換後に多少手入れすればまた使える、か」
 丹念に図面を眺めながら、フィリップが呟く。
 その評価にキャサリンが歓声を上げかけた直前に、ただし、という声が水を差す。
「この交換は、戦場では無理だな? 換えの銃身を常に持ち歩くわけにも行くまい。奉天の、例の補給機があれば別だろうが‥‥」
「は、はい‥‥」
 目に見えて落ち込む彼女に、アランは隣で肩を竦める。
 その様子には気づかないようで、フィリップは何事かを考えるように天井を仰いだ。
「基本性能は問題ない、か。ま、長期戦に向かないのはあの能力も使うなら当然‥‥」
 自問するように独白を続ける師に、弟子の2人は顔を見合わせる。
 しばらくして、フィリップは何かを決めたように1人頷いた。
「能力者を呼ぼう。さっきの推進機構‥‥アクティブ・スラスターとでもするか。それと、このM−MG60、2つに関して意見を聞く」
「ということは‥‥!」
 アランの目が輝いた。キャサリンもまた、手を叩く。
「機体そのものに関しては、今度だがな」
 珍しく、冗談めかせてフィリップが笑った。

●参加者一覧

九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
桐生 水面(gb0679
16歳・♀・AA
米田一機(gb2352
22歳・♂・FT
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
ファタ・モルガナ(gc0598
21歳・♀・JG
ジャヤ・ジャガーランド(gc3063
19歳・♀・CA

●リプレイ本文

●翼に求めるもの
 メルス・メス社、フィリップ研究室。
 そこに8人の能力者が集ったのは、5月の初旬だ。
 ファタ・モルガナ(gc0598)やジャヤ・ジャガーランド(gc3063)が物珍しそうに研究室を見渡していた。
 ここの主任であるフィリップ=アベル(gz0093)は、まだ姿を現していないようだ。
 九十九 嵐導(ga0051)とリチャード・ガーランド(ga1631)、そして桐生 水面(gb0679)は久々の再会に話を弾ませている。話題は、どうやらここに勤める二人の若手研究者のようだ。
「相変わらず楽しい人たちなんだろうなあ」
 期待するように瞳を輝かせてリチャードが言う。
 応じたのは、テト・シュタイナー(gb5138)だ。
「楽しいのは結構だけど、まだこねぇの?」
 待ちくたびれたぜ、とため息をつく少女に、イーリス・立花(gb6709)は少しだけ笑った。
「私たちが早かったんですよ。飛行艇、1本遅くても良かったですね」
「開始予定時刻まで、あと10分ってところですね。まぁ、早し良しって言いますし」
 米田一機(gb2352)もまた、イーリスに同調するように軽く笑う。
 と、そこへフィリップがアラン=ハイゼンベルグとキャサリン=ペレーを伴ってようやく現れた。
「相変わらず、早いな」
 男はそう言って笑うと、何か飲み物と菓子を、と2人の助手に頼む。
「あ、お手伝いします。私、コーヒーを淹れるのは得意なんです」
 手をあげたイーリスは、そのまま甲斐甲斐しく準備を始めた。
 良い香りが辺りに漂い、人数分のカップとクッキーが全員の前に揃ったのは、丁度開始時刻の頃だった。

 挨拶や自己紹介もそこそこに、まずテトが口火を切る。
「まず確認したいんだが、アクティブ・スラスター、これは双発式かい?」
「ああ。左右の主翼に、それぞれエンジンを積む形になるだろう」
「‥‥ってことは、捻る動きができるわけだ」
 続いた問いにも、そうだ、とフィリップは頷く。
 非常に大雑把にまとめれば、この特殊能力は非常に素早く機体を捻る(=ロールをする)ことで急旋回を可能としている、らしい。
「オーケイ。で、地上でもそれが上下に動くって?」
「正確には前後、だろうな」
 左右の主翼とエンジンは、独立して稼働する。
 それが地上ではどういう動きをするかというと、要するにキャタピラのようなもので、旋回はむしろお手の物となる、らしい。
 その説明で、テトは自身の疑念がやや解けたようだった。
 また、リチャードもちょっとした勘違いに気づく。地上でも、アクティブ・スラスターは使用できるのだ。
「構造は分かりましたが‥‥」
 そこへ、一機がおずおずと口を挟む。
「やはり、もうひと声欲しいですね。ブーストで同じことができますから」
「小回りの利くブースト、としては悪くないと思いますが、インパクトには欠けるのではないでしょうか」
 青年の意見に同調するようにイーリスも続いた。
 むぅ、と唸ったのはテトだ。
「燃費はいいが、廉価版ブーストってイメージはやっぱあるなぁ。何か付加機能は欲しいぜ」
「そうだな、若干大人しすぎる気はする。‥‥命中辺りが上昇すればよさそうだが」
 腕を組んでいた嵐導もまた、具体例をあげて追随した。
 そんな意見を聞きながら、水面はコーヒーに口をつける。
「んー、うちは今のままでも面白いと思うけど‥‥せやね、無理は言ってなんぼやし」
 その言葉にフィリップが苦笑するのを知ってか知らずか、彼女は続ける。
「あえて何か、なら嵐導さんの命中もええし、回避ももう少し欲しいとこやね。あとは‥‥垂直離着陸、かなぁ」
「VTOL! いいわねぇ」
 敏感にその単語に反応したファタが、ぽんと手を打った。
「そうですね。多少消費が激しくなっても、そう言うのは欲しいです」
「ええ。便利になりますね」
 イーリスや一機も、その点には乗り気のようだ。
 ファタは賛同者が多かったことに気を良くしたのか、身を乗り出して自説を披露する。
「あと、新技術とも言える慣性制御装置。こっちの恩恵も応用すれば、より高度な『空中静止』も可能なんじゃないかな?」
 どうよ、とフードの奥で瞳を輝かせる彼女に、フィリップはすまなそうに首を振った。
「VTOLはいいとして、慣性制御装置は無理だ。一般の機体に積めるほど数はないし、機構も一部が解明されたに過ぎない。複製ができるとしても、ずっと先だろう」
「恩恵って言ってもさ、ブーストの機能が多少上がりました、ってだけなんだよね。今のところさ」
 リチャードが皮肉っぽく笑って見せる。
 慣性制御装置は未来研やUPCに優先して回されているが、メガコーポレベルでも気軽に扱えるようになるのは、まだまだ時間がかかるはずだ。
「そうだ、ちょっと聞きたいんだけど、グリフォンのステップ・エア、あれみたいに平行移動ってできないかな?」
 少年が続けて問うと、フィリップは、不可能とは言わないが、と言葉を濁した。
「元々、旋回を主眼とした能力だからな。そこまで視野に入れると、高くなるぞ」
「残念。赤くて3倍のエースに人気出るかと思ったのに」
 冗談めかしたリチャードの応え方に、ファタが何故か吹き出す。坊やだからだろうか。
 と、そこでジャヤが恐る恐るといった様子で手をあげた。
 どうぞ、と促すフィリップに、少女は意を決したように口を開く。
「その、ちょっと思ったんだども‥‥うるさくねぇのかなって。ハエっこも、ぶんぶんうるせぇと狙われちまうもんだで」
「排気音か。従来の機体と比べて、特にうるさいというのはない、はずだ」
 男の返答に、ジャヤはホッとしたように笑みを零す。
「あの、それで、よければ静かーな機体とかにできねぇもんだか? すばしっこくて静かなら、役に立つと思うんだども」
 少女の提案は、静粛性に優れた機体にできないか、ということのようだ。
 隠密に適した素早い機体。特殊部隊に好まれそうな仕様である。
「‥‥ジェットで空を飛ぶ以上、エンジンの爆音はついて回る問題でな。ヘリの要領で飛ぶ、あるいはそもそも飛ばないといった条件があればまた変わってくるのだが」
「あう、ごめんなさい‥‥」
 しゅんとする少女に、フィリップは気にするなと手を振る。
 静かにできるならば、それに越したことはないのも事実なのだ。
「あ、ついでに聞いてみたいんだが」
 おもむろにテトが問う。
「これは双発だろ? 思い切って4つ積んでXの字に配置すれば、もっと立体的に機動できるんじゃねぇかなって」
「魅力的な提案だが‥‥」
 そう言って、フィリップは苦笑した。
 それは不可能ではないが、コストが跳ね上がるのだという。
「相変わらず、コストがネックやねんなぁ」
 水面は1人、しみじみと頷いていた。

●力の形
 最近では珍しい上質なコーヒー豆の香りを堪能しながら、嵐導はM−MG60へと話題を振る。
「俺としては今でも十分面白いと思うが‥‥そうだな、重量が気になるな」
 その質問に、待ってましたとばかりにキャサリンが進み出た。
「現在、市販品のヘビーガトリングの凡そ半分の重量になる予定です」
「つまり、真スラスター並みか? いや、固定武装だとスロットもそうだが、重量でも装備を圧迫するだろう。それを嫌うやつもいるはずだからな」
「せやねぇ。それに見合った性能ならええねんけど」
 むむ、と水面が腕を組む。
 同様に難しい顔をして、一機が口を開いた。
「リロード不可、が辛いんです。銃自体は魅力的なんですが‥‥」
 固定武装、そしてリロード不可というデメリットを補うだけの性能があるのか。それとも。
 その辺りの逡巡が、この武装への判断を難しくしているようだ。
「具体的には、火力と射程は欲しいんよ。というか、性能はどんな感じになるん?」
 要望を述べようとした水面は、その前に現状の把握をきちんとしたい、と申し出た。
 キャサリンは、あくまで予定ですが、と前置きすると説明を始める。
「まず、射程は20mmバルカンの2倍。火力と命中は、どちらもヘビーガトリングを上回ります。連射速度を保証する高初速ゆえ、です」
 その内容はキャサリンにとっては自信があったのだろうが、どうにも能力者の反応は薄い。
 その程度かといった納得、あるいは物足りなさがそこにはあった。
「ミカガミの内蔵雪村、あれの銃火器版みたいに考えりゃ、そこそこだと思うぜ? まぁ、多少重そうだけどな」
 フォローのつもりかどうか、テトがそんなことを言う脇で、イーリスがあごに指をあてながら言葉を発する。
「この手の武器には愛着があるんですが、やはり重要なのは火力だと思います。例えば攻撃力をブーストするような能力があれば、リロードできなくても‥‥」
「むむむ‥‥」
 自分の考えが甘かったことを知ったキャサリンは、慌てて何事かをメモし始める。
 そんな様子を楽しげに観察しながら、リチャードが声をあげた。
「1つ聞きたいんだけど、この銃身を水冷式にしてさ、リロードを可能にできないかな? 重くなるとは思うけど、こんな銃積む予定ならそれなりに積める機体なんでしょ?」
「‥‥不可能ではありませんが、機構が複雑になりすぎます。コストが嵩みますし、装弾数もかなり低下する恐れが」
 懸命にメモを取りながら、キャサリンは淡々と答える。
 積める機体、という言葉に反応したのは水面だ。
「せや、機体の性能次第ってのもあんねん。例えば射程が短くても、それを補う足があったり、接近戦でガンガン戦える装甲や機動性があればええ訳や」
「そこは、僕も少しお聞きしたかった。本質的な話になって申し訳ないが、この機体はどの層を狙ってるんです?」
 話題が機体そのものにずれたのに乗じ、一機は自身の疑問を投げかけた。
「どうにも、短期決戦用に見えて仕方ないんです。でも、それは『売れる』機体ですかね?」
「‥‥長期戦に向かない、というのは否定しない」
 フィリップは、言葉を選ぶようにゆっくりと続ける。
「だが、必ずしも短期決戦用、というわけでもないのさ。何も、この武器だけしか装備できないわけじゃあない」
 そこで区切ると、男はコーヒーに口をつける。
「――俺たちと現場には、どうしても齟齬が出る。言い訳がましいが、君の意見はもっともだと思う。それでも‥‥」
 何かを続けようとして、フィリップは、いや、と首を振った。
「すまんな。今回は、機体に関することは後回しだ」
「じゃ、MG60に話を戻すけど」
 少々場の温度が下がったことを感じ、ファタが殊更明るい調子で言う。
「何を重視するかでも、性能って変わってくると思うのよね。威力、命中、射程‥‥とまぁ色々あるんだけど、ペレー女史はどう考えてるの?」
「そうですね、その中では‥‥射程が近いでしょうか。つまり、これひとつでオールラウンドに対応できる、そんな銃にしたかったのです」
 メモを取る手を休め、自ら確認するようにキャサリンはペンを口元にあてた。
 どんな状況でも一定以上の戦果を上げられる兵器。それは、戦場では頼りになる存在だろう。
 その条件として、優れた射程が必要だろうという彼女の考えは、的外れとも言えない。
 ファタはうんうんと頷きながら、したり顔で続ける。
「それでいいんじゃない? 射程は20。あとはできるだけ、火力と命中を」
「やっぱそうなんねんなぁ」
 けらけらと水面が笑った。
「そりゃそーだ。性能は良いに越したこたぁねえのさ」
 テトもまた、愉快そうに笑う。
 そんな高性能志向を受けてか、ジャヤは何かを思いついたようだった。
「そっただ強ぇ鉄砲は無くしちまわねえようにしねとな。‥‥そだ! 機体にくっつけちまうってのはどうだべ? そうすりゃ、他の武器とも一緒に使えるんでねぇか?」
 つまり、戦車の主砲のように機体にMG60を固定することで、別の火器との同時発射ができないか、ということらしい。
 フィリップは少し考えると、困ったように額に手をあてる。
「同時攻撃はFCSが‥‥つまり、制御が難しいのさ。無理とは言わないが、命中精度が極端に悪化するだろう。実用的とは、言えないな」
 以前、それを可能とするシステムの構築を試みたが、テスト段階で致命的な不具合が出てあえなく失敗した過去があった。
 フィリップは、それを思い出していたのだ。
「ただ、機体に固定するというのは面白いかもしれん。こいつには無理だが、別の機体に応用できそうだ」
 再びの駄目出しにしょんぼりするジャヤを、そう言ってフィリップは元気づけるのだった。

●そして再び、不穏な気配
 議論が一応の落ち着きを見せた頃、ファタが怪しい笑みを浮かべてフィリップに近づいた。
「私見で私情だけど、私は多脚型を待ち望んでるんだ。あれの機能美をもっと知ってほしい、ってね」
「多脚‥‥リッジウェイの戦車形態のようなものか」
 ふむ、と男は考え込む。
 確かに、安定性や走破性、機動性は向上が見込めるだろう。しかし、どうしても増加する関節部分が、整備の手間とコストも増大させることもまた明白だ。加えて、構造上燃費の悪さも付きまとうはずだ。
「需要はあると思うんだけど、どうだろう」
「ハードルは高いな」
 芳しくない反応を返すフィリップだったが、それでも何かを考えるように視線を宙に彷徨わせている。
「――まぁ、こいつの形状を多脚に変えるのは、今からでは無理だ。そこは諦めてくれ」
「俺も、ついでにひとつ聞きたいんだが」
 あからさまに肩を落とすファタと入れ違いに、嵐導が声を上げた。
 視線で促すフィリップに、彼は意見を述べる。
「こいつの能力だが、距離による命中修正を緩和する能力、というのは可能か? あればありがたいんだが‥‥」
 自身のクラスもあってか、嵐導の提案は狙撃補助といったものだ。
 MG60の射程も考えれば、有益な能力とも言えよう。
「武装を限定すれば‥‥といったところか。いや、現状では詳しいことは言えないな。検討しておこう」
 煮え切らない回答だったが、嵐導はそれでも納得はしたようだ。まだ芽がある、ということを察したのだろう。
 ともあれ、そうこうしているうちに予定の時間は終わりを迎えた。
 アランが今回の議事録を読みつつ、内容を簡単にまとめ始める。
「アクティブ・スラスターは、命中上昇かVTOL付加、この方向で開発を進めます。MG60は――」
「基礎性能をもう少し煮詰めておきます。できれば、+αを加えられるように」
 キャサリンが横から割り込んだ。
 どうやら、方向性は定まったようだ。2人はそこで一礼すると、そのまま自らのデスクへと速足で去っていく。
「‥‥ま、次までにはもう少し完成したものを見せられるはずだ。機体も含めて、な」
 そう言うと、フィリップもまた腰を上げる。
 釣られるように能力者たちも立ち上がり、解散となった。



 その日の夜、リカルド・マトゥラーナ(gz0245)が突然研究室を訪れる。
 そして告げられた内容に、アランは驚きとも呻きともつかない声を上げたのだった。