タイトル:【LR】Noisy Skyマスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/29 23:24

●オープニング本文


 マッカラン国際空港。
 好々爺然としたUPC軍人が、参謀と思しき男と静かに会話している。
「KV隊は」
「我々UPCのKV隊は15機。バックアップのプレアデス隊は、無理を通して10機出させます」
「25、か。通常戦力は」
「機械化歩兵を2個連隊。ダム制圧用の特殊部隊を3個中隊。敵HW撃退の後、ラスベガス防空旅団から1支隊がダム上空の警戒に当たると確約を得ました」
「我らの能力者部隊はどうかな」
「何とか、1個小隊を確保しております」
「ふむ。これらで足りると思うかね?」
「‥‥ギリギリ、でしょうか」
 男の素直な回答に、老人は穏やかに笑った。
「実に厄介な敵だね。殻にこもったマイマイのようだ」
「‥‥」
「仕方ない。初手からジョーカーを切るとしよう。坊やに、ラストホープへ連絡を取らせなさい」
「は」
 司令官に模範的な敬礼を返し、参謀はきびきびと動き出した。
 坊や――ラウディ=ジョージ(gz0099)の下へと向かうために。

 ノースラスベガス空港。
 ラウディの依頼で、多くの能力者がここに集っていた。
 と、その詰め所がざわめく。
 通達された内容に、能力者たちがどよめいたのだ。
「君らが最も適任だ、と上は判断したのさ」
 簡単な話だろう? とラウディは顔色一つ変えずに言う。
 それを補足するように、傍らのクラウディア=ホーンヘイムが続けた。
「こういった拠点の強力な敵を強襲する、という任務では、正規軍KV隊は、能力、経験ともにラストホープの能力者に及びません。皆さんに頼むほかない、ということです」
「そういわれてもな‥‥」
 一人の能力者が渋面を作る。
 彼らが聞かされた任務は二つだ。
 一つは、敵航空戦力を引き付けて時間を稼ぐこと。
 もう一つ、こちらが本命だが、ジャミングを行うであろう敵キューブワームを撃破すること。
 字面だけならば、単純で簡単な任務だ。
「敵キューブワームはダム前面の地上に、ゴーレムと亀の護衛付で最大五機展開する。加えて、そこを囲む崖には砲台があり、更には対空迎撃兵装もある。更に、光学迷彩の電子支援ワームもどっかにいる‥‥ね」
 別の能力者が、手渡された資料を読み上げ、ふっと肩を竦めた。
「で、そのキューブを真正面から突入して地上戦で撃破。正気の沙汰じゃないよ」
 隣の能力者が笑った。
「空戦担当は、空から地上班が攻撃されないようにHWを引き付けろ、ってな。一見楽そうだがねぇ」
「ジャミング下での空中戦は、著しく敵に有利です。‥‥念のため確認しますが、万一地上班が目的達成の前に撤退した場合は、空戦班が代行する、という認識でよろしいですか?」
 その問いに場が静まる。
「飲み込みが早くて助かる。その通りだ」
「‥‥楽な仕事だねぇ、ほんとに」
 当然のように肯定するラウディに、ある能力者は呆れたように首を振った。
「しつもーん」
 と、あっけらかんとした声が響く。
 手を挙げたのは、プレアデスメンバーの一人、ケラエノだ。
「あたしら何すんの?」
「後詰だ。任務達成後の撤退支援、あるいは失敗時のフォロー、任務代行。いわば保険だな」
 ひゅう、とケラエノは口笛を吹く。
 どのような意味だったのかはわからない。
 その後に続く発言がないことを確認すると、ラウディは口を開いた。
「敵のジャミングが切れたら、後は正規軍の仕事だ。ま、適当に暴れて来い」
「まったく、簡単に言ってくれるよ」
 ニヤリと笑った依頼主に、幾人かが苦笑をこぼした。

●参加者一覧

奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
瑞浪 時雨(ga5130
21歳・♀・HD
M2(ga8024
20歳・♂・AA
火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
ローゼ・E・如月(gb9973
24歳・♀・ST

●リプレイ本文

●空が狭い
 ジャミングされているはずの空域から少し離れたところで、八機のKVがゆっくりと旋回していた。
『囮の役割は派手に生き延びること‥‥それだけ‥‥』
 アンジェリカの操縦桿を撫でながら、瑞浪 時雨(ga5130)が呟く。
 それに応じるように、ソーニャ(gb5824)がロビン『エルシアン』の翼を振った。
『オーダーは足止めと時間稼ぎね。了解』
 今回の八人の役割は、とどのつまりはそういうことだった。
 ダム攻略の大きな障壁であるジャミングの元を地上班が断つまで、空の敵を引きつけておく。
 そのために、ある程度地上との情報を共有することが提案された。
『地上班とのデータリンク、完了です』
 ウーフー『ココペリ』から、M2(ga8024)が皆に告げる。
 今まで、その作業を行っていたのだ。
『よし、皆、突入の準備はいいか?』
 榊兵衛(ga0388)が雷電『忠勝』のコックピットから問うた。
 頼もしい返事が次々と返されるが、フェニックス『ラー』に乗る火絵 楓(gb0095)は何か漠然とした不安を感じていた。
 彼女は以前にも同じ空を飛んでいる。その経験が、過敏にさせているのだろうか。
(「うん、きっとそうなのだ」)
 そう自らを納得させ、楓は目指す空域を凝視する。
 既に何機ものHWが遊弋するそこは、どこか古傷がうずくような妙な予感を抱かせた。
「戦場での再会、か。時代だな」
 ローゼ・E・如月(gb9973)はサイファーの中で、地上にいるはずの従姉妹に思いを馳せた。
 その人のためにも仕事はこなさねば、と決心を新たにしたところで通信が入る。
『では、行きましょうか』
 ワイバーンを駆る奉丈・遮那(ga0352)の声で、八機は機首をダム上空へと向ける。

 まず、全員を激しい頭痛が歓迎した。
 続いて、空全体を埋め尽くさんばかりに撃ち出された多弾頭ミサイルが続く。
『回避‥‥っ!』
 それを予期していた赤村 咲(ga1042)が直前に叫び、シュテルン『Raven』を必死に機動させた。
 ファランクス・テーバイがいくらかを迎撃してくれるとはいえ、絶対数が多すぎる。
 小さな爆発が連続して巻き起こり、空域が一瞬埋め尽くされた。
『無茶すぎるぞ、この状況!?』
 ローゼの悲鳴を尻目に、その爆炎を突き抜けてHWの編隊が迫ってくる。
 総数、十機。
『こんなジャミング‥‥っ。行くよ、エルシアン! 全ての攻撃、かわしてみせる!』
 ソーニャが歯を食いしばって気勢を上げる。
 だが、それが強がりであることは自分が一番承知していた。
 頭の芯に氷の針を突き刺されたような、名状し難い激痛が絶えず意識を苛む。
 明らかに機体の反応も鈍っていた。
「‥‥厳しいですね」
 遮那がふと呟く。
 ジャミングが重複していない場所を飛びたい、と考えていたが、はっきり言えばそんな場所は存在しなかった。
 地上のキューブの配置は、明らかにそういった空間を許さないものである、と彼には見えた。
『対空砲も動いているようだ。余り高度を低く取るなよ』
 遮那とロッテを組む兵衛が告げるが、それも中々難しい注文だろう。
『平気平気ー。似たよーな状況で戦ったけど、あたしはちゃーんと生き残ってるよ』
 楓は、殊更にあっけらかんと言ってのけた。
 厳しい状況であることなど、最初から分かりきっているのだ。
 ならばと緊張するよりは、少しでもリラックスして臨む方が良い。彼女はそう信じていた。
『ああ、頼りにして‥‥偽K−02が来る! 回避を!』
 咲の警告通り、再び空が埋め尽くされる。
「おんなのこはこんな頭痛、なれっこなんだから‥‥! 負けないよ‥‥!」
 自らに言い聞かせるように呟き、ソーニャは爆発を必死に掻い潜る。
 たとえ強がりでも、そうしなければ心が折れそうだった。それは彼女だけではない。
 状況認識が甘すぎたことを、能力者たちは否応無く思い知らされていた。
(「ったく‥‥頭痛は酷い、爆発で視界は悪い、爆風で機体は揺れる。――空が狭い」)
 フィールド・コーティングで何とか損傷を抑えつつ、ローゼはそんなことを感じていた。

●どれだけ耐えればいい?
『曲がりなりにも敵の本拠地、ですか。HWも、どうやら一つ桁が違うようですね』
『できれば数を減らしたいけど‥‥』
 限定された空域を縦横に駆け巡りながら、遮那は敵機の能力を上方修正する。
 その分析に、時雨は悔しげに呟いた。
 数を減らすことができるなら、それは最善だ。しかし、どうやって?
 敵の多弾頭ミサイルはどうやら品切れのようだが、それで状況が好転したわけではない。
 そして、バグア版K−02によって能力者たちは少なからず損耗していた。
『こちら赤村。今は耐えるしかない。粘れば、それだけで地上への援護になる』
『その通り。地上の仲間が任務を成功させるまで、きっちりHW共を引きつけてやろう』
 咲の言葉に兵衛が力強く同意する。
 彼らに光明があるとすれば、ジャミング下の空域は決して広くないということだろう。
 つまり、敵味方の位置情報に注意さえしていれば、敵に攻撃の糸口を与えないことも十分に可能ということだ。
 理論上は、と付け足さねばならないが。
 激しい頭痛に苛まれ、周囲を敵機に囲まれ、そして少なからず損傷を受けている。
 そんな状況で冷静にその結論を導くことは、果たして可能だろうか。
『何にせよ、敵の目をこちらに釘付けにさせねばな』
 兵衛は言うなり、反転して強化型ショルダーキャノンを撃ち放つ。
 ペアである遮那も続き、G放電装置を放った。
 二人を追っていた数機のHWは散開してそれらを回避すると、お返しとばかりにフェザー砲をばら撒く。
『く、やるな‥‥』
 すれ違い様に当てられたフェザー砲で、忠勝の主翼の一部が溶解していた。並の出力ではない。
『ん‥‥?』
 ふと、遮那は違和感を覚える。
 今、何かおかしなところがなかったか。必死に考えるが、結論は出ない。
『ソーニャ、あれを狙う‥‥。合わせて‥‥』
『了解。任せてください』
 その間に時雨とソーニャのペアは、兵衛を攻撃し、彼女らの至近で背後を晒したHWの一機に狙いを定めていた。
『チャンスは一度‥‥』
 時雨の声に合わせるように、ソーニャのエルシアンがG放電装置を放射。続けてAAEM、高分子レーザーを撃ち放つ。
 ほぼ同時に、時雨のアンジェリカはSESエンハンサーを起動してDR−2荷電粒子砲を連射した。
 背後からの攻撃に加え、G放電装置とAAEMで動きは乱され、レーザー、ましてや荷電粒子砲は避けられないはずだ。
『‥‥しまった、僕としたことが!』
 時雨とソーニャの攻撃は直撃した。
 にも関わらず、HWは無傷だった。その瞬間、遮那は先ほどの違和感に気づく。
「え‥‥?」
 必殺必中の攻撃であったはずが、何の損傷も与えられていない。それは時雨にとっては予想外に過ぎる光景であった。
 疑問符が頭の中を埋め尽くす中、回頭して急接近してくるHWの動きがやけにゆっくりに思え――。
『ぼんやりするな!』
 兵衛の声と、視界に割り込んできた雷電の姿で思考がクリアになる。
 直後、鈍い金属音と共に忠勝のメインノズルにヒビが入った。時雨の盾となったのだ。
『迂闊でした。CWのジャミングは、知覚攻撃の威力をも激減させるのです』
『‥‥何てこと』
 遮那の伝える事実に、ソーニャは血が滲むほどに唇を噛み締める。
 彼女だけではなく、時雨もまた愕然としていた。二人の装備は、殆どが知覚兵装だったからだ。
『兵衛、その‥‥ごめんなさい‥‥』
『気にするな。俺の機体の方が固いからな。簡単には落とされないよ』
 自らの盾となってくれた兵衛に時雨は詫びるが、男は当然だというように笑う。
 実際にはかなり危険な状態であるのは、男の矜持にかけても隠すべきことだった。
『ジャミングが薄れれば、知覚攻撃も通るようになるさー。気を落としちゃだめだよん』
『そうとも。後でリベンジしてやんなよ』
 楓の励ましに、ローゼも便乗する。
 その時、慌てたようなM2からの連絡が入った。
『ち、地上班で一機大破です! パイロットは――』
『おいおい、冗談だろ!?』
 その名前にローゼは背筋が冷たくなるのを感じた。慌てて時間を確認する。作戦開始から、一分と経っていない。
『落ち着くんだ。敵が来ている。切り抜けてから考えるんだ』
 咲の声に生返事を返しつつ、ローゼは操縦桿を握り直した。
 一方、兵衛は自機の損傷をチェックして苦笑していた。
「敵を舐めていたわけでは、ないんだがな」
 男の目に、彼を狙う四機のHWが映った。
 至極短い時間だったが、兵衛はあれらが攻撃力特化型の調整を施されたものだと予想できた。
 伊達に盾役を買って出たわけではないのだ。
『奉丈、今俺たちを追尾する敵を識別できるか』
『可能ですが、何か?』
『奴らは恐らく、攻撃力を重視して調整されたものだ。警戒するに越したことはない』
『なるほど‥‥』
 遮那は頷いた。
 兵衛の忠勝の装甲は図抜けている。
 それを相手に短時間でこうも傷つけるのであれば、確かに攻撃力偏重のHWであるのだろう。
 そして、代償もなしにそういった改造が可能であるとは思えなかった。
『さて、見極めてやろう。‥‥来い!』
 機首を翻した忠勝とHWが交錯する。
 HWの一機が軽くない損傷を思わせるスパークを上げ、兵衛の雷電はエンジン部から炎を吹き上げて高度を下げていった。
『榊!』
 その光景に、一瞬ローゼが気を取られた瞬間だった。
 彼女を追尾していたHWからのフェザー砲が、サイファーのメインエンジンを貫いた。
 当たり所の悪さは不運というほかない。
 ローゼ機は急激に失速して墜落していく。
『ローゼさん!?』
 M2の声に返答は無い。
 通信機能がいかれたか、あるいは失神したのだろうか。
 しかし、二人の安否を気遣う余裕は残りのメンバーにもなかった。
 最低でも一機が自らを追尾してくるのでは、迂闊に視線を外すこともできないのだ。
 その間、兵衛を落とした四機は二機をそのまま遮那のマークに残すと、もう二機は手近な敵機へと向かう。
 その先には、反撃の手段を奪われた時雨とソーニャのペアの姿があった。 
『瑞浪さん、後ろにつかれてる。振り切って!』
『機体が‥‥思うように‥‥っ』
 時雨のアンジェリカと、ソーニャのエルシアンのそもそもの機動性の違いがここで現れた。
 HWは易しと見たか、アンジェリカに砲火を集中させる。
『くぁ‥‥っ』
 遂に主翼が根元から焼き切られ、アンジェリカはコントロールを失った。
『くそ、見ているしかできないなんて‥‥!』
 咲は悔しげにコンソールを叩くが、無理に助けに入っても意味はなかったろう。
 だからといって納得できるものではないが。
『落ち着くんだじぇみんなー。さっきも言ったっしょ? 何とかなるってば!』
 沈鬱な雰囲気を、楓の明るさのみが中和している。
 と、不意に皆を苛んでいた頭痛が和らいだ気がした。
『CW、一機撃破!』
 M2からの嬉々とした声が、その感覚を裏付ける。
『ほーら、何とかなるでしょ? もー少しだから、がんばろーじぇー!』
 楓のその声は、心なしか先程よりも明るかった。

●解放
 頭痛の軽減と共に、機体の動きも僅かに良くなってきていた。
 これならば、いける。
 不利が改善したのは地上も同じなのだ。きっと上手くいく。
『正念場ですね。‥‥M2さん、念のためこのデータを』
 多少余裕が出てきた遮那は、先ほどの兵衛の交戦データと件の四機の識別データを送る。
『遮那さん、これは‥‥?』
『要注意HWです。後で正規軍へ』
 そう伝えた瞬間、遮那は直感的に操縦桿を傾ける。
 直後、先ほどまでワイバーンがいた空間をフェザー砲が薙いだ。
「‥‥いける、かな」
 本来の機体の感覚に確かに近づいている、その確証を得て、遮那は僅かに微笑んだ。
 朗報は続く。
『CW、二機撃破です! 残りは二機!』
『おー、地上班も乗ってきたねぇ? こりゃーあたしもハッスルしないとにゃー!』
 更に頭痛が和らぎ、直後のM2からの報告で楓はニヤリと笑う。
 即座にラーを反転させると、自らを追っていたHWにグリフォンを撃ち込む。突然の反撃ということも相まって、それは吸い寄せられるように命中した。
『いえす! もう当てられるじぇ!』
『攻撃は最大の防御、か』
 咲もまたRavenを反転させると、M2の後方に占位していたHWにGPSh−30mm重機関砲を掃射する。
 それは回避されたが、HWからの反撃のフェザー砲も咲は回避した。
『天秤は傾いたようだ』
 戦闘開始時と比べれば天地ほどの操作性に、咲は更にHWを追撃する。
『CW四機目撃破! 残り一機!』
『行くよエルシアン! 今までの借りを返すんだ』
 M2の声に合わせるように、ソーニャも機体をHWへと向ける。
 翼は力を取り戻していた。
 それは同時に、今までは無力化されていた知覚兵装の封印も解かれたことを示す。
 蒼い駒鳥は、空中の虫を電撃の網で捕らえ、レーザーで撃ち貫いた。
『CW、全機撃破完了です! 陸上班、撤退を開始しました!』
『長居は無用です。僕らも撤退しましょう』
 頭痛が治まり、途端に静かになったような錯覚を受ける。
 遮那の言葉を合図に、五人は即座にその空域を離脱した。

『こちらプレアデス、アステローペだ。落ちたKVとパイロットはきっちり回収しとくから、安心してくれ』
『こちら赤村。よろしくお願いする』
 プレアデスへの応答を終えると、間もなく彼らの直下を三機のKVが猛然と駆け抜けていった。
 それらの識別がプレアデス隊のものであることを確認し、咲はようやく安堵の吐息をつく。
 五分、いや、三分にも満たない戦闘であったのに、何時間も戦っていたような疲労だ。
 機体も相応に傷ついている。
『うげ〜もう疲れたのだ、一歩も動けないのだ〜‥‥ってなわけで誰かあたしを家まで送り届けて欲しいのだ〜でも、クール便は勘弁してね♪』
 同様に疲労困憊といった楓が、それでもおどけてみせる。
『――よし、と、データを正規軍の管制機に送っておきました。あ、ちなみに、そろそろ見えますよ』
『満を持して、ですか』
 戦闘の解析データを送り終えたM2が、ついでというように皆のレーダーに光点を示す。
 遮那はそれを見て、少しだけ笑う。
『結構駆け足で来てるのかな? あとどれくらいだろう』
『んー、二十秒ってとこですかね。陸上班にも回しときますね』
 ソーニャの疑問に、M2が答える。
 それらを半分上の空で聞きながら、彼女は改めて空を見上げた。
「‥‥広いなぁ」