タイトル:【LR】Cage of Cubeマスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/29 23:28

●オープニング本文


 マッカラン国際空港。
 好々爺然としたUPC軍人が、参謀と思しき男と静かに会話している。
「KV隊は」
「我々UPCのKV隊は15機。バックアップのプレアデス隊は、無理を通して10機出させます」
「25、か。通常戦力は」
「機械化歩兵を2個連隊。ダム制圧用の特殊部隊を3個中隊。敵HW撃退の後、ラスベガス防空旅団から1支隊がダム上空の警戒に当たると確約を得ました」
「我らの能力者部隊はどうかな」
「何とか、1個小隊を確保しております」
「ふむ。これらで足りると思うかね?」
「‥‥ギリギリ、でしょうか」
 男の素直な回答に、老人は穏やかに笑った。
「実に厄介な敵だね。殻にこもったマイマイのようだ」
「‥‥」
「仕方ない。初手からジョーカーを切るとしよう。坊やに、ラストホープへ連絡を取らせなさい」
「は」
 司令官に模範的な敬礼を返し、参謀はきびきびと動き出した。
 坊や――ラウディ=ジョージ(gz0099)の下へと向かうために。

 ノースラスベガス空港。
 ラウディの依頼で、多くの能力者がここに集っていた。
 と、その詰め所がざわめく。
 通達された内容に、能力者たちがどよめいたのだ。
「君らが最も適任だ、と上は判断したのさ」
 簡単な話だろう? とラウディは顔色一つ変えずに言う。
 それを補足するように、傍らのクラウディア=ホーンヘイムが続けた。
「こういった拠点の強力な敵を強襲する、という任務では、正規軍KV隊は、能力、経験ともにラストホープの能力者に及びません。皆さんに頼むほかない、ということです」
「そういわれてもな‥‥」
 一人の能力者が渋面を作る。
 彼らが聞かされた任務は二つだ。
 一つは、敵航空戦力を引き付けて時間を稼ぐこと。
 もう一つ、こちらが本命だが、ジャミングを行うであろう敵キューブワームを撃破すること。
 字面だけならば、単純で簡単な任務だ。
「敵キューブワームはダム前面の地上に、ゴーレムと亀の護衛付で最大五機展開する。加えて、そこを囲む崖には砲台があり、更には対空迎撃兵装もある。更に、光学迷彩の電子支援ワームもどっかにいる‥‥ね」
 別の能力者が、手渡された資料を読み上げ、ふっと肩を竦めた。
「で、そのキューブを真正面から突入して地上戦で撃破。正気の沙汰じゃないよ」
 隣の能力者が笑った。
「空戦担当は、空から地上班が攻撃されないようにHWを引き付けろ、ってな。一見楽そうだがねぇ」
「ジャミング下での空中戦は、著しく敵に有利です。‥‥念のため確認しますが、万一地上班が目的達成の前に撤退した場合は、空戦班が代行する、という認識でよろしいですか?」
 その問いに場が静まる。
「飲み込みが早くて助かる。その通りだ」
「‥‥楽な仕事だねぇ、ほんとに」
 当然のように肯定するラウディに、ある能力者は呆れたように首を振った。
「しつもーん」
 と、あっけらかんとした声が響く。
 手を挙げたのは、プレアデスメンバーの一人、ケラエノだ。
「あたしら何すんの?」
「後詰だ。任務達成後の撤退支援、あるいは失敗時のフォロー、任務代行。いわば保険だな」
 ひゅう、とケラエノは口笛を吹く。
 どのような意味だったのかはわからない。
 その後に続く発言がないことを確認すると、ラウディは口を開いた。
「敵のジャミングが切れたら、後は正規軍の仕事だ。ま、適当に暴れて来い」
「まったく、簡単に言ってくれるよ」
 ニヤリと笑った依頼主に、幾人かが苦笑をこぼした。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
不破 梓(ga3236
28歳・♀・PN
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
桜庭 結希(gb9405
18歳・♀・SF
エイミ・シーン(gb9420
18歳・♀・SF

●リプレイ本文

●激痛
 巨大なダムとの対比で、ゴーレムとタートルワーム、その隙間から僅かに覗くキューブワームは、まるで玩具の人形のように見えた。
 だが、同時に襲いくる激しい頭痛がこれでもかと現実を突きつけてくる。
『本当、簡単に言ってくれましたけど、状況は最悪ですね』
 ディアブロ『シヴァ』のコックピットで、如月・由梨(ga1805)が眉間にしわを寄せた。
 歴戦の彼女とて、この痛みは慣れるものではない。そして、明らかに機体の動きも鈍っていた。
『こんな場所に長居なんて願い下げです。ぱぱっとやっちゃいましょう』
『ええ。‥‥気を引き締めていきましょう』
 雷電を駆る平坂 桃香(ga1831)が応ずれば、シュテルン『伊邪那美』の鳴神 伊織(ga0421)も静かに頷く。
 彼女ら三人の機体を前面に押したて、その少し後ろから五機のKVが続いていた。
『分かってるとは思うが、無理にCWを破壊しようとするんじゃないぞ。任せられるのは任せてしまえばいい』
 シラヌイS型『隼風』から不破 梓(ga3236)の無線が飛ぶ。
「‥‥とはいえ、この状況は‥‥」
 梓はキリキリと締め付けるような頭痛に、思わずこめかみを抑える。
「ぐっ‥‥これは、かなり‥‥」
 同様に、遠石 一千風(ga3970)もミカガミ『ヴァーユ』の中で思わず片目を閉じていた。
 ベテランと言っていい梓と一千風でさえこうなのだ。
 破曉『スーパーヨウヘイガー』の桜庭 結希(gb9405)、サイファー『Durahan』のエイミ・シーン(gb9420)の二人は、戦闘前に無駄な消耗をしないように口数を抑えていた。
『‥‥空とのデータリンクができた。十秒後に突入するらしい』
 空戦班からの連絡を受けたユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が、そう言ってR−01改『ディース』に改めてリヒトシュヴェルトを構え直させる。
『崖の砲台に動きがある。注意してくれ』
 梓のそんな声と重なるように、甲高いエンジン音が峡谷に木霊した。
 空戦班がダム上空へと突入したのだ。
『では、参りましょう』
 言うが早いか、由梨はブーストを発動させた。

 シヴァがまず突貫し、それに伊邪那美が続いていく。
 桃香の雷電は一旦動きを止めると、対空攻撃を開始した崖の砲台にツングースカの照準を合わせる。
『うるさいんで、止めときますね』
 秒間二十発を超える弾丸が岸壁を舐め、砲座を蜂の巣にしていく。
 その寸前で砲塔は移動していたが、最早そこに戻ることはできない。そして、砲塔自体の命運も長くはあるまい。
『レーダーは‥‥空戦班のウーフーのお陰で何とか見える、か。CWに識別番号付与。各自確認してくれ』
 ノイズだらけのレーダーを睨みながら、梓は懸命にデータを各機へと送る。
 少しでも効率よく動かねば、こちらが先にやられてしまうのだ。
『確認した。まずは右端、1番からだったな。ゴーレムと亀は俺たちが何とか抑える。CWは頼んだ』
 ユーリが応答し、ディースを一歩前進させた。
 彼らが選んだのは、至って正攻法だ。装甲の厚い機体が敵の攻撃を引き受け、その間に数機がCWへと切り込み、撃破する。
 その戦術自体に問題があるわけではない。
 結果論ではあるのだが、今回に限れば、もっと望ましい戦法が別にあったといえるだろう。

 CWを攻撃する味方の盾にならんと、由梨のシヴァが尚も間を詰めていた。
 それを封じ込めるように、ゴーレムが砲撃を開始する。
 五機のゴーレムによる同時射撃。一瞬、世界が色を無くすほどの光芒が放たれた。
「荷電粒子‥‥っ!?」
 本能的に操縦桿を傾けるも、ブースト中であるにも関わらずシヴァの動きは重い。
 咄嗟に掲げたグレートザンバーが粒子の奔流に抗うが、相殺には程足りなかった。圧倒的な熱量は、極めて厳重に施されたシヴァの鏡面処理を容易く歪ませる。
『如月さん!』
『‥‥無事です。三割ほど持っていかれましたが』
 伊織の呼びかけに答えつつも、由梨は頭痛によるものとは別の嫌な汗が止まらなかった。
 突撃の勢いも、被弾の衝撃によって失われている。
『か、亀も狙ってます! 避けて!』
 叫ぶように告げたのはエイミだ。
『させないっ! 喰らえ、バニシングゥゥゥナッコォォオ!!』
 させじと結希がスーパーヨウヘイガーの拳を撃ち出す。
 だが、その拳は目標を掠め、入れ違いに亀のプロトン砲が発射される。
 その光条はまるで能力者たちの眼前を塞ぐように降り注ぎ、接近の機を伺っていた梓と一千風の出鼻を挫いた。
『――リロードが早いっ!』
 爆炎が晴れた瞬間、ゴーレムは既に第二射の体勢を整えていた。
 ユーリの声とほぼ同時に、世界は再び色を失った。

●生贄
 ゴーレムによる、大火力を集中した一斉射撃。
 これを見た桃香の動きは素早かった。
 砲台への攻撃を早々に切り上げると、超伝導アクチュエータを起動しつつ単機で加速する。
『平坂さん!?』
『狙いをばらけさせます。駄目なら駄目で、奥から食い破りますんで』
 一千風の声に簡潔に返し、雷電はパイロットの意思を受けて岸壁すれすれをダムに向かって進んでいく。
 その動きに反応して、数体の亀がゆっくりと方向を変えた。
『‥‥今だ!』
 それを見た梓は隼風を動かす。
 僅かに遅れて、一千風のヴァーユが続いた。
『ゴーレムを動かさせるな!』
 脳髄を抉られるような頭痛を気合で抑え込み、ユーリが声を張り上げる。
 リヒトシュヴェルトは容易く盾で受け流されたが、それでもゴーレムの注意を突貫する二機から引き離すことはできているはずだ。
 そうあれかしと祈りつつ、エイミは陽光を振るう。
 ゴーレムは装甲に傷がつくのも構わずに、三度粒子砲を構えた。
『このっ、こっち向けこいつっ!』
 至近距離から殴りつける結希のスーパーヨウヘイガーを一瞥もせず、AIは無慈悲な選択をする。
 最も脅威度が高く、近くにいる敵から排除。
 機械的なそのルーチンは、呆気ないほど簡単に引き金を引いた。
『頭痛が酷いですね‥‥まったく、これだから』
 達観したように呟き、由梨は迫る荷電粒子の奔流に敢えて踏み込む。
 巨大な太刀で光の渦の中を強引に切り裂き、せめて一太刀報いんと真正面のゴーレムへと突撃したのだ。
 満身創痍のシヴァが光芒を抜け、粒子ビームで赤熱した刃が大上段から振り下ろされた。
 ゴーレムが掲げた盾と刃が激突し、峡谷につんざくような金属音が響く。
 万全であれば一撃必殺だろうその一刀は、無人のゴーレムに受けきられた。
 鈍い電子音と共にゴーレムの目が発光し、返す刃でその腕が振りぬかれ、シヴァが大きく吹き飛ばされる。
『如月さん! 応答してください! 如月さん!』
 エイミの呼びかけに返答は無い。
『離れれば粒子砲、近づけば雪村‥‥ですか』
 シヴァの表面にはレーザーによる切断痕が残っていた。
 それを目の端で確認しつつ、伊織は唇を噛む。
 仲間がCWを破壊するための時間を稼ぐ。それは、ただでさえ少ない戦力の分散を意味していた。
 全員が同時にCWへと攻撃を開始していれば、あるいは別の展開ではなかったのか。だが、今は後悔の時間ではない。
『これ以上やらせてたまるか!』
 次の獲物を探すように回頭したゴーレムに、ディースがGPSh−30mm重機関砲を向けた。
 由梨の犠牲は全くの無駄であったわけではない。
 彼女が稼いだ時間は短くとも、梓と一千風が切り込む契機を確実に作っている。
『だからこそ!』
『無駄にはしません!』
 結希のバニシングナックルで僅かに傾いだゴーレムへ、エイミがすれ違い様にソードウィングを叩き込んだ。
 盾の上からとはいえ、衝撃は確実に通っているはず。
 その時、流れ弾がダムに当たらない位置まで食い込んだ桃香の雷電が、ツングースカを猛烈に連射しはじめた。
 CWの前面に立ちはだかった亀が、嵐のような弾幕で動きを封じられる。
 ほぼ同時に、CW1の周囲に煙幕が展開された。
 敵機をすり抜けつつCWへと迫っていた隼風が煙幕銃を放ったのだ。
『はあああっ!』
 その白煙を突き抜け、双機刀がCWの装甲を大きく抉る。
『落ちろ!』
 続いた一千風のヴァーユが、機杖ウアスを叩き付けた。が、あと一押しが足りない。
 至近の亀が、CWを狙う梓と一千風にプロトン砲を撃ち込む。
 咄嗟に一千風はシャーウッドを掲げ、梓はAECを起動することで辛くも持ちこたえた。
『く、今援護――ぐぁっ!』
 二人を狙う亀に重機関砲を向けた瞬間、ユーリは側面からの衝撃に息を詰まらせる。
 三機のゴーレムが、ディースに向けて轟然とマシンガンを撃ち放っていた。
「機銃弾なのに何て威力‥‥!?」
 凄まじい勢いで削られていく装甲に、ユーリは半ば無意識にリヒトシュヴェルトを構えさせる。
 それでも機体は一気に危険領域へと叩き込まれ、コックピット周りの電装が弾ける。
 それは折からの激しい頭痛、被弾の衝撃と相まってユーリの意識を刈り取った。
『ユーリさん、敵機が向かっています! ユーリさん!』
 救援に向かわんとした伊織の伊邪那美の前に、ゴーレムが立ちはだかる。
 ハイディフェンダーと盾とがぶつかり合って火花が散った。
『邪魔を‥‥!』
 藍色のシュテルンは剣と槍をもって切り抜けんとするが、ゴーレムは機銃と盾で易々とは抜かせない。
 結希とエイミもまた、一機のゴーレムによって足止めされていた。
 じれったい程の数秒間が過ぎ、ディースはゴーレムによって大きく弾き飛ばされ、擱座した。

●紙一重の
 ユーリ機を排除したと見るや、ゴーレムの一機は伊織へ、二機は桃香へと分散する。
 その瞬間、不意に六人を襲っていた頭痛が僅かに和らいだ。
『‥‥取った!』
 亀のプロトン砲を掻い潜った梓と一千風の二機は、機体の損傷を省みずに攻撃を続行。
 遂にヴァーユのウアスがCW1を砕いたのだ。
 満身創痍の機体を見れば、その代償がいかに大きいかが容易に見て取れる。
 だが、得るものはそれ以上に大きかった。
『気を逸らしちゃ駄目駄目ですよ』
 CWを撃破されたことで、亀はその目標を隼風とヴァーユに変更した。
 それは弾幕で亀を抑えていた桃香にとって、絶好の機会となる。
 雷電はその巨体を砲弾のように加速させ、一気に距離を詰めた。
 させじとゴーレムが粒子砲を撃ち込むが、ひしゃげる装甲を桃香は完全に無視する。
 CWとの間を阻む亀も強引に突破し、そのままの勢いで立方体にハンマーボールを叩きつけた。
『もひとつ』
 苦も無くCW2を破砕した鉄球が、CW3へ轟音と共に降り注ぐ。
 球体の下で無残に潰れたサイコロが、断末魔のスパークを漏らした。
 そんな桃香に報復するかのように、周囲の亀とゴーレムが一斉に砲撃する。
 膨大なエネルギーが雷電の装甲の何割かを吹き飛ばし、更に電装系が悲鳴を上げる。
 しかし、計三機のCWが撃破されたことでジャミングは劇的に軽減された。
 そこで敵の注意が桃香一人に向いたことは、能力者にとってこれ以上ないチャンスであった。
『退きなさい、下郎』
 伊織は伊邪那美の反応が明らかに良くなっていることを確認すると、桃香同様ブーストで強引にゴーレムを突破する。
 すれ違い様に敵のレーザーブレードが振るわれるが、意に介さず藍色の機体がCW4へと肉迫した。
「――灼雷」
 生身の感触を思い返しながら伊織は呟き、PRMシステムを起動する。
 鋭さを増したハイディフェンダーの斬撃は、CW4を十字に断ち切った。
 伊邪那美がCW4へと向かっている間、結希とエイミは最後のCW5へと突貫していた。
 ゴーレムと亀の注意は、全てが桃香と伊織へと向けられている。
 完全にフリーの機体を作り出してしまうのは、無人機の限界ともいえるだろう。
『これは如月さんの分!』
 エイミのDurahanが陽炎と共に、陽光を赤く煌かせる。
『これはユーリさんの分! そして――』
 返す刀で、もう一度刃を深く刻み込み、エイミは機体を沈み込ませた。
『これがあたしたちの分! 必殺! バァニシングゥゥゥゥゥゥナッコォォォォォォォオ!!』
 その背後から、結希のスーパーヨウヘイガーが飛び込んできていた。
 各部から赤光を発しながら、大地ごと砕けよとばかりに拳が撃ち出される。
 CW5は拳でその中枢を撃ち抜かれ、沈黙した。

『残敵に構うな、後退するぞ!』
 ジャミングが完全に消えたことを確認すると、梓はスモークディスチャージャーと煙幕銃で煙幕を展開する。
 能力者たちはそれを利用し、速やかに後退を開始した。
『――こちらプレアデス、ラウディだ。ジャミングの解除を確認した。すぐに行く。大破した機体とパイロットの回収は任せろ』
『了解しました。お願いします』
 同時に入った通信に返答し、伊織はそっと額に手を当てた。
 まだ、鈍痛が残っているような気がしたのだ。
 と、前方から急速に接近する反応があった。識別はプレアデス、ラウディの乗機を含めて三つだ。
 戦闘機形態であっという間に近づいたそれらの機は、敵陣にも関わらず強行着陸する。当然、新たな侵入者に敵からの攻撃が開始された。
『後ろは気にするな。ジャミングさえなければ、逃げの一手でどうとでもなる』
『相変わらず無茶な人ですね』
『無茶をやらせてるんだ。見栄ぐらい張らせてもらう』
 呆れたような桃香の声に、男はそう答える。
 その後ろで、見栄に付き合わされる身にもなれ、といった通信が聞こえた。
「‥‥妙な人たちだ」
 そんな会話を聞いて、梓は苦笑する。
 ともあれ、これで救助の時間くらいは稼げるだろう。
 それに、ここから先は正規軍の仕事だ。遠からず、おっとり刀で駆けつけるに違いない。
『空戦班からです。正規軍のKV隊が接近中、到着は二十秒後、だそうです』
『よっし、向こうも無事みたいだね』
 エイミからの知らせに、結希がようやく安堵の吐息を漏らした。
 ギリギリの、紙一重の勝利だった。
 それでも。
「道はできた。今度はこちらが攻める番」
 一千風は振り返り、遠ざかるダムを目に焼き付ける。
 決戦の舞台は整ったのだ