タイトル:【LR】鷲の消失マスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/14 13:33

●オープニング本文


「グレプカ‥‥か。無粋だな」
「面白いと思いますけどねー」
 目の前に浮かび上がった巨大なクレーターの映像に、アルゲディ(gz0224)はつまらなそうに鼻を鳴らした。
 対照的に、アルフレッド=マイヤーは興味津々といった様子で食い入るように見つめている。
「オセアニアに変わったワームがあるって話は、前から耳にしてたんですよ。んー、なるほどねぇ」
 そう言いながら、マイヤーは何度も頷く。
 黒衣の青年は表情を変えずに立ち上がると、ゆっくりと司令室の外へ歩き出す。
 その背中に視線を向けることなく、白衣の男が声をかけた。
「どちらへ?」
「お前の好きなことを、やりに行くのさ」
「アルドラなら、もういませんけど」
「好きにやらせておけ。いいハンデだ」
「ここが陥落したって知りませんよ?」
「その前には戻る。‥‥まぁ、寝ていても早々は落ちんよ、ここはな」
 低く笑って、アルゲディは再び歩を進める。
 その足音が遠ざかっていくのを聞きながら、マイヤーはやれやれと肩を竦めた。
 と、入れ替わるようにブリジット=イーデンが入ってくる。
「出撃なさるのですか?」
「いや」
 マイヤーの答えに、ブリジットは怪訝な顔をする。
 出撃もしないのに司令室を出るとは、どういうことなのか。そういう表情だ。
 そんな彼女の顔を楽しげに眺めながら、マイヤーは口を開く。
「小細工をしに行くんだってさ」
「‥‥総司令からの増援が到着した矢先に、ですか」
「だから、じゃないかな。今なら、何もしなくたって一月は持つよ」
 飄々と言ってのけるマイヤーに、ブリジットは頭痛を堪えるようにこめかみに手を当てた。
「‥‥それは、今やらねばならないことなのですか?」
「さぁ?」
 白衣の男はけらけらと笑うと、再び目の前の映像に視線を戻す。
(「小細工‥‥?」)
 ブリジットは、少しだけ考え込んだ。
 増援は充実している。こちらから攻撃を仕掛け、都市の一部を占領することだって可能だろう。
 だが、行動に出るどころか司令官が不在にするという。
 その意図はどこにあるというのだろう。わざわざ有利な状況を、まるで敵に塩を送るかのように‥‥。
 そこまで考えたところで、彼女の脳裏にアルドラの最期が浮かんだ。
(「延命措置を行えば、少なくとも後三ヶ月は持ったはずのあの子を、見殺しにした‥‥」)
 副官としてのアルドラの存在は、本人の身体的能力はともかくとして、指揮系統の確立という面では非常に大きかったはずだ。
 そして、少女の死後、アルゲディがその後任を決める様子はない。
「‥‥まさか」
「そのまさか、だと思うよ。趣味悪いよねぇ、あの人」
 映像に向き合ったまま、マイヤーがブリジットの呟きに応えた。
 彼女は一瞬男の背中を睨みつけるようにして、力なく首を振る。
「出番が終わった役者は、舞台に残ってても仕方ない‥‥ですか」
「少なくとも、アルゲディはそー思ってるらしいよ。このダムは、彼の一世一代の大舞台なんだよ。文字通り、さ」
「‥‥出演料は、頂きたいものですね」
 ブリジットはため息をつき、珍しく冗談めかせて呟いた。
 それを聞くとマイヤーは、違いない、と面白そうに笑った。



 ラスベガス。
 先ごろ、この都市のほぼ全域をUPCは解放した。
 UPCのマッカラン国際空港確保と同時に行われた、バグアのネリス空軍基地への奇襲も能力者の活躍によって撃退され、ノースラスベガスと合わせてラスベガスに駐屯するUPC軍部隊は三つの拠点を確保したこととなった。
 この戦果に、UPC北中央軍はラスベガス方面への増派を決定。
 バイパーを中心とするKV十機と、それに付随する航空部隊、更にはM1戦車を中核戦力とする機械化部隊が派遣され、ラスベガスは俄かに活気付いていた。

「消えた、だと?」
「正確には、いずこかへと飛び去ったまま戻ってこない、ですが‥‥」
 クラウディア=ホーンヘイムからの報告に、ラウディ=ジョージ(gz0099)は考え込むように顎に手を当てた。
 正規軍とラウディ率いる能力者部隊、プレアデスのKV隊を合わせれば、現在三十五機のKVがラスベガスに常駐していることとなる。
 彼我の戦力差は、一時期に比べて劇的に改善されていると言っていい。
 確かに、フーバーダムへの増援も、数は不明だが確認されてはいる。
 しかし、いざとなればラストホープの能力者もこちらの戦力に組み込める以上、決定的に不利であるわけではない。
 そんな状況下で、敵の司令官であるアルゲディが姿を消した、というのだ。
「罠、でしょうか」
「あるいは、向こうに何かゴタゴタがあったか、だが‥‥。罠と見るのが自然だろう」
 そう、罠だ。
 冷静に考えれば、ここでダムから離れたとしても、バグアにとって何一つとして益はない。
 あるいは、ラスベガスの制圧が終わっていなかった以前ならばともかくとして、今やこの都市は人類の手に戻っているのだ。
 それを見抜けないほど、アルゲディやその上司であるリリア・ベルナール(gz0203)は間抜けではない。
(「‥‥本当にそうか?」)
 それでもラウディは、頭の隅に何かが引っかかる気がしていた。
 互いに戦力が充実しているということは、互いに迂闊に動けないということだ。事実として、ラスベガス解放後の戦線は動いてはいない。
 この状況で司令官がいなくなるというのは、その膠着状態が破られるきっかけになりかねない。
「――確かめる必要はある、か。クラウディア、最後の希望に連絡を取れ」
 ふぅ、と息を吐くと、ラウディは言葉を続ける。
「それと、プレアデスも全員集めろ。無茶をするぞ」
 クラウディアは何かを言いかけたが、結局何も言わずに頷いた。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
鴉(gb0616
22歳・♂・PN
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
ノーン・エリオン(gb6445
21歳・♂・ST

●リプレイ本文

●湖より
 長い間水中にいたせいか、鳴神 伊織(ga0421)は気だるさと水から解放されたことによる軽さ、双方がない交ぜになった妙な感じを覚えた。
 素早く手足に意識を集中させる。行動に支障はない。
 ペアを組むノーン・エリオン(gb6445)をちらりと見やると、彼も問題なしというようににへらと笑った。
 急ぎましょう。
 声には出さず、視線で伝えて頷きあう。
 甲高いエンジン音と、腹に響くような振動が連続している。
 許された時間は、多くはない。伊織は懐中時計に一瞬だけ目を落とし、駆けた。

 脱出経路からは最も離れた、フーバーダムの東側区域。
 そこへ静かに上陸したのは赤村 咲(ga1042)と遠石 一千風(ga3970)である。
 手早く用意を整えると、二人は音もなく通路を駆けた。湖側の警戒は薄いのか、視界に邪魔になる存在は見えない。
(「ようやくここまで近づけた。‥‥いや、近づかされてる?」)
 目の前にそびえるダムの様子に、一千風は僅かな違和感――危惧と言い換えてもいい――を抱いた。
 それを振り払うように首を振る彼女の隣で、咲は鋭く周囲を窺う。
 このダムを拠点とする強化人間、アルゲディ(gz0224)が消えたという情報を彼は信じていなかった。
(「必ずどこかで俺達を見ている‥‥必ず」)
 咲の研ぎ澄まされる意識とは裏腹に、気配はぼやけていく。
 およそ一般人には通れないルートを伝って、二人は崖の上へと急いだ。

 音も無く岸を伝いあがったファルロス(ga3559)は、後続の風代 律子(ga7966)に手を貸すと彼女の身体を一気に引き上げる。
 二人の目的は、ダムの内部施設への潜入であった。そのためには、十分間という制限は長いとはいえない。
 入り口の当たりをつけると、逡巡することなく行動を開始する。
 容赦なく響いてくる戦闘音は、ラウディ=ジョージ(gz0099)率いるプレアデスのKV隊とダムの防衛部隊のものだろう。
 ファルロスは鈍っていた勘が急速に研ぎ澄まされていくことを感じていた。
(「これなら、いける」)
 抱いた確信に、それとなく律子へと視線を送る。気づいた彼女もまた、自信ありげな首肯を返した。

 点々と続く水滴の跡は、折からの陽射しで見る間に乾いている。
 ふと背後の様子を窺った鴉(gb0616)は、天の配剤に少しだけ笑みを零した。
 どうやら、運はこちらにあるらしい。
 そんな彼の肩を、先ほどまで双眼鏡で周囲を観察していたヨネモトタケシ(gb0843)が叩いた。
 目標の目星はついたようである。
 手で先を指し示すタケシに鴉は頷くと、敵がいないことを確認してから一気に移動を開始する。
(「内部まで、探れますかなぁ‥‥?」)
 妙に早く思える秒針の動きに、最善を尽くすしかない、とタケシは気合を入れ直した。 

●不可解
 転落防止のためか、ダム上を走る道路脇の壁はそれなりに高い。
 身を屈めれば、少なくとも下から発見されることはないだろう。
 好都合だ、と伊織は思った。
 ここならば、前後にさえ注意していれば発見される恐れはぐんと低くなる。
 そして右手から鳴り続ける戦場音楽は、彼女らの立てる音程度は覆い隠して釣りが来る程だった。
「様子はどうですか?」
 KV隊が戦闘を続ける方面、つまりは放水口側を覗いていたノーンの背後を警戒しつつ、伊織は問う。
「うーん、見た方が早いね。替わるよ」
 彼の言葉に、入れ替わりに彼女は様子を窺い、目を細めた。
 ダムから流れ出るコロラド川、その川岸はほぼ崖といっていいものだが、そこには幾つもの空洞が存在していた。更に、そのうちのいくつかには砲台が存在し、砲火を上空のKVに向けて吹き上げている。
 それだけならば単なる対空砲台だが、砲撃を終えた砲台はその姿を引っ込めると、別の場所から出現し、再び火を吹いたのである。
「アレは‥‥?」
「どうも、予め設置してある砲座を、ランダムに砲台が移動して攻撃する、って感じだね。処置しようにも、まるでもぐら叩きだよ」
 背中越しに、ノーンが肩を竦める気配があった。
 命中率と連射性能が高くなさそうなのが救い、だろうか。と伊織は思う。 
 一発撃てば移動する砲台は、見たところ六基が存在する。無視しようとしてできない数ではあるまい。
「‥‥命中した数は覚えていますか?」
「一発か二発か、ってとこかな。被害もそんなに無いみたいだ」
 なるほど、と頷く伊織の前で、KVの一機がロケットランチャーを崖に撃ち込んだ。
 計二十四発のロケット弾はしかし、突如閃いた光によってその半数以上が空中で爆発した。
 ハッと下を覗き込んだ伊織は、ダム前面の空間に展開するゴーレムと亀、そしてその背後に存在する対空砲の列を見つけた。
「迎撃用レーザー‥‥?」
 崖の砲台を攻撃用とすれば、下のレーザー砲群は防御用なのだろうか。それとも‥‥?
「考えるのは後にしよう。そろそろ、移動した方がいいんじゃないかな」
「そう、ですね」
 ノーンの声に伊織は身を引くと、警戒しつつ別の地点へと移動し始めた。

 腑に落ちない、と咲は感じていた。
 上陸してから数分が立ち、先程の伊織やノーンらと同様に対空兵器の観察も進んでいる。
 その間障害らしい障害はなく、偵察は至極順調であった。
(「できすぎだ‥‥」)
 確かに、KV隊への抵抗は激しい。対空砲火は間断なく吹き上げられ、その砲声は耳がおかしくなるのではと思う程だ。
 だが、それにしてはダム自体の警備がお粗末に過ぎるのではないだろうか。
 同様の疑問は一千風も感じていた。
(「まるで、迎撃の様子を観察させているような‥‥?」)
 双眼鏡から目を離しつつ、有り得ない想像だと一人苦笑する。
 しかし、その疑問はあることに気づいたことで更に高まった。
 HWが、いない。
 対空攻撃の激しさで分からなかったが、よくよく見ればKV隊は下からの攻撃を必死で避けているだけであった。
 恐らく、彼らはもっと早く気づいていただろう。そして一千風とほぼ同時に、咲もそれに気づいた。
(「どういうこと?」)
 酷く不自然な迎撃態勢に、一千風は戸惑う。
 そんな彼女の方を咲が叩いた。我に返った一千風は、男の示す方向へ視線を移す。
 そこでは崖の一部が開き始めていた。見る間にその口は展開しきると、そこからHWが飛び出していく。
 計五機が出撃していったことを見届けながらも、二人は得体の知れない悪寒に冷や汗をかいていた。
 その不快感を努めて意識から外し、咲は一千風を促して別の場所へと向かう。
 敵の思惑がどんなものであろうとも、それがこちらの利になるならば。
(「お前の思い上がり、必ず後悔させてやる」)
 咲は改めて記録機器の調子を確認すると、ぎりと奥歯を噛み締めた。

 ファルロスの濃縮レーザーが、キメラの首を切り裂く。
 声を上げる間もなく絶命した小型の狼キメラを素早く通路の端に片付けると、男は先行した律子へ向き直った。
 やや前方の曲がり角まで達していた彼女は、振り返って軽く頷く。
(「もっと警戒がきついと思ってたけどな」)
 ダム内に潜入してから、さっきのキメラで二体目である。
 理由は分からないが、内部の警戒態勢は拍子抜けするほどにザルだといっていいだろう。
 しかし、例えこのザルさ加減が罠にせよ、ダムの内部構造までは変えようがない。そしてその構造を把握したいと思っていた律子にとっては、現状はまさに願ってもないことだった。
 もっとも、十分というリミットを考えれば、あと数分で限界である。
 例の置き土産の設置を考えるなら、そろそろ取り掛かるべき時間だった。
「流石に、入ってすぐに行けるような場所に重要施設はない、みたいね」
 近づいたファルロスの耳元で、律子は囁く。
「元の守衛室だとか、そういうのはあったがな‥‥。まぁ、名残惜しいがそろそろタイムリミットだ」
 応じて囁くファルロスに頷き返して、律子は少し前方の扉を示した。あそこに設置しよう、ということだ。
 否定する理由も時間もなく、二人は慎重に扉を開け、中へと入り込む。
 そこで、思わず律子は微笑んだ。どうやら、元は配電室の一つだったらしく、様々な計器類が置かれたままとなっていたからである。
 現在は使われていないようだが、間違いなくここはダム内の電力ラインに通じているはずだ。
 すなわち。
「効果は抜群、ね」
「思わぬ幸運だ。ありがたく利用させてもらおう」
 カチリ、と使い捨てカメラのシャッターを押し込みながら、ファルロスもニヤリと笑った。

 派手な対空砲火を見上げながら、鴉はどこか楽しげに笑った。
「‥‥防衛施設、見ておきたかったんですよね」
 小さく呟きながら、青年はあるバグアの研究者を思い出す。以前のアルゲディの言葉で裏づけは取れたのだ。彼らは、ここにいる。 
 と、そこで鴉は、タケシが渋面を作っているのに気づいた。何事かと、その肩を叩く。
「‥‥以前にここにKVで来たときは、頭痛がしたのですがなぁ」
「頭痛‥‥キューブ、ですか」
 そういえば、と鴉は改めて周囲を見渡す。ゴーレムと亀、そして二つの対空兵器。
 施設にばかり目を取られていたが、確かにキューブは、更にはHWさえもいない。
「‥‥消えた」
「ええ。まぁ何にせよ‥‥情報が容易く、そして多く得られるのに越したことはありませんからねぇ」
 二人の思考は、そこで一旦アルゲディへと向かい、すぐに現状へと戻された。
 いずれにせよ動かなければ始まらず、いないならば好都合であることに変わりはない。
 ならば、と二人は取水塔へと目を転じた。あそこには、中へ入る扉があったはずだ。
 周囲を確認し、一気にその道を駆け抜ける。能力者にかかれば、二百メートルに満たないその距離など指呼の間だ。
 幸いにも扉に鍵は掛かっていなかった。
 中の階段を下りた先には、どうやら機械室があるようだ。
 その途中の踊り場で、先を窺った鴉は一段下の踊り場にキメラがいるのを見つける。
 外と違い、内部はそれなりに警備されているらしい。あくまでもそれなり、であったが。
 ともかくも、鴉とタケシは視線を交し合うと、瞬く間に距離を詰め、蝉時雨と機械刀を抜刀する。額に一文字の傷をつけた狼キメラの首が、小さな音を立てて転がった。
 残り時間にはそれほど余裕がない。機械室に置き土産をどうにか設置できるか、といったところだろう。
 二人は頷きあい、先を急いだ。

●鷲の思惑は
 八人の能力者がネバダハイウェイ沿いに集合するのと、物々しい装甲車が姿を現すのはほぼ同時だった。
「全員いるな! さぁ、乗った乗った!」
 運転席から顔を出したのは、アステローペだ。助手席にはアルキオネの姿もある。
「援護、感謝します。お仲間にも、急いで脱出をと!」
「言われなくても、もう逃げ支度さ。安心してくれ」
 後部に身を滑り込ませながら言う咲に、運転席の男は笑ってみせた。
 そして全員が乗り込んだことを確認すると、アスファルトを切りつけながら装甲車がUターンを決め、猛スピードで走り始める。
「い、いくらなんでも無謀じゃない!?」
 余りに大胆な脱出方法に、律子が声を上げる。
 しかし、アステローペはちょいちょいと上空を示した。
 何事かと、幾人かが窓から空を見上げる。
「‥‥何とまぁ」
 真っ先にノーンが苦笑した。
 そこには、HWと対空砲火を強行突破して、今にも道路脇に着陸せんとするKV隊の姿があったのだ。
「木を隠すなら森ってな! これなら、装甲車は目立たないだろ?」
「そういう問題でしょうか‥‥」
「気にしたら駄目」
 一千風の困惑した声に、アルキオネがボソッと答える。
 その時、地面が削れる音と共に、変形したフェニックスが着陸した。
 強引な着陸に脚部を軋ませながら、そのフェニックスは方向転換すると銃器を上空に向けて撃ち始める。
 それに援護されるかのように、残った七機も次々と着陸を開始した。
「‥‥ん?」
 と、念のためにと録画を続けていた咲は、機器に映った映像に少しだけ首を捻った。
 一瞬、画像がぼやけたような気がしたのだ。
「気のせい‥‥か?」
 張り詰めた緊張が、多少なりとも解けたせいだろうか。
 咲はそう思い、機器から目を離して窓を覗いた。
 HWはしつこく追撃をかけるかと思いきや、三十秒経たずに戻っていったようだ。
「ダムから五百メートル程度、ですかね」
「機械的な判断ですね。やはり‥‥」
 鴉の見立てに、伊織が唇を噛んだ。
 そもそも、全機が無事に強行着陸を成功させた時点で、やや不自然である。
 二三機落とされても不思議ではなかったろうし、現に彼らもそれを想定していただろう。
 それは、ミラー越しに見えるアステローペの怪訝な表情からも読み取れた。
「しかしまぁ、相変わらず無茶をするお人ですなぁ」
「ま、無事に終わったんだ。結果オーライ、で今はいいだろ」
 タケシは呆れたように呟き、ファルロスが少しだけ疲れたように応じる。
 それから少し後、ダムからいくつかの黒煙が立ち上るのが確認された。 



 ノースラスベガス空港、プレアデスの詰所。
 依頼を終えた能力者たちは、そこで簡単な報告をしていた。
 特に、ノーンの報告は分かりやすく纏まっており、対空兵器に関してのデータはかなりのものとなった。
 一通りの話が済んだところで、クラウディアが入ってくる。
 使い捨てカメラの現像と、映像資料の纏めが終わったので持ってきたという。その際、ファルロスには新しいカメラが手渡された。
 施設内部の写真と律子の話で、ダム内の浅い部分の構造は大まかに把握されることとなる。
 更に重要だったのは咲の撮った記録で、中でも装甲車に乗った後のものであった。
「補正を加えたものです」
 クラウディアの言葉と共に流れた映像で、咲は思わず声を漏らした。
 それは彼が違和感を覚えた場面であり、そこには明らかに何かが映っていた。
「恐らく、光学迷彩を施されたワームでしょう。攻撃をしてこなかったところを見ると、何かしらの支援機であると思われます」
「‥‥つまり、ダムの防衛施設は移動砲台、レーザー砲、光学迷彩のワームの三つ、ってこと?」
 律子の言葉に、恐らく、とクラウディアが頷く。
「これから、データの精査に掛かります。次回には、もう少し詳しくご説明できるでしょう」
「期待してるよ」
 そう言ってお辞儀をする彼女に、ノーンはひらひらと手を振った。



 フーバーダム。
「被害報告ー」
 マイヤーのやる気の無い声が響く。
 応じて、ブリジットが淡々と答える。
「ワームは予備と交代させておきました。問題は、彼らの置き土産です」
「アレは予想外だった」
 したり顔で頷く男に、白衣の女はため息をつく。
「‥‥ダムの電力系といくつかの区画の修復を合わせれば、一月は要塞化が遅れます」
「完成するかは、向こうの出方次第、かー」
 やれやれ、とマイヤーは首を振った。
「全く、あの人は何を考えてるんだか」