タイトル:【LR】疑念と難題マスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/23 21:19

●オープニング本文


 UPCラスベガス方面軍の突然の縮小。
 正に寝耳に水の事態に、ラウディ=ジョージ(gz0099)は急遽ノースラスベガス空港内の司令部へと向かった。

「どういうことか、説明はもらえるんだろうな」
「軍機だ」
「‥‥傭兵にも、仕事を選択する権利はあるんだぞ?」
「お前たちの仕事は、『ラスベガス解放、及びフーバーダム攻略までの協力』だったはずだが――」
 途中放棄でもするのかね、と言外に含むUPC士官。
 一度引き受けたものを投げ出すのは、傭兵には致命的な汚点となりうる。
 無論のこと、正当な理由があれば別ではある。今回のような、依頼主の勝手な行動も、十分にその範疇だろう。
 だが、このUPC士官もまた曲者であった。
 彼はラウディのプライドを刺激したのだ。
 それがわかっているのか、ラウディは苦虫を噛み潰したような顔で問いを重ねる。
「軍機といったな。ラスベガスを置いても実行する価値のある作戦か」
「軍機だ」
「弐番艦も北米に帰参し、攻勢はこれからという時期に、前線を縮小してまでする作戦か」
「軍機だ」
 沈黙が流れる。
 しばらく後、あからさまに舌打ちをしてラウディは身を翻した。
「いいだろう。やってやる。KVの許可くらいは下ろせるんだろうな」
「好きにしたまえ」
「その言葉、忘れるなよ。‥‥最後に、一つだけ聞かせろ。勝算はあるんだろうな」
 肩口に振り返り、無表情なUPC士官を睨むように見据える。
 士官は少しだけ口元を歪め、答えた。
「軍機だ」



「どういうことです?」
「お偉いさんの事情だろう。既に決定事項だとさ」
 報告書に怪訝な、というよりは少々の怒りを見せながらクラウディア=ホーンヘイムが訊ねた。
 問われたラウディ自身、明確な回答を得たわけではない。
 彼女の訝しげな視線に、お手上げだと両手を挙げてみせる。
「ノースラスベガス空港に駐屯するKV隊の半分を撤収。これだけで、戦局が傾きます」
「正味八機か。戦力比で見れば四分の一になったわけだ」
「他人事のように仰らないでください」
「俺たちにもKV使用許可が下りた。プレアデスのKVで九機。数は合う」
「‥‥全機をフル稼働させられるほど、私どもの予算は潤沢ではありません」
 途端にジト目になるクラウディア。
 言外に、最近フェニックスを導入したラウディへの批判を込めているのだ。
 その目を涼しげに受け流しながら、彼は言ってのける。
「そのための、最後の希望だろう?」



「――というわけで、ラウディ=ジョージ氏からの依頼だ」
 集まった能力者を前に、メアリー=フィオール(gz0089)が説明を始める。
「フーバーダムが要塞化されつつある、というのは聞いたことがある者もいるかと思うが」
 そう前置きして、彼女は続ける。
 長くなるので要約すれば、以下のようなものだ。
 ラスベガスに駐屯するUPCのKV隊が縮小することが決定された。
 代わりとして、現在までUPCに協力していたプレアデスのKV隊が投入されることとなる。
 しかしながら、正規軍と比べて稼働率は落ちざるを得ず、解放した都市部の防空に不安が生じる。
 故に、正規軍が縮小する前にフーバーダムを強襲し、敵航空戦力にダメージを与える。
「――尚、この作戦はフーバーダムの偵察も兼ねているそうだ。無理はする必要はないが、報酬は敵の損害で決定する、ということだ」
 質問は、と促すメアリーに、周囲がざわつき始めた。
 要するに、小規模とはいえ、敵の本拠地に突入して一暴れしてこい、という内容だ。
 何が待ち受けているのか、何が起こるのかは全くもって不明。
 戸惑うな、という方が無理がある。
(「やれやれ。あの人の本領発揮、か」)
 メアリーは以前の無理難題を思い出し、そっとため息をついた。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
ルクシーレ(ga2830
20歳・♂・GP
常夜ケイ(ga4803
20歳・♀・BM
天龍寺・修羅(ga8894
20歳・♂・DF
火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
クリス・フレイシア(gb2547
22歳・♀・JG

●リプレイ本文

●二匹の兎
 ノースラスベガス空港。
 陽炎の上がる滑走路を歩きながら、クリス・フレイシア(gb2547)は視界にラウディ=ジョージ(gz0099)の姿を捉え、一度姿勢を正してから深々と頭を下げた。
 服の端から覗く包帯が、その理由だ。
 気にするな、とでも言うように軽く手を振るラウディにクリスは少しだけ笑うと、改めてコックピットへと向かう。
 その姿がキャノピーに納まったことを確認すると、煉条トヲイ(ga0236)と平坂 桃香(ga1831)の雷電を先頭に、八機のKVは離陸していった。
『あ! そうだ! みんな! 遠足は家に帰るまでが遠足だよ♪』
 その途中、フェニックスに乗る火絵 楓(gb0095)が声をかける。
 苦笑交じりに皆の返答が入り、八機は上空で隊列を組み直し、目的地へと向かった。 
「クラウディア」
 ふと、ラウディの目が細められる。
 何機かのKVに、気になる武装が積まれていたからだ。
「‥‥二機ほど、フレア弾を搭載しているようです」
 傍らのクラウディア=ホーンヘイムの言葉に、ラウディはやれやれと首を振った。
「依頼の条件は確かめろ、と何度言わせる気だ」
 呟いて、彼は格納庫へと歩き出す。
 慌てたように、クラウディアが続いた。
「俺の機体も出す。あと二機、いや、三機見繕え」
「‥‥二十分頂きます」
「いや、十分だ」
 杞憂で済めばいいがな、と続けながら、ラウディはプレアデスのメンバーを呼び出し始めた。



 ラスベガスから南東へ飛行し、コロラド川に達したところで八機のKVは北へと転進した。
 川面スレスレを飛行して、接近を誤魔化そうという狙いだ。
 この辺りは峡谷地帯であり、低高度からの侵入を試みた場合はフーバーダムの正面に出るこのルートが最も適しているだろう。
「こちらブービー。クリスさん、偵察に関して俺の意見通してくれて、ありがとな」
『‥‥ああ、気にすることはないよ』
 ワイバーンを駆るルクシーレ(ga2830)が、手元の地図に情報を記入しながら声をかけた。
 常夜ケイ(ga4803)のウーフーを介した指向性通信なので、この距離なら傍受される恐れは少ない。
「ヨネモトさんの緑色のKV、縁起がいいぜ。昔、ダムバスターズって呼ばれた部隊のカラーなのさ」
『ほほう。良い事を聞きましたよぉ』
 続けてヨネモトタケシ(gb0843)に話しかけるルクシーレ。
 そういった部隊があったことは事実だが、基地施設はともかく、ダム自体を破壊するのはよろしくないだろう。
 そんな験担ぎに対する無粋な突っ込みはともかくとして、ケイが通信に割り込む。
『はい、流石にそろそろおしゃべり禁止で』
 この間にも、ダムとの距離は迫っている。
 沈黙が降りると同時に、緊張感も高まっていった。

●フーバーダム
 時は少しだけ遡る。
 アルゲディ(gz0224)が、司令室でディスプレイを眺めていた。
 そこには、ラスベガス市街の様子と、基地へ近付く何かの動きを捉えたレーダースクリーンが映っていた。
「随分と、回りくどいルートを使うな」
「案外、ばれてないと思ってるんじゃないですか?」
 呟いた青年の隣で、アルドラが楽しげに追従した。
「ふ、そうかもしれん」
 そう言うとアルゲディは立ち上がり、格納庫へと向かう。
「無人機は上に上げておけ。手筈通り、誘い込めるだけ誘い込む」
「りょーかいです!」
 明るく返事をする少女とは対照的に、アルゲディは暗い笑顔を浮かべていた。

「あれ、か」
 緩やかなカーブを越えると、目の前に巨大なダムが見えた。
 その威容に、天龍寺・修羅(ga8894)は思わず呟く。
 距離は凡そ五百メートル。ダムの横幅は、大体二百メートルといったところか。
 外敵の侵入を許しているというのに、周囲は静まり返っている。
 ここまで、能力者たちが想定していた哨戒機も飛んでいなければ、対空砲火もまるで無かった。
(「‥‥妙だな」)
 トヲイが訝しむが、抵抗が無いならばそれはそれで好都合だ。
 そして、ここまで来れば無線封鎖も意味は無い。
『さ〜てみんな〜ガンバロね〜♪ それじゃ‥‥ハッピースターでぇ‥‥ready‥‥GOー!!』
 楓のフェニックスが先陣を切って上昇し、ある程度のところで反転、急降下の体勢へと入る。
 フレア弾を投下するためだ。
『楓ちゃんから〜バグアの皆さんに〜ぷれぜんと・ふぉ〜・YOU!!』
 明るい声で告げる楓だが、内心では少々焦っていた。
 対空砲の姿も無く、格納庫や倉庫といった存在も見えない。
 特徴的な傾いた鉄塔と送電線は見えるものの、それらはダムの建設当初から存在していたものだ。
 その懸念は、彼女以外にも対地攻撃を考えていた桃香、修羅、タケシ、クリスにとっても同様だった。
 何より、ダム前の空間は予想以上に狭く、少しずれれば間違いなくダムさえも破壊しかねない。
 結局、楓は途中で投下を取りやめ、ダムの上空を旋回し始めた。
 明確な攻撃目標が無い以上、どこを狙うべきか。
 ‥‥そういった僅かな逡巡が、能力者たちをフーバーダムへと近づけすぎた。

『これ以上の深入りは、危険じゃないか?』
『私も、何か嫌な予感がします。一旦離れ――』
『遅い』
 トヲイと桃香が、極限まで達した違和感にそう通信を入れた瞬間、外部から声が割り込んだ。
 その声がアルゲディのものである、と幾人かが気付く前に、能力者たちを激しい頭痛が襲う。
「ぐあっ‥‥!」
 思わず手で頭を押さえるほどの激痛に、KVは動きを乱す。
 その時、奥歯を噛み締めて機体を立て直そうとしていたトヲイは、いつの間にか地面とダム周辺の岸壁が開き、そこから次々と対空砲とタートルワーム、巨大な砲と盾を構えたゴーレムらが出現してくるのを見た。
 そして、その中の一点に彼の目は集中する。
『キューブワーム‥‥!』
『ほう、目ざといな。その声‥‥トヲイ、だな』
 盾を構えたゴーレムの背後に、立方体のワームが鎮座していた。
 不気味に発光するこれこそが、今能力者たちを襲う頭痛の正体である。その数、ゴーレムと同じく五体。
(「駄目だ、射線が!」)
 CWを狙うには、体勢が悪すぎた。
『落ち着いて! 地上からの対空砲なら早々当たりは‥‥きゃあ!』
 ケイが必死にアンチジャミングを展開する中、遂に地上から猛烈な砲火が吹き上がる。
 当たりこそしないが、岸壁とダム、そして砲火によって限定された空間では、満足な戦闘機動は望めない。
『み、皆、今助けに!』
 やや上空を飛んでいた楓が、再び急降下の体勢に入った。
『遅い、といったはずだ』
 突如、上空からプロトン砲が殺到する。
 背後からの光条に、フェニックスの機体が大きく揺れた。
 慌てて背後を確認した楓の目に映ったのは、高空からダイブしてくるHWの姿だ。
 その一機が、すれ違い様にフェニックスの主翼を強かに切りつける。
『きゃあ!?』
『火絵さん!』
 楓の悲鳴に、ルクシーレがサポートに向かおうとし、その鼻先を亀のプロトン砲が制した。
『こ、ここでHWの登場ですか。やってられませんね』
『くそ、流石はアルゲディ‥‥ご丁寧なお出迎えに、嬉しくて涙が出そうだ‥‥っ!』
 さしものトヲイと桃香でも、このジャミングでは機体の動きが緩慢だ。
『不覚ですよぉ‥‥て、敵の考えをこうも読み違える、とは‥‥』
『それより、早く退路を確保しないと‥‥!』
 修羅の言葉に頷きながら、タケシは歯を食いしばって機体を反転させる。
 その目前にダイブしてきたHWが立ちはだかった。数は三。
 対処を考える間もあればこそ、三機は一斉にミサイルを発射した。
『K−02!』
 ケイの悲鳴とほぼ同時に、空間が爆発の連鎖で埋め尽くされる。
『‥‥っぁ!』
 木の葉のように揺れるコックピットの中で、クリスは声にならない悲鳴を上げた。
 身体が軋む。
 息を荒げて痛みを堪えながら、機体のコンディションをチェックする。今の攻撃だけで、損傷は四割に迫っていた。
 テーバイによる自動迎撃が無ければ、もっとやられていただろう。
『な、何もできないまま終わりはしない‥‥!』
 朦朧とする意識の中で、クリスはライフルの引き金を引く。
 だが、それは当たらず、逆に反撃のフェザー砲が雷電の装甲を焼いた。
『クリスさん!』
『やらせん‥‥!』
 自身らも多弾頭ミサイルで傷つきながら、修羅とタケシはありったけのロケット弾をHWへと撃ち込む。
 弾頭は悠々と回避されたが、進路は開けた。今はそれで十分だ。
『全く、これだから!』
 間髪を入れず、ケイが煙幕装置を射出した。
『すまない‥‥!』
 吹き上がる煙幕に飛び込むように、クリスの雷電が離脱していく。
『申し訳ありませんが、私もお先に』
 続いて、ケイのウーフーが離脱した。
 今まで何とか収集し続けた情報を無駄にできない、という判断からだ。
 だが、唯一の電子戦機を欠いた影響は無視できない。
『このぉ‥‥!』
 直後、錐揉みから立て直した楓が、ライフルとレーザーを撃ち放ちつつ突入する。
 片側の主翼には大きく傷が走っているが、まだまだ飛べる。
 それでも、五体のCWによるジャミングは想像を絶するほどに強力だ。
 有効打を与えられぬまま、彼女も乱戦の只中に入った。
『うーん、いっそK−02でCWをやっちゃうべきですかね‥‥!』
『それしか無いか‥‥? 俺と平坂の全弾を叩き込めば、少なくとも二三機は破壊できる‥‥!』
 その装甲で攻撃を防ぎ続けるトヲイと桃香は、揺れる機体を何とか保たせながらK−02の照準を手動で地上の目標へと合わせていく。
 元々対空用だ。命中率はジャミングと相まって望めないが、敵も動いてはいない。
 二人の雷電が一度に発射できるK−02は、総計で2250発。そこまで分の悪い賭けでは無いはずだ。
『させると思うか?』
『ああもう! やっぱり来ますよね! 私でもそーします!』
『お出ましか‥‥』
 突如、やはり高空から恐ろしい速度でダイブしてきたHWが、二機の雷電の装甲をなで斬りにした。
 無人機の攻撃力ではない。アルゲディだ。
『撤退だ! 思いつく情報は集めた! これ以上は、こっちがやられちまう!』
 楓機をカバーしつつ突撃ガドリングを撃ち放していたルクシーレが、敵エースの登場で躊躇い無く叫んだ。
『し、しかしHWは一機も!』
『せめて一太刀‥‥!』
 修羅とタケシは、それでも無人HWへと向かっていく。
『くく‥‥見苦しいな』
『黙れ、道化め!』
 アルゲディの言葉に、トヲイがリニア砲で答える。
 その砲弾を避けたところへ、超伝導アクチュエータを起動した桃香の雷電が剣翼を閃かせて迫る。
『やぁやぁウィリアムさん、アナタの本読んだけど、中々面白かったですね。今度、サインくださいよー!』
『‥‥その名前で呼ばれるのは、随分と久しぶりだ』
 微かに笑った青年は、同じく剣翼で迎え撃つ。
 噛みあった切っ先が、激しい火花を散らした。

●苦い教訓
 数度の激突の後、アルゲディが哄笑する。
『強いな、お前たちの機体は!』 
『‥‥お褒め頂いて、どーも』
 青年の声と頭痛とで顔をしかめながら、桃香は油断無くHWを見据える。
『正面からでは、やはり分が悪いか。くく‥‥』
(「嫌味を‥‥!」)
 ぎり、とトヲイが歯軋りをする。
 彼と桃香はアルゲディの足止めに精一杯だ。
 むしろ、この状況ではよくやっている方だろう。それ程に、今の形勢は能力者側に不利だった。
 複数のCWによるジャミング。
 迂闊に敵陣へ深入りしすぎた代償は大きかった。
『うわ!?』
『天龍寺さん!』
 その時、修羅の駆る機体が致命打を浴びた。
 フェニックスの象徴たるSES−200エンジンが火を吹いている。
『くそ‥‥脱出する‥‥!』
 悔しげな言葉と同時に、制御不能となった機体からコックピットブロックが撃ち出された。
 主のいなくなった機体は、そのまま川へと突っ込んでいく。
『これ以上は本当にやばいぞ!』
『く‥‥背に腹は、変えられませんか‥‥!』
 ルクシーレの声に、タケシが苦渋の声を漏らす。
『二人とも、早く!』
 と、楓が二人を促すようにライフルとレーザーで前方のHWを散らした。
 その穴をルクシーレのワイバーンが突き抜け、僅かに遅れてタケシのアヌビスが続いた。
『火絵さんも!』
『へへ、あたしは二人を迎えに行ってくるよっ♪』
 それを制止する間もあればこそ、楓はブーストでトヲイ達の方向へ向かっていく。
『三人だけで空中デートなんてずるいぞ〜♪ あたしも混ぜてよね♪』
 フェザーミサイルをばら撒きながら、フェニックスが三機の間を横切った。
 200発の弾頭はしかし、アルゲディに掠りもしない。
『‥‥ふん、邪魔さえしなければ見逃してやったものを』
『ふぇ?』 
 つまらなそうな青年の声が聞えたかと思った瞬間、楓の機体をフェザー砲が襲った。
 それは傷ついていた主翼を焼き切ると、もう片方にも大穴を空ける。一瞬で、KVは操縦不能となった。
 推力を失って墜落するフェニックスから、操縦席が射出される。
『さて‥‥仕切り直しといこうか』
 それを気にもせず、HWは二機の雷電へと向き直った。
『これは‥‥覚悟を決めるべきですかね?』
『諦めるな。まだ、俺たちは落ちちゃいない』
 頭痛を堪えながら、トヲイと桃香は周囲を見渡す。
 他のHWが退路を断つように旋回し、地上のゴーレムや亀に対空陣地もまた、その砲口を二人に向けていた。



 五分後。
 ラウディのフェニックスをはじめとする四機がダム上空に達した頃には、雷電は飛んでいるのが不思議という状態だった。
『まだ生きているな? チッ、サイコロ風情が‥‥!』
 ロングボウ二機による遠距離からのミサイル斉射によって退路が切り開かれ、突入したフェニックスとアンジェリカによるラージフレアと煙幕装置が雷電を保護する。
 その機を逃さず、辛うじて残っていた錬力でブーストを全開にして、二人は包囲網を突破した。

『あー、世界ってこんなに静かだったんですねぇ』
『CW‥‥想定はしていた。‥‥甘く見すぎたか』
 漸くCWのジャミングから逃れたところで、トヲイと桃香はKVを自動操縦にする。
『脱出した奴らは、俺たちの別働隊が回収した。‥‥全く。よりによって敵の基地で、あれもこれも、と欲張るからだ』
『ごもっともでー‥‥』
『面目ない‥‥』
 目標が増えるほど、一つに対する注意力というのは散漫になる。
 今回に限って言えば、HWの撃墜に目標を絞るべきだった。
 そのついでに基地の情報も得られれば上々、であったのだが、能力者たちはその「ついで」に力を裂きすぎた。
 だが、その通信に満足に答えるには、二人は消耗しすぎているようだった。
 それを察して、ラウディは小さくため息をつく。
『まぁ、基地の情報は思った以上に手に入った。それに免じて、これ以上の説教は勘弁してやる。――クラウディア、空港に医療チームを待機させておけ』
 その声が聞えたのを最後に、二人の意識は闇へと沈んでいった。