タイトル:研究所へのお誘いマスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/31 16:25

●オープニング本文


 メルス・メス社。フィリップ研究室。
 フィリップ=アベル(gz0093)は、渋面を作ってディスプレイに示された数値を見つめていた。
 強度計算か、それとも設計に問題があるのか、ともあれその数値は彼の期待値と比べてかなり低いものだった。
 また図面とにらめっこか、とフィリップは椅子の背もたれを軋ませる。
 そんな彼に、アラン=ハイゼンベルグが近付いてきた。
「博士、お手紙が届いていますよ」
「‥‥そうか。ありがとう」
 いえ、と笑って一礼すると、アランは踵を返す。
「ハイゼンベルグ君」
「何ですか?」
「あー‥‥アルバトロスの方はどうかね?」
 自分自身、何故呼び止めたかは良く分からなかったが、何とか話題を見つけてフィリップは言う。
 アランは再び体をフィリップに向き直らせるた。心なしか、その表情は明るく見える。
「簡易変形を採用したモックアップは完成しました。現在はテンタクルスの生産ラインがどの程度使えるかを検証中です。それが終われば、上に成果を報告するだけですよ」
「‥‥そうか。わかった。時間を取らせたな」
「そんなことありません」
 心底充実している、といった表情でアランはもう一度頭を下げ、自分の持ち場へと戻っていく。
 フィリップはそんな若者の背中を少しだけ眩しそうに見つめると、手元の手紙の存在を思い出した。
「俺に手紙、ね」
 珍しく思いながら、彼は差出人の名前を確かめ、おやと驚いた顔をする。
 その名前はジェーン・ブラケット。
 フィリップがまだドロームの研究室にいた頃、それなりに親しくしていた女性だ。
「確か‥‥素粒子物理学だったか」
 彼女の専門を思い出しながら、内容を確認する。
 それは、OSAKA文化学術研究ミレニアム、通称エイジア学園都市に新設された研究所への招待状だった。



 日本の暫定首都、大阪。
 その北東に存在するエイジア学園都市は、ドロームがかなり出資したという噂もある一大学術都市である。
 そこに降り立ったフィリップは、活気のある都市の様相に少々圧倒されながらも、手紙に記されていた研究所の住所へと向かった。
 彼は一向に進まない新型KV設計の気分転換にと休暇を申請し、ジェーンの招きに応じたのだった。

 窓から見える広大な敷地と真新しい施設を観察しながら、フィリップはジェーンが現れるのを待っていた。
 少しして、向かい側の建物から小走りにかけてくる女性の姿が目に入る。
 彼女が近付いてくると、フィリップも立ち上がって出迎えた。
「ごめん、待たせた?」
「いや」
「なら良かった。んー、大体一年ぶりかしら」
 握手を終え、ジェーンは形の良い唇に指を当てて考え込む。
 整った容姿の彼女は、その高い身長も相まって仕草が一々堂に入っている。
「俺がメルス・メスに行ってからは会ってないからな。そんなものだろう」
「ま、立ち話もなんだし。場所を変えましょ」
 糊の利いた白衣を翻して、ジェーンはフィリップに背を向ける。
 対照的によれよれのスーツを着たフィリップは、以前と変わらぬ彼女の様子に少しだけ笑みを浮かべ、その後について行った。

 所長室兼ジェーンの研究室へと到着すると、フィリップはおもむろに口を開いた。
「で、何の用だ?」
「‥‥相変わらずね。久々の再会なのに、少しは会話を楽しむ気は無いのかしら?」
 綺麗に整頓された室内の一角でコーヒーを用意しながら、ジェーンは苦笑する。
「わざわざ新しい研究所を案内するためだけに、俺を招く訳も無いだろう?」
「まぁ、ね」
 コーヒーの入ったカップをフィリップの前に置き、彼女もまたその対面に座る。
「この研究所が何をする場所かは、手紙に書いたと思うけど」
「粒子加速装置を利用した素粒子物理学」
 その通り、とジェーンは一つ頷いてカップに口をつける。
 漆黒の液体をゆっくりと味わってから、彼女は言った。
「ドロームのお偉方は、素粒子物理学の兵器転用しか考えていないわ。もっともそれには、この研究所設立を上奏したときの私の言い分も結構影響してるんだろうけど」
 幾分か自嘲気味に笑ってから、残りのコーヒーを一気に飲み干す。
『バグアの科学技術に追いつくには高エネルギー物理学、とりわけ素粒子物理学の研究こそが重要』
 ジェーンのその主張と熱心なアピールとが実を結び、ドロームはエイジア学園都市に長大な粒子加速装置とそれに付随する研究所の開設とを許可したのだ。
 そうである以上、研究所には「バグアに打ち勝つための成果」が求められる。
 そして、ドロームは「成果」をあげない研究者などすぐに振るい落とすのだ。
「‥‥加速装置は、まだ完成していないわ。もうすぐ試験運用が始まるけれど、とりあえずそれまでに、私たちは今後の研究計画を練らなくちゃいけない」
「兵器に関しちゃ素人だが、軍事転用を考えればその知識は不可欠。そこで、俺か」
 ジェーンは、少しだけ申し訳無さそうに頷く。
「都合の良い頼みだとは分かってるけど‥‥私には先輩くらいしか頼れる人がいなくて」
「今更先輩はよしてくれ。いつも通りで良い」
 急に改まったジェーンに、フィリップは笑う。
 ふと、彼女が飛び級で博士号を取得し、フィリップがいた研究室へ配属された当時を思い出した。
 競争原理が強いドロームでは、同じ研究室内でも互いを必要以上にライバル視する者は珍しくなかった。
 そこへ来て、優秀な若い研究者が新たに配属されたとなれば同室の者は面白くはない。
 冷遇されたジェーンは、自然とそういった確執とは無縁だったフィリップに近付いたのだ。
「そうだな、素粒子を取り扱うなら知覚兵器だろうが‥‥」
 回想もそこそこに、フィリップはふむと考える。
「とりあえず、現物はドロームか大阪のUPCに言えば適当に回してくれるだろう。KVにしろ兵装にしろ、生で見るのが手っ取り早い」
「なるほど‥‥」
 熱心にメモを取り出すジェーン。
 研究室時代に逆戻りしたような心地で、フィリップは続ける。
「理論上可能な兵器と、実際に「使える」兵器は違うのが常だが‥‥これに関しちゃ、現場の奴らに聞くのが一番だろう」
「現場‥‥UPC軍の人に来てもらうの?」
「いや、それよりラストホープの能力者を招く方が早いだろう。下手な軍人より実戦も経験しているし、な」
 幾度か会った能力者たちを思い出して、フィリップはニヤリと笑った。

 こうして、ラストホープに研究所からの招待状が届けられたのだった。

●参加者一覧

九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
楓華(ga4514
23歳・♀・SN
藤宮紅緒(ga5157
21歳・♀・EL
マーガレット・ラランド(ga6439
20歳・♀・ST
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

●理想と現実
 機能性とデザインを両立した、という触れ込みの建造物の中を能力者たちは歩く。
 目指すは、研究所の主であるジェーン・ブラケットの部屋である。
「‥‥おお、あれはもしや、去年の論文で有効性が実証された装置では‥‥」
「目敏いな」
 自らを問題児と自覚するマーガレット・ラランド(ga6439)が、最新鋭の設備に目を見張る。
 苦笑して、フィリップ=アベル(gz0093)は歩みを止めかけた彼女を促した。
 残念ながら、今回は研究所の見学が目的ではない。如何にラストホープの能力者とはいえ、最先端の研究施設をおいそれと見回らせる程、ドロームも甘くはなかった。
 ともあれ、入口から五分程歩いたところで、九人は所長室へと辿り着いた。
「ようこそ。当研究所で所長を務めている、ジェーン・ブラケットです」
 扉を開けて入った能力者たちを、ジェーンは笑顔で出迎えた。
 実際に対面して改めて緊張したのか、藤宮紅緒(ga5157)はあわあわとお辞儀をする。
「‥‥あ、え、えと‥‥藤宮紅緒です。‥‥あんまり知識が無いモノで‥‥頓珍漢な事言うかもしれませんが‥‥」
「私も余り兵器に詳しいわけではありませんが、どうぞ宜しくお願い致します」
 楓華(ga4514)も、紅緒に合わせて礼をする。
 初々しいその様子にジェーンはくすりと笑ってから、能力者たちに席を勧めた。

 品の良いカップに注がれたコーヒーを少しだけ味わってから、九十九 嵐導(ga0051)がまず口火を切った。
「とりあえず、兵装に余り馴染みがないと言う話‥‥。俺なりに、現在店で流通しているデータを簡単に纏めてみた」
「助かります」
 気にするな、と身振りで示すと、嵐導は鞄から紙を取り出して机に広げた。
 まずは、陸戦でも空戦でも使える銃器タイプの兵装である。
 高分子レーザーに代表される、カートリッジでエネルギーを供給するタイプが一つ。
 もう一つは、帯電粒子加速砲のように機体の動力と直結させて高エネルギーを実現するものだ。
 次に、空戦でのみ使用される航空兵装。
 現在は試作型G放電装置のみがショップに置かれているが、これは敵機の周囲に放電現象を起こして攻撃するものである。
 最後に陸上で使用される近・中距離兵装。
 高濃度圧縮レーザーを使用する試作剣「雪村」と、導体にビームを流すことで攻撃するウェイフアクスなどがその代表だろう。
「‥‥取り回しの良い火器が不足気味、でしょうか?」
 嵐導の纏めたデータを眺め、ジェーンはぽつりと呟いた。
「ショップ以外の品は省いてあるから一概には言えんが‥‥」
 少しだけ鼻の頭をかきながら、嵐導が続ける。
「リロードが可能で、且つ長射程の銃器が増えればありがたいと考える」
「賛成ですわ」
 おっとりとした微笑を浮かべながら、クラリッサ・メディスン(ga0853)が首肯した。
「現在の主流は、3.2cm高分子レーザー砲だと思いますが‥‥射程が若干短いのが難点ですわね。射程を延ばすために機体動力を回す、といった措置が施された改良型も存在しますが、結果的に燃費が悪くなり、長期戦に向かないなど戦場を選ぶ兵装になっていますわ」
「そうですねぇ。錬力消費を抑えるか無くして、射程を延ばしたものが欲しいです」
 平坂 桃香(ga1831)も、うんうんと頷いている。
「錬力の消費が少ない、というのは大きな利点ですね」
「個人的に‥‥少々重量があっても‥‥欲しい、です‥‥」
 楓華と紅緒も、高分子レーザーの改良は望むものであったようだ。
 特に紅緒は、口調こそ穏やかだが、目がキラキラと輝いている。かなりの期待を抱いていると見える。
 砕牙 九郎(ga7366)もまた、改良案を持ってきたようである。
「とりあえず、武器にはまず汎用性と、できる限りの継戦能力、あとは命中精度が必要だと思うんだよな。そんなわけで、こんな案はどうだろ?」
 彼が提示したのは、高分子レーザーを元として射程と命中を向上させた、いわばロングレンジレーザーライフルといったものだった。
「射程‥‥高出力化が必要ですね。命中は機械精度の分野ですので、私どもではカバーするにも限界はありますが‥‥」
 ジェーンは熱心にメモを取り、能力者の意見を実現するためにどういった研究が必要であるかを纏めていた。

 レーザーに関しては一通り意見が出尽くしたようで、皆が休憩がてらにやや温くなったコーヒーをすする。
 ふと、思い出したように桃香が声を上げた。
「そういえば、空戦専用の兵器はG放電の二種しかないんですけれど‥‥もう少しバリエーションが欲しいですよね」
「ですわね。命中はあそこまで高くなくてもよいので、もう少し威力と、後は弾数ですかしら?」
 クラリッサの同意に桃香も、それです、とぴっと指を立てた。
「‥‥放電の範囲を集中すれば、威力の向上は可能、か」
 今まで黙っていたフィリップが呟く。
「装弾数を賄うには、コンデンサの効率化‥‥それは私たちの出番ね」
 ジェーンは、再び忙しなくメモを取った。
「研究所の性格を考えれば、帯電粒子加速砲の改良やその発展版なんかも開発できるんじゃないか?」
 私たちの出番、という言葉で研究所の研究対象を思い出した嵐導がそう提案する。
 なるほど、とジェーンは頷いた。
 量産型M−12帯電粒子加速砲などは強力な兵装ではあるが、まだ改良の余地は十分にあるように思えた。
「帯電粒子加速砲の改良もいいけど、それだけじゃつまらない‥‥わよね?」
 そこでニヤリと笑みを浮かべて、鯨井昼寝(ga0488)は身を乗り出した。
 
●机上の空論?
「粒子加速兵器のデメリットは、何といってもデカいことよね。兵装だけで完結させようとしても、どうしても使い勝手が悪くなってしまう‥‥」
 昼寝はもったいぶるようにそこで言葉を切ると、一旦コーヒーで口を湿らせた。
「そこで、発想の転換よ。兵装だけじゃなくて、機体そのものに加速器を組み込めば‥‥例えば、KVを巨大なリングが取り囲むような感じでね」
 話しながら、彼女はテーブルの上の紙にさらさらとイメージ図を書いていく。
 その姿は後光を背負ったような、あるいは天女の羽衣を纏ったようなものにも見えた。
「整備性は落ちるが‥‥そうか、機体表層に循環式のバイパスを‥‥」
 フィリップは何かインスピレーションを受けたのか、ぶつぶつと呟き始める。
 それには構わず、昼寝は更に持論を展開した。
「このリング自体が光の刃と化して、武器になるの。そうね、知覚版のソードウィング、っていうのが近いかしら?」
「‥‥加速器から得られるエネルギーで、機体、いえリングの表面を一時的にコーティングする訳ですね」
 興味深そうに何度も頷きながら、ジェーンは細かくメモを取っていく。
 強度や構造の問題は容易に予想できるものの、その発想自体は非常に価値のあるものに思えたのだ。
 兵装の運用主体としてのKVではなく、兵装の一部としてKVを見る。
 あるいは、彼女のアイデアはコロンブスの卵となるかもしれなかった。
 そんな昼寝の意見に触発されたか、他の者も次々と腹案を披露していく。

 楓華は、陸空で使用でき、陸戦時には射程が二倍となる弓形の銃器と、地雷式の知覚爆弾を提案した。
 フィリップが自分の世界に没頭していてその問題を諭すことができなかったため、ジェーンはそれを丁寧にメモしていたのだが、どちらも技術的な障壁は大きい。
 まず、KV用の弓は元々機構が複雑なため、それを更に複雑にする武器は実現が難しい。仮に実現できたとしても、重量と値段が嵩む上に大した能力は期待できないだろう。
 地雷式の知覚爆弾であるが、SES兵器はその性質上、時間経過と共にその威力を大幅に減じてしまう。つまり、設置式の兵器とは決定的に相性が悪いと言う問題があるのだ。
 ただ、もう一つ彼女が提案した新式の通信法の開発、というものは一考に価する可能性があった。
 バグアのジャミングの影響を受け難い通信の研究は、あるいはジャミング中和研究の進展にもつながるかもしれない。

 紅緒がおどおどと提案したのは、自機を中心とした範囲攻撃武器、そして知覚版ミサイルだった。
「‥‥MSIのペインブラッドだったか? 似たようなシステムを搭載していたな」
 不意に現実に帰還したフィリップが、他社の機体はあまり引き合いに出したくないが、と前置きをして、以前に耳にした情報を口にする。
 出力制御、及びエネルギー消費の問題さえクリアすれば実現は可能に思えるが、その二つが実に難しいのだろう。
 知覚版ミサイルに関しては、炸薬の代わりに圧縮粒子を充填すればとりあえずは形になるはずだ。
 ただし、高威力を期するには長い研究が必要となると思われた。
「もし、実現するなら‥‥名前は‥‥例えば、錬ミサ‥‥やっぱり、何でもないです‥‥」
 名称に関しては、焦って決める必要も無いだろう。

 マーガレットは素粒子物理学にも明るいらしく、最先端のミューオンを利用したアイデアをいくつも用意していた。
「ミューオンを利用して、核融合炉の超軽量化が可能です。帯電粒子加速砲や、KVの予備動力にも最適かと」
 と、自信満々に提案したは良いのだが、ジェーンの反応はイマイチであった。
 何故ならば、核融合炉は未だに理論段階であり、仮に開発できたとしてもコストの問題でKVレベルの兵器に使えるとは考えられなかったからだ。
 彼女の他の提案、ミューオンレーダーやミューオン冷却砲に関しても、やはり理論上は可能であっても、コスト面で実現は無理だと判断されてしまった。
 といっても、ミューオンの研究自体が打ち切られる訳ではない。あるいは、いつの日かこれらのアイデアが日の目を見る時が訪れる、かもしれなかった。

「空戦で使える広範囲兵器が欲しいんだってばよ」
 そういって九郎が提案したのは、いわば知覚版グレネードランチャーといったものだった。
 先程の知覚版ミサイルと同様、試作するだけならば問題は無いかもしれないが、実用となると問題は大きいだろう。
 また、同様に提案された広範囲攻撃兵器としてのビームバズーカも、フィリップの駄目出しを受けてしまった。
 前方20〜30メートルを纏めて攻撃できるビーム、という兵器はKVには荷が勝ちすぎるのだ。
 それこそ、ユニヴァースナイト並みの出力が必要となってしまうだろう。
 気を取り直すように九郎が提案した近接兵器は、腕部に内蔵した装置によってインパクトと同時にエネルギーを解放してダメージを与える、というものだった。
「‥‥ブリッツ・インパクトに似ているな」
 フィリップの指摘に、九郎は苦笑いを零すのだった。

 近接兵器に関しては、桃香にも含むところがあったようだ。
 彼女が提案したのは高威力・高命中の陸戦兵器。
 桃香自身は、知覚版機槍「グングニル」といったものをイメージしていたようである。
 陸戦の知覚兵器には雪村という高威力兵装があるが、それとの差異を図るには高い命中と射程である、という彼女の視点は正しいだろう。
 兵器の原型をグングニルに限る必要は無いだろうが、雪村とは別の使用法を持つ陸戦兵器があれば戦闘の幅も広がる。
 それは、能力者の可能性を広げることにも繋がるのではないか、とフィリップは考えた。

 変り種としては、嵐導の意見があっただろう。
 彼はKV兵装ではなく、拠点防衛用の砲台や戦艦の主砲として運用できる大砲を考えてはどうか、と提案したのだ。
 先のグラナダ戦役でバグアが使用した拡散砲を見て、人類側にあれがあればかなり有利になるのでは、と考えたらしい。
 楓華も、こうした大規模な兵器には関心を抱いていたようで、ゆくゆくは宇宙を見据えた兵器も必要だ、と言葉を添えていた。
(「宇宙、か‥‥」)
 思いがけず聞いたその言葉に、ジェーンは自らの研究意義を再確認するのだった。 

●理想を現実に
 能力者たちの意見を聞いてから、早数日が経過していた。
『お偉いさんを納得させるんだったら、やっぱりドロームのマシンで威力発揮できなきゃ嘘よね』
 昼寝の帰り際の言葉を思い出し、所長室のジェーンはくすりと笑う。
 確かに、ドロームにはアンジェリカという知覚特化のKVがある。
 そうしたことを考えれば、知覚兵装の開発というのはある意味恵まれた環境にあるのかもしれない。
 ともあれ、当面の研究課題は定まっていた。
 レーザー兵器の高出力化と高効率化。
 能力者からの要望を整理すると、まず第一に求められているのは長射程で低消費の知覚兵器だ。
 それを実現するには、一見相反するようなこの二つが課題、とされたのである。
 しかし、ジェーン自身はそれ程悲観的ではなかった。
 出力を高めることと、エネルギーの変換効率を上げることはほぼ直結することだからだ。
 更にそれは、コストパフォーマンスの向上にも繋がるはずだった。

 基礎計算をある程度終え、コーヒーのおかわりを注ごうとジェーンが立ち上がったとき、部屋の扉がノックされた。
 どうぞ、という彼女の言葉の後に入ってきたのはフィリップだ。
「クルメタルに先を越されたぞ」
 言うなり、彼はクルメタルが公開した8.8cm高分子レーザーライフルのカタログデータをテーブルに広げる。
 長射程、高命中を兼ね備えたそれは、まさに彼女らが目指さんとした兵器に見えた。
「大口径化で、彼らは問題を解決したらしいな」
「‥‥なら、私たちはまだ負けた訳では無いわ」
 ジェーンは不敵に笑うと、今まで取り組んでいた計算をフィリップに見せる。
 それを見たフィリップの目が細められた。
「‥‥この分なら、もう大丈夫そうだな。俺もそろそろ、本業に戻らせてもらおう」
「結局、一週間以上も引き止めてしまったわね。ありがとう」
「礼を言うなら、無事に成果をあげた後にしてくれ。‥‥期待しているぞ」
「任せて」
 技術者は互いに握手を交わすと、それぞれの戦場へと戻っていったのだった。
 彼らの理想は、果たして現実に通用するのだろうか。
 その成否は、遠くない将来に証明されるだろう。