●リプレイ本文
「恋人同士の阿吽には程遠いと思いますがなるべく呼吸を合わせます。煉さんよろしくね」
「お、おお、よろしく」
各々のKVに登場する前に、今回ペアを組むことになった武藤 煉(
gb1042)に熊谷真帆(
ga3826)がスカートの裾を摘んでお辞儀する。
慣れない挨拶に少し面食らった武藤は無難に返答をする。
「よろしく頼むぜ‥‥相棒‥‥」
「先日の映画撮影で模擬戦は経験しましたが、実践は今回が初めてです」
「俺も似たようなもんさ」
絶斗(
ga9337)もまたペアを組む遠倉 雨音(
gb0338)に挨拶をする。今回ペアを組むことで絶斗は彼女を相棒と呼ぶ事にしたらしい。
彼等は今回がKVを用いた初めての実戦だ。
「‥‥いい機会だ‥‥KVを遊ばせておくわけにはいかないしな‥‥」
城田二三男(
gb0620)が自機であるハヤブサのコクピットで機体を始動させつつ呟いた。彼もまた実戦経験はほとんど無い。
「壊れた廃墟は人心の荒廃をスパイラルさせるそうです」
熊谷はキャノピー越しに外の風景を眺め、呟く。
彼女の視線の先には、人が住まなくなった事で手入れをなされる事無く、荒れた家屋があった。分かりやすく言うなら廃墟だ。
道路もひび割れ、住居には蔦が絡みつき、窓ガラスは所々割れている。
「そろそろ散会ポイントですね、次の行動は予定通りという形で」
遠倉の言葉に頷いた傭兵達は、事前に決めてあったペアを組むと鴇神機を中心に散会する。
「戦闘域侵入、ECCM起動 索敵開始‥‥」
最新鋭のクルメタル製電子戦機であるウーフーを駆る鴇神 純一(
gb0849)は、索敵を行っていた。
当初はエキスパートのスキルである探査の眼も使用する予定ではあったが、機体搭乗時にそうしたスキルが使えない事を失念していた。
バグア勢力圏ではお決まりのジャミングは、ウーフー搭載の強化型ジャミング中和装置によりある程度改善されてはいたが、レーダーには荒いノイズがかかったままだ。
時折、移動物体と思しき交点が映る事もあるが、市街地という反射物の多い場所ではレーダーによる索敵にも限界はある。
ラウラ・ブレイク(
gb1395)の機体が鴇神の機体を守るように移動しているが、彼女の視界に時折現れる中型、小型のキメラはレッグドリルやメトロニウムレイピアを振るい肉塊へと変えていく。
生身では苦戦するような数も、KVを用いれば虫を潰すかのようにあっさりとした作業だ。とても戦闘とは呼べない。
「あんまり掃除し過ぎると兵隊さん達が給料泥棒になっちゃうかしら?」
ラウラは苦笑しつつも目に付いたキメラを殲滅していく、後から侵攻する兵士達にとってはキメラは十分な脅威となる。減らしておけばそれだけ安全性が増す。
城田二三男と最上 憐(
gb0002)は街路を充分に警戒しながら進んでいた。
周囲には遮蔽物となるような雑居ビルやマンションといった建造物が並び、お世辞にも視界が良いとはいえない。
「ヘルメットワーム‥‥か‥‥実際に見ることになるのは初めてだなそういえば‥‥」
「‥‥ん。初KV依頼。頑張る」
二人ともナイトフォーゲルを用いた実践の経験はほぼ無い為、若干の緊張を抱えていた。
そんな彼らに対して突如閃光が閃く。
はっとして視線を攻撃の来た方向に向けた二人は、ビルの影から砲身を覗かせる陸戦ワームの姿を確認した。
周囲に視線を走らせるが事前情報にあった残りの2機は別の箇所を巡回しているのか、周囲にはいなさそうだ、とはいえ放っておけばじきに終結してくることは容易に想像できる。
「OverTure1、敵陸戦ワーム1機と接触‥‥交戦に入る」
「Dragon1了解した‥‥っと、こっちも確認したぜ。どうもそっちに向かってるみたいだ、こっちはこちらで対処しとくぜ」
城田が無線を解して報告すると、多少ノイズは入っているが絶斗からの返信が入る。
味方との無線はウーフーのジャミング中和で比較的クリアに通じているようだ。
「‥‥ん。うまく。注意を引き付ける。囮役」
最上が機体のブースト加速で間合いを積めながら、20mm高性能バルカンの引き金を引く。
放たれた弾丸は陸戦ワームの操行表面で火花を散らす。貫通した弾も幾つかあり、数箇所に穴が穿たれた。
城田達が敵機を確認した頃、絶斗と遠倉もまた陸戦ワームを捕捉していた。
相手はまだこちらに気づいていないのか、城田達が居る方向へと高速で移動していた。陸戦ワームに脚部はあるが、脚部を用いた移動‥‥歩行ではない。KVが走輪走行で走るように陸戦ワームもまた高速移動が可能なようだ。
とはいえ、移動速度的にはそれほど早いわけでもなく、絶斗の駆るミカガミや遠倉の駆る雷電でも速度的に追撃は充分に可能だ。
「敵の注意をこちらに向けます」
遠倉が射程ギリギリで135mm対戦車砲を発射する。敵ワームの脚部を狙って放たれた砲弾は移動するワームの後方に着弾し、道路のコンクリートを吹き飛ばす。
移動中の機体のそのごく一部を遠距離から狙撃する事は困難なようだが、注意をひきつける事には成功したようだ。
進行方向はそのままに、180度旋回した陸戦ワームはお返しとばかりにプロトン砲を放つ。
薄紅色の光が遠倉の機体に突き刺さるが、堅牢さがウリの雷電にとっては致命傷には程遠い、若干装甲が弾き飛ばされた程度だ。
遠倉が対戦車砲を撃つのと同時に移動を開始した絶斗のミカガミが高速で接近する。
「さて‥‥俺にパイロットとしての素質があればいいが‥‥」
絶斗はキャノピー越に近づく陸戦ワームの姿を多少の緊張とともに見つめる。
絶斗の駆るミカガミは主兵装として搭載した機爪「プレスティシモ」以外の武器は、機体の固定兵装である内蔵雪村だけだ。完全に白兵戦仕様のため敵機に近づかなければならない。
高速で接近するミカガミに陸戦ワームはフェザー砲を連射する。
反射的に操縦桿を傾ける絶斗の動きに、運動性に定評のあるミカガミは機敏に反応し放たれた光を機体を横に滑らせる事で回避する。
熊谷と武藤は周囲に民家の目立つ地区を進んでいた。味方からそれほど距離は離れていないが、人型形態のKVのコクピットの位置は一部例外を除きかなり低めだ。味方機の姿を確認する事はできない。
先ほどの通信からは味方機2チームが交戦に入ったらしく、時折爆発音が響く。
援護に向かうべく機体を翻した二人のすぐ傍の空間を薄紅色の光が薙ぎ払い、射線上にあった家屋を爆砕する。機体を翻した事でたまたま攻撃を回避する形になったらしい。
「遅れんなよ、熊谷‥‥俺とレラは、ちぃとばかし荒っぽいぜッ」
武藤は自機であるS−01Hにレラ・ライキリリセと名づけていた。意味は泣き喚く風らしい。
機体を反転させ、武藤はブーストを使用してガトリングを乱射しながら一気に敵機との距離を詰める。
「特に分断しなくても、勝手に分断する形になりましたね」
熊谷がスナイパーライフルDー02で特攻する武藤を援護する。
当初は確認済みの3機を3チームで分断して攻撃する予定だったが、敵機は最初から分散していたらしく、分断するまでも無く各個撃破という形になっていた。
とはいえ、KV搭乗初期のキルレシオがワーム1に対してKV3だった事を考えれば油断はできない。
ちなみに突如始まった戦闘に中、小型ワームが逃げ惑っている。サイズ的にKVの敵足り得ない彼等は流れ弾で血や内臓を撒き散らし民家や道路に赤い血や肉片となる、
「S−01とは違うんだよ、S−01とはなッ!」
接近する武藤機に対して放たれたプロトン砲をKVレッドマントを翻して回避しつつ、武藤は叫ぶ。S−01の純粋な上位機種ともいうべきS−01Hは最新鋭機にも引けをとらない性能を持っている。
そのまま敵機へと近づいた武藤はクローストソーズを抜き放つ。2本の剣を構え、陸戦ワームへと斬撃を浴びせる。
攻撃を回避しきれずに装甲を刻まれた陸戦ワームだが、まだそれだけでは沈黙しないようだ。機体をくるりと旋回させると痛手を与えてきた武藤機に反撃のプロトン砲を浴びせた。
戦場で索敵を続ける鴇神達をビルの屋上から見つめる機体があった。
事前情報には存在しないその機体は、他の3機とはやや異なったフォルムをしていた。長砲身の主砲を備えているのである。
鴇神機かラウラ機かを迷うように砲身を揺らしていた陸戦ワームはデータの少ないウーフーを狙う事に決め、砲口から光の束を吐き出した。
「うわっ!?」
突然の衝撃に鴇神は思わず声を上げた。
コンソールを確認すると、機体の背部に直撃弾を受けたようだ。かなり堅牢な装甲を誇るウーフーにとってはそれ程大きなダメージとはならなかったようだ。
「どこからの攻撃?」
ラウラが機体を旋回させ周囲を探索するが、視界内に敵機は存在しない。
ふと何かが光った気がしてラウラは反射的に機体をその場から急速移動させる。その直後今まで機体が存在した空間に光が突き刺さる。
光の軌跡から攻撃方法を特定した鴇神はビルの上から見下ろす陸戦ワームを確認し、R−P1マシンガンを放つ。連続して放たれる弾丸にワームは屋上から飛び降りると、慣性制御を用いて機体をふわりと着陸させる。
「旧式KVだって乗り手次第で十分戦えるわよ!」
盾を構え敵機に接近したラウラは手にした盾とレイピアを軸に陸戦ワームに蹴りつける。脚部に搭載したレッグドリルが唸りを上げて回転しワームの装甲を貫くと中から小爆発を生じさせた。一度ではなく2度3度と連続でラウラは機体に蹴りを叩き込ませる。
ラウラ機の蹴撃から逃れ体制を立て直そうとした陸戦ワームに今度は光が突き刺さった。鴇神機が放つアームレーザーガンの光条だ。
鴇神はそのまま近づくと、機爪「プレスティモ」を陸戦ワームに突き立てる。装甲の脆い岩龍ではこうも接近するのはかなり勇気のいる行為だが、ウーフーであれば戦闘に参加しても支障は無い。
振るわれた爪は、ラウラの攻撃で機体に穴を生じさせスパークと白煙を上げる機体を貫く。わずかに機体を振るわせた後、穴から炎を吹き上げ陸戦ワームは爆散した。
「‥‥ん。二三男。気を付けてね。ふぁいとー」
バルカン砲を連射しながら最上が陸戦ワームの背後へと、遮蔽物を利用して接近する城田に声援を送る。
その間も陸戦ワームは回避機動を取りつつ最上のナイチンゲールへと応射し、その機体装甲を徐々に剥ぎ取っていく。
バルカン砲の弾丸も無限ではない、すさまじい勢いで減少を続けるコンソールの残弾表示にちらりと目を向けた最上は、ディフェンダーを引き抜くと射撃戦から接近戦へと移る。
接近のためやや無防備となった最上へと照準を合わせた陸戦ワームが背後からの衝撃にぐらりと傾き、明後日の方向へとプロトン砲を放つ。
「‥‥こうもうまく行くとはな‥‥さて、痛い目にあってもらうか‥‥」
敵機の背中に突き刺さってレッグドリルを引き抜いた最上が再度の蹴りを放つ直前、最上のディフェンダーが正面から陸戦ワームを斬りつける。斬撃は装甲を貫き爆発を生じさせるが、陸戦ワームは180度旋回すると蹴りを放とうとする城田にフェザー砲を浴びせる。
装甲の薄いハヤブサを駆る城田だが、フェザー砲の一斉射くらいなら問題なく耐える事ができる。
「‥‥ん。あとちょっと」
最上も刃を返し再度の斬撃を叩き込み、城田もレッグドリルの一撃を浴びせる。
「‥‥ヘルメットワームって倒すと‥‥爆発するんだっけか?」
「‥‥ん。爆発する」
その攻撃がトドメとなったのか、陸戦ワームはがしゃりと地面に倒れ付す。装甲表面にスパークが走る。敵機の爆発に備えて急速にその場を離れた二人の背後で陸戦ワームは爆発四散する。
「‥‥終わりか‥‥まぁいい経験にはなった、と言ったところか‥‥」
絶斗機が陸戦ワームに肉薄し、機爪を振るう。回避のために機体を慣性制御で横に滑らせた陸戦ワームだがその攻撃を回避しきれずに装甲を深く刻まれる。
遠倉も絶斗機が接触すると援護射撃をやめ、ディフェンダーを構え接近する。
回避の動きを見せない遠倉の雷電へとプロトン砲を放つが、ディフェンダーに弾かれる。
「その程度の攻撃なら、回避するまでもありません」
雷電の重装甲にものを言わせ、正面から突っ込んだ遠倉が陸戦ワームの足を狙いディフェンダーを振るう。
本体の装甲とは異なり脚部装甲はそれほど厚くは無いようだ、数本の脚がディフェンダーに斬り飛ばされ陸戦ワームは一瞬バランスを崩す」
「これで決まりだ‥‥!ドラゴン‥‥ソォォド‥‥!」
その隙を逃さず、絶斗は内蔵雪村を起動する。機体の両腕から高出力のエネルギーが噴出し光の刃となる。光の刃は易々と陸戦ワームの装甲を切り裂き、両断する。
駆け抜けた絶斗機の背後で陸戦ワームが四散する。
「雷電乗りの端くれとして――機体は良くても肝心の操縦者が‥‥とは言われたくないですから、ね」
四散するヘルメットワームの爆風を受けても揺るぎもしない雷電に、改めてその機体性能を確認して遠倉が呟く。
「ふう‥‥行けるぞ‥‥さすが最新鋭‥‥今日からお前の名前は‥‥グラディアルドラゴンだ‥‥」
初の実戦の緊張から開放された絶斗は愛機のコンソールに呼びかけた。
武藤が敵へと斬撃を浴びせ一撃離脱として敵機から距離を取ると、熊谷は敵機の脚部を狙いヘビーガトリングや高分子レーザー砲を浴びせる。
「穿つことキツツキの如し、突き刺すこと針鼠の如し」
バイパーのブースト空戦スタビライザーをも使用し、熊谷は暴風のように間断なく射撃を浴びせる。
その銃弾の嵐に次々と装甲を貫通され、陸戦ワームの内部から小爆発が生じ、煙を吹き始める。
「全弾持って行け‥‥これが、俺達のッ、切札だッ!」
弾雨に晒され機体に次々に穴を穿たれていく陸戦ワームに一度離脱した武藤もブレス・ノウVer2を使用しガトリング砲の弾雨を浴びせる。
ほとんど回避らしい回避を取る事もかなわず、十字砲火を受けた陸戦ワームは致命的な部位を撃ち抜かれ、機能を停止し爆発する。
熊谷は残骸となった陸戦ワームに一瞥を向ける。
「今日まで生き延びた経験が教本よ」
その後、索敵を続行したが敵機は4機だけだったらしい。傭兵達から連絡を受けた軍はワームの掃討が完了したと判断し軍を進軍させる。
「あーあ、腹減ったなぁ‥‥しろたー、何か食い物持ってねぇ?」
「‥‥機体に食い物を持ち込む‥‥訳がなかろう」
友人である城田に武藤が声をかけるが、城田の返事は素っ気ない。
「‥‥ん。おいしい」
しかし最上は、そんな彼らの言葉を聞きながら持ち込んだおにぎりを頬張っていた。