●リプレイ本文
奉天北方工業公司ラストホープ支社の会議室に10人の能力者が集まっていた。
ドアが開き、今回の依頼を行った崔 銀雪が姿を現す。
「少し待たせてしまったみたいね、ごめんなさい‥‥さて、それじゃあ始めましょうか」
傭兵達はお互いに目を見合わせる。誰が最初に発言すべきか探っていたが、平坂 桃香(
ga1831)が発言した。
「まず機体の基本性能についてですが‥‥回避性能は十二分に高いので維持を、攻撃力は削ってその分を命中に回す、知覚は無駄になるので限界まで削って欲しいです」
「つまり、基本性能は若干のバランス調整という事でしょうか?」
「そうですね。それと、高機動機体なら移動力4は必須、他の高速機と連携戦闘が可能な電子機は強みになるし、あと副兵装スロットは1個あれば充分だけど、アクセサリスロットは3つは欲しいです。装備は100程度あれば足りるから、装備よりスロットの方が欲しいかな」
平坂は己の意見を述べると席につく、続けて発言したのは備士志望の井手 一真(
ga6977)だ。
「機体コンセプトから考えるに、偵察機であれば敵陣に乗り込み、そして戻ってこなければなりませんので、最優先するべきなのは回避ですね」
「俺は平坂さんと同様、攻撃力は削って命中と同程度にした方がいいと思いますが‥‥俺としては削った分は命中じゃなく回避性能に振り分けて欲しいですね」
ヒューイ・焔(
ga8434)は言葉を切ると、グラスに水を注ぎ一口含む。
「偵察機は調べた情報を持ち帰るのがお仕事。その為に軽量化して移動速度、戦闘もそこを活かし回避重視の設計は賛成です」
守原有希(
ga8582)は付いた席の周囲が女性であった事で若干緊張しつつ、機体の基本性能に関しては賛成を示す。
「能力のバランスは、強行偵察機としては問題ないように思う。強いて言うならば、攻撃力と命中率の兼ね合いだろうが‥‥どちらを優先するかはパイロットの個性に拠る所が大きいと判断する。よってこの二つは同等に設定し、後は能力者個々人の強化策に任せるべきと愚考する」
神宮寺 真理亜(
gb1962)も機体の基本性能に前に発言した者達と同様のようだ。
「回避を上げて生存性をあげられたらと思います。攻撃を当てるために命中を攻撃と同等位にはしたいです。その為に知覚は極力削ってしまえばよいかと。後は岩龍の移動力が低い事が気になっていたので、理想的には5、少なくとも4は欲しいですね」
続けて発言を行ったチェスター・ハインツ(
gb1950)もほぼ同様の発言をする。削るべき場所としては知覚を推した。
「なかなか面白い機体だと思います‥‥私としては回避重視なのはそのまま、そのかわり攻撃、命中も削り回避性能を更に引き伸ばして欲しいです。単純に岩龍よりは高性能だが、ウーフーには及ばない。ただしリーズナブルを目指せば良いのではないかと個人的には考えます」
「それはまたエッジの効いた意見ね」
淡々と感情のこもらない声で意見を述べるエメラルド・イーグル(
ga8650)に能力者たちの意見を手にしたノートパソコンでまとめていた銀雪が苦笑する。
唐突に机を勢いよく叩く音が響く、皆が思わずその音を立てた方向を見ると、今まで黙って各人の意見を聞いていた秋月が立っていた。
「安価にする以上、電子戦と戦場での生存性、他は切り捨てて、ただそれのみに特化して、無茶を通す! そうでもないと、岩龍を越える、或いは新型特殊電子波長装置を搭載の新型とは張り合えません! 回避と電子戦に特化すれば護衛機を無しにして友軍機が戦闘に集中できます。戦闘は任せられる仲間がいるからこそ、この無茶、無理でないと考えます」
息継ぎすらせず、そこまでを一気に述べた秋月 祐介(
ga6378)。高性能な電子戦機を求める彼は、電子戦機開発依頼という事で普段よりも熱くなっていた。
「私としては電子戦への完全特化です、攻撃に必要な能力は極論無くても問題ありません」
一息ついた秋月はいっそ潔いとも言えるほどの能力値の案を示す。
彼が重要視したのは電子戦装備と回避、通信機能と速度、錬力それ以外は不要という意見だった。
「これまたエッジの効いた意見だけど、参考にはしますね」
「聖天大聖は第2のAU−KV対応機になってほしいのであります。それを置いておいても美空は更なる先鋭化を求めるのであります」
「AU−KV対応機はうちは翔幻を出したばかりだからちょっと難しいかもしれないですね、無論検討事項には含めさせていただきますが」
黙って意見を聞いていた小柄な少女が声を上げる。彼女は美空(
gb1906)、ドラグーンの少女だ。現状AU−KV対応機は奉天の出した翔幻のみ、更に翔幻が基本性能のままでは中途半端すぎて使いにくいという事からの要望だった。
美空の意見に頷いた銀雪だが、AU−KV対応機として作成すると操縦システムの関係でドラグーン以外の能力者が搭乗が不可能になってしまうのが製品としての欠点と言えた。
「それ以外に、武装スロットは主武装の1個或いは全部削って固定武装化、アクセサリスロットは全部無くして緊急時様の高機動ユニット、あるいは燃料タンクに振り分けて欲しいであります」
秋月とは別の意味で潔い機体案を示し、美空は席についた。
「えーと、特殊能力はこの後の議題にするにして、現状基本性能は攻撃力と命中を同等にして欲しいという希望が多いみたいですね。後は完全な電子戦機としての調整希望、回避特化による生存性の更なる追求と‥‥」
各人の要望を纏めた銀雪が基本性能に関しては意見が出揃ったと判断し、議題を特殊能力へと進める。
「色々考えてみたけど‥‥キューブワームに対抗できないとなると、色々と厳しいかも‥‥理由としては‥‥」
クリア・サーレク(
ga4864)の述べた内容は以下の3つだった。
ウーフーが想像より安く、バランス良く高い能力を持っている事
ドロームのイビルアイが強化型特殊電子波長装置の搭載を予定し、マルチロックオンという機能から魅力を感じている傭兵が多い事
既に安価な電子戦機として岩龍が存在し、強化した岩龍からの乗換えるかという疑問
「‥‥以上の事から、回避の高さというウリがあっても売るのは中々難しいと思うんだよー」
「では、どうするべきと貴女は考えますか?」
「如意金箍棒を削って幻霧発生装置を積み、回避力を生かして生き残る事に特化‥‥かな? 後は 垂直離着陸機能は、外した際の他の能力が目覚しく上がるなら外すのもアリ、その場合は汎用性の上がる装備力がいいかな。斉天大聖とは言えなくなるから、機体の愛称は哮天犬とかどうかな?」
銀雪の問いにクリアは攻撃性能よりは回避力を引き上げ、生存性を引き上げると言う回答を出した。
「うちとしても幻霧発生装置を積むのには賛成です、如意金箍棒はいらんです。攻撃性能より生存性を上げたほうが上策です。もしそれで余裕ができるなら装備に回して欲しいですね、折角の回避、攻撃力も武装がつめんば宝の持ち腐れです」
「僕も如意金箍棒は要らないですね、錬力を消費してまで射程を引き上げる必要性を感じません。かわりに幻霧発生装置を積むと面白い機体になると思います」
守原とチェスターはクリアと同様の考えを持っていたようで賛成の意を示す。
「私も如意金箍棒は要らないかな、それとVTOLは便利だけど、偵察機1機だけが持ってても効果が薄いから不必要、代わりに幻霧発生装置のような回避が上がる能力が欲しいところです」
平坂は他に外すべき能力にVTOL機構を上げたが、それ以外は前の3人と同じような意見を持っていた。
「僕はVTOLは場所を選ばずに離着陸ができる点と、スクランブルの際に他の期待に先んじて出撃できるから、削る必要は感じないですね」
チェスターは平坂のVTOL不要に関しては反対のようだ。
「私も如意金箍棒が不要である点には賛成だが、VTOLは是非とも残して欲しい、戦術に幅を持たせられるからな。如意金庫棒のかわりとして4つほど考えてきた」
チェスターに続いて発言した神宮寺はそう言うと自身の案を示す。
「強行偵察機としての運用ならば、逃げ足の速さも重要。よってブースト機能の付与。偵察機としての機能を強化するならば、探知能力を増強。単機での探知能力に限界があるのならば、自機から小型の探知ユニットを曳航して観測点を増やす」
そこまで言ったところで神宮司は言葉を切り一口水を含む
「隠密性を高めるならば、光学迷彩能力が欲しいところだ。対ワーム戦を想定するなら、G放電装置系の内蔵式非物理の射撃能力。この場合は名称を雷震子にしたほうが似合うであろうがな」
「ふむ‥‥他に何か意見はありますか?」
「え〜、俺はあえて特殊電子波長装置の搭載は見送るべきかと思います」
銀雪の言葉に井手が手を上げて発言した。
「その理由は?」
「岩龍と同じ特殊電子波長装置を積むのなら、電子戦機としては岩龍を使えば良いだけです。そのかわり翔幻の幻霧発生装置を搭載して生存性の向上、間合いを詰めて幻霧の中から如意金箍棒システムで攻撃が出来れば相性も良いと思うのですが」
更に井手は特殊電子波長装置を積むのであれば、後日のアップデートを前提として拡張性に余裕を持たせる事を提案する。それには平坂や秋月も同意を示した。
「俺は2つの案を考えてきた」
ヒューイが井出の言葉が途切れると自身の考えを示す。
その案とは、特殊電子波長装置を外し、如意金箍棒を簡略化し空中での近接格闘戦を可能にするという案と、如意金箍棒を外し、特殊電子波長装置搭載機との連携の為に機体そのものに特殊電子波長装置のブースターを積むという案だった。
「後者はともかく‥‥前者は少し難しいですね。空中格闘機構は強度や空力特性、バランス制御など、現状の技術力では克服する課題が多いんですよ、需要はあるんですけどね‥‥現状の技術力で生産すると搭載するだけで雷電を越える価格になる可能性があります」
「そうか、少し残念だな」
「私は特殊能力という観点で言えば、攻撃性能は不要だと考えているので前の皆さんと同様に如意金箍棒はいりませんね。固定装備で照明弾兼煙幕弾を複数発搭載できるようなシステム、或いは煙幕は翔幻の幻霧発生装置が欲しいですね。名称としては、機動力からして韋駄天とでもつけましょうか、電子戦特化という意味で文晶帝君というのもありですかねぇ」
秋月は生存性を高める為の装置と機体名称を提案する。
「私は基本的に現状維持が望ましいが、攻撃と命中を抑えりとシステム如意金箍棒のメリットが失われる。その場合は射程を延ばすのではなく、機構はそのままに地面に突き刺す事で地殻変化計測器のように使うのはどうだろうか? 地面に突き刺すことで、敵の距離や方位を割り出すという機能。完全にサポートに徹する偵察機ということにすれば、使いどころも明確になると思う」
性能・能力を見直すことでの、人的コスト増大等で、計画が頓挫する事を懸念するエメラルドは機体の基本性能を変化させるのではなく、完成している機能を別方向で活かす事を考えていた。彼女としては単純に強い機体ではなく偵察面に特化した機体が欲しいと考えていた。
「美空は如意棒システムは、現状のままではいま一つ機能性に乏しいので、フレキシブルアームによる伸縮自在腕とするか、ロケットアンカーのようなより射程の長い武器を固定搭載する方がいいと思うであります。あと垂直離着陸システムは、より静音性を高めたものに換装し、ステルス性能を高めた隠密機として活用したりすると良いかもしれないのであります」
更に美空は新しい機構として、空対地、地対空、等の地形をまたいで影響を及ぼすシステムを搭載する事を提案する。
「個人的には先に述べたように、スロットを削って緊急時用の高機動ユニットか燃料タンクを搭載した上で、垂直離陸機能を静かにして隠密性を高めてパッケージング機としての魅力を持たせたいのですよ」
「システム如意金箍棒はあまり人気が無いようですね。他に何か要望はありますか?」
僅かに苦笑して銀雪はノートPCに機体特殊能力に関しての傭兵達の要望を記入する。
「機体ではなく、開発して欲しい武装なんですが、射程60以上で軽いライフルと射程20以上で連射可能なライフルが欲しいです」
「長射程の実現は不可能ではないですし、ライフルも設計そのものは可能ですね。上に伝えておきます」
平坂の要望に銀雪は頷く。
「H−125Tの割り切りのいい設計は、安価な軽量KVとして大変優秀て思います。やけん、電子機材等を廃して基礎を流用した高速戦闘型の派生機開発はどがんでしょう?」
「私も高回避、高攻撃力、システム如意金箍棒を活かして、電子戦機じゃなくて白兵特化型の派生機を作ってもいいと思う。その場合は生命と装備は上げる必要があるけど、斉天大聖はこっちの機体の方に相応しいと思うよ」
守原の言葉にクリアが同意する。
「ふむ、基本設計や部品の相当数を流用すれば価格はもとより、整備性の向上や量産性も期待できますね。考慮するよう上層部に提案してみます」
銀雪は二人の提案に頷く。
「俺は幻霧発生装置の幻霧を弾頭に封入、指定地点で着弾すると幻霧を発生させ回避が容易になるエリアを作る支援用兵装が欲しいな」
翔幻の搭載する幻霧発生装置は、命中関連の能力には影響を与えず、攻撃の回避にのみ影響する特殊な霧を発生させる装置だ。
「現状では研究段階にありますが、製品化できるかどうかは見通しが立っていませんね」
「私は機体開発もそうですが強化型アンチジャミング装置の開発は最優先でお願いしたいですね」
電子装備にこだわりのある秋月は、特殊電子波長装置の強化を最優先にして欲しいという希望を伝える。
「電子戦装備なら、アンチジャミングを電子戦機の様に広範囲に広げるのではなく、自分の機体のみを確実に守るアクセサリーみたいなのが作れると良いかな」
「僕は敵ジャミング機に対応するためにも、特殊電子波長装置の効果を強化することができるアクセサリなんかがあったらいいかなと思います」
クリアとチェスターが秋月の言葉を聞いて、電子戦用のアクセサリを提案する。
「電子戦対応装備の研究開発に関しては今後も続けていきますが、製品化の際には何らかの意見を聞く事もあるかもしれませんね」
そう言うと銀雪は壁の時計に目を向ける。
「そろそろ時間です。他に意見が無ければ、今後の機体開発は今回の意見を参考に行わせて頂きますね、近いうちに試作機の性能確認の為の依頼を行いますので、よろしければその際にもご協力お願い致します。本日は貴重なご意見ありがとうございました」