●リプレイ本文
●撮影前
傭兵達の提案した企画を手に、製作会社の担当者は数点を指摘した。
「やりたい事があるのは分かるけど、いくつか修正させてもらうね」
担当者が幾つかの要素に変更を加えると、撮影がスタートした。
●パンデモニウム
薄暗い室内に広がる無数のモニター。
モニター前には幾人もの人間が座り、戦闘前の緊張と共に静かに己の業務をこなしている。
そんな中、指令席には一人の女が居た。
やたらトゲトゲした肩アーマー、豪奢なマント、ハイレグビキニのような鎧、そして手には何故か鞭。
そのグラマラスなプロポーションを含め、いわゆる「悪の組織の女幹部」といった出で立ちである。
「おーほっほっほっほー! 悪いヤツは意味もなく笑いながら登場するものよ! 私はパンデモニウム七本槍の最後の一人! 千草姫子よ! 他のヤツは戦死してる訳けだけど!!」
カメラが彼女を映した瞬間、思い切りカメラ目線で高笑いをする千草・姫子(
ga3955)。
「誰に向かって喋ってるんですか?」
メタな突っ込みを入れる戦闘員な部下Aだが、姫子は気にせず笑い続けた。
どことも知れぬ闇の中。唯一の光源であるモニターの光に照らされるのは椅子に腰掛ける見た目10歳程の少女。
漆黒を基調としたレオタード、ミニスカート、マントに身を包んだアセット・アナスタシア(
gb0694)はモニターに表示される5機の飛行物体を拡大し、幼い外見に似合わぬ不適な笑みで一人笑う。
「やっぱりお姉ちゃん達来ちゃったんだ‥‥今までどおりにいくと思ってるんだね」
●機神合体!ホープカイザー
パンデモニウムの上空に、5機のKVが疾駆していた。
リーダ機であるアリス(
gb2430)の機体を戦闘に、V字編隊を組んでいる。
「機・神・合・体!」
リーダーであるアリス(
gb2430)の声に、各機がコクピットに備えられたスイッチを分離状態から合体状態へと切り替える。
「ライブイン!」
全員の声が唱和すると同時に、機体が上昇し、まずジェイ・ガーランド(
ga9899)の駆る大型機が胴体部へと姿を変える。
続いて、風羽・シン(
ga8190)演じるシン・ウィンドフェザーの機体が左脚部へと変形、前田 空牙(
gb0901)の機体が右脚部へと変形を遂げ、胴体部のスロットへと移動し、左右から伸びたアームでがっちりと接続される。
赤宮 リア(
ga9958)もといリア・アカミヤの機体が背負っていた2つブースターをパージする。ブースターは胴体部と軸を合わせるように動くと左右からゆっくりと胴体を挟むように移動し腕部となり、本体部分は胸部へと接続される。
そして、最後にアリス機が翼を折りたたみ、頭部へと接続される。
両腕部分から拳が現れ、状態を確認するように拳を一回転させ、拳を握りこむと頭部のバイザー部が開き顔が現れる。
右腕と左足を引き、左腕を前に突き出すようなファイティングポーズを取る。
「機神装甲ホープカイザー!」
アリスが叫ぶと、背景に何故か稲妻が光り雷鳴が轟く。晴れているのになぜ雷がとか、合体中に攻撃しろよとかは突っ込んではいけないお約束だ。
ズンと地響きを立て、ホープカイザーがパンデモニウムの正面に降り立つ。
「システム、万全で御座います。全ての因縁を断ち切り、決着を」
5機のコクピットシートが集まったコクピットで、出力制御を担当するジェイが全体の出力をコントロールする。
「こっちも問題ないよ!」
「こっちもすべて問題なしだ、いつでもいけるぜ」
火器管制コントロールのリアとサブコントロールの前田がアリスに親指を立てて問題ない事を伝える。
「‥‥モーションコントロール、バランサー制御良し」
シンが淡々と告げる。
すべての状態に問題がない事を確認したリーダーのアリスは一つ頷くと、正面モニターに投影されるパンデモニウムの威容を睨みすえ、コントロールレバーを前に倒す。
アリスの操作で背部のブースターを全力で噴かし、長大な噴射炎を放ちながらホープカイザーはパンデモニウムに向かう。
●VSパンデモニウム!
「ポープカイザーの諸君! 良く来たな! 飛んで火にいる夏の虫はお前達の事だ! この無敵要塞ロボパンデモニウムに勝てると思ったかー!」
全身から大量に弾丸を嵐のようにばら撒く光景を映し出す大画面の正面モニターを眺めながら、その少しけしからんサイズの胸を張って姫子は勝ち誇る。
「くぅっ! 伊達に大きくはないわね!」
タイミング的にいろいろな意味を含んでいそうな台詞を放ち、リアはホープカイザーの武装を次々と叩き込む。そう言うリアも決して小さくはないのだが、そこら辺ばどうでもいい。
「照準ロック、ディザイアキャノン発射!」
前田の叫びと共に、ホープカイザーの肩の大砲から砲弾が放たれる。砲弾ははパンデモニウム外壁に着弾すると大爆発を起こし砲台の幾つかを吹き飛ばす。
「とりあえず、なんでもいいから撃ちまくるぞー! はっはっはっはー! 戦うと元気になるなー! ‥‥イカヅチをはなてー!」
胸を揺らしながら愉快に楽しく元気よく指令を飛ばす姫子。
その声に応じて、パンデモニウムに備えられた砲台の中でも最も長大な主砲がホープカイザーを照準し、雷によく似た光線が放たれる、いわゆる破壊光線系のびりびりした光線だ。
瞬時に反応しアリスは操縦桿を倒す。その操縦に応じて機敏に機体を翻したホープカイザーのすぐ横を駆け抜けた破壊光線は、背景にあった山に着弾すると、その山を跡形も無く吹き飛ばす。
「‥‥なんて威力だ」
黙々と己の役割をこなしていたシンがつぶやく。
「さすがにアレの直撃を受けるわけにはいかないわね」
アリスが機体に蓄積しているダメージを確認しながら、シンの声に応じる。
人類側の基地、ラストホープの地下司令室では眼鏡をかけた少しインテリ風の男が、祈るように指揮卓の上で指を重ね、モニターに映し出される光景に視線を向けていた。
彼の名はアキ・ミスティリア(
gb1811)人類側司令官を務める男だ。
「皆、頑張ってくれ‥‥今の私には君達の勝利を祈る事しかできないんだ」
シリアスである、パンデモニウム司令官の姫子にも少し見習ってほしいとか思ったり思わなかったり。
司令官であるアキはある物の完成を待っていた。
本来最終決戦に間に合わせる予定だったのだが、最終調整に想定外の時間がかかりいまだに完成の域には達していない。
「くっ! しかし、この程度!」
被弾に揺れるコクピットでジェイが損傷で分断されたエネルギーパイプをサブに切り替え、エネルギーをバイパスして出力バランスを保つ。
ホープカイザー自身も相当の損傷を受けているが、対するパンデモニウムも既に半数以上の砲台を潰され、その表面には無数の亀裂が走り煙を噴き上げている。
「そこだっ! 砕け鉄拳ブラストォォォ‥‥ナッッッックルゥゥゥゥ!」
リアがパンデモニウムの亀裂の一部を照準し、ブラストナックルを射出する。ブラストナックルはいわゆるロケットパンチだ。肘から切り離された腕は、噴射炎を上げるとドリルのごとく高速回転を始める。
迎撃の砲火を高速回転で弾いた拳はそのまま亀裂を穿つ。
「今よ! カイザービームを!」
アリスがびしっと穿たれた亀裂を指し示す。
カイザービームはホープカイザーの最初期の必殺技‥‥胸のエンブレムから放たれる大口径ビームだ。砲口が無いのになんでビームが出るとか突っ込んではいけない。
「了解、エネルギー路接続!」
ジェイが手元のコンソールを操作すると、機体を示すグラフィックの胸部にパーセント表示が現れ、少しづつ上昇していく。
「目標固定、照準オッケーだぜ!」
画面上に拡大された亀裂を拡大し、その中心を十字の照準マーカーに捉え、前田が叫ぶ。
「‥‥反動制御システム正常、いつでもいけます」
シンが自身のコンソールに表示される情報を確認する。
「カイザービーム発射!」
「必殺! カイザァァァァァァァァビィィィィィムゥゥゥゥゥ!」
アリスの発射指示を受けて、リアは武器の名前を叫びながらトリガーを引く。
ホープカイザーの胸部に光が灯り、次の瞬間光の渦となって閃光が迸り、パンデモニウムの外殻を貫く。
「突入路が開いた! 後は‥‥」
背部メインスラスターを最大出力で吹かし、開いた穴に向けてホープカイザーは加速する。
「待て、何があるか分からん!」
加速の振動に揺れるコクピットに司令官であるアキの制止の声が響く。
「いえ、今ここで倒します!」
司令官の制止の声をアリスは振り切りホープカイザーはパンデモニウム内部へと突入する。
「危なくなったらすぐ逃げる! それが鉄則だー!」
ホープカイザーが内部に突入した瞬間、姫子は部下と共にわらわらと逃げ始める。
ある意味潔い。
手にした通信機を握り締めたアキは、一つ息を吐くと指令席のデスクへ通信機を戻し、席を立つ。
「指令?」
「致し方ない‥‥アレを‥‥希望の光を彼らに‥‥!」
「まだアレは調整がっ‥‥!」
「最終調整など後回しだ、動くならそれで構わん。6号機の発進準備を!」
●最終決戦〜アーマゲドン〜
パンデモニウム内を疾走するホープカイザーの前に現れた漆黒の人型兵器を確認したアリスは、操縦桿を傾けホープカイザーに逆噴射をかけさせる。
20mほどの距離を置いて、2体の人型兵器が対峙する。
ここに現れる以上、敵である事は明白だ。
「希望の太刀! ウィッシュブレード!!」
相手の機体を睨みするアリスの声に応じ、前田がコンソールを操作すると胸部装甲が展開し、剣の柄が現れる。
剣の柄は自らホープカイザーの拳に飛び込むと柄から刃が伸び、刃そのものが光輝く‥‥ホープカイザー最強の武装ウィッシュブレード、使用時に莫大なエネルギーを消費するため長時間の使用は困難だが、威力は折紙つきだ。
ホープカイザーが光の剣を構えるのを見た漆黒の機体は、それに応じるように機体の腕を前にかざす。
次の瞬間、空間が歪み、漆黒の機体の腕に自身の2倍はあるだろう長大な大剣が握られる。
「出力正常、現状5分程度の戦闘は可能です」
機体とウィッシュブレード双方のエネルギー配分をコントロールしながらジェイが告げる。
「充分っ! 行くわよ。ダイヤモンドストォォォム!」
剣先を漆黒の機体に向け、アリスが最終兵装を起動する。ホープカイザーの肩からすさまじい氷雪の嵐が巻き起こり、漆黒の機体を氷に包む。
「氷嵐! 極光ざぁぁぁぁん!」
全員の声が唱和し、ウィッシュブレードが漆黒の機体を断ち切るかに見えた瞬間、敵を封じていた氷が砕ける。
「そんな動きじゃ、私のデスパイアーには傷一つつけられないよ? ‥‥EnergyFulldrive‥‥DispairCrusher GetSet‥‥バイバイ」
アセットは僅かに笑むと、デスパイアーの全身から漆黒のオーラが噴出する。
デスパイアーの必殺技であるディスペアクラッシャーと、ホープカイザーの必殺技である氷嵐極光斬が正面から衝突する。
僅かの拮抗の後、ディスペアクラッシャーが氷嵐極光斬を押し返し、ホープカイザーに激突する。
「そんな、ウィッシュブレードが!?」
デスパイアーの攻撃を受け止めたウィッシュブレードが半ば程で断ち切られ、自身も多大なダメージを受け、リアが驚愕の声を上げる。
「ふふふ、その気になればお姉ちゃん達なんて瞬きの間に殺せちゃうんだから」
アセットは笑いながらデスパイアーの胸部に搭載されたビーム砲、ディスペアバスターを低出力の連射モードでホープカイザーに次々と撃ち込む。
「‥‥ぐぅっ、耐え切れ、ホープカイザー!」
ジェイが被弾の衝撃に揺れるコクピット内で、エネルギーを全て防御機構にまわす。
「このくらいで、あきらめる訳にはいかない!」
アリスがそう叫んだ瞬間、デスパイアーに大出力のビーム砲が直撃し、攻撃の手が止まる。
「操縦は久しぶりだが、当たったようだな」
「指令?」
無線機から流れてきたアキの声に、前田が驚きの声を上げる。
「これより君達に最後の希望を託す‥‥合体シーケンスは既にホープカイザーに送っておいたぞ」
全員のモニターに新たな表示が灯る。
「究極合体!」
アリスがモニターに表示されたシーケンスを実行すると、アキの搭乗する機体が変形し、ホープカイザーの背中に合体する。
「これが、ホープカイザーの真の姿、ラストホープカイザー!」
「そんな‥‥あんなのデータバンクにないよ‥‥」
その姿に思わずアセットはたじろぐ。
「この状態では長時間戦えません、それと新しい必殺技ですが、これも使用は1度だけ。2度の使用に機体が耐えられる保障はない」
アキの言葉にアリスは頷くと、真必殺技を発動させる。
「希望の光にて‥‥悪しき闇を照らす!」
アリスの言葉に続き、全員が真必殺技の名前を叫ぶ。
「超極光! ホォォォプ! シャァァァァァイン!!」
全身に光を纏ったホープカイザーがデスパイアーに激突する、機体各部から小爆発を引き起こしながらも、デスパイアーはその攻撃に耐え切る。
「くっ、よ、よくもっ‥‥もう1度ディスペアクラッシャーをっ!」
アセットは想定外の事態に焦りを表情に浮かべ、コンソールを操作する。デスパイアーはアセットの操作で限界以上の出力を強引に引き出され、余剰エネルギーが黒い翼を現す。
「くっ、ならばもう1度!」
「いかん‥‥言ったはずだ、一度きり、だと!」
「ここでやらなけりゃ、勝ち目は無いぜ! 指令!」
再度の攻撃に移ろうとするアリスを制止するアキだが、前田の言葉に思わず口を閉ざす。
「‥‥やれ、アリス君! エネルギーは全て、私が制御してみせる!」
「大丈夫よ‥‥私はホープカイザーの力を信じてる!」
「‥‥基地に用意してあるシャンパンを‥‥皆で乾杯するまで死ねない‥‥!」
ジェイ、リア、シンも、己の決意を告げる。
アリスはそれに頷くと、再度真必殺技を起動する。
限界を超えたエネルギーは、ホープカイザーの背中に12枚の光り輝く翼を形づくる。
「超極光! ホォォォプ! シャァァァァァイン!!」
「ディスペアァァァクラッシャアアアアア!」
白い光と黒い光が互いに激突し、その余波を受けたパンデモニウムが爆発を繰り返しながら崩壊を始める。
完全に互角の激突。
ホープカイザーとデスパイアーもまた、衝撃に耐え切れず各部から小爆発を引き起こす。
「行けホープカイザー! 勝利を! うあぁぁーっ!」
アリスの叫びに呼応したのか、その身を包む光をより巨大化させるホープカイザーに、ついにデスパイアーの闇が負ける。
「わ、私はこの世を綺麗にしたかっただけなのに‥‥絶対後悔するよ‥‥絶対に‥‥!」
光に包まれ崩壊を始めるデスパイアーの中で、アセットはホープカイザーに己の言葉を叩きつけ、消滅した。
バグアは滅び、人類に平和が訪れた。
地球を救った戦士達も、今はただ戦いに疲れた体を休めるのだった。