タイトル:【AS】ラインガーダーマスター:左月一車

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/19 19:48

●オープニング本文


 眼前の標的に照準を合わせて、トリガーを引く。
 機体の右腕が携える砲門が輝き、荷電粒子の束を煌めかせる。幾度も連射するうちに、光が敵を捉えて弾ける。
 さらに命中弾を与えるうちに光の束が敵機を貫いた。
「‥‥よし、クリアッ!」
「まぁ、シミュレータじゃ、そろそろこんなモノかしらね?」
 正面モニターに表示された戦果や命中率、ダメージ等の数値を一瞥する。
 自動的にシートがグラインドし、シミュレータルームの全景が視界に入る。

 シミュレーターマシンの側面にはOG−01Aラインガーダーの文字が刻まれている。
 それが即ち、彼女達が乗る機体の名だ。
「でも、このパイロットスーツちょっと恥ずかしいんですよね、なんだかピッチリすぎて」
 ヘルメットを脱ぎ、頭を振る。艶やかな銀髪を無造作に整えた青い瞳の女が自身の姿を見てボヤく。
「そりゃそうだけど仕方ないでしょ。そういうモンなんだから」
 彼女の言葉に同意しながらも、もう1人は割と冷めた意見で応じる。
「アタシ達の出番はまだ当分先なんですよね?」
「ええ、そのハズよ。艦船や機体が出来たっていっても封鎖網に穴が開かなきゃ出て行けないからね‥‥ああ、でもその前に傭兵と模擬戦をやるって言ってたっけ?」
「傭兵と‥‥ですか? 機体の特性的に共闘する事はあまりないと思うんですけど」
「共闘じゃなくて対戦みたいね。 傭兵に対しては宇宙戦闘のコツを、あたし達に対してはシミュレータとは違う相手との戦いって事で」
「なるほど。この機体なら今までの戦闘機とかヘリとかと違って、良い勝負が出来そうですからね」
「そういうコト。あたし達正規軍もいつまでも傭兵におんぶにだっこじゃカッコつかないしね」
 手にしたパンフレットをぱらぱらと広げる。

 OG−01A「ラインガーダー」
 非能力者向けの宇宙用複座人型機動兵器。
 KVとは異なり長距離の移動には適さず、主任務は艦船や拠点の防衛。拠点防衛の為の兵器であり、ジェネレータを搭載せず拠点からの電力供給(有線式、無線式の双方)を受けて活動する為、事実上の燃料切れが存在しない。
 KVほどの加速を必要としない事から推進系にはエミオンスラスターを搭載。
 
 ジェネレータを外部に依存し、燃料タンクも搭載しない事で量産性と価格、高性能を並立化。
 拠点防衛という限定条件下ではKVにもヒケと取るものではない。

「ま、ヘルメットワームとかキメラとまともに戦える非能力者用の兵器って事だから上も期待してるだろうし、ボロ負けだけはしたくないわね」
 パンフレットの文字を一瞥しながら、呟いた。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
夜月・時雨(gb9515
20歳・♀・HG
夜神・零夢(gc3286
13歳・♀・CA

●リプレイ本文

 UPCの基地にある大規模なシミュレータールームに、ラインガーダーのパイロットとその相手を務める傭兵が集まり、訓練が開始された。

 宇宙要塞カンパネラ付近の宙域。暗黒の空に推進剤の炎を煌めかせ、威龍(ga3859)のリヴァティーがミサイルを放った。彼としては、機動性の低いラインガーダーの死角を狙った攻撃である。
 しかしラインガーダーは非能力者向けとはいえ人型起動兵器だ。手持ちのビームランチャーの射角はかなり自在につけられる。
 パイロットは、速射モードでこれを迎撃。ミサイルは全て撃墜されたという判定が双方のモニターに表示された。
「成る程‥‥人型だけの事はあるな。ならば!」
 威龍は一旦離脱して、速射されるビームを回避すると、一気に旋回しつつアサルトライフルを放つ。
ガーダーも速射で応戦。双方のモニターに被弾判定が断続的に表示される。が、まだ致命打はお互いに与えられていない。
威龍は、単純に打ち合うだけでなく、あえて、機体を必要以上に旋回させ漆黒の宇宙を飛び回る。これは模擬戦で、少しでも宇宙での簡易ブースト機動に馴れておこうという意図からだ。
 やがて威龍は少しずつ慣れてくるにつれ、満足気な笑みを浮かべる。
「戦い方としては水中戦に似ているかな」
 けれど、練力の残量を確認した際、表情が曇る。彼の予想より遥かに速く練力が消費されていたのだ。
「‥‥だが、練力管理をシビアにしなくてはならないのは、慣れぬうちは結構負担になるだろうな」
 早く決着をつけなければ、練力切れで威龍の負けだ。威龍は相手の動きを止める為にG放電装置を使用。ガーダーのシミュレーターは彼の期待通り、敵機の運動性低下という判定を下した。
 照準をつけ、アサルトライフルを放つリヴァティー。しかしラインガーダーも相打ち覚悟で収束モードのビームを発射した。
 判定は、ラインガーダーが大きくダメージを受けたが、威龍のリヴァティーも機体の一部を蒸発させられていた。
 苦笑する威龍。
「これから戦域も徐々に宇宙に移行していくのに当たって、母艦を護る戦力としては、確かなようだ‥‥相手にとって不足は無い。俺自身、宇宙戦闘になれる為にも、十二分に活用させて貰うこととしよう!」
 一気にガーダーへと肉薄した威龍は、リヴァティーを変形させ、ディフェンダーで切り掛かった。
 ガーダーも望むところとばかり、ビームソードを構える。袈裟懸けに振り下ろすリヴァティーと、横一文字に振り払うガーダー。双方のコクピットのモニターが、一瞬で赤く染まった。

「も、もう一度ですわ、次は負けませんわよっ!」
 夜神・零夢(gc3286)は、ラスヴィエートのコクピットの中で顔を真っ赤にして叫んだ。モニターの表示は『大破』。第一回戦は、彼女の負けであった。
 遠距離での射撃戦に持ち込んだはいいが、速射と収束を使い分けられるビーム砲を装備して、しかも燃料切れの無い機体相手に、遮蔽物の無い空間で撃ち合うのは少々、骨が折れたようだ。
 照準最適化機能を使っても、先に決定打を与えたのはガーダーの方であった。
「悔しいけど、このままでは終われませんわ。それに、一回戦で宇宙での戦いと言うものがどんなものか、少しだけ訓えていただいた気がしますわ」
 二戦目を申し込む零夢。ガーダーのパイロットも、それを受諾した。
再び定位置に機体を移動させ、シミュレーターの合図で砲火を交える両者。零夢は、今回作戦を変え、近接戦闘を挑もうとしていた。
 ブーストで攻撃を回避しつつ、一直線にガーダーの懐に飛び込んでいく。ガーダーも相手の狙いに気付き、速射モードで応戦する。
 ラスヴィエートのコクピットのモニターに、被弾の合図が表示される。ビーム砲が機体に命中したと判定されたのだ。だが、速射故にまだ致命傷では無い。零夢はそのまま機体を突っ込ませると相手の直前で変形して、ディフェンダーを振り下ろす。
 ガーダーも既に構えていたビームソードを振るう。先に相手の体に届いたのはガーダーのソードだ。
 しかし、零夢は受防最適化機能を使い、致命傷を避けた。
 ガーダーのコックピットに表示されたのは『コックピット直撃』の文字だった。
「やりましたわ♪」
 一矢報いた零夢はコクピットの中で喜んだ。

 夜月・時雨(gb9515)はデブリ帯での模擬戦を行っていた。残骸が大量に漂い、戦闘開始位置からはお互いの姿は確認出来ないという想定からのスタートだ。
 人型に変形した時雨のリヴァティーは、遮蔽物となる大きなデブリの間を、低速で移動しながら徐々にガーダーと電力供給船のいる方向へ進む。
 まずは敵を発見することに全力を傾ける時雨。だがデブリが視界を覆いつくし発見は困難だ。
 次のデブリの影に移動しようと、時雨が機体を動かした瞬間、モニターに警告が表示される。ガーダーの収束ビームが放たれたのだ。咄嗟にディフェンダーを構える時雨。危うい所で直撃を免れた、とシミュレーターが判定した。
 更に、この攻撃から敵の位置を確認した時雨は、アサルトライフルを撃ちながら一旦離脱して身を隠す。ガーダーも速射モードでビームを撃つが、デブリに阻まれ時雨の機体に当てる事はできなかった。
 これで、戦局を此方のペースに乗せる事に成功した時雨は、デブリの陰で機体を飛行形態に変形させた。
「神の御加護が有りますように‥‥」
 元修道女らしく祈りの言葉を呟いた時雨は、機体を可能な限りの速さで、デブリの陰からガーダーの方向へ突進させた。
 相手の速射をかわしつつ急接近した時雨は、相手の直前で再度変形、同時にガトリング砲でガーダーを牽制した。
 この牽制で一瞬怯んだガーダーにディフェンダーが振り下ろされた。
 時雨の勝利であった。

 遮蔽物の無い広域で、所定位置についた終夜・無月(ga3084)が、ミカガミ『白皇 月牙極式』のコクピットから礼儀正しくガーダーのパイロットたちに挨拶をした。
「宜しく御願い致します‥‥」
 緊張した面持ちで挨拶を返すガーダーの乗員。無理も無い。無月の機体に対して対等な戦いが可能な機数は10機だったのだ。しかも、これは白皇の稼働時間も考慮して数字だ。
 戦闘開始。無月は兵装射程を駆使し距離取り戦う事で、まず敵の動きを分析する。だが、ある程度撃ち合うと必要以上に時間をかけず、ガーダーの方へ接近を試みる。ガーダーも適切な陣形を組み速射モードで弾幕を張ることで、これに応戦した。
 無月の狙いは各個撃破。高機動を駆使して空間を縦横無尽に動き回り、スナイパーライフルを確実に当てていく。
 彼の狙撃は正確で、しかも火力が違う。直撃を受けたと判定されたガーダーのコクピットには、即座に『撃墜』の文字が浮かぶ。ごく短時間に三機を落されたガーダー側は、戦術の変更を余儀なくされた。
 三機のガーダーが前面に突出して、電源供給範囲内を可能な限り動き回り、多方向から速射を繰り返す。それでも無月は際どい所で回避しつつ、更に一体のガーダーに照準を合わせ、スナイパーライフルを放つ。
「‥‥被弾!?」
 ミカガミのモニターに、『一機撃墜』と『被弾』の文字が同時に表示された。肉を切らせて骨を断つ。ガーダー隊は一体を囮にして、収束ビームを命中させたのだ。
「もとより、侮るつもりはありませんでしたが‥‥」
 改めて無月は操縦桿を握り直す。
「過信は禁物‥‥その力、味方としてどこまで信じるに足るか、見据えさせてもらいます」
 凄まじい高機動で、ミカガミがガーダー隊の方に突っ込んで来る。ガーダー隊も即座に散開して、速射で応戦する。
 だが、ミカガミはアサルトライフルを撃ちまくりながら、中距離、近距離と接近する。相手の狙いは接近戦だと判断したガーダーたちは、ビームソードを構えこれを迎え撃つのだった。
無月は戦闘機形態のまま、この攻撃を回避するが、突如その軌道に異常が生じた。彼の驚異的な機動に、想定より早く練力が切れたのだ。
「勝った‥‥!」
 ガーダーのパイロットである、銀髪に碧眼の女性が叫んだ。だがすかさず同僚が訂正する。
「いや、あたし達の負け‥‥良くて引き分けね」
 ガーダーのモニターに表示される『母艦沈没』の文字。無月の目標は最初から敵の急所である動力部。すなわちガーダーに電力を供給している母艦であった。

 基地のラウンジでは、銀髪を纏めた青い目の女性兵士が、同僚と話し込んでいた。
「こっちは母艦破壊と燃料切れでドロー。他の所は相撃ちと、二本勝負でイーブン‥‥決着がついたのはデブリ帯での一戦だけですか‥‥」
「まあ、単純に勝敗決まるよりは得たものは多かったと思うわよ?」
「でも、母艦を落されたのは悔しいですね。そもそも母艦を守るのが私たちの役目なのに‥‥」
「まあ、模擬戦と実戦じゃあ、意識の持ち方も違って来るわよ。今日の結果を胸に刻んで母艦から絶対に意識を逸らさなければ大丈夫。むしろ、接近戦では、KVの変形の隙をついて勝ったって言う方が微妙かな‥‥HWは一々変形なんかしないし‥‥」
「それなら、ガーダーの方から格闘戦に持ち込むという手段もありますよ。格闘が不可能なHWにはかえって有効かもしれません」
「要は考え方だ。練力切れを心配しなくて良いというのは大きい。運用の仕方次第でKVの弱点を補う良い戦力になると思うぜ」
二人の女性兵士に、ラウンジに現れた威龍が話しかけた。
「戦力的にはいささか頼りないかと思ったが‥‥正直驚いたよ」
威龍の言葉に二人の女性は微笑みを返した。
 
(代筆 : 稲田和夫)