●リプレイ本文
奉天北方工業公司のラストホープ支社に傭兵が集められたのは、奉天社が開発した2機のKV、HF−032Ex「破曉」とHC−041Sup「西王母」のバージョンアップの為である。
運用実績の集積による機体構造の効率化、及び戦闘兵器としての性能向上による延命措置がその目的だ。
「さて、まずは破曉に関してのバージョンアッププランについてですね。此方は各部品規格統一による整備性の向上は実施されますので、問題点の一つである整備性の改善ではなく、性能面あるいは特殊能力面についてお願いします」
会議室に設けられた正面モニターの側面、各種操作機器が纏められた場所に位置する
崔 銀雪が、議題を告げる。
口にくわえた煙草を灰皿に置くと同時に、1人の男が口を開く。
「強化プランとしては、リミッター解除時における制御機構に手を加え、攻撃能力と知覚能力の分離による性能向上を図れないだろうか?」
御影・朔夜(
ga0240)の意見だ。
「そもそも攻撃時に物理的な攻撃と、知覚力を用いた非物理による攻撃を使い分ける事は個人的な経験になるが、そう多くは無い。大体はそのどちらか一方になる、それが他機より行動の幅が多く、万能性に利点のある破曉といえど‥‥だ」
その言葉に崔は頷くとコンソールに備え付けられたキーボードを叩き、彼の提案の要旨に理由を加えて壁面モニターへと表示する。
彼の言葉が終わるや否や元気よく美空(
gb1906)が立ち上がる。
「やはり破曉を破曉たらしめているの機能は超限界稼動なのであります!」
彼女は開口一番そう述べた
「現在の30%上昇から、50%程度までの能力向上は欲しいところであります。現状は他社技術が用いられている為バランス調製が難しいかもしれないでありますが、自社規格に部品統一を図るのなら、さらにピーキーな調製が可能だと思うであります」
「そうですね。やはり、ここの強化が欲しいです‥‥とはいえ、欲しい系統は各々異なるでしょうから強化可能にして欲しい所ですが‥‥困難であれば、より攻撃的な方向での強化が欲しいです。リスクそのものは大きくなっても構いません。火力上昇そのものが難しければ、やはりリスクの低減でしょうか」
美空の言葉に同調する望月 美汐(
gb6693)。
「確かに、超限界稼働、この子の魅力だと思う。だから、攻撃・知覚の切り替えで選択制にしてもう少し、性能を上げるっていう御影君の意見には賛成、できれば50%くらいの性能向上は欲しいんだけど‥‥後、リスクは確かに怖い。でも戦場は地獄、怯えて逃げても飲み込まれる。だから、戦う。だから、戦う力を上げたい」
同じく機体特殊能力への性能向上を求める夢守 ルキア(
gb9436)。
「リスクはこのままに、攻撃力を上げるというのはを引き出せるようにしたい、性能の底上げと組み合わせれば総合的な攻撃力は上げられると思います」
井出 一真(
ga6977)は攻撃力向上という意味では他者と同様だが、単体での性能向上ではなく機体全体としての性能向上による攻撃力の向上を意図した言葉を述べる。
彼等の言葉に続き、意見を述べるのはニコラス・福山(
gc4423)。
「この機体は根本として対エースを目的に作られた機体なのだから、対エース戦闘を目的にバージョンアップを行うのが当然だと考える」
そこで言葉を切り、一同を見渡す。
「対エース戦闘に必要なものは何か‥‥と考えれば最も必要とされるのは火力とそれを命中させる力。つまりバグア側エース機の並外れた装甲にキズを与えられる火力と慣性制御の軌道に追随可能な機動力。超限界稼動スキルが指し示すとおり、攻撃、命中、回避、知覚が必要な性能だ」
一度、ミネラルウォーターを含み、彼は言葉を続けた。
「逆に言えば、防御や抵抗、生命といった生存性は最低限でいい。重装甲機の代表格である雷電、更に幾重にも装甲を強化した機体がほぼ一撃で大破させられるような相手に、多少防御性能があったところで焼け石に水、通常のヘルメットワームのような相手であれば防御性能の向上は効果が見込めるが、この機体のコンセプトではない」
そうして彼は結論を述べる。
「リミッターは機能として解除されているが、まだ余力は残っていると思う。現状はタコメーターで言えばレッドゾーン。機体の範囲だ、本当の意味でのリミッターの解除‥‥機体が耐えられる限界ギリギリのラインに踏み込めば良い。リスクを向上させてでも、メリットを向上させるべきだ」
「僕も特殊能力の強化‥‥リスクを引き上げて、効果を上昇させる方が良いと思うよ。素の状態でも充分協力だし、機体性能から見て明らかに短期決戦用だから、よりその特性を尖らせた方が良い。欲を言えば移動力も引き上げた方が良いですが、そこはあくまで余禄のようなものですね」
ニコラスの言葉にソウマ(
gc0505)が同意する。
「美空としてはリスクの低減を最重要課題だと考えるであります」
彼らの言葉が終わると同時、今まで出たリスクを上げてでも、メリットを引き上げる事に対して美空が反対の声を上げる。
「参加した作戦でも、超限界稼動の弱点を突かれて何度も大破に追い込まれた経験があるであります。ここの改善を施せば、より良い機体になります‥‥確かに対エースを意識するのならば防御性能は無くても問題ないかもしれないでありますが、エースが単独で戦場に居る事は早々無い状況であります、攻撃を浴びせる前に随伴する護衛に落とされては元も子も無いであります‥‥マリアンデールの強制開放型装甲みたいなのを取り入れれば出来そうな気がするであります!」
美空は実際の経験を元に力説する。
「どちらの意見も頷けるものはあります。ただ、超限界稼動のリミッター解除は現状でも与える負荷が設計限度に達しています。これ以上強化を引き上げた場合、機体構造そのものの見直しが必要になります、不可能ではありませんが困難が予想されますので期待に添えない可能性が高いです。対して、リスク低減に関しては、放熱機の小型化、分散等である程度の対応は可能です」
「という事は、特殊能力の改造も無理でありますか?」
美空の質問に、崔は頷きで答える。
「ならば、美空は錬力消費量の減少を希望するであります!効率を上げて使用可能回数を引き上げればその分破曉は強くなるであります。或いはペインブラッドのように外部電源式にして3〜5回の使用可能回数を確保、現状では運用プランがカツカツ過ぎて錬力消費型の武装の運用が困難であります!」
「分かりました、検討事項に入れておきます。他に何か意見がある方はいらっしゃいますか?」
力説する美空の言葉を入力し、続きを促す。
その言葉に応じるように御影が一つのプランを述べる。
「‥‥現状ただのデッドウェイト、強いて言えばハードポイントの一種或いは通常腕が破壊された場合の代替となっているサブアームに相応の価値を加える事は出来ないだろうか」
「そうですね、現状では個々でその使用方法を考えないと役に立ちませんが、これをスキルとして独立化させて火力、命中強化の役に立つようなものにして欲しいですね。あるいは御影さんが言うようにリロード専用のアームにするというのも一つの手だと思います」
望月は御影の言葉に頷く。
サブアームには通常腕と同様の機能は備えられているが、現状はそれが独立した機能とはなっていない。
あくまで、腕の一つという位置づけになっている。
能力者のアイデアや運用方法次第では様々な事に用いる事が出来るが、特段のアイデアを出さずとも運用可能なスキルとしての搭載を望んでいた。
「サブアームとメインのアームを同時稼動させる事で、最大二種の兵装を用いた同時連携攻撃は取れないだろうか、同じ種別の武器を同時に運用する事で1点同時攻撃による威力の増大、あるいは片方を牽制に使用してもう片方で本命を叩き込めるようなシステムにすれば面白いんじゃないか?」
サブアームの運用方法に関してハンニバル・フィーべル(
gb7683)がもう一つの意見を出す。
「元々は専用プログラムが組まれる予定でしたから、そうした専用動作を組み込むのは容易です。ハード面の改修も不要ですから」
「‥‥後は性能面の向上だが、どういう形であれ、性能が向上すれば対エース戦闘を目的としているこの機体においてはプラスになる、性能向上は出来ればいいと思っているよ」
サブアームに関する意見が出揃った所で、御影が性能面に関する提言を行うと、井出も思案しつつ話に続く。
「正直なところ、カプロイアのオウガを意識せざるをえないんですよねえ」
瞬間的な運動性能を示す行動力と呼ばれる数値は多くの機体が3であり、4という数値に達している機体は相当な大規模改修が施された機体以外では破曉とオウガの2機種しか存在しない。
「破曉は基本性能を抑え目にして行動4を実現したわけですが、カプロイアはどうやって実現したのやら‥‥それはともかく、性能面の向上に関しては、やはり攻撃、命中、知覚の強化ですね。火力を向上させ、それを確実に命中させる事でより強力な攻撃を実現できるようにするのが妥当でしょう」
そう言って井出が言葉を締めると、望月が続く。
「能力値上昇をさせるなら、やはりやや少ない装備能力を補いつつ、確実な命中になりますね。もっとも、それより特殊能力の強化を優先‥‥全て特殊能力強化につぎ込んで欲しいですね」
「俺としちゃ、機動性の強化が良いかと思う。運動性能って意味じゃなくて、スピードの方だがよ、足並みを揃えるって意味じゃ最低限の速度は出せるみたいだが、孤立した味方の援護に向かうとかの時は早い方が何かと便利だしな」
彼女の言葉に頷きつつ、汲川 涼(
gc7158)がスペックデータを眺めながら言葉を紡ぐ。
「そうですね、一点集中‥‥他の能力を多少下げてでも回避能力を引き上げる事が機体の長所に合わせたバージョンアップが良いかと思います。下げる部分は必然的に不要となる防御辺りでしょうか」
「能力値の上昇に関しては、此方も皆さんの意見を元に考える事になると思います、他に意見が無いようであれば、休憩を挟んだ後に西王母の改修案に関する意見交換をしたいと思います」
関城 翼(
gc7102)が言葉を終え、大方の意見が出尽くしたと判断すると崔は議題を転換した。
「ちょっと一息入れましょう」
休憩時間に持参したコーヒーミルで豆を挽き、望月がコーヒーを振舞う。
そうして配られたコーヒーにソウマが大量に砂糖を投入する。
その量に各人の視線が自然と集まるのに、彼は慌てて手を振った。
「いや、頭脳労働には糖分が必要なんですよ」
集中する視線は「でもその量は多過ぎだろう」と雄弁に語っていた。
「‥‥勿論、大好きなのは認めますがね」
「ところで、骸龍のバージョンアップは難しいですか?」
「私も好きな機体だから気になるね。さっきも言ったリスクに関する事だけどさ、骸龍なんかその良い例だと思うよ。好きな人は好き、何時まで生きてられるかワカンナイ。でも、一緒なら戦える」
ハミル・ジャウザール(
gb4773)と夢守が意見を纏めていた崔に話しかける。
「ああ、そちらの機体でしたらバージョンアッププランは提出してあります。機体特性を尖らせる方向で調整かけているので、近日にはなんとかなるかと。まだプランの段階なので、確実にできるとは言い切れません」
休憩時間が終わり、次なる議題は西王母のバージョンアップに関するものだ。
現状、戦域での補給能力を有する機体として傭兵へ貸与されている西王母だが、その機体特性ゆえに戦闘能力は考慮されていない。
「一般的な使われ方からすれば、やはり弾薬補給回数の増加があるとは思う。特に使用局面が通常依頼より大規模作戦での運用が多いからね、多量の弾薬が望まれるとは思う」
「大規模でお世話になるかなぁ、っというレベルの視点ですがぁ。弾薬補給回数の増加が良いのではと思うのですよぉ」
どことなくおっとりとした口調で、宇加美 煉(
gc6845)がUNKOWN(
ga4276)の言葉に同意する。
「暇な時に報告書を読んだりしているのですがぁ、結構な頻度でK−02のような多目標を目的とした武装が用いられている事が多いみたいですしぃ、相手が二段三段構の時に弾切れで苦戦、対処が遅れたりしているような報告も見受けられますぅ。通常依頼の報告書でしたがぁ、大規模では更に長期に渡って戦闘する事と思うのでぇ、弾薬不足での帰還やぁ、殲滅力低下が戦線のあちこちでおきてると思うんですよぉ」
「そうですね、そういう意味では弾薬は重量なんですよね」
「まぁ、戦場じゃ手持ちの弾が切れるってのは不安なもんだし、白兵武器があるっつっても弾があると無いとじゃ全然違うしな」
彼女の言葉に関城と汲川が頷き同意を示す。
「うーん‥‥私ゃ微妙に不便だと感じているのは錬力補給やねぇ。機体によっては馬鹿食いするから、現状の補給量じゃ全然足りないのよねぇ‥‥具体的には1回で1.5倍か2倍くらい補給できると嬉しいさね。必要なら回復可能回数を少し減らしてもいいから、1回である程度の補充が出来ると使いやすくなるやね」
彼らが弾薬補給を重視するのに対し、カーラ・ルデリア(
ga7022)は錬力補給能力を重視した意見を出す。
「あくまで私の意見だけど、陸戦限定になるけど弾薬はあえて無くても戦う事は出来るよね、近接白兵戦でさ。そういう意味だと近接戦を好むタイプには全然恩恵を得られないんだ。兵装にもよるけど錬力消費するのもあるし、そういった意味なら錬力補給量が増加する方が良いね、もっとも私は総合的な回数が増えるほうが良いと思うけれど」
ルデリアの意見に夢守が同調しつつ言葉を続ける。
「現状だと恩恵を得られるのは10人だよね、通常依頼なら充分だけど、大規模みたなのを考えると広く、浅く、より多くの方が良いと思う。戦場に留まる時間が増えれば怪我をする確率は上がるけど、その分仲間を助けられる機会が増える。重体100人と死亡1人って意味なら私は前者を取るよ」
夢守に続くのはカグヤ(
gc4333)。
手元から取り出した紙に目を通しながら、口を開く。
「うーんと‥‥現状の西王母の問題点は補給時の安全確保が必要な事と、戦闘能力が皆無に近い事、だと思うの」
一端言葉を切ると、もう一度紙に目を通す。
「それで補給時では、実際問題として目の前で戦闘が行われている場所ではなく後方で補給に入る事が多い、そうなると補給後の機体はすぐに前線に戻ろうとしてブーストとかで移動するから補給した錬力がガリガリ削られます。そう考えると現状の補給能力では頼りないので、補給量増加を見込みます」
所々でたどたどしい口調ながらもカグヤは言葉を続ける。
「回復量の増加に関しては200が妥当だと思えます。200あれば、既存KVのほぼ全ての初期値をまかなえ、最大戦力になりうる魔改造と称される機体に対しても程よい回復量になるかと思います。戦場では多くの機種が投入され、機体特性を活かすスキルはどれも錬力消費が激しく、今後は今以上に錬力の必要性が高くなるので、ええと、つまり補給機としての特性を活かすためなら、補給量増加っていうバージョンアップが良いと思うの‥‥思います」
「そうですね‥‥どちらも魅力はあるのですが、私は同時補給機能を推します」
錬力か、弾薬かの意見に対し、井出は別のプランを推す。
「補給を受ける際は基本的にどちらも消耗している状態にあるもの、必殺必中を期すならブーストなどの特殊能力も使うでしょうし、それを考えると素早い戦線復帰には必須の能力ではないでしょうか?」
「そうだな、西王母による補給は前線とUK等の母艦や基地等の拠点間で行われる事が多いからな。特に弾数が極端に少ないリロードの出来ない兵装を主力として運用する機体には重宝され、そうした兵装の確実な命中や威力の強化を企図したブーストや特殊能力は併用される。そうした意味で戦線復帰を早めるというのはいい案だと思う。補給が1手で済めば、リスクも減るしな」
「戦場に留まるのに不向きな機体ですからね、同時に補給を終えれば後退する時間も若干は稼げますから、その点では賛成です」
井出のほか、フィーベルや関城が賛意を示すのとは反対に、ルデリアはあまり気の乗らない様子を見せる。
「うみゅみゅ、悩みどころやね。あれば便利だけど、無くても其処まで変わらない気はするんよ」
それが彼女の意見である。
「後は、そうですね。大型の機体であり且つ高価、しかもその特性から攻撃目標になりやすい西王母の自衛能力は高ければ高いほど有為でしょう。戦闘能力を向上させる事によって新しい運用方法‥‥前線の砦のような役割を担えるようになるかもしれません」
「僕としても、自衛能力の強化は優先したいです」
井出の意見にジャウザールは同意しつつその理由を説明する。
「最近では敵の戦力も強化されていますし‥‥護衛機任せにすると周囲の負担が大きくなりますからね。方法は幾つかありますが、迎撃を主軸とするのか、あるいは防御を主軸とするのかで変わるとは思います」
そこで一度区切りつつ、ジャウザールは言葉を続ける。
「一つはスロットを増設する方法ですね、防御用のアクセサリあるいは盾のような防御装備を考慮して兵装を増やすか‥‥どちらを取っても構いませんが、この場合は並行して装備力を増やすのも必要になると思います。せっかくスロットが増えても行動に支障が出るようでは意味がありませんしね。もう一つは、迎撃システムの強化‥‥可能なら簡易イージスシステム神盾を改造で強化できるようにする‥‥補給能力の方は性質からして無理そうですが、こちらの装備は固定装備に近いので強化できそうな気もしますが‥‥」
「あくまで艦載用のイージスシステムを簡略化してKVのような小型機のコンピュータでも処理できるようにしたものですからね。簡単に説明すると、レーダーとC&D‥‥指揮決定システムで目標の脅威度を算出、FCSで照準を定め低出力レーザー機銃で狙撃し、迎撃するというものですが、個人による強化ですとおそらくレーダーと指揮決定システム、後はFCSの改良が必要になるので、強化可能にするのは難しいと思います。システムをそっくりそのまま最新型に乗せかえるような、今回のようなバージョンアップによる強化は可能ですけれど」
ジャウザールの質問に対しての崔の回答は、強化は不可能だがバージョンアップとしての強化は可能との事である。
「そうですか‥‥勿論補給能力の改良も出来れば良いのですが、補給中の回避は西王母に依存しますので優先度としては自衛能力かなと思います。単純に機体性能を上げるのなら、現状のシステムでは難しいプロトン砲対策として、抵抗を上げるのが良いかと。防御性能を引き上げるアクセサリはありますが、抵抗を引き上げるアクセサリは少ないですし、あっても上昇幅が少なかったり、重量があったりで使いにくいので‥‥」
「簡易イージスシステムってんなら、弾体の迎撃以外に接近してきた敵機を自動攻撃できるようにならねぇかな。射程はそう長くなくていいんだけどよ、牽制だけでもできりゃ補給中の味方機の保護と自衛に使えると思うんだが?」
「其方は、機銃にSES機関を搭載する事と脅威度選定に対して弾体だけではなく、敵機も含める事で対応は可能です。ただ、処理対象が増えるので、若干の能力低下は起きる可能性が高いですね。影響の出ないように考えるともう一つイージスシステムを搭載して、専用のものとするかになりそうです」
彼らが自衛能力の向上を意図した攻撃性能や防御力の強化を提案するのに対して、ソウマが声を上げた。
「自衛能力の強化って事なら、迅速に逃げる為に移動力を上げるのも手ではないでyそうか? まぁ速度そのものはそれなりに出るみたいですが、早く戦場を離脱できれば護衛側の負担も軽減できると思いますよ」
そこで一端ソウマは言葉を切る。
「後は、移動速度を引き上げれば結果的な防御性能を引き上げる事の他に、迅速に戦場が移動できますから求められる場所に即座に駆けつける事が出来る。折角移動できるんですからその点を活かすのが理想と思います」
「あー、そういう意味での防御力ならあたしも賛成」
ルデリアがソウマの言葉に頷く。
「自衛能力はぶっちゃけ要らないと思うんよね。自衛能力にスペック取られるくらいなら、護衛戦力を増やして対抗すれば済む話だし、西王母は西王母にしか出来ない事をつきつめていけばいいなって思うにゃ。でも逃げ足を増やすためのスピードアップ、この場合は移動速度に直結しなくてもいいから実際の最高速度を増やせると嬉しいやね」
ルデリアが意見を述べる間にソウマは持参したチョコレートを一口齧り、息を吐く。
「迅速さという意味では、今ある補給の速度を向上する事が出来れば良いですね。迅速に補給が出来れば無防備な時間を短くする事が出来る。場合によっては最前線で補給なんて事もあるかもしれませんから、より短時間で済ませたいっていうのが僕の意見ですね」
「なるほど、迅速さか」
UNKNOWNは紫煙をくゆらし彼の言葉に頷く。
「そういう意味なら私も迅速さを求めていると言えるかな、先に述べた錬力補給よりも私は同時に複数機、可能なら2機以上の機体に対する同時補給機能等も欲しいかな。一度で複数の機体に対応できれば、補給の順番待ちなどしなくて済むからね」
「私はぁ、AとBのコンパチというかぁ‥‥クノスペみたいに用途に応じて換装出来たら便利だと思いますぅ。部隊と人によって運用方法や求める要素が変わると思うんですよぉ、さっき夢守さんが言ってましたけどぉ、接近戦重視の部隊には弾薬補給は要らないですけ
ぉ、逆に遠距離主軸の人や航空戦闘を主軸にする人にとってはぁ、弾薬補給は必須になると思いますからぁ、やっぱり安易に換装できるようにすると問題あるのかしらぁ?」
「換装そのものは問題ないんですが‥‥最大の問題は補給装置の大きさですね、機体が巨大なのは補給装置がかなり大型になってしまうからなんです。30m近いコンテナをどこに置くのか、後はそれを付けるための設備が必要というのが最大の問題です」
「コンテナという事なら、人や物の輸送コンテナが装備できるというのが一番良いのだがね」
宇加美の言葉にUNKNOWNが続く。
「一応完全な輸送機としての運用を視野に入れた輸送用コンテナはありますから、無理ではないです。KVを搭載する事も出来ない訳ではないですね、その場合は翼や武装を外した状態でという事が前提となるので、コンテナから発進するというような運用は出来ません。後は仮にもKVなので一般人を乗せての全力飛行は無理です、能力者を乗せても意図しない方向での加減速や機動が行われるので、機動戦闘しながらというのは不可能です。旅客機のようなゆっくりとした操縦ならどうにでもなるとは思います」
「各々、参考になる意見が多いね」
「実際に運用している人も多いですからね、全ての要望に答えるのは技術的な問題や資金的な問題がありますから無理なので、可能なものを検討して実際に搭載という形になりますけど」
モニターを横から眺める男の声に答えつつ、自分のデスクに戻った崔はキーボードを叩く。
画面には、傭兵から得た意見とそれに使用する技術や資材を計算、予算とのやりくり等の面で分類作業が行われていた。
「天の方はどうなっています?」
「ああ、あちらは量産試作機の方も問題なかったから、早速生産ラインを動かしているよ、うまくすればすぐに納入できるんじゃないかな?」