タイトル:隧道の彼方よりマスター:左月一車

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/12 07:15

●オープニング本文


 バグアとの戦争が長期化するに伴い、金属資源の需要は増していた。
兵器や弾薬といった武器に使用する金属資源は食料と共に、重要な物資の一つである。
そうした状況で、新しい鉱山が各地で開拓され、鉱夫達は最新の機材あるいは昔ながらのツルハシを振るい、必要とされる金属の元となる鉱石を掘り続けていた。

 そんな中の一つの鉱山で事件は起きた。
ここで主に産出されるのは鉄鉱石‥‥鉄の原料となる金属であり、非常に重要な金属の一つでもある。
その日も、いつものよううに彼らは鉱石を掘り出していたが、その中の1人の男が額の汗を拭い、休憩を取っていた。
「‥‥タバコが吸えないってのが少しきついな」
 鉱山では空中に漂う微細な粒子に引火して爆発的に燃え広がる粉塵爆発が生じる事がある。発火の原因は火花などが多いため、基本的に坑道内では火気厳禁なのである。
男が休憩を終え、手近な岩に手をついて起き上がろうとした時、体重をかけたその岩が外れ、男はバランスを崩す。
「おっとっと」
 転ぶ前に腕を振りバランスを取った男は、外れた岩の奥にあった空洞を覗き込む。
「この隣はまだ誰も掘ってないはずだが、空洞があったのか?」
 その空洞の奥で細長い大きなモノが動いた気がして男は手近なライトを掴むと中を照らす。
ライトの細い光の中に浮かび上がったのは体長10mはある巨大な「ミミズ」のような生物、もっともこんな生物が地上に居る訳も無い。
「キメラだー!」
 男は叫ぶと、周辺で作業する仲間に避難を呼びかけ、無線機で鉱山の麓に連絡を入れた。

 麓の監督所では、周辺に駐屯する軍に連絡を入れたが、軍隊の装備では粉塵爆発や落盤を起こす危険性が高いとの事で軍は派遣できないと言われた。
確かに一般歩兵の対キメラの主力武装は大口径の無反動砲や対戦車ロケットでこんなものを坑道で撃てば、大変な事になる。
 そこで、鉱山の責任者は軍の指揮官と話し合った後、能力者の傭兵に頼るためUPCに連絡を入れた。

●参加者一覧

桜崎・正人(ga0100
28歳・♂・JG
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
黒江 開裡(ga8341
19歳・♂・DF

●リプレイ本文

「また面倒な所にでてくれたものだな」
 依頼を受け、鉱山の入り口に集まった傭兵達の一人、御山・アキラ(ga0532)が呟く。
「ミミズ型のキメラは陸上バグア戦力の定番ってヤツだねェー。小さいニョロニョロからKV丸呑みサイズまで‥‥バグアに取っても使い勝手の良いキメラなのだろうかねェー。興味深いねェー」
「以前にもこのタイプと戦った事はあるけど、やりにくいから嫌なのよね」
 独特の口調で寸評する獄門・Y・グナウゼナウ(ga1166)と銜えタバコのリン・アスターナ(ga4615)が御山の言葉に応じる。
「とりあえず、誘い出すポイントはここか、ここ辺りか?」
 申請した坑道の地図の幾つかの箇所を寿 源次(ga3427)が示す。
 傭兵達はあらかじめ戦闘を行う場所を決めていた、ある程度の広さがあり、かつ構造が頑丈、複数の通路に繋がる地点だ。
 流石にそうした条件を満たすものはそれなりに大きいこの鉱山でも2箇所しか存在しない。
「私もそこで良いと思います。暫定でAポイントとBポイントと呼ぶ事にしましょう」
 同じように地図を見ていた平坂・桃香(ga1831)が源次の言葉に頷く。
「ロックウォームが見つかったのは、第一発見者によるとここらしいわ」
 依頼人に最初にキメラを見つけた場所を聞きに行っていたアズメリア・カンス(ga8233)が地図の一点を示す。
「そいじゃ、まずはそこら辺目指していこうか。俺、グナイゼナウ、アキラ、アズメリアのA班と、桃香、リン、源次、開裡のB班だったか?」
「班分けはそんなもんだったな。ところでソレ気になってたんだが‥‥」
 桜崎・正人(ga0100)の言葉に頷いた黒江 開裡(ga8341)がリンのタバコに視線を向ける。
「‥‥ああ、これ? 大丈夫、坑内で吸うつもりは毛頭無いわ。ちょっとしたお守りみたいなものよ」
「それなら構わないか」

 傭兵達は坑道に入ると、まず目撃地点まで移動すると、それぞれの班に分かれて行動を開始した。
 坑道内は基本的に電灯が灯され、照明には問題ないが、今回の場合はキメラの活動によって所々が断線しているのか漆黒の闇に包まれている場所が多い。
 借りたライトの明かりをつけ、傭兵達は別チームと無線で連絡を取り合いつつ、音などの異常が無いか気をつけて進んでいく。
 B班に所属する桃香は地図に記載されていない横穴や空洞を見つける度にその内部を念入りに確認する。
 桃香が装備している暗視スコープは一般的な増光式ではなく、軍用の赤外線式だ。流通量が少なく、傭兵でも入手困難なアイテムである。
 ライトよりも捕捉出来る範囲が広いため、闇の中では非常に役に立つ。
 ロックウォーム自体は移動しつつ掘削を行っているようで、未だにA班、B班ともに捕捉出来ていない。
 捜索を開始してから30分ほど経過した頃、グナイゼナウはふと耳に届いた僅かな音に脚を止める。皆の足音ではない、何かを削るような音だ。
「何か音がするんだねェー」
「音‥‥?」
「本当だ」
「ヤツか?」
 グナイゼナウの言葉にA班の全員が脚を止め、耳を澄ませる。
 その音は徐々に近づいてきているようだ。
「近づいてきているような気がするわね、少し離れておく?」
「そうだな‥‥こちらA班、ロックウォームらしき音を確認した」
 アズメリアの言葉に全員が頷き、アキラが無線で状況をB班に連絡する。
 時間にしては10秒にも満たないだろうか、全員のライトが音のする方向に集中しているその時、岩の崩れる音共に巨大な長虫型のキメラ、ロックウォームが通路にその姿を現した。
 体の大半はいまだ穴の奥にあり、その詳しい全長は分からないが、口の部分だけで人間くらいなら一飲みに出来そうな大きさだ。
 その口の部分には掘削の為か鋭い歯が同心円状に並び、万一噛まれたら酷い事になる事が予測できた。
 ロックォームは頭部にある細長い触手をゆらゆらと動かし、身構える能力者たち方向にしばらく向いていたが、能力者の存在に気づかなかったのか、あるいは単に興味が無いのかそのまま隣の壁の掘削を始める。
「ここからだとポイントBが近いねェー」
「こちらA班、キメラを確認した。Bポイントへ誘導する」
「‥‥さて‥‥鬼さんこちら、手のなる方へ‥‥ってところか?」
 マーキングした地図を確認したグナイゼナウの言葉に正人は手にした洋弓「リセル」に矢を番え弦をしならせ、掘削中のロックウォームの頭部へ弓を射る。
 放たれた矢はロックウォームの頭部に刺さり、ロックウォームが一瞬動きを止める。
 ダメージとしては大したものではなさそうだが、興味を引く事には成功したようだ。
 次の瞬間、ロックウォームはその長い体をミミズのように伸縮させ、能力者たちを追いかけ始める。
 幸い移動速度は大した事は無いようで、誘導自体には苦労する事は無さそうだ。
「あの触手はネコのヒゲみたいなものかねェー」
 誘導して走りながらもグナイゼナウは蠢くキメラの触手部分に注目していた。
 ネコのヒゲは高性能なセンサーのようなもので、風の方向や顔周辺のものとの距離を測るために使用している。ロックウォームもまた岩盤の壁面に触手を接触させ空洞の大きさを測っているように見える。
「んじゃ触手斬っちまえばいいんじゃねぇか?」
「そういう訳にもいかないねェー、アレ斬ると壁にぶつかるねェー」
「落盤がおきやすくなるってことね。厄介な相手ね」
 
 Bポイントには既にB班が待機していた。
 A班がBポイントに到達して数秒後、ロックウォームがその姿を現す。
「補助は任せろ‥‥弱体を入れる」
 ロックウォームの巨体に超機械の先端を向け、源次が練成弱体を使用する。
 平坂がその直後に走りこみ、蠢く敵の頭部を狙い月詠を振るう。練成弱体によって防御力が低下した為か、刃が敵の外皮を易々と貫き、その体液を飛散させる。
「うわ!? 汚いですね、もう」
 飛散した体液を頭から浴びそうになった桃香が危ういところで回避する。
 弓に矢を番えたまま、敵の動きをじっと見つめていた正人は1点を見据え矢を放つ。敵の急所を見定めた上で放たれた矢は深々と突き刺さる。
「はっ!」
 疾風脚のスキルを使用して一時的に速度を早めたアキラは更に瞬天速を使用してキメラの背後に回りこむと、その背にロエティシアを気合の声と共に連続で繰り出す。
 リンもその銀の髪を靡かせ、急所突きを含めた連続攻撃をロックウォームの頭部へと繰り出す。
 その身に宿したエミタを活性化させ、月詠のSES機関を通常以上に稼動させたアズメリアが、ロックウォームの体へと連続突きを繰り出す。
 振り下ろす攻撃は下手をすると岩盤を砕く可能性があるためだ。
「‥‥ハンバーガーの肉の原料1匹入りましたー」
 棒読みでロックウォームの側面に走りこみながら開裡が巨体を振り回すロックウォームの身体をすり抜けつつ流し斬りを仕掛ける。
 ちなみに、ハンバーガーの肉にミミズが使われているというのは有名な都市伝説である。
 実際には食用ミミズの方が牛肉などより栄養価が高く、かつ高価である。砂抜き等の手間を考えると牛肉を使用した方が遥かに安いので、実際に使われてはいないのだが。
 その体が大きい事に加え生命力が旺盛なためかベテランと言っても過言ではない能力者たちの集中攻撃を受けたロックウォームの動きは少しも鈍っては居なかった。
 鈍重な体を動かし、目の前の桃香に向かい突進する。
 回避ではなく受けを選択した桃香にその巨体が凄まじい衝撃とともに激突をする。月詠を構え、攻撃を受け止める事には成功したが、その衝撃を殺しきれず桃香は弾き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「きゃっ!?」
 一瞬息が詰まるものの、すぐに吹き返した桃香への追撃ではなく、その身を捻り背後のアキラ、側面のアズメリア、リン、開裡と周囲の接近戦型の能力者を弾き飛ばす。
 広い場所であればその攻撃を簡単に回避する事も出来ただろう、他の場所と比べれば広いとはいえ、戦闘を行うにはやや狭いためか充分な回避運動を取れない。
 各々の防御能力は充分に高いといえるが、ロックウォームの重量を活かした攻撃の前にはやや不十分といえる。
 少なくない傷を負った能力者たちだが、体の痛みが和らぐのを感じた。
「多少の傷なら治すから気にしないで攻撃するんだねェー」
「怪我は気にするな、暴れてくれ!」
 超機会を携えたグナイゼナウと源次の使用した練成治療だ、細胞を活性化させ受けた傷を急速に修復させていく。
 ちなみにグナイゼナウの手にする超機械はエネルギーガンの為、傍目には味方に銃口を向けているような形になってしまうのは仕方の無い事だ。
「そうはいっても長引かせる訳にはいかないわね」
 ロックウォームが暴れた為か、補強として入れられた壁の柱が若干歪んでいるのを確認したリンは急所突きに加え、瞬即撃を使用し、ディガイアを振るう。上下左右に縦横無尽に振るわれた爪はロックウォームの一部をずたずたに引き裂き、肉片を散らす。
 体液の嫌な匂いが狭い坑道に充満していく。
「‥‥そろそろ疲れたんじゃねぇか?とっとと沈みな‥‥」
 正人もまた、急所突きを使用しながら矢筒に収めた矢を取り、番え、射るという動作を繰り返す。狙いは頭部だ。普通の生物であれば頭部は中枢神経系が存在するため弱点となるがベースがミミズの為か頭部への攻撃でも今ひとつ確実にダメージが入っているとは思えない。
 しかし、攻撃を繰り返せばそれだけダメージは蓄積される。
 弾き飛ばされた桃香も素早く復帰し月詠を振るっていく、深く入った刀を引き戻し、袈裟懸けに振り下ろし、切り上げ、横に薙ぎ払う。飛び散る体液を気にせず、ロックウォームの肉体を切り刻んでいく。
「しぶといわねっ!」
 いまだ動きを止めないロックウォームにアズメリアは全力の攻撃を何度も繰り返す。深く突き、引き戻し、更に突き、引き戻し、突く。
 度重なる集中攻撃で相当のダメージを与えた筈だが、未だ動きを止めるには至らない。
 ロックウォームが大きく口を開き、アキラへと噛み付こうと身体を動かす。
 とはいえその動きはベテランの能力者から見ればかわす事は用意だ、素早く身を捻り紙一重で回避したアキラはそのまま両手の爪でカウンター気味に頭部への一撃を叩き込む。
 ロックウォームはその攻撃を受けてもその身を伸び縮みさせ、源次へとその身を向ける。
 自身が狙われている事に気づいた源次だが、肉体能力に優れていないサイエンティストの為か攻撃を完全に回避する事が出来ずに体当たりを喰らい弾き飛ばされる。ロックウォームの体重から言えば自動車に撥ねられるようなものだ。
 とはいえ覚醒した能力者にとっては戦闘不能になるような傷とは言えないが、それでも傷は深い。
「まずいっ!?」
 再度の攻撃を仕掛けようとしたロックウォームの正面に走りこんだリンが、速度をそのままに攻撃を叩き込む。
 同様にその反対を駆けた開裡も注意を源次から逸らす為、手にした月詠を振るう。
 更に、正人が放った矢が連続で突き刺さる。
 流石にそれだけ攻撃を受ければ源次への攻撃を諦め、ロックウォームは頭部を振り回しリンと開裡を弾き飛ばす。
「まだ元気なんだねェー」
 流石にそのあまりの生命力にグナイゼナウが呆れたような声を上げる。
 既にその身に刻まれた傷は30を越える、浅手もあれば深手もあるというのに、動きを止める気配すらない。
「いい加減倒れて欲しいものですね!」
 傷口から体液を撒き散らしつつ、未だに動き続けるロックウォームの正面から再度頭部に斬撃を繰り出す桃香。能力者の攻撃が比較的頭部に集中した為か、肉片を撒き散らし頭部のかなりの部分が欠損し始める。
 形勢不利を悟ったロックウォームが後退するために付近の穴に潜り込もうとするが、能力者たちはそれを許す筈が無い。
「そろそろ‥‥おねんねの時間だぜっと」
 多少の傷の痛みを意思の力で抑えつけ、開裡が素早くロックウォームの側面から斬撃を叩き込み、その肉体を刻み、体液を散らさせ、肉片へと変えていく。
「侵略者には消えてもらうわ」
 残り少ない錬力を全て消費させるつもりで、アズメリアは全力の攻撃を放ち。ただひたすらに素早く突きを繰り出していく。何度も突きを入れた為かアズメリアの攻撃した場所はぐずぐずになり、採取していた鉱物類がロックウォームの傷口からこぼれ落ちてくる。
「そろそろトドメといきたいものだが」
 アズメリアのつけた傷口に駆け寄ったアキラが。その傷口にロエティシアを振るう。
 もともとの傷口の形状の為もあったが、アキラがその両手につけた爪を振るう度に肉片が弾き飛び体液が噴出し、体内に納めた鉱物類が次々に零れ落ちていく。
「こりゃ、依頼が終わったら前衛の皆は風呂入らないとな」
 正人も残り少なくなった矢を番え、引く。弓矢の傷は斬撃などと比べれば地味だが、深く突き刺さったその矢は着実にダメージを蓄積させている。
「練成治療は後回しなんだねェー」
「鉄鉱石が露出した部分には当てないようにな」
 超機械の発する電磁波による火花の発生を恐れ、積極的な攻撃は控えていたグナイゼナウと源次もロックウォームへと攻撃を繰り出す。
 超機械とエネルギーガンから放たれたエネルギーはキメラを内部から焼いていく。
 その攻撃には耐えられなかったのか、幾度も集中攻撃を浴びたロックウォームはついにその生命活動を停止し、地面に倒れ伏す。
「‥‥ようやく終わったか‥‥?」
 リンがため息をついたその時、ぱらぱらと頭上から細かい石辺が落ちてきた。
「‥‥なんか崩れそうな気がするんだけど」
 周囲の補強材が戦闘であちこち破損している事にアズメリアが気づく。
「こりゃ、さっさと逃げた方が良さそうだな。生き埋めはゴメンだぜ」
 開裡の言葉にその場の全員が頷くと、疲労した身体に鞭を打ち、能力者たちは坑道を急いで走り出す。
 その背後で崩れる石は小石から石に、石から岩にと徐々に大きくなっていく。
 落下する岩石は生命活動を停止した為にフォースフィールドを失ったロックウォームを容赦なく押しつぶしていった。

 落盤の発生した鉱山から無事に脱出した傭兵達は、まず風呂を借りその身についたロックウォームの体液や疲労を湯で流した。
こうして鉱山に現れたキメラは駆除され、鉱山の操業はすぐにも再開されるだろう。
元の産出量に戻るにはそれなりの時間はかかるかもしれないが、ここで生産された鉱物はバグアを地球上から駆逐するのに多少の貢献を果たすと考えながら傭兵達は帰路についた。