●リプレイ本文
「生産基地を叩くだけ、と言えば、楽なお仕事のようですけど‥‥敵戦力が不明というのは。空から行くよりは、海から行くのが良いでしょうか。空のアグリッパより手強い相手がいるとは思えないので、大丈夫とは思いますが‥‥」
コクピットのコンソールに設置されたスイッチを指先で跳ね上げ、機体を起動させながら如月・由梨(
ga1805)が呟く。
響き始めたリヴァイアサンの鈍いエンジンの始動音がその目覚めを示す。
如月機と同じ艦に乗り合わせた山崎 健二(
ga8182)のディアブロもまた、機体の起動は完了したようだ。
本来ディアブロは空陸仕様の機体だが、水中用キットの装備である程度の水中行動を可能としている。
「どんだけ敵がいるのか分からねぇってのは、ちぃっと厳しいが、それはそれで面白‥‥くねーよ、笑えねーっと、発進準備完了だ」
機体の状況に問題が無い事を確認した如月、山崎の両名は準備が整った事を告げると、艦尾ドックに注水が開始。
同時に傾斜したガイドレールから機体が水中へと投入される。
微速推進で母艦から充分な距離を取ると、正面コンソールのソナー画面に目を向ける。
水中という環境では電磁波を使ったレーダーは効果が薄い。その為、主たる策敵にはレーダーの代わりに音波の反射を利用したソナーが用いられる。
駆動音から機載コンピュータが自動で識別した味方の配置を確かめる。
「敵戦力が不明すぎるのが気になるなぁ・・‥海でミミズとかに出会わないようにだけ祈っとこう」
鷲羽・栗花落(
gb4249)は敵に値するような反応が周囲にない事を確認する。
今回の侵攻ルートに海中を選択した関係もあり、傭兵の幾人かは通常機に水中キットを装着する事で海中への対応を済ませている。
浮きも沈みもしない中性浮力を取る事やSES機関の水中対応など基本的な対応は可能だが、あくまで対応させるというだけであり、その推進力は非常に低い。
その短所を補うべく、水中キット搭載機を水中機がワイヤーで繋ぎ曳航するという手が採られている。
「これでよし‥‥と」
水上・末早(
ga0049)のワイバーンMk. IIにワイヤーが固定されている事を確認した井出 一真(
ga6977)がスロットルを開く。
陸戦機を曳航する他の者達に先行するのはアーク・ウイング(
gb4432)。
今回の攻略目標が水棲系キメラの生産施設である以上、水中にキメラを放出する為の通路があると想定されていた。
そうした通路を捜索する為、仲間から僅かに先行していたアークは1mほどの小さな動体反応が群れをなして此方に向かってきた事をソナーが捉えた事に気付く。
数はやたらに多いが、大きさからワームなどの機動兵器ではない。
「さすがにアグリッパがあると判っていて上空からの強襲降下を試みるほど、わたしは命知らずではありませんし。
敵の数は判らないとは言え、揚陸作戦の方に活路を見出したいですが‥‥水中にも備えてはいたようですね」
アークからの報告を受けて、神宮寺 真理亜(
gb1962)を曳航する乾 幸香(
ga8460)が群れの先頭にM−042小型魚雷ポッドを発射する。
威力はないが同時に25発の小型魚雷を放つ牽制向けの兵装だ。
魚雷が先頭に到達した瞬間、水中を無数の衝撃波が走る。放たれた魚雷の数を上回る規模の連鎖した爆発。
連鎖した衝撃波が収まると、小型の群れの一群が消滅していた。
「機雷?」
アークが前後の状況から判断する。
「そうでしょうね。防衛用キメラではなく、能動機雷を大量に配する事で海上からの攻撃に対する防備としているんでしょう」
機雷の一群を片付けたとはいえ、次の機雷群が近づいてくる。
その群れに多連装魚雷を放って誘爆を利用して一掃した水上が応える。
「上空に対する防備よりは大分手薄だな。もっとも、艦船で上陸しようとしていたら一網打尽だっただろうけどな」
山崎も水中用大型ガトリングを放ち、機雷群に射撃を加える。
艦船や潜水艦などの大型で鈍重な目標を破壊するのには向いているが、水中でも大量の弾幕を形成し、機動性も高いKVを目標とするには機雷は圧倒的に不向きだ。
程なく水中側の防衛戦力は駆逐される。
「たぶん、ここが水中通路だよね?」
モニターに表示される、明らかに人の手が加えられた細長い穴を前に機体を静止させたアークが呟く。
穴の大きさはKVで侵入は可能だが、殆ど回避の余地がない程のもの。
通路内部で戦闘になったとしても、前面に立つ機体が邪魔になり他の機体は何の手出しも出来ないようなそんな大きさ。
「どうしよう?」
「2機がこちらに侵入し、他の機体は上陸して施設攻撃‥‥という手はどうでしょうか。同時に双方への攻撃を加えられれば、敵の反応にも乱れが出るでしょう」
アークの問いに井出が提案する。
「それでいこう。機雷に探知された時点で此方の接近は向こうに感知されているはず。早く動いた方が良いだろうな」
相談の結果、水中通路を利用するのは防御力に優れたリヴァイアサンを駆る井出とアークが担当する事となった。
全員タイミングを合わせ、一斉に上陸。
「さて、まずはアグリッパや対空施設の破壊を優先しますか」
如月は素早く視線を左右に巡らせ、敵影を確認。視認できる範囲では背の砲台を対空仕様だろう連射性能を重視したタイプに換装したタートルワームが2機。陸戦型と見えるヘルメットワームが2機。
「数が少ない?」
上陸に反応して砲撃を開始した敵4機の砲弾を操縦桿を薙ぎ倒して回避しながら、鷲羽が疑問を抱く。
敵機は居る。が、肝心の基地施設が見えない。
その疑問に答えるかのように眼前の大地がスライドすると、ミサイルランチャーが姿を現す。
「そういう仕掛けですか!?」
ミサイルが放たれる前に、即座に反応した乾が重機関砲をランチャーに叩き込む。
基部を破壊された砲台はミサイルを抱えたまま爆発四散。
だが、それを皮切りにあちこちの大地がスライドし次々に砲台が現れる。
「‥‥面倒ですね」
砲台からの攻撃を機体をスライドさせて回避した如月が試作型巨大レーザー砲をタートルワームへと向ける。
生産量が異常に少なく所持する者も全傭兵で五指に満たない幻の砲から、巨大なレーザーが照射される。
射線上の雪を蒸発させながらレーザー光がタートルワームの装甲を灼き、装甲表面を融解。
照射が終わると同時に余剰の熱量を機関部から放出、同時にエネルギーカートリッジが3発排莢。
ダメージを追ったタートルワームの応射をアクティブ・アーマーで捌き、側面から飛来する砲弾を回避。
「ちっ、数が多いなおい!?」
機体に伝わる着弾の振動に山崎が舌打ち一つ。
アグリッパによるコントロールを受けていない為、ミサイルの機動は充分対応できるレベルだが、その数が多い。
迫るミサイルを回避できないと判断した山崎は一瞬で照準をミサイルに合わせトリガーを弾くように引く。
両の手に構えられた高分子レーザーライフルから放たれる光条とスラスラーライフルの銃弾が空中でミサイルを貫き連続した爆発を空に咲かせる。
その間に機体を立て直し、砲台に向けて疾駆。
放たれるミサイルをランダムに機体を滑らせて回避し、一息に間合いを詰める。
「こいつはお礼ってヤツだぜ!」
砲台に向けてセトナクトを叩き込む。
装甲を紙のように切り裂き、即座に離脱。
一拍遅れて、砲台は小爆発を起こしそれが砲台内の弾薬に引火し一気に爆発の規模を上げる。
「上は始まったみたいですね」
水中まで響く爆発の振動に山崎が視線を巡らせる。
視界の左右に広がる通路はすぐに岩肌から金属質のものへと変わっていた。
水中通路内には僅かながら照明が灯され、光が届かない箇所ながら視界に然程不自由はない。
「‥‥敵が来たよ!」
前方に立つアーク・ウイングが水中用ガウスガンを連続発射。
磁力によって射出された銃弾が前方から迫るヘビのような形状をしたサーペントに突き刺さり血煙をあげる。
昔はサーペント系のキメラは水中用KVにとっては十二分に脅威と言える存在ではあったが、既に他の大型キメラ同様にKVにとっては余程の事がない限り後れをとるような相手ではなくなっている。
ガウスガンの連射を浴びたキメラはゆっくりと沈み、噴出した血が赤い靄のように漂う。
通路をそのまま進むと、やがて突き当たりに至る。
「ハッチがありますね」
井出がアークにかわりに前に出ると、高分子レーザーブレードを起動。
レーザーブレードをハッチに突き入れると、そのまま外枠に合わせて切り開く。
切り開いたハッチを蹴りこむと、なだからな傾斜。そして上方には明かりのような揺らめき。
おそらくはキメラ生産施設近辺へと出る道だろう。
機体を人型に変形させたまま、井出は一気に機体を加速し水上へと飛び上がる。
その機体に待機していたヘルメットワームからのプロトン砲が数発連続して放たれる。
井出はアクティブシールドでプロトン砲の直撃を防ぎながら、周囲に目を向ける。円筒形の水槽のような装置が無数に並ぶ広大な地下空間に敵影は2機。
敵機の位置情報をアークに伝達すると、アーク機が浮上。水面から出ると同時に試作型スラスターライフルの引き金を絞る。
機関部が唸り、砲身から連続して銃弾が放たれヘルメットワームの装甲に火花が散る。
「これが全部生産施設だね!」
ヘルメットワームにスラスターライフルによる牽制射を叩き込みながらアークがグレネードランチャを円筒形の水槽に向けて発射。
耐久性は然程ないのか、着弾と同時に炸裂した爆風が周囲の水槽をまとめて破砕。水槽内の容器から緑色の溶液と共に培養課程にあったのか、骨格に筋繊維が絡まりあった中途半端な状態のサーペントが流れ出る。
水揚げされた魚のように跳ねていたソレは、数秒のうちに力を無くし動かなくなる。
「井出、アーク双方とも生産施設中枢と思しき箇所に侵入成功。敵戦力はヘルメットワーム2機。然程問題は無いと思います」
状況を確認した井出が、ヘルメットワームへと応射しながら無線に向かって報告した。
「地下部に生産施設、現在敵の排除に動いてるって!」
井出らの報告を受けた鷲羽が、交戦中の味方に状況を伝えつつタートルワームを照準する。
KVの両手、更に胸部を利用して固定した大口径エネルギー砲「ミネルヴァ」の砲口に光が灯り。
刹那、灯った明かりが一気に輝きを増し、膨大なエネルギー弾を迸らせる。
余波で地表を軌跡に沿って抉りながら回避運動を取るタートルワームの側面にエネルギー弾が直撃。
既に幾度かの攻撃を受けていたタートルワームは装甲を融解させ、その身の半分以上を焼き尽くされて爆発四散する。
砲の基部からエネルギーカートリッジを排出し、作動した冷却期間が砲身各部から除き白い蒸気を勢いよく排気。
「なら、後はこれをなんとかするだけだな」
戦闘開始から既に10分が経過し、敵基地の対空対地防御用の砲台は半数以上が片付けられていた。
KV各機も被弾により何らかの損傷は受けていたが、行動に支障が出るほどの損傷を受けた機体は1機も存在しない。
「その動き‥‥とった!」
量産型機刀「大般若長兼」を携えた神宮寺のオウガが疾駆し、陸戦型ヘルメットワームの装甲を撫でる様に斬り裂く。
ヘルメットワームの側面を装輪走行で駆け抜けると同時、砲台から飛来するミサイルを充分に引き付けた後、スラスターを吹かし機体を一気に反対方向へと跳ねさせる。
追尾目標の急激な軌道変更に追随できないミサイルはあらぬ方向へと流れる。機体を減速と同時、左手を地面に接触。
左腕を軸に慣性を利用して急回転。こちらへと向きつつあるヘルメットワームへショルダーキャノンを叩き込む。
放たれた砲弾が高速でヘルメットワームに着弾し、直撃弾の衝撃に横滑りする。
「これで仕留めますっ!」
そこに、スラスターから炎の尾を引きながらワイバーンが突撃する。
KV中最高速を誇る機体の加速Gに耐えながら、水上は機体側面に取り付けられた機刀「建御雷」を叩き込む。
加速による運動エネルギーをそのまま斬撃のエネルギーへと変えてヘルメットワームの側面を走り抜ける。
数秒後、背後で爆発音。
機体を減速させた瞬間の隙を突くように放たれるミサイル。それが空中で爆発を起こし四散する。
「そう簡単にはやらせませんよ」
重機関砲から放たれる大量の銃弾がミサイルの軌跡を捉え、片端から打ち落とす。
集弾性が高い為に弾幕を張るのに不向きと言われるが、散らすように放てば一直線に対象に向かうミサイルを迎撃するのには充分だ。
自機を捉えようとするミサイルを回避しながら、乾は弾倉を排除し、新しいものに交換する。
それと同時に手近な砲台に重機関砲の一撃を叩き込む。
「まとめて仕留めますよ」
足元に着弾したミサイルの爆発を気に留めず、機体を加速してミサイルを振り切ると、
砲台群の中に飛び込んで回転しながら重機関砲を連射する。
陸上の全てのタートルワーム及びヘルメットワームを沈黙させる。砲台はまだ生きてはいるものの、地下格納式の為か然程の防御力は与えられていないようで攻撃を叩き込むと簡単に破壊できる。
「これで、とりあえず敵の機動戦力は全て沈黙させたか」
「だが、アグリッパを見ていないぞ」
この基地の上空からの攻撃を困難としていた最大の障壁であるアグリッパ。
ミサイルなどの対空誘導性能を凄まじいまでに向上する装置は地表には上がってきていない。
「多分、対地能力が無いから地表には出てきていないんでしょうが‥‥なるべく壊しておきたいですね」
アークがヘルメットワームへと銃弾を叩き込むと同時に接近した井出が金曜日の悪夢を起動する。
回転する細かな刃が装甲表面との間で甲高い音を響かせながらその装甲を削ぎ、着たい中枢をも一気に切断する。
行動を停止したヘルメットワームを培養水槽が密集する方向へと蹴り飛ばす。
直後、爆発した機体が周囲の水槽を粉砕する。
「これで防衛戦力は全て片付けたのかな?」
アークが注意深く周囲を見渡す。
林立する培養槽が影を作り出しているが、ヘルメットワームのような大型の敵が隠れれるような隙間は無さそうだ。
その時、奥にあるエレベーターのガイドランプが緑に点灯し、扉が開く。
反射的に銃口を向ける井出だが、開かれた扉の中に仲間の機体が搭載されている事に気付くと息を吐く。
「上は片付けたんですか?」
「ああ。アグリッパが出てきてないから、地下にあるんだろうってな‥‥探しに来たわけだが‥‥これがキメラの生産設備ってヤツか」
山崎が答え、同時に左右に広がる培養槽に目を向ける。
「ここを破壊すれば、当面この区域に水棲系キメラは出なくなりますよ」
「そうだな」
その後、戦力を喪失した生産基地はその全てを破壊され沈黙した。