タイトル:【BD】陸路輸送マスター:左月一車

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/28 08:08

●オープニング本文


 人類が主導権を握っていた先ごろの戦いでは事前に準備を整えることができたが、今回は逆の立場だ。大規模な戦力移動の確保は決して容易な事ではない。
「私達には輸送手段を提供する用意があります」
 北米の企業連合を代表したミユ・ベルナールの申し出は、南北中央軍に諸手をあげて歓迎された。コロンビアへの復興投資が、既に失われることを座視し得ない額に上っているという理由があるにせよ。不足している護衛の為の戦力確保には、傭兵たちへ白羽の矢が立った。

 
 晴天の空の下、急旋回したKVが翼端から白い雲の尾を引きながら、翼下に搭載したミサイルを切り離す。
 一瞬遅れて点火したロケットモーターが白煙を引き、猟犬のように目標へと突き進む。
 爆発音と共に、弾き飛ばされたのは一機の小型ヘルメットワーム。
 姿勢を崩した一瞬の隙に殺到した弾丸が装甲を貫き、機体を爆散させる。
「今ので最後か?」
「周辺に敵影なし‥‥もっともレーダーは大して頼りにならないから目視での確認だが、数キロ圏内に敵影は無いぜ」

 KVはその編隊の中央に、3機の大型機を抱えていた。
 西王母と呼称されるその機体は、既存の航空機以上の速度と運動性を有するKVに追随するだけの速力を誇る補給用の機体だ。
 とはいえ、現在は補給装置の変わりに輸送コンテナに換装されている。
 北米から送られた物資の一部を前線へと空輸している最中である、通常の輸送機であれば整地による滑走路を要するが、KVとしての特性を有する西王母であれば、ある程度平坦な地面が50mもあれば充分に着陸可能な点を見越し、更に輸送機とはいえ最低限の防御能力を持つ事から最前線への物資輸送に重宝されていた。

 そのうち1機がエンジンから黒煙を吐いていた。
 ヘルメットワームの集団からの襲撃により、プロトン砲が直撃した結果だ。
「メインエンジンの推力は回復しないか?」
「1番、3番共に推力低下中、今の所はまだ飛べますが‥‥長時間は難しそうですね」
「陸戦機能に不具合は出ているか?」
「そちらは無傷です」
 被弾機からの報告に、一団を率いる指揮官が目的地の距離と自集団の戦力を勘案する。
 軍用機としては西王母以外では12機程の量産機、他に8機の傭兵機が周囲を飛んでいる。
「では、傭兵機8機に直衛につける、合流予定地点までは装輪走行で来るように」
「了解」

 傭兵側からの確認が取れると同時に、手近な平地を探し出すと機首を巡らせ、着陸態勢に入る。
 着陸地点から目標地点までの距離は然程離れては居ないが、敵機の襲撃は充分にありえた。
 

●参加者一覧

如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
奏歌 アルブレヒト(gb9003
17歳・♀・ER
ハーモニー(gc3384
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

 西王母の直衛についていた傭兵八機のうち一機が地上に降りた所で、不慮のエンジントラブルで動かなくなった。一部ではホワイトアウトとかW・ペーパーとか呼ばれている恐ろしい科学現象である。
 真紅のディアブロが不運にも脱落し、直衛の傭兵機は七機となった。これで守らねばならない。
「西王母の護衛‥‥陸路で行くとは思いませんでしたね」
 大地を走る西王母の左面を固めるリュドレイク(ga8720)が言った。
「墜落しなかっただけ良かったというところでしょうか」
 と言うのは陸戦班の先頭を走る井出 一真(ga6977)だ。
「西王母いいな〜真帆も報酬溜めてお母さん欲しいです」
 そんな事を述べる熊谷真帆(ga3826)は西王母の後方でライフルを構え、照準を木立や岩陰に沿って這わせ即応態勢を整えている。新居機も同様に後方を固めていた。
「‥‥順調な旅路‥‥とは行きませんか‥‥消耗する前に‥‥目的地へ着かねばなりませんね」
 奏歌 アルブレヒト(gb9003)は低空を飛行して一団の上を守っている。
 他方、西王母の右面を守るハーモニー(gc3384)は、
「護衛とは大変ですね」
 などと言っていた。上手くいったらたのしそうだが、失敗したらこれっぽっちもたのしめそうにない、と思う。だから大変なのは仕方ないのかもしれないが。
「たのしめるように全力で頑張るとしますか」
 そのように直衛の傭兵七機が周囲を守り、また頭上を飛行していた。十二機の軍量産機も空を舞っている。厳重な守りである。
「こちら低空班の飯島。上空は視界良好、無粋なワームどもの姿も今のところなし。天気も上々、任務中でなければ木陰で昼寝でもしたいくらいですな」
 飯島 修司(ga7951)がそんな冗句を飛ばす。
 しかし、獲物が大きければそれでも襲撃をかけてくるのが狩人だ。
「方位360、敵機!」
 レーダーに無数の敵影が出現した。十二の量産機が北へと迎撃に飛び、そして当然のように南からもワームの反応が近づいて来ていた。結構な大盤振る舞いである。
「‥‥やれやれ。当たり前の事なのでしょうが、やはりバグアの連中も大人しく通してはくれませんな。条件を聞いて、多少は楽が出来るかと思ったのですが」
 苦笑しながら飯島が言った。まあ、請けた以上は完遂させるまで、だ。
「‥‥追っ手が‥‥着ましたか」
 アルブレヒトが呟いた。反応を見るに陸にゴーレム、空にヘルメットワームという具合か。数はそれぞれ四機づつ。
 西王母の後方を守っていた新居・やすかず(ga1891)は地殻変化計測器を設置した。アースクエイクの襲来を警戒している模様。範囲は半径200m。少し動けば範囲外で意味が無いので、移動を止めての迎撃となる。
 直衛の七機が展開し南より八機のワームが迫る。
 相対距離三七〇、低空を舞う飯島機、SRD‐02のガンサイトを回す。ゴーレムと足並みを揃え、低空より赤輝を纏って迫るHWを狙いにつけ発砲。錐揉みながら空を裂いてライフル弾がHWへと飛ぶ。HWは回避せんとスライド。しかし弾丸は一瞬で空間を制圧し、HWはかわしきれずに端を壮絶な破壊力を秘めた弾丸に撃ち抜かれた。装甲が砕かれ破片が散り、弾丸がワームの内部まで潜り込む。飯島はリロードしつつさらに連射。ライフル弾は次々にHWを撃ち抜いてゆき次の瞬間、巨大な火球と化して四散した。撃墜。低空を前進する。
 熊谷はSRD‐02のガンサイトを地上のゴーレムへと回しつつ胸中で呟く。
(敵が西王母に進撃してくるのは間違いない――敵の狙いが西王母に限れば、ですけど)
 確定ではない。しかし確率は高いように思えた。山を張る。
「目的地が決まっているのだから進路予測はこちらに分があります!」
 ゴーレムの進路先へと照準を合わせ発砲。唸りをあげてライフル弾が飛んだ。狙い所は悪くないが距離がある。ゴーレムはブースト機動でスライドして回避、地を滑るように突っ込んで来る。
 井出機は敵機の注意を惹かんと、地を這うような姿勢で真っ直ぐに飛び出した。四脚の鋼獣が大地を蹴って駆けてゆく。
 新居機はクァルテッドガン・マルコキアスを突進して来るゴーレムへと向けると、その脚部を狙って猛射した。一二〇〇発もの猛烈な弾丸が嵐の如くに襲いかかる。しかしまだ距離がある。ゴーレムはスライドして次々に弾丸をかわしてゆく。
「西王母‥‥友人にも乗っている人が居ますから、何だか余計に身が入りますね」
 リュドレイク、呟きつつ低空のHWへとSRRを向け発砲。ライフル弾が飛び、HWは突撃しながら回避した。高低差がある。対空砲がまだ射程外なので無いよりはマシだろうと思って撃ってみたが、とても当たるものではなそうだ。
 アルブレヒト機は陣形を崩さぬように低空を舞っている。レーザーライフルの射程に入るまではもう少し。
 ハーモニーは敵機が囮の可能を考えて周辺を警戒している。
 飯島機、前進しつつツングースカ対空機関砲で猛弾幕を張る。三五〇発の弾丸の嵐がHWを呑みこみ粉々に破砕した。HWが超爆発を巻き起こして四散する。撃墜。
「針鼠の如く撃つべしです!」
 熊谷機はP‐120mm対空砲をゴーレムへと向け弾幕を張る。弾丸が唸りをあげて飛び回避機動するゴーレムの端をかすめて火花を巻き起こす。
 ブーストで突進して来るゴーレムと井出機との距離が詰まっている。進路上から迫り来る井出機に対しゴーレムは手に持つ大剣を振り降ろした。井出機は素早く横にステップして斬撃をかわし、続く横薙ぎの連撃を低い態勢で前方へと地を這うように跳んで掻い潜ると、その勢いのまま身を振るって背中の剣翼でゴーレムの足を薙ぐ。強烈な一撃にゴーレムの装甲が破砕され、揺らいだ所へ井出機はさらに身を振るって剣翼の連撃を叩き込んでゆく。ゴーレムの身が翼によって深く切り裂かれ、傷口から茨の如き電流が発生し次の瞬間大爆発を巻き起こした。撃破。
 新居機はブレス・ノウを発動、井出機の脇を抜けフリーで前進して来ているゴーレムの一機への狙いを継続し、その未来機動を予測してマルコキアスで猛射。時間差をつけてバーストし弾幕を叩き込む。千二百発の弾丸が次々にゴーレムの脚部へと次々に直撃し真っ赤な火花を無数に巻き起こしてその装甲を削り取ってゆく。ゴーレムはその速度を急速に減じ、転倒するかに見えたがふわりと地上より数mを浮きあがった。
「確かこれ『対空機関砲』でしたから、対空攻撃可能な筈‥‥ですよね?」
 リュドレイク機、ツングースカ対空砲を空へと向けている。青年は赤輝を纏って西王母へと迫るHWの一機を照準に納めるとトリガーレバーを引いた。SES機関が唸りをあげ
猛烈な勢いで弾丸が飛び出してゆく。HWは素早く機動して弾幕の六割強を回避し、五〇発程度の弾丸に装甲を削られてゆく。
 アルブレヒト機、ターゲットをリュドレイクが狙っている機と合わせると二本のレーザーキャノンで交互に射撃し次いでAAEMを撃ち放つ。一条の蒼い閃光が空間を灼きながらHWへと襲いかかり、その装甲を融解させて穿つ。二条目も直撃。そして逃れんと動くHWへと誘導弾が炸裂してエネルギー爆発を巻き起こした。HWが黒煙を吹き上げ連続して爆発を巻き起こしながら大地へと落下してゆく。撃墜。
「さあ、私の【調和】。共に骨の髄までたのしみましょう」
 ハーモニー、愛機のMBT‐012‐調和へと語りかけつつフリーのゴーレムの一機へとツングースカ機関砲で猛射。ゴーレムはスライドして回避し、その回避先へとハーモニーはゼカリア主砲420mm大口径滑腔砲を撃ち放った。轟音と共に焔を吹いて飛び出した大砲弾が青い鉄巨人の身に炸裂して大爆発を巻き起こす。その一撃は装甲を割り損害を与えたが、まだ倒れない。ゴーレムは大剣を構え焔を裂いて飛び出し西王母へと突き進む。西王母までの距離後一二〇。
 敵勢、HWは赤輝を纏って西王母へと低空を全力移動し突き進む。二機のゴーレムもまた同様に赤輝を纏って地上を猛進し、一機のゴーレムはそれよりかなり遅れつつも地上ギリギリを飛翔して前進している。
 飯島機、西王母へと突き進むHWの後背へと捻り込むとレーザー砲で十八連射。光の嵐を叩き込んで一瞬で蜂の巣にし大爆発と共に葬り去る。撃破。
「‥‥HWの無力化を確認‥‥次の目標へ移ります」
 アルブレヒト機は目標を転ずる。熊谷機、突っ込んで来るゴーレムの予測進路先へとプラズマリボルバーを向け猛射。三連の荷電光波が唸りを上げて飛び、ゴーレムが横にスライドして一撃を回避し、二撃目を大剣で受け、三発目が直撃してその装甲を灼き焦がす。一機を撃破した井出機は振り向くと熊谷機の射撃を受けているゴーレムの背へ向けスラスターライフルで猛射、ゴーレムの背中に次々に猛烈な破壊力を秘めた弾丸が炸裂し装甲を爆ぜさせてゆく。次の瞬間、ゴーレムは大爆発を巻き起こして四散した。撃破。
 新居機、ブレス・ノウを継続、標的を移し西王母へと後僅かの所まで迫ったゴーレムの足へと向け八〇〇発の弾丸を撃ち込んで粉砕せんとする。ゴーレムの片足が穿たれて爆裂を巻き起こし、その前進速度が減じ、またバーニアを吹かせて地を這うように飛翔しながら突っ込んで来る。
 リュドレイクはツングースカで弾幕を張りながら先頭のゴーレムの眼前へと踊り出る。邪魔だと言わんばかりにゴーレムが大剣を振り上げ、リュドレイク機が機槍を繰り出す。槍が轟音と共にゴーレムの胴体に炸裂し大剣がリュドレイク機の身に届くよりも前に貫通した。漏電を発生させつつゴーレムが爆発を巻き起こしその瞳から光を消す。撃破。
「ここで西王母を守りきれないなんて、絶対にたのしくありません!!」
 ハーモニー、西王母へ至近まで迫ったゴーレムへとGPSh‐30mm重機関砲で弾丸を猛射し次いで主砲を爆焔と共に撃ち放つ。アルブレヒト機もまたUK‐AAEMを次々に射出した。
 低空を舞うMk‐4D‐Schwalbeより三連の誘導弾が次々にゴーレムへと撃ち降ろされて大爆発を巻き起こしてゆき、そこへ弾幕の嵐とゼカリア主砲が直撃して巨大な爆炎を炸裂させた。最後のゴーレムもまたこの猛攻を受けて吹き飛び、大地に叩きつけられ次の瞬間、四散した。撃破。
「‥‥目標敵戦力の沈黙を確認、友軍の援護に向かいます」
 アルブレヒトが言って、低空担当の機が北方の援護へと向かい、陸戦隊は万一に備えて直衛に残った。


 その後、北を防ぎにいった友軍も援護を受けて無事に敵ワーム隊を粉砕した。
 バグア軍は戦力を小分けにして投入する、といった選択はしなかったらしく、その一波を退け後は襲撃はなかった。
「お母さんが無事で良かったです〜。真帆も頑張りました〜」
 無事に目的地まで辿りついた時、熊谷は笑顔を浮かべてそう言ったのだった。
 今回守られた西王母と物資は【BD】の戦役においてきっと有効に活用されていた事だろう。


 了
(代筆 : 望月誠司)