タイトル:【奉天】凶星を仰ぐ者1マスター:左月一車

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 14 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/13 07:30

●オープニング本文


 窓越しに見える夜空には、紅い月が輝いていた。
 バグア本星――星と呼ぶよりは、要塞と呼んだ方が正しいだろうか。その内部構造こそ判然とはしないが、外観は機械的なイメージを抱かせるものだった。
「何時になるかは分からんが‥‥いずれは、アレを攻略しなければバグアの脅威を退けたとは言えんだろうな」
 宙に視線を飛ばしていた男は、デスク上の仕様書を手に取る。
 表紙には味も素っ気も無いフォントで「SES型熱増幅炉」の文字が記されていた。
 
 
 広い開発室では思い思いの格好をした男女が、黙々とキーボードを叩き、あるいは数名で技術的な討議を行っていた奉天本社KV開発室。
 瀋陽解放後、本社機能を回復したこの場所が現在の奉天社のKV開発の中心となっていた。
「電子系の宇宙規格部品は然程難しくは無いですが、駆動系となると少し厄介ですね‥‥ただ、代替として人工筋肉を用いる事が出来そうです」
「人工筋肉というと、一部KVの補助動力としてアクセサリ化されているやつか?」
「そうですね。骨格を模したフレームに筋肉のように張り巡らせれば主要な駆動装置としての機能が可能です。シミュレーション上では特に問題は無さそうです」
「出力に問題は?」
「補助動力に用いられている点から考えてもあまり問題はないかと‥‥通常の駆動装置よりは高価になりますが、宇宙規格のものを作るよりは安上がりですね」
 二人の男が画面に表示された要求仕様を前に、討論を行っていた。
 画面に表示された仕様は、地上戦用としてのものではなく、宇宙空間での使用に耐えうるものとしてのKV。
「‥‥ただ、推進機関はどうしようもないですがね」
 現在、KVの主要な推進装置としてはジェットエンジンが利用されていた。
 空気を圧縮、燃焼してその噴流による反作用を利用する推進方式。その性質上大気のある状態でしか使用できず、大気が薄くなれば失火し、停止してしまう。
 勿論、空気の無い宇宙空間での使用は不可能だ。
「その点は問題ない、未来科学研究所が開発したものの利用許可を貰ってある。SES型熱増幅炉‥‥熱核ロケットの理論を応用した推進機関、との事だ」

 熱核ロケット。
 原子炉、または核融合炉の熱を利用して、推進剤を加熱しノズルから噴出させる事で推力を得る方式である。
 KVへの原子炉の搭載は不可能ではないが、被弾時等の放射能汚染が問題となる。核融合炉は損傷すれば基本的に反応が停止する為、そうした危険性は少ないが現在の技術力では理論は出来ても開発は出来ない代物だ。
 SES型増幅炉は、こうした問題を解決する為に苦肉の策として開発されたKVに搭載可能な宇宙用エンジン。
 理論的には通常炉の熱量をSESで増幅する事で原子炉に匹敵する熱量を生じさせ、その熱量を利用する。炉を変えただけで構造的には熱核ロケットと大きな差は無い。
 最も燃料効率という面で言えば通常炉の運転に必要な為、原子炉や核融合炉には遠く及ばないが。
 
「最低限ですが、宇宙機を開発する為の素材は揃ったという事ですね」
「そうなるな。この素材を使って、地上試験モデルを量産する事は可能か? より多くのデータを得るには、傭兵に提供できるようなものが望ましいが」
「つまり、これで新型を作れと‥‥分かりました、やってみましょう。ただ、傭兵に助言を得る許可を頂きたいですね」
「その辺は任せる」



 数日後、ULTを通して一つの依頼が掲示された。
 所謂、開発依頼の一つだ。
 例として奉天社が設計したプランが提示されてはいたが、それにこだわる事無く、自由に意見を述べる事が求められていた。

 
 ●仮称:HF−XX 【天】
 ●価格帯:120万 
 ●性能:突出した能力は備えないが、反面大きな欠点も無いバランス型
 
 ●概要
  宇宙機用の技術を利用した量産機。将来の宇宙機用のデータを取る実験機とも言える。
  駆動系は宇宙という極限環境下における動作の確実性及び費用軽減の為、モーターやアクチュエータを新規設計するのではなく
  メトロニウムをベースとした特殊形状記憶合金を応用した人工筋肉を採用。
  人体で言えば骨格に相当するフレームの周囲に、筋肉のように人工筋肉を張り巡らせる事で、副次的な効果として
  従来のKVでは為しえなかった人体に近い運動を可能とした。
  その気になれば、壁面の登攀や匍匐全身といった動作も可能。ただし、コクピットやエンジンが干渉する動作、
  例えば前転や後天といった事は出来ない。
  主機関は従来のジェットエンジンではなく、熱核ロケットの理論を応用したSES型熱増幅炉。
  高熱で推進剤である液体水素を加熱、各ノズルから噴出する方式を採っている。
  背部のメインスラスター以外に、機体各所にサブスラスタを配しており、緊急回避や姿勢制御に用いる事が可能。

  コクピットはC.Or.E Ver2を採用。
  従来と異なる点は極短時間ながらコクピットにKVクラスの移動性能を付与する事で、戦域からのパイロットの離脱を可能とし、生存性を大きく引き上げる事に成功した。
  反面、離脱機能の搭載によるコストの増大を招いている。
  
 ●能力値概要(□一つを50とした10段階による概算的な数値)
 攻撃:□□□□■□□□□□
 命中:□□□□■□□□□□
 回避:□□□□■□□□□□
 防御:□□□■□□□□□□
 知覚:□□□□■□□□□□
 抵抗:□□□■□□□□□□
 装備:□□□□□□□■□□
 生命:□□■□□□□□□□
 練力:□□■□□□□□□□

 移動、装備スロット等は平均的な数値となります。

 ●機体特殊能力案
  A:行動+1、能力値減少、錬力消費、1ターン持続
    より状況に適したモーションを自動生成するプログラムを走らせるが、メインコンピュータに負荷を与える為機体の性能が若干低下する 
 
  B:人型空中飛行、能力値減少、移動力減少、錬力消費、1ターン持続
    フェニックスとは異なり、機体各所のスラスターによる半ば強引な姿勢制御で飛行形態を維持する。
    バランス制御に処理能力を食われる為に、機体性能が低下する

●参加者一覧

/ レールズ(ga5293) / 井出 一真(ga6977) / 須磨井 礼二(gb2034) / ハミル・ジャウザール(gb4773) / 布野 橘(gb8011) / ホキュウ・カーン(gc1547) / カーディナル(gc1569) / 南 十星(gc1722) / ラナ・ヴェクサー(gc1748) / 桂木 一馬(gc1844) / オルカ・スパイホップ(gc1882) / 功刀 元(gc2818) / クティラ=ゾシーク(gc3347) / 竜哉(gc3787

●リプレイ本文

 ラストホープ奉天支社。
 その一室、会議室に13人の傭兵が集まっていた。目的は、宇宙機向けの技術を利用した機体の方向性を定める事。
 正規軍と異なり、傭兵其々の機体に対する嗜好は異なる。防御力を意識する者も居れば、逆に攻撃力を重視する者も居る。
 傭兵向けの機体となれば、傭兵側の意見を採り入れた方が良い。
 議事進行役はラナ・ヴェクサー(gc1748)。
 当初は奉天側が担当する予定であったが、断る理由も無いので自ら名乗り出た彼女に任せるという形になった。

「改めて申し上げますが、今回の目的は機体の方向性‥‥素の性能面に関しての意見募集という形になります。機体特殊能力等に関しては、今回提案を行っても構いませんが、後日改めてそういった場を設ける予定となっておりますので、今回の意見は基本的に反映されないものとなります。その点予めご了承ください」
 会議の開催に辺り奉天側から代表として崔 銀雪が訪れ、今回の目的についての言葉を述べる。
 それが開催の合図となった。
「さて、まずは個人個人の要望を聞こうか?」
 ヴェクサーがレールズ(ga5293)を示す。 
「今回は技術検証機みたいなものですし、実用性は別として思い切った開発をして良いと思いますよ。それなら価格も抑えられます」
「思い切ったというと?」
「極端に能力を割り振ったような機体‥‥貸与額が200万C辺りの中堅価格帯に良く見られる一芸特化型です。具体的な能力の方向性は定めていませんが、価格も手ごろに抑えられ尚且つそれなりの性能を得られるのがメリットと言えますね」
「そうですね、一点に能力を集中し、他の機能を切り捨てれば特定分野においてのみ高額な機体に匹敵する性能を持たせる事は可能です」
 レールズの言葉に崔が頷く。
 奉天において、その代表と言えるものは骸龍だろう。徹底的な機体の軽量化から得られた運動性能は全KVの中でも屈指の性能を誇る、それでいて貸与額は100万を切っている。
 問題は思い切り過ぎて防御性能が紙と呼ばれるほど薄い事だ。
「まぁ、骸龍ほど思い切った開発は必要ないとは思いますが‥‥後は、姿勢制御の確保用に全身各部位に小型のスラスターがあれば良いでしょうね。基本形が決まれば、今後どのような宇宙機を作るにせよ、応用が効くようになるでしょうからね」
 そこまで告げるとレールズは口を閉じる。
「とりあえず、意見としては一芸に秀でた特化機、という事で良いか?」
「そうですね」
 ヴェクサーの確認の言葉に頷く、それを受けてヴェクサーは固定設置されていた大型のホワイトボードに、特化機と書き込む。
「さて、次は君の番だ」
「これは‥‥興味をそそられる機体ですねえ」
 そう告げて意見を述べるのは井出 一真(ga6977)。整備士資格を持つKV好きでもあり、当然ながら新型機には強い興味を抱いている。
「人工筋肉駆動の利点は人間と同じような動きが可能な事‥‥であれば、それを活かして運動性を高めにするのが良いでしょう」
「機動力に優れた機体、と?」
「ただ、利点は同時に欠点となる部位ですから‥‥間接部の稼動域がこれまでのKVよりも広くなり、装甲の干渉を考えると防御性能の低下が起きる事は必然と思われます」
 そこで一度、井出は言葉を切る。
「汎用性を高める事を考えると、防御関係の数値は低めに、その分回避を高めにするという感じでしょうか。コンセプト的には提示された仮プランのままですが、価格設定を引き上げて生命、錬力を高めるのが理想です」
「要約すると、機動性を重視した汎用型‥‥で問題ないか?」
「そうですね‥‥後は個人的な疑問ですが、整備性のほうはどうなるんでしょう? 人工筋肉をパッケージングすれば交換も容易になりそうですが」
 整備士を兼ねる井出が問題として考えるのは、性能以外に整備の容易さという点もある。
「人工筋肉に関しては駆動部にチューブ状にパッケージ化したものを複数組み込む予定です。破断や損傷が発生した場合は単純に交換すればいいだけなので、整備性という面では問題ないでしょう。ただ、駆動部に関しては部品の流用が効かないという問題はありますね」
「なるほど‥‥では、自分は以上になります」
 崔の回答を受けて、井出は席に着く。
 続いて、意見を述べるのは須磨井 礼二(gb2034)。
「宇宙を見すえた準備の始まり‥‥これからですねぇ。それはともかくとして、宇宙という環境から考えれば戦闘で発生するデブリが問題になりそうです」
 デブリとは軌道上に浮遊するゴミの総称である。
 銃弾程度の小さなものであればKVクラスの装甲には大して影響は出ないが、大きさが1m近くなればそれだけで機体を破壊するに足る威力になる。
「バグア側はフォースフィールドがあるのであまり影響は出ないでしょうが、此方はそうもいきません。装甲や盾等では重量増加が生じますし‥‥リスクを考えれば当面は近距離より、中距離から遠距離における戦闘が主軸になると考えます。そうなるとやはり命中性能が重要」
 SES搭載兵器はエネルギー付与の関係で、現状では中〜遠距離兵器といえどさしたる射程がある訳ではない。
 しかしながら、やはり距離が離れればそれだけ命中精度は下がる。
「個々の機体で解決するよりは、電子戦機能に注力するのはどうでしょうか?」
「今後はともかくとして、今回の機体の方向性としての意見はあるか?」
「強いてあげれば命中性能の高い機体‥‥でしょうか。照準機や射撃管制プログラムがこなれてくれば、それだけ命中性能は上がりますからね」
 その言葉にラナが頷き、ホワイトボードへと書き入れる。
「では次は僕の番ですね」
 そう言って意見を述べるのはハミル・ジャウザール。
「僕としては、汎用型を望みます。今回の機体が宇宙へ出る事ではなくその足がかりとしての機体ですから、どんな装備構成でもデータが取りやすいように平均的な能力値が良いと思います。ただ、装備力は高い方が望ましいですが」
 ハミルの要望は機体としてはバランスの取れたもの、機動性を重視した井出に対して、ハミルが重視したのは装備力だった。
 複数の兵装を試すにはそれなりの武装が積めるだけの積載量が必要だからだ。
「無重力下での運用を視野に入れているのなら、姿勢制御用のスラスター関連を試したいと思います。各スラスターを可動式にして短時間でもホバリングが出来るなら、姿勢制御の試験にうってつけだと思います」
「搭載するエンジンの推力から言えば、人型形態におけるホバリングは充分に可能です。しかし、その辺りは機体特殊能力に関わる部位ですから今回述べられても反映する事は出来ません」
 崔の言葉にハミルは頷く。
「意見としては、宇宙での運用に役立ちそうな技術をとりあえず詰め込んでみて、データを取って検証しましょうという感じですね。勿論、量産を前提とした機体の開発ですから実用に耐えうる性能は必要でしょうけど、それさえあれば構わないです」
「性能は積載量重視のバランス型で構わないか?」
 ヴェクサーの言葉にハミルは頷くが、続いて詳細な希望を述べる。
「先にも述べましたが、性能は状況にあわせた装備構成が行えるように、積載量を高めに設定したバランス型。ただ、あっさり撃墜されても困りますから、防御関連の数値‥‥防御、抵抗、回避はやや高めに、攻撃能力は最近の火器は優秀なのが多いですから、低くても問題ないと思います」
 提示されたハミルの言葉をホワイトボードへと書き写す。
 次はフーノ・タチバナ(gb8011)の番だ。
「宇宙用KVの足がかり‥‥か、初めてのものって、なんだかわくわくするぜ。これはその気になればそのまま宇宙でも使えるKVになるのか?」
「現時点で宇宙用として運用するのは難しいですね。宇宙機とする場合、今回利用するエンジンや駆動部以外に、電子機器も専用のものを揃える必要があります。宇宙用電子機器の開発は実施していますが、まだ廉価には程遠い状況です。現時点で搭載すれば中堅レベルの性能ながら、価格は高級機レベルという機体になってしまいますね」
 価格の他に単体での実働データは得られていても、機体としてのデータが得られていない。
 データ次第では宇宙機として開発しつつも、大改修しなければ宇宙に出られない可能性もある以上は、まず地上機として作り、実際に宇宙に出る機体は別機種として設計するのが現時点での奉天側の予定となっている。
「難しいか‥‥性能はスピードは求めていないから、その分小回りが効いて装甲の厚い機体が理想だな。宇宙で加速力の高い機体を出したらGがキツそうだし、装甲が厚ければデブリ対策としてだな、その点では生命が高い機体でもいいんだろうけど」
「小回りの良さが高いという事は加速性能に優れた機体になりますから、Gの問題に関しては難しいかと。スピードは加速時間と推力が関係するので、最大速度という意味では制限がかからないのですが」
 俊敏に動けるという事は瞬間的な加速性能に優れた機体であり、Gは加速度に応じて変化する。宇宙空間という環境では人体に影響をかけないような低加速の状態であっても、理論上は加速時間が長ければ長いほど到達速度は光速度までは無制限に加速可能だ。
 とはいえ、普通の人間の限界が約9Gだが、超音速で俊敏な戦闘機動を執る能力者の身体能力は其れを遥かに超える。
「そうか、んー難しいもんだな。後はスキルとかも少し考えてみたんだが、人型での空中飛行能力は実際に宇宙で使う場合に役に立ちそうだな。個人的にはホバー能力もあると良いと思う、慣性が働きやすい状況の方が環境的には宇宙に近いだろうしな」
「ホバーの能力は特殊能力とするか、機体そのものの移動機能とするかで変わってきますね」
「飛行形態より、ホバークラフトに変形するようにすると面白いとは思うが、こうなると陸戦機になっちまうか? 個人的にホバーをなるべく付けたいんだが」
「ホバークラフト機構を付ける場合、脚部を専用のものにすればスキルではなく標準機能として搭載する事は可能そうですが、通常の脚部と併用とする場合は特殊能力として組み込む必要がありますね」
 タチバナは崔の言葉に頷くと、自身の提案は以上である事を告げる。
 彼の次を担うのはホキュウ・カーン(gc1547)。
「基本的には現状のスペックより生命と錬力を上げたものにしたいですね。最終的にこの機体を宇宙機としても運用できればベストなのですが、それは難しいようですね」
「アクセサリとしてのパーツを用いるなどすれば、そのまま宇宙に上げる事もできる可能性は否定しませんが、機体そのまま宇宙に上げる場合改修作業が必須となります」
 実際に宇宙機として開発される予定が無い以上、全てのパーツを宇宙規格で作る訳ではない。
 あくまで奉天社が作ろうとしているのは宇宙機ではなく、量産化を予定しているとはいえ、将来の宇宙機に向けてのデータ収集にある。
「そうすると、最初から宇宙に行こうとすると先に述べられたように高額化は避けられないと‥‥レンタル価格の希望帯は200〜300万Cといった所でしょうか? 300万を越えるとなかなか手が出せない額になってしまいますからね」
「当初予定が100〜150万でしたので、価格を引き上げれば性能を強化する余地は出ますね」
 カーンの言葉に崔が頷く。
「後は機体構造からの提案になりますが、人型による空中飛行能力は将来性が高そうです。宇宙と比較的似ている環境である水中においては、簡易変形による格闘戦機能が半ば標準化していますからね」
 その意見をヴェクサーがホワイトボードに機体性能とは別の欄を作り、今までの意見と共に書き留めていく。
「脚部にスラスターが配せるのなら、タチバナさんが述べたように高機動をウリとしてグリフォンに搭載されているような地形を問わない移動能力を持たせたいと思います。他に可変が簡易的名ものならば、陸上でもミサイルが使えるような形態に変形する事は可能でしょうか?」
「変形が簡易的とはいえ、3段階の変形は難しいですね。技術的に不可能ではありませんが、三段階目を搭載すると専用の機体OSを新たに組む必要があります。人型形態や戦闘機に関してはノウハウがありますが、それ以外は全くの新規開発になりますから」
 カーンの次に意見を述べるのは、カーディナル(gc1569)。
「宇宙運用が可能な量産型KVを作る‥‥ね。成る程、オモシレエじゃねぇか」
「正確には現段階では地上用ですが、最終的には宇宙用を作る事になるでしょうね」
 その言葉に頷いてから、カーディナルは己の考えを口にする。
「俺としては、ある程度の汎用性を持ちつつも、空中変形に主眼を置いた機体がいい、と思っているな。変形機構が簡易になるというのなら、割と剥いていると思うが‥‥性能で言えば、バランス重視って事になるか」
 そこでしばし思考してから言葉を続ける。
「後は削るとしたら攻撃面だな、装備力さえあれば機体の性能は低くとも、武器の火力で充分に補える。重量の重い装備を扱えるよう、装備面を優先するといいと考える。性能に関する意見としてはこんな所だな」
「性能面は承りました、現時点では比較的多い意見、でしょうか」
「そうだな、他にバグアみたいに常時バリアのようなものを張る事は出来るのか?」
「モノによりますね。実体弾を完全に逸らすようなものは無理です、装甲板の内側に電流を流す事で貫通した弾丸を蒸発させるような事は出来ます。他にはミサイル等の火薬爆発を起こすものに関しては、爆発の有効範囲に到達する前に電磁波を照射する事で火薬を強制爆発させ被害を防ぐといった方法を取る事が出来ます。常時でない防御手段としては、機体周囲に何らかの粒子状の物質を散布する事で、非物理系の攻撃エネルギーを減衰させる事は可能です」
「完全なバリアーは実現出来ないが、専門に特化した防御手段はあるのか」
 崔の言葉にカーディナルはやや落胆する。
 バグアのフォースフィールドを人類が模倣するのはその発生原理が解明されていない以上、困難な面が大きい。
「技術を組み合わせれば、物理攻撃及び非物理攻撃に耐性のあるものを作る事は出来ますが、弾丸を弾くようなものは無理でしょうね」
「そうか‥‥あぁ、あと出来ればコイツ用に追加装甲が欲しい。コイツ独自の動きは出来なくなるが、他KVと同程度の稼動域があれば戦闘に困る事は無いだろう。戦闘中に追加装甲が排除できると尚良いが‥‥」
「追加装甲自体は問題なく可能です。ただ、パージするには特殊能力として設定する必要が出てきますので、その辺りは次回の依頼にてお願い致します」
 頷いてカーディナルが着席すると、次に立ち上がったのは南十星(gc1722)。
「宇宙での運用か、遠くない未来必ず必要になってくるからな。最も、その未来は私達が切り開かなくてはいけないが‥‥機体性能に関しては、やはり生命と錬力値には200以上欲しい所だな」
「生命と錬力をやや高めに、という事だな」
 その言葉にヴェクサーが頷き、ホワイトボードへと書き込む。
「あとは、レーザー系統の距離減衰が地球上の比にはならないだろうから、抵抗は高い方が良い。ヤツラの主兵装であるプロトン砲等の非物理が大気中と宇宙空間で減衰率に差があるのかは分からないけれど、物理的な防御力よりは、非物理に対する防御力の方が有効となる場面は多いはずだ‥‥他には宇宙では高機動戦になる可能性が高いだろうから、機動性は高い方が良いだろう」
「攻撃よりは防御・回避に力点を置いた機体になるな」
「そうなる。各部のスラスターを可動式にすれば、スラスターの総量は減らせると思うが、その分制御系のプログラムが複雑になるだろうか‥‥」
 ヴェクサーの言葉に肯定の意を返し、技術上の質問をぶつける。
「ベクタードスラスト自体には問題は有りません。確かに減らせるとはいえ、姿勢制御用の低出力のものはあまり削れませんね、推進用のものを削る事にはなるでしょうけれど」
「そうか」
 崔の回答に頷くと次の要望を告げる。
「半変形形態を考えてくれないだろうか? 戦闘機形態に手足が生えたような形態だな。熱核ジェットを模した推進機関なら出力調整もジェットに比べて比較的自由に行えると思う」
「そうですね‥‥今までの戦闘機と違い、失火による失速の危険性が無いですから、そういう意味ではジェットエンジンよりは自由度は高いでしょうね」
「空中での射角が広がり、格闘武器もある程度使えるだろう。離着陸は比較的容易に行えるだろうし、着陸後の戦闘態勢への移行も容易になるはずだ。大型のスラスターを足裏につければ、半変形形態での高機動戦闘も可能になると思う」
「先ほども述べましたが、三段階の変形は通常機能としてつけるには無理があります。ただ、技術的には不可能ではありません‥‥そうですね、例えば戦闘機形態における構造を半変形とし、陸戦形態を人型とするような機体は可能です」
 そう告げて、崔はヴェクサーからペンを借りてからホワイトボードに機体の図を書き記す。
「別に、飛行形態で飛行機型にこだわる必要は無いんですよ。比推力が1以上あればどんな形状でも空は飛べます。今述べたような半変形形態でも、理論的にはヘルメットワームに追随する速度を確保する事は可能ですね」
 手早く概念図を書いて示す。
 KVが飛行形態において戦闘機の形状を保持しているのは、理論上航空機型の方が高速戦闘が可能だからだ。
 しかしながら初期の技術と現在の技術は大きな隔たりが生じつつある、別に航空機型にこだわらずとも、空を飛ばすことは難しくはなくなっている。
「ただ、その状態から格闘武装を扱うには、やはり制御上の問題から特殊能力による運用が不可欠ですし、陸上で運用するにも空中とは異なる制御の問題が出ますからこちらも特殊能力となります」
 南十星は崔の言葉に頷くと、己の意見は全て述べたという事で着席する。
 流れを受けて、桂木 一馬(gc1844)が意見を述べる為に立ち上がる。
「そうだな、俺の意見としては、機体各所のスラスターを活かしてある程度の機動性を確保した機体‥‥という事になる。スラスターは可動性を高めれば数が減らせるそうだし、効率を重視して配置して設置数を極力減らし、価格の方に反映して欲しい。あとは機体の拡張性を保持する為に、兵装スロットとアクセサリスロットを多めに‥‥兵装よりはアクセサリだな。最低でも4は欲しい」
 そこで一端言葉を切ると、置かれていたミネラルウォーターを一口含み、言葉を続ける。
「拡張性を高める以上は、ある程度の装備力も必要になるな。現行の性能から考えると、生命と錬力の低さが目に付く‥‥せめて170くらいには上げて欲しい」
 淡々と己の意見を述べる桂木。
「性能は機動性をやや重視したバランス型。装備能力を重視した機体という事になるか?」
「そうだな」
 ヴェクサーの纏めに頷く。
「それじゃ次は僕の番か、自分の意見が反映された機体ってのは乗ってみたくなるしね! んー、その気になれば、そのまま宇宙で使える機体が欲しいんだけど、無理なんだよね?」
 勢い良く言葉を紡ぐオルカ・スパイホップ(gc1822)。
「無理です。生命維持装置、宇宙用電子機器、制御用プログラムその他、丸々換装になるので、バージョンアップでは対処出来無い可能性が大きいです」
「んーむ、ではとりあえず‥‥アクセサリスロットと装備力多めの機体が良いな。そのうち宇宙行くアクセサリも出るかもしれないし、というかしだ下さい。水中機も宇宙に行きたいです! 水中と宇宙は環境似ているハズ。 水中メインなんで自己中心的考えかもしれませんが‥‥宇宙を飛びたいです!」
「宇宙用キットそのものは恐らく開発は可能だと思います。ただ、元々地上用の機体を宇宙に上げる以上、推進装置、生命維持装置、機密構造、脱出装置、電子機器、制御プログラム、SESその他を組み込む必要がある以上、性能低下は水中キットの比ではないと思います。水中機なら機密は保たれていますし、SESは要りませんが、それでもかなりの部分を代替しなければいけないので、やはり性能低下は大きなものになるでしょうね。それと価格も‥‥ぶっちゃけ宇宙機買った方が安い可能性も否定できません」
 スパイホップの言葉に必要な事項を伝える。
 地上用の機体を宇宙用に改修するのはそれだけの手間を要する、もはや改修ではなく新造に近いレベルの改造が必要になるからだ。
「‥‥それじゃ仕方ない、かな? アクセサリスロットと装備力以外は平凡かな〜‥‥生命力と錬力は多目の方が嬉しいかも、アクセサリ次第でどんな役割でもこなせるような機体って感じ? 兵装も多く積める方が良いよね。って訳で、一番重視するのは拡張性、拡張性がある方が浪漫があるし」
「他には何かあるか?」
 ヴェクサーの問いにしばし思考したスパイホップが顔を上げる。
「あとは奉天らしさ? これぞ奉天、みたいな!」
「そうですね‥‥うちが最も得意としているのはアンチジャミング関連技術及びそれらに付随する電子機器関連の開発技術。機体特性としては回避能力を重視し、装甲を重視しないというのがあるでしょうか‥‥装甲厚いとその分メトロニウム装甲が必要になって価格が上がりますからね。後は廉価である事」
 その回答で言うべき事は全て言ったのか、スパイホップが次の人間に発言を促す。
 彼の次を担うのは功刀 元(gc2818)。
「うむ‥‥機体価格は100万〜200万といった所か。装甲と生命はパージ可能な外骨格、追加装甲で補い本体は機動性を重視といった形だな。アクセサリを希望するが‥‥」
「パージできるという事を考えると、アクセサリよりは特殊能力になりますね。パージ不可ならばアクセサリとなりますが」
 功刀の言葉に崔が回答を行う。
「なるほど、他の性能に関して言えば防御と生命を別手段で補う分、他の性能を高めに‥‥特に抵抗と装備力を高くして欲しい、具体的にはこんな感じだな」
 そう言って功刀は自身が書いてきた性能の仕様書を崔に手渡す。
「後は性能面以外の機体についてなんだが、360度の視野を確保できるようなシステムは組み込めるのか?」
「360度全方位への視野ですか‥‥そうですね、人類の視角で全方位の視野を確保するにはコンピュータゲームのように自機を三人称視点で投影し、自機周囲の映像を映し出すという方法が出来そうです。ただ、表示上の限界というものがありますから‥‥どちらかというとレーダーの表示機能とした方が良いかもしれません。メインとなる通常の視界の補助機能といった感じでしょうか?」
「出来るならお願いしたい。やはり宇宙戦闘を考慮すると、空戦以上に視野の差は重要になりそうだからな。後はAU−KVへの対応は是非とも欲しい機能なのだが」
「AU−KVを着なくてもドラグーンは機体を操縦する事は出来ますよ。AU−KVを着た方が被撃墜時の肉体へのダメージを抑えられますね‥‥可能な限りAU−KVへの対応は致します」
「そうか‥‥宇宙空間に対応できるようなAU−KVが出来たらいいが」
「AU−KVそのものを宇宙空間へと対応させる事は可能だと思います。ただ、その場合バイク形態を取るのは少し工夫が必要になりそうですし、この管轄はどちらかというとカンパネラになるので、こちらから打診してどうなるかといった感じですね」
 崔の回答に功刀が頷く。
 自身の意見は既に述べた功刀は次の人間へと視線を向ける。残りは司会を務めるヴェクサーを除けば1人だけ。
 クティラ=ゾシーク(gc3347)となる。
「機体そのものは小型、コンパクトに。両肩に知覚系の内蔵火器を搭載した推進器を組み込んだ所謂ショルダー・バインダー系のモノを装備させた機体が良いかな」
 彼女の案は比較的防御回避に注力していたこれまでとは異なり、火力を重視したものだ。
「性能的には機動性と火力、あと航続時間を並立させた機体、って事になるかな。バインダーで姿勢制御用のスラスタと推進剤のスペース、後は慣性を利用した姿勢制御機能」
 宇宙空間では、空気による抵抗が存在しない為一度働いた慣性は基本的にそのままの加速を行う、例えば足を上に振り上げれば、その力でずっと回転を続けるようなものだ。上手く利用すれば推進剤の消費を抑え、姿勢制御が可能となる。
 動作から行動が読まれやすいという欠点はあるが、推進剤を利用せずに姿勢を動かせる事は無意味ではない。
「後は、距離があるしデブリを考慮すると、カメラアイの性能を向上して機体に被害が出るような高速移動しているものや、大型のものを捕捉出来るような機能があればいいかな。命中精度も上がるだろうし」
「纏めると機動性と錬力、命中性能、火力に比重を置いて、可能なら固定兵装を組み込んだ機体という事で良いか?」
 クティラの案をホワイトボードに書き込みつつ、ヴェクサーが確認を取る。
「機体構造の話をすると、航空機形態の上面に荷物を載せるような事が出来ればいいと考えている。ただ、どちらかというと、大気圏内を前提としたものではなく、宇宙空間での利用を前提に考えているから、今回の方針とは異なるだろうな」
「今回の機体はあくまで地上戦闘を前提としていますからね。ただ、貴女の意見に限らず、そうした意見は今後本格的に宇宙機を開発する場合の糧にはなります」
 己の意見が今回の目的にはあまり合致していないと話し、ゾシークは意見を終える。
 最後となるのはこれまで司会を務めてきたヴェクサーだ。
「さて、私は標準的な機体が良いと思う。奇をてらわず、基本性能をバランスよく収めている機体だな。最も、ただバランスが良いだけでは中途半端な機体になってしまう事もある‥‥性能には直接影響しないが、間接的に影響する武装スロットやアクセサリスロットを多くし、兵装を運用する為に装備力を高めるのが良いだろうと思う」
 これまでの意見の中にも多くあったものだ。
 昨今のKV用装備は性能を引き上げる為に重量を犠牲にしているものが多く出回っている。
 その為か最近では装備力とスロットを多く搭載した機体を望む傭兵が増えている。
「価格としては、今までの意見よりも多少高額になるが、200〜300万を希望する。やや高級な中堅機といった感じだろうか」

 全員が意見を終えると、ヴェクサーがそれら意見を可能な限り纏めて2種に絞ろうとしたが、その案は奉天側で拒否された。
 あえて2種に絞る理由が無いからだ。
 当然纏めるべき所は纏める必要はあるが、奉天側としては次回の開発時に選択肢を多くしたいというのがその理由だ。

「大体こんな感じでしょうか?」
 傭兵側から聴衆した意見を元に性能バランスを纏めた機体は最終的に4種となった。価格帯は希望の多い200万代と当初予定より引き上げられた。
 プランAは重装甲と機動性を両立させた機体。
 プランBは機動性を最重視した機体。
 プランCは中〜遠距離戦を想定した機体。
 プランDは拡張性を最重要視した機体。
「ふむ‥‥今回の依頼は基本的には機体性能のみを決める依頼だったのだが、特殊能力の提案も多いようだな」
「機体に特殊能力は不可欠な部分がありますから、此方は数値を元に特殊能力を考える開発手法ですが、特殊能力を前提として機体の数値を決めるといった方が多いみたいですね」
「先に特殊能力の選択から始めるべきだったかな‥‥が、仕方あるまい。次回では4種の中からの決定になる予定だが、特殊能力についても意見を求めた方がいいかも知れんな」