●リプレイ本文
ULT仕官がザ・デヴィルとの戦闘映像、及びレポートをレールズ(
ga5293)から受け取る。
「相対した感じはどうだ?」
「映像を見て頂ければ分かるとは思いますが‥‥戦士、といった感じが強いでしょうか。部下を率いるような指揮官的な気質は見えませんでしたね」
「わざわざ向こうから連絡を寄越すとは、自身の力量に対する自信か、それとも過信か‥‥手を合わせてみれば判りますか」
生身としての戦闘能力では傭兵の中でも上位に位置する鳴神 伊織(
ga0421)が、レンタルした車を操りながら呟く。
バグアからの依頼という前例の無い自体は相手への興味を駆り立てるのか、参加した傭兵全てが鳴神と似た様な感情を抱いていた。
やがて、指定した位置へと車が辿り着く。
大きな岩の前に座っていた黒い陰が、到着した車を認め立ち上がる。
その高さは3mを越え、漆黒の肉体と、異様に巨大な鉤爪は送られてきた写真と全くの同一であった。
KVに乗ってきた者がレーダーに視線を落とすが、特に妙な反応は周囲には無い、完全にザ・デヴィルが1人でやってきたのが見て取れる。
「さて、君達が私の依頼‥‥というか、頼みを聞いてくれた者達だろうか?」
凶悪な外見の割に穏やかとも言えるような声で、ザ・デヴィルは口を開く。
「赤竜王の騎士が末裔‥‥アリステア・ラムゼイ(
gb6304)。剣を交える前に、名を聞かせて頂きたい」
「ゼオン・ジハイドの4。ザ・デヴィル‥‥先の通信では失礼したね。名乗るのは久しぶりゆえ、番号を間違えてしまった」
アリステア・ラムゼイ(
gb6304)の名乗りにデヴィルは苦笑とも取れる雰囲気の口調で応じる。
「私はこの戦いの人類側の見届け人として参加します。ですから戦いに手出しはしません、その代わりあなたも私へ攻撃しないで欲しい」
「君は戦わないのか、ならば好きにするといい。戦意の無い者と戦う気は無いよ」
レールズの言葉にあっさりと首肯。
「あんたの言い分を信じるなら、あんたの目的は戦闘‥‥殺し合いというより、どちらかというと試合みたいな感じ? あたしも同じ、ゲームみたいな感覚ね‥‥だから、ルールを設けましょうよ」
AU−KVを身に纏った愛梨(
gb5765)が油断はしないよう注意しながら口を開く。
「ふむ、ルールというとどのようなモノだろうか?」
「あなたを武人と見込んでの提案です。今回お互いの目的は相手の殲滅ではない。だから戦闘不能に陥った対象に対する無用の追撃は控えていただきたい、バグアの流儀は存じませんがここは一つ我々地球人の流儀に従ってもらえないだろうか?」
「ココでマジになるより、もっと大きな舞台の方が相応しいでしょ?」
「成程、君達の目的は私を倒すのではなく、あくまでも手合わせという形か‥‥元より殺す気は無かった故、その提案は承知しよう」
デヴィルは首肯してレールズや鯨井昼寝(
ga0488)の言葉にあっさりと承諾する。
どのような感覚で相手を見分けているのかは定かではないが、言葉を発した者の方へときちんと向きながら、口を開いている。
「他に何かあるかね? 特に無いのなら始めようと思うのだが、君達の準備は良いかね?」
傭兵達の顔を順に見て‥‥眼球が無い以上見るという言葉は適切ではないが‥‥他の提案が無いのを確認すると、徐に構えを取る。
瞬間、デヴィルが纏っていた雰囲気が変化する。凄まじいまでの威圧感は、闘気とも呼べるものだろうか。ただ、その中に殺気は混じっては居ない。
真っ先に飛び出したのは、須佐 武流(
ga1461)。
「お前が誇りのある戦士ならば、この挑戦、受けないとは言わないだろう! 俺も多少なりとも腕には覚えがある。お互い相手にとって不足はないだろう!」
「君一人では不足があると言わざるを得んな。しかし、その意気は認めよう」
須佐が繰り出す無数の蹴撃を片腕で捌くデヴィル。
瞬間、背面から鯨井が二連撃と瞬即撃を組み合わせた一撃を見舞う。通常の強化人間やバグア兵であればその一撃は有効であっただろう。
巨体に似合わぬ敏捷さで、後ろに目があるかのようにその一撃をあっさりと身を捻る事で回避する。
「狙いは悪くは無い。しかし、私には死角と呼べるものは存在しないからな」
「多勢に無勢は私の矜持に反しますが、そうも言ってはいられませんか‥‥イリアス・ニーベルング(
ga6358)、参ります」
やや距離を置いていたイリアスが瞬速縮地で一気に間合いを詰めると、白色の槍を振るう。
「KVなど無粋です‥‥そう、思いません?」
「無粋は言い過ぎだと思うが‥‥あれも君達が生み出した立派な力だ。個人としては機体を操って闘うより己が身で戦うのが好きだがね」
鋭い勢いで放たれた穂先を片腕の爪で弾く。瞬間、その腕に銃弾が突き刺さる。
放ったのは鳴神。
「私に当てるとは‥‥面白い。手加減等というものは失礼にあたるな」
心底嬉しそうに微笑すると、須佐の連撃に合わせるように腕を振るう。
音速超過の衝撃波を巻きながら放たれた腕の一撃が須佐の体を正面から打ち抜く。力を受け流すように外へ力を受け流そうとする須佐だが、咄嗟の判断で後方へと跳躍。
威力をある程度減殺する事には成功したが、豪腕の一撃に吹き飛ばされる。
「いざ、尋常に‥‥勝負っ!」
須佐の抜けた穴を補うように走りこんだアリステアが長さ4mを越える大剣を渾身の力を込めて振るう。
人類が扱う武器としては規格外の巨大さではあるが、能力者としての力がその巨大武器を振るう事を可能とする。遠心力を乗せるように円軌道を描いた鉄塊を勢い良く打ち下ろす。
デヴィルはその一撃を両手の鉤爪で受け止める。
瞬間、アリステアが竜の咆哮を起動。衝撃力を増した一撃がデヴィルの巨体を一歩後退させる。
「殺(
gc0726)、俺の名だ。あんたに、俺の名前を刻ませる」
迅雷で踏み込んだ殺がイアリスを振るいながら口を開く。
「その名は聞いた事が無い‥‥が、私達の注目に値するほど君が強くなるというのなら、覚えておく価値はある」
連続で振るわれるイアリスを片腕の爪で難なく受け止め、愛梨の放った銃弾を身を傾けてかわす。
竜の翼による高速移動で、死角が無いかあらゆる包囲から狙い撃つが、放たれた銃弾は掠りもしない。
「頭部に口、目鼻耳が無いって、どうなってるの?!」
「口はあるよ。‥‥そうだな、君達は蝙蝠という生物を知っているだろう? 私の知覚方法も似たようなモノさ。私は超音波は使ってないし、個人の識別も可能だがね」
蝙蝠、中でも小型の種は知覚方法として、超音波を用いた反響定位と呼ばれるものを用いている事が知られている。
理屈としては、自らが発した音の反射による知覚である。各方向からの反射を受信すれば、対象の位置関係を把握する事が出来る。音を利用するとはいえ、知覚としては視角に近い。
愛梨が思わず口にした言葉に対し、デヴィルはその答えを返す。
能力者の攻撃を多く捌いているデヴィルだが、巨体故か防御行動にはその爪を利用した受けを主として行っている。
体を動かして回避するよりは、相手の攻撃を受け止める戦い方‥‥機動力より、攻撃と防御に重きを置いた戦闘スタイル。
先ほどの知覚方法への言及にレールズは機載の各種センサーからの情報をチェックする。
人類が知覚できない何らかの「波」を用いているのであれば、機械の目なら其れを捉える事が出来る可能性があるからだ。
センサー情報を表示すると、特定の値が通常を超える反応を示していた。
其れはレーダー系、通常はバグアがレーダー波を発する事は無いので放置されているが、何らかの対象からレーダーの照射を受けている事を示すものだ。
現在の地域に他の地上機がおらず、レーダー波を出すのが自身のみである以上、発信源は自ずと特定される。
ザ・デヴィルそのもの以外には有り得ない。
『彼の知覚は恐らく、レーダーのようなものです。反射を拾う能力が高く、個体の形状まで分かるようですし、彼の言葉を信じるのなら360度全方位をカバーしているものと思われます』
「正解、このヨリシロが生活していた空間が光の無い世界だったんだろうな。それでこうした人類種以外にも多くの種族から見れば特異とも言える知覚方法を会得したのだろう」
ヒントを出した時点で隠す気はなかっただろうが、デヴィルはレールズの言葉に躊躇い無く首肯。
「いやぁ流石に強ぇ強ぇ‥‥!」
弾き飛ばされた須佐が衝撃に頭を振りながら立ち上がる。
一発の拳撃で受けた体へのダメージは相当なものだ。相手がKVで来ても構わないと告げた言葉は過信ではなく、適確な自己評価だと分かる。
ふらつく足を叱咤し、そのまま間合いへと疾駆。
「勝利の確信なんて何処にもありませんけど、でも負けると思って挑みなどしませんよ!」
「負けると思っていては勝てないということだね。精神論的ではあるが、実際に意思というのは戦いの場において勝敗を決する要素にはなるな」
イリアスが槍を猛烈な勢いで繰り出す。
その身から漂わせる戦意に、面白そうに笑むと穂先を払うのではなく正面から受け止める。
瞬間、獣突を発動させ衝撃にデヴィルが数歩後退する。
その後を追うように、槍を繰り出す。既に槍の間合いでは無いが、繰り出された穂先から衝撃波が放たれる。真音獣斬と呼ばれるスキルだ。
刹那、イリアスの身が一気にデヴィルの背後へと移動。
衝撃波との挟み撃ちを狙ったイリアス必殺の一撃だ。挟み込むような動きは力の逃げ場が失われる為、一撃の威力を高める。
「なるほど、面白い技だね」
直撃を受けたデヴィルの体から血が流れるが、自身のダメージを大して気にも留めず、スキルを組み合わせた技を評する。
イリアスの攻撃を受けた直後、その豪腕が振るわれる。直撃は槍の穂先で受け止める回避するものの、一撃の衝撃にその身を弾き飛ばされる。
「見せてよ、まだまだそんなモンじゃないんでしょッ!」
攻撃の間隙を突くように側面から鯨井が接近。両腕のシュナイザーを上下に広げ、相手を挟むように繰り出す。
その攻撃を真正面からデヴィルの拳が迎え撃つ。
音速超過の衝撃音と共に放たれた拳が鯨井の必殺技「鯨呑」を真っ向から力ずくで打ち破る。最も腕に突き立ったシュナイザーの爪が己の放った拳の威力と相まって、デヴィルの腕に数条の傷を負わせる。
放たれる須佐の拳を気にも留めず、体勢を崩した鯨井に追撃の拳を見舞おうとした刹那、鳴神が走りこみその攻撃を刀で迎撃。
爪と刀が衝突し、激しい金属音を鳴らす。
「この一手で断つ‥‥!」
逆の腕で引き抜いた機械剣を起動。光芒を放つレーザーブレードをデヴィルの胴体を狙い振るう。拳が受け止められた状態のせいか、まともに食らう。
が、体表は若干焼く事が出来たものの、傷としては浅い。
同時に正面からのアリステアの攻撃を拳で裏拳で打ち払う。ダメージは然程ではないが、弾かれた体躯を沈め、大剣を地面と平行となるように構える
「強いなんてわかりきってること‥‥。だから、俺の全力を‥‥ぶつけるっ!」
「ならば、こちらも相応の対応をせねばなるまいな」
矢の如く、竜の翼による高速移動を加味した刺突を繰り出す。
その攻撃を敢えて正面から受け止める。直撃の衝撃に地面が抉れ、デヴィルが数歩後退するが、それまでだ。
アリステアの攻撃に呼応するように背面から殺が機械剣βを振るう。
レーザーブレードという性質上、攻撃を受け止める事は出来ない。反射的に防御姿勢を取るデヴィルを捉えたレーザーの刃が腕を焼く‥‥が、見た目にダメージを受けた様子は無い。
「力、不足って事か!?」
「修練を積むといい。君達人類の潜在力ならば、私を倒す事は夢ではないよ」
歯噛みする殺にそう告げる。
繰り出される須佐の蹴撃を受け流しながら、デヴィルは須佐の攻撃に違和感を覚える。その違和感の正体に気づいたデヴィルは蹴りを受け止めつつ告げる。
「君の攻撃には無駄が多いようだ。先ほどから腕を用いた攻撃や、膝を用いた攻撃を行っているが、それが牽制ではないとしたら‥‥だが」
「どういう事だ?」
「ああ、何単純な事だよ。私達バグアは基本的に全てフォースフィールドを備えている。それを打ち破るにはSESを搭載した兵器が必要だろう。見た所、君の装備しているSES搭載兵装は靴に付けられた爪と、その手にもつ巻物状のものだけだろう」
須佐の全身を一瞥し、更に続ける。
「君が繰り出す技で、効果を発揮するのは足先を私に当てる技くらいだな。他の技術ではダメージは入らんよ。身体能力は悪くない、武器の性質を理解した戦いをした方がより君は強くなれる」
数度、傭兵の攻撃を凌いだデヴィルは心底嬉しそうに笑む。
「さて、君達に私の切り札を一つ見せてあげよう」
瞬間、無形の力がその身から放たれる。正面でけでなく全方位に放たれる其れは、超機械という兵器を扱いなれたものであれば、同種のものだと理解できる。
所謂、マイクロ波と呼ばれる電磁波の波長で、簡単に言えば電子レンジのようなものだ。
離れた位置で射撃攻撃を行っていた愛梨と、観測にのみ動いていたレールズを除いた全てがその攻撃をまともに浴びる。
長期間の照射を受ければ、血液が沸騰し死に至るような其れは僅かの間で効果を失うが、傭兵が受けたダメージは甚大だ。
「射程は10m、くらい?」
効果を受けなかった愛梨との距離差はその程度だ。
思わず呟く愛梨にデヴィルは首肯。
「そんなものだな‥‥其れに、体力をそれなりに使うんで多用は出来ん。君達が人類が耐えられないような時間放つ事も出来るが、その前に影響圏を離脱するだろう?」
そう告げて無形の攻撃に膝を付く傭兵を眺める。
「今日の戦いはこれまでだな。君達の力は良く分かった、時間さえ充分にあれば、私達に匹敵‥‥いや、其れを上回る事も出来るだろう。現時点でも力を結集すれば、私達ゼオン・ジハイドでも後れを取るだろうな」
「‥‥勝ちたい‥‥真っ向から戦って‥‥」
思わず呟いたアリステアの言葉に頷く。
「ああ、その為には強くなれ。‥‥その意思が私達を打ち破る為の力になる」
「‥‥そのザ・デヴィルなんて名乗り、止めた方が良いですよ。何ですかその性格‥‥本当、格好良過ぎですよ‥‥」
イリアスが傷ついた身ながら顔を上げて言葉を紡ぐ。脳裏に思い浮かぶのはシェイク・カーン。
「此度の名はそう名乗ると決めた。私の本当の名は君達には発音できないのが残念だな」
その言葉を最後に傭兵に背を向ける。
完全に無防備な状態を晒すのは、お互いが戦いの前に決めた約束を信じているからか。そのまま悠然と歩み去る。
その背を見届けた殺が呟いた。
「ちょっとばっかり‥‥いや、かなり無茶し過ぎたか。でも敵の強さは知った。俺はあの強さに近付けるのか」