●リプレイ本文
海上を進むコンテナ船と、その前後を挟むように移動する強襲揚陸艦改装型水中KV母艦。
外洋ではあるが波は比較的穏やかで、順調な航海であった。
艦隊前面を飛ぶ対潜哨戒ヘリが、水面下の機影を捉えたのは参番艦に程近い沿岸部であった。乗員の判断で即座にディッピングソナーが投下され、機載コンピュータが音紋から機種特定を行う。
機種はメガロワーム。数は4。通常型とは若干音の返りが異なる事から警戒中の機体であると特定した乗員から即座に指揮官へと情報が飛ばされる。
『敵機接近中。敵は警戒中のメガロワーム改、数は4。予想会敵時刻は5分後、傭兵隊は直ちに出撃を要請する』
艦内放送が流れ、前後に展開していたKV母艦がコンテナ船の前面へと移動していく。
「リヴァイアサン、篠崎公司(
ga2413)機、出撃します」
後部ハッチが開き格納区画が傾斜、固定具が外された篠崎の機体が海面へと緩やかに突入する。
続いて、他の傭兵達の機体も順次出撃していく。
「補給船沈められたら大変だよね。きっちり守らなくっちゃ。頑張ろう、美津波」
モニターに表示された水中の様子と敵影の位置を見据え、依神 隼瀬(
gb2747)が操縦桿を握りながら、愛機に声をかける。
「修理物資の量で轟竜號の負担が想像できますねぇ。飛べない水中機は増加が頭打ち、グリフォンの水中対応力も限定的と。‥‥銀河のオロチに期待ですか」
呟きつつ、須磨井 礼二(
gb2034)がスロットルを開く。
「アフリカでの大規模作戦も近い事だしな。参番艦にも万全な態勢で臨んで貰う為にも今回のコンテナ護衛任務は重要だな。任務達成の為に俺も可能な限り尽力させて貰う事にしようか」
榊 兵衛(
ga0388)も同様にリヴァイアサンを加速させる。
効率的な加速という意味では、機関出力をゆっくりと上昇させた方が燃費は良いが、戦闘時加速であれば効率は度外視される。
ハイドロジェットに吸い込まれた海水が勢い良く噴出され、都合4機のリヴァイアサンが、メガロワーム改に向かって高速で突入する。
傭兵が立てた作戦は、4機のリヴァイアサンで敵の出鼻を挫き、1匹ずつ誘い出し、残り4機の水中機を2隊に分けて近づいてきた敵から順に攻撃を加えるというものだ。
つまり、3対1の状況を作り出し優位な状況で各個撃破をしていくというプラン。
その間1対1の状況となるリヴァイアサンだが、基礎性能は高く個々人の改装次第では十分な壁となる。
リヴァイアサンに後れて、残り4機の機体が二組に分かれて加速を開始する。
「きっちりと護衛してのけて、資材を全部お届けに上がれる様にするわよ」
「取り合えず相手を追い返す、まずはそれからだ」
百地・悠季(
ga8270)とガイギス(
gc1907)が頷き合う。
「UK3・轟竜號か。大規模作戦2つを経ても未だ真の完成を見ないとは、なんとも難儀な艦だな」
「前の失点分ぐらいは取り返しておきたいが‥‥」
レベッカ・マーエン(
gb4204)が完成の遅さに言葉を漏らす。参番艦の現時点の目標は宙に浮かす事だが、それとて中間点に過ぎない。
最終的な完成は1年後か2年後か、早くともそれくらいの時間はかかるだろう。
以前に参番艦関連の依頼で敗北を喫したゲシュペンスト(
ga5579)が、気合を入れる。
4機のメガロワームは速度を緩める事無く、陣形を組んで接近する。
KVの存在を察知した以上、今までのように艦船だけを相手にする訳にもいかないという判断だろう。
リヴァイアサンの至近で四方に散開し、包囲隊形を組もうと移動。しかし、傭兵達の各々が1機を相手とする作戦が、その包囲を無意味なものとする。
メガロワーム側面のプロトン砲が光を迸らせる。
バグアのプロトン砲は、水中だろうが威力を減殺させる事は無い。レーザーや粒子砲、プラズマの超高熱を利用した類であれば、大気中より遥かに抵抗の多い水中では威力が拡散するものなのだが、大気中で放たれるものと同等の効果を有する。
「さて、しばらくの間は俺と興覇に付き合って貰うぞ。まあ、それほどの時間ではないだろうがな。貴様が墜ちるのも」
機体を捻る事でプロトン砲の斉射を躱すと、側面を抜けようとしたメガロワームに変形と同時に水中機槍斧「ベヒモス」を叩きつける。
斧刃が装甲を叩くが、側面を主要な攻撃方向としている為か、意外に装甲が厚い。
「間もなく目標がポイントに行きます。協力を頼みます」
『了解した、支援攻撃を開始する。巻き込まれないよう注意してくれ』
篠崎が事前に協力を依頼した揚陸艦へと支援要請を行う。
揚陸艦の8連装ランチャーが旋回し、藤崎が指定したポイントへと魚雷を発射する。
スーパーキャビテーションと呼ばれる現象を利用した高速魚雷が殺到、メガロワームの鼻先で炸裂する。SESを用いているとはいえ、能力者の用いる兵装程の威力は望めないが、ある程度のダメージを与える事は出来る。
同時に着弾するように藤崎機が放ったDM5B3重量魚雷が側面から着弾し、爆発の振動が水中を走る。
下方向に進んだメガロワームは上方から迫る須磨井機へと、プロトン砲を斉射。
光の柱を小刻みな機動で躱すものの、全てを回避しきれずに1発が着弾。しかし、抵抗能力を高めた装備がその一撃を大きく減殺する。
コンソール脇のモニタに表示された損傷を一瞥し、特に機能上の問題が生じていない事を確認すると須磨井は正面モニタに表示されるメガロワームへと視線を戻す。
FCSが敵をロックした瞬間、トリガーを引く。
M−042小型魚雷ポッドから都合25発の魚雷が回避機動を行うメガロワームを追尾して着弾する。
「誘い出しには乗ってくるかな?」
依神は敵の行動が先行するリヴァイアサン部隊を包囲し、その周囲を旋回するような動きを見せている事から敵の攻撃目標が艦船ではなくKVに移った事を理解する。
自機を狙うメガロワームへとガウスガンで牽制射撃を行いながら、アクティブソナーが拾った周囲の状況を確認する。
リヴァイアサン各々が1機づつメガロワームへと張り付いているが、基本的に接触位置から大きく移動してはいない。メガロワームの動きはリヴァイアサンを側面のプロトン砲の射界へと捉える為の動きだ。
牽制を続けながら、少しづつ自機を後方へと移動。その周囲を旋回するように移動しながらメガロワームも付いてくる。
「いい所に来たのダー」
「一体だけなら楽にやれそうだな‥‥」
誘いに乗ってやってきた敵機をマーエンとゲシュペンストが各々の攻撃圏内に捉える。
両機から放たれたガウスガンがメガロワームの装甲を削るが、致命打には程遠い。
反転した依神との3機がかりでの攻撃。
ゲシュペンストはプロトン砲を潰すべく側面からの攻撃を行うが、それはつまり砲口に身を晒すという事でもある。
彼の機体は、アルバトロス。他の水中機の例に漏れず装甲はそれなりだが、ビーストソウルやリヴァイアサンといった高性能機程の防御性能は備えていない。
自然ゲシュペンストの機体へと砲火が集中する形になる。
操縦桿を握り、迫る光を機体を横滑りさせて回避するが、集中する砲撃を全て捌く事は難しい。
「‥‥まともにくらったっ!?」
直撃弾。素早くダメージをチェックするが、損傷率は既に50%に達している。
しかし、攻撃がゲシュペンストへと集中するという事は残りの二人が攻撃を集中させられるという事でもある。
強装アクチュエータ「サーベイジ」を起動させたマーエンが、アンカーテイルをメガロワームへと叩き付ける。錨状の打撃部がメガロワームへと激突し、その姿勢を大きく揺らがせる。
攻撃はそれで終わりではない、手元へと引き寄せたアンカーを上段から振り下ろし、メガロワームの装甲を粉砕する。
「こいつでトドメっ」
連続する衝撃に大きく姿勢を崩し、無防備となったメガロワームに依神が振り下ろした水中機槍斧「ベヒモス」の刃が貫く。
脆くなった装甲を貫いた刃が深くメガロワームの装甲を傷つけ、致命打を与える事に成功する。行動能力を喪失したメガロワームは重量ゆえか急速に沈んでいくと一瞬遅れて爆音を上げて吹き飛ぶ。
篠崎が引き寄せた機体には百地とガイギスが向かっていた。
強襲揚陸艦から放たれた魚雷がメガロワームの眼前で炸裂し、一瞬だが視界を奪う。その隙をついて、ガイギスが既にロックしていた地点にM−25水中用アサルトライフルを連射する。
視界が水中爆発で遮られている為、直撃弾を狙ったものではない。
「‥‥当たれば、ラッキーってな」
トリガーを引きながら射撃点をずらし、スプレーのように予測地点へと銃弾を撒き散らす。
爆発の影響が消えるのを見計らい、百地のアルバトロスが疾駆。メガロワームの側面射線上から巧みに機体をずらし、自機が狙われないよう留意しながら接近。
とはいえ、距離が近づくなると同時に射線上からの退避は移動距離が大きくなりすぎ、難しくなる。
捉えられた瞬間、機体を急速に横滑りさせる。
その後を追うように連続して放たれた光状がアリュールと名付けたアルバトロスの装甲表面を灼く。損傷は装甲表面を掠めた程度。
大きな影響は無いと判断した百地は次の射撃が行われる前に一気に間合いを詰めると同時に人型形態へと変形。
「この距離なら外しようが無いわね」
スクリュードライバーを起動すると、根元に取り付けられたスクリューが回転。機体が更に加速し、速度を乗せた一撃がヘルメットワームの装甲を穿つ。
加速を活かした一撃に体勢を崩したメガロワームに、篠崎機のガウスガンから放たれた弾丸が突き刺さる。
弾の何割かは流線型の形状ゆえか、装甲を傷つける事無く逸らされたが、適正な角度で入った弾は装甲表面に若干の傷を与える。
「硬いですが、当て続ければそのうち落ちるでしょうな」
その言葉どおり、接近戦を仕掛ける百地とその援護として射撃兵装を駆使する篠崎、ガイギスの両機は明白に相手を押していた。
反撃として放たれるプロトン砲が至近距離にで戦闘を続ける百地の機体を幾度か捉えるものの、劣勢を覆す程ではない。
「これでどうだ!?」
相次ぐ攻撃に弱った装甲に、ガイギスの放った対潜ミサイルR3ーOが着弾する。
爆発の衝撃が装甲を砕き、更に内部機器を粉砕。致命的な損傷を負ったのか、メガロワームが爆発。破片も残さずに吹き飛ぶ。
「2機片付いたようだな」
眼前のメガロワームの動向を意識しつつ、一瞬だけ視線をサブモニタに示されたソナー画面へと移す。
敵機を示す2つの光点が消滅し、味方機を示す光点が3機づつに分かれて榊、須磨井へと移動していた。
視線をメガロワームへと戻す。
側面のプロトン砲が輝きを認め、反射的に操縦桿を薙ぎ倒すように動かす。リヴァイアサン側面のノズルが水流を勢い良く噴出。
直後、榊機が存在した空間を光の柱が奔ってゆく。
一撃や二撃食らった所で、ダメージは然程のものではないが余計な損耗は避けるべきである。
相対しているメガロワームも何度も叩き付けられたベヒモスによって、その装甲外殻は既にかなりの損傷を受けている。
其処へ、弾幕を張るように都合24発の魚雷が殺到する。ゲシュペンストが放った多連装魚雷「エキドナ」だ。
榊機の横を走り抜けた魚雷は、回避機動を行うメガロワームへと食らいつくように走り、半分ほどが追随できずに逸れるが、残り半数が着弾する。
続いて、同種の魚雷が先行した魚雷に追いつくように走る。
爆発の影響でメガロワーム周辺の海水が複雑な水流を生み出している為、直撃弾は殆ど出ないが至近での爆発は威力は多少減衰するとはいえ、充分な効果を発揮する。
連続した無数の爆発に翻弄されるメガロワームの間合いへと、素早く榊が機体を踏み込ませる。
「では、こちらも片付けさせてもらおう」
機体を旋回させ、遠心力を加えた槍斧が水中を素早く走り、魚雷の爆発で歪んだメガロワームの背へと突き立つ。
装甲に食い込んだ刃はそのまま機体内部を切り裂き、反対側の装甲をも貫く。
斧刃による一撃はメガロワームの背から側面までを斬り裂いていた、両断とまではいかないが、ダメージとしてはそれに匹敵するものだ。
切断面から焔を吹き上げ、一拍の後それが爆発へと変わる。
須磨井は適時距離を置きながら敵メガロワームを引きつけていた。
遠距離からの撃ち合いとなった為、どちらも敵に大したダメージを与えれていない。
メガロワームの側面から放たれたプロトン砲を光の柱の合間を縫うように、余裕を持って回避するが反撃として放った魚雷もあっさりと回避される。
距離がある故に、射撃から回避までのタイミングが長く、更に照準が甘くなってしまうからだ。
発射管に新しい魚雷を装填しながら、味方機の到着を待つ。
「自分の受け持ちが片付いたのでこれから援護に入ります」
篠崎から通信が入ると同時、後方からスナイパーライフルの銃弾がメガロワーム目掛けて放たれた。ドロームのブラックボックスを内蔵した水中用のスナイパーライフル。
ブラックボックス化されている為に詳しい原理は不明だが陸上と同じように扱う事が可能な品だ。
勿論、射程がある為に命中を狙ったものではない。あわよくばといった程度のものだ。
案の定、銃弾はあっさりと回避される。
百地とガイギス、篠崎の機体が須磨井の機体と並ぶ。
戦力の差を確認したメガロワームが反転離脱を開始する。護衛依頼という意味では見逃しても問題は無いが、現状ならば追撃しても大きな問題は生じない。
篠崎、百地、ガイギスの3名が放った50を越える魚雷が離脱を図るメガロワームへと迫り、炸裂する弾頭がその装甲を打ちのめす。
衝撃に弾かれた機体が体勢を立て直す前に、格闘戦の間合いへと素早く踏み込んだ須磨井がエンヴィー・クロックと呼ばれるリヴァイアサンに搭載された特殊能力を起動。
敵機の眼前でハイドロジェットを逆噴射。システムの影響で増大したエンジン出力が、通常以上の制動力を機体に与える。
更に、システム・インヴィディアを起動。
排出口から、蒼い燐光を放出、元来太陽光の偏向により青が主となる水中でも、その光は其れと分かる強さを備えていた。
「さてと、これで決めさせて頂きますよ」
魚雷の爆発に翻弄され、完全に自身の制御を失ったメガロワームへと、水中用機槍「ハイヴリス」を繰り出す。
超振動流体制御が水の抵抗を相殺し、振動する穂先が先の魚雷攻撃で脆弱となっていた装甲を用意に貫く。一撃ではなく、更に二度、三度と連続で繰り出された槍がメガロワームの機能を停止させる。
バグアの機密保護機能である自爆に巻き込まれる前に、素早く巡航形態へと変形し離脱する須磨井の背後で、メガロワームが爆散した。