●リプレイ本文
ヘルメットワーム。
開戦当初はKVによるキルレシオが1:3……つまり、3機がかりでようやく1機倒せるような相手ではあったが、僅か数年でその差はほぼ1:1に至っていた。
パイロット次第である事は多々あるものの、概ね1対1でも問題なく戦えるまでに進歩していた。
爆撃仕様のヘルメットワームをUPC軍に任せる事とした傭兵達は2機ずつ、計4つのチームに分散して陸戦型ヘルメットワームの迎撃体勢に入った。
陸戦型は通常のヘルメットワームに比較的近い形状を持ちながら、腕に相当する部位を取り付けられた機体。皿に腕が生えているような
左右に1隊づつ、中央に2隊を配する事で半包囲状態を狙った策だ。
程無く、KVのレーダー上に8つの機影が表示される。砂塵を巻き上げ、高速で疾走する8つの機体。
通常のヘルメットワームは腕に相当する部位を備えては居ないが、こちらの機体は後付なのか元々付いていたのかは分からないが1対の腕を装備し、各々がその腕に獲物を保持していた。
「はっはー! こっから先は通行止めだ!」
敵の進行ルートを塞ぐように機体を操りながら、守剣 京助(
gc0920)がナーゲルリングと名付けたディアブロのコクピットで敵を見据える。
その傭兵達の中央を無数の光条が貫く。射線上の地面が高熱で溶解し轍のような跡を残す。
ヘルメットワームの標準兵装であるプロトン砲の射撃だ。プロトン砲と呼ばれてはいるものの陽子を利用したビームかは未だ解明されてはいない。
命中弾を狙ったものではなく、牽制に近い射撃。
あわよくば陣形を乱す事を目的とした射撃だが、明らかに射程外からの射撃となればその意図は傭兵達には明白だった。
「うん、まあ気楽にいこうじぇ〜」
鳥の着ぐるみを身に纏い、コクピットに座る火絵 楓(
gb0095)は牽制射撃など意に介さぬ様子で口笛を吹く。
「いくよ、セレーネ。あたし達の力を存分に見せてあげようね」
敵機が有効射程圏内に入ると、香倶夜(
ga5126)がプラズマリボルバーを放つ。それに連動するようにアンナ・キンダーハイム(
gc1170)がスナイパーライフルによる支援射撃を開始。
同時になるべく多くの敵機を巻き込めるよう、イビルアイズのロックオンキャンセラーを作動。微弱ながらも重力を乱す事でバグア機主要な索敵機器である重力波センサーに影響を及ぼし命中精度を低下させる。
ヘルメットワームは迫る弾丸を慣性機動を存分に活かしたランダムな機動で回避する。
回避機動を取ったせいか進行速度が遅くなったヘルメットワーム群に、ブーストを吹かした芹佳(
gc0928)機が急速に接近。
敵集団最外縁の敵機を擦れ違いざまにKVの左腕振るう。
芹佳の意思に応じるように、左手に付けられた爪がヘルメットワーム側面装甲を削る。同時に逆噴射を行い左腕を支点として急速ターン。敵集団背後を取る。
「ここから先へは行かせないよ‥‥」
言葉と共に引き抜いた2刀による一撃はヘルメットワームが振るった長大な剣と噛み合い、受け止められる。
即座に刃を返し、2刀による両側面からの斬撃を叩き込む。
「KVで戦うのは初めてだが‥‥なんとかするっきゃねーよなぁ!」
フットレバーを踏み込み、機体を加速。眼前に迫る敵機に杉崎 恭文(
gc0403)が拳を叩き込む。
単なる拳撃ではフォースフィールドに遮られて対したダメージを与える事は出来ないが、藤崎の機体はナックルフットコートと呼ばれる特殊なコーティングが施されていた。
易々とフィールドを貫き、握り締められた拳がヘルメットワームを殴打。
衝撃で流される機体をそのままに、ややスピンしながら後退。弧を描くようにKV隊左翼へと円運動による加速を付けて突っ込んでくるヘルメットワームを明星 那由他(
ga4081)が駆る破曉が迎え撃つ。
明星の機体は破曉という機体が持つ追従性を高める為に装備を厳選し、軽量にする事でより機体特性を引き出す方向で調整されていた。
繰り出されるランスを左腕の裏拳を叩きつけて逸らすと、勢いそのままに離脱を図るヘルメットワームに肩に搭載された焔刃「鳳」を振りぬく。
カウンターとなった一撃に装甲を切り裂かれたヘルメットワームは数秒間そのままの勢いで直進し、直後に爆散。
レーザー砲を遠距離から撃ち続ける天宮(
gb4665)機にプロトン砲の光条が突き刺さる。
比較的直線的な機動を行っていた為に予測射撃が容易だった為だ。衝撃に揺れる操縦席で手早くダメージチェックを行う。
直撃弾がある程度はあったが、内部機構にはそれほど損傷が認められない。 とはいえ、何度も食らえば行動不能に陥るのは明らかだ。
「ディアちゃん久々の実践だよ準備はイイよね♪ そんじゃまあ、派手に行きますかぁ〜♪」
僚機の被弾を横目で確認し、健在である事を確認した火絵がアームレーザーガンを突破を図るべく接近中の敵機に撃ち込む。
いささか旧式化が進みつつあるとはいえ、ディアブロは攻撃性能に関しては未だにトップクラスの性能を備えている。
更に搭乗者による改造のお陰もあり、火絵の放つレーザーは充分な火力を以ってヘルメットワームの装甲に幾つもの穴を穿っていく。
「さて、参りますよ‥‥」
呟きつつ天宮(
gb4665)が、連射していた3.2cm高分子レーザー砲をラックに固定すると、機鎌「クレスケンス・ルナ」を構える。
火絵が打撃を与えた敵機を見据え、ルシフェルと名付け漆黒に塗装した愛機を素早く接近させる。
天宮の機体が接近している事に気づいたヘルメットワームがその腕に搭載した大剣を構える。
得意の慣性機動で小刻みに機体を移動させ、間合いに入ると剣を一閃。天宮はその攻撃をあえて機体装甲で受け止める。
装甲が切り裂かれると同時に、装甲の一部を強制排除する。
敵の動きを封じる事を狙った行動だが、斬撃と同時に敵機が移動している為に想定の結果は得られない。
間合いから逃げられぬうちに、やや甘い照準で鎌を振り下ろす。
「死神の業見せて差し上げます」
反射的に回避が容易な方向へと動く敵機に、機体サブアームに取り付けた練剣「メアリオン」のレーザー刃が不意打ちのような形で伸び、機体を穿った。
損傷を受け一時的に離脱を図る敵機を、後方で戦場全体を俯瞰していたキンダーハイムが捉える。
無言のまますぐさま損傷部位に照準を合わせる。
高倍率に設定したスナイパーライフルの射撃センサーから得られた情報をサブモニタに表示させ、理想的な弾道を描けるようにタイミングを計る。
距離、角度を調節し、理想の位置へと銃口を向けたままトリガーを引く。
音速超過の衝撃波を撒きながら飛翔した銃弾は狙い過たず、損傷部位から飛び込んだ弾丸が敵機内部機構を貫き活動を停止させる。数秒の後、盛大な爆発音を上げて四散するヘルメットワーム。
傭兵側に殆ど被害を与えられず、既に2機が撃墜されたヘルメットワーム隊は、目的を突破から目の前の障害を排除する事に変更。
邪魔な傭兵を倒してから、生き残った機で目標を遂げる手だ。
敵の攻撃が苛烈さを増す。
放たれる光条に沿うように突撃を行った機体がレーザーガトリングの迎撃を浴びながらも左翼の敵を担当する香倶夜機の装甲を貫く。
幸いにもすぐさま機能に問題が生じるような部位ではなく、予備系統が即座に起動する。
「空が勝っても、あたし達がやられたら意味が無いのよ!」
自機に食い込んだ槍の根元を掴み、強制的に動きを止めた敵機に反対の腕で引き抜いたGFソードを逆手に勢い良く突き刺す。
突き刺す瞬間にGFソード特有の機能を発動させ、剣身に電気を走らせる。
一瞬装甲に阻まれた剣先がするりと内部へと滑り込み、ヘルメットワームの内部構造を破壊。帯びた電気で内部を焼き払う。
既にダメージを受けていたヘルメットワームはその一撃がトドメとなり四散する。
一瞬レーダーに視線を走らせ交戦中の敵味方の位置を確認。ヘルメットワームの持つジャミングで些かレーダー画面は乱れてはいたが、充分に機能は果たしていた。
先に牽制の射撃を放った機体は加速して右翼を突破していた。
射撃による攻撃は届くものの、命中が機体出来るほどの位置ではない。
「香倶夜さんは援護と警戒をお願いします。破曉の足なら‥‥追いつける」
明星の機体が急激に加速する。
身軽にセッティングしたお陰で、その速度は高速機であるワイバーンにも引けを取らないレベルに達していた。
HMDの視界の中で急激に迫る敵機の背中に明星は、大地に打ち付けるように上部からの打撃を加える。ナックルフットコートで強化された一撃は敵のフォースフィールドを貫き、台地と拳の間で挟み込む。
装甲を拳型に陥没させて地面にめり込んだ敵機に、明星は光刃「鳳」を起動。
一瞬にしてエネルギーコーティングが施された刃が無防備な敵機の中央を貫く。
ヘルメットワームは撃破された場合は自爆する‥‥その事を思い出し、明星はすぐさまその場を離脱。一拍の後、切り裂いた装甲の隙間から炎が吹き上がり、直後に機体が爆発する。
守剣とペアを組む杉崎達C班は各々で1機づつ対処していた。
片方に注力すればそれだけ早く敵機を片付ける事ができるが、フリーになった敵機は即座に突破を図るだろう。
「こいつを食らっとけ!」
繰り出される剣を回避し、反撃にSAMURAIランスを繰り出す守剣。間合いとしては槍を操る守剣が有利ではあるが、少しでも離れれば即座にプロトン砲が飛んでくる。
間合いを誤れば一瞬にして不利になる状況。
既に幾度もの激突で相手の装甲は削られている、一撃必殺とはいかないが、上手く損傷した部位に当てる事が出来れば恐らく撃破できるだろう。
HUDに表示された彼我の相対距離を基に慎重に間合いを計る。敵機は小刻みな移動を行い守剣の機体側面に回ろうとしていた。
瞬間の判断で、あえて一瞬の隙を作る。
即座に反応した敵機が側面へと移動する。刹那、槍を真横に勢い良く振る。正面に突き出すだけが槍の使い方ではない。
意表を付かれた敵が無防備なまま槍に機体を貫かれ、行動を停止する。
「杉崎はっ?」
杉崎機に視線を向けると、ナックルフットコートを用いた肉弾戦の最中だった。
上手く攻撃を捌いたのか敵機の腕部に獲物は装備されておらず、付近に転がっている。ヘルメットワームは、しきりにプロトン砲を撃てるよう距離を取る素振りを見せていたが、その度に繰り出される拳に邪魔されて思うように移動できないようだ。
現時点では杉崎がヘルメットワームに対しては優位に立っていた。
アクチュエータが唸り、拳が弾丸のような勢いで射出される度に攻撃を回避し損ねたヘルメットワームの装甲が歪んでいく。
だが、装甲が歪むだけでヘルメットワームの動きが衰えるような気配を見せない。
「いいかげん、タフだな」
苦笑を漏らしつつ、左腕に装備されたパイルバンカーを如何に上手く叩き込むか思案。普通に繰り出しただけでは回避されていた。
閃きと共に右の拳を再度繰り出す。
今までと同様のパンチと判断したヘルメットワームがその攻撃を受け流す為に腕を振るうが、杉崎はその腕を掴む。
行動の自由を奪われたヘルメットワームは振りほどこうと機体を動かすが、その機体に向けてパイルバンカーを突きつける。
絶対に外しようの無いゼロ距離。
「ぶち‥‥ぬけぇ!!」
無意識のうちに出た声と共にトリガーを引く。機杭「エグツ・タルディ」に装填された火薬が炸裂し、ガイドレールに沿って先端が鋭利な杭を高速射出。
打撃では貫く事の出来なかった装甲を易々と貫き、ヘルメットワームの中枢部を吹き飛ばす。
キンダーハイムの冷静な支援射撃の元、龍と鳳が描かれた双刀を振るい着実に敵機を追い詰める芹佳。
激しい戦闘起動に揺れるコクピットの中で計器の数値を追い、キャノピーから見える敵機の動きを追う。
機体の制御はエミタAIにより無意識的に機体操縦を行ってくれるが、計器の表示や敵機の機動は自身の目で確認せざるを得ない
その目が明確な隙を捉え、攻撃を意識。
即座に反応した機体が手の刃を振るう。金属を斬り裂く異音を立て、敵の腕が半分ほど断たれる。これで近接武器は使えなくなった。
「蝶の様に舞い、蜂の様に刺す! なんてね‥‥」
冗談めかした口調と共に、ジェットエッジによる一撃を与える。防御行動を取れぬまま、巨大な五指の爪がヘルメットワームの装甲を裂くと、その活動を停止させる。
最後の1機となった敵機へと、火絵がブースターを吹かし急速接近。
減速はせず、勢いのまま突き進む機体の頭部に備えられた刃が赤熱化。防御姿勢を取る間も与えず、敵ワームへとその刃を深々と突き刺す。
「まだまだ終わりじゃないよ」
体勢を崩した敵機を巨大なクロー‥‥ギガンティックアームクロー【魔鳳】で掴み動きを封じる。
「受けよ我が洗礼!! 閃光雨・零」
同時にアームレーザーガンの銃口を突き付き、連射。
身動きの取れぬままレーザーの光条に貫かれるヘルメットワーム。充分にダメージを与えたと判断した火絵が軽く機体を後退させると同時に、ヘルメットワームの機体が焔に包まれ吹き飛ぶ。
「そっちも終わったみたいね」
フェニックスを降下させながら、冴木 玲(gz0010)が全ての機体を撃破した傭兵達の前へと降りてくる。
「玲ちゃん! 玲ちゃん! 今日こそはあたしの大活躍を見てくれたよね? よね? そして買ったからご褒美を‥‥ご褒美のちゅーを!!」
「‥‥私は女の子にキスをする趣味はないから、ご褒美は口座に振り込まれる分で我慢して欲しいわね」
ハイテンションの火絵を冷静にあしらいつつ、一瞥して傭兵達の状況を確認。
多少の損傷を負っている機体はあるものの、自力での帰還に何ら問題が無さそうな事を確認。
「そちらはどうでした?」
「そうね、僚機が多少は被弾したけれど、此方も然程の被害は出さずに仕留められたわ。タロスやゴーレムが混ざってたらちょっとは苦戦したかもしれないけれどね、この程度ならなんとでもなるわ」
その後も散発的な妨害は続いたが、何れも防衛に付くKV隊に排除され路線は順調にロシアへと伸びていく。
資源輸送用のルート構築には今暫くの時間は要するが、この路線が完成されれば大量の物資をアジア方面へと迅速に運ぶ事が出来るようになる。
それは、そう遠くない未来の話だ。