●リプレイ本文
●準備中の一幕
「どうだい、この出来!?」
傭兵との打ち合わせの為、資料を纏めていた崔 銀雪(gz0103)の前に、唐突に物体が差し出された。
「どうって言われても‥‥」
「なんですと!? これぞジャパンが誇る萌えの結晶、KV少女HF−031Exたんの原型ですぞ、彩色済みですぞ。」
口角泡を飛ばしながら、力説する男。その手にはメカニカルな純白の装甲に身を包んだ少女風のフィギュアが握られている。
「更に、限定生産で色々な表情のヘッドが付属し、更に下着もぱーへくつ! 装甲展開機能は脱衣で‥‥あいた!?」
その男の頭に、崔は脳天チョップを叩き込む。ズビシといい音がしそうな一撃だ。
「‥‥また作ったんだ。売れてるからいいんだけど、とりあえずこれから仕事だから、貴方の相手は誰か他の人にしてもらって」
「他に1/48のガレージキットもあるよ、あるよ!」
●会議は始まる
そんな事があった10分後、会議室には11名の傭兵が揃っていた。若干1名が鳥の着ぐるみを着ているが、傭兵にはそういう妙な服装を好む者も少なからず居る。
他に屋台を曳いて来た傭兵も居たが、会議室のドアの関係で入らなかったので搭載していた料理を配膳している。更に杏仁豆腐を持ってきた傭兵もおり、さながら食事時のような風景となっていた。
あえてツッコミはせず崔は会議の開始を宣言した。
今回の議題は奉天社が始めてリリースする高額機体であるHF−031Exと形式番号が振られた機体だ。
今までの機体以上に良好な操縦性能と、一時的な機体強化システムを積んでいるのが特徴と言えるだろう。また、従来の機体より一回り程機体が大きいのも特徴と呼べるだろうか。
「さて、依頼内容に提示したように、この機体は能力者向けとして調整する事が決定しています。それらを踏まえての意見をよろしくお願いします」
「XF−022がこうなったとは‥‥嬉しい意味で予想を裏切られましたね」
まず発言を行ったのは井出 一真(
ga6977)。
「基本性能ですが、強化がしにくい回避・命中が高めなのはとても良いと思います。特にリミッター解除で防御面が低下するのなら、回避は最も重要なポイントでしょう」
「性能面で言えば、出来る限り上昇させるべきでしょうね。リミッター解除の事を考えると、攻撃・知覚・命中・回避が低いようでは特殊能力を使用するメリットが出にくくなります」
「発売時の他社高級KVの性能面の予測も必要かな。出来ればその値に負けないくらいの底上げをしてもらいたい。機体発売時にリヴァイアサンのような強烈な機体が出ていると厳しくなる」
性能面について述べた井出に、チェスター・ハインツ(
gb1950)、鹿島 綾(
gb4549)が続く。
「確かに価格には見合いませんね。ただ、低いといっても極端に低いわけではなく銀河のシラヌイ程度の数字は持っています。‥‥貸与時期は未定ですが、早ければ12月末ですね」
「俺も貸与額があがっても良いから性能を上げるってのには賛成だな。特に、武器の重量に対応する為に積載能力があれば尚良し、だな」
「積載能力の向上はなるべくなら欲しいな。欲を言えば、副兵装3、アクセサリ4ってトコ? まぁ、事前の情報だとアクセサリスロット4はあるようだから、兵装スロットの増設かな」
「アーちゃんも、副兵装スロット。最低でも3つ必要だと思うよ」
「現行の機体の標準が、副兵装3、アクセサリ4、移動4、装備400以上ですから、少なくともこの程度の性能があった方が良いかと‥‥価格が高くても妥協しない機体は売れていますからね」
賢木 幸介(
gb5011)の言葉に鹿島とレールズ(
ga5293)、アーク・ウィング(
gb4432)も頷く。
「積載能力は排熱器を組み込む関係で削られたのですが、副兵装スロットの増設や装備力の増強は価格を引き上げる事である程度は対応できますね」
「他の性能では、移動は最低で4。出来れば5まで上げる事が出来れば、ワイバーン以上の戦闘時の移動能力を備える機体になりますが‥‥他の性能を圧迫するようなら、必要ないですね」
「標準で移動能力は4確保してあります。ただ、5まで引き上げる事は難しいですね」
●お食事会?
機体基礎能力に関する回答が得られた時点で、今まで誰も手をつけていなかった料理に皆の手が伸びた。
料理は守原有希(ga8552)が用意した鶏とナッツの炒め物、団扇海老の蒸餃子、炒飯、マンゴープリン。更に高坂聖(
ga4517)が杏仁豆腐を持参していた。
「性能を上げれば、やはり貸与価格の上昇は避けられませんか?」
「上昇させる方法にもよるけれど‥‥今回は上手く話が進めば、一刻も早く量産体制を確立させる必要があるから、価格が上がるのは避けられませんね」
価格高騰を避けて上昇させる方法の一つに、中堅価格帯に多く見られる一部の能力を切り捨てるという方法がある。
今回そうした方法が取れない理由は、既に機体の設計がほぼ終了している為な事と、採用次期が比較的早い事が挙げられる。
その為、個々のパーツのバランス調整やより高出力のモーター、人口筋肉に変える事で全体の性能を上昇、あるいは下降させる事となる為、性能の上昇を求めるのなら価格を引き上げるしか無いのだ。
「高騰は痛いですが、性能をスポイルしては意味がありませんしね」
守原はその回答に苦笑を浮かべる。
ちなみに、とりの着ぐるみを着込んだ火絵 楓(
gb0095)は持ち込んだメンマを延々と食べている。
会議自体は聞いている状態だが、自身が想定している所の話ではない為、積極的に発言する気は無いようだ。
「これだけの料理を用意するのは‥‥手間、だったのでは?」
椀によそった炒飯を見て、奏歌 アルブレヒト(
gb9003)が呟く。
微妙に視線が合っていないのは、彼女の視力が極端に悪く、視界補助の為にペンダント型の機器を用いているからだ。
「私的研究者健康強化運動って事ですよ」
「私は岩龍ロールアウト二周年記念という事で用意しました」
料理を用意した高坂と守原の回答に頷いて奏歌は匙を取り、口へと運ぶ。
「でも、奉天で高級機かぁ。奉天の製品っていったら安いものってイメージが強いけど、この機体が出ればそのイメージを払拭できるかな?」
「機体の採用の如何という意味では、対抗馬はメルス・メスのサイファーでしょうか。比較的コンセプトが被っているような気がしますからね」
アークの言葉にレールズが応じる。
奉天の機体が攻撃性能を重視しているのに対し、メルス・メスの機体は防御性能に重点を置いた設計をしているが、特殊能力によって性能を向上させるという意味においては同一だ。
「可能なら、ディアブロとディスタンのように攻撃型のHF−031Exとサイファー。この二機をNextStageKnightVogelSeriesとでも題して同時発売が出来ればいいんですけどね」
「それを判断するのはULTですからね、働きかけはしますけれど難しいとは思いますよ」
その言葉に崔は苦笑する。ディアブロとディスタンは同時期に発売された攻撃型と防御型の機体だ。奉天とメルス・メスの機体と妙に符号する所もある。
「それと機体の愛称は鳳凰はフェニックスと被る‥‥いや、本来はイメージは被らないハズなんですが、あちこちで勘違いされていますから、破曉なんてどうでしょうか? 意味は日が昇る夜明けの刹那って事ですが」
KV史上初めて基本行動値が4である事、中国が始めて大規模な失地を奪還した後に出る奉天の機体である事をレールズは列挙する。
「夜明けに当たる次世代機という意味と希望を込めていますね」
「それは気になっていた点の一つですね。差別化を図るという意味で、自分は朱雀を押します。中国とも関連深いものですし‥‥単なる思い付きですが、四神を冠したシリーズが出れば壮観かなあ、とか」
「あたしは最初の鳳凰ってのがイイのにゃ〜」
レールズの提案に、井出と火絵から異論が出る。
「奉天の新たな一歩という意味では、うちも破曉に賛成ですね」
「鳳凰とフェニックス、全く違う存在ですけどやっぱりイメージが被ってしまいますから‥‥僕も破曉に一票、ですね」
「そうですね、私も破曉に票を投じましょう。リミッター解除の名前に鳳凰覚醒ってのはどうでしょうか?」
それに対し、守原、ハインツ、高坂が賛成に回った。
「まぁ、機体の名前を決めるのもいいんだけどよ、特殊能力についても話さねえか?」
携帯PCを叩きながら、適当に料理を摘んでいた賢木が機体の性能面に話を戻す。
●会議に戻ろう
「とりあえず、機体名は後ほど検討しますね。‥‥という訳で、基本性能面でのお話は承りましたので機体特殊能力に関して何かあればお願いします」
「リミッター解除は、現時点では難しいのかもしれませんが燃費の向上を考えるべきでしょう。実際の戦闘の事を考えれば2回の使用が限度でしょう‥‥例え5%でも改善できれば3回の使用も視野に入れられますから。バージョンアップでの対応が出来るよう、研究を継続するべきだと思います」
「申し分のなか機能ですが、固定値ではなく割合なので、機体を強化するほどに負担が増していくのが難儀な所ですね。使用を躊躇する場面がありそうですから、余剰熱回生とかでもとにかく燃費が良くなれば良いとは思います」
井出と守原の二人が改善点として燃費の問題を挙げた。
「これはエンジンが要求する能力を出す為に必要な燃料ですから、技術の向上次第では減らす事は出来ますね」
「俺は2つ程考えてきた」
そう言って鹿島が告げたプランの一つは、他に搭載が予定されている隠し腕などの機能を切り捨て、開いたスペースを利用してメリットの向上・またはデメリットの低下案だ。
「例を挙げるとだ‥‥放熱板を増設して、装甲展開を抑えて防御性能の低下を極力軽減するって案、補助動力を搭載して消費燃料を抑えたり、過剰なエネルギーを回収する案だな」
「その案だと放熱板の増設は可能ですね。ただ、補助動力の搭載やエネルギー回収は難しいかも‥‥技術的には可能だけど、専用の開発が必要になるから時間がかかるってのが最大の問題ね」
もう一つのプランは追加要素として、リミッター解除時の機体をフォローする機能だ。
「こっちも例えば‥‥アンチジャミング機能、ジャミング逆探知機能の追加。これが値段が問題なるなら、骸龍搭載の煙幕弾射出装置‥‥あの3発積んでるヤツ、アレの流用とか」
「ジャミング関連は結構電力食うんですよね。コンデンサ容量の問題もあるから不可能ではないけれど難しい。骸龍搭載の煙幕弾は問題なく使えますね」
ふむ、と頷いた鹿島に続いて発言したのは火絵だ。
「うも〜‥‥もしリミッター解除するならもっと数値上げらんないかな? 能力の上昇幅を50%にして〜下降値を70%とかにしちゃえば!! って、ちょっとピーキーすぎるかな?」
「いや、悪くは無いと思いますよ。どっちかというと、いわば切り札ですから現状よりも尖らせるのはアリでしょうね」
「俺も可能なら上昇幅を上げてもらえると嬉しいな。通常戦闘を考えると2回が限度、防御面が下がる訳だし、短時間の爆発力って面なら素でディアブロ並の火力が出せると嬉しいんだが」
その意見に賛成したのは、ハインツと賢木の二人。
「爆発力の増強という意味では火絵さんの言うように防御性能の低下を考慮に入れなければ、上昇させる事は可能ですが、その場合の防御性能は骸龍並に低下しますね。もっとも攻撃に関する値だけでなく、命中や回避性能も上昇するので一概に弱くなるとは言えません‥‥ただ、この点は難しい調整です」
「もう一つの特殊能力ですが、隠し腕の効果はどのようなモノを想定していますか?」
「これは、いわゆる固定武装ですね。搭載するモノにもよりますが、現状では近接武器が想定されています」
井出の質問にそう答える崔。
「固定兵装ですか‥‥それも悪くないとは思いますが、オミットしてその分を基本性能の増大に振り向けるのも一つの手ですね。あるいは斉天大聖に搭載されているような垂直離着陸機能の搭載を提案します」
「垂直離着陸ですか‥‥それなら対タロス戦用に短時間での垂直離陸が出来る機能が欲しいですね。斉天大聖型では離陸に時間がかかってしまいます」
垂直離着陸機能に関しては高坂が意見を出す。
想定される敵機であるタロスは近年になってよく見かけるようになったバグア側の新型機だ。これまでの新型とは異なり単機で戦局をひっくり返すような能力こそ得ていないが、バグア側陸戦兵器であるゴーレムとヘルメットワームを足し合わせたような性能を有している。
ゴーレムにも飛行能力はあるが、それはどちらかというと力技のようなもので機動性こそヘルメットワーム並で飛翔できるものの、速度では大きく劣る。
また、確定した情報ではないが、大量に燃料を食うらしくゴーレムが飛ぶという事は比較的稀な現象な為か失念している者も多い。
対してタロスだが、これはヘルメットワーム並の速度で飛翔できる。更に一瞬で地上に降り立ち、また瞬時に上空へ移動するなどの機動が取れる。
この為、撃破寸前まで追い詰めながらも逃げられる事が往々にして存在する。
高坂はそうした状況でも逃がさず確実な撃破を行う為に、タロスに追随できる能力を求めていた。
「脚部に離陸用のエンジンを搭載する事は出来ないでしょうか? HF031−Exで無理なら、以前のXF−022の脚部に積めれば‥‥」
「XF−022の脚部ではエンジンの重量に対して問題が出ますね。あの脚は一本一本に掛かる荷重の分散が出来るので、単体の積載性能は低いんです。どちらかといえば、HF−031Exの方がそうした搭載には向いています」
そこまで口にしたところで、一口水を含む。
「ただ、HF−031Exもエンジン搭載が出来るほど脚部にスペースがあるとは言えない状態です‥‥垂直離陸にのみ絞って考えれば、背部に搭載するブースターの稼動でしょうか? この場合、推力重量比で1を越える必要が出ますので、エンジンの大出力化が欠かせない所です。価格の大幅な増大を前提に入れれば可能ですが‥‥下手をすれば500万を越えかねませんね」
「‥‥それは、流石に高すぎるかな。でも、検討して欲しい機能ではあります」
次に口を開いたのはハインツだ。
「えーっと、井出さんの質問によると固定兵装って事ですけど、装備できる武装の数が制限されるようなら要らないのですが、通常武装による攻撃の後、追加攻撃できる武装やファンランクスのような迎撃用の武器があると面白いなぁと思います」
「アーちゃんは、隠し腕じゃなくてファランクス・アテナイみたいな自動攻撃機能付きの銃器があるといいなって思う」
「ファランクス系の自動攻撃を搭載するのなら、隠し腕に搭載した武器を自動で射程内の敵に使ってくれるようなシステムがあればいいんだが」
その意見に同意するウィングと賢木。
「自動攻撃系の武装は不可能ではないですね‥‥そっち方面は殆ど研究されていないので、開発が間に合えばの話になりますが。隠し腕に搭載した武装の自動使用は現時点では無理です、武装数が多すぎるので専用のOSの開発が間に合いそうにありません」
「リミッター解除にも‥‥関係するのですが‥‥私は別の固定武装を考えました」
そして今までは会議の行方を眺めているだけだった、奏歌が己の意見を述べた。
「機能を使用した際に‥‥膨大な熱量が出るという事‥‥ですが、固定兵装にその熱量を付加して‥‥ヒートウェポンのように使えないかな‥‥と。これで、放熱量の削減ができれば‥‥装甲展開箇所を減らせるから‥‥防御力も上げられるんじゃないかなと‥‥可能なら通常武装にも使えるといいなって」
「放熱板を兼ねた近接武装という事ですね」
「そう‥‥」
「はーい、ヒートウェポン賛成なのにゃ! ブレードウィングを付けるなら、リミッター解除後は羽をヒートブレードウィング的な物でもいいんじゃないかな?」
淡々と話す奏歌とは対照的な元気な声で火絵が賛同する。
「いずれにせよ‥‥最低でも一つは近接武器を積む必要が出ると思う‥‥だから、固定武装としての近接武器を提案する‥‥熱量の利用上、物理兵装になるけど‥‥。それで隠し腕は廃止して、多少大型でも構わないから性能の良い固定武装を採用することで‥‥より攻撃的な機体にならないかなって‥‥でも、これを搭載する事でスロットが削られるのは反対、ただでさえ少ないし」
「何か案はありますか?」
崔の言葉に奏歌は頷くと一つの武装案を披露する。
「奏歌は伸縮型の内蔵式クローを考えた‥‥両腰、あるいは肩に搭載して射程2まで伸びるクロー。基本的にAI制御で、単独使用だけでなく‥‥通常兵装使用時に‥‥追加攻撃が可能。他に敵機の捕縛‥‥有る程度の大きさの物を掴めるような汎用性‥‥があるといいかなって」
「ふむ‥‥追加攻撃そのものは難しいですが、放熱板を兼ねた武器というのは面白いと思います」
「そういう固定兵装を積むならリミッター解除時限定でなく、通常時でも使えるような要素があると良いな。リミッター解除が無くても、これで戦えるって言うような」
固定兵装案に対して、賢木が意見を口にする。
「そうですね‥‥通常時でも使用できるような放熱板を兼ねた固定兵装は可能と言えます」
「アーちゃん考えたんだけど、COrEって機体が墜落した時とか行動不能になった時とかの脱出が難しそうだなって思ったから、コクピットだけを切り離してパイロットの脱出装置に使えないかな?」
「これは説明が足りない部分でしたね。脱出ポッドとしての機能は搭載しています」
「えっと、落下スピードを殺すようなブースターとか海面に落ちた時にすぐに沈まないような仕掛けはある?」
「ありますよ。詳しく説明すると、脱出時の仕様ですがまずコクピットブロック‥‥COrEが機体から射出されます。射出方向が常に上ではないでしょうから、パラシュートによる降下になりますね。後は機体外部数箇所からエアバッグを展開して、地表間際でパラシュートが用を為さないような高度、陸戦時の脱出時のショックを最大限殺せるようになっています。同時に洋上においてはこれが浮力として働きますので、沈む心配はほとんどないですね。万一沈んだとしても、形状が球形ですから400m程度なら問題無いですね。ただ、そこまで沈んでしまうと回収が困難になりますから、もし沈みそうならすぐにコクピットから出た方が良いとは思いますが」
他に、サバイバルキットを搭載するスペースを有している事。野良キメラに襲われた際のシェルターとしても使用出来る事、救出用のビーコンを高出力で発振出来る事等今までの脱出装置より優れている点を述べる。
「今までより安全性という意味では格段に向上しています。唯一の欠点は、高額な事ですが‥‥万一の安全性を考えればやりすぎるという事はないでしょうし」
●新しい機体を考えよう
「さてと、別の機体の提案も受け付けるって事で、ウチが考えてきた機体案がコレや」
今まで黙って意見を聞いていた佐賀 鋼鉄(
gb6897)が機体案を提示する。
「可変機構を廃して、人型オンリーの機体やね。リニアアクチュエータによる非接触式構造による耐久力向上、機体外装に複合素材を用いて応力外殻構造にして、内部フレーム構造の簡略化と軽量化。錬力転換装甲と対知覚用気化装甲による防御力の強化。対知覚気化装甲はパッシブステルスコーティングが気化する事で威力を減衰させるものを。後は頭部に広角・望遠・精密照準3連ターレットレンズを配置。足首の外側に装輪走行時の急激な方向転換に使用するピック射出器を取り付ける‥‥ってなもんやね」
「面白い意見ではありますが、幾つか問題点がありますね。まず、人型オンリーは自力飛行が困難である以上、KVという兵器ではない別系統の兵器になります。これらに関しては開発予定がありません、理由としてはKVはごく一部の例外があるとはいえ万能兵器である事を期待されている点にあります」
他の問題点として、リニア式に関しては電力消費が激しすぎ現時点では実用性が薄い事。錬力転換装甲はそもそも何なのか、また知覚兵器用気化装甲は良いとしても、バグア側の索敵装置が重力センサーが主体である以上、ステルス機能は意味が薄い事。ターンピックは高速走行時の使用では脚部への負荷が高すぎ、脚部を損傷する可能性が非常に高い事を挙げた。光学センサー類をあえて用途ごとに区分する意味が薄い‥‥全てのセンサー類を連動させた方がより効率的な運用が行える事を挙げた。
「個々の技術としては研究課題とする事も出来ますが、現時点では実現不可能な面が多い機体ですね」
「そか、ならしゃーないわな。後はオプションも考えてきたで、今の機体だけでなく他の機体なら使えるかもしれない」
そう言って鋼鉄が述べたのは2種。
外部装甲式に多数のミサイルポッドや砲頭を搭載し、複合センサーアンテナやロケットエンジンを取り付けたものだ。
もう一つが化学燃料ロケットエンジンの案だ。加速補助や推力の補助としての運用を想定している。
「技術的には不可能ではありませんが、これも変形機構を大きく阻害する可能性が高く実用性が現時点では認められませんね。化学燃料ロケットエンジンとしてはおそらく固体燃料を指しているのだと思いますが、一度点火したら燃料を使い果たすまで燃焼し続けますので推力の制御が非常に困難です。液体燃料ロケットなら推力のコントロールは可能ですが、基本的にロケットエンジンというのは寿命が非常に短く、ほぼ使い捨てです。単純な加速用ならスクラムジェットエンジンが実用化されていますので、需要は無いと言わざるを得ません」
続いて機体に関する意見を述べたのは高坂だ。
「えーっと、提案する機体は水中用の機体ですね。名前は‥‥玄武とでもしておきましょうか。上陸作戦を意識した水陸両用型の火力支援用KVというコンセプトで考えてみました。運用面では水上から上陸地点への制圧射撃後、後続部隊が到着するまで橋頭堡を確保できる機体として考えました。陸上においては移動砲台、水中では大型目標への攻撃機といったい機体でしょうか」
「水中機はうちはまだ作っていませんが、作れない訳では無いですね」
「価格帯としては、150万程度。火力支援機ですから、それなりの火力と積載量が必要ですね。人型形態は水上からの砲撃を意識して機体上面から上半身を展開、機体側面から4脚を出すような形状を希望します」
「技術的な問題は無いですね。気になる点としては洋上は波があるため精密な射撃が困難な点ですが、制圧射撃という事はそこはあまり問題にはならないでしょう。特殊能力は何かありますか?」
「基本的な水中移動のほかに、同一射撃武器のみ同一目標に対して同時攻撃が出来るようなシステムがあればいいかと思います」
その案に崔は少し考え込む。
「確かに不可能ではないかもしれませんが、FCSとの関連が少し厄介ですね。固定兵装に限れば同時攻撃は可能だと思います」
●そして最後に
機体案の提案が終了した時点で、守原が切り出した。
「軍が問題にした点は、リミッター解除に関する面だけなんですよね? それで軍採用を失うのは惜しいと思います、リミッター解除はオミットした軍仕様の機体は作れれば良いかと考えます。工場のラインに問題が出るかもしれませんが、大規模から中国‥‥アジア方面軍は錬度が高いので戦略的に弱い機体を使わせておくには惜しいです」
「軍仕様からリミッター解除を取るのは反対です。北米軍、欧州軍は高性能機を次期主力機に採用しようとしています。最後の手段としてリミッター解除を残しておき、指揮用の戦術データリンクを搭載した機体を作るべきです。
その意見に真っ向から反対するレールズ。
「えーと‥‥軍仕様の廉価なバージョンは開発中です。形式番号末尾がSt‥‥Exceedに対するStandardという事ですが、ExがULTに採用された場合、中国UPC軍ではエースや教導隊向けに導入は検討されています。高コスト機ですし整備性の問題もありますが、性能に関しては一定の評価は得られていますからね」
「なるほど、後はそうですね。やはり傭兵向けという事は見た目も考慮して貰えるとより売れると思います。性能より外見を重要視する傭兵も居ますから‥‥例えば頭部カメラアイはデュアルアイとか」
崔の説明にとりあえずの納得を見せたレールズは外見に関しての意見を提示する。
KVの売れ行き状況を見ているマーケティング部門ではそうした外見に着目する傭兵は一定数居るという事を認識していた。
「その点は一応‥‥多分、きっと、大丈夫だとは思います」
●会議終了のお片づけ
会議が終了後の片付けも一通りが終了し、傭兵達が各々の帰路に着いた頃、1人の男がふらりと会議室に姿を現した。
男は崔の姿を認めると、声をかける。
「ヤーハー! 外見に関して何か意見はあったかい?」
その男は会議が始まる前に、KV少女の原型を作っていた男だった。
「えーと‥‥カッコイイ機体が良いって言ってたわね。頭部カメラはデュアルアイが良いって」
「なるほど、それこそジャパンが誇る萌えかつ燃えであるジャパニメーションの基本だね! ゴーグルタイプは量産型の証さ! 何なら鼻と口もつけるよ! 角もつけるよ! トゲトゲさせるよ! ヒャッハー!」
この男こそ、今までさして重要視していなかった機体デザインを担う為に、新たにKV開発部門に配属された男だ。
一部では誰が作ってるんだコレと疑問視されているKV少女の原型を担ったりと、その手の分野に精通した男ではあるのだが、多少いやかなりエキセントリックな性格をしているのが問題だった。
だが、一応部下とかストッパー役もついているし、機体の設計はほぼ完全に終了し細部の調整程度しか残っていないので、いきなりぶっ飛んだデザインに発展する可能性は限りなく低いだろう。
「‥‥なんで、あたしがこいつの相手してるのよ」
嘆息する崔の横で、男は更にヒートアップしていくのであった。