タイトル:奉天初の高級機マスター:左月一車

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/15 21:38

●オープニング本文


 先の意見交換会でかわされた意見を元に、奉天社は傭兵向けとして2機の試作型KVの開発を進めていた。
 一つは西王母を母体とした帯電粒子加速砲運用プラットフォームであるXA−019。
 もう一つは汎用性を重視し、今後の主力機としての座を狙うXF−022である。
 XA−019は母機が既に完成している事等からKV開発というよりは武装開発に近い。
 一方、フレーム段階からの試作となったXF−022に関しては新開発の技術が惜しみなく盛り込まれ、技術試験機としての趣が非常に強い物となっていた。

 XF−022は奉天初の高性能機でありながら、普通のKVとは異なり機体を特徴づける機体特殊能力が存在しない事と、単純な機体性能が非常にバランスの取れたものである事等「特徴が無い事が特徴」と言える機体である。
 単純な性能に関して言えば平凡な機体である。
 しかし、この機体は特筆に値するべき点が2つある。
 1つは、機体の安定性と追従性の高さである。
 新兵でも充分に機体性能を発揮できるよう、安定性と追従性を高めた結果、副次的な効果として既存機とは一線を画す行動能力を得ていた。
 もう1つは、機体バランスの良さである。性能を平均的に設定した結果、チューンや装備次第で様々な機体特性を有する事が可能となっていた。
 その為に機体アクセサリとして「攻撃性能を引き上げるかわりに、知覚性能を引き下げる」パーツなどの開発も行われていた。
 任務に応じて機体の性能を変更できるミッションパックの採用を求める傭兵の声はそれなりに多いが、専用装備は採用されない可能性が高い。
 しかし、汎用性の高いパーツであれば採用の可能性は大きく高まる。
 
 昼夜を問わない作業により、2機の試作機が仕上げられた。
 外見は戦闘機形態においてはエイを彷彿とさせ、人型形態においては六脚という既存のKVの中でも特異なフォルムを持っていた。
 このテストの結果を元に最終的な量産を目的とした試作機の開発が行われる。
 もっとも、実際に量産し販売されるかどうかはUPC主催のコンペ次第という事になるが、技術力を高める意味でも無駄にはならない。
 極秘裏にテストを行う事も検討されたが、傭兵に対する広告としての効果も期待して、テスト依頼がUPC本部へ提出された。

●参加者一覧

/ レールズ(ga5293) / ミンティア・タブレット(ga6672) / 井出 一真(ga6977) / 守原有希(ga8582) / 須磨井 礼二(gb2034) / オリビア・ゾディアック(gb2662) / 白岩 椛(gb3059) / アトモス・ラインハルト(gb7934) / 相澤 慎一郎(gb8213

●リプレイ本文

 今回のテスト依頼に参加した傭兵はは7人。
 本来ならもう1人参加していた筈なのだが、諸般の事情で欠席する事となっていた。

 奉天社の施設内でエミタAIにXF−022の操縦法をインストールし終えた傭兵は、ガレージへと案内された。
 そこには見慣れた自分達の愛機の他、見慣れない機体が2機駐機していた。
 人型と呼ぶにはあまりにもかけ離れた異形なフォルムを持つその機体がXF−022だ。その特徴的フォルムはどことなく、蟷螂や女郎蜘蛛を連想させる。
 「ううん、ついこの間提唱された機体がもう組み上がるとは‥‥奉天さんの本気がこれ程とは思いませんでしたよ」
 整備士志望の井出 一真(ga6977)が感慨深げに機体を見上げる。
 「機体の操縦系統はエミタAIにインストールしましたので戸惑う事は無い筈ですが、コクピット形式が通常の機体とは異なりますので、改めて説明します」
 ガレージに集まった傭兵に対し、依頼人である奉天社の崔 銀雪(gz0103)がホワイトボードを示す。
 写真で示されたコクピット内部は、通常であれば風防なりがついていて外が見えるものだが、それらは一切配置されておらず、また機器類もほとんどが見えない。
 「御覧のように、このコクピットには必要最低限の計器類と操縦系統しかありません。外部映像や各種データはこちらのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に表示される形となっています」
 そう言って崔が示したのは、視界を完全に覆うバイザー型のものだ。
 「HMDの角度に連動してコンピュータで補正した各種センサー類からのデータが表示されますので、視界的には特に問題はありません‥‥早速ですが、テストを始めたいのですがよろしいですか?」
 「俺の方は問題ないです」
 相澤 慎一郎(gb8213)が頷く。
 他の傭兵も特に問題が無い為、テストが開始された。
 テストスケジュールとしては、走行試験、空戦、陸戦の流れを採用する事とした。陸戦が後回しにされたのは、模擬戦だろうと近接白兵戦武器による殴り合いは破損する可能性が最も高い為だ‥‥とはいえ無茶をしない限りはそう頻繁に起こる物ではない。
 
 まず、実施される事となったのは走行試験
 試験の概要は不整地や市街地でのその特徴的な脚部を用いた走行性能や踏破能力の確認にある。
 殆ど多くのKVが人間を模した二足歩行を採用している為、多脚の機体がどの程度の能力を発揮するか、実際のデータが少ない為だ。
 ガレージと隣接した試験場内に、2機の機体が姿を現す。
「なるほど、このシステムは面白いですね」
 須磨井 礼二(gb2034)がコクピット内で頭を左右に振り、システムのチェックを行う。
 通常の戦闘機型のコクピットでは、正面に計器類が配置されている為、計器類の確認を行う場合視線を一瞬だけ計器に向ける必要がある。
 僅か一瞬と言えど、戦場ではその一瞬が勝敗を分ける事も多々ある。
 HMD上に外部映像に重なってほぼ全ての情報が表示される為、一々視線をずらす必要が生じない。
「とりあえず、確認したいのは悪路の走破性能よね」
「そうですね。砂漠や湿地等の踏ん張りの効かない場所の確認をしたいです」
「後は斜面とかかしら?」
 オリビア・ゾディアック(gb2622)の言葉に大型の兵装を搭載した須磨井が頷く。
 須磨井は行動に制限のかかる兵装をあえて装備し、その状態のデータを記録するつもりなのだ。
 特別武装を装備していないオリビアの機体とは違い、行動に制限を受けている為オリビア機に追従するのは困難だ。
 しかしながら、元から行動能力が高い為か普段彼が用いているシュテルン、フェニックス等と言った高級機にも劣らない速度を発揮している。
 行動に制限を受ける状況においても、移動能力の高さに定評のあるワイバーンに匹敵するだけの速度を出す事は出来そうだ。
「陸上の速度面においても、かなりの能力を有しているようですね」
 観測役を買って出た守原有希(ga8582)が、装輪走行で滑るようにテスト地帯へと移動するXF−022を見ながら呟く。
「機体が機体だけに結構期待しているのですが」
 彼同様に機体の挙動をメモしながら、白岩 椛(gb3059)が踏ん張りの利かない砂漠においても、そうした様子を一切見せず、速度を落とさない挙動を示す2機を視界に捉えながら口を開く。
「‥‥今のは洒落じゃないですよ?」

 砂漠でのテストを終えた2機は続いて、泥濘を模したテストフィールドへと機体を向けた。
 こちらも砂漠同様、滑りやすい為に通常の機体ではバランスを取るのに一苦労する環境であるが、そうした環境においても歩行時の安定性能は高い。
「不整地での行動能力はなかなか高いみたいですね」
「多脚が最も得意としている環境ですからね。KVという全領域での戦闘を期待されている機体には多脚が最適と判断しました。2脚である事の一番大きなアドバンテージは格闘戦時の瞬発力にありますが、バランサーやバランスの制御にCPUの処理能力を大量に食う為に価格に大きな影響を与える一因にもなっているんです」
 相澤の言葉に、崔が多脚を採用した理由を述べる。
「なるほど、しかし脚部の整備性が心配ですね。数が多いですから、負担にもなりそうですし、一つ一つが細いので耐久性も少し気になる所です」
 双眼鏡で機体の脚部に特に注目しながら井出が懸念している点を述べた。
「確かに数は多いですが、他の機体とは異なり脚部は全て同じ物を採用しています。左右の違いもありませんから、部品の配置も同じです。構造は出来るだけ簡素にしましたの。耐久性に関しては、最低でも左右の脚部が1本づつ破損して4脚になっても戦闘行動に問題のないくらいの性能は与えてあります」
 そう回答され、井出は改めて脚部を観察する。
 他のKVでは航空機形態でのジェットエンジンを備えている事が多いが、XF−022の脚部は完全に陸戦時の移動装置としての役割のみ与えられている。
 数が多い事は確かに整備作業上の大きな負担にはなるだろうが、整備の煩雑さで知られるシュテルン等の高級機と比べれば幾らかは簡単になるように配慮が為されているようだ。
「整備士志望としては、煩雑になるのは気になる点ですが、左右の違いが無いのなら整備の手間は数が多い事だけになりますね」
  

 
 走行試験を終えた傭兵達は続いて空戦のテストを開始する。
「機体の操縦した感触はどうでした?」
「そうね、あくまで陸上での感想だけれど、操縦性能は良好だったわ。素直に反応してくれるし、HMDによる視界は生身で周囲を見渡すのと同じような感じだったわ」
 模擬空戦でXF−022に搭乗する守原の質問に、オリビアは機体の操縦感覚を思い出しながら自身の感想を告げる。
 空戦で敵役を務めるレールズ(ga5293)と須磨井の機体は既に準備が終了している。
 須磨井は自機の垂直離着陸能力を利用して先手を取って上昇する事を企図していたが、離陸時点から模擬戦を開始しては空中戦のデータ取得にならない為にその提案は不許可とされ、お互いにある程度の高度をとった後に激突するデフォルトの方式が採用された。
 戦闘機形態へと変形したXF−022の機体形状は「エイ」に似た独特の形状だ。
 外部から観察した限りではどこにコクピットが配置されているか判断出来ない。多くの機体が戦闘機形態時にはコクピット部を露出させているのとは大きくデザインが異なっている。
 強化アクリル樹脂で形成された風防はヘルメットワームのプロトン砲の前には紙に等しく、戦闘機形態の弱点となるコクピットが完全にメトロニウムの装甲で覆われている事は操縦者の生存率を大きく引き上げている。
「そういえば、あれの脱出装置ってどうなっているんです?」
「あ、確かに気になります。見た目だけだとよくわかりませんし」
 滑走路へと移動するXF−022を眺め、アトモス・ラインハルト(gb7934)がふと気づいたように質問をする。
 白岩も、傍目には空戦時に撃墜された場合の脱出方法が不明な点に同調した。 
 座席周囲を瞬間的にメトロニウムの装甲で覆うという手順が入るが、既存機は基本的に旧来の戦闘機に装備されている射出座席の形態を採用している。キャノピーの存在しないXF−022の脱出方法は確かに気になる点である。
「コクピットブロックは基本的に外部からの圧力を分散できるよう球形となっています。空戦形態時の脱出は上面装甲を強制排除してコクピット部が射出される形になりますね、旧来の脱出装置とは異なりコクピットブロックもきちんと装甲されていますから、脱出時にプロトン砲を1発2発浴びても耐え切れるだけの耐久力は確保しています」
「被撃墜時の生存性の向上は良いですね」
 
「さて、どの程度のものか。スペック上はクセの無い機体でしたが」
 高性能機として名を馳せるシュテルンのコクピットで、レールズは呟く。機体の性能と言うのはスペックが全てを決する訳ではない。
 例え機体の性能が高性能だとしても、操縦性やインターフェイスに難があれば、操縦時にその差が現れる。KVという量産を前提とした機体にとって、技量に優れたエースにしか扱えない機体と言うのは失敗作に等しい。
 先手を取ったのは守原の駆るXF−022だ。
 機体翼下に装備されたスナイパーライフルが火を噴き、大気を切り裂いて飛翔した弾丸が須磨井のロジーナに襲い掛かる。
 ロジーナは防御性能は高いものの機動性、運動性といった面では高いとは言えない。
 それなりに離れた距離からの模擬弾の直撃を受け装甲にペイントの赤い花が咲く、損傷は大きくは無い。コンピュータの判定によれば装甲の一部を弾き飛ばされた程度だ。
「攻撃時に特別なクセは無し、オリビアさんの言う通り素直に反応してくれますね」
 初めての搭乗にも関わらず、良く馴染んだ道具のような扱いやすさは開発陣が機体の追従性や操縦性に対して大きく留意したが故の性能だ。
 機体追従性の高さが数値データ上最もよく現れているのが行動力と呼ばれているものである。
 殆ど多くの機体が行動力の数値が3である。ロジーナのストームブリンガー等の特殊能力で機体を強引に追従させる事で、行動力を増やすシステムも存在するが、力技的な部分が大きく、燃料消費も激しい。
 それに対しXF−022は行動力は標準で4の数値に達している。その反面、機体性能を瞬間的に爆発的に引き上げるような特殊能力と呼ばれるシステムを搭載していないのだが。 
 追従性の高さを活かして次々と放たれる銃弾がロジーナの装甲を着実に削る。
「なるほど、一発一発は無改造では然程重くは無いですが‥‥連続でやられると装甲が持ちそうに無いですね」
 須磨井はダメージを確認すると、ロジーナのストームブリンガーを起動。
 一時的に強化された行動能力で、機体を航空形態の死角となるオリビア機後方へと移動させる。後ろを取られる事はKVにとっては攻撃できず、一方的な攻撃を受ける事を意味する。
 機敏に動き、離脱を図るオリビア機に照準を合わせ、7.65mm多連装機関砲のトリガーを引く。
 元は歩兵用の機関銃を束ねてKV用兵装としたその武装は、一度に大量の弾丸をばら撒くという性質から弾幕を張る事に適している。
 一度に大量に放たれる弾丸がオリビアの駆るXF−022に襲い掛かり、機体にペイント弾が命中した事を意味する塗料が付着する。
 一発一発のダメージは然程でもないが、大量に弾を浴びた事によるダメージは小さくは無いが、撃墜判定が下るほどではない。
 そこにレールズの駆るシュテルンが追撃に入る。
 ある程度距離を取ったまま、HUDにXF−022を収め、UK−10AAMを2連射。
 高レベルの改造が施されたシュテルンから放たれたミサイルが連続してXF−022に炸裂する。
「戦闘はあんまり得意じゃないのよね‥‥!」
 HMDに表示されるダメージは今の連射で一気に耐久力の40%近くを持っていかれた事を示している。
 戦闘能力に影響を与える程のダメージではないが、無視していいレベルでもない。
 一矢報いるべく、オリビアが機体を急旋回させる。
 狙いはレールズ機の後方。
 巧みな機動で背後を取られまいと動くレールズ機だが、高い行動能力に裏付けられたオリビア機の機動性の方が高い。
「取った!」
 オリビアの指が瞬間的にトリガーを弾く。
 同時に翼下に搭載された4発のミサイルが機体から切り離され、ロケットブースターに点火。白煙を引きながらレールズ機に次々と着弾。
 模擬ミサイル故に、実質的なダメージは無いが設定されたパラメータは8式螺旋弾頭ミサイルのもの。
 ショップで通常販売されているミサイルの中でも屈指の打撃力を誇るそれは、レールズ機に少なくないダメージを与える。
 そのオリビア機の後方に回り込もうとしている須磨井のロジーナだが、守原機からの連続攻撃に晒され中々上手くいかない。
「扱いやすさでは群を抜いていますね、最もヘルメットワームを相手にする場合は死角というものはないのですけれど」
 慣性制御を有するヘルメットワームは後ろに回り込もうとも、進行方向はそのままに即座に反転するという地球側兵器からみれば常識外の機動をしてくる。
 須磨井機の後方を捉えた状態で守原は高分子レーザーを連射。
 放たれた光条が正確にロジーナを捉え、撃墜判定が下される。
「‥‥無改造ではこんなものですかね」
 戦域から離脱しつつ、空に軌跡を描く3機を眺めて須磨井は呟く。
 須磨井機を撃墜して気を抜いた瞬間、守原の機体周囲が煙幕に包まれる。
 咄嗟に機体を翻して煙幕を抜けた守原機の側面をレールズ機が駆け抜けていく。
 翼端に目を向ければ、整備士泣かせといわれるソードウィングの刃が煌いていた。シュテルンの特殊能力と言われるPRMで命中を高めて煙幕内に突っ込んだレールズ。
 機体の性能と技量から考えれば守原の回避は困難だったが、幸運に恵まれていたのか咄嗟の行動が斬撃を避ける結果に繋がった。
 結局、空戦テストにおいては2対1の状況に追い込まれたレールズのシュテルンが長時間の戦闘の末撃墜されるという結果となった。
 防御性能も高い改造を施されていたレールズ機だったが、2対1という不利は覆しようも無くほぼ常時背後を取られ続けた故の結果だ。
「空中戦闘の性能悪くは無いと思います、上手く改造を施せば相当強力なユニットになりそうです」 
 斉天大聖を駆り、空戦の様子をメモしていた白岩が自身の感想を口にする。
「特別、弱点といえる物は無いと思います。逆に言えばその平べったさが弱点と言えそうですけれど‥‥」
 弱点の洗い出しを企図していた白岩だったが、突出した能力が無い代わりに低い能力も無いという性能に明確な弱点は見つけられなかった。
 

 続いて、最後のテストである模擬陸戦が行われる事となった。
 XF−022のテストに立候補したのは須磨井ただ1人、大して敵役に立候補したのはゼカリアを駆る井出とバイパーを駆るアトモスの二人。
 ニ対一では分が悪いという結果から、相澤が試作機に搭乗する事となり、残りは自らの機体を用いての観測に出る事となった。
 急遽搭乗が決定した相澤の武装は須磨井と同一の物が用意され、各々の準備が整った時点で模擬戦を行う場所へと移動する。
 戦場として設定されたのは、市街地を模したフィールドだ。障害物として建造物が幾らか建築されている。
「F−104リヒトドラッヘ 、アトモス・ラインハルト、模擬戦闘を開始するよ」
 開始宣言と同時にアトモスが動く。
 高所からの狙撃を企図したアトモスだったが、高所と呼べるものは建造物の上しかない。ビルの床はKVの重量を支えられるほど堅牢な物ではない。
 軍事基地などの堅牢な建造物であればまた別な話ではあるが、民間のビルにそこまでの強度を求めるのは酷と言えるだろう。
 それに思い至ったアトモスは、ひとまず僚機との連携を行うべく、井出と同時に進軍を開始した。
 市街地というフィールドは、レーダーがマトモに機能しない場所である。
 レーダーは電磁波の反射を捉えソレを画面上に表示するものであるが、建造物が林立する場所ではその建造物にレーダー波が反射される。
 よって、目視による捕捉が必須になるのだが、目視による視認も建造物に遮られ視界が開ける箇所はそう多くは無い。
 一番先に敵機を捉えたのは、井出だ。
 ゼカリアのコクピットは全周囲モニターを採用している為、視界は従来の機体に比べれば格段に広い。
 そうした意味ではXF−022も視界の広さは同一ではあるのだが、背面を向けていた為に井出に先に発見される事になった。
「敵機捕捉!」
 報告と同時にゼカリアの砲塔を旋回させ、D−502を放つ。
 瞬間、ビルの陰にXF−022が飛び込み弾丸を回避する。
 戦場は直線の街路となった。回避するには十字路で建造物を盾にするぐらいだが、相手に接近するにはそれも出来ない。更に攻撃するにも被弾を覚悟する必要がある。
 そうした意味ではゼカリアは最適のユニットと言えた。
 堅牢な装甲と耐久力を誇る井出のゼカリアが盾となり進軍、その後方からアトモス機が追従するという形を取ればある程度安全に進軍する事が出来る。
 対するXF−022は水準以上の装甲と耐久力は有しているが、あくまで水準以上であり、特筆すべき能力ではない。
 普通の機体が相手であれば優位に作用した点だろうが、陸戦最強とまで称される機体相手では不利となる点だった。しかしながら、それはあくまで撃ち合いを行った場合である。
「これは、一気に懐に入った方が良いな」
「そうですね、では此方が煙幕弾を発射しますので、それを合図に、私は隣の街路から後方に回ります」
 須磨井と相澤はお互い頷き、相澤機が煙幕弾を発射する。
 同時に加速した須磨井の機体が煙幕を障害としてゼカリアへと接近する。
「煙幕っ!」
 射撃体勢に入っていたアトモスが舌打ちし、スナイパーライフルではなくガトリングに切り替え乱射する。精密な射撃兵器であるライフルとは違い、弾幕を張る事が出来るガトリングは煙幕下においても有る程度の命中を期待することが出来る。
 刹那、煙幕の中から膨大な光が迸った。
 量産型M−12帯電粒子加速砲の光芒だ。
 目標を定めず放たれた為か、狙いは甘かったがゼカリアの側面を掠め、後方のビルにぶち当たる。本来の出力で撃っていたなら、ビルは瓦礫へと変じていただろうが訓練用出力の為、演出は派手だが実質的な攻撃力は無い。
 次の瞬間、煙幕を突き抜けるXF−022。
「1機だけ?」
 攻撃を加えながらも突き抜けてきたのが1機のみである事に井出は不審の念を抱く。
 実戦経験豊富な故の直感、瞬間機体が後方に敵機が存在する事を告げる警告音を発する。
 アトモスも警告音で、挟み撃ちにあった事を理解する。
「さてと、いきますか」
 ディフェンダーを携えた相澤がアトモスのバイパーに上段から斬りかかる。
 対応に後れたアトモスの機体装甲にペイントの跡が刻まれる。本来刃の部分が塗料を染み込ませたクッション素材に変わっている為、実質的なダメージは無いが、ダメージ判定は装甲を切り裂かれた事を示している。
 内部機器にまで損傷は及んでいない。
 XF−022のその特異な形状ゆえに格闘戦に不安を抱いていたものも居たが、それは杞憂だったようだ。
 形状の特異さから来る攻撃を警戒していたアトモスだったが、今の攻撃モーションを見る限り、比較的既存の機体に近い動きに見えた。
 武装の配置そのものは腕が前部に配置されている為に独特だが、それ以外では腕分の稼動域が広く設計されている為か割と普通だった。
 須磨井機と対峙する井出はシールドスピアの連撃を繰り出す。
 彼は陸戦におけるXF−022の回避性能や命中精度、耐久力などの基本となる性能を確認する為の攻撃だ。
「回避性能も耐久性も悪くは無いみたいですが‥‥」
 機敏な動きから井出はそう見るが、回避機動が限定される状況下では然程避ける事は出来ない。
 繰り出される幾度目かの突きを交わし様に須磨井がディフェンダーによる突きを放つ。
 高速で放たれる突きがゼカリアにヒットするが重量級の機体は揺るぎもしない、装甲にダメージを与える事は出来るのだが、内部に損傷を与える有効打が蓄積できない為、ゼカリアの受けているダメージは軽い。
 しかし、着実に蓄積していくダメージは井出に危機感を与えるには充分だった。
 手数では同じだが、初手の帯電粒子加速砲によるダメージと近接戦闘によってゼカリアの装甲にダメージが蓄積されおり、装甲が脆くなってきていると判定されているのだ。
「こっちも一方的にやられるわけにはいかないんでね」
 アトモスが言葉と共にバイパーのブースト空戦スタビライザーを起動する。
 空戦と名が付いているものの陸戦でも使用可能だ、ブラックボックス化されている為にその原理が不明だが一時的に機体の追従性を高めることが出来る。
 高まった行動力でアトモスはガトリングナックルを起動し、至近距離からの連射を叩き込む。
 拳という意表を持つ位置から放たれた銃弾が、次々と相澤の機体に着弾しペイントで機体を染め上げる。
「ダメージ判定8割越えですか、厄介な」
 蓄積していたダメージが今の一撃で危険域に入っていた、しかし対峙している相手もダメージの蓄積はなされている。
 勝ち目が無い訳ではない。彼の機体も帯電粒子加速砲を搭載している為行動力が低下していたが、それでも通常機と同程度の行動を起こす余裕がある。
 そう判断し、相澤はディフェンダーを振り下ろす。
 その攻撃をアトモスは回避するが、振り下ろされたディフェンダーが跳ね上がり、斬りあげる攻撃を回避できず直撃にバランスを崩す。
 崩れたバランスを立て直す前に更に横薙ぎに振るわれた刃が直撃し、ダメージ許容量が限界に達したと判断されたバイパーが撃墜判定となる。
 同時に井出と須磨井の戦闘も決着が付こうとしていた。
 ペイントの塗料で機体を染めた須磨井のXF−022に、シールドスピアが当たり活動を停止する。
 蓄積されたダメージに耐え切れなかったと判断されたようだ。
 激戦を制し、残存する相澤機に相対した瞬間、相澤機から放たれた帯電粒子加速砲の膨大な光の奔流がゼカリアを貫いた。
 その一撃が決め手となり、ゼカリアもまた活動を停止する。


 一通りの試験を終えて会議室へと集まった傭兵達は模擬戦や走行試験の結果を元に自身の意見を述べていく。
「え〜と、目だった欠点は無く、良く纏まった機体だと思います。行動力が高いのは色んな場面で役に立ちますし」
 一通り状況を確認していた白岩がまず口を開いた。
「そうね、後は不整地‥‥山岳とか砂漠、ぬかるみといった今までの機体では走行が困難な場所でも速度を維持できるというのは利点になるわ」
 その言葉にオリビアが同意する。
 傭兵側の意見としては、可も無く不可も無く、まさに「普通に扱いやすい」というのが結論のようだ。
「初心者でも熟練者でも充分に使いこなせるのは利点でしょうね、操縦者を選ばないと言えばいいでしょうか? あらゆる状況に対応できるという点も含めて」
「ただ、アクセサリで性能を調整するという案はコンセプトとしては良いのですが、前例を考えると難しいかもしれません」
 相澤が感想を語り終えると、レールズが機体のコンセプトに踏み込む。
 彼の言葉はULTショップの流通体制についてだった。全ての種類が通常販売されるのならともかく、現行の流通体制を考慮すると全てが店頭に並ぶ可能性が低く、特別支給品で狙ったパーツを揃えるのは難しく、状況対応の為に複数揃えるのが困難というのがその理由だ。
「ああ、確かにそれは言えるかもしれない」
 レールズの言葉に傭兵達が頷く。
「まぁ、そこは調整してもらうとして、脚の使い方ですが、単純な歩行装置としてだけでなく、砲撃戦時のアウトリガーやビル街で高速移動する際に一本づつの脚をガイドローラーとして使えないでしょうか?」
「それらは可能ですね、現行ではソフトウェアの改装で対応できますし。ただガイドローラーはともかく、砲撃安定性はよほど反動の強いの砲を使用しない限り、問題ありません。少なくとも現時点で流通しているものに限った話ですけれど、恐らく今後も反動の強すぎる砲は市場に出ないでしょうね。使える機体が限定されるような装備は基本的に採用されませんし」
 守原の言葉に崔が頷きつつ、姿勢安定装置はあまり必要性が無い点を指摘する。
 しかし、傾斜面における戦闘では有用な可能性もある為に検討事項となった。同様にレールズの流通面を考えると難しいというコメントも考慮対象となる。
「推奨武装ですが、地上用のマルチロックミサイルや、カートリッジ式の大火力のエネルギー砲は出来ないでしょうか?」
「マルチロックミサイルを作る事は問題なく出来ます、最も照準装置やFCSが高価になってしまい費用対効果が悪いという事や、色々な問題でなかなか納品できないんですけどね」
 レールズの武装案に 崔が苦笑を返す。
 一方のカートリッジ式のエネルギー砲は帯電粒子加速砲運用プラットホームであるXA−019用の主砲の技術を転用すれば、充分に可能であると回答する。
「普通なら行動を阻害するような重量や大型の火砲でも、充分に扱える事が出来る性能を持っていますから、まずはそういったものがあるといいと思います」
「そうね、エネルギーキャノン‥‥大型の帯電粒子加速砲とかそういうのが合うと思うわ。別に物理系でも構わないんだけど」
 レールズが提示した大火力砲の案に守原とオリビアが頷く。
 両名共に通常機なら敬遠されがちな大型かつ大重量で行動制限を受けるような砲を積極活用できる点を強調する。
「格闘武器なら刀剣類よりは槍が向いてるんじゃないでしょうか、後は増加装甲も似合いそうですね」   
 続けて述べた守原のように、槍が向いていると考える傭兵は多いようだ。
「俺が思うに、腕は人型の方が良いと思いますね、人型の方がデザインが良いですし‥‥あまり異形すぎる外見は士気に影響します。後は装甲を強化できれば良いと思うのですが」
「そこは再設計で検討しますが、性能を上げれば価格が上昇しますから難しいですね。腕の形状は一つの案として検討しますね」

 
 須磨井から提出された機体愛称案である「二郎真君」「清源妙道真君」を頭の隅で検討しつつ、白岩の提出したレポートに目を走らせていた崔の元に衝撃的な報告が届いたのはテストから数日が経過した日の事だった。
 銀河重工が発表したシラヌイのスペックがその報告の正体である。
「‥‥これ、性能モロ被りじゃない」
 細かいスペックや行動能力面こそ異なる物の、大体のラインではXF−022とシラヌイは非常に似通った性質を有していた。
 扱いやすくクセの無い機体という表面上のラインがあまりに似ていては、同じ機体があっても意味が無いとULTに採用されない見通しが高い。
 試作段階である為に特化型に設計変更をするという手もあるが、それではあまりに差が大きすぎ、別の機体になる。
 結局、XF−022は本社上層部で今後どうするかが問われる自体となった。