タイトル:奉天社新型機意見募集会マスター:左月一車

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 16 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/07 01:01

●オープニング本文


 ナイトフォーゲル開発において奉天北方工業公司が得意としてきた低価格KVの開発方針は、ULTの方針転換に伴い大きな変化を強いられる事となった。
 NMV計画に代表されるように、ULT側から提示されたプランに沿うKVを開発するというのが今後の主要な方針となる。
 その為、低価格機だけでなく、高級機の開発もまた視野に入れる必要が出てきた。
 現時点で、奉天社が完成させた機体に西王母と呼ばれる補給機能を搭載した機体がある。
 KVとしては最大級の大きさを誇る機体だが、その特性上ULTが「支援機」を要求しない限り販売の目処が立たない。
 だからといって、ULT側からプランが提出されるまで、開発陣を遊ばせておくのは惜しい。

 奉天社上層部は上記の問題に対して、機体の開発プランをUPC軍ではなく、傭兵から募る事で多様な試作機を開発するという決断を下した。
 開発済みの機体が多ければ、ULTから提示されたプランに迅速に対応する事が出来るからだ。
 最も開発に伴い生じる多大なコストが無駄になる可能性は捨てきれない。
 その点を指摘された代表取締役の趙 静蕾はこう述べたという。
「この戦争に勝たねば、社としていくら利益を上げても意味が無い。ならば多少の損害には目を瞑るべきじゃないかね?」

 傭兵から意見を募る前に、開発陣から急遽2つのプランが提出された。
 まず一つは、西王母の改修案である。
 30m級の大型機体となる西王母は、補給システムを取り外せば重量面でかなりの融通が利く。
 そこで、高火力の兵装ながら制限が大きく運用しづらい「帯電粒子加速砲運用プラットフォーム」としての機体だ。
 大量の燃料と、リチャージ時間を短縮する装置を組み合わせる事で、扱いづらい武装を扱いやすくするという方針の下、提案された機体だ。
 ベースに西王母を用いる為、開発に時間を要さない事も利点となる。
 
 もう一つが、機体特殊能力を有さない機体である。
 機体特殊能力はKVを特徴づけるものであるが、反面使いどころが限定されるものが多い。
 ならば、いっそ機体特殊能力を外してその分を機体性能に割り振れば良い。
 同様のプランは中国UPC軍向けに納入されている軍用KV「蛟」にも採用されているが、その方針を引き継いだ新型機を生産するプランである。
 プランでは機体性能は抑えめながら、従来機より更に扱いやすく追従性の高い機体として設計されていた。


 それらの情報と共に掲示された依頼内容は、上記の案以外にも自分達が「要求する」機体を自由に述べてもらうという依頼である。

●参加者一覧

/ 白鐘剣一郎(ga0184) / 榊 兵衛(ga0388) / 篠崎 公司(ga2413) / レールズ(ga5293) / 井出 一真(ga6977) / L45・ヴィネ(ga7285) / 砕牙 九郎(ga7366) / ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280) / 櫻杜・眞耶(ga8467) / 守原有希(ga8582) / チェスター・ハインツ(gb1950) / 須磨井 礼二(gb2034) / 白岩 椛(gb3059) / アーク・ウイング(gb4432) / 獅子河馬(gb5095) / 秋津玲司(gb5395

●リプレイ本文

 ラストホープ内奉天支社。
 そのうちの一室である、第2会議室に16人の傭兵が集まった。
 目的は、奉天社が今後手がける事となる新型のナイトフォーゲルについて忌憚の無い意見を述べる事である。
 会議を取り仕切るのは、奉天社KV開発の顔とも言える崔 銀雪(gz0103)である。
 今回の会議においては、単純に各々がどのような機体を求めるのかであり、機種を絞っての意見を求めていたこれまでのものとは異なる。
 更に、奉天社の特徴でもある安価という点を考慮に入れない事もこれまでの奉天の姿勢とは異なっていた。

 まず意見を述べたのは白鐘剣一郎(ga0184)。
「これは正規採用向けの提案にはならないかもしれないが‥‥」
 最初にそう断りを入れてから述べた彼の提案は「輸送機」である。
 その理由として挙げられたのが、重要な物資移送に際して用いられる輸送機の脚の遅さである。
 バグア軍主力機であるヘルメットワームの巡航速度は音速を超える、最高速度に至ってはマッハ6を越える。
 対して、輸送任務に主に仕様されているC−130の最高速度は620km。
 重要物資移送に使用されるガリーニンでも最高速度はマッハ0.7。時速換算で約860kmである。
 輸送機の速度が遅く、ヘルメットワームに捕捉されてしまえば基本的に逃げ切れない事を白鐘は述べた。
 過去、鹵獲したファームライドやG4弾頭輸送時にそうした問題点は幾度も表出していた。
「只、輸送の為に新規の機体を開発するのは現実的ではなく、こうした提案は今まで出来なかった。しかし、プラットフォームの構想があるのなら検討してみる価値はあると思う」
「つまり、西王母を母体とした輸送機、という事ですね」
 奉天社開発の西王母は、KVとしては初の補給機能を搭載した機体である。前線での弾薬や燃料補給を可能とする事で、他のKVの継戦能力を高める目的で開発された機体だ。
 機体そのものは既に完成していたが、UPCのKV採用方針の転換に伴い、支援機に関してのコンペティションが開催されない限りは採用の見込みが取れなくなっている。
 その西王母だが、補給機能を取り外せば膨大な搭載力を有する機体となる。
 白鐘はそこに目をつけていた。
「そうだ、具体案としてはこんな感じを想定している」
 そう言って、白鐘が述べた案はこのような感じだ。
 まず、輸送任務に特化するために、変形機構は簡略化、あるいは撤廃。これは高速輸送機において陸上での行動は求められない事がその理由となる。
 輸送能力に関して言えばKV1.5〜2機程度の輸送能力、VTOL機能の付加、必要充分な自衛能力と耐久性能。及び電子支援能力を兼ね備えた特殊電子波長装置。
 そして、最も重要な事としてKVに追随できる飛行速度とブースト速度を兼ね備える必要。
「思ったより盛り沢山な内容となったが、実用面と突き合わせて絞り込んではどうだろうか、特殊電子波長装置を組み込んだのは輸送以外に支援戦力としての活用を意図している」
「KVの輸送能力ですか」
 傍らに西王母のスペックデータを呼び出し、崔は簡単に試算を行う。
「データ面では不可能ではないですが‥‥傭兵向けの機体というよりは、やはり正規軍向けの機体となりますね。巡航速度だけを高めた輸送型という事なら、非能力者向けの量産も可能です」
 超音速の戦闘において、能力者と非能力者の大きな違いは能力者のほうが耐G適正が大きく高い事だが、非能力者でも耐えられるGで加速し続ければ到達速度はKVに追随する事が可能なまでに高まる。

 続いて口を開いたのはヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)だ。彼は西王母をベースとした機体に関して3つプランを提案する。
 一つは長距離砲撃型だ。
 砲撃型のKVとしては、ゼカリアとスピリットゴーストが存在する。その両機とも比較的近距離での砲撃戦闘を得意としている。砲弾へのSESのエネルギー付加は時間によって低下する。
 充分なフォースフィールド貫通性能を維持できる距離は、実際に砲弾が飛ぶ距離と比較すればかなりの短距離となる。設計次第で長時間のエネルギー付加も不可能ではないが、その分瞬間の威力が下がる事となる。
「固定兵装式で、戦闘速度においての射程を30〜40程度。固定目標への曲射で数km単位での砲撃ができる後方支援兼対拠点砲撃用はできないかな?」
「出来るか出来ないかといえば、不可能ではないです。ただ、それだけの長射程の射撃及び射撃管制装置を実現するには、かなりの予算がかかりそうですね」 
 次に提案されたのは、近接戦闘仕様である。
 アースクエイクのような大型の敵をねじ伏せる事を目的としたもので、大型機であるが故に得られる防御力と火力を活かして正面から力で勝つ事を主眼としている。
 近接戦闘向けのKVにはミカガミやアヌビス、阿修羅といった機体が存在する。
 しかしながら、そのいずれの機体も防御性能ではなく回避性能を重視した機体として仕上がっており、重装甲の機体とはお世辞にも言えない。
「積載量を減らし、その分を装甲・火力に振り分ければそうした機体を作る事も可能です。アニメでいう、スーパーロボットに分類されるでしょうか?」
 可能ではあるが、装甲を厚くすれば高価なメトロニウム装甲を多数使用する事となり、それなりの高額化は免れない。
 次にデュノフガリオが提案したのは、重積載型である。
 重量や大きさの関係から、KVの行動に制限のかかってきた武装を、その機体の大きさを活かして扱いやすくするというものだ。
 その代表的なものにディハイングブレードなどがあるだろう。威力は折り紙つきながら、通常のKVには巨大かつ重すぎ、敬遠されてきた武装は多い。
 それらの行動制限を外す事を目的としている。
「それは‥‥不可能とは言いません。しかしながら、難しいかもしれませんね。西王母を流用するよりは、新規設計した方がフレーム強度等の関連で良いでしょう」
「なるほど、あ、機体の名前は火具土を提案するよ。やっぱり大きな機体だし、力強そうなのがいいかな〜って、奉天の機体はあんまり攻撃的なのが出てないよね? ここらでどーんとインパクトのあるやつ出しておくといいと思うんだ」
 
「西王母を母体とした機体としては重装型の電子支援機というのもアリだと思います」
 秋津玲司(gb5395)が述べた案は奉天製が得意とする電子支援性能を機体キャパシティを活かし更に高める提案だ。
 従来よりも大出力のもを搭載し、重装甲と火力面の強化を施す事で前線での運用を視野に入れている。
 機体の巨大さから来る回避性能の低さを重装甲で補う形だ。
 かつて、ユニバースナイト三番艦搭載の特殊電子波長装置のテストベッドにも用いられた経緯を持つ機体だけに、実現は充分可能となる。

 彼に続いて奉天側から例として提示された、西王母を母体とした帯電粒子加速砲運用プラットフォームについての意見がかわされる。
 シェイドやステアー、ギガワームといったバグア側の堅牢な機体に有効打を与えられる武装でありながら、過大な重量やリロードに要する時間の観点から扱いにくい帯電粒子加速砲の運用に特化させた機体だ。
 積載量をリチャージや必要な燃料に振り分ける事で運用リスクを減らした知覚砲台とも言うべき機体である。
「システム面に関しては、リチャージの為に必要なエネルギーをカートリッジにチャージするタイプを提案する」
 篠崎 公司(ga2413)の提案の概要はこうだ。
 複数のカートリッジへ同時にゆっくりとチャージを行い、射撃毎にチャージ済みのカートリッジを使用するタイプだ。
 状況により、複数カートリッジの組み合わせで一撃の威力を高める事も可能としている。
「複数同時チャージですか、単基への高速のチャージタイプの方が価格や積載量の面では有効となりますね」
「それは開発陣の裁量でしょうな。チャージ速度とチャージ済のカートリッジ、安定した射撃、積載量のバランス、ですね」
 性能面についての意見を述べたのは秋津だ。
「帯電粒子加速砲は強力ですが、使いづらい武装です。その為、こうした機体の開発はとても有効だと思います」
 そう言ってから彼が意見を述べる。
 重視する能力として射撃に要する燃料、及び当てる為に必要となる命中精度だ。
 当てられなければ意味は無いし、数が撃てなくてはわざわざ専用の機体を用意する必要は無い。
「大型機ですから回避は切り捨てても構わないですね、その分防御や抵抗を重視した方が結果的に良い機体になりそうです」
「命中精度の部分だけど、アーちゃんは偵察用カメラとか特殊電子波長装置が使えないかなって思うんだ」
 アーク・ウイング(gb4432)は秋津の言葉が終わると同時に手を挙げた。
「ええっとね、特殊電子波長装置βの逆探知機能は策敵に使えるし、偵察用カメラを改良すれば、光学照準器として役に立つと思うんだ」
「偵察用カメラを転用した光学照準器ですか。確かにバグア側のジャミングの影響でレーダー式のものより長距離の照準器としては有効ですね、ただ環境に大きく左右されるのが難点です」
 光学照準器は晴天であれば、全ての性能を発揮できる反面、雨天や夜間など視界に影響のでる環境であればその性能は大きく低下する。
 その為、基本的に照準システムのサブシステムとして使われる事が多い。
 ウイングの提案はサブシステムではなくメインシステムとしての使用の提案と、照準器と特殊電子波長装置を連携させる事だ。
「そっか、あ、後ね、垂直離着陸能力は欲しいかなって思うんだ、移動で便利だなって思ったからかな」
「垂直離着陸機能の要望は多いようですね、問題は垂直離着陸機能を追加するにはエンジンを換装する必要が出る事ですね。積み替えそのものはさしたる手間はかかりませんが、価格面にデメリットが生じます」
 なるほど、とウイングが頷く。
「砲台化するなら、やっぱ積載量も必要だよな?」
 意見を黙って聞いていた砕牙 九朗がうんうんと頷きつつ述べる。
「さっきウイングが言ってたように、やっぱ確実に当てなきゃ意味が無いから、スナイパースコープみたいなシステムにすればいいんじゃないかな?」
「アクセサリとしての補助的な射撃管制装置ですか、それなら主要なモノにはなりませんから、いけるかもしれませんね。
 続けて、井出 一真(ga6977)が口を開く。
「帯電粒子加速砲のプラットフォームとするなら‥‥機体価格の上昇は覚悟の上で、内蔵化するのは如何でしょう?」
 その理由として、比較的扱いやすい帯電粒子加速砲の流通量の問題を指摘し、機体のコンセプトを活かせる人間が限られてしまう可能性を問題視していた。
「内蔵兵装化すれば、武装面の問題は解決できますし、よりこの機体の特色が濃くなるのではないかと考えます」
「帯電粒子加速砲ですか、ドローム社の製品の技術解析で大まかな構造や理論はこちらでも把握していますので、技術上の問題は無いですね」
 そこで須磨井 礼二が口を開いた。
「元となる西王母も有効な機体なんだよね、そっちを基本形にしてバージョンアップみたいな方法で変更するのはできないかな? コンセプト的に物理砲戦型のスピリットゴーストと被りますし」
「うちもその方が良いと思う、プラットフォームとしての機体を販売し、どちらにするか注文に応じて納品という形にできればいいかなと思う」
 須磨井の提案に、守原有希(ga8582)が頷く。

「やっぱり、基本となる西王母に関しても、コンベンションという形での実装試験になるんでしょうか?」
 熱心にメモを取っていた櫻杜・眞耶(ga8467)が顔を上げた。
 彼女は補給機である西王母に強い思い入れがある為、今回の依頼に参加していた。
「そうですね、やはり今までとは異なる方式が取り入れられた為に、基本的な流れとしてはどうしてもコンベンションが必要になります。一応西王母は以前の意見を元に改装を施し、艦隊防空用のイージスシステムを簡易化したもの等の搭載も終わっているのですが‥‥」

 続いて述べられたのは、同じくプランとして提出された「特殊能力を有さない機体」である。
 機体特殊能力をあえて搭載せずに扱いやすさや追従性といった面に重点を置いた設計の為、理論上は今までのKVよりも行動能力を高める事に成功している。
「機体の行動能力が既存の機体を上回るという事は行動の幅が広がる事に繋がる。そして、強力でありながら機体行動が阻害される事から使用を躊躇っていた兵装の運用が容易になるだろう。そうした面から、是非完成させて貰いたい機体だな」
 榊兵衛(gb0388)がそう言って、機体性能面に関しての意見を述べる。
 彼の案は、いわば主力となる機体に求められるであろう能力としての意味があった。
 機体の行動能力を攻撃の機会を多く得られる事と考え、確実に敵戦力を削ぐ事を目的とした能力バランスは、回避と命中に特に重点を振った機体プランである。
 物理、非物理の両立が望ましい反面、価格の高騰を招く以上、知覚を斬り捨てる事を視野に入れている。
「機体特殊能力をオミットする分、可能な限り基本性能は高く設定して欲しい。その度合いで中堅機として売り出すか、高級機となるかが決まるだろうしな」
「性能面に関しては価格との兼ね合いになりますが、UPCの求める仕様に準じる形での開発を視野に入れています。中堅、高級機双方の試作開発は今回の依頼の結果で開始しますので」
「なるほど、追加装備として斉天大聖と似たタイプの垂直離着陸機能の付加はできるだろうか? 行動能力との相性、迅速な展開能力がウリになると思うんだが」
「斉天大聖のエンジンでは、おそらく推力重量比の面で垂直離着陸に関しては難しいかもしれませんが、双発機あるいは新造のエンジンを用いれば不可能ではないですね」
 続いて井出も機体性能に関しての言及を行う。
「個人的にはこちらに力を注ぐのがいいと思います。コスト関係が分からないのでなんとも言えませんが、今回のNMVラインの機体なら充分な基本性能を得られると思います。行動能力の面は充分にウリとなる面ですから、それを活かす為の機体性能の追求をするべきかと」
 井出は具体例として、翔幻を挙げた。
「あの機体の性能はなかなかのモノだと思います。あの性能を維持しつつ、弱点であった積載量や耐久力を強化すれば、今までに無かった奉天製の主力KVといえる機体になるのではないでしょうか?」
「行動能力が高い機体は今まで無かったから面白いかも知れないな、特殊能力がない分、耐久性や生存性を優先させたつくりでやれば乗り換えがし易くなる。あとは白兵戦が好きな傭兵は個人的に多いと感じるから、攻撃能力が高い方が売れるんじゃないかな?」
 砕牙の考えもいわゆる主力機としての提案となる。
「生存性に関してですが、今後の廉価機以外に関しては従来の戦闘機型のコクピット形式ではなく、コクピットブロックという形を取る予定となります。風防を用いたコクピット形式ではその部位が弱点となる為、機体中枢にコクピットブロックを配置し、外部映像はHMD型のバイザーに投影する方式を採る予定です」
「MSIのゼカリアみたいな感じかな?」
「ゼカリアはコクピット内の壁面をモニターとして利用する方式な為、若干の差異はありますが、形式としては似た形ですね」
 ふむふむと砕牙が頷くと、続いてチェスター・ハインツ(gb1950)が口を開く。
「全体的な性能ですが、基本性能は高い数値を維持し、バランス良く仕上げるのが良いと思います。勿論、同価格帯の機体に全ての性能で勝るというのは難しいでしょうから、機体の長所以外では勝っているように仕上げられればいいのではと考えます」
 そう言ってチェスターはロビンやディアブロ、ワイバーン等各性能に特化した機体を例に挙げる。
「言わば、機体の基本能力が完全に平均的な機体ですね。基礎性能に関してだけ言えば特徴が無いのが特徴が良いですね。後は機体性能の底上げや調整の面から考えてアクセサリスロットは出来るだけ多いほうが望ましいです」
「その他の性能に関しては何かありますか?」
「そうですね、移動性能に関しては行動能力である程度カバーできますから3あれば充分でしょう。抑える事で他の性能を引き上げられるのならそちらを優先して欲しいですね」
 更にチェスターは価格や装備面にも意見を述べた。
 価格帯に関しては200万台。いわゆる中堅機と呼ばれる水準を希望する、高水準の性能を維持できかつ入手が比較的容易な価格帯であれば、顧客を確保できるはずというのがその理由だ。
 装備に関しても、ブースト以外では錬力の消費は非常に少ない事から錬力消費型の高威力兵装を求めている。
「後は、やはり斉天大聖のように標準機能としてのVTOL性能は欲しいですね」
 チェスターに続いて意見を述べたのは白岩 椛(gb3059)。
 他社の開発依頼にも幾度か参加している彼女としては、どの社も特色があって面白いと考えていた。
「簡単に調べましたが、行動値にマイナスの補正がかかる武器は物理、非物理の双方にそれなりの数があるようです。ですから、どちらかに特化させるよりも、近似している数値にするのが良いと考えます。特に代表的なのは射撃武器で言えば220mmロケットランチャーや試作型帯電粒子加速砲などでしょうか」
 更に白岩は性能面に関しては、行動能力が他のKVより高いという事が特殊能力になっていると考え、奉天社の予算内でギリギリまで性能を突き詰め、高水準で纏まった性能を維持できれば、行動能力の高さと相まって、主力機としての立ち位置を得られると考えた。
「やはり価格帯は、100〜200万。中堅の価格帯が理想的ですね。この価格帯の特色としては予備機、あるいは主力機双方に需要のある価格帯になりますから」
「この機体に向いている武器は、やはりリロード可能な連射方の銃器でしょうね」
 井出はそうしたマシンガンやバルカンといった連射可能な銃火器を推奨武装として開発して欲しいと提案した。

 続いて、完全にオリジナルとなる独自の機体案を考えてきたレールズ(ga5293)とL45・ヴィネ(ga7285)が意見を述べた。
 彼等二人の考えた機体の形状は比較的似通っていたが運用方針が異なっていた。
 人型形態における多脚機の構想だ。阿修羅やワイバーンのように動物をモチーフとした4脚ではなく、昆虫のような脚部を求めていた。
「北中央軍のフェニックス、欧州のユーロファイター、何れも素晴らしい機体でしょう。しかし、広大な戦場を有し、気候風土も多様なアジアでそれらが通用するでしょうか!」
 レールズは力を込めて自身の機体案の有用性を主張する。
「アジアの失地回復において最大の障害となるのはその地形の多様性にあると考えます。山岳、市街地、ジャングルそれらの地形に対し、多脚機が最も得意とする場所となります」
 彼の提案した機体形状は上半身を360度旋回可能にしたものだ。
 その利点として近接白兵戦の対応及び、獣型や人型機が有する進行方向に関係しない死角の排除が可能な点をレールズは挙げる。
 更に多脚機の利点として、重量が分散する事による積載重量の増加を挙げる。
 積載可能重量が上がれば、重装甲、大型エンジン、積載力を得られる。
「特殊能力としては奉天社が得意とする電子戦ノウハウを活かした戦術データリンクシステムなどはできないでしょうか? ロックオンしている敵機の情報をリアルタイムでリンクさせる事でパフォーマンスの増大を図るものです」
「出来なくはないですが、同様のシステムを備えた機体が複数必要になる為、先の輸送機のように傭兵向けの機体にはなりませんね」
「難しいのであれば、他のメガコーポと技術提携してより攻撃的な特殊能力が欲しいですね。以前のファームライドのようにバグア技術の解析を待つという手もあると思いますが‥‥機体名ですが、アジアの夜明けともなる機体という想いを込めて、破暁という名を提案します」
 レールズの提案した機体が攻撃役としての機体であったが、L45が提案した機体は、補助側の機体と言えた。
「不整地適応性の高い多脚機構、多脚により車高を低く抑える事が出来る点を活かし、偵察・工作に適したKVを提案する。車高が低くなれば、偵察や戦場工作など、直接戦闘以外でも力を発揮できるからだ」
 現状のKVは人型を模した形状が多いが為に、車高が高く、遠距離から敵に視認されやすいという欠点を抱えている。
 L45の提案はそうした車高の高さによる目立ちやすさを多脚化にて抑える事を目的としていた。
「形状は人型の上半身の下に、放射状に6本の脚を配置。可能ならレールズの提案にあったように、360度の旋回機構と下半身の向きを変えずに方向転換が可能となれば、狭小な地域での行動も円滑になると考える。飛行形態への変形は下半身に推進系を集中配置する事で、垂直離着陸機能を付加する事はできないだろうか?」
「不可能ではありませんし、面白い機体だと思います。性能面に関しての提案はありますか? 機体の性格的に戦闘能力を重視した機体という形では無さそうですが」
 崔の言葉にL45は一つ頷いてから口を開く。
「性能面に関して言えば、バランスを重視‥‥したいところだが、防御性能や生存性能を重視したい。機体特殊能力としては、垂直離着陸機構、特殊電子波長装置βなどの逆探知機能を備えれば、補助に役立つと考える」
「多脚なら、大型砲発射時の反動制御も他の機体と比べればラクかもしれないな」
 黙って聞いていた砕牙がL45の言葉が終わると同時に、思いついた言葉を口にした。
「確かに反動制御に関しては2脚の機体よりは優れていますね」
「うちもレールズさんの案は興味深いと思います。不整地に強い機体はアジア以外にも砂漠や山岳地帯の奪還に必要になりますから」
 守原も頷いた。

「他の新型の案としては僕はこういう機体が欲しい」
 そういって須磨井が提示した案は空海両用の機体だ。
 現状のKVはほとんどが空と陸、陸と海であり、空と海を繋ぐ機体は存在しない。
「空を飛んで作戦海域に移動して着水・潜行、空への離陸ができる機体があると、マンタワームに代表される水中航行能力及び、飛行能力を有するヘルメットワームにも対応出来るようになります」
「そうですね、不可能な案とは言えませんが、垂直離着陸機能を有するエンジンと、水中用の推進機関の双方を用意する必要が出てきますね」
 エンジンだけでも2種の異なるエンジンを積む事は価格の大きな増大に繋がる事が欠点だ。
「若干の高額化は仕方ないですね。水中での形態はエビ、ザリガニのような形にする事で変形機構を簡略化。あと先ほど話しに出た新型のコクピットシステムは空間戦闘のほか格闘戦にも向いていると思うので、水中用の如意金箍棒システムを仕込んだクローを固定武装化するのはどうでしょう?」
「水中機に如意金箍棒システムを搭載する案はうちも賛成ですわ」
 守原が頷く。
 水中において人型形態では強力な武装であるレーザクローなどが使える反面移動速度が大幅に低下する欠点を有している。そこで、白兵戦武器の射程を延長する事ができる如意金箍棒システムが活きてくるというのが守原の主張だ。
 更に潜舵のブレード化や機体バランスの提案を行った。
 彼が主張した機体のバランスは水中用で強力な非物理兵器であるレーザークローを主軸に据え、知覚力を重視した重装甲機だ。
 守原の言葉に須磨井が頷き、言葉を続ける。
「そうですね。後は行動値はやはりそれなりのものは欲しいです、奉天社には水中機の経験が無いかもしれませんが、可能なら検討をお願いします」

「俺は3つほど案を考えてきました、一部被る内容もあるが‥‥」
 そう言って獅子河馬(gb5095)が提案した内容はこうだ。
 攻撃系の能力を捨て、防御・回避に特化した暗号通信士専用機。
 大規模作戦において重要な役割を担う暗号通信士は通信量が通常の機体より狙われやすい、それを考慮しての提案だった。
「なるほど、確かにそうした機体の必要性はありますが、専用機は必要とされる方が少数と限られる以上、なるべくなら他の機体の流用で済ませたいところです」
「そうですか、先ほど白鐘さんが述べたように2、3機の友軍機を運搬可能な機体は俺もあれば良いと思う。航空機能の無い、例えばゼカリア等を牽引して空中から空挺戦車のように使えると奇襲も出来るのではないかと思う。あとは大破して行動不能になった機体の回収などだな」
 獅子は更に言葉を続けた。
「最後の案だが、推進機能を強化し、超高高度や成層圏仕様の機体は作れないだろうか? バグア本星からの輸送ルート阻止等に使えるのではないかと思うが」
「成層圏仕様は現状非常に難しいですね」
 そう言って、崔は何故難しいのかを告げる。
 高高度においては空気が非常に薄くなる。それは同時にSESに必要な水素も少なくなる事を意味している。SES機関が駆動できなければ、KVの戦闘能力は大幅に低下する。
 更に空気が無いという事は揚力を得られず、力任せに推進剤を消費して飛ぶ事が前提となる上に、姿勢制御や機動が宇宙機に近くなる。
 結果として機体があまりに局地仕様になりすぎるのが問題だった。
「いつかは、本星攻略の為にそうした機体‥‥宇宙空間に対応できるだけの機体も必要になるかもしれません。しかし現状ではそうしたオーダーがUPCから来る事は無いと思います」

 一通り機体についての提案がなされた後、櫻杜が発言する。
 彼女の提案は西王母等の大型機に搭載するクレーンだ。
「クレーンゲームのクレーンのような形で、移動が困難な重量物‥‥物資コンテナや弾薬コンテナ等を輸送できるものがあれば良いですね。ただ、西王母が以前同様に多脚機でそうした運用が可能なら必要は無いのですが」
「西王母の陸戦形態が、現状では簡易的な多脚機である事は以前の開発依頼で示しましたが、あれは空中補給時に他のKVを固定するために用いるものを陸上歩行に用いるもので、さほど器用な事は出来ません。KV用クレーンに関しては一応検討させていただきますが、難しいかも知れません」
 クレーンの耐久性などにもよるが、あまりに大型のものを積めば重量が増大し行動能力に悪影響を与えうる。かといって華奢なものを配置しても意味が薄いのだ。
 続いて意見を述べたのは白岩。
「他の開発室で開発が進められている、KVの状態をリアルタイムに把握するソフトウェアを搭載した指揮官機のような機体が作れないでしょうか? ソフトウェアさえ出来れば様々な機体にインストールする事で、汎用的に活かせると思います。基本的にハードウェアが優先されると思いますが、ソフトウェアにも目を向けてもらえれば嬉しいです」
「ソフトウェア面も重要な事ではありますね、現状そちらの開発にも予算を割り振るよう交渉させて頂きます」
「確か、欲しい武器の提案もしていいんだったかな?」
 そう告げてから、砕牙が幾つかの武装案を提案する。
 その一つは、弾頭が敵に刺さってから爆発するバズーカ砲。ゴーレム等に代表される装甲目標に対しての高い火力を期待した兵装である。
 もう一つは、リボルバーグレネード。連射が可能なグレネード砲として、キメラ等の群れを目標としたもの。
「最後は俺の趣味になるんだが‥‥KV用のリボルバーが欲しい。KV用のマグナム弾を利用して、近距離用高威力の銃だな」
「コンセプト案として、他社でも提案したものなのですが、特殊能力を専用武装パックとしたベーシックな機体に、様々な特殊能力や性能強化を与える武装パックを装備する事で多様な環境、局面に対応できるものはどうでしょうか?」
 砕牙の跡に井出が意見を述べる。
「武装パック案ですが、それは現状難しいんです。基本的にUPCが求めている武装が、全てのKVに共通して装備できるものになっていますから、そうした専用装備となる武装パックはとても難しい問題になります」
「なるほど」
 残念そうに井出は頷いて席に座る。
 最後に、守原が提案という形で話したのは研究テーマについてだった。
「高山に住む草食獣は、肉食獣と比して重心が高いのに、不整地での安定した踏破能力を有しています。その再現研究はKVの歩行性能に寄与するのではないかと考えますが」
「彼等の移動能力に関しては、背骨が大きく関係しています。4足の獣が素早く走れるのも背骨のバネを利用している所が大きいのですが、KVの多くが動物ほど柔軟な体構造を持っていませんし、動物のように柔軟な構造は非常に難しいです」
 そう言って崔は現状では外骨格を有する昆虫の歩行システムの研究が奉天では行われている事を示した。
 昆虫の歩行システムは複雑な制御系を必要とせず、安定した歩行を可能とする。
 2脚の場合はバランスの制御などにCPUの演算性能を食われる事になるが、安定性に富む多脚はそうしたバランスの制御が最小限ですみ、結果としてCPUの処理能力を他の事に回す事が出来るようになる。
 更に一本程度が破損しても問題なく動ける事も、研究されている理由だった。

 奉天社において能力者を招き、募集した案の多くは新たなKVの開発計画としてプロジェクトチームが発足する。
 提案された全ての案が実現化する訳はないが、奉天社は今まで自らに課してきた「低価格」という枷を外す事となる。
 他社とイーブンな立場へとその立ち位置をずらした奉天が、その真の実力を発揮するにはもう暫くの時を必要とする。