タイトル:【Tr】対艦巨砲主義マスター:左月一車

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/10 16:03

●オープニング本文


 既に人が去って久しい街。
 それを物語るように、林立するビルの窓はほぼ全てが砕け、風雨に長い時を晒された故の劣化が見える。
 舗装された道路もあちこちがひび割れ、隙間からは旺盛な生命力を発揮して植物が姿を現しつつある、更に長い時をかければ、コンクリートも緑に覆われるのだろう。

 そんな街が往時の賑わいを取り戻すかのように喧騒に包まれたのはごく最近の事である。
 ナイトフォーゲルと呼ばれる機体が40機近くも集結するのは非常に稀な事だ。
 性能差は機体ごとにあるにせよ、能力者と呼ばれる限られた存在しか操れない高い機動性を備えた高性能兵器。
 それがこうして集結しているのは、次期量産機として採用される機体を決定付ける為の性能評価試験が実施されるからだ。
 最も、この評価試験だけで決定される訳ではないのだが、それでもそれなりに大きな影響を及ぼす事は、評価試験を視察しに来ている各国、軍の重鎮を見れば分かるだろう。



 コンペティション参加機のうち、最大の戦闘力・価格を誇るゼカリア。
 細身の人間なら砲身に潜れるほどに巨大な420mm大口径滑空砲を備えた戦車型のKVである。
 その前に集まった傭兵を前に、MSI営業部のアパルナ シャマラン(gz0246)が機体の特性を説明している。
「この機体は見れば分かるように、陸戦にのみ対応しています。しかし、航空機としての性能を捨てたが故に得られた重装甲、重火力を実現しています。単純な性能比較では、現時点において、陸戦という限られた戦場では最強と呼んで差し支え無いと当社は判断しています」
 アパルナの説明どおり、航空機としての性質を持つKVは、その特性上どうしても重量を軽減する必要がある。それは装甲面に大きく影響を及ぼす。
 それを捨てる事が出来れば、重量による制約は大きく緩和される。
 ゼカリアはそれを実現した為に、圧倒的な重装甲と重火力、高性能射撃装置を有している。一方、あまりの重量により、回避性能は無いも同然。移動速度の低下を引き起こしている事が最大の欠点として存在する。
「機体のスペックは提供した資料の通りですが、当機のコクピットは従来の航空機型とは異なり、キャノピーに相当する部位がありません。そのため、コクピットは球状のスクリーンに外部映像を投影する形となる他、パイロットの視線を感知し、各種情報を常に視野に収める機能があります。一応、コクピットシート周辺に予備系統の計器類はありますが、それらを見る必要は基本的には生じません」

●参加者一覧

ハルカ(ga0640
19歳・♀・PN
比留間・トナリノ(ga1355
17歳・♀・SN
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
常夜ケイ(ga4803
20歳・♀・BM
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

 履帯が立てる独特の駆動音を響かせ、ゼカリアを中心とした計8機のKVが郊外を進軍していた。
 通常の戦車より遥かに巨大な車体、二次大戦の戦艦の主砲に匹敵する巨砲は正に現代に蘇った大艦巨砲主義と呼べる。
「うっうー! ゼカリアを激しく希望です。でっかい大砲が嫌いな軍人さんなんていません! …多分」
 大規模戦で過去幾度も名を馳せたガンアンツを率いる比留間・トナリノ(ga1355)がそのコクピットで気合を入れる。
 通常の戦車は運転手、砲撃手、戦車長の3名で運用されるが、KVに分類されるゼカリアはパイロット1名で充分に操縦が可能だ。それを可能としているのは高度なコンピュータシステムと能力者の体内に埋め込まれるエミタAIというサポートがあってこそだ。
「‥‥大艦巨砲主義、素敵だと、思います」
 同じくコクピット内の半球型スクリーンに表示される外部の光景を見据え、ルノア・アラバスター(gb5133)が手に力を込める。
 モニターに投影されるレーダー画面や斬弾数、機体状況を示す数値などの表示が彼女の視線に合わせるように移動する。
 計器に視線を落とす事無く状況を把握する事が出来るのは、ゼロコンマの差が致命的な差になりうる戦場においては非常に有効だ。
「S−01とR−01が一緒に戦うのなんてこれで最後かもしれないわね‥‥」
「そうだね、ファルルちゃん」
 既に傭兵への貸与機としては退役しつつある初期型KVであるS−01とR−01を駆るファルル・キーリア(ga4815)とハルカ(ga0640)。
 ちなみに両者の駆るS−01とR−01は度重なる改造で、実質もはや別の機体になっていたりするのだが。

 順調に進軍を続ける傭兵達が市街地へと差し掛かった時、警告音が響く。
 レーダーに表示される画面には、合計9機の反応。急速に近づくその速度は地上走行時のスペックとはかけ離れている。つまりそれは上空を飛翔していると言う事。
「上っ!?」
 後方にて管制を担当するAnbar(ga9009)が視線を上に転じる。瞬間、少年の視界が煙で遮られる。
「煙幕弾、上空からの強襲‥‥ってところ、かな?」
「全方位に警戒してください」
 明星 那由他(ga4081)がアグレッサーの行動をそう読み、井出 一真(ga6977)が周囲に警戒を促す。
 部隊からやや先行していたファルルも煙幕で視界が遮られる直前に確認した煙幕弾の発射状況から、相当の広範囲に煙幕が展開されている事を悟り、進軍を停止する。
 直進すれば煙幕の効果範囲から抜け出す事は可能だが、万一敵機の正面にノコノコ出て行く事になれば、勝ち目は無いからだ。
 
 滞留する煙幕が風で払われ、彼我の状況が明らかとなる。
 傭兵達を中心として三角形の頂点にシュテルン1機、ディアブロ3機、ロビン3機。つまり傭兵達を包囲する形だ。残りのウーフーと岩龍は上空を飛翔している。
 三角形の陣形をアグレッサーが組んだのは、お互いの砲撃で味方を射線に捉えない為、即座に砲撃が開始される。
 ディアブロから放たれた砲弾が展開するゼカリアの1機に直撃弾となる。
 高い攻撃力を誇るディアブロの砲撃は通常のKVであれば充分な威力を誇る。しかし、ゼカリアの装甲は並ではない。
「このゼカリアの装甲なら‥‥! そんな攻撃、豆鉄砲です!」
 モニターに表示されるダメージは軽微、完全に弾き返す事は出来ていないが、実戦であれば装甲表面が少しへこんだ程度である。
 視線の移動に合わせ、旋回する420mm大口径滑空砲が反撃とばかりに火を噴く。
 打撃力に優れるディアブロだが、反面回避能力や防御性能はさほど高いとは言えない。アグレッサーとして選ばれるエリートであっても、素の性能での回避は困難。
 直撃弾に示されるダメージに、思わず絶句。
 続けて、ダメージを受けた機体に井出、ルノアの砲撃が放たれる。僅か3発の直撃弾、交戦開始から10秒も持たず行動不能の判定が下される。
「ゼカリアの地位は言わば陸上戦艦ですね」
 その火力に常夜ケイ(ga4803)が頷く。

 包囲陣形で挑んだアグレッサー部隊だが、ゼカリアの圧倒的火力と高い命中精度、堅牢な装甲に攻め手を欠く事となる。
 主力に打撃が与えられないのであれば、狙うは準主力機であるS−01、R−01、イビルアイズ。
 しかし、ジャミング影響下では決定打を叩き込む事は難しい。
 指揮官機であるシュテルンがブーストを機動し、懐に飛び込む。その手に携える武器はハンマーボール。鎖につながれた鉄球が、空気を切り裂き、ゼカリアの影に移動した常夜のウーフーを側面から打ち据える。
 鉄球独特の軌道は上手く扱う事で変幻自在の攻撃が出来る。
「あ、あれ?」
 慌てて煙幕弾を張ろうとする常夜だが、搭載している煙幕装置は全て空戦用、陸戦用の煙幕弾を装備していなかった。
 一撃を浴びせたシュテルンがその場を離れると同時に、射界を確保したロビンからレーザーバルカンの弾幕が降り注ぐ。
 操縦桿を引き、その場から離脱する常夜の機体だが、その機動を予測していた残り2機からのレーザーバルカンがウーフーの耐久力を削ぎ取る
 常夜は重装甲のゼカリアを盾として動いている為、機体の動きが読みやすいのだ。 
 耐久力を瞬時に削られ、レッドランプが多数灯る。後1発でも攻撃を貰えば撃墜されるという段階で、ハルカが動く。
 常夜を狙う為、移動を行うディアブロを狙い20mmガトリングのトリガーを引く。改造で高い威力を獲得しているハルカの機体から放たれた弾丸はディアブロの装甲をあっさりと貫通する威力を見せる。
 模擬弾のため実際に貫通する事は無いが、その威力は桁外れだ。
 思わず悪態をついてアグレッサーの機体が沈黙する。撃墜判定だ。この時点で既に2機のディアブロが沈黙している。
 最後の1機はファルルや、Anbarの放つ弾幕を潜り抜け、アグレッシブフォースは起動し、150mm対戦車砲を常夜の機体に叩き込む。
「きゃっ!?」
 自機に迫る砲弾に本能的に回避機動を取るが、回避が間に合わず直撃する。同時にコンピュータ判定により撃墜判定が下される。

 常夜機を撃墜したディアブロは続いてAnbarの岩龍に砲口を向ける。
「これ以上は、やらせない」
 明星の言葉と共に、イビルアイズのロックオンキャンセラーが起動する。本来なら人類側の機体に効果は無いが、コンピュータ判定によりFCSに送られるデータに乱れが生じる。
 放たれた砲弾は、岩龍の装甲をかすめ背後の建造物を砕く。
 Anbarによってある程度強化されているとはいえ、岩龍の装甲は薄い。掠めただけでもそれなりのダメージとなるが、行動に支障は無い。
「敵機捕捉、砲撃を開始します」
 機体を移動させていた井出が砲身だけを建造物の上部から覗かせ、ディアブロに砲身を向ける。
 直後に砲弾が砲煙と共に射出され、機体中心部に命中。行動を停止する。
 戦術では明らかにアグレッサーに軍配が上がったであろうが、機体性能がその差を完全に埋めている。
 しかし、UPC軍のベテランとしてのプライドか、シュテルンが12枚翼を変形させ間合いを詰めると、全火力を込めたハンマーボールを振るう。
 空気を裂いた鉄球がAnbarの岩龍を直上打ち据え、手首の捻りで即座に引き戻された鉄球が引き戻す勢いそのままに、シュテルンの後方から攻撃のチャンスを伺っていたファルルの機体を弾き飛ばす。
「流石にアグレッサーは伊達じゃないって事ね‥‥橋頭堡を築けって言う事は、要は殲滅か撃退をすればいいわけよね!」
 対峙した感触からすれば、機体の操縦能力は相手の方が上、優勢なのは単純に相手の機体が無改造という事による性能差だが、戦力差は戦力差だ。
 ファルルは機体ダメージ、損傷具合を表示するサブモニターを一瞥し、戦闘続行に対した問題はない事を確認。
 ソニックブレードを引き抜き、ロビンへと機首を向ける。
 反応したロビンがレーザーバルカンの弾幕を張りつつ、レーザー砲を連射。迫り来る光条に機体装甲を灼かせながらも間合いに飛び込み、刃を叩きつける。
 本来であれば、敵装甲に接した時点で超高速振動により装甲を分子レベルで斬り裂くブレードだが、模擬戦である以上、機体に外見的なダメージは生じないが、ダメージはきちんと装甲を貫いたものとして判定される。
 返す刀で反対側から刃を叩きつける。
「旧式のオンボロ機体だからって、甘く見すぎよ!」
 上段の斬撃に続く、下段への攻撃。間接部を狙った斬撃だが、移動目標のピンポイントを狙う攻撃は当たりにくい。間接部への直撃こそできなかったものの、ロビンの脚部への直撃は、機体の移動性能を大きく奪う。
 しかし、ファルルのS−01改も既に直撃弾を多数貰っているため、ロビンが反撃として繰り出したビームコーティングナイフの一撃に耐え切れず戦闘不能となる。

 シュテルンに狙われたAnbar機が射程外に離れる為に弾幕を張りながら離脱を開始する。
「やらせないっ!」
 追撃をかけるシュテルンを防ぐように、ハルカのR−01がその進路に入り、自作の【OR】メトロニウム釘バットを振るう。冗談のような外見ながらで、充分実戦に耐えうるその一撃はシュテルンの装甲を歪めるのに充分な威力。
 やむなく追撃を中断し、進路上の建造物を薙ぎ倒しながら進路を変更。明星のイビルアイズに狙いを変更する。
 残存している傭兵の機体の中では岩龍に次ぐ優先攻撃目標だ。隊長機であるシュテルンの指示、管制機である上空のウーフーが障害物の陰に隠れるように移動、狙撃を行う目標の位置を転送する。
 上空に置いた「目」のお陰で、アグレッサー側には目標位置を見失うと言う事は無い。反面、戦力がどうしても足りないという欠点は生じてしまうが。
 シュテルンの振るうハンマーボールがイビルアイズの側面を打ちつけ、機体に大きな損害を負わせる。
 離脱するシュテルンを追うような形で放たれたレーザー砲がイビルアイズに降り注ぐが、回避機動とロックオンキャンセラで半分を潜り抜ける。
 明星はゼカリアが損傷を受けたロビンを狙っている事を確認すると、周囲にガトリングで牽制射撃を開始する。
「固定兵装が強力な分、とってもリーズナブルです!」
 廃屋が模擬弾で吹き飛ばす牽制射撃のスキを縫い、身軽な装備で構成したトナリノのゼカリアがその拳を叩き込む。ナックルフットコートによって強化された拳がロビンの胴体に吸い込まれる。
 直撃を受けたロビンが蓄積されたダメージも手伝い、行動を停止する。
 トナリノの一撃が、格闘戦においてもゼカリアの性能は充分に通用する事を証明した形だ。
 
 ちなみにゼカリアが人型形態においても完全な人型を取れないのは、その機体構成故だ。巨大な主砲ゆえにトップヘビーとなる二足歩行形態は諦め、脚部の設置面積を大きくする事で重量を分散している。
 砲撃の反動を抑える為にある程度の反動抑制装置はついているが、それでも発生する反動を抑える為に、比較的後ろ側に重心が設定されている。
 KVとしても多少異形の姿となってしまうのは機体の特性的に仕方ないのかもしれない。
 
 トナリノは1機のロビンを仕留めると人型形態のまま、主砲を旋回させ別のロビンを狙うが、相手の方が反応が早く、レーザーバルカン、レーザー砲による弾幕が張られる。
 物理防御力に比すれば、知覚系の攻撃に対してはゼカリアの装甲は弱い。
 しかしながら、弱いとはいえ特殊処理が施された装甲は既存機よりも充分な抵抗性能をゼカリアに与えている。
 レーザーバルカンを弾き、レーザー砲による直撃弾で僅かな損傷を追いながらもトナリノ機体から回避機動を取るロビンに対し、徹甲散弾が放たれる。
 飛翔した弾体がロビンに近づくと、砲弾が展開しシャワーのように小口径の弾丸が放射される。
 雲霞の如く打ち付ける弾丸は回避や防御を許さない。
 更にトナリノに連携するようにルノア機がその砲身を向ける。
「バーンと、いきます」
 中距離から放たれた対FF徹甲弾は高い命中精度と明星の展開するロックオンキャンセラによってロビンを停止させる。
 無改造の機体でありながらその戦闘力は折り紙つきだ。
 更に最後の1機であるロビンに対してルノアが砲撃をするのに続き、井出もまた砲撃を集中させる。
 ゼカリア同士の連携射撃。
 砲弾の1発は回避に成功するが、その回避を予測して放った井出の砲撃が捉え、直撃の反動で回避機動が鈍った所へ更なる砲弾が降り注ぐ。
 いかに新型のロビンといえど、既にその機体は大破とまでは呼べないものの、あと1〜2発でも直撃を受ければ持たないだろう。

 この時点でアグレッサー部隊は撤退を選択する。上空を飛ぶウーフー、岩龍は問題なく離脱に成功したが、地上に残るシュテルンとロビンは敵の砲火を潜り抜ける必要がある。
 シュテルンがAnbarの駆る岩龍にブースト突撃を行い、傭兵の注意を逸らすと同時に、ロビンが後方への移動を開始する。
「‥‥っ!?」
 油断もあったのだろうが、シュテルンが振るうハンマーボールが唸り、Anbarの機体を行動不能に追い込むと同時、突撃の勢いそのままに、ロビンとは反対方向へと疾走するシュテルン。
「逃がさないよー」
 そのシュテルンにハルカの機体がブーストで追いつき、釘バットを叩き込む。
 それを予測していたのか、ギリギリのところで回避するシュテルンだが続けて放たれたルノアの砲弾が直撃する。
 それなりに距離は離れていたはずだが、長距離の砲撃にバランスを崩したシュテルンに対し、トナリノ、井出の砲撃が集中する。
 高級機として名を馳せるシュテルンが、ゼカリア3機の砲撃の前に沈黙する。
 それとほぼ同時に、明星の放ったスナイパーライフルの一撃が撤退中のロビンを沈めていた。
 結果、多少の被害は出したものの橋頭堡の確保や市街地の確保には十分な成果を納める。
    
 
「戦闘能力に関していえば、軍としてゼカリアの性能に文句は付けられませんね」
「となると問題は展開力の低さだな、M−1戦車よりは最高速度は高いようだから機甲部隊の主力としては使えると思うが」
 模擬戦の一部始終を見届けた軍幹部が感想を口にする。
「リッジウェイやM−1戦車といった機甲師団に編入する上では問題は無いか、後は価格だが‥‥」
 真剣な表情で運用上の問題点を検討する軍幹部達。
 UPC軍にとっては良い感触を得る事が出来たようだ。戦術面の不利な状況を覆す事は逆にその性能の高さをアピールする結果になった事は、ゼカリアの導入を望む傭兵達にとっては、嬉しい誤算と言えただろう。 
 砲戦だけでなく、格闘戦を展開した事も評価につながり、ゼカリアの模擬戦という意味では充分に成功を収める形となった。