●リプレイ本文
「大規模作戦以外では初めての本格的なKV戦闘か。いつもは小隊のみんなが居るけど、今日はあたしが頑張らないといけないんだ。せめてみんなの脚を引っ張らないようにしないとね」
遠くから響く爆発音は基地外周部の防衛部隊が応戦しているためなのだろう。
その音を聞きながら愛機であるシュテルンの起動手順を進め、香倶夜(
ga5126)は呟いた。
「お〜い、玲ちゅわ〜ん? あたしだよ〜? ホラ〜あ〜た〜し〜覚えてる? 覚えてるよね? 今回はご褒美貰える様にあたしガンバルからね〜」
鳥のきぐるみを身に着けた火絵 楓(
gb0095)がディアブロのコクピット内で羽をばたつかせながら冴木 玲(gz0010)へ通信を送る。
「確か、訓練依頼に出ていた人よね。私からのご褒美は出ないけど、頑張れば軍からご褒美もらえるわよ?」
苦笑しつつ冴木が応じる。この場合のご褒美は報酬の事で火絵が望んでいるものとは少し違うのかもしれない。
起動手順をクリアした者から順に格納庫から、指定された戦域へと向かう。
きちんと整備されている為にコンピュータの自己診断で問題が生じたものはゼロだ。これが最前線に近い野戦基地のような場所では精密機器の塊であるKVの稼働率はガクンと落ちる。
特に砂漠や密林などの過酷な環境になるほど不具合の生じる可能性は高まるのがKVという万能兵器の欠点だろう。
「傭兵か? ここは任せるぞ、我々は後退する」
ゴーレムを水際で食い止めていたM−1戦車を中心とする機甲戦力が傭兵の到着と同時に後退する。
砕かれた戦車の残骸とゴーレムに穿たれた無数の損傷の跡が彼らの戦いの規模を物語る。バグア侵攻以来、既に通常戦力でバグア部隊に損耗を与える方法は幾つか確立されてはいるものの、やはり分が悪い。
例えるなら、歩兵で戦車に挑むようなものである。
「さてさて‥‥油断無き様きっちり仕留めていきましょうか」
相対するゴーレムを見据え、ヨネモト・タケシ(
gb0843)の瞳が鋭く輝く。
ヨネモトの指が素早くウェポンセレクタを弾き、強化型ホールディングミサイルを選択。即座にゴーレムをロックオン、瞬時にトリガーを引く。
肩に装備されたミサイルコンテナから、ミサイルが次々に射出。長距離からのミサイル攻撃は盾による防御、あるいは軽い機動で簡単に回避されてしまう。
もっとも、それは本命ではない。
ヨネモトが機体をブースト加速。腕部に携えた量産型機槍「宇部ノ守」を構え、凄まじい加速でゴーレムへと迫る。
「G3P、こんな面白計画邪魔はさせないのダー」
そのヨネモトを援護するように、レベッカ・マーエン(
gb4204)がロジーナに搭載した高初速滑空砲の照準をヨネモトを狙うゴーレムへと定める。
プチロフ自慢の大口径火砲から放たれた砲弾は、狙い過たずゴーレムを直撃する軌道を描くがゴーレムはその砲撃を構えた盾で防ぐ。
「冴木さんの手間を取らせることもありません。我々だけで仕留めましょう‥‥」
「そだね」
「では、打ち合わせどおりに‥‥時間はかけない‥‥速攻でカタをつけるっ!!」
香倶夜とペアを組むシャーリィ・アッシュ(
gb1884)はPRMシステムを起動する。
アーサー王伝説に謳われる妖精郷アヴァロンにて鍛えられたという聖剣エクスカリバー、その別名とも言われるカリバーンの名を冠する彼女の愛機はその12枚の翼を微調整し、照準性能に特化した形態を取る。
「んじゃ、こっちは私がひきつけるから、もう片方お願いね」
香倶夜もまた、PRMシステムを起動する。
彼女のセッティングはシャーリィのモノとは異なり攻撃性能に特化した形態だ。
ヘビーガトリング砲が猛烈な勢いで砲弾を吐き出し、相互支援の体制に入っているゴーレム2機を分断。その間隙に白銀に輝くシャーリィのシュテルンがヒートディフェンダーを構え、疾駆する。
そのシャーリィを迎え打つように上段から振り下ろされる大剣をヒートディフェンダーの剣身で受け止め、力を逃すように相手の剣を受け流し、返す刀で斬撃を叩き込む。斬撃の刹那、灼熱をその身に宿した刃がゴーレムの堅牢な装甲を容易く溶断する。
「ふっふっふ‥‥今こそケモノ型KVの力‥‥とくと見せてやるぜぇ! いっくぜぇ、ルリリン!!」
「る、るりりん? まぁいっか、よーっし! ケモノKVペアの実力見せてやろーっ♪」
四足形態のKVを駆る美崎 瑠璃(
gb0339)、エミル・アティット(
gb3948)の二人の駆る機体はしなやかな肉食科動物を彷彿とさせる動きで、ゴーレム2機へと挑む。
前に立つのはその攻撃性能に定評のあるエミルの阿修羅、その後ろに高い移動力を命中性能を誇る美崎のワイバーン。
美崎のワイバーンの背に搭載されたR−P1マシンガンが火を噴き、援護役であろう砲を搭載しているゴーレムへと火線が走る。
ゴーレムが自身の危険を察知し防御行動に以降する隙をつき、一切速度を緩める事無くエミルの阿修羅が疾走する。
「いっくぜええぇぇ!! ストライクゥゥゥゥゥファアァァングッ!!」
眼前に迫る阿修羅を薙ぎ払うように振るわれるゴーレムの大剣。
しかし、大剣の軌跡は何も無い空間を無為に通り過ぎる。振るわれる刹那、エミルの機体は四肢とブースターを駆使して跳躍、その脚部に備えられたストライクファングがゴーレムに振るわれる。
その爪が装甲へと達する前にゴーレムは機体を傾けるが、その刹那、ストライクファング後方に取り付けられた小型ブースターが炎を噴き、振るわれる速度を加速する。
鈍い金属音を響かせ引き裂かれるゴーレムの装甲。
「ゴーレムが8機か。特に強化はされていないとはいえ、油断は禁物かな」
「あいあいア〜ちゃん今回はペアよろぴくね♪」
緊張を見せるアーク・ウィング(
gb4432)に対し、あくまで火絵は素のまま。むしろ鳥のきぐるみ。真面目なのかすら疑わしい。
火絵の機体は近接武装を主軸としているため、敵機に近づくまでにはどうしても砲火に晒される。
それを支援するのがアークの仕事だ。
敵機に対し接近を試みる火絵に、予想通り2機からの砲撃が叩き込まれる。
絶妙な回避機動でそれらを避け、あるいは武装で弾く火絵だが、いつまでも回避出来る訳ではない。
アークは冷静に拡大された目標に照準を合わせ、トリガーを引く。
スナイパーライフルD−02はスナイパーの名に恥じぬ正確さを持って、その身に宿す弾丸を閃光と共に射出。同時に空の薬莢が陽光を鈍く反射しながら宙を舞う。
排出された弾丸はゴーレムの装甲を砕き、火絵に対して集中していたゴーレムの注意を逸らす。
「注意一秒怪我一生〜!」
その隙に接近した火絵は機体腕部に搭載された巨大なクローアーム【OR】ギガンティックアームクロー【魔鳳】を展開。そのアームでゴーレムを掴み、凄まじい馬力でゴーレムの装甲を破砕し始める。
機槍を振るいゴーレムと白兵戦を展開するヨネモト。
生身での彼は刀を縦横に使いこなすが、槍も得手としている。
連続して振るわれる突き、払いは着実にゴーレムの機体に傷を刻んでいく。
「ヨネモトッ、注意するのダー!」
レベッカの警告に、自らへと迫る砲弾を視認するヨネモト、直撃コースだ。回避は間に合わないと咄嗟に判断。衝撃に備え体を強張らせるのが限界だ。
即座にコクピットに及ぶ振動。すぐさまダメージを確認する為にサブモニターへと一瞬視線を向ける。
「流石はリッジウェイ‥‥何とも無いとは言えませんが、充分に頑丈ですね」
機体の損傷は装甲表面に留まり、内部への損害は大したものではない、無論、その場へと集中弾を叩き込まれれば話は変わるが。
その損傷部へと突き入れられるゴーレムの攻撃はヨネモトは充分に読んでいた。
機体を捻り、装甲の曲線でその攻撃を弾く。ゴーレムの体勢が突きの勢いに僅かに流れ、その一瞬の隙を察知したヨネモトは試作型高性能照準装置を起動する。
「所謂『切り札』です‥‥遠慮無用で御受け取りを!」
ゴーレムの胸部を支えるように差し出されるリッジウェイの左腕、そこに装備された機杭「エグツ・タルディ」が炸薬を炸裂させ高速射出。
破砕音を響かせながらゴーレムの背面から杭の先端が顔を覗かせる。
「これで1機、ですな」
自動的に射出前の状態へと戻るパイル、同時にゴーレムがその身を爆発させる。
至近距離の爆発を背に、残り1機へと機を向けるヨネモト。
「ヤツは私に任せるのダー‥‥「ストームブリンガー発動! ロジーナ、狙い打つのダー」
150mm対戦車砲を既に装甲に大小の損耗を追っているゴーレムに向け、レベッカ・マーエンがロジーナのストームブリンガーを起動。
命中性能を飛躍的に引き上げ、ゴーレムへと砲撃を連続して叩き込む。
大口径の砲から放たれた砲弾はゴーレムの装甲をひしゃげさせ、亀裂を生み出し、打ち砕く。
更にその損傷部に飛び込んだ砲弾が内部危機を修正不能なまでに吹き飛ばし、続く砲弾が致命的な部位を打ち砕いた。
一方、ゴーレムとの剣戟戦闘を繰り広げるシャーリィも一方的展開となっていた。
初撃の斬撃こそ一撃必殺とはならなかったが、相手のゴーレムは満身創痍の状態だ。彼女のシュテルンにも多少の損傷は受けているが、相手と比すれば問題があるとはとても言えない。
「ゴーレム如きに手こずるようでは‥‥あの男の首は取れない‥‥」
自らが目標とする敵手の姿を脳裏に浮かべ、機体を高速で疾走、ゴーレムの背面を取り必殺の一撃をゴーレムへと繰り出す。
ヒートディフェンダーのエネルギーカートリッジが排出され高熱を帯びた斬撃がゴーレムを斬り裂いた。
素早くその場を離れ、香倶夜と砲撃戦を繰り広げるゴーレムへと機体を駆けさせるシャーリィの背後で行動不能となったゴーレムが自らの技術を渡さぬ為に自爆する。
「その程度なら、あたしでも避けられるっ」
自身へと迫る砲弾の軌道を見切り、機体を軽くステップさせ回避すると反撃としてヘビーガトリングを叩き込む。
ゴーレムの砲弾は香倶夜の機体を掠る事も無いが、反撃として叩き込まれる銃弾は文字通りゴーレムの装甲をずたずたの状態にしていた。
恐らくあと数回叩き込めば充分だろう。
「香倶夜さん、こっちは片付きました」
「おっけ、それじゃ一気に畳み込みましょ」
「了解です」
シャーリィからの報告に、今までは比較的守勢に回っていた香倶夜が機体を前進させ攻勢に転じる。
その彼女の機体を追い越すシャーリィの機体。
彼女の機体へと敵の攻撃が行かぬよう、牽制射撃。ゴーレムがシールドを構えた瞬間、シャーリィの機体が側面へと回りこむ。
それに対応するために機体の向きを変えるゴーレム。
「そこだっ!」
僅かな隙を的確に捉え、香倶夜がヘビーガトリングを叩き込む。吸い込まれるようにゴーレムの装甲へと殺到した無数の弾丸が既に傷ついていたゴーレムの装甲を完全に砕き、内部を引き裂いてゆく。
その衝撃に姿勢を崩したゴーレムにシャーリィがトドメの斬撃を叩き込んだ。
「わ、ちゃちゃ!? み、ミスっちまったぜ」
ゴーレムの大剣による斬撃をマトモに食らい、エミルの阿修羅が吹き飛ばされる。
「大丈夫!?」
「ん〜‥‥ちょっと壊れたけど、このぐらいなら問題ないない!」
素早くダメージチェックを行い、戦闘に支障が出るほどの損害は受けていない事を確認。追撃を受ける前に機体姿勢を建て直し、エミルは反撃とばかりに相手へと突進する。
「お返しは倍返しが基本ーッ!」
全速での疾走のまま、機体背面のフィンブレードを展開、駆けざまにゴーレムの装甲をフィンブーレドで斬り裂く。
その攻撃に姿勢を崩したゴーレムに素早く反転して、ストライクファングを叩き込む。
素早くステップを踏み、ゴーレムから離れるがゴーレムからの反撃は無い、ストライクファングが致命打となり行動を停止するゴーレムが爆発する。
「おっしゃぁ、一丁上がりぃ!!」
美崎と砲撃戦を展開するゴーレムだが、双方共にそれなりの損害を受けていた。
マシンガンから弾幕を展開するが、その大半は盾により受け止められ有効打には至っていない。
「瑠璃色の狙撃手の二つ名は伊達じゃなーいっ!」
ゴーレムの防御に僅かに隙を見つけ、美崎がワイバーンのマイクロブーストを起動、正確な狙いがゴーレムの間接部をロックし、脆弱な脚部間接を砕く。
がくんと姿勢を崩したゴーレムに美崎が急速接近、ワイバーンの頭部に装備されたストライクレイピアを叩き込む。
「あたしもいくぜーっ!」
美崎とエミルの2機の攻撃に晒され、まともな回避機動を取る事もできずゴーレムは機能を停止する。
「にゃっはっはっは!! 見たか、我らがケモノ型KVの力!! 今からケモKVの時代が始まるんだぜ!!」
「まだ終わってないよっ」
高笑いするエミルに突っ込みを入れ、美崎が味方機のうち不利な戦況に陥っている機体が無いか確認するがどこも優勢に戦いを進めているようだ。
大型クローアームで敵機を固定した火絵は、その相手に向かって開いている左腕を突き出す。
「アグレシブ・フォース起動‥‥アームレーザーガン、イッケーーーーー!!」
ディアブロの特殊能力であるアグレッシブフォースを展開し、レーザーを叩き込む。
固定されている状態では回避軌道も取れず、その攻撃をまともに食らうゴーレム。反撃として攻撃を叩き込もうにも、不自然な体勢を強要されている状態では有効な一撃を叩き込む事も出来ず、ディアブロには然程の傷が入っていない。
「おむ‥‥アタシの勝ちだねっ」
僚機が何度が火絵を狙撃しようと試みるが、その度にアークの放つ銃弾が妨害する。
「おまえの相手はアーちゃんだよ!」
アークの狙撃は的確に相手の防御を潜り抜け、その装甲を傷つけていく。
その間に更に攻撃を損傷部に集中させゴーレムを撃破する火絵。更に【OR】対陸戦用大剣【ガルーダ】を抜き放ち、もう1機のゴーレムへと叩き込む。
宙に赤い軌跡を描き、叩き込まれる刃がゴーレムの装甲を斬り裂く。
「アーちゃん、そっちに回すよ!」
更に斬撃を叩き込むが、コレは防御されるのが前提のもの。その防御の際に固まった姿勢はアークの狙撃の格好の的だ。
素早く照準を火絵が刻んだ装甲の隙間に合わせ、アークはスナイパーライフルをその隙間に向けて撃ち込む。
「もう一発!」
更なる一発を叩き込むと、ゴーレムがくずおれるように大地へと倒れ伏す。中枢部を貫く事に成功したようだ。
僅かの後、爆発四散するゴーレム。
「何度やっても、戦闘は緊張するね。まあ、戦場で緊張を忘れたら、命を落とすことになると思うけど」
「あたしたちのしょーり」
そう呟くアークの横で、緊張感のカケラも無い声が響いていた。