●リプレイ本文
強襲揚陸艦の後部ハッチが展開し、起動状態のKVがゆっくりと海中へと降ろされていく。
「三番艦は海洋艦か。なら、これからお世話になる可能性が高いんで、きっちり輸送艦を護りきって資材を届けてもらわなきゃな」
W−01改のキャノピー越しに見える風景が空の青から海の青へと変わっていく中、ジュエル・ヴァレンタイン(
ga1634)が気合を入れる。
水中における人類側探知手段は基本的にはソナーである。
原理的にはレーダーと同様だが、ソナーの場合、レーダー波ではなく音による反響を利用するのが特徴といえる。
その為、アクティブ・パッシブ双方ともバグア側のジャミングによる影響は基本的に生じないが、探知距離はレーダーよりも短く、水中では音伝播速度は速くなるとはいえ、レーダー波よりは遅い。
結果的には空戦時にジャミングを受けている時と同程度の探知性能になる。
そのソナーに敵影が表示される。
最長距離で表示される敵影は見る間に、傭兵達の装備する魚雷の射程圏内に到達する。
「ゲソ仲間が居るというだけで感じるこの安心感! あとは、ゲソの有効性を知らしめるべく、バグアどもを殲滅してやんばい‥‥冗談を交える余裕無しか」
這い寄る秩序(
ga4737)が格好のみならず、言動にも冗談を交えるが、ソナー上に示される反応は非常に多く、すぐに静かになる。
艦隊の探査結果では水中ワームは総計12機だが、その前衛として移動するキメラが多いため、実数以上に敵戦力が多いようにも見える。
「水中部隊の希望を潰えさせませんわよ!」
事前の打ち合わせどおり、敵群に向けて最大射程から竜王 まり絵(
ga5231)が熱源感知式ホーミングミサイルを発射する。
ちなみに名称こそミサイルではあるが、航空攻撃に使用する事は出来ない為、分類上は魚雷に位置する。
他の傭兵も同時に魚雷系に属する装備を発射。
白い航跡を描きながらワーム群に迫る魚雷の多くは、超長距離からの攻撃もあって直撃するものは然程多くはないが、近接信管の起動による爆発の衝撃波が前衛を努めるキメラの多くにダメージを与える。
「減らないな‥‥やるからには全滅させるつもりで行きたいが‥‥」
リッジウェイのコクピットで他機から転送される探知結果を確認し、ゲシュペンスト(
ga5579)が呟いた。
彼は前回の依頼での消耗が完全に癒えておらず、覚醒し続けられる限界時間の面で今回の作戦参加に際しては短時間の戦闘しか臨めない。
今回の依頼では傭兵の5人が水中用KVを有しておらず、水中キットを装備して依頼に臨んでいるが、耐水処置と推進装置の塊を装備するだけで、水中キットにはソナーに類する装備は付いていない。
一応、レーダー類を使用する事は可能だが、水中においてはレーダー派の減衰率が高く探知可能距離が大幅に狭まる為、他機からのデータリンクで対応する形となる。
接近さえしてしまえばレーダーで捉える事も可能になるのだが。
初撃の結果、キメラに多少の打撃を与える事には成功したが、僅かに進行速度を緩めさせただけで、相変わらず急速に接近してくる敵部隊に対し、傭兵たちは包囲陣形を形成するために移動を開始する。
正面で敵の突破を防ぎ、ブーストによる急速移動を行うA班、B班で側面を突こうという作戦だ。
「UK参番艦は潜水艦ですか。‥‥きっと、艦長は若い女性ですよね‥‥この作戦、失敗するわけにはいきませんね」
敵の側面に位置したA班の佐渡川 歩(
gb4026)は妙なオーラを纏いつつ、自機をより水中深く潜らせ、側面からワーム群に対し試作型水中ガウスガンを発射する。
磁力により充分に加速された弾丸はワームの装甲を貫くのに充分な火力を有している。
しかし、主力であるワームの危機を察したか、あるいは単純に運が悪かったのか、その弾丸の射線上に水中キメラの代表であるシーサーペントが入り込む。
結果として、放たれた弾丸はシーサーペントを引き裂き、肉塊に変えただけに留まる。
彼と共にペアを組む竜王はその攻撃の間隙を縫うように、水中用ガウスガンを掃射する。弾丸は水中に衝撃波の軌跡を描きながら高速で推進し、メガロワームの装甲を貫くが、致命弾には至らない。
損傷を受けたメガロワームは突如進路を変えると、A班に向かってシーサーペント数匹を引きつれ猛進。
水中用プロトン砲による攻撃を開始する。
「‥‥っ!?」
突如放たれた攻撃に対応が送れ、竜王機が損傷を受ける。
「これでも食らいなさい!」
プロトン砲を放ちながら迫るメガロワームへと、竜王が高分子レーザークローを起動させる。
メガロワームはその攻撃を機体をスライドさせる事で回避し、そのまま旋回、佐渡川に向けてプロトン砲を放つ。
バグア得意の慣性制御による機動は、水中でも遺憾なく発揮される。
「三番艦の進水を遅れさせる訳にはいきません!」
その攻撃を機体に掠らせつつ、心の中で美少女艦長のためにー!と叫びながら放った佐渡川のガウスガンがメガロワームの外殻を砕き、中枢部に致命弾を与える。
慣性制御を喪失した機体は重力に引かれて急速に沈降、機密保持機構が働いたのか、暫くして爆発四散する。
「‥‥艦長がマウル少佐だといいなぁ」
「そんな事より、追撃に回りますよ!」
一方、B班は側面への移動を諦め、正面からの迎撃に移行する。防衛ラインより僅かに手前で迎撃する事になったが、突破を最優先しているのか、眼前に迫る敵からの砲撃は散発的なもので牽制以上の意味は無いようだ。
這い寄る秩序は迫る敵機に対応する為、機体を変形させ、高分子レーザークローを振るう。
水中機専用とはいえ、全兵装の中でも破格とも言える性能を誇るレーザークローはシーサーペントを易々と斬り裂き、その背後に隠れていたメガロワームの装甲を真正面から深々と貫く。
1mにも及ぶレーザー刃を3本機体中枢に打ち込まれれば、ワーム系兵器が如何に高い耐久性を誇ると言えども、耐え切れない。
爆発の衝撃が這い寄る秩序のW−01を弾き飛ばす。
「‥‥ようやく一つ仕留めたか」
衝撃に翻弄される機体の姿勢を建て直し、ペアを組むジュエルの機体へと視線を向ける。
彼は、這い寄る秩序の援護をするためにガウスガンを掃射し、近づこうとする敵を食い止める役目を充分に果たしていた。
最もその対象となる敵は基本的にキメラとなる。
高速で移動突破を図るワームは自機をぶつけて速度を殺すが、ジュエルの体は一つしかない。食い止める数にも限りがある。
B班の側面攻撃を防ぐ為に、損傷を受けたメガロワーム2機がB班へと猛攻撃を開始する。
未だ対した打撃を受けていないマンタワームはメガロワームが側面攻撃を防いでいる間に、キメラを引き連れて正面を抜けていく。
「まずい、かなりの数に抜かれた」
「マンタに抜けられたが後衛にまかせ、メガロに集中攻撃を仕掛ける」
突破状況を気にするジュエルに、這い寄る秩序はまず自分たちに向かってくる敵機を落とすのが最優先と判断を下す。
慌てて反転し、マンタワームを追えば後ろから好き放題に撃たれる。
そうなれば追撃どころの話ではない。
「了解だ、さっさと始末して援護に向かおう」
「無論だな」
這い寄る秩序が前に立ち、ジュエルがその支援に立つ形だ。
二人はそのまま、メガロワームとの交戦に突入する、すぐさま片付けたいという二人に対し、ワームは彼等を片付けるのではなく時間稼ぎを目的として戦っている。
反転する素振りを見せれば攻撃の密度が上がるが、そうしないと逃げ回ると言う敵機は相当にやりにくい。
「‥‥こりゃまずいかも」
思わずジュエルはそう呟いた。
メガロワーム全ては損傷を受けた為か、そもそもの想定通りなのか反転してA班、B班の追撃を食い止める形に回っている。
後衛班が相手をするのは若干のキメラと無傷のマンタワーム8機だ。
盾であるキメラの数も大分減っているとはいえ、防衛ラインぎりぎりの状態である。
「さあ、狩りの時間ざますよ。行くでがんす。ふんがー」
鼻息も荒く、ビーストソウルを駆る美海(
ga7630)は後衛部隊の正面やや前方に単機で立ち塞がる。
本来であればロッテ機を組むのが理想だが、彼女の駆るビーストソウルの性能を持ってすれば、水中ワームと互角以上の戦闘が可能だ。
正確にマンタワームを照準に収め、美海がトリガーを引く。
彼女の指の動きに連動し、ガウスガンから弾体が射出され、キメラの隙間を縫いマンタワームの装甲を貫く。
本来ならここで反撃があるのだが、美海の予測に反してマンタワームは反撃のプロトン砲を撃つ事無く更に加速する。
「まずは敵の足を止め数を殺ぎ落とす‥‥タダで通れると思うなよ!」
自身の残り戦闘可能な時間はごく僅か、その僅かな間に少しでも打撃を与える為、ゲシュペンストはリッジウェイに装備した水中用ガトリング砲の砲身をマンタワームへと向け射撃する。
高速で無数に放たれる弾丸。
水中を高速で駆けるマンタワームは機体を傾け射線軸上から逃れるが、弾幕を張るようにばら撒かれた弾丸の全てを回避する事は難しい。
周囲に展開するシーサーペントを血煙と変え、マンタワームの装甲を抉り取る。
「追撃入りますよ!」
損傷を受けたマンタワームを狙い、平坂 桃香(
ga1831)がガウスガンを射撃する。
彼女の機体は充分に改造が施された雷電。陸上機であるため、本来なら水中に向いた機体とは言えないが、充分に改造された機体から放たれる弾丸は圧倒的破壊力を持ってマンタワームの装甲を貫く。
「水中装備の調整で予想報酬を上回る金を使ってしまった‥‥元くらいは取り返したいが」
以前にも、G3Pに携わった仮染・勇輝(
gb1239)はそれなりの出費にて調達した水中装備のうち、ガウスガンを選択し、損傷を受けふらつくマンタワームへとトドメの一撃を見舞う。
直撃すればトドメとなっただろう一撃はカバーに入ったシーサーペントの体を貫く。弾けた肉から迸った血液が水中を舞い、煙幕の役を果たす。
それは、仮染の位置からマンタワームを隠し、追撃の手を止めさせる。
「UKじゃなくてお前らが藻屑と化すのですっ!」
ワンテンポ遅れて血の煙幕を潜り抜けたマンタワームへと熊谷真帆(
ga3826)がガウスガンを射撃する。
機体を急速旋回させ弾体を回避するマンタワームだが、その予測軌道上に置くような形で発射された弾がマンタワームの機体中枢を貫き、爆散させる。
「前衛を突破した機体はあと7機だ」
『苦戦しているようだな‥‥前衛艦隊の射程圏内にワームを捉えた、対潜爆雷による援護射撃を開始する。当たっても悪く思うなよ』
トクム・カーン(
gb4270)が声を上げた瞬間、艦隊司令官の声が響く。
その声に応じて上を見れば、無数の爆雷がワーム群の中央めがけ急速に沈降してくるところだ。
通常兵器による火力はバグアのフォースフィールドに遮られさしたる打撃を受ける事はないが、集中して連続した打撃を叩き込むことで、ワームを撃破する事は可能だ。
凄まじい衝撃波が水中で炸裂。
前衛班が機体制御を行う間、連続して爆発した爆雷により、キメラ群はほぼ壊滅。ワーム部隊にも少なくない損害が生じていた。
『前衛艦隊の爆雷による支援は弾切れで終わりだ。残りは輸送艦隊直衛の艦隊ぐらいしか残ってない、そっちまで仕事を回さないでくれよ』
「我々の夢、水中戦対応型ユニバースナイトを造るためだ。少々のダメージなんぞ気にしておれんぞ!」
爆雷によるダメージはKVにも若干ながら及んでいたが、カーンはダメージチェックを行う事無く、ワームへとイビルアイズのロックオンキャンセラーを起動。
更に損傷を受けた機体へとガウスガンによる射撃を行う。
マンタワームは爆雷の衝撃による体勢を立て直し、その射撃の隙間を縫うようにランダムにスライドを繰り返し、更に速度を上げる。
「このままでは突破されます!」
平坂はブーストを起動し、突破阻止に動くが、もともとの移動力が少ない為に、然程の加速には至らない。
「‥‥‥‥まずい、時間切れか」
能力者は覚醒によって、KV操縦技能を得るが、逆を言うと覚醒が解ければKVという複雑な機械を意のままに操作する事は出来ない。
ゆっくりと、手順に沿って操作すれば動かす事は可能だが、戦闘行為はほぼ不能となる。
「‥‥1機撃破っ!」
間近に迫ったマンタワームを水中ディフェンダーの一撃で斬り捨て、仮染が次の機へと向き直るが、移動性能の低下したKVを横目に、水中での行動力に特化したワームは高速で離れていく。
「あと6機、少しでも数を減らすのですっ!」
なんとか射程内のうちにガウスガンを放つが、その軌跡を追うように美海のビーストソウルがブーストによる加速を加味して仮染機の横を駆け抜け、マンタワームに迫る。
美海の接近を感知して、6機が前進を継続したままくるりと砲門を美海の機体へと合わせプロトン砲を掃射。
その砲撃の隙間を見極め、機体を駆けさせるが、連続する砲火の全てを回避する事は出来ず、頑強なビーストソウルの機体装甲が砕け、直撃により速度が鈍る。
更に、6機のうち1機が美海の機体へと強引な体当たりをしかけ、脚を止めさせる。
「邪魔なのです!」
張り付く敵機を人型形態に変形し、レーザークローで突き刺して始末すると美海は更に敵機を追っていく。
メガロワームを始末し終えたA班、B班もブーストによる加速でなんとか追いつくが、その時には既に設定した防衛ラインを5機が突破し終えていた。
輸送艦に迫るワームへ向けて、輸送艦の直衛任務に就く対潜攻撃兵装を増設したイージス艦、爆雷を積んだヘリから水中への攻撃が敢行される。
時折立ち上る水柱は、直撃による爆発の後だ。
「輸送艦への攻撃を阻止せよ!」
防衛任務に就く司令官の声に応じ、獅子奮迅の活躍を見せる直衛艦隊だが、通常兵器による火力不足は如何ともしがたい。
「敵3機撃破、残り2機が輸送艦に向かいます」
「仕方ない、1〜2隻はくれてやる。攻撃を続行、全艦の撃沈だけは阻止だ」
「了解!」
素早く決断し、ワームが攻撃対象とする艦の乗員への退避を勧告しつつ、更なる攻撃を加える。
結果として、輸送艦の数隻が撃沈される事となる。
資材そのものも海へと沈んだが、水深が浅い場所で沈んだために、物資のうち水に耐えるような単なる資材に関してのサルベージは可能だ。