タイトル:烈火繚乱マスター:左月一車

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/26 17:02

●オープニング本文


●港湾部
 民間港に現れた超大型キメラ‥‥ケルベロスが3つの頭部を前と左右に向けると、その口から同時に炎を吐き散らす。
 倉庫や、民間船舶が高熱に炙られ次々と爆発を起こす中、人々が突然の襲撃に半ばパニックになりながら蜘蛛の子を散らすようにあちこちに逃げ出していく。
 ケルベロスはそんな人々を無視するかのように、工業地帯を蹂躙していく。

「‥‥ここまで逃げれば、なんとか‥‥っ!?」
 ケルベロスの巨体を遠くに見ながら、埠頭まで逃げてきた作業服に身を包んだ男が、後ろから放たれた炎に巻かれて悲鳴を上げる間もなく絶命する。
今、男の命を奪ったのは4〜5mはある黒い犬のような形のキメラ‥‥ガルムと呼ばれるケルベロスの下位種だった。
 ガルムは大地を疾駆すると、建造物には目もくれず逃げ惑う人間を手当たり次第にその牙にかけていった。

●軍司令部
「最近、民間の港がケルベロス率いるキメラの群れに攻撃を受けるという事態が頻発しています」
 士官がケルベロスとガルムの資料を提示しながら、攻撃を受けた地点をモニターに表示させた。
それは線上に繋がっていた。直線的に海岸沿いを移動している事を示している。
「次に襲撃を受ける地点は、ここだと予測されます」
 士官の言葉にうなずき、指揮官は地図の1点を示す。
「‥‥そこで、この地点でキメラを待ち伏せし、その殲滅を行う。確認されている敵戦力は超大型に分類されるケルベロス1匹、またその下位種であるガルムが5匹だ」
「資料を見る限り、ケルベロスが建造物や船舶の破壊、ガルムが人間と役割分担をしているようですが?」
 部下の一人が提示されている資料を指差しながら、質問する。
「判明している情報ではその通りだな」
「建造物への被害は抑えたい所ですが‥‥ケルベロス級となると主力戦車の主砲ですら効果は薄いですね」
「そこで傭兵を起用する。彼らがキメラを全滅させればよし‥‥万一、失敗した場合、沿岸に展開させた軍の戦艦からの艦砲射撃でキメラを殲滅する。この場合、港は壊滅するがこれ以上の侵攻を許すよりはマシだ」

●参加者一覧

クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
黒江 開裡(ga8341
19歳・♂・DF
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
神浦 麗歌(gb0922
21歳・♂・JG

●リプレイ本文

●漢組
 無人の港の一角に傭兵達は集まり、港の地図を広げ周囲の地形を確認をしていた。
 申請した港の地図は民間港という事もあり、傭兵達全員に行き渡っている。
「‥‥しかし、今回の依頼は華がねぇな」
 ブレイズ・S・イーグル(ga7498)は仲間である、クレイフェル(ga0435)、ファルロス(ga3559)、神無 戒路(ga6003)、黒江 開裡(ga8341)、サルファ(ga9419)、麻宮 光(ga9696)、神浦 麗歌(gb0922)を眺め呟いた。
 男性能力者だけで依頼に臨む事は、女性能力者も多い現状ではかなり珍しい事だ。
 ちなみに、神浦は名前のせいで女性に間違えられる事は多いが、れっきとした男性である。
「あ、そこは気にした方が負けやから‥‥うん」
 クレイフェルはどこか遠い目をしてブレイズに応える。
 その時‥‥地面が揺れた。

●VS地獄の門番と魔犬
「うわ、アレがケルベロスか? なんて巨体だ‥‥」
 初めてケルベロスを見たサルファが、驚愕の声を漏らす。
 傭兵になって日も浅く、経験もさほど積んでいない神浦もその巨大な体躯に圧倒される。
(「こんな相手に先制攻撃を仕掛けないといけないのか‥‥」)
「‥‥ま、気楽にな。キビ団子でも持ってくりゃ良かったかね」
 黒江は恐怖に震える神浦の肩をポンと叩くと覚醒する。
 他の傭兵達も各々覚醒し戦闘を開始する、傭兵達の採った策は、ケルベロスに即座に攻撃を加え、ケルベロスを誘引するA班とガルム掃討を担当するB、C班に分かれ、ガルム殲滅後に合流しケルベロスに集中砲火を加えるというものであった。
 当然ながら、A班の危険度は非常に高い。

●A班 
 覚醒により感情を消した神浦は、アサルトライフルの照準をケルベロスにぴたりと合わせる。
 神浦の構えるアサルトライフルの初弾には貫通弾‥‥対フォースフィールド用の特殊弾が装填されている。 
 集中し、SES機関に意思を込め、トリガーを引く。
 撃鉄に弾かれた弾丸はケルベロスのフォースフィールドを貫き、手傷を負わせる。 
「ガッ!?」
 ケルベロスにとってはかすり傷にも等しいダメージではあるが、自身を傷つけた相手を捕捉するとその巨大な体躯に似合わぬ敏捷さで疾走を始める。
 神浦と同じA班に所属するクレイフェルと黒江はその結果を確認すると、神浦をカバーするために移動する。
 地響きを立てて迫るケルベロスに向かい、黒江が銃を撃ち牽制と同時すこしづつダメージを蓄積させていく
「そら駄犬、芸の時間だ。お座り・おかわり・チン××、とな」
 挑発の言葉をかける黒江の横を駆け抜けたクレイフェルがケルベロスに両手に装備したルベウスを振るうが、ほぼ同時に繰り出されたケルベロスの丸太のように太い脚の一撃を食らい弾き飛ばされる。
 地面に叩きつけられる前にくるりと受身を取りダメージを最小限に抑えると、口から流れる血を腕で拭うと覚醒により変化した口調で呟く。
「鬼さんこちら、と余裕をかますこともままなりませんかね」
 十分な距離を取りながら、神浦もアサルトライフルの最大射程で銃撃を繰り返すが、距離が遠すぎるためかほとんど弾が当たらない。当たっても銃弾はかするだけでほとんどダメージを与えているとは言えないようだ。
「こちらA班、現在B地区の辺りでケルベロスと鬼ごっこ中。早めに助けに来てくれると助かる」
 一定距離を保ちつつ移動する黒江は銃を撃ちつつ無線機を通じて全体に状況を報告する。
「このまま引きつけられれば、当初の予定通り広い場所に誘き寄せれそうですね」
「できるだけ被害は抑えたいですからね」
 神浦の言葉にクレイフェルは答えると、ケルベロスに接近し攻撃を行うと同時に離脱するというヒット&アウェイでケルベロスの反撃を受けないように注意して注意を引きつつ、少しづつケルベロスを誘導していく。
 ケルベロスの注意を引き付ける事に集中していたため、唐突にその巨体の影から飛び出してきた1体のガルムに対して傭兵達の反応が遅れる。
「なっ!?」
 そして、その一瞬の隙をケルベロスが見逃す事は無かった。
 ケルベロスの3つの口の牙の隙間から焔が漏れ出す、瞬間クレイフェルらにガルムとは比較にならない熱量を秘めた焔が浴びせられる。
 そのブレスをクレイフェルはなんとかかわすが、神浦と黒江は回避できなかった。
「うわあっ!?」
 神浦と黒江はそのブレスを浴びても、何とか耐える事が出来た。もっとも後一撃同じ攻撃を受ければ耐え切れる保証は無い。
 急いで後退すると神浦は無線機に呼びかける。
 
●B班
 B班に所属するのはファルロス、神無、サルファの3名だ。
 ガルムを捜索するため、手近な倉庫の間に飛び込んだサルファは早速1匹のガルムを捕捉すると無線機を取り出す。
「B班のサルファだ、ガルムを1頭捕捉した」
 サルファを追った神無とファルロスが手にした銃器をガルムへと向け、トリガーを引く。
「思い通りに行くと思うなよ‥‥」
 神無の獲物はライフル、放たれた銃弾はガルムの肩に食い込むが、大型のキメラであるガルムにとっては然程大きな傷という訳ではない。
 ファルロスが手にするのはシエルクラインからフルオートで放たれた無数の弾丸がガルムに襲い掛かるが、フォースフィールドと分厚い毛皮に阻まれる。とはいえダメージはそれほど軽くは無いのか、ガルムの体から血が流れ、黒い毛皮を赤く染める。
 ダメージを負ったガルムは怯んだ様子は見せず、その口から炎を迸らせる。
 反応の遅れたファルロスが炎の直撃を受けるが、身に着ける複数の装備がダメージを大きく和らげ、負傷は軽い火傷に留まる。
「‥‥少し熱かったな」
 神無は隠密潜行を使用し、ガルムの意識が向かないような位置を取りつつ、的確な射撃を加えていくと同時に強弾撃を使用したファルロスがフルオートで弾丸をガルムに叩きつけその体力を削っていく。
「コレで決める!」 
 サルファは手にした大剣に意識を込める。活性化したエミタから供給されるエネルギーが武器の威力を跳ね上げる。
 制御できる限界ギリギリまで高めた威力をそのままに眼前のガルムに叩き付けた。
 頭頂部から両断されたガルムはその身に納めた内臓を撒き散らし、血溜まりに沈む。
「まずは1匹‥‥と」
「もう1匹がこっちに来るぜ?」
 大剣についた血液や肉片を剣を振るって払うサルファに、ファルロスが銃のマガジンを交換しながら、顔を動かし敵の方向を示す。
「忙しいですね」
「まぁヒマよりマシかね?」
 神無が走り寄るガルムの胴体をライフルで狙いとファルスがリロードしたばかりの銃弾を放大量にばら撒く。正面から飛び込んできたガルムはその攻撃をかわしきれずその身に次々と穴を穿っていく。
 全身から血を流しながらも疾走の勢いは鈍らせずサルファをブレスの射程内に収めたガルムはその口を開き焔を吐き出す。
 それがそのガルムの最後の抵抗だったが、炎に焼かれながらもサルファ自身はそれほどのダメージを負ってはいない。
「甘いんだよ!」
 剣の射程の外だが、サルファはエミタに意識を集中させてから大剣を一閃させた。
 大剣から放たれた衝撃波が斬撃と遜色の無い威力でガルムに襲い掛かり、絶命させる。
「こっち側のガルムは一掃したようですね」
「みたいだな」
 2頭のガルムの死体に一瞥を送り、神無しがライフルに弾を込めていく。同様にマガジンを交換したファルロスが応じる。
「通信によるとC班が2頭を担当しているみたいだが、もう1頭はどこだ?」 
 
●C班
 C班はブレイズと麻宮の二人組みだ。彼らの担当もガルムの殲滅である。
 大剣を手にして走るブレイズがガルムを発見すると同時に、B班からのガルム発見の報告が入る。
「これでは援護にいけませんね」
 ブレイズの後ろを走る麻宮がこちらに向かって駆けてくるガルムの口元から漏れる焔を目にしてブレイズに話しかける。
 口が開かれた瞬間に迸る炎を回避しようとするが、麻宮の予想外に広がった焔が彼を直撃する刹那、ブレイズの大剣がその眼前に盾として掲げられる。
 炎の大半はブレイズの大剣に阻まれるものの、完全に防ぐ訳にはいかず若干のダメージを受ける。
「やれやれ、手間かけさせやがる‥‥!」
「すみません」
 疾走の勢いを殺さず、ブレイズは手にした大剣をガルムに向かって振るう。
「手癖の悪い犬公だ。潰す‥‥!!」
 大剣である事を感じさせないような素早い4連の斬撃が炎を吐いたガルムを襲い、斬り捨てる。
 内臓をコンクリートの路面にぶちまけてガルムは絶命する。
 その刹那、倉庫の影から更に一頭のガルムが飛び出し、既に手傷を負っていた麻宮の首筋を噛み切ろうとその口を大きく広げる。
「そう簡単にやらせはしません!」
 不意を打たれたが、麻宮はガルムの攻撃をギリギリの所で回避し、その体に向かって両手の爪で切り裂く。
「っと、そっちか!」
 ブレイズが振りかえると、麻宮を襲ったガルムに駆け寄り斬りつけるが、ガルムもその攻撃を身を捻る事で回避しようとするが、浅く攻撃が入り血が舞う。
 回避の動きを利用して傭兵達から間合いを取ると、ガルムはその口腔からブレイズと麻宮を狙い炎を放つ。
「‥‥ちっ!」
 麻宮は身を翻してその焔をギリギリの所で避けるが、ブレイズは攻撃を振り切った為に体勢が崩れていた。
 回避が無理な事を悟ったブレイズは手にした大剣を振るい、衝撃波を放つ。
 空気を乱して走る衝撃波が、放たれる焔をある程度吹き散らし、ダメージの軽減には成功する。
「隙アリですっ!」
 焔を吐き出した無防備な瞬間を狙いその顎の中に麻宮はクローを突き入れる。
 ほとんどのキメラは外部にフォースフィールドを備えてはいるが、その体内には備えていない、また外皮がいくら強固でも体内組織の強度は地球の生物とそれほど大きな差は無い。
 クローで口内から頭蓋を砕かれたガルムは体を弛緩させるとそのままドサリと倒れ込む。
 その時、無線機からA班の神浦からの連絡が届く。
「ケルベロス及びガルムと交戦中。至急応援を求める」
「‥‥急いで救援に行くぞ!」
「了解っ」

●あるべき場所へ
 クレイフェルはケルベロスに飛び込むと接近戦を開始する、ベテランのグラップラーであるクレイフェルの5連撃がケルベロスの体に次々と命中し、ルベウスの爪が傷を付けていくが、どれも深い傷という訳ではない。
「タフですね」
「吠えてくれるなよ、弱い犬!」
 活性化で自身の傷を若干回復した黒江は刀を引き抜くと、ケルベロスに向かい駆け、その脚を狙う。
 銀閃が走るが、ケルベロスの脚に峰を弾かれ軌道を強引に逸らされる。
 黒江は腕を捻ると逸らされた刀を引き戻し再度の斬撃を見舞う。今度は入った、血がその脚を汚すが、ケルベロスにとってはそれほど深い傷ではないようだ。
「当たれっ」
 安全な域まで下がった神浦は集中し、アサルトライフルでガルムを狙う。放たれた弾丸はガルムの肉体に食い込むが、数発程度の弾丸ではとても致命傷には至らない。
 その瞬間、遠くから放たれた銃弾がガルムの頭部を撃ち貫く。
 脳を貫かれたガルムはそのままゆっくりと地面に倒れる。
「‥‥地に伏せろ‥‥」
 銃弾を放った神無は立膝の狙撃姿勢のまま、ケルベロスに対しても狙撃を行い、ケルベロスの肉体に銃弾を埋め込んでいく。
 その横でシグナルミラーによる目潰しを試みたファルロスだが、シグナルミラーはあくまで信号用の小型のミラーだ。
 太陽光を利用しているが、上手く光を反射できても相手にとっては視界のごく一部が輝くだけで、ほとんど効果は無い。
 もっとも、暗い屋内から出てきた場合に食らえば効果的な場合もある可能性も無いとは言えないが。
「クリムゾンディスペアァ!」
 豪破斬撃と紅蓮衝撃を同時に発動させ、跳躍したブレイズがその大剣を振り上げ、振り下ろす。
 スキルのみならず落下の勢いも加えた一撃がケルベロスの肉体を抉り、コンクリートの地面を陥没させる。
 それほどの一撃を受けてもケルベロスは倒れない。
「いい加減に倒れて欲しいものです」
 駆けてきた麻宮はスキルをフル活用し、攻撃がしやすい位置に移動して次々に攻撃を繰り出していく。
「ガウッ!」
 ケルベロスは吼えるとその口を大きく開く。
「皆さん、ブレスが来ます!気をつけてください」
 クレイフェルが近接攻撃を繰り返す味方に警告を与える。
 次の瞬間、その3つの口から業火が周囲に放たれる。回避する範囲を与えないかのように面を制圧するように放たれたブレスを回避する事が出来ず、クレイフェル、黒江、麻宮、ブレイズがブレスの直撃を受ける。
 各々の防御手段でブレスを軽減したが、麻宮が限界に達する。
「くっ、ここまで、か?」
 残る気力で瞬天速を発動させ、仲間達の邪魔にならないような位置まで後退すると地面にひざを突く。
「後はケルベロスを倒すだけだ」
 サルファがケルベロスに大剣を両断剣を併用して放つ。
「いい加減に倒れろよ!」
 ほとんど気力だけで立っている黒江も同様に両断剣を使用して刀を叩き込む。
「地獄に帰りなさい。貴方は其処にこそふさわしい」
 クレイフェルがルベウスの連撃を放つ。
「お前らには地獄がお似合いだ‥‥在るべき場所に帰るんだな」
 神無が放った銃弾にケルベロスがふらつくが、まだ倒れては居ない、手近な対象にブレスを放とうとその口を開く。
「想像通り‥‥厄介な事になったな」
 ファルロスが残った弾を全てケルベロスに叩きつける。
「なんてしぶといんだ」
 神浦がアサルトライフルを撃ちこむとケルベロスの体がぐらりと傾いだ。
「これで仕舞いだっ!」
 ブレイズがその手にした大剣をその体の中心に突き入れると、ケルベロスがどさりと倒れた。

●戦いの後始末
「オーライ、オーライ」
 キメラの死骸を軍が迅速に解体し処理していく中、小山のような大きさのケルベロスの死骸を前に神浦が立っていた。
「本当にこいつを僕らが倒したんですよね‥‥」
「そういうことや」
「何にせよ、いい加減に風呂に入りたいぜ」
 感慨にふける神浦に仲間たちが声をかける、前衛を勤める能力者達のダメージは相当なものだ。こういう時サイエンティストがいればすぐに傷を癒す事もできるのだが、今回の仲間には居なかった。
 撤去されるキメラの遺骸に、能力者達は任務の終わりを実感していた。