タイトル:新型機の鼓動マスター:左月一車

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 14 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/07 22:43

●オープニング本文


「単純に性能の高いだけの機体では市場にわんさと溢れてるさね。もっと特徴的な機体案は無いのかい?」
 奉天社社長室で白髪の老婆が、目の前に積まれた書類に不許可の採決を下す。
 KV開発室から送られた奉天社の次期主力機を想定した機体だが、老女の気には召さなかったようだ。
「軍用に設計した蛟も、ロジーナのお陰で想定以上には売れなかった‥‥ところで、例の機体はどうなってるんだい? 先日テスト飛行はしたんだろう」
「は、コクピットブロックが未完成の為、岩龍のを取り付け試験飛行のデータの取得は済んでおります。しかし、例の装置の開発に問題が生じているようです」
 老女の問いに、隙無く黒スーツを身に着けた青年が答える。
「問題?」
「こちらに詳細を纏めてありますので、ご一読下さい」
 苛烈な光を宿す眼光にも臆する事無く、男は手にしたファイルから数枚の紙片を取り出し、老女へと手渡す。
 受け取った書類を一読し、老女はしばし瞑目する。
「装甲を厚くすれば誘爆の心配は無いが、搭載量が減る。逆に装甲を薄くすれば誘爆の危険性は生じるが、搭載量が増える‥‥か、確かに難しい問題さね。軍の連中に意見を聞いた所で、両方重視しろって無茶を言われるのは決まってる、なら実際に運用するもう片方に聞くのが良いだろうね」

 格納庫に鎮座する大型機‥‥西王母の名を冠する予定の機体‥‥は先日の試験飛行にて得られたデータを元に、調整が施され、コクピットブロックも正規のものを搭載。
 機体フレームそのものは一応の完成を見たが、KVをKVたらしめている特殊能力のシステムがまだ未搭載であった。
 その特殊能力システムとは、補給システムである。
 最前線において、KVを拠点まで撤退させる事無く戦列復帰を可能たらしめるための機能だ。通常戦闘はともかく、機体特殊能力使用時に燃料を大量に消耗する機体が多い為、前線での使用はいわばジョーカー‥‥一種の切り札状態となっている。
 更に、航空戦闘時に使い勝手の良いミサイルはリロード可能な武器のように予備弾倉を搭載出来ないため、長期の戦闘には向いていない。
 それら問題点を解消するために設計された補給機だが、ここで問題が生じた。

 最前線という危険地帯に赴く以上、被弾の可能性は常に孕んでいる。
 積載量を重視し、輸送機を参考に開発されたという性質上回避はほぼ望めない。攻撃された場合は被弾すると言っても過言ではない。
 機体そのものにダメージが入るならともかく、弾薬コンテナ、燃料タンクへの直撃は補給機能に致命的な損害をもたらす。
 コンテナや燃料タンクの装甲を厚くすれば被弾時のリスクは減らせるが、搭載量が減り、長期の作戦行動を可能とする目的に問題が生じる。
 装甲を薄くすれば、被弾時のリスクは高まるが、大量の弾薬や燃料を輸送し、戦場にて補給作業に従事可能だ。

 この問題を解決するため、傭兵達にどちらを望むのか意見が求められる事となった。

●参加者一覧

/ クラリッサ・メディスン(ga0853) / 高坂聖(ga4517) / シャレム・グラン(ga6298) / カーラ・ルデリア(ga7022) / 櫻杜・眞耶(ga8467) / 守原有希(ga8582) / 忌瀬 叶(gb0395) / 朔月(gb1440) / チェスター・ハインツ(gb1950) / ドッグ・ラブラード(gb2486) / パチェ・K・シャリア(gb3373) / アーク・ウイング(gb4432) / ノーマ・ビブリオ(gb4948) / 流叶・デュノフガリオ(gb6275

●リプレイ本文

 奉天社の会議室に集まった傭兵は14人。
 各々の座席の前には、いくつかのコピーされた資料及び飲み物のペットボトルが配置されている。
 会議室正面にはプロジェクタにて投影された各種資料が映し出され、その前に司会を勤める形となった崔 銀雪(gz0103)が立っている。

「本日は弊社の次期量産機である西王母の意見交換会にご出席頂き感謝致します」
「そういえば昨年にドロームでも補給機型KVの開発計画がありましたけど、あちらはコンペ内容が纏まらなかったり開発担当が一時閉鎖したりで立ち消えたのかな? なので、奉天の西母王にはかなり期待してます‥‥200〜300万の価格には、ちょっと苦労しますが」
 崔の挨拶に応じた高坂聖(ga4517)は奉天らしからぬ想定価格に軽く愚痴を零す。
「兵站部隊長としては見逃せない機体やね? これはいい発想やね、VIVA奉天って感じ」
 補給部隊であるハニービーを率いる、女王蜂たるカーラ・ルデリア(ga7022)は軽い口調で応じる。
「補給機が出たら、うちの小隊では俺が乗る事になりそうなので、良い機体に仕上げたいです」
 忌瀬 叶(gb0395)は依頼の参加動機をそう語る。
「サイエンティストのパチェ・K・シャリア(gb3373)よ。何やら斬新な戦術的価値を見出だしたので、馳せ参じたわ。どうぞ宜しくね」
 パチェは挨拶の言葉と共に各々に一礼する。
「補給機かー。いままでにないタイプだから、アーちゃんも興味が惹かれるね」
 そう呟くのは依頼参加者中恐らく最年少である、アーク・ウィング(gb4432)。所作がどことなく微笑ましいが、彼女も立派な傭兵の一人である。
「ごきげんよう、ノーマですの。大規模作戦ではフェイルノートにのることが多いので、よくお世話になるはずの西王母にはぜひぜひ良い補給機になってほしいですの」
 ミサイルによる攻撃を重視したフェイルノート、ロングボウと西王母との相性は割と良い。そうした意味を込めて、ノーマ・ビブリオ(gb4948)が参加動機を告げる。
 
 各々の傭兵が挨拶を終えると、まずは司会である崔が口を開いた。
「補給システムの概要は先に提示した資料通りとなっておりますが、装甲に関しての意見をお願い致します」
 その言葉にまず立ち上がったのは白衣を纏ったクラリッサ・メディスン(ga0853)。非常にボリュームのある胸が動作の度に揺れ、年上の女性に対して若干の苦手意識を持つ守原有希(ga8582)が慌てて目を逸らす。
「リスクを0にした際の搭載量は300と聞きます。通常の機体であれば充分な量ですが、補給を考えると余りに少なすぎます」
 そう言って、クラリッサが提示したのはリスク75%。
 誘爆リスクを有る程度保持したまま、より大量の弾薬等を搭載する方針だ。
「理由としては、補給機からの補給といえど、ある程度前線から退いたラインで行われる事が多いでしょう。となれば、被弾するリスクはある程度抑えられれると思いますわ。勿論流れ弾が飛んでくる可能性は捨て切れませんので、ある程度まではリスクを抑えるべきと考えます」
 そうしたクラリッサの言葉に、パチェが頷く。
「補給機としての機体特性を考えると、リスク最大時のメリットが大きいわね。ただ、問題はイレギュラーへの脆弱性がでてくるとパチェは考えるわ。リスクを劇的に軽減、あるいは錬力の不足を劇的に補う案があればそれが一番だけれど、75%ってところが妥当ラインだと思うわ」
「補給機が練力切れですぐに帰っちゃ意味がありませんの。ですから、リスクは75%で積載練力を希望しますわ」
 大規模戦においては、フェイルノートを駆るノーマも同様に75%を推薦した。
「私は搭載量を考えるとリスク50%かな、基本的に一つの依頼で1機以上運用する事は無いと思うし、被弾して即補給システムが使用不能になると困るしね」
 クラリッサ、パチェ、ノーマの75%派に対して、高坂が50%の提案を行う。
「理想はリスクの無い堅実且つ確実な機体、だけど補給機という性質を考えればこれは論外。でも75%もリスクが高すぎます、50%でも全機‥‥大体通常の構成を考えると7機でしょうか、それに回すには搭載量的に厳しいですが、補給とリスクのバランスが取れている現実的なラインと考えますね」
「俺も50%かな。リスクが低い方が良いのは当然ですが、補給能力を考えると最低ラインがこの辺りかなと‥‥これ以上下げてしまうと自分で使う燃料も引いたら、せいぜいが1〜2機に補給して終わってしまいますからね、有る程度のリスクを許容するのは基本的に本部で受ける依頼よりは、大規模戦向けの機体だからですね。それを考えれば、護衛をつけたり、出撃時間をずらしたりでリスクを下げ、且つ数も揃えられますからね」
 高坂の言葉に忌瀬が頷く。
「私も50%が最低ラインだと考えていますわ」
「んー、アーちゃんもリスクは50%が良いかなって思うけど‥‥100%以外なら別に無理に50%って言うつもりは無いよ、1発被弾で補給機能を失っちゃうと役に立たないから、そういう意味では有る程度は耐えてくれるといいかなって思う」
 シャレム・グラン(ga6298)が賛意を示すと、アークもその幼い体に似合う小さな腕を精一杯伸ばして声を上げる。
「5%でも%でも失敗するときはするんです! それは研究所で生まれたくず鉄と怨嗟の声が照明してくれています! ゆえにリスク最小、0%を推します」
 ドッグ・ラブラード(gb2486)が、自らの持参した4つのくず鉄を並べながら力説する。
 彼の言葉に強化にてくず鉄を量産した事のある何人かが苦笑する。
 ドッグの言葉にはそれなりの説得力があった。
「それに、機体改造や外部燃料タンクの追加で搭載力はどうとでも出来ます‥‥無論、リスクを上げた場合と比較できるほどの劇的な向上は見込めませんが、それでも一つの依頼をこなす為には充分ではないでしょうか? 常に僚機の燃料を満タンにする必要も、全ての兵装を再装填する必要は無く、状況に応じた分配を心がければ問題ないと思います」
「僕の意見もリスクは0%にすべきだと思います。補給が必要とされるのは戦闘開始すぐではなく、ある程度経過したからになると思うんです」
 ドッグの言葉にチェスター・ハインツ(gb1950)も頷く。
「‥‥そうすると、流れ弾が飛んでくる可能性も出てくるし、補給する前に補給装置が壊れたら、わざわざ補給可能な機体で出てくる意味が薄くなってしまう。それに大規模での使用に関しても、敵味方入り乱れた状況になるでしょうから被弾を免れないと思います」
「私は中途半端に装甲を積むのは無駄やね、やるならリスク100%か0%かのどっちか。大規模戦を見据えれば、装甲より錬力が欲しいやね、小規模な本部依頼だと扱いにくい機体になってしまうけど、そもそものコンセプトが長期戦における支援って所だろうから、そっちに関しては捨ててしまうのも手やね」
 それまで意見を黙って聞いていたカーラが大胆な意見を述べる。
「‥‥えーと、つまりリスク100%という事ですか?」
「そやね。錬力を多く積めば、ブーストも使いやすいからねん。そっちのが生存性はあがるやね、どうせ狙われたら逃げるしかないんだし、補給システムばっか防御しても落とされたらそれまでやしね。空飛ぶ補給基地、そんな感じになれば便利かなって思ってる」
 崔の言葉にカーラはさらりと頷く。
「私は低リスクな方がいいですね、ただ、安全を確保できるものがあれば高いリスクには同意しますけれど」
 皇 流叶(gb6275)は特段、数字を述べる事無く、自身のサポートを主体にした戦い方から、低リスクなものが良いと意見を述べる。

「補給装置そのものへの意見は以上で終わりでしょうか? 特に無いようであれば、他に機体性能やそういった所の意見を集めたいと思うのですが」
「あ、じゃあ機体を見せてもらってもいいかな?」
「見る事は可能ですね、ただ、補給装置そのものはまだ搭載していないので、完成版とは差異が大きいと思いますが、構いませんか?」
 朔月(gb1440)の言葉に応じ、崔は見学は可能と言葉を返す。
 結果、参加者全員を連れて試作機を駐機している格納庫へと、専用のIDカードを通して一同を中へ招き入れる。
 真っ暗な中、手馴れた様子で崔が照明のスイッチを入れると一同の眼前に、普段見慣れているKVの2倍を越える大型の機体が現れる。
 圧倒的な存在感を誇るその機体は不思議な事に、コクピットと呼べる部位が見当たらなかった。
「コレ、どこから乗るの?」
 皇の当然の疑問に、機体側面のパネルを開き、崔がコードを入力する。僅かの後、機体中央下部の装甲が展開し、コクピットシートが降りてきた。
「機体に関しては従来のキャノピー型を廃しました、バグア側から見て、コクピットの位置がバレている事は弱点を曝け出しているのと同じ事です。防弾ガラスを使用していても、装甲板程の性能はありませんからね」
 ごく少数の機種ではすでにキャノピーではなく、コクピットを完全装甲している機体もあるがそれでも航空機形態においてはココがコクピットだと呼べる部位に存在する。
 そうした弱点を廃し、搭乗者の生存率を引き上げる事を目的としている事を崔が簡単に説明する。
「外はどんな感じで見るの?」
「一応、現時点ではHMD付きのヘルメットにて、カメラから得られた外部環境を網膜投影式にて表示する予定です。首を横に向ければ、そちらの映像が表示されるといった具合ですね。全天式のモニター式より安くなるのでそちらを採用しています。万一の故障に備えて、計器類や少数のモニターは配置しますが、基本的には特に計器に目をやらずとも、常に視界に各種の情報が表示された形になりますね」
 機体各所に配置された小型の外部環境を入手するためのセンサーやカメラ類が搭載されている事、それらのセンサー類が二重三重の予備が積まれている事を説明する。
「ただ、あくまで予定なので、採算があまりにも合わないと判断されたりすれば、普通のキャノピー式に変更されます。値段はキャノピー式よりそう変わらないように部品を調達する予定ですが、資源の問題もあり難しいところです」
「乗ってみたいけど、ダメ……かな?」
「乗る事は可能ですが、動かすのは少し手続きが煩雑になりますので申し訳ありませんがまたの機会でお願いします。機体操作に関してはエミタAIにダウンロードする必要があったりして色々面倒ですから」
 朔月の言葉に、崔は専用のヘルメットを手渡しながら告げる。
 傭兵が特別何のレクチャーを受けずとも、KVという複雑な機械を手足の如く操れるのは埋め込まれたエミタAIが体を傭兵自身の望む機動を描けるように動かしているからである。機種交換訓練を必要とせず、多彩な機体を運用する事ができるのもエミタAIに機体の操縦法がインストールされるである。
 また、前回の試験飛行では岩龍のコクピットを利用したため、機体操縦そのものは岩龍と同じ物が利用できたが、今回は専用のモノを使う必要があるためだが、そうした手続きは存外に煩雑で、動かすと想定している時間内に意見の交換会が行えないというのがその理由だった。
 HMD内蔵のヘルメットを被った朔月をシートに座らせ、崔が機体を起動させる。
 自動的にシートが機体内部に格納されると、朔月の視界に起動メッセージが表示され、次の瞬間視界に周囲の状況が映る。通常であれば床で確認できない部位が確認できたり、手には操縦桿を握る感触こそあるものの、コレで空を飛べば生身の肉体で飛んでいると勘違いしかねない程であった。
 朔月以外の希望者もコクピットシートを体感する。
「このコクピットの広さならAU−KVにも対応できそうですね」
「AUーKVには一応対応していますね」
 ドラグーンのAU−KVは人体にパワードスーツを装着する為どうしても体が普通の人間より大きなものとなる。そのため、初期のKVではAU−KVを装着したままでは搭乗出来ないという機種も多いが、現時点においてはAU−KV対応は基本的な事項と化していた。
 ドラグーン以外のの傭兵にとってもシート周りの居住性が高まるため割と好評だ。
「‥‥なんというか、いままでの機体とは色んな意味で違う機体ですね」
 櫻杜・眞耶(ga8467)の感想に、全員が頷く。
 彼女は視察や意見の提出よりも、補給部隊であるReloadedに所属する彼女は将来的に使用することになるであろう機体の下見という形で来ている。
 その為積極的な意見の提出よりはどのような機体になるかを見に来ているという形だ。
 ちなみに高坂や朔月もReloadedに所属している。

 機体の確認を終え、会議室に戻ってきた傭兵達の中でまず声をあげたのが、クラリッサだ。
「機体に関しての要望ですが、まず移動力をそれなりにして欲しいですね。単独運用ではなく部隊に随伴する事を前提としている以上、脚を揃える必要がありますから」
「現状では特別遅い機体ではないですね、少なくとも弊社の岩龍よりは早い機体です。流石に軽量化を追及した秋リリース予定の骸龍ほどの速度は出ませんが」
 手元のパソコンを叩き、正面のプロジェクタに幾つかの資料を提示しながら述べる崔の言葉に自身の望む速度は得られそうだとクラリッサは判断する。岩龍より上という事であれば、特に問題は無いからだ。
「後はそうですね、アクセサリスロットを3以上、基本性能を補うためにもそれくらい必要になるでしょうか。それに伴い装備可能重量を400ぐらいにして欲しいですね」
「それには賛成ですわね、アクセサリスロットが多ければ機体の拡張性も上がりますし。戦闘性能を極力排除して、多目的な後方支援機として欲しいですわね」
 クラリッサの提案に、シャレムも頷く。
「私としては、機体性能的には移動力も重視して欲しいですわ。素早く戦場に突入して急速離脱して安全を確保したいですね。基本的には後方で被弾リスクを減少させる事になるでしょうから、知覚系の超遠距離スナイパーライフル、注ぎ込んだエネルギーに応じて威力が変動するタイプを推奨装備とすれば、敵大型機の狙撃などに使えそうですわね。接近されると死が見えますけれど」
「なるほど、まぁ伊達にエンジンを6基も積んでる訳ではないのでスピードという面で言えば、それなりのモノは持っています。詳細な情報は出せませんが」
「あとは、もう設計終わっちゃってるみたいですけれど、機体をブロック化して部品の共通化を徹底する形でコスト削減をお願いします。機体前半に岩龍のフレームを採用し、後部にコンテナ部を接続、装甲に関しては命綱であるので新規設計‥‥とか」
「コスト削減に関しては機体本体そのものの部品は可能な限り共通化されています、価格が高くなる理由は機体が必然的に大型化せざるを得ず資材を多く消費する事、更にエンジンを多数搭載する事がその理由です」
 難しいなと呟くシャレム。次に口を開いたのは高坂だ。
「補給システムが壊れても、すぐに新しい物に換装できるような構造を希望します。誘爆が発生した際に、手早く修理できると良いですからね、可能なら補給装置と輸送コンテナを選択式にして輸送機として扱えるようにすると便利かもしれません」
 高坂と同じ意見を持っていたノーマも口を開いた。
「補給システムのユニット化ですわね? わたくしもそれに賛成ですの。誘爆が発生して補給システムが壊れても、本体が無事なら基地やユニヴァースナイトでユニットごと交換してすぐに復帰できるようになると思いますわ。勿論、システムの誘爆率が低くなれば戻る必要はあまり生じないかもしれませんが」
「ふむ、確かにユニット化すれば作業が容易になりますね。実質、ユニット化する事もそれほど難しくはありません。ただ傭兵向けとして使う場合輸送機能が必要かどうか‥‥軍仕様なら様々なバリエーションが検討されていますけど」
 返答として崔の述べたその言葉にカーラが反応した。
「あー、私はこの機体、派生型が面白い事になるかなって思ってたんやね。例えば補給装備を重装甲重武装化してガンシップ型。機体各所に旋回型レーザー機銃みたいな装備を積んで、接近してくるワームを撃破する。空の要塞的な機体。あとは重装甲で爆撃や強行着陸を狙う強襲型とか、これらは一例だけど、大型かつ大重量の補給装置を搭載できるこの機体は高い可能性を秘めていると思うわ」
「軍仕様になりまして、傭兵向けに提供される可能性は非常に低いですが、先ほど述べられた爆撃機型というのも実は用意されています。対地攻撃に高い性能を発揮する火器管制装置の設計も終了しましたし、問題はアクセサリスロットに積めないので、専用の装備になる事ですね」
 カーラはその言葉に頷くと、静かに着席する。
 次に意見を述べたのは朔月だ。
「補給部隊で活動する上で、一番の危険は補給物資の運搬中に敵機と遭遇する事、今までは照明弾や煙幕で逃亡時に敵の目を眩ましてきたけれど、もし装甲が薄いなら幻霧をつけて欲しい。装甲はなるべく厚い方がいいけど、それでスピードが落ちるのは嫌ですね」 
 実際の補給活動を行う小隊に属するならではの発言、次に述べたのは実戦‥‥大規模戦で、朔月と同じ小隊で補給作業に従事している櫻杜だ。
 いわゆる補給作業中に被弾という事を可能な限り回避する事を彼女は考えていた。
「装甲は薄くなっても構いませんが、朔月はんも言ったように幻霧発生装置やサブアイシステムなど、敵からの攻撃の回避を重視して欲しいですね。前のお二人も言っていましたけれど、アクセサリスロットは3以上は欲しいです」
「機体が大きく重い分、敏捷性という意味ではやはりどうしても他の機体とは一歩劣る形になりますね。スピードを出す為にエンジンを多数搭載したのもその理由ですが、旋回性能はどうしても低くならざるを得ないんです。価格高騰を念頭に入れれば、フレキシブルなブースターなどで回避性能を引き上げる事も不可能ではありませんけれど」
「価格は、先ほどの理由を考えれば、多少は仕方ないとしても出来れば少しでも低くなるように頑張ってほしいですね」
 そう述べて櫻杜は着席する。 
「機体性能ですが、アヌビスにおける知覚、あるいはロビンにおける攻撃のように不必要な能力はできるだけ削り、その分を燃料に回せたらいいかなと思います」
 移動力に関しても意見を持っていたチェスターだが、今までの回答でそれなりのものは確保されている事を言われていた為、特にその点を述べる事は無かった。
「不必要な能力を削る、ですか。実は既に攻撃力と回避力に関してがそれですね、攻撃力は相当に低いモノになります」
「‥‥そういえば骸龍も不要な能力はバッサリ切り捨てていましたね」
 骸龍開発にもかかわったチェスターは、あそこまで潔く切り捨てる開発を手がけた奉天であれば、そうした方向性に舵を切る事には納得できる。
「後はそうですね、機体特殊能力ですが旋回型レーザー機銃は攻撃手段より、防御手段‥‥迎撃用のファランクス的な運用を取る事は可能でしょうか?」
「あ、私も対実体弾用の防御兵装とする事に賛成です。接近されるとこの機体では詰みですよ」
「俺の意見も一緒だな、装備としては優秀だと思いますが、西王母には向いてないんじゃないかと‥‥プログラム変更など容易ではないかもしれませんが、対実体弾迎撃用のファランクスに作り変える事はできませんか?」
「わたくしもレーザー機銃の対実体弾用ファランクス化を希望しますわ、補給装置を重点的に守るような構造に絞れば、局所的には被弾率を下げられません?」
 チェスターの言葉に守原、ドッグ、ノーマが頷く。
「この兵装、ヘルメットワーム等の機動兵器ではなく対キメラを想定した武装になっているんです。まあ‥‥出力を低下させて連射性を向上、イージスシステムのCIWSのシステムを流用すれば、迎撃機能を付加する事は可能です」
「一般機用に流通させる事は可能ですか」
「ちょっと難しいですね、まずこのシステムが搭載できたのは機体が大型ゆえに設置するスペースを取れた事、他の機体だとシステムが大型なので変形機構に干渉してしまいます。それと6基のエンジンによって副次的に大電力が得られるため、エネルギーパックなどを要さずレーザーの照射に必要なエネルギーを調達する事が出来たためです」
 予想外に簡単に迎撃用として組み替えることが可能と言われ、4人は安堵する。
「アーちゃんは、コスト削減の案を考えてきたよ」
 そう言って次はアークが幾つかの提案を述べた。
「まず、攻撃と命中と知覚、旋回型レーザー機銃をはずして攻撃能力を全部無くしてコストを削減する」
「それら全部を削れば、ある程度の削減は可能ですね、他にはありますか?」
「えーっと、次は変形機構、可能な限り単純な構造、飛行形態に脚と手がついてるだけ、みたいに単純にしてコスト削減や整備負担軽減をしないと、コレをメインとして使う人はあんまり居ないから売れないんじゃないかって思ったから」
「変形機構は正直、もの凄く単純な構造です。完成版の映像を見ていただければ分かるかと思いますが‥‥」
 そう言って崔は、設計図を元に構築された完成版のCG画像をプロジェクタに投影する。
 そこに映し出された映像は、先ほど見た機体の下部に6基の大型アームと弾薬コンテナが搭載された形状をしていた。
「飛行形態においてはこの大型のアームで対象の機体を固定、複数装備したサブアームから弾薬の装填や燃料の注入を行います。変形機構はこのようになっています」
 機体の構造を簡単に説明した後、機体がゆっくりと変形を開始する。実際の変形にかかる所要時間は一瞬のものなので、スローモーションとしての映像だ。
 その変形機構は大型のアームの部分が転回し、脚部へと以降し、機体本体が若干変形する程度の至極簡単な物だった。
「あれ、手は?」
「この機体で格闘戦をする気があるならつけますが、現時点では白兵戦闘を行う事は想定されていないため、腕部はついていません。しいていえば補給作業用のアームが精密作業に適していますが、武器を振るうほどの能力はありませんね」
「ふーん」
 アークは単純な変形機構は採用されている事に頷く。
 それに続いたのはドッグだ。
「もし誘爆の可能性が0%に出来ないなら、頼みがあります。無茶なお願いとは分かっているんですが、補給システムが壊れてもお荷物にならないように岩龍の特殊電子波長装置あるいはそれに準じる物を搭載する事はできないでしょうか?」
「無理ではないですね、ただあのシステムは相当に電力を食うため、旋回型レーザー機銃あるいは防御用ファランクスを取り外す形になるかもしれません」
「そういう意味ではラージフレアなどの敵の攻撃を逸らす装置は積めないかな? レーザー機銃みたいなものより、被弾率を下げるという意味ではこういうのも有効だと思いますよ」
「アーちゃんは幻霧発生装置つけて欲しいな、当たりにくくなると良いから」
 忌瀬とアークが自分たちなりに考えた被弾率を低下させる仕組みを提示する。
「私も被弾率を低下させるような仕組みがあれば、それには賛成ですね」
 皇もリスクを軽減するような仕組みには積極的に賛成の意を示す。
 守原もそうしたリスク軽減策は考えていたらしく、意見を出す。
「補給機は敵に優先的に攻撃される危険がありますからね、接近される前に友軍に対処して貰うか、接近されたら全力で退避できるような装備が欲しいですね。アヌビスの固定ラージフレアは有効ですが、MSIの技術などで難しいでしょう」
「G3Pで連携する事になっていますから‥‥色々と難しい面もありますが、固定ラージフレアの導入は不可能ではないですね」
「出来るのですか、あと対プロトン砲、フェザー砲の防御策として考えたのですが、金属片にエネルギーを付与して散布、威力を相殺・減殺する防御装備とかどうでしょうか?」
「それは西王母専用というよりは武装かアクセサリとして作った方が良いですね」
「そういう事なら私も考えてきましたよ」
 そう言って高坂が自身の案を説明する。
「考えたのは敵から捕捉される可能性を減らす物ですね、レーザー機銃などの防御性能より敵に見つからないような状態にすれば安全かなと思いまして」
「ふむ」
「電子迷彩などを考えてみました、具体的には自機のジャミング装置で敵の重力波センサーに対するステルス性を得る事です、イビルアイズのロックオンキャンセラーの技術を参考にすればいけるのではないかと、完全なステルスは困難でも遠距離から西王母の正確な位置が掴めない程度でもいいですが」
「無理ではないですが‥‥ドローム社の技術はブラックボックスが多くて解析しにくいんですよ。関連論文が伏せられているものもありますので、今から技術研究すると相当な時間を食う事になりそうです」
 それまで何事か考えていたパチェが口を開いた。
「出撃前にリスクコントロールが自在に行えれば、それが理想なのよね‥‥ユニット化という話があったけれど、リスク0、50、100みたいに分ける事はできないかしら?」
「不可能‥‥ではないですが、複数のユニットを用意する必要上どうしても値段が跳ね上がってしまいますね」
「価格も厄介な敵なのよね」
 そう言ってパチェは苦笑する。

「幾つか質問よろしいかしら?」
「何でしょう?」
 ノーマの言葉に崔が首を傾げる。
「補給用の燃料は西王母本体からの供給か、補給システムからの供給か分からないのですが」
「現時点では本体、及び補給システム双方からの供給になります。補給システムそのものが追加燃料タンクをかねている形ですね」
「なるほどー、わたくし、推奨装備として本体の耐久性を上げる事のできるフレームなどを希望しますわ。いわゆる大型化フレーム?」
「現時点でもかなりの大型機ですから、更に大型化するのは少し難しいかもしれませんね。検討はしますけれど」
 ノーマが推奨装備に関して意見を述べると、チェスターもH−112長距離バルカンをベースにリロード可能な兵装を提案した。

 会議も終了となった後、守原が口を開く。
「あ、今回の依頼に直接は関係しませんけれど、新人傭兵用に供与される機体に中量機が欲しいですね。西王母を小型化、補給機としてではなく汎用機として調整をした機体か翔幻を万人向けに大型化・改良する形です。初期機が軽量級か重量級しかないのが少し心配で」
「今からでは少々難しいですね、勿論新型は色々と考えていますが、上のほうから単純に強い機体やバランスの取れた機体は他社に任せるべしという通達が出ていますので」
「‥‥そうですか」
 最後に部屋を退出するカーラが戸口で振り返り、今までのやや軽そうな口調か声を真面目なものに一転させる。
「この機体は私がずっと欲していた機体よ。既存の作戦を一変させて時代遅れにさせる事すら可能かも知れない。応援するわ。絶対に完成させて」
「はい、ありがとうございます」
 そのカーラの激励の言葉に、崔は微笑と共に礼を述べた。