●リプレイ本文
駐機場に停止した大型機を前に、興味を引かれた様子で小さな影がトコトコと近づいていく。
「超巨大目玉おやじかはたまた大怪球かが謎なのでありますよ」
大型機の下に備え付けられた球状の特殊電子波長装置εを小さな影はしげしげと覗き込む。
影の正体は今回の依頼を受けた傭兵の一人、美虎(
gb4284)だ。
「雷電がベースかと思ったのですが、違うようですね」
カタログスペック上、最もペイロードに余裕のある機体がベース機と予想していたナンナ・オンスロート(
gb5838)だが、その予想は裏切られている。
眼前の機体の全長は優に30mを超えている。
仔細に機体を観察していた秋月 祐介(
ga6378)にも原型となった機体が判別できない。完全な新型機と呼んで良い機体だろう。
ただ、機構や部品の配置的に確実に変形するだろうという事が判別できるのみだ。
コクピットブロックは本来のものとは異なり岩龍のものが急場しのぎで接続されているため、そこだけ違和感を感じさせる。
「コクピットはまだ完成してないから、無理矢理岩龍の物を搭載しました。その為変形機構は現時点ではロックしてあります」
「放すでありますー」
特殊電子波長装置の接続や機密情報満載の機体各部のチェックをしていた崔 銀雪(gz0103)がじたばた暴れる美虎を抱えながら出てくる。
機密情報に関わりかねない部分にまで近寄ってきたので捕獲されたようだ。
「大型機ですか‥‥UKの参番艦でしょうかね?」
「詳細は社外秘なのですが、この機体に関してはKVとして開発されています」
狭霧 雷(
ga6900)の言葉に崔は、機体そのものに関しては既存機を大幅に上回る大型のKVを製作中である事を伝える。
「‥‥」
無言のままやり取りを聞いているのは目隠しをつけた男、エリク・ユスト・エンク(
ga1072)。
目隠しは覚醒によって傷が生じる為に、その傷痕を隠すためにつけている。
目を瞑っていても充分に訓練を積んだ人間なら環境音の反射で周囲の状況を判断出来る、そうした技術を使っているのかどうか定かではないがエリクの行動に支障は無い。
「レドームとかは付いてないのね‥‥早期警戒機って訳でもなさそうだし」
機体外観を観察し、藤田あやこ(
ga0204)は呟く。
コクピットも事前に説明されたごく普通の岩龍のものであり、藤田の期待したものではなかった。
大型機を操縦する事となった秋月は、サブシートに座る崔から機体特性の説明を受けながら視線を前に向ける。
乗りなれた岩龍の風防からは、瓜生 巴(
ga5119)が駆る雷電や、祠堂 晃弥(
gb3631)のミカガミが滑走路から離陸していく所が見えた。
KVであるならば、50mの滑走でも充分に飛び立てるだけの揚力を得られる。
機体の片側に3基づつ、合計6基備えられたジェットエンジンが空気を吸入、噴射。
重力の束縛を断ち切り空中へと飛び立つ。その様を、狭霧のウーフーに搭載された観測機材が撮影していた。
傭兵たちは、迎撃班と護衛班の二組に分かれ、迎撃班が大型機にやや先行する形で飛行を続ける。
「護衛の依頼と機体の相性が良いので、一種の研修だと思って志願しました。現在の戦闘では電子支援機の存在は欠かせません。諸先輩方がどのように電子支援機を運用するかまた防衛するのか、参考にしたいと思っています」
「美虎は、G3Pが気になったのであります」
飛行中、今回の依頼が傭兵登録をしてからの初の依頼となるナンナがやや緊張した様子で今回の依頼を受けた動機を述べると、美虎が幼い声で反射的に自分の動機を答える。
傭兵たちがこの依頼を受けた動機としては、新型機が気になったもの、特殊電子波長装置が気になったものなど多様だ。
他愛無い雑談や、実戦での注意点などを会話しつつ、地図上では既に競合域からバグア支配域へとかかる頃合‥‥それはつまり敵側の迎撃が上がってくる可能性が高い‥‥に近づくに連れ口数も減り、全員の視線が油断なく周囲に向けられる。
狭霧のウーフーが強化型ジャミング中和装置を起動し続けているが、レーダー上のノイズは支配域へと近づくにつれ増大していく。
瞬間、ノイズが急激に高まる。
「バグアごときに試験は邪魔させないであります」
いち早く接近するヘルメットワーム数機とその後方に控えるキューブワームを確認した美虎がイビルアイズに搭載された試作型対バグアロックオンキャンセラーを起動する。
機体を中心とした広範囲の重力波を僅かに乱れさせる効果は、重力波による探知を中心とするバグア機に対しての人類側からのジャミングと言える。
「どんな効果がみられるでありますかね〜、わくわくわくわく」
初めて使うイビルアイズの特殊能力の効果に期待を抱きながら、美虎の指がウェポンセレクタをH12ミサイルポッドに設定すると同時に、接近するヘルメットワームの1機を瞬時にロックオン。
指がミサイルの発射ボタンを押す。
刹那、ミサイルポッドから合計45発の小型ミサイルが射出され、ロックオンキャンセラの影響で回避能力を低下させたヘルメットワームの鼻先に次々と着弾。
これが試験開始の合図となった。
「特殊電子波長装置ε、起動」
秋月がコクピットのスイッチを入れる。岩龍であれば通常は常時オンとなっている特殊電子波長装置αのスイッチは今回はεに割り振られている。
巨大な機械の眼球が僅かに振動しながらその視線を、盛大にジャミング波を放出するキューブワームへと定める。
「‥‥‥‥あれ?」
ヘルメットワームとの格闘戦を繰り広げる瓜生は一瞬、眼前のレーダーが故障したのかと錯覚した。
大抵、キューブワームが居れば、電子戦機が居てもその影響力を僅かに低下させる程度の事しか出来ない。ウーフーと岩龍の2機がかりでようやく影響を半減させる事がができるくらいだ。
その影響が全く無いどころか、逆に通常時よりもレーダー画面がクリアになっている。
「‥‥」
シュテルンを駆るエリクもその効果に内心感嘆の思いを抱きつつも無言のままに、敵機に向けて3.2cm高分子レーザー砲を照射する。
レーダーが晴れるという事は即ちより早く、確実に敵機の位置を捕捉出来ると言う事だ。
エリクの射撃は過たずヘルメットワームの中心を穿ち、その機体を爆散させる。
ちなみにエリクの機体にも偵察装置が設置され戦場の情報を自動的に収集している。
「動きを止めるわ、誰かヤツにトドメを刺してくれ」
瓜生も撃ちつくしたミサイルからウェポンセレクタをG放電装置へと移動させ、煙を吹きながらも果敢に向かってくるヘルメットワームの進路上に放電現象を発生させる。
放電装置基部では消費し尽したエネルギーカートリッジが排出され、新しいものへと交換される。
「隙ありであります!」
放電の影響で姿勢を崩したヘルメットワームを上方から降りた閃光が貫く。
光が閃いた直後、上空からパワーダイブをかけたイビルアイズがその場を駆け抜ける、致命的な一撃を受けたヘルメットワームは機体をよろめかせながら地面に墜落し激しい爆音を響かせる。
迎撃班の僅かな隙を突き、ヘルメットワームのうち1機が大型機へと接近するコースを取る。
いかに距離を取っているとはいえ、高速で展開する空中戦等ではその距離は一瞬で縮まる‥‥が、そのヘルメットワームも上空から降り注ぐ弾丸に出鼻をくじかれ、コースを回避機動へと移行させる。
その脇をすり抜けた藤田が操るロジーナは翼を翻し、翼端からヴェイパートレイルを引きながらヘルメットワームを追尾する。
「ストームブリンガー、いっけぇ!」
藤田が叫ぶと同時に、ロジーナの機体特殊能力を発動。
エンジン出力が瞬間的に高まり、機動性を増したロジーナがヘルメットワームを射界に収める。素早く武器を8式螺旋弾頭ミサイルにセットし、発射。
回避機動を取るヘルメットワームを追尾したミサイルが、装甲に接触すると同時に先端部のドリルが高速回転。敵機の装甲を削り取り、内部へと侵入したミサイルが炸裂する。
「私は、武装も然程強力なものは積んでませんが‥‥」
そう言いながら、ナンナは突破を図る敵機にバルカンで牽制射撃をかけ、狙われれば逃げ回りながら味方機が攻撃しやすい位置へと誘導を行うなど、火力面に現れない戦い方をしていた。
攻撃を支援射撃のみと割りきり、自身の出来る事を最大限実行する。
技量的には未熟だが、この割りきりのため、ヘルメットワームにとってナンナは地味ながら厄介な障害となっていた。
「かなりの効果を発揮しているようですね‥‥現状の特殊電子波長装置εの稼働率は70%前後、やはりこの機体では要求される電力を賄えないようです」
その様子を眺めながら、崔は機体状況をチェックする。
先ほど一時的に狭霧が強化型ジャミング装置を一度切り、特殊電子波長装置εのみでのテストも実施したが、その状況では若干レーダーにノイズが生じ、迎撃効率が低下した為即座に再起動をかけている。
「‥‥この効果で70%ですか」
「これが量産されれば戦闘も大分ラクになりそうだな」
秋月が100%時の効果を想像し、祠堂が量産時の効果に期待を寄せたその瞬間、レーダーのノイズが増大する。
「‥‥問題があるとすれば、一個だけでは後方や側面は全くカバーできない事ですね」
特殊電子波長装置εの視線は先に探知した1点に固定されている。となれば効果範囲外にキューブワームが出現したと言う事だろう。
「後方5時の方向から来るぞ!」
視線を素早く左右に走らせた祠堂が、後ろから迫る機影を確認する。
迎撃班は前から次々と襲い掛かる敵機を防ぐのに精一杯で、護衛部隊を援護する余裕は無さそうだ。こちらに援護を出せば、迎撃班が相手にする敵機に突破され、大型機が危険に晒される。
幸い後方から迫る敵機の数はそう多くは無い。
機首を翻し、狭霧が迫るヘルメットワームの後方に位置するキューブワームを搭載ミサイルの射界に収め素早く2連射。
耐久力の低いキューブワームはその攻撃で四散し、ジャミングの効果が低下する。
祠堂もまた、スナイパーライフルの照準を冷静にキューブワームへと定め、撃墜する。雪村の使用も考えていた彼だが、空中戦闘時に白兵武装を使う事は出来ない。
正確には使えない事も無いのだが、空中で変形し、人型形態にて白兵武装を使用するという事はベテランでもバランスを保つ事が困難な行為だからだ。
下手をすればバランスを崩し墜落、そうでなくとも敵機の格好の餌食となる。
「‥‥事前に教えてもらえて良かったな」
飛行中、初実戦のナンナとの会話の中で、空中変形はやめた方が良いという話を聞けたのは彼にとって幸いだったと言える。
残る敵機はヘルメットワーム2機。
S−01などが主力であった時代にはS−01が3機でようやく1機のヘルメットワームを落とせると言う状況であったが、高性能のKVや武装が揃う現状では1:1でも落とす事は可能だ。
加えて撃墜する必要は無い。試験想定時間はあと僅か、それまでの時間を稼げば良いだけだ。
狭霧がUK−10AAMを撃ち放ち、被弾の衝撃で動きが一瞬止まったヘルメットワームに対しDR−2荷電粒子砲を発射する。生産施設やブラックボックスなど色々と黒い噂が付いて回る武器ではあるが、威力は高く、消費される錬力も少ない。
粒子加速器から放たれた荷電粒子はヘルメットワームの装甲を砕き、甚大な被害を与える。
煙を噴き上げ、ふらつくヘルメットワームを祠堂が見逃す事は無かった。
時間を稼ぐのが目的で撃墜の必要は無いが、撃墜すればそれだけ安全になる。
HUDに表示されるミサイルコンテナが、ヘルメットワームを捉え、敵機をロックオンした事を示す。
「こうした支援の立場からの視点を今後に活かす事もあるのだろうな」
そんな事を思いつつ、躊躇無くホーミングミサイルD−01を射出する。
高い攻撃力を誇るドローム社製の中距離ミサイルがヘルメットワームを打ち砕き、火球へと変じさせる。
「1機撃墜」
「了解」
もう1機のヘルメットワームは伝達されたDR−2荷電粒子砲のダメージとホーミングミサイルD−01の威力を見ても怯まなかった。
無人機ならではの思い切りの良さと言える。護衛される新型機がいるからかもしれないが。
二人が残りの敵機を撃墜すると、秋月からの通信が入る。
「データ採取が完了しました、本機はこれより戦闘空域を離脱します」
「飛行中も思いましたが、機体が大きいだけあって、曲がるのが大変ですね」
「機動性そのものは引き上げようと思えば可能なのですが、想定される用途では機動性よりも安定性を重視していますからね」
秋月の言葉にサブシートの 崔が答える。
「安定性と大型の機体‥‥爆撃機といったところでしょうか? この特殊電子波長装置ですが、死角を無くす為に連装ではなく、回転式レーダーアンテナの様に装置自体を回転させる事で軽量化はできないでしょうか?」
「機体に関しては秘密です。回転式にすると指向性アンチジャミングの意味が薄くなってしまいますね」
データ収集任務を終え、基地へと帰還すると瓜生が感想を述べる。
「正直、これだけレーダーがクリアになるとは意外だった。こんな大型機が飛んでれば、絶対それを狙って来るから、アンチジャミングの元が特定されたかどうかは判断できないと思うけど」
「美虎のG3Pの推理を述べるであります! UK3番艦に違い無いであります。水陸両用バイク型で生首型で超キモカッコイイ、イカス空中要塞なのであります!」
水陸両用でありながら空を飛ぶなど、いささか支離滅裂な台詞を元気よく述べる美虎。
苦笑しながらも崔は、その可能性は否定できないが、詳細は知らないと回答するのみだ。
「速度の出る電子戦機は‥‥やっぱり夢かしら、重い機体はその‥‥不安になります」
「高速電子偵察機として、秋に骸龍がULTへと納入される予定となっています。現在、生産工場の選定と資材調達中です」
ナンナが電子戦機への意見を述べると、ワイバーン級の移動力を誇る電子戦機の発売スケジュールを伝える。
機体が軽量なため回避能力に優れるが、反面装甲が極端に脆いという弱点を抱える機体だが、シミュレータ上では被弾率0%を達成した機体だ。
「自分も開発に関わった事もあり、発売が決まった事は嬉しいですね。秋と言うのが正直微妙ですけど‥‥奉天の別部署で情報補助システムの開発の話がありましてね、骸龍や電子戦装備と組み合わせれば、需要も見込めて企画価値も上がると思うのですが‥‥興味が有ればあちらとも話してみていただけませんか?」
そう言って秋月は以前参加した開発以来の部署の連絡先を手渡す。
「検討してみますが、必ずしもOKとは言えませのでご了承ください」