タイトル:【朱の桜】キメラテストマスター:左月一車

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/21 01:07

●オープニング本文


 廃工場の一角に、大型トレーラーが駐車していた。
人気の絶えた廃墟は、物事を秘密裏に進めるには充分と言える。

「で‥‥コレをテストしろって?」
 トレーラーの荷台に積み込まれた檻の中のモノを一瞥して、黒髪の女が目の前の老人に尋ねる。
 檻の中のものはキメラと呼ばれる生物兵器。
 幻獣をモチーフとした生物兵器だが、いわゆるキメラ、キマイラと呼ばれる存在にソレは酷似していた。
 東洋では鵺と呼ばれるモノだ。
「お前さんの機体は、修理と強化にちと時間がかかる。遊んでても構わんが、仕事してくれるとわしは嬉しいの」
「仕事は構わないけれど、ここで放って放置していればいいの?」
「放置っちゅーか、あれだ。多分能力者でてくるじゃろ、それとの対戦を観察してくれればいいでの‥‥そこで見てるのが多分呼んでくれるじゃろ」
 老人と女性がほぼ同時に、二人のやりとりを監視していた影へと目を向ける。
「‥‥流石に強化人間やヨリシロの感覚は鋭いですね」
 声と共に降参とばかりに手を上げ、男が一人放置された資材の影から歩み出る。
 おどけた声だが、男の目は緊張感に満ちていた。
「そんなに警戒せんでもええわい、お前さんには用は無いでの。ほれ、とっととUPCに電話でもして能力者呼んでこんかい」
「別にこっちで電話してもいいんじゃないの?」
「ほれ、わしはあれだ。目の前で人が死ぬとショッキングで心臓が止まったり止まらなかったりして大変なんじゃよ‥‥」


 依頼書がUPC本部のモニターに表示される。
 概要はごく単純なキメラ退治‥‥だが、付記された文章が一際異彩を放つものだった。

●参加者一覧

ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
二条 更紗(gb1862
17歳・♀・HD
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN

●リプレイ本文

 廃工場のゲートをくぐり、8人の傭兵は其々の得物を引き抜く。
「ここに居るって話だが‥‥視界が悪ぃな」
 特注の大剣、ブレイドマスターを油断無く構え、ブレイズ・S・イーグル(ga7498)が周囲に視線を走らせる。
 彼の言葉通り、工場の敷地内には無造作にコンテナや資材が放棄され、身を潜める場所は多い。植松・カルマ(ga8288)が見取り図を受け取っていたが、あまり役に立ちそうも無い。
「とりあえず、事前の班分け通りにいくッスかね?」
「そうだな、ここで突っ立ってても仕方ない」
 植松の言葉に、麻宮 光(ga9696)が頷く。
 
 A班とB班、2つの班に分散して敷地内に潜むキメラ‥‥キマイラの捜索を開始する。戦力の一時的な分散ではあるが、所在が不明な敵を捜索する際に取る事の多い、ある種基本的な方法である。
「うむ‥‥コレみても、さっぱりわかんないじゃん!!」
 敷地内見取り図と実際の現場の違いに、火絵 楓(gb0095)が半ば反射的に大声で叫ぶ。
 隠密行動を取っている訳ではないのだが、相手の注意を惹くには充分だ。
 鷲羽・栗花落(gb4249)が手にしたリボルバーを構え、反射的に後方を警戒するが特別何かが来る様子はない。
 ふっと軽く息を吐いて、半ば無意識に地面に向けた視界に、人間のものとは違う妙な影がある事に気づいた彼女。振り仰ぐ前にその場を飛び退く。
 一瞬前まで彼女の居た場所に、重い着地音を響かせ、着地したのは様々な生物を継ぎ接ぎした神話上ではキマイラと呼ばれる存在だ。
 爪の一撃を空振りしたキマイラは、そのまま臨戦態勢を取る能力者達へと雷撃を放つ。
「居やがったな‥‥A班、目標と遭遇した、交戦中だ!」
 体を傾け、雷撃を見切りかわしながらブレイズが無線機に敵発見の報を入れる。

「やれやれ、こうも身を潜められるような資材があると油断もできないね」
 周囲に目を向け、、鳳覚羅(gb3095)が溜息をついた瞬間、無線機から雑音混じりにブレイズの声が入る。
「A班が敵と接触したみたいです」
 二条 更沙(gb1862)がいち早くその声に反応する。ほぼ同時に、コンテナの隙間から雷撃の閃光が見えた。
 錬力節約のため押し歩きしていたリンドヴルムに跨ると、人型形態へと変形させる。アーマーで全身を覆うとA班の居るだろう位置へと装輪走行で移動を開始。
「死角を突ければ良いのですがね」
 二条を追い、B班に属する鹿嶋 悠(gb1333)、鳳、植松が走り出す。

「さて‥‥どう出てくるかな?」
 両の手に装着したディガイアを油断無く構え、キマイラの出方を伺う麻宮。
 能力が不明なため、どうしても慎重にならざるを得ない。
 キマイラ側も迂闊に仕掛ける事はせず、隙を伺うように身を沈め、体のバネでいつでも仕掛ける事が出来るよう構えを取る。
「うー‥‥結構見た目グロいなぁ」
 油断せず相手を見つめる鷲羽が思わずといった感じでつぶやく。
 彼女の目に映るキマイラは獅子の頭にヤギの胴体、蝙蝠の翼、蛇の尾という生物を継ぎ合わせた異形の存在だ。バグアのキメラが伝承に出てくるモノが多いとはいえ、キマイラは中でもかなり異質な存在といえる。
 そうした継ぎ接ぎの存在というのは人によっては嫌悪感を誘うものなのかもしれない。
 緊張感が張り詰める中、鷲羽と火絵‥‥後方からの支援を担当する二人が手にした銃を発砲。廃工場に火薬の炸裂する音が響く。
 拳銃弾を翼で弾き飛ばし、発砲音を合図にしたかのように、キメラが前衛に立つブレイズと麻宮に向かい飛び掛る。反射的に手にした武器を構える二人の間合いの僅かに外で着地したキマイラは、四肢のバネを駆使して、跳躍。
 二人の頭上を飛び越え、跳躍の頂点で後衛に雷撃を放つ。
「きゃっ!?」
 慌ててその場を飛び退く二人の間に雷撃が炸裂し、地面にを抉り取る。雷撃の軌道が不規則な為、狙った場所への直撃をさせる事は出来ないようだが、回避する側としてもその不規則さは厄介だ。
 キマイラが接近した事で火絵はその量の手に装備した赤い爪を持つ試作型超機械Red・of・Papilionをキマイラの体表へと接触させる。
「もっと! もっと! もっと燃えろー!」
 音声認識で超機械の駆動部が展開し、放電がキマイラの体表を焼く。
 それなりの威力はあったのだろうが当然トドメには遠く、キマイラの体表に触れるという事は逆に身体攻撃の間合いに入った事意味する。
 反撃として振るわれたキマイラの爪が火絵のジャケットを引き裂き、その下の肉を大きく抉り取る。
 ダメージに顔を顰める火絵に追撃を追撃をしようとしたキマイラの目前に、残像を残して麻宮が滑り込む。グラップラーの身上でもあるスピードに加え、瞬天速で一時的に脚力を高めた結果だ。
「それ以上はやらせない!」 
 麻宮がキマイラの鼻先を狙い双刃を振るう。
 SES機関独特の吸気音を響かせながら迫るディガイアを反射的に回避するキマイラの背中に、空気を割った衝撃波が直撃する。
「ちっ、そう大したダメージじゃねぇな」
 大剣を振りぬいた姿勢でブレイズが吐き捨てる。キマイラと彼を繋ぐ直線状の地面が衝撃波で僅かに抉られているのを見れば、ブレイズがソニックブームを発動した事が分かる。
 スキル使用で瞬間的に全力稼動を強いられたSES機関が余剰の熱を排熱すると同時に、ブレイズの脚が地を蹴り、キマイラへと接敵。
 斬撃を叩き込もうとした刹那、キマイラが側面へと跳躍し、コンテナ上に飛び乗り傭兵達から間合いを取る。
「簡単にはいかない相手ですね」
 一連の攻防に、鷲羽が身を引き締める。
 今回の依頼に参加している能力者達は何度も実戦を経験しているベテラン揃いである。並の中型キメラであれば、然程苦戦する事も無い彼らを相手に互角に近い戦いを繰り広げているという事は、このキマイラが相当な高性能を誇る生物兵器である事を示している。
 
 戦域に急行するB班。 
 普通に移動したのであれば、資材やコンテナといった障害物が邪魔にはなるが、能力者特有の身体能力を駆使すれば直線での移動が可能だ。つまり障害物を飛び越えていく方法である。
 先行する二条の視界にキマイラの姿が写る。
「いきます、わたくしを贄として敵の見極めをして下さい」
 リンドヴルムの人口筋肉を駆動させ二条はそのまま加速、跳躍により得られる落下の加速を利用して、イアリスを振り下ろす。
 二条の攻撃に反応した蛇の形状をした尾が口を開き、その口から氷点下を遥かに下回る冷気が噴射される。まともに食らえば凍傷確実な冷気だが、駆動するリンドヴルムは熱を持っている。
 ある程度の中和に留めた上、全身装甲であるリンドヴルムには然程効果は無い。
 そのまま斬撃を叩き込み、キメラの体に浅い傷を入れる事に成功する。
「俺も行こう」
「突っ込み過ぎたらフォローするッスよ」
 大型のSES機関を搭載するフォルトゥナ・マヨールーで牽制射撃を行う植松の横を、鹿嶋、鳳が駆ける。
 鹿島は特注の超大型金切鋏、零式装甲剥離鋏を鋏を閉じた状態で横薙ぎに振るう。
 鈍器としての扱いの其れを翼で弾き、鹿島に続いて機械剣「莫邪宝剣」による光刃を振るう鳳の攻撃を身を捻る事で回避する。
「なかなか、やってくれるね」
 鳳が微笑を浮かべたままそう呟く。
 彼の手にする機械剣のSES機関がエミタAIのコントロールで限界近い出力を発揮する。同時に吸気音が一際大きくなり、光の刃が閃光と共に迸る。
 無形の刃であるが故の、質量を無視した斬り返し。
 それに両断剣を合わせた一撃はキマイラの体表を斬り裂く。同時にその傷口へもう片方の手に装備したエクリュの爪を捻じ込む。
 苦鳴の咆哮を上げ、反撃とばかりに放たれる雷撃が鳳の体を貫いた。

 戦いは一転して能力者達の優位に進み始めた。
 中型キメラとしては並外れた身体能力、耐久力に加え、雷撃や冷気といった特殊能力を備えたキメラだが、8対1を覆せるほどの能力は有していないようだ。
 もっとも、これが1対1の戦いであれば、ベテラン能力者といえど苦戦は免れないだろう。
「‥‥それなりに使えるか、こういうのはあまり趣味ではないが」
 そうした戦いの様子を空中投影した映像で眺め、手にした端末にキメラの性能を入力していく女性。
 バグア側の能力者とも言える、強化人間。その一人である朱桜咲耶だ。
 彼女の傍らには有機的なデザインをした刀が一振り立てかけられている。
「さて、後はどの程度持つかといった所か」

「能力も大体分かったから、一気に行くッスよ!」
 植松が拳銃をホルスターに収め、イアリスを抜く。
 強化を重ねた曇りの無い刃は通常のモノよりも遥かに高い斬れ味を発揮する。すばやく側面に回りこんだ植松が、刃を振るう刹那、刀身に、通常時を上回るエネルギーが瞬間的に注ぎ込まれる。
 その威力はキメラの体表を刻むのに十分なものだ。
 植松が反撃を警戒して間合いを取るために跳躍、直後、血飛沫が舞う。
「抉り込む様に穿ち、斬り裂く!」
 言葉と共に二条が刃を振るう。
 手にした武装は植松の物と同様、AU−KVの人口筋肉が彼女の意思に応じて刃を振るう。
 全身を覆うほどの装甲でありながら、動作を妨げず力を増幅する。それがAU−KVの人型時の特徴でもある。更に、手にするイアリスへとエネルギーが流れ、威力を増大させる。
 植松の使った、両断剣と竜の爪は同じように威力を増幅させるスキルではあるが、その効果はやや異なる。
 両断剣が瞬間的な増幅に優れているとすれば、竜の爪は持続的なものだ。
 二条の振るった刃が翻り、連続の斬撃となりキマイラの体表を刻む。
 覚醒の影響による銀の腕に強化された細身の剣、ハミングバードを引き抜き鷲羽がキマイラの背後に回りこむ。
 背面の尾の蛇はそんな彼女目掛けて冷気のブレスを照射。
 あらかじめ攻撃を予測していた彼女は軽くステップを踏み回避を試みるが、広範囲に広がった冷気を完全に押さえ込む事は出来ず、若干のダメージを追う。
「やああああっ!」
 隙を伺い間合いに飛び込んだ鷲羽が体を大きく回転させる。
 遠心力を加味した斬撃。狙いは尾の付け根。
 尾を斬り飛ばす事で攻撃力の減衰を狙った一撃だ。
 キマイラも黙って攻撃を受ける訳ではなく、彼女の攻撃は盾として機能する強靭な翼に受け止められる。
 同時に放った雷撃が、周囲にて近接攻撃を繰り返す能力者達を貫く。
「ぐうっ」
 一撃を受けた鹿嶋が呻きを上げ、痺れを残す体を強引に動かして大鋏による刺突を行う。
 狙いは、二条が傷つけた部位と同一。
 肉を抉る手応えを得ると同時に手首を捻り、傷を強引に広げる。
「ホラホラ! 逃がさないよ〜」
 再度、間合いを取ろうと翼を羽ばたかせ、飛び上がるキマイラの周囲に銃弾が舞う。
 両の手にハンドガンを構え、交互に射撃。牽制の弾幕を張るのは火絵だ。先ほどの一撃で抉られた肉は活性化による賦活された細胞の自己治癒能力により徐々にではあるが塞がりつつある。
 火絵の牽制射撃で動きが鈍る。
 その隙を見逃さず、麻宮が瞬天速に拠る残像すら残す勢いであらかじめ把握しておいたコンテナを踏み台に跳躍。
 キマイラの上方からの急襲を敢行。
 体重と降下の勢いを加味した一撃は、深々とキマイラの背に両の双爪を埋め込み、同時に地面へと叩き落す。
 飛び退る麻宮に続き、鳳の振るった光刃が反射的に翼による防御を行うキマイラの翼を根元から切断。
「殺界開放! 一気に行くぜッ!」
 ブレイズの体を包む黒いオーラが赤いオーラへと色を変え、迸る。
 彼の持つ大剣に備えられたSES機関が咆哮の如き吸気音を立て、刃へと最大の威力付与を開始、正面からの斬撃。更に機構を活かして双剣へと分離、逆袈裟、袈裟の斬撃。合体させての突きを見舞う。
 怒涛の連撃の一部は翼によって阻まれるものの、その防御を貫いた攻撃はキマイラの致命的部位を打ち砕くのに充分なものだった。

「こんなものか‥‥死骸の回収は別に必要とは言われてなかったし、帰るか」
 空中に投影した映像が、キマイラの死を映し出す。
 最後のデータを入力した端末を懐へと仕舞い、傍らの刀を手に無造作に歩き出す朱桜。その向かう方は工場出口、傭兵達の視界内でもあるが、然程気に留めた風もない。
 彼女の移動に気づいたブレイズが放った衝撃波を平然と鞘に収めたままの刀で打ち払う。
「それだけ消耗した状態でやる気なら、相手になるけど」
 冷たい目で傭兵達を一瞥。
「バグアやってて楽しいッスか? なーんでキメラ作るとかすっかなー」
「さぁな。ま、兵力を補うためなんだろうさ」
 植松の問いに、さらりと回答。
「貴女方の目的は何なんですか?」
 二条が警戒を滲ませたままの硬い声で問いかける。
 多くの人間が持つ問いだろう。
「答える義理は無いが‥‥そうだな、私の目的はこの地上から私を含め人間と言う欠陥を持つ存在を一掃する事だな。他の連中が何を考えているかまでは興味が無い」
「欠陥?」
「人間ほど欲深く、正義を掲げて同族を躊躇無く殺し、星を蝕む存在はそうは無いだろう?」
「それは‥‥でも!」
「良い所もある、それは認める。愛、友情、そういったものが素晴らしいものだとは思う。しかし、同時に悪もまた多い、ならば人類と言う種は欠陥があるという事だろう。ゆえに滅ぼす、それが私にとっての正義だからだ」
 朱桜の回答に迷いの色は無い。
「ならば、貴方は大量殺戮、人体実験を繰り返すバグアが善だとでも?」
「人類も動物実験を繰り返すだろう、更に同族間での大量殺戮もな‥‥ただ、バグアも悪なのだろう。いや、知的生命体という存在全てが悪なのかもしれんが、少なくともバグアは人類よりは善だと判断する」
 鳳の問いにも一切の揺らぎは見せない。
 そこにあるのは、己の信ずる正義を貫かんとする態度のみ。
「直に会うのは初めてですね‥‥戦う意思が無いのなら手を出すつもりはありません。決着はいずれ‥‥」
「そうだな、そのうち決着をつける時は来るだろうさ。お互いがそれまでに死なない限りは‥‥ただ、追われても面倒だ。命までは取らんが、足止めはさせてもらうとしよう」
 そう告げて鞘から刀を抜き放つ。
 有機的なフォルムのそれは、どことなく禍々しさと力を持っているように見える。
 反射的に武器を構える傭兵達に向けて、先ほどブレイズが放った衝撃波に倍する威力の一撃が砂塵を吹き上げさせながら放たれる。
 キマイラ戦で消耗した傭兵達に其れを逃れる術は無く、吹き飛ばされる。ダメージ自体は直撃を受けた者以外は大したダメージではないが、巻上げられた砂が煙幕の役目を果たす。
 視界が戻った時、すでに底に朱桜の姿は無かった。