タイトル:嘲笑する虐殺者マスター:左月一車

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/27 00:02

●オープニング本文


 ドラゴン。
 もともとのイメージゆえか、幻獣をベースとしてバグアが作り上げるキメラの中でも、かなり強力な種である。

 前線へと移動中の小規模なUPC軍機甲部隊を襲撃したのも、そうしたドラゴンと分類される外見をした固体だった。
 全身を漆黒の鱗で覆った10m近い体躯のドラゴンは不意に飛来すると、その口腔から激しい火焔を吐き出す。
 慌てて迎撃体勢を取る兵士が一瞬にして炭化。
 砲塔を回し、ドラゴンへと照準を合わせた戦車に搭載された弾薬が高温に晒され爆発を起こす。
 それでも初撃を凌いだM1戦車数両からの砲撃、随伴歩兵の対戦車ロケットなどがドラゴンへと集中する。
 砲弾の幾らかはキメラの有するフォースフィールドに弾かれ効果を為さないが、フォースフィールドを貫通するものも存在する。
 しかし、中型キメラ相手ならば充分とさえ言えるその火力も、強靭な鱗が完全にダメージをブロックする。

 戦闘開始から数分後、ドラゴンは周囲に倒れた亡骸を幾人も食らうと、首を巡らして周囲を物色し、比較的状態が良好な骸を掴むと、飛び去った。


 数少ない生存者からの報告を元に周囲を捜索した偵察部隊はドラゴンの棲家を確認。
 彼らの視界には、湖の中央で身を休めるドラゴンと、その周囲に無数に浮かぶ兵士の骸が映されていた。
 周囲の状況から、北欧神話の竜「ニーズヘッグ」の名を冠されたそのドラゴンに対しての討伐依頼が傭兵に提示される事となった。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG

●リプレイ本文

 森を抜け、ニーズヘッグの住処とされる湖へと辿り着いた傭兵達の嗅覚を、周囲に漂う腐臭が刺激する。
 湖に浮かぶ死骸は人間のものもあれば、動物のものもある。
 竜にとっては等しく食料であり、習性的に一度の狩りで多数の獲物を住処へと持ち帰るタイプなのだろう。キメラゆえか多少の腐敗も気にならないのかもしれない。

 湖の中央で身動きせず瞼を閉じていた竜の瞳が開き、傭兵達を視界に納める。 
 目を開けただけで、常人であれば身が竦むような威圧感を放つその様は、幻想の中で最強と呼ばれる種族に相応しい。
 傭兵達が各々、覚醒する。手にした武器が能力者の覚醒を感知し、SES機関を始動する。物音一つ無い、死の静寂に包まれていた湖に大気を吸い込む吸気音が響く。
「これ以上犠牲は出したくありません。ここで永遠に眠ってもらいましょう」
 ライフルを構え、綾野 断真(ga6621)が狙撃眼を発動させる。
 銃身に取り付けられたSES機関の吸気音が一際大きくなり、弾体へのエネルギー付与が活性化し、綾野の指がトリガーを引く。
 マズルフラッシュと共に放たれた弾丸は竜の纏うフォースフィールドを貫くが、強靭な鱗に弾き返される。
 攻撃された事を感じ、能力者を見つめるだけで身動きを取らなかった竜がその身をゆっくりと起こす。
 綾野の攻撃はあくまで注意を引くもの、ダメージを期待したものではなかった。その意味では彼の攻撃は成功したといえる。
 捕食動物の本能か、狩りの必要が無い場合は自ら襲う事は無いとはいえ、攻撃されて黙っている生物は居ない。傭兵達を敵として認識した竜の全身から殺気が立ち上る。
 翼を広げ、大気を捕らえると一打ち。大気を打ち出す反作用を利用した猛然たる加速で自らの間合いに傭兵達を捉える。
「む、無駄にデケぇなぁ‥‥倒すのも一苦労しそうだ 注意しねぇとな」
 迫る竜の威容に砕牙 九郎(ga7366)が息を飲む。
「いつもの事だ。敵が強いのも、負けられないのも‥‥だから、いつも通りに勝って帰る」
 砕牙の言葉に応じた時枝・悠(ga8810)が月詠を鞘走らせ、正眼に構える。
「強さもドラゴンと呼ぶにふさわしい程みたいだから、油断なくいきましょうか」
 アズメリア・カンス(ga8233)もまた、月詠を抜き構えを取る。彼女は竜だけでなく周囲に視線を走らせ、火災が生じる危険性が少ない事を確認する。
 竜の口蓋が開き、喉奥に光点が点る。
 危険を察知した前衛の傭兵がその場を飛び退くのと同時、轟という音を立て、竜の口から膨大な熱量を誇る焔が放たれる。
「巣を持ち、空を飛び、炎を吐く‥‥宝こそ持たぬが典型的な西洋の竜の様な相手という事か」
 九条・命(ga0148)はそう呟きながら、水面に波紋を描きながら回避運動をそのまま側面へと移動する動きへ切り替え竜の死角へと移動。ホルスターからエネルギーガンを抜き竜の翼へと射撃。
 放たれた光弾が翼の皮膜を撃ち抜くものの、体の大きさに比して弾体が小さい。1発2発では行動を制限する程度にはならないようだ。
「さあ、スナイパーさんの本領発揮だよ」
 炎の射程範囲外、茂みに身を潜めた蒼河 拓人(gb2873)が狙いを定める。狙点は竜の翼膜。傭兵達はまずは飛行能力を奪う事としていた。
 彼がリズミカルにトリガーを引き、銃身から吐き出された弾丸が狙い過たず翼膜を射抜くが、小口径の火器では巨大な翼膜に小さな穴を開けるに過ぎない。
 サルファ(ga9419)も側面へと走り、エネルギーガンを翼に向けて射撃する。
 長大な刀身を誇る国士無双を携えた須佐 武流(ga1461)は駆け抜け様に刀を振り抜き、斬撃の軌跡を竜の鱗へと刻み込む。刀という切断に特化した刃は切味鋭いものの脆いのが弱点だ。相手が柔らかいならまだしも、装甲が固いほど、刃が欠け、一撃ごとに切れ味が鈍っていく。
 彼の刀もまたその例には漏れず、注意しなければ気づかないレベルだが竜の鱗という強靭な鎧を引き裂いた代償として、僅かに刃が欠けていた。
「何か効いてねぇ気がするなぁ」
 砕牙はそう呟きながらも、小銃S−01の弾薬を貫通弾へ切り替え、射撃。
 その直後、反対側から走りこんだ時枝が翼を狙い、跳躍。気合の声と共に手にした刀を一閃、翼膜を引き裂く。放物線を描いた彼女は竜の背を蹴り、その反動で大きく後方へ飛び反撃の間合いから逃れる。
 アズメリアも自身の銃器に貫通弾を装填して翼を狙い射撃する。
 連射式の銃器や、時枝のような近接武器での攻撃による破壊ならまだしも、ほとんどの翼を狙った攻撃は単発のものだ。中型ならば単発発射式の銃器でも数撃つ事で翼を破壊する事も出来ただろうが、現状有効打となっているのは時枝の斬撃くらいのものだ。
 その事に気づくと、本来近接攻撃を得意とする者達は銃器をホルスターへと納める。
 銃器による有効打が与えられない以上は翼への攻撃は基本、近接兵装へと移るがそれは反撃の間合いに入る事も意味する。
 ヒット&アウェイも浅瀬という足場が悪い状況では必ず上手く行くとも限らない。
 周囲の傭兵へと竜は丸太のごとき尾を振り抜く。
 重い物が風を裂く音と共に繰り出された尾の一撃はその軌跡上に居た能力者を弾き飛ばす。
「‥‥ぐっ」
 須佐は手にした刀の腹に片手を沿え、その攻撃を受け止めるが、衝撃を完全に逃がす事は出来ない。ダメージそのものは直撃に比べれば大分マシだが。
「隙は見逃さん」
 九条が振るわれた尾の軌跡の隙間を回避し、疾走のまま跳躍、翼めがけて片手に装着したキアルクローを振るう。
 薄いものを引き裂く手応えに振り返れば、翼膜の一部が大きく引き裂けていたが、まだ飛行に支障が出るほどではないようだ。
 尾の一撃を食らった砕牙も、立ち上がると側面へと走り、機械剣αの柄を強く握りこむ。柄の先端から形成された光刃を跳躍し、翼に叩きつけた。
 非実態の刃は翼を保護する骨格を斬り裂き、片側の翼を半ば程から切断する。
「これで飛べなくなったってばよ」
 サルファは柄が拳銃の形をした特異な形状の大剣を構え、脚の関節を狙い斬撃を叩き込む。 
 その攻撃に反応した竜は、駆け抜けるサルファを追撃し彼の体をその脚で踏みつける。
 常人なら即死するような一撃も、能力者の強靭な肉体に加え、カールセルやアーマージャケットという強固な防具に身を包んだ彼であれば、耐え切る事は可能だ。
 とはいえ、ノーダメージとはいかない。苦痛に思わず息が漏れ、気泡となって彼の口から吐き出される。
「君の世界の理‥‥貰い受ける!」
 ライフルの弾薬をペイント弾へと交換した蒼河が、竜の瞳を狙い狙撃する。
 いかに彼の射手としての腕が優れていたとしても、動き回る相手の極一点を狙うのは困難だ。弾は頭部に命中し塗料を弾けさせるが、彼の狙い通り目つぶしは適わない。
 頭部に不快な塗料をぶつけた彼の行動が気に障ったのか、竜が口を開き蒼河に向けて火炎を迸らせる。
 反射的に腕で顔を庇った彼だが、携行してきた弾薬の幾つかが炎により炸薬に引火し、四散する。
 SESを介さない銃弾では能力者に傷は付かないが、携行弾薬に損害が出たのは銃器を運用する能力者に取っては痛い。
 また、彼自身のダメージも軽いものとは言いがたい。
 炭化した茂みから慌てて移動する彼の背後で、炎の余波により森林の一部が火に包まれ始めていた。
 ライフルからアラスカ454に持ち替え、竜へと牽制射撃を行い、近接班へと合流する。
 眼球を狙うのは、同じスナイパーである綾野も同様だ。
 断続的に銃弾を放つが、やはり対象物が小さいため、距離をとっての射撃では命中させる事は困難だ。
 口を開けた際にはそちらへも撃ち込むが、火炎のブレスを吐く為か、口内にもフォースフィールドが張られている。
「ブレスを封じる事が出来れば良いと思ったのですが、そう簡単には行きませんか」
 眼球への直撃弾こそ無いものの、頭部へと集中した弾丸は竜の鱗を突き破り、多少の血を流させてはいる。
「自慢のブレス‥‥ここで使えなくしてやる!」
 背を駆け上る須佐。
 頭頂部付近で跳躍し、口蓋を刺し貫かんとする。だが、反射的に振り仰いだ口が大きくその顎を開く。
 そのまま食い付かれれば、生え揃った牙に引き裂かれ、如何に能力者といえど耐え切れないだろう。
 軌道をずらせない空中という状況で須佐の背筋を冷や汗が伝うが、食いつかれる直前にその頭部が僅かにずれる。
 彼の危険を察知した時枝は、側面から頭部を狙い、月詠の一撃を放っていた。それが頭部への一撃と同時に須佐の危機を救ったのだ。
「サンキューな」
「軽率よ」
 空中で短く言葉を交わすと、そのまま着地する。
「ドラゴンと言えど、攻撃を集中させれば、ね」
 物理攻撃にかなりの耐性があると判断したアズメリアはエネルギーガンを竜の頭部へと撃ち込む。
 彼女の推測は正しく、物理攻撃に高い耐久性を発揮した竜の鎧である鱗は非物理攻撃にはそれほど高い防御効果は無いようだ。
 鱗を弾き飛ばし、竜の肉体を抉る。
 ダメージに咆哮を上げた竜は、アズメリアにその巨躯を支える腕を振るう。
 身を翻して回避を試みたアズメリアだが、足場が悪い事も手伝い完全には回避し得ない。竜の爪が彼女の肉を抉り取り、血が辺りに舞う。
「‥‥くうっ」
 骨にまで達するような重症ではないが、それでもダメージは大きい。竜の追撃をかわす為にその場を飛び退き、活性化のスキルを使用する事で応急手当とする。

 戦況は互角と言えた。
 8人がかりの攻撃を前に竜の肉体は徐々に傷つきボロボロになっていくが、能力者たちも大なり小なり傷を負っていた。
 水面を両者の流す血がゆっくりと赤く染めていく。
「いい加減に落ちろ」
 負傷した片腕を庇いながら九条が竜の側面からの攻撃を心がけながらエネルギーガンのトリガーを引く。
 彼は比較的距離を置いての先頭を心がけていたが、近づかれればキアルクローによる下顎への攻撃を繰り出していた。その過程で肩の肉を一部噛み裂かれていた。
 無事な腕に携えたエネルギーガンの銃口から放たれた光弾が竜の鱗を貫き、その身を傷つける。
 彼の攻撃に連携し、竜の懐に飛び込んだ砕牙がその手に持つ光刃を振るう。竜の体に斬撃の軌跡が刻まれ、血を流させる。
 そんな砕牙自身も竜の度重なる反撃に、手傷を負っている。覚醒で銀に染まった頭髪の一部は自身の血に濡れている。
 サルファもまたダメージは負っていたが、彼の場合は防具に助けられている事もあり、深い傷は無い。
「そこだ!」
 竜が顎を開いた瞬間を狙い、側面から彼がエネルギーガンを撃ち込む。
 ブレス攻撃の妨害のために始めた事だが、どのような生物も基本的に頭部は弱点だ。妨害と同時に着実にダメージを重ねていく。
 蒼牙も、ライフル弾を全て喪失した為、アラスカ454による射撃を続けていた。
 アラスカ454という大口径の拳銃弾は高い破壊力を発揮し、ドラゴンの身を貫いていく。彼は弱点を探すために竜の肉体の各部に弾丸を叩き込んでいたが、目立つ弱点と呼べるようなものは未だに見つけられていない。
「流石にドラゴンなだけあって手こずるな」
 思わず呟く彼だが、攻撃の手を休める事は無い。
 一人離れた場所から狙撃を続ける綾野。
 彼の射撃は頭部に集中している。味方の攻撃の手が休まる間‥‥味方に流れ弾が当たらない瞬間を狙い、竜の頭部を撃ち抜いていく事が結果的に竜の反撃を有る程度押さえ込んでいた。
 携行してきた弾薬にはまだ余裕があるが、既に相当数を竜の巨体へと撃ち込んでいる。
「すべてを断ち切る力を!」
 竜の動きが少しづつ鈍ってきた所へ須佐が全力の一撃を叩き込むためにスキルを全開で発動させる。
 SESの吸気音が一際大きく響き、素早く国士無双の振るう。
 風を切り裂き、竜の体へと叩き込まれた斬撃、更に返す刀でもう一撃。十字の傷を竜の肉体へと刻み込む。
 素早くその場を飛び退く事で返り血を避けるが、竜の命の火はまだ絶えていない。
 須佐に向けてその口を大きく開き、彼が回避運動を取る前に、火焔が放たれる。
 猛烈な炎は爆発にも似た衝撃と熱で彼の肉体を焼き焦がす。常人なら灰になっていてもおかしくないような膨大な熱量だが、素早く水中に身を沈める事でダメージを最低限に押さえ込む。
 アズメリアはその攻撃の隙を突き、エネルギーガンの射撃を須佐の付けた傷へと撃ち込む。
 斬撃で脆くなっていた鱗を貫いていく数発の光弾。
 その後に続くように時枝が駆ける。
 彼女が手にする月詠が大気を吸い、その刀身に多大な力を流し込む。通常より大きな力を付与された刀身はその力ゆえかエミタAIによる制御を困難にさせる。
 時枝はそれを抑え込むと疾走の勢いそのまま、肉体をぶつけるように、竜へと突きを繰り出す。
 須佐、アズメリアの攻撃で傷ついていた鱗を容易く貫き、その肉体の奥深くまで月詠の刀身が肉を切り裂き、潜り込む。
 その一撃は竜の急所を貫いたのか、既に撒き散らされた血液が致死レベルにまで達したのか、彼女の攻撃の直後動きを止めた竜はゆっくりと崩れ落ちる。
 水面に叩きつけられた竜の瞳は空ろで既に光を映してはいなかった。

 戦いは終わった。
 戦闘の終了を無線機で告げる蒼河の言葉からしばらくして、消防隊が消火剤を散布する。
 幸い炎による火災は一区画だけで、大きな被害には至らなかった。消防隊とほぼ同時に到着した救急隊が怪我のひどい能力者に練成治療を施していく中、比較的怪我の浅い者達は救急隊の者達と共に湖面に浮かぶ遺骸を回収する。
 既に損傷、腐敗して正視に堪えない姿の遺骸も多い、骸の多くは陸軍の制服を纏っていた。この巨大な竜と戦い散った者達だ。
「宗派も分かりませんが、黙祷を‥‥」
 回収された遺体を前に、能力者達は目を閉じる。
 その胸に抱く思いはどのようなものか‥‥いずれにせよ、彼らの戦いは戦争が終わるか或いは命が尽きるまで続く。