●リプレイ本文
奉天北方工業公司ラストホープ支社内の一室に、依頼を受けた傭兵達が集まっていた。
彼等は奉天が今後ULTに売り込む事になる傭兵向けの新兵装の開発依頼を受けた者達だ。依頼の性質は正確には市場調査的などういった装備が欲しいかというアイデアを求めるものではあるが。
円形のテーブルを囲むのは、鯨井昼寝(
ga0488)、鷹司 小雛(
ga1008)、高坂聖(
ga4517)、レールズ(
ga5293)、水流 薫(
ga8626)、秋月 九蔵(
gb1711)、九音(
gb3565)、澄野・絣(
gb3855)の8名の傭兵と、司会進行を担当する事となる依頼主の崔 銀雪(gz0103)の計9名だ。
各々の前には岩竜発売1周年記念という事で、高坂の持参したショートケーキが各自の前に置かれている。最初はミネラルウォーターを用意した崔だったが、急遽人数分の紅茶を淹れてきた為、どこかお茶会的な雰囲気となっている。
まず意見を述べたのは鯨井だ。
「私が欲しいのは安かろう悪かろうの製品ではなく、オンリーワンな性能を持つものね」
彼女の言葉に、頷く者は多い。奉天の製品の多くは基本的に安価での供給を最優先としているため、性能面ではどうしても他社製品には及ばない。
傭兵向けの製品では価格と性能が吊り合い高評価を受けているものもあるし、煙幕を初めとする他社の出していない製品も多くあるとはいえ、基本的には安かろう悪かろうを地で行くのが奉天という企業だ。
例として鯨井は、試作型水中剣アロンダイト、スノーシューズ、軍用レインコートを例に挙げる。
いずれも汎用性の低い局地専用の装備であり、それら装備が必要となる依頼では高い効力を発揮する物達だ。
「以上の事から、私が提案する装備は耐火装備一式ね。理由としては、まず今までに無い装備である事。キメラの中には火炎を吐くモノも多いし、後は火災現場やそういった危険性のある場所で効果が期待できるわ」
鯨井の提案した、耐火装備は機能重視の1点だ。デザインに無駄なお金をかけるより、とにかく高い性能を有する事を提案する。カプロイアのような、デザインにまでこだわる企業はそう多くは無いが、どの企業でもなるべくなら見た目に優れたものを出したくなるというのはある。
当然、似たような性能の製品があれば良いデザインの方が、売れるからだ。
「デザイン性を完全に捨てるのは問題ないですね、確かにデザインを捨てれば価格は安価になります」
鯨井の言葉に崔は頷く。今回彼女が提案した装備は、既存の装備品には無い特殊な装備、競合する製品もないのであればデザイン面を考慮する必要は無い。
鯨井に続き意見を発するのは鷹司だ。
「武器は改造費を含め、機体ほど大きな価格差が無いので、ただの廉価武器は主力製品にはなりえないと思いますわ。既にある程度の武装は揃っていますし」
彼女の言葉通り、モノによって改造費に多少の差はあるとはいえ、武器の改造は機体改造ほどには大きな価格差は無い。
更に既にショップにもある程度の装備は出揃っている、斧等のあまり人気の無い装備品は若干種類が少ないものの、基本的な部分では揃っている。
「ですから、わたくしとしてはやはりサブ武器として需要を見込むのが良いと思いますの」
鷹司が提案したのは、他の武器には無い特殊能力を備えたものや、気軽に買える価格の有ったら便利な装備といったものだ。そういう点では鯨井の提案するオンリーワンと同一だ。
「そういう意味では、エネルギーガン以外に代替の無い片手知覚射撃武器の需要は大きいと思うのですけれど、光吹の性能を見る限りでは難しいのでしょうか?」
「出力を可能な限り下げて、とりあえず撃てるレベルに仕上げるのなら片手も可能ですね。もっとも、エネルギーガンと光吹は仕組みからして全く違うのですが」
超機械に分類されるエネルギーガンとは異なり、光吹は奉天が試作段階まで仕上げたレーザーライフルだ。KV用のレーザー兵装の重量が嵩むのと同様に、それなりの性能を維持しようと思えば発信装置が大型化し、重量も嵩んでしまう。
「試作段階の武器としては、他にリボルバーグレネードが強いと思いますわ。これは是非とも正式に量産して頂きたいですわ。後は防具も幾つか欲しいですわね」
彼女の言葉どおり、防具は武器ほどには種類が揃っていない。
種類そのものはそれなりにあるのだが、比較的重ね着を想定していないものが多いのだ。
「なるほど、確かに上半身を守る装備は多いですが、体全体を想定した防具はあまり無いですね」
高坂は参考までにと奉天が提出した試作武装に関して幾つか意見を述べる。
「リボルバーグレネードは大量の敵に対峙した時に有効そうですね、これはリロード可能なのでしょうか?」
「キメラも種類によっては群れを作る事から開発中の武装です。リロードそのものは問題なく行えますね。弾薬が銃器とは異なり多少大型となりますが」
ふむと回答に頷くと、他の武器にも彼個人の感想を述べていく。
彼の興味を引いたのは、リボルバーグレネード以外に煙幕弾だ。
KV用の煙幕弾は、実戦でも多く利用されている。あまりメーカーを意識されるような武装ではないが、こっそりと奉天の主力製品のひとつだ。それを能力者用に小型化したのが今回参考品として提出された煙幕弾である。
煙幕は撤退時などに特に有効だが、利用法次第では攻撃のサポートにもなる。使いよう次第だが、地味に効果的な武装だ。
「他に個人的に欲しいのはネットガンですね」
そう言って高坂は何故ネットガンが欲しいのかを説明する。
彼の弁によれば、親バグア派の一般人や能力者などの捕獲に有効そうとの意見からだ。フォースフィールドを備えた相手への効果を疑問視していたが、フォースフィールドはあくまで攻撃を阻むものなのでネットそのもので動きを阻害する事は可能だ。
更にネットは捕獲以外にも相手の動きを制限し、攻撃を当てやすくする事も出来る。
「奉天製品って結構パイオニアですよね。同じ中国人としては是非頑張って欲しいです」
父親が中国人であり、幼少期を中国で過ごしたレールズが口を開く。
彼も、リボルバーグレネードに関して高い評価を与えていた。
「提示された参考品の中では、グレネードが最も需要が高いと思います。今まで広範囲を攻撃対象にする生身武装はありませんでしたからね。他にはショップ通常販売となるかどうかが重要だと思います」
「ショップでの通常販売に関しては、通常販売にするようにお願いするくらいしか出来ないので断言できません」
ラストホープの傭兵向け武装販売を手がけるULTショップでは、通常の販売物とは別の俗に籤アイテムと呼ばれるものもある。これは生産量や流通量が制限されている商品の提供ルートだが、例え大量生産品であろうと、ショップ側判断でこちらに並ぶ事もある。
崔の言葉に頷くと、レールズは自身の考えを述べる。
「グレネードが可能なら手榴弾も可能でしょうか?」
「手榴弾系統はSESのエネルギー付加が弾薬系とは異なる上に、SESを手榴弾に搭載する必要上コストが問題になりますね」
銃身や弓を用いる系統の射撃武器であれば、SESの利用は進んでおり爆発物を射撃する弾頭矢などもショップには並んでいるが、手榴弾系統は手榴弾そのものにSESを組み込む必要があり、コスト面で費用対効果が悪い事もあり生身用の装備としてはあまり無い。
「難しいですか‥‥武器に関わらず使用でき、携帯に便利かとも思ったのですが‥‥次点では煙幕でしょうか? KVと違いレーダーがない分こちらが不利になる可能性もありますが、使いよう次第では色々できそうですね」
「確かに、キメラの中には嗅覚や赤外線視覚を持つものも居ますが、現状の煙幕はそうした点もカモフラージュ可能です。ただ、重力探知を防ぐ機能は付加できないので、生身で敵の機甲戦力を防ぐのにはあまり役に立たない可能性もあります」
レールズの次に発言をしたのは、水流 薫。
彼は今までの開発系依頼といえばそのほとんどがKV関連だった為に、あまり興味が無く今回がそうした依頼に参加するのは初めてだった。
「例示されたアイテムの中では、やはりリボルバーグレネードが一番魅力的ですね。M79のような単発中折れ式ではなくダネルMGLのような6連装の案が出て驚きました。動きの早い目標も区画ごと吹き飛ばせますし、何より派手なのが良いですね」
ちなみに彼の提示した銃器は軍用のグレネードランチャーであり、UPC軍の中には使用している部隊もそれなりに存在する。
奉天としてもそれらをベースとし、改良を加えたのが今回提示したものである。
「他には、えーと‥‥M72みたいな対戦車ロケットランチャーはどうでしょうか?」
「対戦車ロケットランチャーですか‥‥弾薬が大きいためリロード不可となる可能性もありますが、作る事は不可能ではありませんが、威力が強力すぎるため使い所が難しいかもしれませんね」
対戦車ロケット自体は非能力者の対キメラ武装として、かなりの量が生産されているが逆に言えば能力者用としての需要はあまり無い。大型キメラクラスでもSES武装であればほとんどの攻撃が通用するからだ。
能力者用の対戦車ロケットランチャーを作成した場合、その用途は本来の対戦車ロケット弾‥‥対陸戦ワーム用の物となるだろう。
「防具では、インターセプターボディアーマーのようなものが欲しいですね」
「ボディアーマーは現状は軍用に多く流通していますから、それらをショップに回す事は不可能ではないでしょうね」
秋月は今回の装備品にまずショップで流通させる事を大前提としていた。
「まぁ、ショップで売っていないと幾ら安くても意味ないですからね‥‥僕が欲しいのは銃器と銃器用オプションパーツですかね。昔の経験から、銃本体では長射程で高い命中精度を誇るものが良いですね」
「銃器系の長射程化は各社ともに研究中ですが、発射後の弾体へのSESのエネルギー維持が困難で、現状での有効射程は最大でも100m前後になりますね。費用を考えなければ伸ばす事も不可能ではないのですが」
射撃武装の多くは、本来のものよりも有効射程が短くなっている。崔の言葉どおり、キメラのフォースフィールドを貫通するだけのエネルギーを維持できないのがその原因だ。飛距離自体はスペックに示された以上に飛ぶのだが、基本的に有効射程を過ぎた時点で非SES武装から発射されたものと変わらない威力に減じてしまう。
「パーツで言えば、射程距離延長や命中減衰の出来るものが良いですね」
「射程距離延長は多少であれば、銃身の延長やSESの調整で可能です。命中減衰はスコープ系でしょうか」
彼の意見を手元のパソコンに打ち込みながら、崔は先を促す。
「他には、やはりリボルバーグレネードと煙幕ですね。特にグレネードは画期的だと思う、手榴弾が難しいのは残念だけど」
先の薫の意見の回答で手榴弾が難しいと述べられていたのを思い出し、秋月は言葉を締めた。
「スナイパーとしては知覚銃器は欲しい。多少扱いづらくても、それなりに需要はあると思う」
九音は、例示されたレーザーライフルの光吹を是非とも実用化して欲しいと思っていた。
威力はともかく命中率の問題は経験やエミタAIのサポートでなんとかなる点を考慮した結果だ。
「何より、知覚銃器はショップで売ってない。エネルギーガンは超機械だからスナイパーには少し扱い辛い」
「量産型を作る場合は幾らか調整が入りますが、作る事は可能ですね」
「リボルバーグレネードと煙幕は他の人と同じようにあれば良いと思うし、私も買う。煙幕じゃない発煙弾とか、発炎筒もあれば合図用にいいかなと思う」
「グレネードと煙幕は人気があるようですね。発炎筒等の合図用のものは軍用には提供していますから、それの流用が可能であればですね」
淡々とあまり感情を込めずに発言する九音の意見を記録しつつ、続きを促すと、九音は携行型ロケット砲を提案した。
「使い捨てでもいいから大火力の砲が欲しい。最近、対大型機械化キメラとかの依頼も多いし、施設や陣地破壊にも使えると思う」
初期のキメラはいわば生体兵器であったが、昨今では重火器と半融合したキメラも出始めていた。
それらを撃退するのに、今まで以上の火力が必要というのが九音の意見だった。
「私は弓使いなのですが、やはり非物理の弓が欲しいですね」
そう口を開いたのは、澄野。
「スナイパーはステータス上では知覚能力への補正が強いですし、弓を好むスナイパーには需要があると思います‥‥というか私が欲しいです」
一応、知覚系の弓はひとつだけ現時点でも存在するが、生産数が少なく希少価値が強いために通常のショップ売りとはなっていない。
仕組みとしては矢を番えた時点で鏃へエネルギーコーティングを施すという過程を必要とするため、構造が複雑なのも生産数が少ない要因のひとつだ。
「現状の知覚弓の問題はその構造ですね。ある程度の簡略化を施すとしても、やはり生産工程が複雑なものは価格が高くなってしまいます」
「それならば、弾頭矢の非物理版はどうでしょうか?」
鏃の変わりに爆発物を取り付けたのが弾頭矢である。
しばし考え込んだ崔だが、機構的には弓の知覚化よりは簡単に出来ると考えた。
「先端部を短時間かつ極短距離レーザーの発信基として作れば問題なく出来ると思いますが、この場合は弓の知覚能力は使えませんね。完全に攻撃能力は矢に依存する形になります」
「出来れば作って欲しいですね、後は非物理に限らず、各属性の矢弾など種類を増やすのも良いと思います」
「なるほど、検討しますね」
各々の意見を聞き終えた後の雑談の中、レールズがKVの意見を述べた。
「シュテルン並の性能を保ちつつ安価、代わりに拡張性のない強化不可の機体を出す事は可能でしょうか? 繋ぎの標準機としては有用だと思います」
「拡張性のない機体ですか。不可能とは言いませんが難しいかもしれませんね。現状の技術研究で多脚化‥‥まぁ昆虫の脚の動きですが、其れを採用しての案などは研究室から提出されていますが」
いわゆる、多脚化は二足歩行より処理が容易な事で知られている。
特に昆虫のものは脳が非常に小さい生物でも動かす事が容易な点もあり、処理能力という意味ではコンピュータに負荷をかけずに処理能力を歩行以外に振り分ける事も出来るため、有効な歩行方法として考案されている。
「陸軍国としてのノウハウを活かせば、コストの割に高性能な構造の機体が作れると期待しています。奉天という企業なら可能だと思います」
その言葉に崔は軽く笑む。
「骸龍も採用はまだですけれど、他の機体の研究は続けていますので、よろしくお願いしますね」