●リプレイ本文
周囲を囲むモニターの中、警告音と共にモニターに8機のKVが表示される。
自動的に得られた情報‥‥機種、エンブレム、カラーリング等を元にデータバンクからい該当する記録を検索、武装類から脅威度判定が行われる。
パイロットはモニターに示された情報に一瞬だけ視線を送ると、武装のロックを解除、機体に搭載された武装を起動する。
サブモニターに表示された機体状況を示すグラフィックの横に、試作兵装である自律砲台「ヤマタノオロチ」の稼動状況を示すグラフィックが点灯した。
正面のモニターに映し出される細身のゴーレムを見据え、榊兵衛(
ga0388)が己に気合を入れる。
「なるほど、奴が帝虎を翻弄した敵か‥‥相手にとって不足無し。俺と忠勝でどこまでやれるか腕試しといこうか!」
榊は己の駆る機体に忠勝の名をつけていた。彼の台詞にある帝虎とは前回の依頼で鹿嶋 悠(
gb1333)が操った両肩を赤く塗装した雷電の名である。
「ゴーレム‥‥戦ったこと無いんだよね‥‥何時もどおりやればいいかな」
一方、対ゴーレム戦を始めてとするイスル・イェーガー(
gb0925)は若干の緊張を抱き、愛機であるウーフーの強化型ジャミング中和装置が正常に稼動している事を確認する。
昨今の戦力比では、ゴーレムとKVの戦闘力は1:1に近くなってきてはいるものの、やはりエース級ともなれば通常の量産型と比較した場合、その性能には大きな隔たりがある。
戦闘準備を整え、ゴーレムとの距離が詰まってゆくと、ゴーレムの背中のウェポンラックが展開され中から自律砲台が射出される。
「逃した魚は大きいと言いますが‥‥よもやこんな装備で来るとは思いませんでしたね」
「‥‥今度は逃がしたくないところだが、な」
鹿嶋の呟きに城田 二三男(
gb0620)が応じる。
「悠はん、鳳はん、今日はよろしゅ〜な。初期のほうの機体やけど頑張るかんな」
「了解‥‥アズラエル出番だよ」
白と水色を組み合わせ、氷をイメージさせるカラーリングを施したR−01を駆る水無月 霧香(
gb3438)が、同じ兵舎に所属する鳳覚羅(
gb3095)と鹿嶋の二人に声をかける。
第一世代のKVであるR−01は既に第一線を退きつつある、改造次第では充分現役足りうる機体ではあるが、水無月はそれほど高レベルの改造は施していない。
そのため彼女は基本的に援護に回る事前提としていた。
「エースゴーレムに高速機動する小型の自律飛行砲台8個か‥‥やっかいだね」
アズラエルを名づけたディアブロの武装を対自律砲台用としたヘビーガトリングへと切り替えつつ鳳は苦笑を浮かべる。
「報告じゃ、うちと同じ機体打っ壊しとるらしいな。す…少し、ゾクゾクするわ」
「大丈夫ですよ、皆居ますから」
少し震えた声を出す水無月を安心させるように鹿嶋が声をかける。
傭兵達は対自律砲台を担当する者と、ゴーレムそのものを担当とする者の二班に分かれていた。
自律砲台を担当する傭兵はイスル、城田、鳳の3名。ゴーレムを担当するのは鹿嶋、榊、水無月、緋沼 京夜(
ga6138)、近伊 蒔(
ga3161)の5名。
傭兵達とゴーレムの距離が詰まっていくにつれ緊張感が高まる。
先手を取ったのはゴーレムだった。
機体周囲に自律砲台を展開しながら増加スラスター、管制制御の双方を起動し驚異的な速度で接近、加速を維持したまま、緋沼の機体に対して拳を繰り出す。
あらかじめ敵機の動きを記録から読み取り、イメージトレーニングを行っていた緋沼はその拳を寸前で見切る。
刹那、ゴーレムの肘が白光を発した。
打ち出される拳が、瞬間的に発動させたブースターにより更に加速、緋沼の見切りを越えた拳速で機体に突き刺さる。攻撃の衝撃で緋沼の機体は大きく弾き飛ばされ、同時に周囲に展開したッ自律砲台が各々狙いを別個の機体にセットしレーザーを放つ。
「今回も行くぜ、バレットレイン!!」
レーザー光を機体に掠めさせながら、近伊はヘビーガトリングをゴーレムの周囲に撒くように掃射する。撒き散らす事で攻撃の威力は下がるものの、少しでもダメージを与えようと言う意図だ。
ゴーレムの周囲に時折赤い光が現れる事から命中してはいるようだが、目に見えるような損傷は無い。大部分がフォースフィールで遮られ、フィールドを抜けても装甲で弾かれているのだろう。連射系兵装は弾幕こそ張れるものの、弾数でダメージを与える武器だ。単発として見た場合その攻撃力は低い。
傭兵達は基本的に弾幕による対応を念頭に入れていたが、ゴーレムは接近戦闘をメインとしているためか、攻撃時に味方機が射線上に居る事が多く、誤射を警戒すれば中々攻撃の機会が無い。
「資料で見たときよりやっかいそうだね‥‥まぁ小隊のメンバーもいるんだきっちり露払いさせてもらうさ」
機体装甲をレーザーに灼かれながらも、鳳はガトリング砲の砲口を自律砲台へと向ける。
目標が小型であり、更にゴーレム以上の高い機動性を持っているため狙って当てるのは困難と言える。ガトリングを使用する理由は対ゴーレム班と同じ理由だ。
「速い‥‥けど、狙い撃つっ!」
イスルもまたガトリング砲の照準を合わせ射撃する。特別ばら撒く事を意識せずとも、ガトリングはその構造ゆえ距離を取ればかなり弾は散る。そのうちの数発が自律砲台を捉えたか、装甲表面に火花が散った。
「‥‥ふん、しかし大層なおもちゃを引っ張り出してきたもんだな‥‥さて、こちらの相手をしてもらうぞ‥‥」
ガトリング砲とバルカンを組み合わせ弾幕を張るのは城田だ。
猛烈な弾幕に晒される自律砲台だが射線軸をずらす事で直撃弾を回避する。鳳、イスル、城田3機から放たれる弾丸は400発を越えるが、そのうち直撃した弾丸はおそらく5%にも満たないだろう。弾幕と言う性質上、決定打に欠ける。
砲台そのものも厄介だが、本体であるゴーレムも厄介だ。
基本的に砲台を鳳、イスル、城田の3人に専念させ、1対5という通常であれば圧倒的不利な状況下においても5分以上の戦いを見せていた。
超伝導アクチュエータで機体を通常以上の敏捷さで駆けさせた榊が、味方機の弾幕により行動の幅の狭まったゴーレムに対しスパークワイヤーを振るう。
前回のチェーンファングによる捕獲と同じ手だ。
「‥‥お前達は同じ手が好きだな、2度も通用すると思うな」
嘆息を含んだ声と共に振りぬかれたゴーレムの手刀がワイヤーを溶断する。スパークワイヤーを回避するために、それなりの弾丸を浴びる事となったが、強力な近接攻撃を食らうよりはマシと判断したのだろう。
「人間を利用するヨリシロってやつが赦せない。そいつだって、どっかの誰かの大切な仲間だったんだ!」
初撃でかなりの損傷を受けた緋沼だが、機体を加速させロンゴミニアトを振るう。
対シェイド用に開発された照準機であるスナイプスコープに加え、多数設置されたスコープシステムによる桁外れの命中性能を誇るディアブロにより放たれた一撃は、ゴーレムの肩装甲を貫き、内部爆発を生じさせる。
軽量化故に通常機よりも軽装甲とした機体には、一撃だけで充分な打撃となったか、左腕部が一撃で脱落。機密保持のために地に落ちるより早く自爆する。
「悪いが、私はヨリシロではない‥‥やはり、その機体が一番厄介か」
自律砲台を相手にする城田達だが、相変わらず有効打撃を与える事はできないで居た。
機動性以上に目標が小さすぎるのだ。KVという機体は基本的にヘルメットワームや超大型キメラを相手取るように設計されている関係上、FCSは小型機との戦闘は基本的に想定に入れていない。基本的に生身で対処することの出来る相手にKVを使うことは無い。
「いい加減に落ちて欲しいものだね」
激しいレーザーの雨に鳳の駆るディアブロは既に損傷率が70%を切っていた。機盾「レグルス」で前面や側面からの攻撃のいくつかは防御できるものの、防御を潜り抜けるレーザーの数は多い。
そして高い攻撃能力に目を奪われがちだが、ディアブロそのものは頑丈な機体とは言い難い。単純な防御面で言えばS−01にすら及ばないのだ。
大きいダメージを受けているのは鳳の機体だけでなく、城田のハヤブサもだ。
自律砲台のレーザーは攻撃力こそ低いものの、確実に装甲を削ってくる。ハヤブサのように耐久力を犠牲にした機体にとってはもっとも嫌な部類の攻撃だった。
「‥‥ん?」
攻撃を回避しながら反撃のガトリングをばら撒く城田が自律砲台の動きに眉を寄せる。こちらへの攻撃が減っているのだ。
「‥‥悪いけど、みんなの邪魔はさせないから‥‥」
イスルがその中の1台に狙いを絞り高分子レーザー砲を発射する。今までの弾幕系とは異なり、一発一発が充分な威力を有する攻撃は、移動で統制が乱れた事に加え、幸運も味方したのか見事に自律砲台を貫き、爆散させる。
「チャンス‥‥だね」
機体の移動のため僅かに統制が乱れた隙を付き、鳳が微笑を浮かべつつガトリングのトリガーを引く。今までのように散らすのではなく収束させた射撃だ。
放たれた弾丸はゴーレムの元へと向かう1台を捉え、無数の穴を穿つ。失速した自律砲台は地面へと激突すると爆発四散した。
「‥‥すまん、取り逃がした‥‥そっちに行ったから注意しろ」
城田の放ったバルカンも1機を捉え撃墜に成功したものの、総計で2機が迎撃を逃れゴーレムの元へと到達する。
「名を聞いて置きましょう‥‥無名の墓標では味気ないでしょう?」
「ここで倒される気は無いさ」
グングニルを構え、鹿嶋が相手の名を問うが答えは否だ。
トリガーを引くと同時にグングニルの石突に取り付けられたブースターが閃光を放ち、重量級の機体である雷電を加速。更に機体4連ブースターを吹かして突き進む。そんな鹿嶋機へと援護に回った自律砲台からレーザーが浴びせられるが重装甲を誇る雷電に致命打を与えるには至らない。
振るわれる神槍を、片腕を失ったゴーレムは身を逸らす事で回避する。
しかし、攻撃を回避された瞬間鹿嶋は脚部に取り付けられた、自身が設計した機体姿勢保持用のアンカーを片足だけ作動させる。
地面に打ち込まれたアンカーは大地を割りながら鹿嶋の機体を方向転換させ、加速の勢いそのままに追撃。
「これで‥‥終わりです。帝虎の名をその身に恐怖と共に刻み込みなさい!」
「‥‥っ!?」
驚愕の声を漏らし、グングニルの直撃を受けたゴーレムが弾き飛ばされる。
もっとも、鹿嶋側の被害も大きい。
雷電という重量のある機体をアンカーで強引に方向転換させる際に、脚部に甚大なダメージを発生させていた。更に最大の負荷が掛かったアンカーは固定部から外れている。
機体をチェックした鹿嶋は予想以上の損傷に思わず眉を顰める。
人間で言えば複雑骨折に近い損傷だ。無事な片方の脚部で機体を立たせることは可能だが、機敏に移動する事は出来そうに無い。
「ブースターさえ壊せばちょろちょろできへんやろ、逃げれると思わんほうがええで!」
吹き飛ばされて一時的に無防備になった機体の脚部を狙い、水無月が高初速滑空砲を発射する。プチロフ社製の大口径実態弾主砲がゴーレムの脚部に着弾し、ブースターを破壊する。
予想外のダメージに、思わずため息が出る。額に湿った感触があることから自身も負傷しているようだ。
ディアブロのロンゴミニアトの辺りから流れが変わったようだ。
モニターに示されるダメージは危険域を指している。自律砲台群に大した被害は出ていないものの機体の損傷で言えば相当なものだ。
「まぁ、一撃くらいはお返ししておかないとね」
そう呟くと、コンソールを弾く。
「すまないが、これ以上美人と付き合っていると我が愛がヤキモチを抱くかも知れないから、これでお別れだ」
「これで終わりだ!」
「動いてへんなら、タダの的や。撃ち落したるから、動いたらあかんで!」
「いっけぇーっ!!」
槍を構えて突撃する榊の雷電と緋沼のディアブロを援護するように、水無月と近伊の機体から砲火が走る。それに応じるように立ち上がったゴーレムは背部のウェポンコンテナをパージする事でブースターの損傷を打ち消すと砲撃を回避しながら加速する。
「アメノムラクモ‥‥ドライブ!」
すれ違いざまに振りぬかれたゴーレムの右腕から閃光が迸る。
今まで腕部や脚部にに帯びさせる事で威力を発揮していたエネルギーを1点に収束、放出する事で一時的に雪村にも似た光の刃を形成。超高出力のエネルギー刃は緋沼、榊の機体を紙のように切り裂き甚大なダメージを与えるが、同時に2機のランスの直撃を受ける。
2本のロンゴミニアトに刺し貫かれたゴーレムだが、直撃を受ける寸前に槍とゴーレムの間に割り込んだ自律砲台2機を犠牲として被害を抑えていた。
なおも立ち上がるゴーレムだが、突如、光剣を現出させていた右腕が盛大な爆発と共に吹き飛ぶ。
「やはり、これは負荷が大きいか‥‥悪いが、ここでやられるわけにはいかんのでな、あとは残ったヤマタノオロチでも相手にしていてもらおう」
パイロットの言葉と共に、自律砲台が煙幕を放出。煙幕に紛れ、ゴーレムはその場を離脱していく。レーダーに捉える事が出来ても、目標を捉える事が出来なければ効果的な射撃は出来ない。
ウーフーのレーダーで射程圏外へとゴーレムが離脱している事を確認したイスルは、抱いていた疑問を口にする。
「‥‥なんでお姉さんはバグア側にいるの‥‥?」
「私自身を含め、人間という動物が失敗作だから‥‥だな。もっともバグアが成功とも思わないけれど」
「あ! 二回も会ってるんだから名前くらい名乗れー!!」
近伊が思い出したように無線機に向けて叫ぶ。
先ほどの鹿嶋の問いが無視された事を考えれば名乗ってくれる可能性は低いかとも思ったが、予想外に返答があった。
「朱桜、朱桜咲弥。名乗る事に意味があるとは思わないけれど、何度も言われると面倒だから」
その後、残存する自律砲台を全て片付けた傭兵達から報告を受けた上層部は、珍しい苗字から記録を当たる事にした。
短期間で揃える事が出来たデータは多くないが、該当する名前の人間が存在する事‥‥多数居る行方不明者の1人である事と失踪前の写真などを入手する事に成功していた。
ゾディアックや幹部ほどの注意を集める存在ではないため、投入される人数は多くないが少数の情報関係の人間が彼女の言った「失敗作」という言葉をベースとし調査を開始した。