タイトル:広報部の苦悩マスター:左月一車

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/20 10:31

●オープニング本文


 バグア占領下にて放映されるテレビ番組の中には子供向けのものもある。
 占領政策において自らを正しい者とするのは人類側の歴史でも数多くあった事だが、彼らが人類の精神を調べる一環の行動なのかもしれない。
 その番組の名を「バグア戦隊ゴーレムファイブ」と言った。

 番組の内容は子供向け故にか簡単なものだ。
 悪の組織であるUPC所属の能力者と名乗る怪人が幼稚園バスジャックをしたりと言った、昨今稀に見る基本に忠実な作品だった。
 それは赤、青、ピンク、黄、緑の基本カラーリングの正義の味方が倒して子供達を助けるという事まで基本に忠実だった。
 番組作成者の意図はUPCを悪役に仕立てる事でバグア側を正義だと宣伝する事だ。
 番組がテレビ電波に乗って視聴される以上、ある程度ジャミングの影響があり広範囲に放映できる訳ではないが競合地域の一般家庭で視聴できる程度の出力はあった。

 そこまでは良い、占領政策の一環として理解できる。
 問題はココからだった。
 該当する番組のサンプルを視聴したUPC上層部が打ち立てた対抗戦略はヒーローとしての能力者番組を作成する事だった。

「なんでソコでそうなるんだ‥‥」
 既に何度も宣伝番組を作ってきた広報部としては戦隊モノは既に何度か放映していた。
 正直言って本職の脚本家でない彼らにとってはネタ切れ状態だった。
 再放送じゃダメかと問い合わせたところ、却下された彼等は必死にシナリオを考えたがどうにも上手く行かない。
 そこで彼等は能力者に頼る事とした、出自も様々な能力者であれば脚本や演出に長けた者もいるだろう。
 困った時の能力者頼みだなぁと担当者は苦笑していた。

●参加者一覧

シェリー・ローズ(ga3501
21歳・♀・HA
伊達正和(ga5204
25歳・♂・PN
水瀬 深夏(gb2048
18歳・♀・DG
東仙 楓(gb3400
20歳・♀・SN

●リプレイ本文

 依頼に集まった能力者は4名。
 シェリー・ローズ(ga3501)、伊達正和(ga5204)、水瀬 深夏(gb2048)、東仙 楓(gb3400)の4名。
 期間的に問題があったのか、それぞれが持ち込んだ企画書はほとんど統一が取れていなかった。
 広報部の人間は、それぞれの企画書を閲覧。
 なかば無理矢理に纏め上げ、一つの作品として世に送り出す事とした。
 その方法とは4人の企画を別個の世界として展開、中盤で世界を同化するという手段だ。

 熱血系乙女、水瀬は真紅のAU−KVを纏い悪の秘密結社を突き進んでいた。
 何故なら彼女はレッド、戦隊モノではリーダーを張るお約束ポジションのカラーだからだ。
 並み居る戦闘員、再生怪人を仲間の4人と共に蹴散らし、目指すは悪の秘密結社、大首領の間だ。
 やがて彼女達の前に、見る物に畏怖を与えるためか、おどろおどろしい装飾の施された扉が見える。微妙に安っぽい雰囲気は気にしてはいけない。
 水瀬は半ば扉を蹴り開け、大首領の間へと突入。
 真紅の絨毯が敷かれた先には、玉座に腰掛ける悪の大首領、大首領の膝の上には猫が丸まり、その手にしたワインを揺らし、余裕の雰囲気だ。
「おまえらの運命もここまでだな!」
 先頭に立った水瀬が、びしっと指を大首領に向けて突きつける。
 その言葉に大首領は余裕を持った態度で身を起こすと、身に纏った豪奢なマントを翻した。

 シェリーはセクシー戦隊のリーダー、セクシーピンクだ。
 ピンクがリーダーというのは中々珍しい設定でもある。そんな彼女は現在バスタイムを満喫していた。大きいお友達やお父さん達向けのサービスシーンだ。
 とはいえ彼女は夜叉姫様の異名を取る。夜叉姫ではなく夜叉姫様なのがポイントだ。
 愛用の武器は電撃鞭。もうなんというか、分かりやすいほどに女王様だ。
 シェリー、もとい夜叉姫様は泡風呂に身を沈めていた、艶かしい曲線を描く方脚がにゅっと出ていたりする。
 実際に風呂場でこんな事をする人はそうはいないがまぁ、お約束のセクシーポーズだ。
 リラックスしている夜叉姫様だが、唐突に緊急招集の警報が鳴り響く。
「ちぃ! アタシのバスタイムを邪魔する奴は許さないよ!」
 夜叉姫様はそう叫ぶとバスタブから身を起こした。豊満な胸がその衝撃にたゆんと揺れる。ちなみに局部は巧みに泡で隠されているのでお母さんも安心だ!

「轟けっ!! 獣の雄叫び、ドラゴォォォンオンッ!!」
 気合の入った叫びと共に伊達の姿が紫の鱗を持った竜人へと変貌する。彼は戦隊モノとしては珍しい紫カラーだ。
 そしてその彼に並び立つように、ドラゴンの姿をした4人の仲間がいる。
 その名を龍拳戦隊ドラゴンジャー、変身ヒーローと戦隊ヒーローを組み合わせたヒーローだ。
 ちなみに変身した際に背景が爆発するのは基本中の基本だ! なぜかなどという野暮な突っ込みはしてはいけない。
 そして戦場も基本に忠実に採石場だ。
 伊達の演技はかなり様になっている、というのも彼は傭兵になる前は声優をしていた。
 バグアの侵攻のせいで主演を張っていた番組が途中で製作中止になったりとトラブルに見舞われてしまったのだ、そう、例えるなら「俺達の冒険はまだ始まったばかりだ!」的な打ち切りである。
 伊達は終戦後には声優に復帰するという野望も持っていた。

 楓は緑を担当していた。
 緑色というと戦隊モノでは定番のカラーの一つだ。彼女は緑色に対して、割とおっちょこちょいのダメキャラというイメージを持っていた。黄色が常にカレー好きなのと似たようなものである。
 そのイメージを変えるために、むしろ主役たるレッドにかわるカラーとして確立しようと考えていた。女性が緑を演じる上にリーダー格を演じるのは面白くない? との主張だ。
 そんな彼女も戦隊服を纏い、その手には漫画雑誌「MECL」を携えていた。
 本来の彼女は弓を使うのだが‥‥。
「本って打撃武器に類するらしいわよ?」
 そうですか。
 砂が吹きすさぶ戦場の中、背景で他の色の服を纏った戦隊員が戦闘員と戦っている。
 ちなみにこの戦場、街中に被害が及ぶのは問題だとして、ここを指定したら相手が素直に承諾したらしい。話の分かる悪の秘密結社だ。
 彼女も漫画雑誌で無数の戦隊員をタコ殴りにしていた、主に雑誌の角で‥‥なかなかに凶悪な緑だ! 漫画雑誌で戦うリーダーは難しいと思うが。
 楓は角を一撃された戦闘員をバッタバッタと薙ぎ倒していった。

 薄暗い室内で、彼らの戦いを映し出すモニターの前に座るのは、次元皇帝を名乗っていた。
 悪の組織の頂点を張るに相応しい雰囲気を持った彼は、全ての世界を超越した悪の秘密結社「ディメンション帝国」の大首領、もとい皇帝だ。
 様々な世界で悪事を働く悪の秘密結社はディメンションの下部組織なのだ!
 それを知る者は、下部組織の首領や、ディエンション帝国の幹部達など数少ない。
 次元皇帝は、彼の元で戦闘関連を仕切る、コンバーット将軍を呼び出した。コンバーット将軍は根っからの軍人気質の幹部だ。
 皇帝は彼に耳打ちをする。内容を聞いた将軍は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに頷く。
「次元連結装置で彼らの位相を同調、ショーを開催しろ!」
 バートラー将軍は配下に告げると、不思議な装置を起動させる。ミョンミョンと妙な駆動音を立てた装置が閃光を放った。

「ここは!?」
 悪の大首領を前にしていた水瀬は周囲の空間が変容し、妙な空間に移動した事に驚いていた。
 周囲の空間は、水無瀬のいた大首領の間、夜叉姫様のお風呂、伊達の採石場、楓の荒野が無秩序に組み合わされ、謎の不思議空間と化していた。
 そう、悪の秘密結社「ディメンション帝国」が誇る次元連結装置は、異なる世界の異なる場所を無理やり繋ぎ合わせる機能を持っているのだ!
 理論は不明だが、細かい事に突っ込んではいけないのはこういうモノのお約束だった。
 この場に要るのは水瀬の他、夜叉姫様、伊達、楓の4名だ。ちなみに夜叉姫様は全裸ではなく桃色のエナメルボンテージに身を包んでいる。いつの間に着替えたとかの疑問は分かるが、そういうものだ。
 ちなみに夜叉姫様、その手には鞭を携えているが、鞭の表面がバチバチとスパークしている事から手にしているものは電磁鞭打ということが分かる。履いている靴のヒールはやたら細いピンヒールで踏まれたらきっと痛い。
 なんというか正義の味方よりは悪の秘密結社の女幹部といった方がしっくり来る。
「よくぞ来た、四界の戦士よ」
 状況を把握できず困惑する4人のヒーロー達に向けて、声が響いた。
「何者だ!」
 黒1点の伊達が竜人形態を維持したまま、誰何する。どうでもいいが、ビーストマン系の能力者を使えば変身ヒーローものはラクかもしれない。
「ふはははは! 我が名はディメンション帝国戦闘隊長バトーラ! 今回は我ではなく我が配下の者との戦闘をしてもらおうか?」
 バトーラと名乗った男が腕を振るとその場に怪人と戦闘員が現れた。
「アタシに可愛がってもらいたいんじゃないのかい?」
「ふはははは! 我はMではないのでな!!」
 夜叉姫様が床に鞭をビシリという効果音付きで叩きつけてからバトーラを挑発するが、バトーラはメタな事を口走る、やや腰が引けているのは夜叉姫様の事を怖いと思ったからかもしれない。
「ところで、キミたちは?」
 戦闘員や怪人を半ば無視して楓が尋ねる。
「俺は水瀬 深夏‥‥熱く燃え上がる勇気、ファイアーレッド!」
 決めポーズを取り名乗る水瀬の背後で、炎のエフェクトが入る。
「戦場に咲く美しき一輪の薔薇『セクシーピンク』!」
 夜叉姫様も水瀬同様に決めポーズを取る、そして決めポーズを取った瞬間背景が一面の薔薇の花畑になったりする。
「刺激に俺流我が道を行く、ドラゴパープルッ!!」
 伊達の場合は決めポーズと共に背景で爆発だ、煙が紫色をしている。
 まぁ3人が3人とも1人でやるポーズではないため、何処と無く間が抜けているというか画竜点睛を欠く印象なのは仕方ないところか。
  
「ゆけい、怪人ブーガーよ!」
名乗りを終えたと判断してバトーラが怪人に指示を下す。ちなみに怪人はスペルにするとBUGERだ。
怪人と戦闘員が4人の戦士に群がっていく。
「えぇい! この豚野郎が!」
 夜叉姫様は電磁鞭を縦横に振るい戦闘員を蹴散らしていく。一部の戦闘員は「‥‥も、もっと」とかの発言も聞こえたりするが、これは良い子の番組だ。編集でそこら辺の危ない台詞はカットだ!
「美人が雑誌片手に殴りあいするの、美人って私の事よ」
 そんな事を主張して、楓は戦闘員を雑誌の角でタコ殴りだ。戦闘員の皆さんもちょっと涙目。
「邪魔だ邪魔だ! 雑魚に用はねぇーんだよ!」
 真面目に戦っているのは水瀬だ。AU−KVの拳は痛いだけじゃ済まないので、命中時は基本的に寸止めだ。
 戦闘員もそこら辺は心得たもので、自分から派手に吹っ飛んでいく。
「うぉぉぉぉ!」
 雄叫びを上げながら戦闘員を殴り飛ばすのは伊達だ。
 客を魅せる本気の演技をしている。そんな訳で彼もエキストラに怪我をさせないよう寸止めをしているのだが、拳の風圧を感じられるほど近くで止められる拳はなかなかの迫力で本気で殴っているようにも見える。
 やられ役暦の長いエキストラは心得たもので、伊達の拳に合わせてリアルにバタバタと倒れていく。
 ちなみにこうしたやられ役は主役たり得ないものの、やられっぷりを演技する事を仕事とするプロだったりする。時代劇等のやられ役等が有名だろうか。

 あっという間に戦闘員を片付けた4人の戦士。
 怪人ブーガーはそんな4人を相手になかなか善戦していた。
 謎の光線銃を放ち、近づけば拳で殴りかかる。
「ふははは、一気に叩き潰してしまえブーガーよ!」
 戦闘隊長バトーラの指示にブーガーはその口を大きく開ける。口の中にはエネルギー弾が収束し今にも放たれそうだ。
 だが、夜叉姫様、どこからともなく長大なライフルを取り出す。
「サァお前たち! そろそろ必殺『セクシーダイナマイト』をお見舞いしてやろうか?」
 言葉と共にトリガーを引くと桃色の光線がブーガーへと直撃、ブーガーは動きを止め放心状態となる。夜叉姫様のセクシーダイナマイトで精神面を破綻させられ、放心状態へと陥ったのだ!
「竜人拳奥義! 龍絶掌!!」
 放心状態のブーガーへと、伊達が掌底を当てる、僅かの停滞の後、はじけるようにブーガーは吹き飛ばされる。
「これで決めるぜ! うおぉぉぉぉぉおっ! 百列激熱拳!」 
 紅蓮の炎を拳に纏わせ、全力のストレートパンチを叩き込むのは水瀬だ。
 百列とか言ってるのに一発しか殴っていない。
「えい!」
 トドメとばかりに楓が華麗に跳躍し、漫画雑誌の角で一撃。
 数歩ブーガーはたたらを踏み、爆発する。怪人というものは倒されれば爆発するものと相場が決まっている。
「お、おのれ、今日はここまでにしておいてやる!」
 ブーガーを倒されたバトーラは悔しげに唸るとマントを翻すとその姿が掻き消えるようにいなくなる。
「最後に勝つのは正義ってな♪」
 水瀬がVサインを決める。

 こうして放映されたヒーロ番組、混沌戦隊「カオスジャー」第一話「結成! カオスジャー」はそれなりの好評を博し、第二話、第三話と作られていくがそれはまた別のお話。