●リプレイ本文
「ハリウッド奪回にグラナダ攻略、こんな状況で奉天の工場が壊されたりしたら、トンでもない事になるんだよー」
クリア・サーレク(
ga4864)が現在の戦況を思いながらもブーストを発動させる。
岩龍の電子戦機能は大規模な戦闘には欠かせない。同じ電子戦機能を備えた機体としてはスカイスクレイパーやウーフーもあるが、スカイスクレイパーは地上戦用、ウーフーは搭乗権が高価すぎて一部の傭兵にしか搭乗を許されない事を考えれば、ある意味凄まじいほど安価な岩龍は未だ重要な地位を占めている。
目指す目的地までは、巡航速度では幾分か時間がかかったかもしれないが、ブーストを起動したKVからすれば一瞬の距離だ。みるみるうちに工場と、工場に接近する巨大なドラゴン型キメラが視界に入る。
そのうちヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)、高坂聖(
ga4517)、秋月 祐介(
ga6378)チェスター・ハインツ(
gb1950)の4名が機体を工場へと着陸させる。
本来は大型輸送機の発着に利用される滑走路上には既に3名が申請した骸龍のエンジンに火が入れられ、すぐにでも出せる状態へとセットされていた。
「試作機なんで少し不安だけど‥‥骸龍、信じてるよ」
「よし、コクピット周りに変わりはない‥‥シミュレーションより敏感な様だが、これならいける」
既に試作機以前のシミュレーター運用を経験している高坂と秋月がシミュレータ同様の計器類で機体を簡単にチェックしてから、スロットルを開く。
ヴァレスも同様にスロットルを全開まで開く。機体脚裏に取り付けられたホイールが高速で回転、ここまで乗ってきた機体以上の加速を発揮し、先行する自機搭乗組を追いかける。
「コイツの扱いはシミュレータで大分慣れてるけど、実際に扱うとGがキツいわ・・・・ねっ」
奉天研究員の崔 銀雪は操縦桿を傾けドラゴンの牙を回避する。機体の敏捷性は実機もシミュレータ上の機体と大差ない‥‥が、問題は肉体にかかる負荷だ。KV戦闘に慣れた能力者なら扱いにもそれほど苦労しないのかもしれないが、もっぱら研究室に篭る崔にとってはきついものがあった。
「こちらゲシュペンスト、是より交戦エリアに突入する。お嬢さん、ちゃんと生きているな?」
夜十字・信人(
ga8235)が愛機であるディアブロを変形降下させながら無線越しに問いかける。ちなみに変形時に充分な減速をかけないと失速して制御不能になる場合もあるため、変形降下時は敵にとってはカモになりやすいが、この場合は相手が少数である事と崔の機体が敵の目を引きつけている為に問題なく降下できた。
「奉天も随分と豪気な物だが、それは自信の現れなのか或いは、危機感を募らせているのか‥‥ともあれ今はあのデカブツを始末するのが先決か」
ディアブロと同時に降下するのはウーフーを駆る玖堂 暁恒(
ga6985)だ。ウーフー搭載の強化型ジャミング中和装置と特殊電子波長装置が作用し、バグア側のジャミングを中和し、レーダーノイズを大幅に減少させる。
「お待たせしました! 後は私達にお任せを!」
「それでは、お任せします」
降下を果たし、アンジェリカの装輪走行でドラゴンへと近づく赤宮 リア(
ga9958)からの通信を受け、崔は機体を後退させる。耐久力が低いため、直接の殴り合いには向かない機体だが、速力と機動性は桁外れだ。ドラゴンの追撃を難なくかわし、傭兵達と入れ替わるように機体を後退させる。
赤宮の機体に追随するのは工場から骸龍を借り出したヴァレス達だ。
4機の骸龍はそれぞれペアを組む機体と対になり、合計5班でキメラを包囲する。
班分けは、ヴァレスと赤宮、高坂聖と鷹代 朋(
ga1602)、チェスターと山崎 健二(
ga8182)、秋月とクリア、夜十字と玖堂だ。
「作戦通りに行きますよ」
ドラゴンから見て右翼に展開した秋月が慎重に照準を定め、煙幕弾のトリガーを引く。
噴射炎を引きながら飛翔した煙幕弾は山なりの軌道を描き、ドラゴンの眼前に着弾。瞬間、猛烈な煙を吐き出しドラゴンの視界を塞ぐ。
「さあ、見事討ち取ってやるんだよー」
クリアが秋月に続き雷電に搭載した大型ミサイルポッドから2発のミサイルを発射する。ヘルメットワームやゴーレム等の機体では当たりにくいその攻撃も、巨体を誇るドラゴンであれば命中させるのは容易だ。
着弾した弾頭がドラゴンの表皮を焼くが、2発程度ではさしたるダメージには至らないようだ。
「それにしても‥‥でかいな。 まぁ、それなそらそれでやりようはあるか」
記録上ドラゴン級で最大のものは500m級と言うとんでもないものも居るが、30m級のドラゴンもそう滅多に見られるものではない。KVと比較しても圧倒される巨大さだ。ほぼ全員の傭兵がその大きさに驚嘆していた。
左翼に展開した鷹代は牽制射撃としてドラゴンに向けてマシンガンやレーザーを放つが、巨体ゆえか口径の低いそれらでは細い針で突くようなものだ。強靭な鱗に阻害されどちらも大した効果は得られていない。
鷹代の攻撃とほぼ同時に、近接攻撃の間合いへと飛び込んだ高坂は、骸龍に装備された試作型機槍「黒竜」を打ち込む。燃料効率こそ悪いものの、威力としては充分なものをもつその攻撃だが、一撃では鱗数枚を弾き飛ばす程度に留まる。
「生憎とバルムンクは持って無いが、コイツもなかなか強力だぜ!」
煙幕の着弾を確認し、山崎はディアブロをドラゴンの懐に飛び込ませる、ディアブロに装備された真ツインブレイドを回転させながらドラゴンの翼へと叩き込む。人間の腕関節には不可能な360度の高速回転を併用した斬撃はドラゴンの鱗を砕き、巨大な翼を支える骨格を削り取るが、一撃では切断とまではいかないようだ。
「今度は僕がっ!」
チェスターが一度機体を後退させた山崎に続き、機槍を突き入れると同時に機体を離脱させる。脆い骸龍で脚を止めて戦うのは自殺行為に近い、下手をすれば一撃で落ちかねない機体である以上、こうしたヒット&アウェイを利用した戦い方が一番だろう。
「エンゲージオフェンシヴ。さぁ、頼むぜ骸!」
回避重視でヒット&アウェイを続けるのはヴァレスも同じだ。
一度の攻撃で与える被害は少ないが、攻撃を蓄積させる事でダメージを与えようという戦い方をする事で、工場から注意を自分達へと向けさせている。
「切り札は使える時に使いませんとねっ! 受けてみなさいっ!!」
アンジェリカを駆る赤宮がブースト空戦スタビライザーを起動させ、ドラゴンの懐へ飛び込むと同時に試作剣「雪村」を起動させる。
KVの手に握られた筒からレーザーが発振されブレードを形成。更に赤宮は知覚攻撃特化機であるアンジェリカのSESエンハンサーを起動、雪村へと流れるエネルギー量が増大し、光の刃が太く、長くなる。
素早く間合いへと踏み込み、光剣をドラゴンの脚部を狙い、振るう。
通常以上に膨大な出力が込められた光の刃は抵抗すら感じさせる事無くドラゴンの鱗を蒸発させ、一刀の元にドラゴンの脚を斬り落とす。痛みにかドラゴンが咆哮し、煙幕が揺れる。
レーザーという性質上、傷は焼かれる事となるため出血によるダメージこそ与えられないものの、脚を一つ潰した事は攻撃力、移動力を削ぐ事に直結する。
「やはりバグア共も新兵器は邪魔臭いものなのか?あんなモノを送り込んでくるか‥‥だが大きさだけでは勝負が決まらない事を教えてやるか」
赤宮の斬撃で姿勢を崩した隙を見計らい、玖堂は前から欲しかったハンマーボールをドラゴンの脚部を狙いをつける。
ハンマーボールはKV武装としてはかなり単純な構造のもので、トゲの付いた鉄球に鎖をつけただけという単純な構造の武器だが、扱いにくい反面威力は高い。
「拉げ! 北斗!!」
玖堂の叫びと共に振り回されたハンマーボールは側面からドラゴンの脚部に叩きつけられるが、大部分の衝撃は鱗に阻まれる。ヘルメットワームやゴーレムであれば今の一撃で機体にかなりのダメージを与える事もできただろう。
「来て早々ではあるが、サービスさせて貰おうか」
夜十字がドラゴンへと試作型リニア砲の照準を合わせ、機体コンソールを操作してアグレッシブフォースを発動させる。ディアブロのSES機関が通常以上の超過駆動を開始し、武器へのエネルギー伝達量を増大させた。
コンソールに示されたアグレッシブフォースの起動状況に問題が無い事を、一瞬だけ視線を標的からずらす事で確認した夜十字はトリガーを引く。
磁気による反発を利用して、超加速で飛翔した砲弾がドラゴンの分厚い鱗を貫く。
通常のゴーレムやヘルメットワームであれば何度倒されていてもおかしくない程の火力を叩き込まれながらも、ドラゴンに倒れる様子はまだ無い。ただ、ダメージの蓄積はかなりのものなのか若干ふらついてはいる。
口の隙間から僅かに炎が噴出し、直後に口内から火炎のブレスが扇状に放たれる。特定の対象を狙った攻撃ではなく、範囲を狙った攻撃だ。
前方に展開していた夜十字と玖堂は、範囲を焼き尽くすかのように放たれる火炎を避けきる事が出来ない。
距離を取っていた事と、ドラゴンの視界が奪われていた事により直撃こそ避ける事は出来たものの、機体表面の装甲が熱量で融解する。
ブレスが直撃した周囲の地面は高熱により可燃物は一瞬で燃え尽き、むき出しとなった地面は完全にガラス化している。直撃すればKVであろうと只では済まないだろう。
「耐久力と馬鹿力は相当か‥‥。デカブツが、竜では無く牛であったなら、少しは食指も動いたものを‥‥ちっ」
機体のダメージを素早く確認し、夜十字が舌打ちをする。
更にドラゴンは尾を薙ぎ払うように振り回す。
これもブレス同様に特定対象を狙った攻撃ではないが、麻宮のアンジェリカとクリアの雷電が回避しきれずに尾の一撃を食らう。機盾で尾の一撃を防御する事には成功したものの、一撃で軽々とKVを弾き飛ばした。
流石に片足が無い状態ではきついと判断したのかドラゴンが翼を大きく広げ、羽ばたかせる。
骸龍搭乗の4名は、軽量の機体には不釣合いなエンジンの推力を下方へと噴出、VTOLを起動し一瞬で空へと舞い上がる。
「こらこら、飛び上がらないで地べたに落ちなさい!」
「空を飛ばれると困りますからな、しかしVTOLもこういう時は役に立ちますね」
「鎌は無いけど死神よろしくお命頂戴っ」
「試作機の有用性を示すには良いタイミングかもしれませんが‥‥」
4機の骸龍は上昇を続けるドラゴンの上に位置すると、連続で温存していたH12ミサイルポッドを下方へと向けて連射する。個々の弾薬の威力は少なくドラゴンの飛翔を妨げるほどの爆発も生じないが、合計で360発も放たれた弾丸はドラゴンを地面へと叩き落すに充分な爆発を発生させる。
しかし、それだけの爆発を受けてもドラゴンはまだ辛うじて生き延びているようだ。四肢に力を込め、爆発で引き裂かれた翼膜を引きずりながらも立ち上がろうともがく。
だが、傭兵達がそれを黙って見ているはずも無い。
「こいつでトドメだ!」
素早く近づいた山崎がアグレッシブフォースを起動させる。
超過駆動したSES機関から流れるエネルギーにより通常以上の力を発揮したディアブロは、真ツインブレイドをドラゴンの下顎から突き入れる。
既に全身にダメージを受けていたドラゴンの鱗はそれに耐え切る事が出来なかった。
ツインブレイドの刃は上あごの骨も突き破り、脳髄を粉砕した。ドラゴンも生物である以上、脳を重要な器官としている。数瞬の硬直の後、ドラゴンは地に伏した。
工場へと帰還した傭兵達を出迎えたのは、戦闘の終了を確認して先に機を降りていた崔だ。
「ありがとう、予定とは大分違うけれど、一応実戦のデータも取れたわ」
「電子戦機乗りとしては、どうしても欲しい機体なんですよ。少なくとも自分にとって現状で最も魅力的な機体です」
「量産化が延期したのはちょっと残念ですけど‥‥私個人としては購入までの準備期間ができたから少し嬉しいかな?」
機体から降りてきた秋月と高坂は開口一番そう告げた。発売の延期の捉え方も色々あるようだ。
「評価してくれるのは嬉しいけど、こればかりはUPCの判断だからなんとも言えないわね。ウチの営業も頑張って売り込みはしてるけど」
そんな様子に崔は苦笑する。
「うーん、動いてるのを見ても‥‥龍を冠するほど重いようには感じないんだよね‥‥」
今回の本来の予定では名前を決定するという意味もあったため、命名案を持参したクリアは「騰蛇」という名前を提案する。
「この形状なら地獄の主や冥界の王と呼ばれる閻魔か、夜摩を推しましょうかね」
秋月は骸骨を思わせる容貌から、前回と同じ機体名称を提案していた。
「奉天らしく、且つ身軽そうな名前が良いと思って幾つか考えてきたのですが‥‥」
赤宮の示すプリントには7つもの名前が並んでいる。
「僕はこのまま骸龍を推します。骸龍は岩龍の後継機みたいな感じがして、奉天の新型というのを印象付けられるんじゃないかと思います」
「今の仮称の骸龍をそのまま採用でいいと思いますが…同系機が岩龍と龍繋がりってこともありますし」
「私も骸龍に一票。姿からこっちの方が似合うので」
チェスター、鷹代、高坂の3名が骸龍を推す。
「それじゃ、機体愛称は多数決と言う事で骸龍にしますね。他に何か質問ありますか?」
「ロールアウトした頃、つまり最初の価格40万Cだった私の岩龍は純正品なんでしょうか、崔博士?」
崔の言葉に岩龍を操る高坂が質問する。
「えーと、私はまだ博士号持ってないですね。それはともかく、何を持って純正品とするかの判断になると思います。整備で大分パーツも交換されていますし、初期型と後期型で設計に差はほとんどないですし‥‥そういう意味では純正とは言えないかもしれません」
「気になってたんだけど、アレ何なのかなー?」
クリアは、格納庫の隅で作業員が調整作業を続ける装置を示した。
「ああ、あれは試作型の特殊電子波長装置、既存機に積めるように設計変更したものですが、効果範囲も狭いし効力も弱い、雷電とかバイパー級の搭載量が無いと重くて使えないって欠点があるからまだ市場には出せないものですね」
「ふむ、骸龍に特殊電子波長装置βを積めませんかね? 広範囲を探知できるのは理念上有効だと思うのですが」
「‥‥今から設計変更をかけると難しいかもしれないけれど、普通のと大差ないから検討はしておきます‥‥でもその場合量産が更に伸びる可能性もありますね」
秋月の問いに崔は少し思考を巡らせ、回答を出した。