●リプレイ本文
「先の依頼といい、今回の依頼といい‥‥色物ゴーレムとは縁がありますね‥‥蹂躙された友軍のためにも一矢報いなければなりませんね」
愛機である雷電‥‥帝虎のコクピットから戦場を見渡し、鹿嶋 悠(
gb1333)は呟く。
「電子支援がフルに受けられる状況なんて初めてだな、どれだけ動きに違いがでるか楽しみだ」
龍深城・我斬(
ga8283)は、ナナヤ・オスター(
ga8771)のウーフー、明星 那由他(
ga4081)のスカイスクレイパーを視界に収める。
ウーフーの強化型ジャミング中和装置とスカイスクレイパー搭載の特殊電子波長装置は互いに干渉を起こさないため、比較的高いレベルのアンチジャミングをかける事が出来る。
普段は遠距離レンジではノイズしか映さないレーダーも、今回はそれなりに機能している。
「て、敵機確認しました‥‥あのナックルは回収して‥‥調べてみたいなぁ」
明星はレーダー画面に映る敵機の反応を確認し、敵隊長機の装備する非物理型ナックルに興味を示す。ただ、バグアの機体は機密漏洩防止のため、ほぼ100%の確率で自爆を行う。
隊長機に有人機の可能性はあるとはいえ、撃破した場合でも回収が出来る可能性は0%と言っていいだろう。
「大枚をはたいて買ったブースターのお披露目ね‥‥」
シャロン・エイヴァリー(
ga1843)は自らが駆るナイチンゲールに搭載した高出力ブースターに思いを馳せる。
カジノの景品だが、傭兵の一部にはカジノのゲームで稼いで入手するのではなく、稼いだ収入をコインへと変換してから手に入れる者達も居る。彼女もその一人なのだろう。
高性能のカジノ景品を確実に手に入れる方法とはいえ、なかなかに大変だ。
最大射程に敵機を収めた傭兵達は各々のKVに搭載された火器を発射する。
長距離射程による攻撃は命中は見込めないが、傭兵達の狙いはあえて隊長機である軽量型のゴーレムをおびき出す事だ。
「リロードまで10秒、カウントするわ!」
わざと設定した、リロードタイミングをシャロンがカウントする。
その間も砲火はゴーレム隊へと振り注ぐが、隊長機は身軽な動きでそれらを回避し、部下である通常型のゴーレムは大型の盾に身を隠し直撃弾を防いでいる。
カウントが0に達した時点で全員が射撃の手を止める。
その瞬間、隊長機である軽量型ゴーレムが傭兵達の方へとその身を疾走させる。
その狙いは射程の関係で最も突出していた機体のうち龍深城の雷電だ。インパクトの瞬間に光を放つ拳が、雷電の重装甲を融解させる。
更に後方の量産型が構えていた盾を降ろし、プロトン砲を構える。
傭兵達の狙っていたタイミングはこの時だった。
軽量型対応の龍深城と鹿嶋を残し、他の6機が7機の量産型へと肉薄し、乱戦が始まった。
「さて、私は私が出来うる事を為す事にしましょうか、仲間の脚を引っ張っては面目が立ちませんからね」
榊 刑部(
ga7524)はミカガミの特殊能力である接近仕様マニューバを起動し、量産型へとヒートディフェンダーを叩き込む。
瞬間的に刀身が赤熱化し、ゴーレムの装甲を溶断すると同時に、柄から刀身を加熱するために使用された電力カートリッジが3個排出される。
近伊 蒔(
ga3161)はある程度距離を取り、榊機と交戦を開始したゴーレムをロックオンするが、このまま撃っては味方への誤射が発生する恐れがある。
そのため榊機がゴーレムから間合いを取った瞬間を狙い、雷電の超伝導アクチュエータを起動、ヘビーガトリングを掃射する。
「あったれー!」
トリガーにかけた指を引きっぱなしにした近伊の放つ弾丸にゴーレムの装甲に穴が穿たれていった。
明星のスカイスクレイパーも高分子レーザーで同一目標への攻撃に参加する。
集中攻撃で確実に敵機を撃破していくのは基本的な戦術の一つだ。
「こういうのって地味だけど、その分‥‥堅実だよね」
榊機の斬撃、続けて放たれた近伊機の射撃に加え、レーザー砲の直撃を受けたゴーレムは機体を爆散させた。
ゴーレム隊も黙って攻撃を受け続ける訳ではない。
残った6機はそれぞれに得物を構えると、射撃を開始する。
「‥‥当たるか」
狙われたうちの1機、高い機動性を誇るハヤブサを駆る城田二三男(
gb0620)は軽量機の本領発揮とばかりにゴーレムの放つプロトン砲を回避する。
同時に反撃とばかりに城田は突撃仕様ガトリングを叩き込むが、火力が足りないのかゴーレムの装甲を貫くまでには至らない。
シャロン機も狙われたものの、搭載した高出力ブースターにくわえ、発動させたハイマニューバで全ての攻撃を回避する。
以前の戦闘ではゴーレムとKVの戦力比は1:3と言われていたが、絶え間ない技術革新により最近では1:1に近づいている。
「おっと、危ない危ない‥‥この機体にあまり傷は付けられないですからねぇ」
電子戦機であるウーフー搭乗のナナヤはぎりぎりのところで攻撃を回避する。
被弾場所が悪ければ、電子戦装備を損傷してしまう。多少の損傷では予備回路でなんとかなる設計と言えど、可能限りリスクを冒す気は無い。
軽量型を相手にする龍深城と鹿嶋はチェーンファングを振り回し、軽量型の手足を封じる策を取った。
狙い過たず振り回される鎖がゴーレムの片手と片足を拘束する。
「つーかまーえた‥‥さあ、ダンスの時間だぜ!」
「さぁ‥‥チェーンデスマッチと洒落込みましょう」
勝利宣言とも取れる発言をした両名が鎖を引き拘束をより完全にしようとした瞬間、女の声が響く。
「狙いは悪くないけど‥‥私に鎖で縛られる趣味はないの、ごめんなさいね」
ゴーレムは開いた手で腕に絡みついた鎖を掴み、ぐっと勢いよく引く。
瞬間、KVの中でも重量級である龍深城の雷電が引き寄せられ、両手による連撃をその身に受ける。
衝撃に揺れるコクピット内で幾つものレッドランプが点灯していく、先ほどの攻撃を含め損傷率にして5割を超えるダメージを受けていた。
更に手刀で手脚に絡む鎖を簡単に切断、軽く後方へと跳躍し、両者の間で間合いを取る。
「‥‥有人機、そう簡単にはいきませんか」
事前情報にあった有人機の可能性、それはつまりバグアの中でもエース級と呼称されるパイロットが搭乗している事を意味する。
その搭乗機はかなりの強化施されている場合が多く、ステアーやファームライド、シェイドといった機体には及ばないものの、強敵である事を意味した。
量産機を相手にする6名は戦いを優勢に進めていた。
確実に1機ずつ敵機を仕留めていくという策は功を奏し、すでに量産機の数は3機まで減っていた。
とはいえ、受けたダメージが無いわけでもない。
ティーカップに狙撃兵を配したエンブレムを右肩につけたナナヤのウーフーもプロトン砲の直撃を食らっていた。損傷はそれほど深刻なものではないため、戦線を離脱する事無くミドルレンジからのレーザーによる攻撃を繰り返している。
「ふむ‥‥この距離ではこれですかね。強烈な一撃ではありませんが」
レーザーによる攻撃は一撃で相手を行動不能に追い込むような、雪村や帯電粒子加速砲などの大出力兵器に比べれば弱いが、それゆえに消費するエネルギーもカートリッジで済み、かなり扱いやすい。威力と使い勝手のバランスが取れた武器であり多くの傭兵が愛用している。
既にかなりの損傷を受けており、ナナヤが一撃を当て機体をぐらつかせた相手にシャロンのナイチンゲールが肉薄し、ビームコーティングアクスを振るう。
狙うのは頭部。
横凪に振るわれた初撃こそ手にしたディフェンダーでいなされてものの、それが精一杯の防御だったのか翻ったビームの刃が頭部を斬り飛ばし、更に胴体を袈裟斬りにされる。
「さあ、次に首を飛ばして欲しいのはどれかしら」
ヘビーガトリングに限らず、連射の効く射撃武装を満載した近伊の雷電は弾丸を撒き散らしていた。
「バレットレイン! あ、この呼び方かっこいいかも?」
思いつきでそう叫んだ彼女だが、自分でその呼び方が少し気に入ったようだ。雷電から降り注ぐ弾丸はまさに打ち付ける雨、暴風となってゴーレムの装甲を次々に穿っていく。
明星のスカイスクレイパーも彼女の掃射に加わり、高分子レーザーを叩き込む。
反撃の隙を与えないように連射系の武装で装甲を剥がされ、内部にレーザーの光が突き刺さる。
それでもゴーレムは腕を上げ、プロトン砲を明星の機体に向けて放つ。
「うわっ‥‥」
明星は慌ててスカイスクレイパーの回避オプションを起動させ、その場を飛び退いて攻撃を回避する。
そこがゴーレムの限界だったらしく、プロトン砲を構えたまま膝を突き、機体を爆散させた。
「……風穴開けてやる……」
先ほどの反撃があまり効果を発揮していない事に気づいた城田は接近戦を挑んでいた。
城田のハヤブサに搭載された高出力ブースターが火を噴き、至近距離で彼の機体を高速機動させ、素早く背後に回りこんだ城田はゴーレムに蹴りを叩き込む。
瞬間、脚部に搭載されたレッグドリルがモーターの回転音を周囲に響かせながら高速回転し、ゴーレムの装甲を抉る。
3連続で叩き込まれた蹴りがゴーレムの体勢を崩す。
その瞬間の隙を見逃さす榊機が飛び込む。
「ここで一機くらいは落としておかないと、周りに示しが付きませんからね‥‥倒させて頂きます!」
榊がミカガミに内蔵された雪村を起動する。この内蔵雪村こそが接近戦を得意とするミカガミの最大の特徴だ、大量のエネルギーを消費するかわりにその威力は折り紙つきである。
腕部パーツから、光の束が伸び光の剣を成す。
形成された光剣がゴーレムの装甲を紙のように切断、剣閃の勢いは衰える事無くゴーレムを引き裂き、反対側へと抜ける。
光剣が振りぬかれるのと同時、腰部を切断されたゴーレムが爆発、四散する。
量産型を片付けた6機のKVは2機で敵エースとの交戦を続ける鹿嶋、龍深城を援護するため機首を翻す。
ある程度の距離が開いているとはいえ、10秒もあれば充分援護できる距離だ。
「援護、いくわよ」
いち早く援護射撃を開始したのはスナイパーライフルRを携えるシャロンだ。
射程的には元の位置からの狙撃も可能だったが、長距離射撃が当たる可能性は相当に低い。ある程度近づいた時点で軽量ゴーレムを狙い放った弾丸だが、軽く機体を傾けてゴーレムはその射撃を回避する。
「バレットレインですっ!」
お気に入りとなったフレーズと共に近伊が弾丸の雨を降らせる。点で当てる事が出来ないなら面で攻める。そういう形だ。
掃射される弾丸の大半は回避されるが僅かなりともダメージを与える事はできたのか、軽装甲に穴が穿たれる。
「‥‥下手な鉄砲数撃ちゃ‥‥って奴か‥‥」
城田も近伊同様に弾幕を張ることで機動性の高い敵機を抑える事を選択していた。
更に、ナナヤ、榊、明星が高分子レーザー砲を連射する。
「‥‥量産型が全滅したか」
後方からの集中射撃にちらりと振り返り、量産型の姿が消えている事を確認したゴーレムパイロットは状況を不利と認識する。
その隙を狙ったのか、間合いを取っていた鹿嶋機からブースターの光が迸るのを視界の端におさめたゴーレムパイロットはそちらに視線を向ける。
鹿嶋機の主兵装である北欧神話における主神が手にした槍、その名を冠する機槍「グングニル」の穂先を慣性制御と機体に追加されたスラスターでギリギリのところで回避し、素早く懐に潜り込んだ軽量型ゴーレムは3連打を叩き込む。
突き出される光の拳が堅牢な筈の雷電の装甲を容易く融解させ打ち砕いていく。
「この帝虎の装甲をこうも容易く‥‥」
「いい加減当たれっ!」
龍深城が軽量型ゴーレムから鹿嶋機が間合いを取った瞬間、アームレーザーガンを放つ。普通の相手であれば直撃させる事も可能だっただろう射撃を軽量型は完全に慣性を無視した機動で回避する。
「状況は不利だけど、1機くらい落ちてもらうわ」
ゴーレムのパイロットはそう言い放つと既にかなりのダメージを受けていた龍深城の機体へと接近、拳を叩き込む。
「くっ‥‥なら、これで!」
現時点の機体性能ではこのゴーレムに有効打を与える事が出来そうに無い、咄嗟に龍深城は機体のマニュピレータを操作し、相手の腕を掴む。
チェーンファングでは僅かな時間しか拘束できなかったが、KVのマニュピレータはそう簡単には破壊できない。まして堅牢な装甲を持つ雷電である、一撃を加える程度の時間は稼げると龍深城は判断していた。
その隙を見極め、鹿嶋がグングニルの柄に搭載したブースターに点火する。
機体そのものを加速させるほどの大推力を誇るブースター。更に機体の4連ブースターを使用して弾丸のように加速した鹿嶋の雷電は、その速度を威力へと転化し軽量型ゴーレムへと刺突を繰り出す。
その様は、彼の機体に描かれたエンブレム‥‥槍騎兵の如く。
衝撃と共に軽量型ゴーレムを弾き飛ばす。
刺突が命中したのはゴーレムの左肩、致命傷には遠い位置だが、装甲を犠牲にして機動性を高めた機体にとっては大きな痛手だ。ダメージに耐え切れなかったのか左腕が付け根から脱落し、小爆発を引き起こして四散する。
部品一つたりとも回収させない手の込んだ自爆機能だ。
更に徒手そのものを主要な武器とするこのゴーレムにとっては攻撃力を大きく減じる結果だ。
「‥‥頃合ね」
配下である量産型も撃退され、8対1となったた現状、これ以上の進撃は意味が無い。下手を打てばここで機体そのものを損失してしまう、それはあまり得策ではない。
そう判断したゴーレムパイロットは機体を翻し、高速で戦線を離脱する。
そうはさせじと、射撃兵装を搭載したKVによる射撃が行われるが、その弾雨をかわし、あっという間にウーフー、スカイスクレイパーによりジャミングがある程度除去されたレーダーレンジ外へと離脱する。
「退きましたか、大丈夫ですか?」
「機体そのものは大分ダメージを受けたが、まぁ動くのに問題はないな」
鹿嶋の問いに、簡単にダメージチェックを済ませた龍深城が答えた。
撃退に成功した傭兵からの報告を受けたUPC軍は該当のゴーレムを有人機であるエース機と認定。
次の出現が確認された場合、再度傭兵を派遣する事を決定する。
傭兵達の交戦記録から軍の通常部隊では攻撃を命中させる事が困難であり、撃墜にかなりの戦力を投入する必要があると判断されたためだ。
ちなみに、撃退したゴーレムの腕部の残骸を回収した明星だが、自爆によって完全に金属片となっていた為に大した情報は得られなかった。
「グラップラーの人たちとかKVでも肉弾戦したいっていう人は‥‥多いみたいだし‥‥強力な非物理攻撃を付与できたら喜ばれると思ったんだけどな」
そう呟いて明星はしょんぼりと肩を落とした。