タイトル:撤退支援マスター:左月一車

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/23 13:51

●オープニング本文


 競合地域。
 人類側支配圏とバグア側支配圏が入り乱れる、いわば最前線となった区域を示す言葉である。
 戦闘も多発し、一進一退の攻防を続ける地域も多数ある。
 となれば、戦闘による損耗等で確保した地域を放棄して後退する部隊も多数存在する。

 多発する戦闘に基地施設そのものに大きな損害を受けた基地司令官は、部隊が戦闘力を保持しているうちに後退する事を決定した。
 とはいえ、兵力の移動にはそれなりの時間を要する。
 その間に敵の攻勢があれば、後退中の部隊に大きな損害が生じる可能性もあるため、殿としての部隊を展開する必要がある。
「あと5分で最後の輸送機の離脱が完了するんだが‥‥どうもぎりぎりで間に合わないようで」
 殿として展開している部隊の哨戒機から連絡が入る。
 それは接近する敵部隊の報告だった。逆算すると敵部隊が輸送機を射程に捕らえるのは4分後。つまり1分程度の時間を稼ぐ必要がある。

「敵部隊の構成は、ゴーレムが4機、陸戦ワームが4機。外観から判断するにゴーレムが前衛を勤め、陸戦ワームが支援砲撃を行う構成のようだ。ついでに後続も続々と来ている。各機の健闘を祈る」


●参加者一覧

鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
M2(ga8024
20歳・♂・AA
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD

●リプレイ本文

1分間。
 普段の生活なら決して長いとはいえないその時間を稼ぐ為に、傭兵達は迫るバグア部隊へと向かう。
 滑走路上の輸送機隊は既にタキシングを終え、一番機が離陸する為に滑走路上を加速していく。

「フフーフ。殿な役どころ、貧乏籤じゃなくて腕の見せ所ですよ?」
 覚醒によりふわもこの白熊頭部となった鈴葉・シロウ(ga4772)の駆る機体は雷電だ。重装甲に定評のある高性能機である、当然機体価格も非常に高い。
 そんな彼の機体には大量のお守りが揺れている。「安産祈願」とかも混じっているが気にしてはいけないのかもしれない。
 傭兵達は班をゴーレム部隊の足止めを行うチームと、砲撃ワームを排除するチーム、輸送機を直衛するチームの合計3チームに分けていた。
 鈴葉・シロウと同様にゴーレムの足止めを行うチームは、紅 アリカ(ga8708)、ドッグ・ラブラード(gb2486)、美崎 瑠璃(gb0339)だ。
「敵部隊、攻撃レンジに入りました」
 最新型電子戦機であるウーフーを駆るM2(ga8024)機のレーダーに急速に接近する光点が映る。ウーフー搭載の強化型ジャミング中和装置のお陰で、各機のレーダー画面はややノイズこそちらつくものの、普段と比べればかなりマシな状態だ。これならば増援が来ても敵の捕捉にそれほど苦労はしないだろう。
「あたしこの戦いが終わったら‥‥これ以上は言ったらマズイわね」
 言葉を口にしかけて苦笑するのは狐月 銀子(gb2552)。いわゆるフラグ台詞というものである。口にしたからといって別段実害は無いと分かっていのだが、実戦に赴く人間にとって縁起を担ぐのは良くある事だ。彼女の機体もM2同様電子戦機のウーフーである。
「さて、行きますか」
 以前に受けた依頼の負傷が完全に回復しきっていないアルヴァイム(ga5051)が自機であるディスタンを加速させる。彼とM2は砲撃ワームの撃破を担当している。
 砲撃隊を防衛するゴーレムをかいくぐり、接近戦を挑む心積もりだ。
「こちらセレスタ、砲弾を撃墜するのは難しいのでなるべく砲撃はさせないでください」
「了解」
 前衛を担当するゴーレム班とワーム班にセレスタ・レネンティア(gb1731)が声をかける。レーダーが万全で、システム的な連動が取れていればミサイル程度の迎撃が可能な場合はあるが、ワームの砲身から放たれるのは非実体弾である。まず迎撃するのは不可能に近い。
「我々に、全ての生命に幸いを‥‥」
 大規模作戦を除けば今回が2度目の実戦となるドッグはそう呟く。ちなみに彼はKV搭乗中にスキルを使うつもりではあったのだが、KV搭乗時はスキルを使えないという事を失念していた。
「‥‥目標、射程内」
「KV戦はこれがはじめてってわけじゃないし。だいじょぶ、やれるはずっ!」
 紅は自機であるミカガミに装備させた唯一の武装であるヒートディフェンダーを構える。固定兵装に内蔵型雪村を備えるとはいえ、内蔵雪村の燃費は悪く2度の使用がほぼ限界である以上、ヒートディフェンダー一振りで戦う完全白兵仕様の機体である。
 美崎の駆る阿修羅も肉食獣を彷彿とさせるその姿で紅機の横を駆けた。

 激しい衝撃音が戦場に響く。
 敵部隊接触と同時に、壮絶な攻撃の応酬が起きる。金属と金属がぶつかり合い甲高い音を上げ、爆発音が響き、銃撃が走る。
 ゴーレム隊は砲撃役である陸戦ワームの防衛を担う壁であるようだ。
「さて各々方、私が背中を全力で守ってあげますので。存分にどうぞ?」
 鈴葉の雷電が対戦車砲を放ち、前衛を担う紅とドッグの援護を行う。美崎機は突撃仕様ガトリングと20mmバルカンで弾幕を張り同じく2機援護を担う。
「‥‥ここから先へは、通すわけにいかないわね。順番に三枚に下ろしてあげるわ」 
 紅がミカガミに装備したヒートディフェンダーを眼前のゴーレムへと振るう。柄からカートリッジが排出され剣身が赤熱する。袈裟切り、逆袈裟、なぎ払い、と3連続して振るわれた刃はゴーレムの装甲を溶断し痛手を与える。
「ここだぁ!」 
 ダメージを負ったゴーレムにドッグ機のライトKVスピアが突き出される。彼の機体はそれほど改造の施されていないS−01だ、最近の敵に対してはやや力不足も否めない機体ではあるが、量産型のゴーレムやワームを相手にするのであれば充分な戦闘力を発揮する。
 機体特殊能力であるブレス・ノウを発動させ、敵の動きを完全に見切った一撃は溶断された装甲の隙間に入りゴーレムの内部機構を大きく損傷させる。
 それが致命打となったか、ゴーレムは自爆装置を作動させ自機を完全に吹き飛ばす。
 爆散したゴーレムの破片がドッグ機の装甲に当たり、金属音を立てるのを無視して次の敵へと機体を向ける。
 更に鈴葉機から放たれた砲弾がゴーレムの1機を貫通し、1機を打ち倒す。僅か10秒足らずの激突で2機のゴーレムの撃墜に成功する。
 
 距離が遠いためか、輸送機を狙い間隔を置いて放たれる砲撃は空港施設や格納庫といった施設を吹き飛ばすに留まり、滑走路や輸送機への直撃弾は存在しない。とはいえ放置すればいずれその砲撃は直撃弾を出すだろう。
 M2は残骸に機体の半ばを隠し、スナイパーライフルD−02による狙撃を行う。
 放たれた銃弾がワームの装甲を突き破り小爆発を引き起こす、同様に残骸に身を潜めたアルヴァイムの放つ銃弾も突き刺さり、砲撃ワームに大打撃を与える。
 損傷を負ったワーム隊各機がよりダメージの大きいアルヴァイム機へと砲身を向け、砲撃を放つ。
 砲撃の半分以上は残骸へと命中するが、その半分がアルヴァイム機へと直撃する。
「アルヴァイムさん!?」
「問題ないですよ」
 半分の砲撃を受けたアルヴァイム機にはほとんどダメージを負っていない。ディスタンのアクセルコーティングは非物理兵器に対しての効果は無いが、機体に搭載されたミラーフレームに加え、恐ろしいまでに改造の施された装甲にほとんどの攻撃が阻まれていた。
 唯一の損傷といえば機体表面の塗料が焦げた程度だ。信じがたい装甲である。
 砲撃ワームもまた、ほとんど無傷のアルヴァイム機に気圧されたのか、更に砲撃を放とうとした体性のままに固まっている。ワーム搭載のAIにとっても計算違いだったのだろう。AIが次に攻撃する機体を選定しあぐねている様子を彼らが見逃すはずも無い。
「危険な相手は、早目に潰させて貰うよ」
 M2が既に大きなダメージを負っていたワームをリロードしたスナイパーライフルで撃破し、アルヴァイムは凄まじいレベルの改造が施されたヘビーガトリングを放ち、ワームの装甲を吹き飛ばしていく。
 10秒にも満たない時間で砲撃ワーム部隊は半ば壊滅状態へと陥っていた。
 
「‥‥輸送機が順次離陸します、ここからです」
 前線の様子を油断無く見つめながらセレスタが機体のタイムカウンターに視線を移す。タイムカウンタは20秒を示している。
「‥‥でも割と簡単に終わりそ‥‥頼んでも無い追加オーダーが来たわ♪ もうおなか一杯だから下げて貰いましょ」
 砲撃ワーム隊も全滅し、防衛のゴーレムもそのほとんどが撃破された前線の状況に安堵しかけた狐月が、レーダー上に映し出された新たな光点に気づく。
 方位は先ほどの攻撃部隊の後方と、事前にアルヴァイムが司令部から確認した増援が来るであろう方位、両側から接近してきている。
 攻撃部隊後続の部隊規模はかなり大きなものだが、左右からの機体は2機づつ。
「では私は右側を担当しますので、左側はよろしく」
「おっけーですよ、セレスタさん」
 セレスタは狐月機に告げてから機首を翻す。
 バイパーの風防越しに見える敵機は通常型の陸戦ワームが2機だ。
「‥‥蜂の巣にしてやるわ」
 四足歩行する敵機へと素早く接近しP−115mm高初速滑空砲の射程へと収め目標をロック。3連射を行う。
 ロシアのメガコーポレーションであるプチロフ社の戦車砲の部品を流用した大口径砲から放たれた計6発の砲弾がワームの装甲を突き破り、爆炎を上げる。
「狙いはばっちり後はやる気と根性ね。頼んだわよウーフー君♪」」
 狐月も射程に入った敵機へと、その扱いやすさから多くの傭兵が愛用する3.2cm高分子レーザー砲を連射する。
 9つの閃光が狙い過たずワームを貫通し、行動不能に陥った敵機が機密保持のため自爆する。
「こっちも1機撃墜」
 攻撃を免れた機体が、機種を滑走路を走る輸送機へと向けるが、二人ともそれを見過ごす気は無い。
 素早く射線に踊りこみ己の機体を盾とする。
「‥‥危ない危ない。お姉さん一瞬マジになっちゃったじゃない」
 狐月はプロトン砲の砲撃をディフェンダーを盾にして弾き、セレスタもバイパーの重装甲を盾とし攻撃を防ぐ。両機ともそれなりの損傷を受けたが、戦闘行動に支障の出るようなものではない。
 離陸を開始した輸送機隊を背後に、セレスタと狐月の両機はさらにもう2機を撃墜する。
 ウーフーのレーダーに追加の敵機が存在しない事を確認した両機は、多数の敵機を相手取る前線の部隊を支援するため機体を翻した。

 40秒が経過した。
 あと20秒で輸送機隊全機は離陸を完了する。占領部隊であるためか、陸戦兵器、陸戦キメラのみの敵からすれば空に上がった敵機を追撃する術は無いため、空に上がりさえ出来れば当面の間は安全だ。
「私ってばかーなーり、頼もしいオトコですよ? このふわもこに賭けて」
 多数の敵機を相手取り、鈴葉の雷電は一歩も退かない、一度の射撃で計45発のミサイルを放つH−12ミサイルポッドで群れる敵機へとミサイルの雨を降らせる。
 ターゲットとした機体以外にも複数の機体がミサイルを浴びる。無論集中的にミサイルを受けた敵機は吹き飛んでいるが。
 更にその後方から接近するキメラ交じりの部隊へとミサイルを撃ち込んでから武装をヘビーガトリングへと持ちかえる。
 対戦車砲とミサイルポッドは弾薬が底を付いていた、鈴葉機に残された武装はこのヘビーガトリングだけである。
「必殺! 阿修羅疾風斬‥‥みたいなっ! 続けて必殺! サンダーインパクト、フルドライブっ!」
 阿修羅の背中に取り付けられたディフェンダーを前方へと展開し、美崎の機体がゴーレムに向かって駆ける。勢いを維持したままの突撃によってディフェンダーで敵機の装甲を切り裂き、阿修羅の尻尾に取り付けられたサンダーホーンを叩き込む。
 既に損傷を受けていたゴーレムが耐えられる筈も無く、素早くその場を離脱した美崎機の前で爆発する。
「こう見えてもアジアの激戦戦い抜いた身なんだから! これくらいで負けるあたしとLapisじゃないわよ!」
 彼女の機体も既にそれなりの損傷を受け、機体の一部からはスパークも上がっているが、その闘志が衰える事は無い。
「あと10秒くらいでしょうか?」
 ゆっくりと後退し味方機と合流したアルヴァイムのディスタンは文字通り鉄壁の壁となっていた。
 バグア側からの攻撃のほとんど全てを弾くその姿は、名古屋防衛戦で登場したシェイドとKVの戦いをそのまま反転したかのようだ。
 改造により高い火力を誇るヘビーガトリングを掃射し、3.2cm高分子レーザー砲を連射する。その度に損傷を受けた敵機が爆発し、随伴していた大型キメラが肉塊へと変わる。
「撤退する輸送機は、全部無傷で守り切りますよ!」
 そのアルヴァイムの後方からM2はスナイパーライフルで援護を続ける。時折近づく機体にはR−P1マシンガンで牽制射をかけ、自機へと接近する事を防いでいる。
 8機のKVはお互いの死角を補うように連携し、圧倒的とも言える数の敵機の攻勢を防ぎ続ける。
「全く、何機いるのよ」
 機敏に戦場を駆ける紅がぼやく、 弾幕を張る味方機の懐へと入ってきた敵機を赤熱化したヒートディフェンダーの剣身で切り裂いた彼女は既に5機近い敵機をその刃で沈めていた。
「生憎、この目も節穴ではないようで」
 紅機の背後から迫った機体をドッグはランスで串刺しにする。
 もがく敵機を遠距離から飛来した光が貫き、動きを止めさせる。
「晩御飯の時間よ! 全員撤退!」
「最後の輸送機の離陸を確認、私たちも撤退しましょう」
 タイムカウンタは既に60秒経過していた。
 セレスタと狐月が全機に呼びかけつつ砲弾の雨を降らせ機体を後退させる、他の機体も彼女達の合図で弾幕をばら撒きながら後退を始める。
 弾幕を壁として充分な距離を稼いだ傭兵は離陸時の隙を狙われないよう煙幕弾を放つと順次滑走路を走り、機体を加速、変形させて離脱を開始する。
「ん、大成功! 帰ったら小隊長に報告だっ♪」
「こちらセレスタ、作戦は終了‥‥怪我をされた方はいませんか?」
「元から怪我してます」
 アルヴァイムからの返信にセレスタは若干苦笑する。この戦いでアルヴァイムの見せた働きは高い機体性能にも支えられ怪我人とは思えないレベルのものだった。
 
 こうして、輸送機に被害を与える事無く撤退を完了させた事で、この戦線での敗北の影響は最小限に留める事に成功した。
 僅か1分間の戦闘だが、高性能機を駆る傭兵が多く居た事もあり、敵部隊に甚大な被害を与える事にも成功していた、その影響により占領された地域の奪還は想定より早期に行われるだろう。