●リプレイ本文
中東からインドへと移動するバグア軍に対応するため、艦隊はインド洋上に展開し搭載KVによる防衛ラインを構築していた。
流石に移動する兵力全てに対応する事ができる訳ではないが、それでも現時点ではかなりの数の阻止に成功している。
当然ながらバグア側にとっても看過できる状況ではなく、囮として放った部隊に艦隊の主力であるKV隊が対処している隙に艦隊を撃破する為に兵力を空と海から差し向けていた。
バグア側の誤算は、艦隊直衛に百戦錬磨の傭兵達がついていた事だろう。
空母の艦尾ウェルデッキから発進するのは水中の戦力に対応する水中KVだった。
出撃するのはW−01が5機、KF−14が2機。本来はもう1機W−01が搭載されて居たのだが、発進直前に深刻なマシントラブルが発生し今回の出撃は見合わせる事となっていた。
「インドへの防波堤、ここを抜かせちゃ話にならねぇからな」
「最初が肝心よ、焦らずいきましょう」
海中へと潜行を開始するW−01のコクピットでジュエル・ヴァレンタイン(
ga1634)が気合を入れる。
彼とペアを組む鯨井昼寝(
ga0488)がKF−14の速力を活かして先行する。彼ら二人は遊撃班として艦隊を攻撃する敵部隊の側面を突く役割を担っている。
「海戦は久しぶりですね‥‥それに、敵の数も今まで類を見ないほどの大勢です、気を引き締めてまいりましょう」
鯨井とジュエルのペアとは異なり単機で遊撃を担うのは如月・由梨(
ga1805)だ。
「静かな海中だが、さてしばし騒がしくなろうぞ」
出撃する全機へ海中の潮流や地形のデータの送信を終えた刃金 仁(
ga3052)は、ソナーに表示される敵機がDM5B4重量魚雷の射程に入るのを待つ。
刃金同様に護衛班に属する残り3人は遠石 一千風(
ga3970)と竜王 まり絵(
ga5231)、綾野 断真(
ga6621)だ。
それぞれが長射程の武装を装備し、最初の接触時に可能な限り敵機を減らす予定だ。
傭兵達の陣形を確認したバグア側の水中部隊も同様に部隊を分散した。遊撃班3名に3機、残りの5機はそのまま空母艦隊への直進コースを取る。
3機が邪魔な敵を抑えて挟撃を防ぐ間に残り5機で中央突破をはかる基本的な戦術だ。
「各機へ、これより支援を開始する。‥‥当たらないように気をつけろよ?」
空母艦隊から通信が入ると同時に、増設されたアスロックランチャーから放たれた無数の魚雷がワームの周囲へと次々と着弾する。
非SES兵装ではフォースフィールドを貫き有効打を与える事は困難だが、衝撃そのものまでは殺しきれない。直撃を食らった数機が姿勢を崩す。
「ここまでよ。お引取り願うわ」
遠石が熱源感知型ホーミングミサイルを放つ。SES搭載武装である水中用ミサイルは最も突出していたマンタワームを捉え、爆発を起こす。
竜王機も同じ機体へとDM5B3重量魚雷を発射する。装弾数は僅かに2発と少ないが、その分大型化された魚雷は高い威力を発揮する。
狙い過たず、遠石と同じ機体へと命中する。
さらに綾野、刃金機より放たれる魚雷が的確にマンタワームを捉えるが、水圧を考慮した堅牢な外殻はボロボロになりながらも4機の集中攻撃を持ちこたえ、自身の攻撃レンジへと入った4機へ反撃を繰り出す。
マンタワームは手近な綾野機を照準に収めると水中用に調整されたプロトン砲を放つ。
W−01は堅牢な装甲を誇る防御性能の高い機体ではあるが、その分回避性能はやや低めだ。回避しきれずプロトン砲が機体側面を掠める。
「空母はこの後の作戦に必要ですからね、こんなところで沈めさせる訳にはいきませんね」
攻撃をしのいだ綾野達護衛班は更に攻撃を集中させる。
流石のマンタワームも2度の集中攻撃には耐え切れず、機体を爆散させた。
「これでようやく同数か、やれやれじゃの」
刃金がぼやきつつ、接近する後続機に対して重量魚雷を放った。
一方、ジュエルと鯨井は2機の水中ゴーレムを相手にしていた。当初は分断し、2対1の状況を作り出す事を考えていたが、そう上手くはいかなかった。
とはいえ、2対1とするとフリーとなる敵が出来るため、これはこれで問題はない。
1機のゴーレムはその両腕で長大な太刀を保持している、水中用太刀「氷雨」を参考とした武装の一つなのだろう。とはいえ氷雨よりも長大な刀身を持っている。
もう1機はそのゴーレムを支援するためだろうか、ガウスガンに酷似した武装を牽制として放ってくる。
「うおりゃぁ!」
ジュエルが気合の声を上げると、ガウスガンの弾幕を潜り抜けて正面から氷雨を装備したゴーレムへと突撃する。減速を考慮しないその速度にやや角度がずれたか、刃筋を通さずに振るわれた氷雨はW−01の装甲を滑る。
直後にジュエルの機体がゴーレムへと衝突、両機へとダメージを与え双方の機体が弾き飛ばされる。
体当たりを考慮していたジュエル機は相手が姿勢を取り戻すのより先に機体の姿勢を立て直すと、機体を変形させ高分子レーザークローを展開させる。装備されたレッドマントが水中でたなびく。
「させない!」
そのジュエル機に狙いを定めていたもう1機のゴーレムに鯨井はニードルガンによる牽制射撃を行う。
放たれたニードルが回避するゴーレムの装甲に突き刺さり僅かに小爆発を起こす。接触前の長距離攻撃で食らった魚雷で損耗していた装甲を貫通したようだ。
鯨井が作った時間に礼を述べつつ、ジュエルは高分子レーザークローを突き入れる。
1度、2度、3度と繰り出される高分子レーザークローにゴーレムの装甲が抉り取られていくが、肉を切らせて骨を断つとばかりに回避を捨てて振るわれた太刀がW−01の装甲を斬り飛ばす。
斬撃とクローの応酬、近接格闘戦を展開する2機に鯨井もゴーレムも支援を行おうとするが、めまぐるしく位置を変える為に狙いを絞る事が困難だ。下手に撃てば味方機に直撃する。
鯨井は支援を諦め、もう1機のゴーレムへと接近する。
迎撃として放たれる銃弾を機体装甲で受け止めながら変形した鯨井のKF−14が、高分子レーザークローを展開し格闘攻撃を始める。
格闘戦の間合いに入り込まれたゴーレムは水中用ディフェンダーを引き抜き、鯨井へと斬りかかる。
そんな彼らの横で爆発音が響き、衝撃波に揺れる水中でゴーレムが姿勢を崩す。
その隙を逃さず鯨井は先程ニードルを受けた場所へとレーザークローを繰り出し、撃破する。行動不能となったゴーレムは自爆システムを起動させると爆発四散する。
「この私の相手するには10年早いってね!!」
「こっちも仕留めたぜ!」
先程のゴーレムが姿勢を崩すきっかけとなった爆発はジュエルが仕留めた太刀装備のゴーレムを仕留めた際の自爆のようだった。ゴーレムがゴーレムの足を引っ張った形になる。
ジュエルの機体も相当に傷ついているが幸い駆動系に損害は受けておらず、戦闘を続ける事に問題は無い。
「防衛班の支援に行くわよ!」
「よっしゃ、次はどいつだ‥‥って昼寝ちゃん、ちょ、待っ‥‥」
鯨井がブーストを起動し防衛戦を展開する防衛班の元へと急行する、元々の速度に劣るジュエルもブーストを起動し慌てて鯨井の後を追いかけていった。
1対1の戦闘を展開するのは如月だ。
如月のKF−14は機体改造に加え、搭載したアクセサリで高い機動性を得ていた。ゴーレムの攻撃を巧みに回避しながらガウスガンの射撃を行っていたが、ゴーレムが間合いを詰めてきてからは水中用ディフェンダーを装備して斬撃を行っていた。
ゴーレムもまた水中用ディフェンダーによってその攻撃を受け止める。
完全には衝撃を殺しきれず、いくらかのダメージは受けるが、このゴーレムは如月機を引き付ける事を選択したようだ。
如月が引けば追いすがり、追いかけてくれば引く。明確に時間稼ぎをしているとは分かりつつも、簡単には通してくれそうも無い。
「‥‥邪魔ですね」
鯨井とジュエルが自分の相手を片付けた事で戦況はこちらに傾き始めている。焦りは禁物と自身を戒めながら如月はゴーレムへと攻撃を続ける。
ゴーレムも戦況が悪化した事に気づいたか、方針を防御から攻撃へと傾けたのか、攻撃が激しさを増す。
豪腕に振るわれるディフェンダーが如月の機体を捉え装甲を抉るが、対する如月も同様にディフェンダーを振るいゴーレムの装甲に傷をつける。
「これでとどめです!」
ゴーレムの大振りの一撃をかわした如月は、水中用ディフェンダーを全力で振るう。既に幾度も攻撃を受けていたゴーレムの装甲が限界に達したのか、ゴーレムの装甲が砕け内部を大きく破損させる。
動きを止めたゴーレムから如月がディフェンダーを引き抜き間合いを取ると同時に、ゴーレムは爆発する。
それを見届けた如月は、機体を翻すと防衛班との戦闘を続けるワーム達へと向き直る。
ワームと自機を結ぶ直線状にイージス艦、空母共に存在しない事を確認してから如月は長距離兵装であるミサイルの最後の一発を放ってから、そのミサイルを追うかのように護衛班の方向へと移動を開始した。
「‥‥あれ?」
防衛戦を展開していた竜王がふと違和感を抱いた。
キャノピー越しの視界は爆発や何やらでかなり視界が悪いが、ソナーによる探査で地形や何やらは理解できるため視界は悪いが周囲の状況は理解できる。
ソナー画面に視線を戻した遠石は違和感の正体に気づく。
「1機どこかに消えましたわよ!」
4機を相手に防衛戦を展開していた防衛班だが、視界が悪くなった事で敵のうち1機が彼らの視界外に逃れたらしい。
「潜れないぐらい深いところから、急浮上などされては堪らないのう」
敵の様子や行動を観察していたが、視界不良や交戦中という関係もあり全ての敵機の行動を完全に把握しきれなかった刃金が深海からの攻撃を懸念する。
「ちょっと待ってください」
綾野がセンサーの倍率を上げる。探査は甘くなるがその分遠距離の敵を把握する事が出来る。
水深200mほどの深海域に反応が出る。その反応は体当たりを得意とするメガロワームのものだ、どうやら深海から急速浮上による体当たりを試みようとしている。敵の数を常時把握していた竜王だからこそ気づいた事だ。
気づきさえすれば対処は容易だ。浮上中を叩くなり、魚雷を打ち込むなりで対応できる。
即座に伝達された情報を元に水上の艦隊から爆雷が投下される、無論撃破を期待したものではなく爆発による衝撃を利用して急速浮上による突撃を防ぐのがその目的だ。
敵機の残数は4、防衛班の人間が1名抜けても深海域のマンタワームへの対応は可能だが、現状の水中用KVの限界深度は水深75m、無理をすればそれ以上の深度への潜行も不可能ではないが戦闘で損傷を負った状態で水圧に機体が耐えられる保障はない。また、防衛戦で既に長距離兵装の魚雷はほぼ打ちつくしている、リロード可能なガウスガンなどの射撃武器では距離が足りない。
マンタワームが同じ深度にいる限りこちらからは手が出せず、対する向こうも手が出せない状態だ。
手詰まりを感じたのか、爆雷を回避したマンタワームが急激に浮上を開始する。目標は空母の艦底だ、万一阻止に失敗すれば横腹に直撃を食らった場合とは比較にならない損害が生じる。
「させない!」
遠石がマンタワームの予想進路上に移動し、接近するマンタワームへとツインジャイロを繰り出す。
水中用ドリルであるツインジャイロは細かな気泡を上げながら急激に接近するマンタワームへと激突し、その装甲を抉り、穿つ。
ツインジャイロを旋回させたまま遠石は更に深くKVの腕を突き入れる、内部機構がドリルの刃に抉られマンタワームは動きを止め、爆発した。
ほぼ同時に竜王もゴーレムを相手とした戦いに勝利していた。
竜王は接近時の魚雷によって開いたゴーレムの幾つかの損傷箇所や間接を狙いレーザークローによる攻撃を繰り出していた。
最も動いている目標の中の更に細かい部位への命中は困難を極める。
狙いを外しゴーレムの外装を削る事も多かったが、実力もあるだろうが半ば以上幸運によって見事に腕の肘間接部を捉える事に成功していた。
間接部という小さな部位に直撃を受けたせいかゴーレムの腕が脱落する。
片腕を失っては勝敗はほぼ決したようなものだ、続けて繰り出される竜王の攻撃を幾度かはしのいだゴーレムだが、とうとう致命的な損害を受けて爆発する。
「あと2機ですわよ!」
この頃になると足止めを受けていた遊撃班も合流し始める。
既に戦力比は単純に数だけ比べても8:2であり、勝敗は決したといえるが残った2機のメガロワームは撤退する様子は見せず、手近なイージス艦へと進路を向ける。
少しでも被害を与えようとワームのAIが判断したのかは分からないが、傭兵達としてもそれを見過ごす理由は無い。
7機のKVから放たれるガウスガンやニードルガンの弾丸がメガロワームの装甲に次々と穴を穿っていく。その弾丸の流れに乗るかのようにジュエルのW−01がブーストで急加速しメガロワームを追う。
機体がメガロワームに追いつくとジュエルはレーザークローを振るいワームの装甲を切り刻む。
次々と与えられる被害には耐え切れず、2機のメガロワームは目標としたイージス艦の手前で爆発した。
「全敵機の撃墜を確認した、空も片付いたようだ。帰還してくれ」
「了解」
空母側から作戦終了が伝達される。空母側の話によると空での迎撃に上がった傭兵達も全ての敵機の撃墜に成功し、艦隊への被害を最小限に済ませる事に成功したとの事だ。
艦艇への被害は空、海含めて最小限に抑えられ、特に最重要の防衛目標であった空母への被害はゼロだった。
この艦隊の役割は増援阻止という比較的地味なものだが、それ故に重要な任務でもある。
それを守り通した事でバグア側は増援のルートを一つ断たれる事となる、その結果は激化するインド戦線の戦局に有利に働く事となる。