タイトル:サジタリアスの矢マスター:サージェント

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/10 16:09

●オープニング本文


某所上空

「機長、例の噂ですが‥‥本当ですかね?」
「ああ、この辺りを飛行した航空機が忽然と消息を絶つって噂か。どうかな。案外ただの噂とも思えるが」
 宵闇の大空を1機の標準的な輸送機が飛んでいる。計器の発するオレンジの光に照らされたコックピットで機長とコ・パイの2人は最近どこからか流れている噂について話し合っていた。
「まぁ警戒しておくに越したこともない。レーダーしっかり見とけ」
「了解です機長」
 苦笑する機長の隣でコ・パイがレーダースクリーンをじっと注視し始めた。特に異常は無いのでふと、窓に目をやると、眼下の無人島から何か光が走った。
「機長!右下の方角で何か光りました」
「ん、どこだ? 光だと‥‥」
 機長の言葉は最後まで紡がれなかった。飛来してきた何かに輸送機は撃ちぬかれ、バラバラに分解しつつ地上へと墜ちていったからである。

UPC某基地内ブリーフィングルーム

「諸君、よく集まってくれた。これよりブリーフィングを行う」
 担当官がプロジェクターの電源を入れる。スクリーンに不鮮明な航空写真と地図が映し出された。
「ここ最近、当該空域で軍、民間機を問わず航空機が消息を絶っている。メイディの発信も全く無い。そこで調査のため無人偵察機を派遣したのだが‥‥撃墜された」
 担当官が一旦言葉を区切り、コンソールを操作し映像を表示する。眼下の地上をカメラに捉えながら飛行していると、無人島から光が迸る。光が画面いっぱいに広がった瞬間、映像は途切れた。
「次にKVを派遣したがまたも攻撃を受けた。偵察任務に着いていたKVは全弾回避に成功、パイロットの報告によると対空ミサイルだったとのことだ。その際に撮った画像がこれになる」
 今度は鮮明な画像が表示される。それはワームであった。2本の鉤爪を持ち、6本足で体を支えた胴体の背に長く伸びたミサイルコンテナらしき物体を載せている。
「偵察結果等を分析した結果、このワームは一定の、おおよそ半径15kmに入った飛行物体をことごとく攻撃することが分かった。地上から接近した物体には至近まで接近しないと反応しない」
 担当官がワームの背の部分を拡大表示して指示棒でコンテナ部分を指し示した。
「さらにこの部分、敵ワームの背のコンテナは対空ミサイル発射装置、弾頭は一般的な炸裂による破片効果で目標を撃墜するタイプでは無く、徹甲弾頭。つまりミサイル自体の運動エネルギーで目標を破壊するタイプと推測される」
 担当官はその後地形情報など詳細情報を伝え終わると集まった傭兵達を睥睨し、おもむろに口を開いた。
「このワームを仮称としてサジタリアスと命名した。貴官らの今回の任務はこのサジタリアスを如何なる手段を持ってしても撃破することである。残念なことに目標が潜んでいる無人島は貴重な生物資源の宝庫として有名な島だ。KVによる強襲も提案されたが前述の理由から却下された。該当空域は航空流通路の要であり、早急に安全を確保せねばならん。万が一諸君らが目標の排除に失敗した場合、生物資源への損害を顧みずKV部隊による空爆が実施されることになっている。諸君らの奮起を期待する」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
ガーネット=クロウ(gb1717
19歳・♀・GP
アリシア・ルーデル(gc8592
20歳・♀・SF

●リプレイ本文

●無人島南海域、洋上にて

 洋上を白波を蹴立てながら1隻の駆逐艦が航行していた。今回の作戦のためにUPC海軍から分派された高速力を誇る新鋭艦である。その前甲板でドクター・ウェス(ga0241)は空を見上げ何やら頷いていた。
「うーん、清々しい天気だねぇ〜、見渡すかぎりの大海原、実に研究日和だ」
 隣で落下防止索に体を預けながら、終夜・無月(ga3084)は相槌を打つ。
「確かに、いい天気だ。これならば捜索も難度が低くなるだろう」
 一方、甲板に存在を誇示する第1砲塔前では、ガーネット=クロウ(gb1717)が事前に説明された情報を元に思案していた。
「今回の目標は対空ワームとのことですので、島の北側に居る可能性が高いでしょうね。森の中や洞窟に隠れていると、飛行機を撃つのは難しいでしょうし」
 ガーネットが思案している横で装備の最終点検に余念が無いアリシア・ルーデル(gc8592)はガーネットの分析を聞いていたが、今回の作戦に対する不満を零した。
「大義の前の小義を捨てるべきなのだが‥‥焼き払うほうが早いだろうに」
「焼き払ったとして、デメリットの方がはるかに多いですからね。ワーム1機をKVでさくっと始末するだけなら正規軍の新兵でも出来ます。だからこそ今回私達が依頼されたわけですし」
 アリシアの不満をガーネットがそう言って嗜める。
「それはもう納得するしか無いが、どこから来たのだ? このキメラは」
「確かにこの、サジタリウスと言いましたか。このワームがどこから上陸したのか‥‥上陸地点の砂浜も怪しいですね。念のため警戒しておきましょう」
「命名などドウでもいいね〜、バグアを倒す、ソレだけだね〜」
 ガーネットの指摘に頷きつつ、ウェストは肩を竦めながらそう言った。
「上陸まであと10分、各員は準備されたし、繰り返す‥‥」
 スピーカーからアナウンスが流れる。島が近いらしい。一同は再度装備の点検を開始したのであった。

●上陸、そして探索へ
 警戒して砂浜に近づいた一同であったが何事も無く、無事上陸に成功していた。上陸を見届けた駆逐艦が回頭し、離脱していく。
「さあ、バグアを退治しよう〜」
 ウェストが開口一番、そう発破をかける。
「ふむ、この足跡らしきものは‥‥」
 終夜が砂浜に刻まれた足跡らしきものの側に屈みこみ、見分している。首をめぐらし足跡を追うと、それは森の中へと続いていた。
「事前に入手しておいた地図だ。使ってくれ」
 アリシアが全員に地図を手渡す。それを見計らってガーネットが提案を出した。
「見た通り、ワームはここから上陸したみたいね。万が一逃げられると困りますから、囲みましょう。具体的には‥‥手分けして捜索後、時間を決めて集合ということで」
「うむ、吾輩はそれで問題ない」
「俺もそれでいい」
「では無線の周波数も確認しておこう‥‥周波数合わせ」
 手短に相談を終わらせ、無線の周波数を合わせる等準備を完了した一同はそれぞれ担当範囲へと散開していった。

 島南の森の中、ウェストは図鑑やサンプルでしか見たことのない植物に思わず見とれていた。
「ア、アレは解熱作用があるという‥‥おお、アソコには希少な植物群が〜」
「貴公の熱意は分かった、観察もいいがそろそろ捜索を再開しないか?」
 同行していたアリシアが苦笑しながら右に左に忙しなく動き回りながら観察に余念がないウェストにそう促す。
「あぁ、そろそろ行こうか。コノ生命達の楽園を守らねばならないね〜!」
 ひとしきり観察して満足したのか、彼は満足そうな顔で額の汗を拭った後、意気揚々とワームの捜索を再開したのだった。
「ここにも居ないか‥‥もっと北か?」
 終夜は探査の眼も発動させ、油断なく周囲を警戒しながら捜索を続けていた。足元にその筋の研究者が見れば顔色を変えそうな希少な植物が群生しているのだが一顧だにせず、ずんずんと先へ進んでいく。やがてこの近辺の捜索も終わったのか、彼はさらに森の奥へと姿を消した。
 一方ガーネットも同じように森の中を捜索していた。
「ここにも居ませんか‥‥やはり開けた北の丘陵地帯が本命でしょうか」
 独りごちながら無線機に耳を傾ける。漏れ聞こえる他の皆もまだ目標を見つけてはいないようだった。
「もう少し北へ行ってみましょうか」
 彼女もまた森の奥へと進み、丘陵地帯へとさしかかった頃、丘陵の頂点付近で動く影を見つけた。
「あれが目標でしょうか、皆に連絡を」
 胸元から呼笛を取り出すと天に向かって吹き鳴らした。笛の音を聞きつけたのか無線機に次々と応答が入る。一旦集結した一同は改めて丘陵の頂点付近に見える影を確認した後、逃がさないように包囲すべく警戒しながらじりじりと接近し始めた。

●対決、サジタリウス
 目標となるワームがはっきり見える距離まで近づいた一同だったがワームは気づく様子も見せず、何やら前腕の鉤爪で穴を掘っている。
「何をしているんだあれは?」
 終夜が理解出来ないとばかりに首を捻る。横で何やら考え込んでいたアリシアがボソッと呟く。
「ふむ、祖父から聞いたことがある。戦車が待ち伏せするとき、穴を掘ってその中に車体を隠すという‥‥あのワームもそれを実践しているのではないか?」
「有り得そうな話だね〜、で、その件のアリシア君の祖父はそれでどうしたのかね?」
「決まっている。祖父なら急降下爆撃で仕留めただろうな」
 アリシアの話にウェストが合いの手を入れると彼女は誇らしげにそれが当然であるかのように間髪入れずにそう答えた。
「それにしても全然こっちに気が付きませんね‥‥」
「気が付かないなら好都合だ、このまま仕留めよう」
 ワームを注視していたガーネットが未だに動きが無いことを伝えると終夜が戦闘態勢を取りながらそう促す。その声をきっかけに一同はそれぞれの得物を構え、全員が戦闘態勢を整えた。
「さあ、白い鴉よ、行きたまえ〜!バグアをコノ島から消しさるのだ〜!」
 ウェストが練成強化と電波増強を発動、脇に抱えていた鳥籠、超機械『白鴉』から電磁波が解き放たれワームに殺到する。寸分違わず関節部の駆動系が電磁波によって内部回路を焼ききられた。
「私に出逢ったのが悪い‥‥」
「サジタリウス、射手座ですか。私は蟹座ですが相性はどうなのでしょう」
 がくっとワームの6本の足から力が抜けたところで終夜とガーネットが瞬天速でそれぞれ至近距離に肉薄する。
「ガーデルマン! さぁ、出撃だ!‥‥って、あいつは別れたんだったな‥‥」
 電波増幅を発動したアリシアも獲物を構え、手にした得物からエネルギー弾を発射し牽制を開始する。ワームもようやく気がついたのか前腕の鉤爪を接近した2人に対し振りかぶる。振り下ろされた鉤爪を位置を入れ替えながら回避した二人はすれ違いざまに足を終夜は切り飛ばし、ガーネットは叩き折る。支えを失ったワームはその場に轟音を立て沈み込んだ。
『それにしても勘のにぶいキメラだ、ここまでされてやっと我らに気づくとは』
 アリシアがそう内心で呟き、キメラを注視していると背の対空ミサイルコンテナがこちらに指向しているではないか!
「む、いかん!」
 即座に反応した彼女はエネルギー弾をコンテナから顔を覗かせ、今まさに発射されようとするミサイルにぶち込んだ。
 危機を察知した終夜、ガーネット両名も飛び下がり距離を取る。刹那、誘爆したミサイコンテナと共にワームは爆散し、動きをついに止めたのであった。

●戦い終わってその後は

 島から離れる1隻の輸送艦があった。任務成功の報告を聞き、迎えに差し向けられた艦である。
「アノ島も地球の生命だね〜」
 島が遠ざかっていくのを見やりながら甲板で呟くウェスト。貴重な植物も観察できたがそれ以上にレアなワームのサンプルを入手できた彼は実に満足であった。その横ではガーネットが任務終了後許可された動植物の観察を思い出し表情が緩んでいた。
「遠くから眺めるだけなら構いませんか? 言ってみるものですねぇ」
「貴公らそんなところにいたのか。これから我の初陣が無事終わった祝杯でもあげようと探していたのだ。参加してくれると我も嬉しい」
「まぁ船上で酒を飲むのも悪くない」
 彼女の隣で高級ワインを手に終夜も2人を待っていた。
「じゃぁご相伴に預かるとしますかね〜、といっても吾輩、アルコールは受け付けないので食べる専門だがね〜」
「ええ、そうしましょうか」
 ウェストとガーネットも促され艦内へと足を向ける。こうして無人島にまた静寂が戻ったのであった。