●リプレイ本文
●通信中継基地東の森にて
うっそうと茂る木々の中で、緋沼 京夜(
ga6138)は事前に手配した基地周辺の地図を確認しながら同伴している少女に声をかけた。
「どうだ? 様子は」
「これは想像以上ですね‥‥かなり押し込まれてます」
木の上に登り、探査の目を発動しながら双眼鏡で交戦中の基地周辺の様子を観察していた春夏秋冬 立花(
gc3009)は一通り敵情を見て取った後、そう答えた。バイクで先行した二人は、本隊よりだいぶ先行している。到着を待てば、その分だけ状況は悪化しそうだった。
「俺は何とか基地と通信を試みてくる。いくぞ」
「分かりました。慎重に行きましょう!」
2人は徒歩で慎重に基地へと接近し始めた。油断なく警戒しながら基地外縁へとたどり着く。
「基地司令部、誰でもいい、聞こえたら応答してくれ。もうすぐ援軍が来る、俺たちは先行隊だ」
暫く雑音が聞こえた後、途切れ途切れながら応答らしき声が聞こえたが、酷く慌てていて要領を得ない。
「落ち着け。名前と階級は? こちらは緋沼傭兵曹長。もうここは後方じゃなく戦場だ。軍人なら役割を果たせ」
京夜は冷静に通信に出た伍長と申告してきた女性兵を落ち着かせると、守備隊が助かるためには情報が必要と説得。必要な情報を聞きとった。そして傍らの立花に話しかける。
「状況は今聞いた通りだ。守備隊と合流するぞ、増援に向かってる本隊が来るまで俺達で時間を稼ぐ」
「ええ、頑張りますっ」
そして彼らは襲撃しているキメラ集団の背後へ回り込んだ。京夜は基地司令部に連絡を取り、一時的に防御火力を増強するよう依頼した。
「あぁ、そうだ。東ゲート側はこっちで背後から強襲をかける‥‥分かった。では頼む」
「火線が強まってひるんだところを後ろからどかーん、でいいんですよね?」
「そういうことだ。一発キツいのをくれてやる」
次の瞬間、東ゲート守備隊側の火線が一気に強まった。猪型キメラが密集している空間へ京夜の放った十字撃が着弾し、轟音とともに吹き飛ばす。開いた空間へ2人はすかさず駆け出す。側面から大型の熊型キメラが怒りの咆哮を上げ、残存しているキメラ集団とともになだれ込んでくる。
「ええい、往生際の悪いっ!」
立花が振り向きざまに制圧射撃を開始した。バタバタと猪型キメラが倒れ伏し、熊型キメラの動きも鈍る。
「みなさん、仲間が助けに来ます! もうちょっと頑張りましょう!」
ゲートにたどり着いた立花の声で兵士たちから歓声があがる。2人は守備隊と遂に合流したのであった。
●急行中の救援部隊にて
荒野を戦車と完全武装した歩兵を満載した軍用トラックの車列が砂塵を上げながら疾走していた。
車列の中部にて並走するジーザリオの車内で、湊 獅子鷹(
gc0233)はショットガンに弾を込めながら呟いた。
「被害状況からすりゃぁ全滅しかねんぞ」
「ふん、通信は送られども混乱状態‥‥基地内は相当切迫した状況のようだな!」
助手席で途切れ途切れに聞こえてくる通信中継基地側の無線を聞きながら、ルーガ・バルハザード(
gc8043)不愉快そうに顔を歪めながら言い放つ。運転席でハンドルを握る旭(
ga6764)は反対に明るく発破をかける。
「守備隊の人にすればアンラッキーかもしれないけど、僕たちが行くんだ。ここから先はキメラがアンラッキーに見舞われる番だよっ!」
「ま、それもそうか」
「確かにな。我々が行くんだ、そうでなくてはな」
旭の言葉に表情を和らげ、2人はそう答えた。
一方、先頭を走る戦車の砲塔の上に乗る3人の人影があった。神楽 菖蒲(
gb8448)とエイミー・H・メイヤー(
gb5994)、トゥリム(
gc6022)であった。エイミーは戦車の振動にうんざりしたのか、げんなりしている。
「戦車って結構揺れるんだな‥‥」
「大丈夫よ。落とすわけないでしょ」
傍らでしっかりとエイミーを片手で抱き抱えた神楽が優しく微笑む。トゥリムはそれを横目に、黙々と装備を点検していた。
「救急セット、凄い量だな」
「多くの怪我人がいると思うので‥‥」
「確かに気になるわね‥‥基地との連絡はついた?」
「いや、まだ応答も無い。この距離なら届いているはずなんだが」
神楽はキューポラから身を乗り出している戦車長に確認してみたが、彼は苦々しく首を振るのみ。
不意にコール音が鳴る。神楽達が用意した無線機からであった。
「京夜だ。今立花と守備隊に合流した。状況を送る」
守備隊に合流した際に外側から包囲しているキメラは数を減らしているが、熊、飛行している鷲型は健在。悪いことに基地司令部からの情報では猪型キメラが基地内に侵入しており、東ゲートを突破される前に何とか後退できた歩兵1個小隊が防衛施設を盾に必死に食い止めているとのこと。予断を許さない状況であった。
「皆、聞いたとおりよ。東ゲートの右側が手薄みたいだから旭達はそこから基地内へ突入して頂戴。私たちは正規軍と共同して外のキメラを片付ける」
各々異口同音に了解と返答する。救援部隊は更にスピードを上げ、通信中継基地へ向かうのであった。
●救援部隊到着
急行する救援部隊の眼前に、ついに通信中継基地が見えてきた。東ゲートの防護壁はボロボロで酷い様子である。その防壁の影から発砲炎がちらほらと見える。
「間に合ったか!」
「じゃ手はず通りにっ」
「一人でも多く助ける‥‥!」
エイミーがシエルクラインを構え、神楽が戦車隊に指示を出し始める。トゥリムが探査の眼とGooDLuckを発動、キメラの集団を鋭く見据える。当初より数は減ったとはいえ、まだまだ多数のキメラが蠢いていた。
「各車、弾種HEAT−MP! 一斉射‥‥ってぇっ!!」
砲声が複数轟き、多目的対戦車榴弾が8発、ゲートの右側にいる猪型キメラの集団に飛翔する。呼応して守備隊側からの砲火も激しさを増す。
「もう一発、きついのをくれてやる!」
「そこをどきなさい!」
京夜と立花も突入を支援すべく攻撃を振り向けた。火力が集中し、ゲート右側に空白が出来る。
「突撃するよっ! 目標はパーティー会場っ!」
旭がアクセルを一気に踏み込む。ジーザリオが一気に加速し、ゲート内へと突入する。基地内側からゲートを包囲していた猪型バグアを数匹跳ね飛ばし、ホイールに悲鳴を上げさせながら滑りこむように急停止。同時に湊とルーガが飛び出し、周囲のキメラに攻撃を開始する。
「銃器を使うのは久々だが、義手だと片腕ぶっぱなしてもブレねえな」
湊は姿勢を低くし、周囲を警戒しながらショットガンを次々と周囲の猪型キメラに撃ちこんで蜂の巣にしていく。偶に撃ち漏らしが出るも脚を獅子牡丹で斬り落とし頭をショットガンで吹っ飛ばす。
「さて、お仕置きの時間だぞ‥‥諸君!」
ルーガは先手必勝、紅蓮衝撃を発動、烈火を構えキメラへと斬りかかる。数合の斬撃の後、多数の猪型キメラが同時に倒れ伏した。旭はジーザリオから降り立ち、キメラへと手にしたデュランダルで斬りかかろうとしたが何故か周囲の守備隊兵士から一斉に銃を向けられ狼狽した。
「こいつ‥‥人型キメラ、いやバグアか!? か、囲め囲めっ」
「待って待ったストップ! 味方、味方だから!」
「味方だ! 銃を降ろせ! ‥‥すまん」
バイザーを上げ、必死に味方だとアピールする旭にようやく理解が追いついたのか、兵士達が安堵の表情を浮かべ銃を下ろす。そしてゲート内側のキメラを粗方駆逐でき、周囲の軽症者の手当を皆でしていた頃、指揮官らしき士官を引き連れ、京夜と立花が旭達に駆け寄ってきた。
「救援、感謝する。こちらも大分兵力を消耗してはいるが、何とかなりそうだ」
「だがB4エリアで防戦している小隊が危機に瀕している。最後の報告では鷹型の飛行キメラが2体、現れたらしい。どうやら上空から回り込んだようだ」
「そこで私たちが行くことになりました」
歩兵中隊指揮官の大尉と名乗った士官が礼を述べ、京夜と立花が南西のB4エリアで防戦中の歩兵小隊の危機を知らせる。
「じゃぁ僕達で行こう。皆もそれでいいよね?」
「私はここに残って負傷兵の救護を手伝おう。見たところ衛生兵の手が足らんのではないか?」
「すまん、正直衛生隊にも死傷者が出ていて手が回らんのが現状だ」
旭の問いにルーガがここに残って負傷兵の応急処置を手伝うと申し出る。
「外の方は増援と挟撃態勢に持ち込めたお陰で有利に進んでいるようです。あっちは心配いらないみたいです」
「司令部に問い合わせたがB4エリアの敵を殲滅できれば基地内の安全は確保できる。ここが正念場だ」
それぞれ無線で連絡を取っていた京夜と立花が聞き取った状況を皆に話す。
「じゃぁ決まりだね。僕達でB4エリアの敵に当たろう。ルーガさんはここをお願いします」
「あぁ、任されよう」
ルーガをここに残し、旭、湊、京夜、立花は手早く装備を再確認、不要な装備は外すと問題のB4エリアへ向かうのだった。
●騎兵隊到着
B4エリアでは歩兵小隊が数を減らしながらも必死に猪型キメラの猛攻を凌いでいた。
「畜生、こっちくんなぁぁぁっ!」
「弾が切れた! アパム、弾持って来いっ」
「俺、この戦いが終わったら彼女に‥‥ぐはぁっ」
「馬鹿野郎、フラグ立てんじゃねぇ!!」
上空から隙を見つけては襲ってくる鷲型キメラ2体に制空権を握られた歩兵小隊はかなりの劣勢を強いられている。そんな上空で余裕を見せていた鷲型キメラが1体、銃撃されフラつき落ちた所を、何者かの影に真っ二つに切り裂かれた。
「よう、全滅は免れたか?」
「助けに来ましたよ!」
湊がショットガンで撃ち落とし、獅子牡丹で唐竹割りにしたのであった。ショットガンを肩に担ぎ、湊は兵士たちに声をかけた。後ろから追いついた立花が兵士たちを励ますべく声をかける。基地司令部と連絡を取り合い、監視カメラでキメラの位置把握しながら迅速に駆けつけた4人であった。
「とりゃぁーっ!」
「ふん、甘いっ」
旭が気合とともに迅雷を発動、一気に距離を詰めると共に十字撃で密集していた猪型キメラを粗方吹っ飛ばす。
京夜がもう1体の鷲型キメラを撃ち落とし、落ちてきた所を立花が残存している猪型キメラと纏めて制圧射撃で打ち取っていく。
「た、助かったの、か?」
兵士の一人がポツリと呟くとそれをきっかけに兵士たちの怒号のような歓声があがる。駆けつけた4人はその光景を満足げに見つめると無線で救出、敵殲滅完了と連絡を入れるのであった。
●かつての陸の王者の咆哮
ゲート外では横隊に展開した戦車部隊8両、トラックから降車して陣形を組んだ2個歩兵中隊が東ゲート守備隊と挟撃する形でキメラ集団と激しく砲火を交えていた。
「減らしたといってもまだ敵が7分に緑が3分ってか。潰すだけよ‥‥エイミー、ついてらっしゃい」
「はい先輩。後ろに手出しはさせません。騎士の誇りにかけて」
「後ろは任せて。援護する」
神楽とエイミーが飛び出し、トゥリムも後ろに続いて走りだす。
「各車、敵集団の足を止めろ!動きが止まった所を纏めて吹っ飛ばす」
戦車隊指揮官が叫び、突進してくる猪型キメラの先頭集団に対し効果的にHEAT−MP弾が放たれていく。メタルジェットと弾体破片が次々と襲い掛かり行き足が落ちると共に後続のキメラが玉突き衝突。動きを止めていった。そこへ歩兵部隊が携帯無反動砲から放った榴弾が次々と命中し、数を減らしていく。
「一気に大物を倒すわよっ!」
「道は開きます、先輩に傷一つ負わせるものですか」
「鷲型は私が対処する」
「っ、散開して!」
神楽の指示に左右に別れる3人。直後、黄色い光弾がついさっき居た地点に突き刺さり爆音を上げる。光弾が飛んできた方向を見ると口から煙を登らせた熊型キメラが神楽達を睨みながら咆哮を上げていた。
「嬢ちゃん達を援護する、俺たち戦車乗りの心意気を見せてやれ! 各車弾種APDS、1−4号車は右の、5−8号車は左のだ。 膝を狙えっ! ‥‥ってぇーっ!!」
MR−101M1主力戦車の主砲、140mmライフル砲が吠える。放たれたAPDS弾は狙い違わず熊型キメラの両膝に同時に各2発ずつ命中、たまらず2体は姿勢を大きく崩す。その隙を3人は見逃さなかった。
「今よ!」
「はい先輩!」
「仕留めるっ」
神楽は右へ、エイミーは左へ駆ける。トゥリムは射線が確保されるやいなや、熊型キメラ2体へ制圧射撃を開始する。
ダメージを負い、更に態勢を崩した2体に対して神楽とエイミーは一気に踊りかかる。
「はぁぁぁっ!」
「ここが使い時っ!」
相手の真下に潜り込んだ神楽は紅蓮衝撃を発動、股下から獅子牡丹で流し斬り、さらに脇へ回り込んだ直後に急所をラグエルで撃ちぬいた。反対側のエイミーは相対した熊型キメラの脳天を貫通弾で撃ち抜いた。さらに蛍火を抜刀、流し切りで袈裟懸けにたたっ斬る。膝から崩れ落ち、地響きを立てる巨体を背に、3人はそれぞれの獲物を構えなおした。
「熊ごときが、私達騎士をやれると思ったか」
「やっぱりこちらの方が馴染みますね」
「戦車隊の人グッジョブです」
これをきっかけに一気に流れはこちら側に傾いたのであった。
●事後処理、そして調査
キメラの掃討も終わり、基地内のあちこちで救護用のテントが立ち並び負傷者の治療と損壊した基地施設の事後処理をする兵士達でごった返していた。
「こんなに‥‥いいんですか?医薬品も不足しているので助かりますが‥‥」
「構わない。全部使って欲しい」
あるテントで持参した救急セットを全て衛生兵に譲渡しているトゥリムの姿があった。第一に兵士の安否を考えていた彼女は予め大量に医療品を用意してきたのだった。
一方、隣の救護テントではトゥリム以外の全員が備品を整理していた。とそこへ、医療品の譲渡作業が終わったトゥリムが現れた。
「墜落したという輸送艦を調査しておきたい。車を貸して欲しい」
トゥリムの提案に乗り、旭のジーザリオと正規軍から借りたジープに分乗し問題の墜落した輸送艦へと向かった一同。
かなり損傷しており、内部の格納庫と思わしき空間は空であった。バグアどころか人っ子一人居ない。手分けして調べたが特に情報は無かった。
「‥‥小さなミスが連鎖して派手に炎上した、というわけか」
帰りの車内でここまでの事態に発展した元を思い、ルーガはため息を吐く。不審機が不時着した時点で調べてさえいれば、ここまで大事には‥‥!
「まあ…これも、我らのメシの種、か」
くっ、と皮肉げに微笑い、ルーガは長い金髪をかきなぜた。一方、ジーザリオの後部座席で湊はグリフォンのアミュレットを見つめて回想していた。
『怪我したら怒られるもんなあ』
アミュレットの中に入れておいた鎮痛剤を飲み、湊は痛みを紛らわせるためにそのまま眠ることにした。
こうして、事件は傭兵達が解決した。彼らはまた明日もアンラッキーな運命を打ち砕く。それが彼らの仕事なのだから。