タイトル:約束の森マスター:佐伯ますみ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/10 01:39

●オープニング本文


 ――ずっと一緒にいようね。
 ただそれだけの、小さな約束。
 幼いあの日、あの森で交わした大切な約束。
 両親を亡くした僕に、君がそう言ってくれたから。
 あの約束があったから、僕は今こうして笑っていられる。
 君はきっと忘れてしまっただろう。
 だけど僕にとってあの森は、何よりも大切で、命を懸けてでも守るべき場所だったんだ。

「アンタ、馬鹿じゃないの!」
 リズは病室に入ってくるなり、そう怒鳴り散らした。
「うん、そうだね」
 僕はベッドの中から首だけ動かしてリズに微笑む。
「ヴィン、アンタは昔から泣き虫で、弱くて、いつもあたしの背中に隠れていたじゃない。なのに、どうしていきなりこんな無茶なこと――」
「うん、そうだね」
「‥‥『うん、そうだね』じゃ、わかんないわよ!」
 リズは苛立たしげに花束をぶつけてきた。
 確かに僕は無茶なことをした。僕達が昔よく遊んだ森に、アタックビーストというキメラの群れが出ると聞いて、能力者でもないのにキメラを倒そうとした。周囲の制止を振り切って、父親の猟銃を持って。敵うはずがないとわかっていても、僕はそうせずにはいられなかった。
「たまたま、傭兵さんが別の用件で街に来ていたからよかったものの、そうでなかったらアンタの命はなかったのよ? 体中、骨折だらけ、内臓も傷ついて。全治五ヶ月ですんだだけでも有り難いくらいよ」
「うん、そうだね」
「また、『うん、そうだね』って!」
 君にどれほど怒られたっていい。僕はそれでも守りたかったんだ。
「もう、無茶するんじゃないわよ‥‥。まだあの森にはキメラの群れが残ってる。近いうちに多分、傭兵さん達が来てくれるんじゃないかしら」
 無茶をするなと言われても、この体ではしたい無茶もできやしない。傭兵達が来るのか。本当は僕の手で、キメラを倒したかった。あの森を守りたかった。
 君の、ために。
「‥‥ゆっくり、休みなさいよ」
 リズはそう言って病室から出て行ってしまった。始終不機嫌な顔で、だけど目は真っ赤に腫れていた。
 ごめんね、リズ。哀しませてしまって。迷惑ばかりかけて。
 だけど、僕は。
「失礼するよ」
 リズが出て行った扉を見つめていたら、担当医が病室に入ってきた。
「気分はどうだい? って言うのも変かな」
「いいえ、ありがとうございます」
「もうあんな無茶はするんじゃないよ。リズ、だっけ? 君の幼馴染みの。彼女、君の意識が戻るまでずっと泣いていたんだからね」
「‥‥はい」
 リズが、ずっと泣いていた。彼女の腫れた目からもそれはわかっていたが、こうして改めて聞かされると、僕はとても苦しくなる。
「どうしてあんな無茶を?」
「‥‥あの森は、僕にとってとても大切な場所なんです。二十年前に、リズと大切な約束をした森だから。彼女は忘れているかもしれない。だけど、僕にとっては‥‥本当に大切な場所なんです」
 まだ幼かったあの日、リズと僕は小さな約束を交わした。きっと果たされることはないだろうけれど、僕はあの約束があったから笑えるようになったんだ。
「だから、守りたかったってわけか」
「‥‥はい。近いうちに傭兵達が来るだろうってリズが言っていました。僕は‥‥本当は自分であの森を守りたいのに、どうにもならないのが悔しくてたまらない」
「では、君のその想いを、君から傭兵達に伝えたらどうだ。それだけでも少しは違うと思うぞ?」
「いいんですか? 痛たた‥‥」
 僕は思わず起き上がろうとして、全身を走る痛みに唸り声を上げた。
 本当に? 本当に僕の想いを傭兵達に伝えることができる?
 もしそれができるのなら、これほどまでに嬉しいことはない。僕の想いが、彼らと共に森へ行くことになるのだから。
「森へ入る前に、ここに寄ってもらうように手配しよう。このままだと、君はその体で森へ行ってしまいそうで怖いからね」
 担当医はくすりと笑った。
 僕は嬉しくて、声を上げて泣いてしまった。

●参加者一覧

レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
ジェイ・ガーランド(ga9899
24歳・♂・JG
タリア・エフティング(gb0834
16歳・♀・EP
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
白兎 霞澄(gb3124
16歳・♀・DG

●リプレイ本文


「‥‥病院か‥‥、よくわからないが嫌な感じがする‥‥、できれば行きたくない」
 病院の前で、ヒューイ・焔(ga8434)は呟いた。記憶にはないものの、過去の辛い経験が焔を躊躇わせた。
「無理はしなくていいですゆえ、ここで待っていて下さい」
 焔の心情を察したジェイ・ガーランド(ga9899)が言うと、焔は「そうさせてもらう」と頷いた。焔を残し、一同はヴィンの病室へと向かう。
 病室ではヴィンが、猟銃をベッドの脇に置いて待っていた。一同が自己紹介と、外で待っている焔の紹介をする。
「初めまして、ヴィンです」
 ヴィンは体中に包帯が巻かれ、点滴の跡で両腕は腫れ上がっていた。痛々しげなその姿を見て、タリア・エフティング(gb0834)はそれでも冷静に、歩み出た。
「無謀ですね、貴方がそんなことをして誰が喜ぶというのですか?」
 ヴィンは何も言わず、タリアの次の言葉を待つ。
「こう考えてみてください、もし貴方がリズさんの立場だったら‥‥彼女が貴方との思い出を護る為に武器を持ち森に入り大怪我をしたとしたら、貴方はどう思いますか? 貴方がしたことはそういうことです」
「‥‥はい」
「もしも貴方が死んだら、約束はどうなります」
 ドッグ・ラブラード(gb2486)はベッド脇に座った。
「‥‥約束を紡いだ場所で約束を破っては仕方ないですよ! 気持ちは痛いほど分かります。でも、だからこそ、誰かを頼って欲しいです‥‥!」
 ドッグはヴィンの気持ちに共感すると同時に、軽率さを心配していた。どこか他人事とは思えないのだ。
「本当に大切なモノを守るためにも。貴方自身を大事にして下さい!」
「でも‥‥約束を守りたいと思う心は立派です。安心してください。貴方の心を持って私達は森に行き、必ずあの森を取り戻すと約束します」
 ドッグの言葉を引き継ぐタリア。ヴィンは瞳に涙を溜めた。
「ヴィンさんが無茶をしてまで叶えようとした願いを、何とか成し遂げてあげたい‥‥っ! 初めての実戦ですごく怖いけど、や、やってみせますっ! 一人じゃないもの‥‥!」
 緊張の面持ちで白兎 霞澄(gb3124)が言うと、ヴィンはハッとした。先ほどのドッグの言葉を思い出す。目の前にいるのは、頼ることのできる者達。自分の想いを運んでくれる存在。
「流石にその怪我で森にまで一緒に来てもらうわけには行きませんが‥‥。ヴィン君の想い、私達が確かに預かりました。後は私達の仕事です。任せてください」
 レイアーティ(ga7618)は猟銃を手に取った。決してキメラに有効な武器ではないが、彼の想いと一緒に行くために、この猟銃は分身となるのだ。
「父の形見です。お役に立つといいのですが」
「心配はいりません」
 レイアーティは散弾を詰めながらヴィンの顔を見た。このひ弱そうな青年が、約束のために命をかけた。無謀な行動は感心しないが、本人もそれはわかっているようだ。何より、男には少々無謀と思えてもやらなくてはいけない時がある。その時、行動できたヴィンはもう一歩で一人前の男となるだろう。足りない後一歩は――。
「彼女のことが好きなんだったら、どんな理由であれ、もう泣かせるようなことしちゃダメですよ」
 レイアーティの思考を言葉にするかのように、御崎緋音(ga8646)が強く言う。同じことを考えていた婚約者を、レイアーティは眩しそうに見た。
「キメラは私達に任せて、貴方は少しでも早く元気になって下さい」
 緋音はふわりと笑う。
「ヴィン君。貴方の想い、しかとお預かりいたします。貴方の想いを我らの力とし、我らは貴方と共に戦いましょう」
 ジェイは、この戦いは能力者だけの戦いではない、と誰にも見せずに拳を握った。恋人の紅 アリカ(ga8708)がそっと寄り添う。
「あとは私達に‥‥」
 アリカはただ、その一言だけをヴィンに向けた。貴方の無念、私達が必ず晴らしてみせる――そう自分の中で決意を固め、恋人と視線を交わす。
 寄り添う二組の恋人達を見て、ヴィンはどこか吹っ切れたような顔になった。
「‥‥その猟銃が戻ってきた時、僕はリズに気持ちを伝えます」
 そう力強く言って皆の顔を見渡し、ベッドを起こして窓の外も見る。下にいる焔の姿を見るためだ。焔がヴィンを見上げ、軽く手を挙げた。
 一同が病室から出ると、リズが思い詰めた顔で立っていた。
「とても無謀であり、勇気のある彼は‥‥どんな方なのでしょう?」
 緋音が優しく問いかける。リズは震える声で呟いた。
「とても、馬鹿です‥‥私はあんなこと、望んでいなかった。あの森だって、彼が生きていてこその‥‥」
 そこまで言ってリズは口を噤み、病室へと消えていく。リズは気付いているのか。緋音はレイアーティと顔を見合わせる。
 そして能力者達は病院を後にし、ヴィンの想いと共に約束の森へと向かっていった。


 ジェイと霞澄を囲むように円形の陣を作り、森の中を進む。鳥の囀りも、動物の気配も、そこにはない。ただ、葉擦れの音だけが響いていた。
 森に入る前にタリアが探査の眼を、ドッグがGooDLuckに祈りを乗せていた。深い森の中で、敵達は息を潜めて機を窺っている。一切の油断は許されない。
 タリアの探査の眼を信頼し、だからこそ誰もが警戒を怠らない。目視で、双眼鏡で、微かな音も聞き逃さず、持ちうる感覚の全てを集中する。KVに搭乗している時に似た感覚でもあった。
「猟銃、重くないですか?」
 緋音はレイアーティの隣にそっと近寄り、囁いた。レイアーティは「大丈夫、まだ緋音君を抱きあげることだってできますよ」と囁き返す。
 その時、葉擦れの音の中に、異質な音が混ざる。
「‥‥っ!」
 霞澄はリンドヴルムに包まれた全身を震わせた。アリカが静かに真デヴァステイターを構えると、アタックビーストが三頭、木々の影から姿を現した。まだ距離はある。その距離を一気に詰めるように、敵は駆け出した。その様をアリカはじっと見据えている。そして、三頭全ての前脚が同時に地面から離れた瞬間――。
「さあ、始めよう」
 レイアーティの国士無双が強く紅い光を放ち、閃く。アリカの攻撃が三頭に命中すると同時に、横から飛び出してきた敵に国士無双の刃が襲いかかる。残りの六頭も飛び出してきた。アリカが再び引き金を引く。
 ジェイがアリカを援護するべく、彼女の攻撃を抜けてきた敵にライフルを向ける。威力を上昇させた弾丸は彼女の左脇を擦り抜け、敵の急所に命中、アリカはそれに応じるように剣を構えた。
「この森を、取り戻さなければ」
 牙を剥いて襲い来る敵の攻撃を、タリアは防御力を高めたシールドにて受け止め、そのまま押し返す。バランスを崩した敵に勢いよく剣を突き立てた。そこに空いた空間を駆け抜け、焔がクルシフィクスにエネルギーを最大付与、タリアを狙っている敵へと重い一撃を加え、反撃を仕掛ける敵の側面に回り込むようにカウンター。流れるような一連の動作に、他の二頭が警戒してこちらの様子を窺い始めた。焔との距離は縮まらない。このままでは他の敵が奇襲をかけてくるかもしれない。
 焔は持参した生肉を取り出すと、手薄に見える場所に放り投げる。敵が思わずそちらに気を取られた隙を突いて、レイアーティが猟銃を使った。
 散弾は敵の目を容赦なく襲う。ダメージこそ受けないものの、視界を遮られた二頭は一旦、樹木の影に隠れた。しかし今度は違う二頭がレイアーティを狙い、背後から突進してくる。
「させません!」
 緋音はレイアーティと背中合わせになると、自らの力をイアリスに注ぎ、飛びかかる敵へと連続で斬り付けていく。その間に猟銃から刀へと持ち替えていたレイアーティは、緋音の腕を引いて自身の背後へ下がらせる。緋音はイアリスをスコーピオンに持ち替えた。
 ドッグは後衛を狙って跳躍した敵達の急所を狙い、蛇剋に力を込めて打ち込んだ。牽制しつつ、戦闘を有利にするために目や鼻への集中攻撃で感覚器官の損傷を狙う。
 焔も乾燥タマネギの粉が入った袋を投げつける。ふわりと舞い上がる粉に、敵が一瞬、動きを止めた。
「わ、私も!」
 霞澄は少しでも機動力を奪うように、敵の脚部を狙って撃ち続けた。時にはペイント弾も使い、敵の視覚、嗅覚を確実に奪ってゆく。だが一頭、視覚も嗅覚も奪われながら、それでも突進してくるアタックビーストがいた。
「‥‥っ!」
 霞澄は思わず立ちすくんだ。このままでは敵の体当たりを食らう。だが、タリアとドッグが目の前に躍り出た。二人は盾で攻撃を受け止める。タリアが自身障壁を使った時、ドッグが動いた。再び渾身の一撃を敵の急所に深く入れる。焔も敵の後方から一気に斬り込み、霞澄に指示を出した。
「今だ!」
「はいっ!」
 霞澄は呼吸を整えてアーミーナイフを構え、力を込める。
「こ、これ以上、この約束の森を穢させないっ!」
 叫ぶと同時にタリアとドッグが視界から消え、目の前には大きく口を開けて迫り来る敵。霞澄はナイフを一閃させた。
「はああぁぁっ!」
 腹の底から声を出し、力を突き出す。アタックビーストは霞澄の攻撃に負けて吹っ飛ぶと、激しく地に体を打ち付けて動かなくなった。
「素晴らしい」
 霞澄を見て、ジェイが笑った。視線をアリカへと戻し、ライフルを構え直す。二頭を同時に相手するアリカ。斬り続け、一頭が地に伏せる。そしてアリカがちらりとジェイを見た。
「一発必中一撃必殺、吹き飛べ!」
 ジェイの声と共に放たれる弾丸。自分の想いとヴィンの想い、願い、全てを込めるように。アリカが胸部を斬り付け、そこから鮮血が噴き出すよりも早く、弾丸がねじり込まれた。それが最後だった。
「お、終わった‥‥?」
 霞澄は周囲を見渡した。もう、動いている敵はいない。
 全員が、深く息を吐いた。

 一同は、静かに森を後にする。
「忘れ物しました!」
 あと少しで森を出るという頃、ドッグは突然そう言って戦闘の場へと一人で戻っていった。そしてキメラ達を密かに埋葬する。
「死者にもまた、幸あれ‥‥」
 敵とはいえ、命あるもの。ドッグは静かに祈り、また皆の元へと戻っていった。


「ありがとう、キメラの目潰しに重宝しました。それより‥‥ヴィン君が一番守りたかった大事なものは‥‥本当は森じゃないですよね?」
 病院で、レイアーティがヴィンに猟銃を返しながらそう告げた。その時、側についていたリズがぴくりと反応する。そしてそのまま、一同は彼らを森へと誘った。
 ドッグは覚醒して先行し、森に危険がないか再確認をする。その後方に、複雑な表情で森を進むヴィンとリズ。そして仲間達。ヴィンの車椅子は、焔が押していた。沈黙が暫く続く。
「リズさん、この森でのヴィンさんとの約束って覚えていますか?」
 タリアが沈黙を破るように、リズに問う。リズは静かに頷いた。これは脈がある、タリアはちらりとヴィンを見た。ヴィンは驚いて目を見開いている。
「‥‥アンタは、馬鹿よ」
 リズは震える声で呟いた。
「これで、アンタが命を落としたらどうなるの? アンタは約束を守ってくれないの?」
「‥‥リズ?」
「‥‥いくら大切な森を守りたいという気持ちが強くても、それで怪我したり、最悪命を落とすということになったら、それは本当の意味で森を守ったということにはならないのよ‥‥」
 リズの想いを代弁するかのように、アリカは二人の顔を交互に見て静かに言った。責めているわけではない。命の大切さと、残された人の悲しみをわかってもらいたい。その一心だった。もうこんな過ちを繰り返さないで欲しい、そして二人の絆がより確かなものになってほしい、その願いをも込める。
「‥‥僕は」
「彼女がどれほど自分を責めていると思う?」
 焔は車椅子を押す手を止めた。その言葉に、リズが涙を浮かべる。
「リズさんとヴィンさんがお互いを大切に思っていることは確かです。大切なのは、素直に話し合うことだと思います。貴方と彼の気持ちや、これからどうしたいかを。‥‥だから、どうか自分を追い詰めないで下さい」
 霞澄はリズの両手を握る。リズは唇を噛んで俯いた。
「何かを守りたいならば、まずは自らの身を守ることで御座います。何を守ったにしても、そこに自分自身がいなければ、守った意味が半分以上なくなってしまいますからね。自らのことを成した上で、他人のためを為す。これが本当の意味での助け、守りとなりましょう」
 軽くヴィンの肩に手を置いて、ジェイが言う。
「それに、自分が守ったものを見たいでは御座いませんか」
 そして軽くおどけてみせると、ヴィンは真っ直ぐリズを見つめながら焔に「押して下さい」と言った。焔は頷き、車椅子を押す。リズとの距離が縮まるにつれて、ヴィンの瞳には決意めいたものが、そしてリズの頬にはただ零れ落ちる涙だけが。
「リズ、聞いてくれるかい? 僕は――」

 鳥の囀りや動物の気配の戻った森を、ゆっくりと散策する。
 ヴィンは隣を歩くリズの手をしっかりと握っている。二人の顔には、笑顔。
「これからは、貴方と彼女のために、どうか末永くお幸せに。何かありましたら、きっとまた私達が」
 霞澄が振り返って言うと、二人は「ありがとう」と微笑んだ。
「‥‥守りたいもの、か」
 ジェイは恋人の姿を目に留めた。そして、思い描く親友達の姿。
「守るだけじゃなくて、共に歩みたい、かな。私の場合は」
 その言葉にアリカが小さく頷いた。その眼差しに微笑み返すと、ジェイは恋人に寄り添って、歩く。どちらからともなく手を繋ぎ、指を絡め。すぐ側に感じる鼓動に、呼吸を合わせる。
「ずっと、幸せでいて下さいね」
 緋音がヴィン達に心からの祝福の言葉をかける。自分達も必ず幸せに――婚約者の顔をそっと盗み見る。レイアーティはこちらを見ずに手を伸ばすと、その指を緋音の髪に絡めるようにして肩を抱いた。
「皆さんを見ていると、こちらまで幸せになってしまいますね」
 霞澄が少し頬を赤らめて笑う。「同感だ」、リズの歩調に合わせながら車椅子を押している焔が頷いた。
「彼らに、我々に幸いを」
 ドッグがGooDLuckと共に祈る。少しでも彼らのために。自分の幸運を分けてあげられたら、と。
「彼らの未来が、末永く幸多きものであれ‥‥」
 そして覚醒を解いて顔を上げ、「その友情を大切にして下さいね」と声をかけた。
「どこをどう見たら、友情に見えると‥‥。立派な恋人同士じゃないですか」
 タリアはドッグに歩み寄り、眉を寄せた。
「え!?」
 思わず声がひっくり返るドッグ。女性恐怖症のドッグは、タリアに対して驚いたのか、それとも彼らの関係が友情でないことに驚いたのか。その様子を見て、ヴィンとリズがくすりと笑う。そして、皆もつられて笑い出す。
 森に、笑い声が戻ってきた。

 ――ずっと一緒にいようね。
 ただそれだけの、小さな約束。
 僕達はこれからもずっと、一緒にいるだろう。
 約束の森で、僕達は手を繋いだのだから――。