●リプレイ本文
●空港
コクピットには伝わらない、函館の空気。朝の、凛とした――張り詰めた、大気。
「函館航空戦から三年半‥‥か、時が経つのは早いもんで」
紫藤 文(
ga9763)が思い出すのは、あのとき墜とされた十四名のこと。
彼等はどうなったのだろう。死んだのか、救助されたのか、それとも捕まってしまったのか。
「‥‥まぁ、期待はできないか」
生死不明という言葉の意味は理解していた。いつか北海道を解放したら彼等に『無駄じゃなかった』と言ってやれるだろうか。
もっともそれは、そう言ってやりたいというだけの自分本位な話であることは充分わかっている。
「‥‥死んだ人間にしれやれることなんて、何もないからな」
ガンスリンガーのコクピットに響く苦笑。
「無事‥‥成功させましょう。紫藤さん‥‥」
文にそっと言葉を投げるラナ・ヴェクサー(
gc1748)。かつて所属した小隊において上司であった文、その彼と久しぶりの同行には心が僅かに躍る。
「三年半ですか。‥‥私がこの方面の依頼に参加するのは、2007年の名古屋作戦時の津軽海峡の防衛戦以来ですね」
マリアンデール『紅祐直』の里見・さやか(
ga0153)が言う。
「長いようで、つい数年前なんだよな」
突然の襲撃、家族も住む場所も失った。そして傭兵になるために北海道を出て――。
パラディン『アイアス』の操縦桿を握り、那月 ケイ(
gc4469)は吐息を漏らす。
(――函館‥‥。ボクの‥‥いいえ、私の生まれた街‥‥。やっと帰れる機会がきた‥‥)
椎野 のぞみ(
ga8736)はディアブロ『レッドドルフィン2』のキャノピー越しに見える景色に、こみ上げる何かを感じていた。
先走る、感情。少しでも気を抜けば、暴走しそうになる。しかし、今はそれをぐっと抑え込む。
リヴァル・クロウ(
gb2337)はのぞみを気に掛け、やや後方にシュテルン・G『電影』をつける。
彼女は、故郷に対しての考え方が東京奪還時のリヴァルと同じだ。だからこそ、ここで暴走したりしないかという危惧を抱く。
それにしても――。
「‥‥三年前に偵察依頼を数件見かけたが‥‥。それ以降動きがなかったが、動き出したか」
リヴァルの視線は、遥か石狩方面へと。
(中立と銘打っている以上、向こうは必ずメリットの多い側になびく。そして、現状ではメリットはバグアに多い。これに対して、向こうがどう出てくるか‥‥)
思考するリヴァル。同様に、ディアブロの飯島 修司(
ga7951)も石狩方面を見ていた。
「石狩共和国、ですか。斟酌すべき事情は多々あれど。気まぐれな支配者のお目こぼしを受けての『独立』とはね。バグアと『講和』すれば、ある意味ではこの星全てが『ああなる』のでしょうな」
その未来は、可能性のひとつとして横たわる。
「‥‥ふむ。もしそうなればテロリストになるのも一興でしょうかね」
修司は髭を軽く撫でる。
迫る空港、間もなくそこはKV達の射程内に入る。
静かに通信を開く、ドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)。
日本だから、前の依頼の通りすがりに下見を兼ね、偵察へと参加したかったが――。
しかし、悔やんでいても仕方がない。思いながら開いた通信は、そのまま彼の言葉を仲間へと伝えていく。
「こちら狂える六華を駆るヴァガーレゴースト。‥‥これより空港を制圧する」
ドゥ――ヴァガーレゴーストはスカイセイバー(A1型)『ティナーリ・マレディチオネ』を導いていく。
「最近は宇宙へも行ったというのに、日本に来るのはこれが初めてとはな」
日本はカークウッド・五月雨(
gc4556)の母方の母国だ。しかしそれより先に宇宙へ行っていたというのは、何とも面白いことだ。
軍のKV達と共に、やや先行するのはシラヌイS2型『HSII−テンペスト』のヘイル(
gc4085)。
「さて‥‥北海道の空は初めてだが。今までとやることは変わらない、か」
静かに息を吐く。その脇を抜けて前に出るのは、BLADE(
gc6335)のアンジェリカ。
「単独行動になりそうだな。自分なりに融通利かせてみるか」
管制塔、滑走路、格納庫の位置を何度も確認し、イメージトレーニング。基本作戦にも応えられればいいが、果たして。
●函館山
「先日偵察に行って来たと思ったら、もう要塞攻略開始ですか」
もう少し足場を固めてからかと思ったが、随分早い――シュテルン・G『ミモザ』のセラ・インフィールド(
ga1889)は思考を巡らせる。
「偵察で得られた情報がよほど良かったのか、それとも急がなくてはいけない理由でもあるのか‥‥」
もっとも、あの偵察は宣戦布告と言っても過言ではない。敵が迎撃態勢を整える前にこちらから仕掛けるのは当たり前だろう。
「まあ、終われば函館山にでも登ってみる、か。赤レンガも無事だといい、な」
そう言うのは、K−111改『UNKNOWN』のUNKNOWN(
ga4276)。鼻歌交じりのブルースを響かせる。
「雪国は白くて大好きです」
なぜか関係のないことを考えているミルヒ(
gc7084)は、天【白】から函館の白い景色を見つめる。
だが、全てが白いわけではない。徐々に近づく交戦の時。待ち受ける敵影が濃くなる。
「早速と言うべきでしょうか、次々に来ますね」
高空を征くシュテルン・G『夜桜』。立花 零次(
gc6227)はミサイルによる迎撃態勢に入る。
「マインドイリュージョナーはお任せします」
軍機に告げるのはノーヴィ・ロジーナbis【字】のアルヴァイム(
ga5051)。MIの影響の少なそうな機体へと、討伐専任を託す。
暗く澱んだ海の中を港へと向けて進むKV達。古河 甚五郎(
ga6412)のビーストソウル改もそこにあった。
偵察時や過去の資料及び、現地の地図を確認する。
求めるものは、函館港防衛機構の定石。だが敵の反応からは、過去の資料は過去のものでしかないことが窺える。
「この侵攻による若干の混乱も見えなくはないですね」
その混乱の奥に潜むもの、定石以外の脅威、敵の懐から何が出てくるのか。
「‥‥三点攻略、中々壮大な作戦だな」
上杉・浩一(
ga8766)のアルバトロスは、群れる海棲キメラへと魚雷ポッドの洗礼を浴びせた。
「とりあえずは数で勝負ってとこですね。敵をみつけたら位置を共有して袋叩きにしましょう」
周防 誠(
ga7131)のリヴァイアサンがゴーレムへとフォトンランチャーを放つ。
軍の水中部隊がソナーを等間隔で展開していく。狐月 銀子(
gb2552)のビーストソウル『SilverFox』もソナーを設置。地下施設入口の割り出しをするためだ。
逸る気持ちはある。だが、銀子は銀子のやれることを一歩一歩確実にこなす。前方の浩一機、隣にいる誠機と、天原大地(
gb5927)のビーストソウル改『紅蓮天』の位置を確認し、静かに息を吐いた。
強くて頼れる仲間である彼等。特に誠と銀子はヒューストンやリリア・ベルナール討伐でも戦場を共にした戦友でもあり、精神的な面でのそれもあった。他にも、戦術家として信頼する甚五郎もいる。
「遠慮なく頼らせて貰うわよ?」
この作戦、負ける気がしない。
銀子の言葉に無言で頷く大地。今回の参加は彼女の要請によるものだ。
個人として北海道はあまり思うところのある土地ではないが、友人や知人にここを出身とする者達もいる。彼等の力になりに来たと言っても過言ではなかった。
●空港
着陸の機を窺っていたのぞみ機とリヴァル機が行動を開始した。
恵山国道の、空港にほど近いポイントへの着陸に成功すると、そのまま滑走路を右手に見ながら移動を始める。
二人は状況を電子線機へと伝えていく。ここから見える滑走路には、整然と対空砲。滑走路外にも点在する。国道に罠や対空砲などはない。
やがて恵山国道から道道63号線に入る。ここから空港のターミナルビル方向へ行けるのだ。
その方向へと単独で抜けていく機体が空にあった。BLADE機だ。
どの機体よりも早く空港上空に入った彼は、対空砲が一斉にこちらを向いたことに気がついた。しかし、それを一瞥するだけで視線は真っ直ぐ管制塔へと向けられる。
地上戦力は後回しだ、自分はあの管制塔を叩く――。
「速攻っ!! こいつを叩き出鼻をくじく」
そして放たれるレーザーバルカンや高分子レーザー砲、同時に管制塔裏から出撃する複数のタロス達。
光条がレーザー砲と交差し、重い衝撃が機体を貫く。
「‥‥く‥‥っ」
管制塔はどうなった――必死に機体を制御しながら、目を凝らす。
上部が破壊された管制塔、時をほぼ同じくして味方の対地攻撃が開始された。それを確認したタロスの一部は、ようやくそちらへと向かう。
どうやら、タロス達の出撃を僅かに遅れさせることができたようだ。
「この前乗り込んだ北海道‥‥。すぐ函館要塞攻略になるとは‥‥ね」
それだけ重要なら、報酬も多そうか。ラナは報される敵位置を確認する。
「稼がせていただきましょうか」
そして、グロームを始めとしたKV達と対空砲を目指す。
迎撃に出るワーム群。文機は航空機班の一斉射撃を上空に聞きながら、低空でのDFスナイピングシュートを発動。対空砲に向け、機関砲を掃射する。
「基本の戦法は一撃離脱‥‥と言いたいところだが」
カークウッドは巴戦に持ち込んでいく。
放出するホーミングミサイル、そしてバルカン。回避しようとした敵機に生じた隙を見逃さず、レーザーライフルを撃ち込んでいく。
「まずは質より量でご挨拶だ。――アクチュエータ起動、ブースト開始――さぁ、どこまでかわせる?」
ヘイル機、全てのミサイルをタロス達へ。射程に入る直前のブーストは、タロスのタイミングを狂わせた。その脇を抜けてくる別のタロスには、ガトリングをばら捲き突撃をかける。
「――抜けてきた敵機を狙い撃ちにしてくれ。爆撃隊の突入路を切り開くぞ」
他機に声を掛け、自身を囮にするようにブースト。迎撃に出るタロスの攻撃を回避、抜けた敵機はそのまま修司機の的となる。
修司機の短距離リニア砲を喰らい、黒煙を上げるタロス。援護に入るHW群へと今度はツングースカによる弾幕、確実にその数を減らしていく。
地上への爆撃を担うKV達が、接近を開始する。
「右対地戦闘、作戦指示の目標! AAEM攻撃始め」
初手は、ミサイルポッド。さやか機は格納庫へとその雨を降らせるべく機を待つ。
目標との距離が縮まる。600、500、そして400。
「AAEM発射始め! サルボっ!」
言い終えるや否や格納庫が炎上、同時に下から突き上げる対空砲の衝撃で機体が揺れる。しかし、さやかは気に留めずに次の雨を。
ヴァガーレゴースト、そのスカイセイバーが対空砲へとロケット弾ランチャーを放つ。続いてアサルトフォーミュラBと共にミサイルポッド。
ほぼ同時に駆け抜ける、ラナ機。ロケット弾ランチャーを対空砲に叩き付ける。同様にして、ケイ機も。
「‥‥あの時の俺とは違う。ここは絶対に奪い返す!」
――その強い想いと共に。
破壊されていく対空砲が、滑走路に炎の道を作り上げる。
●函館山
「山をふっ飛ばして橋頭堡、港もついでに制圧してそれから空港の流れかな。やること多くて楽しいねぇ」
ジャック・ジェリア(
gc0672)は笑む。スピリットゴースト・ファントム『ジャックランタン』が真スラスターライフル及びガトリング砲による弾幕を展開、対地攻撃を開始する。
「自分にできることを‥‥」
呟くミルヒ。ロヴィアタル、そしてホーミングミサイル。陸上部隊が着陸しやすいようにキメラの群れへの攻撃を続けていく。
UNKNOWN機によるホーミングミサイルの雨、その余波は着陸可能な道路周辺を綺麗にする。
やがて着陸可能なポイントを見定めて降下していくKV達。
「いくぜ相棒!! いっちょ派手にぶった斬るか!!」
初の北海道、派手に暴れてやろう――砕牙 九郎(
ga7366)は雷電『爆雷牙』を駆る。
ロケット弾ランチャーと長距離バルカンで着陸を阻む敵機や対空砲を叩く。焚いたスモークに紛れながら着陸を果たせば、すぐ近くにミリハナク(
gc4008)の竜牙弐型『ぎゃおちゃん』の姿もあった。
「さあ、戦争を楽しみましょう」
ミリハナクは早速対空砲を焼き払いにかかる。
「お手伝いは任せるのー。こう見えても戦歴の長い専門家なの」
そう告げるカグヤ(
gc4333)のピュアホワイト【つくよみ】はぎゃおちゃんの後方にいる。
カグヤは情報の収集及び解析と伝達に徹し、全戦域をカバーするべく情報管制に入る。
「どこかの誰かの為にカグヤはがんばれるの。もちろん、おねー様のためにもなの」
「そうですわね。戦場を共に戦うことでお友達もたくさんいますの。皆が無事であるように祈り、力を振るいますわ」
ミリハナクは頷く。もちろん、カグヤの護衛も果たす。彼女に敵を近づけさせるつもりはない。ぎゃおちゃんが吼え、カグヤを狙ったレックスキャノンが燃えてゆく。
セラ機は、プラズマライフルの射程内にできるだけ多く収まるような位置にVTOLで強行着陸を試みる。地上から、対空砲が照準を合わせてくるが、防御を強化したセラ機のダメージは小さい。そして着陸直後からプラズマライフルの応酬、対空砲を潰していく。
ミサイルを撃ち尽くした零次機も対空砲から離れた位置へと降下する。最も近いポイントにある対空砲に接近すると、ウルを構えてガトリングでの攻撃に転じた。
海中を進む彼等は、確実に地下施設の入口へと近づいていた。敵は正面から出迎えてくれる。
「頭数だけ揃えたトコロでなァ!!」
前を征く大地機から放たれる水中用大型ガトリング、そして抜けてくる敵機にはソードフィンで格闘を。
ひたすらに暴れる紅蓮天、必然的に惹き付けられていく敵機。それによって仲間の進行がしやすくなっていく。
大地機のやや後方から、誠機の援護が入る。水底から湧くように這い上がってくるキメラへと魚雷を。そうして進むうち、海中に明らかな人工物が姿を現した。
「さて、と。次はどこかな?」
KV達の着陸を見届け、旋回するUNKNOWN機。その時、アルヴァイムから通信が入る。
「北方より援軍と思しきタロス及びHW、数は約二十。そのさらに北方からキメラと思われる一群を目視で確認、対処願います」
「了解」
鼻歌のブルースと共に北へと機首を向けるUNKNOWN。同様にしてジャック機や軍の精鋭機達。
敵陣の先頭を、ファルコンスナイプAを発動したジャック機の200mm4連キャノン砲――ランタンの灯りが包む。UNKNOWN機のエニセイも舞い、他のKVもそれに続く。
脱出路確保のために軍のKVを何機か入口に待機させ、地下施設への潜入が始まった。
甚五郎機により開閉機構や監視カメラの類が破壊され、後続の安全確保と万一の閉じ込めを回避する。
「かなり広そうね」
銀子が目を細める。
「全ては無理でも‥‥可能な範囲を迅速に行かないといけませんね」
銀子機に並ぶ、誠機。しかし侵入者を放置することはなく、奥からゴーレムやキメラが湧いてくる。
「アンタらに構ってる時間は無いのよ!」
ファランクス・ソウルがキメラを呑み込み、グングニルがゴーレムに深く突き立てられる。
「‥‥あまり強いヤツはいないな」
大地機は獅子王を一閃、倒れた敵機を踏みつけるようにして進む。
生身で進む浩一は、通った道に月詠で傷をつけていく。念のための目印だ。
「‥‥まあ、無いよりはマシだろうさ」
そしてメモ帳と方位磁石を頼りにマッピングをする。
「西に300メートルですね。了解です」
セラは空からの情報に頷き、目標を潰しにかかる。途中、PRMにて攻撃力を上乗せし、接近するゴーレムを臥竜鳳雛で斬りつけながら。
MIは軍によってその大半が駆除されつつあった。アルヴァイムによる助言――友軍の誤認頻度を勘案したMIの捜索――が奏功、またカグヤの情報管理によるところも大きい。
ロータス・クイーンを発動し、EPW機としての役割をきっちりと果たすカグヤ。
レーダーに追加されていく敵情報には、設置した地殻変化計測器や味方のソナーブイによるものもある。つくよみの能力を最大限に活かしていた。
「この子はがんばり屋なの、だからカグヤも皆が戦えるようにがんばる」
こうして管制に集中できるのもミリハナクを始めとする味方の護衛によるところが大きかった。それに応えるためにも――カグヤは愛機と共に戦場を「網羅」する。
●空港
のぞみ機とリヴァル機は空港周辺を進む。轟音が響く空港とは違ってひどく穏やかで、前回の偵察依頼以上の収穫は得られない。
「‥‥管理棟へはあそこから入れる」
静かに、のぞみが言う。
管制塔周辺ではBLADEや軍機が戦闘を続けている。滑走路側からはわからなかった格納庫もあり、それらは管理棟と直結していた。上空に、さやか機や軍機が飛来する。
「滑走路側の格納庫は全て破壊しました、残るはこちらだけ――」
言い終える前にさやか達は敵機の襲撃を受け、すぐに戦闘に入る。
「了解、我々もすぐに破壊及び戦闘へと移行する」
さやかに応答するリヴァル。のぞみ機と共に空港敷地内に入り、タロスに照準を合わせていく。
放つ、マルコキアス。降下するタロスへはのぞみ機がSAMURAIランスで対峙する。
●函館山
地下は、各種管理システムやキメラプラント、格納庫、非常用の出撃エリアや対空砲もあった。それらを全てと、各種ケーブル類も破壊して進む。
「これが上の対空砲と繋がっているかもしれない、ということでしょうか」
動力源と思われる機械を破壊し、誠が言う。
「過去の施設攻略例から、動力源と兵器の組み合わせを考えるとそうでしょうね」
ざっと周囲を見渡す甚五郎。
「思ったほど敵数は多くないわね」
銀子が呟く。キメラやワームの類は見かけるが、バグア兵が生身で行動している様子はない。
「どこ行ったんだろうな。もしここを捨てたのだとしたら、リリアンのところだろうか」
格納庫が並ぶエリアに出ると、大地機が重機関砲をぶち込んでいく。
「‥‥動かない相手なら、このように思う存分叩き込めるんだがなあ」
格納庫を管理していたと思われる部屋で、それらのシステムを十字撃と両断剣・絶で破壊していく浩一。FFや再生能力はなさそうだ。
対空砲やMIの排除は順調に進み、確認できたほとんどを排除したと言ってもいい。このあとは空爆が開始されるが、まだ対空砲などを隠している施設などがありそうだ。
「そのまままっすぐと、北北西なの」
その言葉に動くのは九郎と零次。九郎は小さな建造物が密集している地帯へ突貫していく。邪魔をするゴーレムのアックスはグレートザンバーで受け止め、カウンターを叩き込む。
零次はタンクのような建造物へと。迫るレックスキャノンの群れはPRMシステムを発動した咲耶で薙ぎ、攻撃はウルで受け止める。
ミリハナクのぎゃおちゃんが吼え、九郎機と零次機周辺の敵機やキメラを大型榴弾砲で焼き払っていく。さらに零次機の向こう、駆除されていなかったMIがいるとの情報が入る。
「長距離砲撃という竜の咆哮を味わいなさい」
狙いを定め、遠距離からのラバグリード――。
そして目標地点に到達した九郎機、乾いた音と共に大きく弧を描くグレートザンバー。思ったより施設は脆く、次々に崩れていく。
それは地下から吹き抜けになっている施設らしく、瓦礫は地下へと落下していった。
覗き込むと、通路が見える。
「地下通路があるぜ」
九郎は管制機たちに地上から確認できる限りの通路情報を流す。
「こちらはワームの離着陸ができるようですね。地下にも通じています」
零次も通信を入れる。内部は広いスペースとなっており、天井部分は開閉可能な作りになっている。
港との位置関係を考えると、どうやら地下はかなり広いようだ。
これは下手したら五稜郭まで繋がっているかもしれない――甚五郎の呟きが、九郎機と零次機に響いた。
●空港
文機はDFバレットファストを発動し、戦線に復帰。
対地攻撃を続ける機体に執拗に追いすがる敵機やキメラ達。文機はその側面から攻撃を加え始めた。HW、次はキメラ、その標的を次々に変えていく。集まる注目、そして味方への援護要請を出す文。
乱波と、アクティブブラスター。その併用による特殊機動で遁走を計る。駆けつけたのは修司機、ツングースカがHW達を抱擁する。
「悪い、迷惑かける」
文は言いながら、対空砲火の減少エリアを観察していく。
西端から500メートル、沈黙。制空権は人類側に傾きつつある。
「敵もねばりますな」
修司は次いで近接攻撃を仕掛けようとするタロスへと短距離リニア砲をぶちかます。「お次はどなたでしょうかね」と自機を取り囲む敵機に視線を走らせた。
やがて、対空砲や迎撃戦力の数と共に勢いが落ちてくると、ケイ機が着陸態勢に移行する。ラナ機、ドゥ機も同様に。その着陸を支援すべく、他機も動く。
ヘイル機は滑走路へ向かうHWを引き付けにかかる。放出するミサイル、被弾したHW達はなおもケイ機達を追う。
「ち、存外にしぶとい。貴様らの相手は俺だ。そちらにはいかせんぞ」
そして、もう一度。ようやく敵機がヘイルへと目標を変える。
タロスと対峙するカークウッドはバルカンで弾幕を張り、一旦距離を取る。
「あと少しで撃墜できそうか」
呟き、ブレス・ノウやアグレッシブ・ファングを発動、軍機と共に攻撃を始める。
文機が弾幕を張ると、その援護に合わせて三機がほぼ同時に着陸を開始した。
ツインブーストAを発動しての着陸、そして変形。ラナ機は他機の着陸を護るため、すぐさま周囲に群がろうとする敵を建御雷で斬り捨てる。
被弾率を下げるべく、煙幕弾を撃ち込んでからの着陸はケイ機。予測される着弾時間と位置、効果範囲は陸戦対応機全てに周知した。
「陽動をする。下で暴れて来い」
そして、最後の力を振り絞ったBLADE機によるラージフレアの援護も入る。それらを利用し、着陸を遂げる軍機達。
ドゥ機は着陸の際にアグレッシブトルネード改を発動し、真ツインブレイドで着地ポイントに待つゴーレムを裂きにいく。クロスする軌跡、そして兜割り――ゴーレムの強固な装甲の衝撃が響くが、そのまま重力に逆らわず着地を遂げる。
「滑走路に残る対空砲を一気に破壊する」
ケイは地上の状況を空に伝達しつつ、ワルキューレの騎行IIの発動ポイントとタイミングを計る。
それを阻止しようとするゴーレムには、ラナ機のスラスターライフルが誘いをかける。やがてケイは適した位置を見つけると、ひとつ大きく息を吸った。
キメラやゴーレム達さえ巻き込んで、駆ける聖騎士。
構えたゲルヒルデIIが陽光を反射する。
アイアスが駆け抜けたあと、新たに滑走路に赤い炎のラインが浮かび上がり、対空砲はその全てが沈黙した。
そして彼等は、残る施設の破壊と、ワーム群の排除に移行する。
空港が落ちるのは、時間の問題だ。
●函館山
地下の探索は終わりに近づいていた。地上はそのまま残存勢力の殲滅及び、空爆準備に入る。
「そろそろ脱出しないと」
銀子が言う。地下にいるまま空爆が始まれば、影響を受けてしまうだろう。
その時、甚五郎が何かに気付いた。
「この向こう‥‥」
長く続く壁。マッピング等から考えると、この向こうに不自然な空間があるのがわかる。
――と、人がひとり通れるほどの幅の扉を発見した。
「見てきます」
誠が機体から降り、それを銀子に託して探査の眼を発動し、中を確認する。ほどなくして、誠は眉を寄せて出てきた。
「何があったの」
銀子に問われ、誠が説明する。
扉の向こうはかなり広い空間で、さらにガラス張りの壁があり、弾薬や燃料、無人のワーム類などが整然と並んでいたという。
そこは、弾薬庫だった。それもかなり大規模な――。
これは下手に手を出さないほうがよさそうだ。作戦終了後に軍によって少しずつ撤去していくのが望ましい。
そして一同は静かに脱出の途につく。
今度は「出口」となる施設入口では、待機していた軍機が海から上がってきた敵の攻撃を受けていた。
「邪魔しないでもらいたいわね!」
銀子機がグングニルを次々に突き立て、誠機がフォトンランチャーを放つ。
「早く逃げろ!」
浩一が生身部隊を速やかに逃がすべく、刀を振るう。強刃を付加し、自分より大きなキメラを薙いでいく――が、やや分が悪い。キメラ達は殿の浩一へと群がり始めた。
肩がやられ、月詠を振るうのもやっとだ。生身部隊が退避し始めると、今度はタートルワームが行く手を阻む。そこに仕掛けていくのは大地機。
「下がれ、ソイツは俺が相手どる!」
インベイジョンB及びブースト起動にて敵機の背後を取る。そして獅子王を抉り込んだ。突然の格闘に、敵機は完全に隙を突かれる形となる。
「空爆準備が間もなく終わります、脱出しましょう」
軍機の支援に入り、レーザークローを薙いでいた甚五郎が言う。浩一も傷は深いものの、自機に乗り込むことができた。そして一同はキメラやワームを振り切るようにして海中へと進む。
急がなければ――空爆の影響を受けてしまう。
●五稜郭
五稜郭への進軍が始まっていた。既に戦局がかなり進んでいる空港と函館山方面では、随所で黒煙が空に吸い込まれていく。
「遂に北海道に侵攻を開始する‥‥か」
シュテルン・Gの赤崎羽矢子(
gb2140)は複雑な表情を浮かべる。
石狩共和国独立の際に、その交渉に立ち会った。この土地への攻撃に参加することに抵抗がないと言えば嘘になる。
「中立を貫いてくれればいいけど‥‥」
彼等がどのような選択をするのだろうか。
その思考を一旦振り切るように、羽矢子は気を引き締める。
「‥‥他の場所では始まったか。今のところ敵影無し。目標地点到達予定時刻は――」
ウラキ(
gb4922)がサヴァーの索敵装備とレーダー監視による早期警戒をし、ざっと戦況を見る。
番場論子(
gb4628)は斉天大聖『女爵―Baroness―』のコクピットから、その様を見つめていた。
「函館要塞攻略ですが、まずは一歩にしか過ぎませんしね」
先の偵察でかなりの様相が明らかになったが、手強くはあれど難攻不落との感は抱かなかった。
とは言え、油断のできない布陣であることは間違いないだろう。出来うる限りの敵戦力を削り、次に繋げるようにしたいところだ。
「久しぶりの日本ー!! すっかり雪だねぇ!」
眼下の雪景色に目を奪われるのは、スフィーダ『ベテルギウス・フレイム』の綾河 零音(
gb9784)。
「もうすぐ五稜郭ですねー」
ガンスリンガー改『BulletCat改』の功刀 元(
gc2818)が雪原の向こうを見つめる。
五稜郭――しかし、その方角からは多数のHWが先へは行かせまいと壁を作り上げる。
「では、派手に行きましょうか」
ヨハン・クルーゲ(
gc3635)のディアマントシュタオプ『Weiβe Eule』がEBシステムを使用してラヴィーネを放出、続いて軍機も砲撃を繰り返し、突破口を作り上げる。
抜けていくKV、追尾するHW。前方からも新たな一群が現れる。だが、後方からHWを抉る攻撃が開始された。空港と函館山からの援護機が追いついたのだ。
ラナ、ヘイル、ジャック、UNKNOWN、そしてアルヴァイム。他にも複数の軍機が追従する。その隙に五稜郭隊が抜けていく。
「まったく、キューブワームやメイズリフレクターがこれだけいると、見ているだけで頭痛がしてきますね‥‥」
五稜郭がはっきり見えると、ヨハンが眉を寄せた。まだ影響を受ける距離ではないが、その姿は確認できる。五稜郭上空には、じっとこちらを見据える数機のタロス。
コンセプトに相応しい戦場だと、ウラキは思う。
一分一秒でも長く、戦場に留まる――。
「僕もそうありたいが。一番長く戦場に立つということは‥‥」
五芒星を、そして敵勢力を見据え、呟く。
CWの影響が出始め、頭痛が酷くなってきた。だが、僚機には集中してもらいたい。そのために、電子支援や索敵、情報収集を。
「特等席で観戦させて貰う‥‥支援開始。‥‥見てる前で、落ちるなよ」
小さな、声。敵位置に事前情報との大きな差異はない。
論子機がツングースカで次々にCWを撃墜していく。一機、また一機と。
羽矢子を含む降下隊も、空でCW排除に乗り出した。それをやや離れた場所に着陸して見守り、待機するのは零音達陸戦隊。
CWの排除が本格的になると、零音はメテオブーストとブーストの同時起動で対空砲へと突撃する。シルバーブレットがぶちこまれ、沈黙する目標。
そして陸戦隊は、対空戦力の妨害を開始した。降下隊が降下を完了するまで――彼等と合流するまで、足止めに徹するのだ。
しかし、CWの影響が出始める。それを阻止すべく動くのは元。DFスナイピングシュートを発動しスナイパーライフルで駆除にかかる。
「地上のキューブワームは任せてくださいー」
「助かるよー!」
元機に向けて軽く拳を振って応える零音機。
降下の機を見定めた羽矢子は、煙幕で対空砲の射線を遮り始めた。空の部隊に着陸の援護を頼むと、VTOLで降下を試みる。
防御と抵抗を上げ、対空砲やゴーレムへの爆撃を。交差して自機に迫る砲撃、しかしダメージは少ない。続いて他の降下隊も着陸を果たしていく。
ほどなくして、陸戦隊と降下隊が合流、降下隊はMRとワームへの対応に移行する。
「攻撃反射怖いから、迂闊に手出ししないようにね」
零音は陸戦隊の者達に声を掛けていく。その時、ウラキからMRに関する情報が入った。
「あれですねー」
元がDFスナイピングシュートだけではなくTFハイサイトも使い、スナイパーライフルにて一撃必中を狙う。外さぬよう意識を研ぎ澄まし、シュート。
次いで、羽矢子も別の母体らしき存在を見つけ、レーザーライフルによる狙撃を図る。
「‥‥ナイスキル。今のが母体だな」
確認したウラキが告げると、羽矢子はすぐさま次の母体を視認、確実にその数を削っていく。
●函館山
そして地上では準備が整い、空爆が始まった。
地上で展開していた部隊は空爆ポイントから退避、ほぼ同時に、空港を制圧したという情報が函館山隊と五稜郭隊を駆け巡る。地下もとうに脱出を終えていた。
空爆により施設などから出てくる敵に対応すべく、迎撃態勢を維持する零次機。また、空では数機が既に離脱し、五稜郭方面へと向かったあとだ。
次々に破壊されていく施設、キメラやワーム群。ミルヒ機は空爆部隊に追従し、最も大きな施設を目指していた。超大型対艦誘導弾「燭陰」を放つためだ。
――が。
「あの施設は‥‥」
ミルヒ機の位置と、燭陰に気付いた甚五郎が呟く。あの位置は、地下の弾薬庫の真上にあたる。燭陰では、地下の爆発を誘発する可能性がある。
「すぐに退避を」
「逃げたほうがいいの」
カグヤも気づき、甚五郎とほぼ同時に通信を送る。しかしその時にはもう、燭陰が放たれたあとだった。
轟音が周囲を包んだ。弾薬庫爆発の余波は空へも高く吹き上がり、ミルヒ機を煽る。一瞬だけ高度が下がって再度の爆発に巻き込まれるが、なんとかそこから抜け出した。
ミルヒと機体のダメージは大きく、飛行は厳しい。どうにか空爆エリア外に不時着すると、意識を失ってしまう。
しかしこの爆撃により、地下に炎が蔓延する。残されていた設備なども再起不能となっていく。
空爆は、続いた。
白い大地が赤々と燃えていく。
●五稜郭
複数ある「城壁」のうちのいくつかが崩れ、空でCW排除を続けていた論子は、生身の地上侵攻がある程度安全であると判断した。
着陸ポイントへと煙幕を発射する。そして強襲降下を終えると、続くクノスペの着陸を援護すべく周辺のキメラを排除していく。
着陸したクノスペのコンテナから降りる生身の戦闘要員に論子も合流、警戒方向を分担して死角を補い合い、前に進む。
「タロスが移動を始めた。地上部隊、気をつけてくれ」
ウラキが気付いた。五稜郭の真上から戦局を見ていたタロスのうち、三機が地上、四機が空へと移動する。
「‥‥流石に狙われるか‥‥振り切る。援護を」
タロス達は真っ直ぐにウラキへと照準を合わせてきた。
「落ちてやる訳には‥‥」
放たれるプロトン砲、咄嗟に回避し体勢を立て直す。援護に入るヨハン機。
「敵はこちらで払いのけます、まだ残っているキューブワームやメイズリフレクター、敵機の索敵に集中してください」
ヨハン機はEBシステムとHBフォルムを発動、そしてラヴィーネをタロス達へと向けて放出する。だが敵機は落ちず再度プロトン砲、しかしその攻撃は届かない。
「俺が盾になる、あとは任せた」
後方からヨハン機を抜いたジャック機が、タロスの放つ光条をそのボディで受け止めに入る。しかしこのまま墜とされるつもりもない。
放つ、『ランタン』。交差する光の筋。
続けざまにラナ機とヘイル機のミサイルがタロスに吸い込まれていく。そのあいだに空戦部隊は陣形を立て直す。
一方、降下したタロス達は、着陸した直後に元機と生身部隊へ向けて初撃を放った。
コクピット付近を貫かれる元機。元自身は直撃を免れたものの、それでも負った傷は深く倒れてしまう。
論子達への攻撃は、ほんの僅かに離れた地表に着弾した。
網膜を焼く閃光と、鼓膜を振るわせる重い音が響き、その激しい余波で論子達は吹き飛ばされる。能力者であったのが幸いし、彼女達は一命を取り留める。
「‥‥そ‥‥んな‥‥」
地に伏し、声を絞り出す論子。
「なんてことを‥‥っ」
零音、ブーストで距離を詰め、拳ごとタロスにぶつかっていく。その間に、負傷者の救出が行われていく。
VTOLで一気に高度を下げてタロスへの攻撃に転じるアルヴァイム機。UNKNOWN機は着陸し、グングニルを突き立てにいく。
「地上はこれ以上の攻略はできない」
タロスへの攻撃を続けていた羽矢子がウラキに告げる。ウラキも頷き、空戦部隊にも撤退を告げる。
撃墜数でなく、残った味方の数が戦果だ。今日の仕事は――重体となった者はいるが、命を落とした者はいない。
「潮時ですか‥‥突破口を作ります、脱出しましょう」
ヨハンは残しておいたラヴィーネ、そして乱波も使い切り、退路確保に転じる。
五稜郭隊は撤退を始めた。空の殿を、ラナ機とヘイル機、そしてジャック機が務める。地上はアルヴァイム機とUNKNOWN機が最後に離陸した。
徐々に小さくなっていく五芒星――振り返り、羽矢子は静かに言葉を紡ぐ。
「魔女は三年間、ここで何をしてたのかしらね」
●空港
燃料が尽きるまで周囲を哨戒していたカークウッド機が、静かに着陸する。
函館北方方面や、周囲の残敵の掃討もある程度は終えた。有人機らしきワーム群がここから離れていく様も確認した。
函館山からは攻略完了が、そして五稜郭からは撤退が、それぞれ報される。
「‥‥まともな防寒衣を持ってこなかったことを少し後悔しておこうか」
そしてカークウッドは機体から降り、函館の空気を吸う。肺が、冷えていく。
BLADEは動かなくなった機体から修司によって救出され、治療を受けていた。傷は深いが比較的元気はあり、しかも手にはカフェオレ。周囲の状況を見渡し、小さく息を吐く。
「この年になると雪が降っても何も面白くない。あっ雪かきするなら手伝うぞ」
「その傷を治してから‥‥が、いいでしょうな」
修司が笑みを浮かべる。それもそうかと、BLADEはカフェオレを一口流し込んだ。
静かになった空港を見渡し、ケイが目を細める。
あの時、北海道から出るのは決して容易なことではなかった。逃げることしかできなかった。
けれども、今の自分はあの頃とは違う。
「――故郷を人の手に取り戻すために、俺はここに戻ってきたんだ」
吐露する心。この足は、確かにこの地を踏みしめている。
これはその一歩に‥‥なるのだろうか。
リヴァルは石狩方面、そしてその向こうの空をじっと見据える。
「今すぐとはいかないだろう。だが、我々は此処まで来たのだ。リリアン、貴様と対峙できる段階にまで‥‥」
リリアン・ドースン、そして北海道奪還に手が届く位置に来ているのだ。
「いつか‥‥両親の墓参りにいつでも来れるように‥‥したいな‥‥」
のぞみは呟く。それが近い将来であることを祈りながら。
必ず、その墓前に手を合わせに来るから――心の中で、両親へと言葉を紡ぐ。
その機体は静かに上空を舞い続ける。
――今の僕は‥‥酷いエゴの塊だ。
ヴァガーレゴーストと名乗った彼は、唇を噛む。
「だからここでは‥‥絶対ヤフーリヴァはこの国では名乗らない」
彼の目に、未だ地上から煙を吐く格納庫やワームの姿がぼんやりと映った。
低空を、ガンスリンガーがゆるりと飛行する。文の機体だ。
その操縦席の箱に押し込まれているのは、花束。
文はそれを空から基地へと放り、そっと瞼を閉じた。
まだ道半ばではあるが、函館を巡る長い攻防の戦死者達へと――黙祷を。
「‥‥ゆっくり休んでてな、後は生きてる人間が最善尽くすさ」
ゆるりと瞼を開ければ、花束から散った花弁が雪のように風に乗り、舞い踊っていた。
●
強い、想い。巡る、想い。
函館への、北海道への。
空白の時間は長かったのか短かったのか。ただ言えることは、空白であっても時間は流れていたということだ。
人類にとっても、バグアにとっても。
――そのままで時を止めてしまっているものは、あるのだろうか。