●リプレイ本文
●クルメタル社
「今日は来てくれてありがとう」
クルメタル社の一角で、野村卓人は満面の笑みを浮かべた。
自身の研究室に能力者達を招き入れると、早速饒舌に語り出す。
「見てごらん、これは僕が手作りしたKVのレプリカたちだ。アッシェンプッツェルとヨロウェルはこっちにあるよ。どうだい、精巧にできてるだろう? 君たちはここに乗り込んで、副兵装はこことここに装備して、このウィングが動いて、槍はこーんなふうに収納されて‥‥!」
きゃいきゃいとレプリカを手で動かし、人型から飛行形態に変形させる。
「君たちはこれを陸や空でやるんだろうなぁ。変形している最中を外から見てると、芸術だよね。KVってすごいよね。子供の頃にさぁ、ロボットアニメ見たよね。乗り込んで戦ったり、人間と友達になりたいっていう感情を持ったいわゆるヒューマノイドロボットとか。あっ、アンドロイドでもいいんだけど、僕は敢えてヒューマノイ」
「はい、そこまでです。先輩。今日の目的を忘れないでください」
助手が卓人の言葉を途中で遮る。ハッと我に返った卓人は、言葉を失ったままこちらを見ている能力者たちに「ごめん、君たちの話が聞けるのが嬉しくて、つい調子に乗っちゃった」と苦笑した。
「すみません、先輩‥‥じゃなくて、室長は‥‥嬉しいといつもKVとロボットについて熱く語り始めてしまうんです」
助手も深く頭を下げ、皆を奥にある小さな会議スペースへと誘う。卓人はアッシェンプッツェルとヨロウェルのレプリカを抱えている。
落ち着いてソファに腰を下ろし、ほどなくして助手が紅茶を運んでくる。それらをテーブルに全て置くと、彼は卓人の隣に座った。どうやら、卓人の暴走を止めるための監視役らしい。
「ところで皆はどのKVの搭乗権を所持しているの?」
卓人が問う。
「私はピュアホワイトです」
と、井上・セレスタ(
ga0186)。
「ぴゅあぴゅあかぁ。新しい子だよね。今、レプリカ作ってる最中だよ。あの子のクリスマスバージョン、実物欲しいんだ。乗れないし手に入らないけど」
どこまで本気なのか。卓人はくすくすと笑う。
「私は、アッシェンプッツェル、シュテルン・G、リッジウェイ、スカイセイバーですね」
「私もアッシェンプッツェル。あとは、オウガ.st、ハヤテ、ピュアホワイト」
続いて、セラ・インフィールド(
ga1889)と瑞姫・イェーガー(
ga9347)。
「いいな‥‥僕が特に好きなKVばかりだ。しまったな、依頼概要に機体も見せてくれっていう条件つければよかったかな。特にアッシェン‥‥。データならあとで訊くつもりだけど、実物が見たかった‥‥しまったな‥‥」
卓人は悔しそうに口を尖らせる。
「あたしのはどうかな。シュテルン・G、アルバトロス改、ソルダード、天だけど」
赤崎羽矢子(
gb2140)が言うと、卓人はレプリカをふたつ指さした。
「天か! ほら、右のが試作機のほう。左はバージョンアップ後の宇宙対応機! 天は作るの苦ろ」
「いやもう、自慢はいいですから」
助手が止める。それを見計らって、美空・火馬莉(
gc6653)。
「美空はアルバトロスと――ヨロウェルであります」
「よろうぇるーーーーーーーー!」
「ほらそこ、叫ばない」
叫んだ卓人をやっぱり助手が止める。興奮を抑え、卓人がセレスタと羽矢子の顔を見た。
「君たちはアッシェンもヨロ子も所持していないんだね。それなのに来てくれたのかい」
「はい。考え得る限りの意見を述べたいと思います。お役に立てれば幸いです」
問われ、セレスタが小さく頷く。
「クルメタルには頑張って欲しいしね」
羽矢子は笑う。しかしすぐに眉を寄せ、ソファの背に深くもたれた。
「ところで、二機とも宇宙で+αスキルがあるけど、VU後は宇宙使用推奨? 燃費の問題もあって厳しくないかな? 乗り手の意見次第だけど、方向が定まらないと意見が纏まらず半端なバージョンアップになる可能性があるし」
「うん、君の言うとおりだ。方向が定まらないと、半端になってしまう。ただ、アッシェンもヨロ子も、宇宙使用推奨ってわけじゃないんだ。けれど、長く共に戦ってきた愛機と共に宇宙へ出るという可能性がゼロじゃない。どうしても生じてくる‥‥小さな選択だと思うんだ。もっともこれは僕の持論だから、他の研究者には当てはまらないけどね」
卓人は少しだけ苦笑を浮かべる。議題は自然と、スキルの宇宙対応強化に移った。
●パンプチャリオッツ&ラインの黄金
「アッシェンプッツェルのパンプチャリオッツもヨロウェルのラインの黄金も、共にB案、『飛行形態での使用』を推します。やはりこれからは少しでも宇宙対応をしていく必要があると思います。突撃を閉鎖空間マップ以外でも行えるというのは大きいです」
そう言うのはセレスタ。頷き、言葉を引き継ぐのはセラ。
「宇宙限定とはいえ飛行形態での使用が可能になるというのは、やはり大きいです。今後はどうしても宇宙での戦闘が増えるでしょうから、その際に選べる選択肢が増えるのは願ってもないところ」
「あたしは対応しなくていいと思うけど。宇宙ならどこでも人型で使用可能だし」
「このスキルは、現在のところ閉鎖空間だけだよ?」
「えっ、そうなの?」
卓人に言われ、目を丸くする羽矢子。意外と誤解されがちだが、パンプチャリオッツもラインの黄金も、宇宙では閉鎖空間でしか使えないのだ。
「うん。まあ、そういう意味での強化案だね。ただ、パンプチャリオッツのほうはさ、練力すごく食うんだ。つまり、南瓜が宇宙に進出すると、さっき羽矢子くんが言ったとおり燃費の問題が、ね」
「そう、燃費が問題だよね。あと、ラインの黄金はワルキューレの騎行と比べて単体攻撃なのが気になるかな。練力消費を上げて移動範囲攻撃には?」
「できるなら最初からやってるよー‥‥。それに、もともと移動を含めていない能力だから、根本的なものが‥‥ね」
少しばかり切なそうな顔で頭を抱える卓人。それもそうか、と羽矢子は唸る。
卓人の様子を見て、瑞姫が呟く。
「卓人さんが羨ましいな‥‥私だってKVの設計したかったな」
開発やバージョンアップに悩み、頭を抱えている姿。それさえも羨ましくさえある。
一から設計して、形になっていくKV。それが実際に動く姿を見るのはどれほど楽しいことだろうか。それを実現させている卓人は、確かに楽しそうにKVの話をする。
「でも、僕は君たちが羨ましいよ」
「どうして?」
「KVに乗れるんだから、ね? 僕は君たち能力者も、KVの大事な設計者、開発者のひとりだと思ってる。君たちの声が反映されている機体も少なくはないだろう? 君たちがいてこそのKVなんだ」
もちろん、KVが開発された目的はバグアとの戦争であることは忘れてはいないけれども。
「いつもKVたちを大切にしてくれて‥‥ありがとう」
卓人は笑った。でも、と瑞姫。
「アッシェンプッツェル乗りなのに私、読み方間違えてたし」
「大丈夫、僕も間違えてたから」
こそりと瑞姫にだけ教える。隣で助手が眉を寄せているが、気にしない。瑞姫もくすりと笑った。
「脱線してしまいましたね。続きを進めましょうか」
セレスタがふわりと笑い、続きを促す。
「あ、うん。私はパンプチャリオッツはA案、威力・距離上昇を推すかな。でも、あまり代わり映えしないかな‥‥二倍にしろ、三倍にしろ。だからむしろ、知覚攻撃モードも有りではないかな‥‥パリング応用のエネルギーチャージ的な。追加するのは無理な気がするけれど」
「うん、さすがに難しい」
「だよね。‥‥それから、B案は、いっそのこと後継機に回すべきかな、と思う」
瑞姫の提案をメモに取りながら、卓人は「後継機‥‥」と呟く。
「あるかどうかはわからないけど、こういう意見があったということは上に伝えておくよ。‥‥後継機、か」
ぶつぶつと言い、ちらりとヨロウェルを見る。後継機ではないが、ヨロウェルはB案というのもアリかもしれない。
その視線を追い、美空が手を挙げる。
「ラインの黄金の射程の短さは異常であります。メタな話、200メートルの射程は、性能的に射程20ということで、そこらへんの手持ち知覚兵器よりも固定兵装の方が射程が短いと言う有様。高分子レーザーよりは長いが、『フィロソフィー』には劣るということなのであります。せめて倍くらいの射程として欲しいのであります」
熱く語る美空。
「ヨロウェルもパラディンと同じく単騎でどうこうする機体じゃないのはわかっているのでありますが――」
集中運用するにしても能力の半端さにかなり泣かされてきた美空だ。恐らく、それは美空だけではないだろう。
そこに加え、生来弱視な美空は視覚補正装置をKVに積んでいるため、任務の成否はヨロウェルにかかっていると言っても過言ではない。その真剣さは半端ではない。
卓人はしばらく黙り込んだ。彼女の言いたいことは痛いほどにわかるのだ。同様のことは、友人からも言われていた。だが――彼はそれに対して首を振ったのだ。
ここでまた、美空に対して首を振らなければならない。
「‥‥僕もメタな話をしよう。ラインの黄金は、銃器と真っ向勝負するというよりは、価格帯の近いものと似たような性能を目指しているんだ。フィロソフィーと比べると、明らかに価格が違う。それは武器だけじゃなく――機体価格自体も、ね」
そこで一息つき、美空の様子を見る。彼女は真剣に話を聞いていた。
小さく頷き、続きを話す。
「つまり、廉価な機体の固定武装とその固定能力だから、バージョンアップを行うにせよ、あくまで格闘武器が本体。余り高望みはできないんだ」
「そうでありますか‥‥。‥‥話してくれてありがとうであります。ヨロウェルは、戦列機であることを鑑みても防御が弱い、砲撃戦機と言うことから見ても射程が短い、固定武装からしても性能が低すぎる、それが問題点であります。美空は、そのヨロウェルとこれまで一緒にいたであります」
真っ直ぐに卓人を見据える美空。卓人はそれを真正面から受け止め、ゆっくりと頷いた。
●エネルギーパリング&スィール、そしてシステム・ニーベルング
まず、簡単に言ってしまえば「これはいらないのではないか」という空気が濃い。
優先度が低い、そして手を加える必要性を感じないと言うのはセレスタ。
セラも優先度が低いと言う。
羽矢子はやや違う意見だ。
「エネルギーパリングはヴィヴィアンの強化が防御上昇に繋がるし、他に回した方が効率的だと思う。能力とツヴェルフウァロイテンの回数上昇に回した方が安定するんじゃないかな。スィールも‥‥宇宙閉鎖マップ時の回避+は元の機体回避が低いし微妙。方向性として本気で宇宙対応するなら練力の大幅上昇、地上での使い勝手を上げるなら兵装数増加ってとこじゃないかな。それから」
紅茶で喉を潤してから、羽矢子は続ける。
「別の話になるけど、システム・ニーベルングを改良できないかな。消費が高い割には効果が半端だし、複数の機体がいるならリンクして負荷を減らすことで消費を下げるとか出来ない?」
「それは美空も言いたいであります。スィールの強化は不要でありますが、システム・ニーベルングがパラディン同様に中途半端なので、強化能力を絞って修正値を強化する方向で改良してもらいたいのです」
美空も身を乗り出す。
卓人は、システム・ニーベルングの改良を求める声を他にも聞いたことがある。恐らく今回も問われることだろうと思っていた。
「――まあ、うん。どちらの提案も、わかる。けれども‥‥リンクする機体が全てヨロウェルWBであれば何ら問題はないけれど、通常のヨロウェル及びパラディンとも同調できるわけだ。あらゆる意味で、バランスの問題が生じてしまってね。ちょっと説明するのが難しい部分になるんだけど、ね」
「‥‥なるほど」
唸る羽矢子。しょんもりする卓人を見て、おや、と思う。
「どうしてしょぼくれてるの?」
「‥‥君たちの要望‥‥ヨロ子やアッシェンへの沢山の意見がとても嬉しいんだ。でも、全てを取り入れることができなくて、申し訳なくなってきた」
眼鏡の奥、少し垂れ気味の目尻がさらに垂れる。
「もしかして、断ったりするのは苦手ですか?」
セレスタが小首を傾げる。先ほどから、いわゆる「NG」を出すたびに目尻を下げる卓人。ときどき、上を向いて瞬きを繰り返す。もしかしたら涙を堪えているのかもしれない。
その様を見て、皆は思わず苦笑する。
全て採用できたらどんなに素晴らしいかと想像し、そしてまた落ち込むのだろう。なんという面倒くさい――いや、繊細な変わり者だろうか。
「室長は、変わり者であります」
美空にずばりと言われ、卓人は「うん」と頷いた。
●ツヴェルフウァロイテン
舌を噛みそうなスキル名、ツヴェルフウァロイテン。これについては、意見が分かれた。
まずはセラ。このスキルの強化を最優先順位としている彼は、A案回数増加を提案した。
「敵陣に突撃しての強襲となるとどうしても乱戦になりがちですし、思わぬ攻撃を受けたりする可能性も高いので、現状の使用回数ですと不安を覚えることもあります」
突撃するというのはつまり敵陣に突っ込むということ。その後の危険度は極めて高くなる。ましてや最前線に出た場合はなおさらだ。
それとは別の意見を出すのは瑞姫。彼女はB案の、発動時の修正値上昇を選ぶ。
「回数を増やすなんかよりは面白いかな」
回数より、一度における修正値上昇も確かにアッシェンプッツェルに迫る危険度を下げるだろう。
そして、セレスタは。
「現状で充分強力ですので、強化は特に必要ないと考えます」
強化不要という意見だ。
この三つの意見、どれも頷ける。卓人はアッシェンプッツェルのレプリカを弄りながら長考に入った。
「‥‥君たちはアッシェンをどう思う。どう考える」
ぽつりと問う。
「カボチャの馬車ならぬ戦車で敵陣に乗り込み、激しいダンスで暴れまわる機体コンセプト的には、現状でも十分お転婆なような気もするのですが‥‥まあそれはさて置き、私は基本的に改造で強化出来ない部分に手を加えたいと考えてます。それを踏まえて、今回の項目を選ばせていただいています」
「優先順位はあるかい?」
「ツヴェルフウァロイテンのA、パンプチャリオッツのB、能力加算、エネルギーパリング――です。優先順位を挙げるならこのような感じになります。特にツヴェルフウァロイテンの回数増加は私としては必須項目かと」
言いながら、セラもレプリカのヴィヴィアンを軽く持ち上げてみる。
「僕の友人はさ、これをタロスのエース機並みにしろとか言うんだよね。いっそティターンでもいい、って。酷いよね。でも‥‥実際、強化の仕方ひとつでどんな変化も遂げるんだよね、この子」
攻撃特化、知覚特化、防御特化――シンデレラの名にふさわしい、磨けば美しくなる存在。
だからこそ、バージョンアップは悩むものが多い。
「確かにティターンでもいいは、酷いかな、だけど敵エースとやり合った身からすれば悪くは無いな。私のは、お転婆どころか琥珀の衣を纏った女夜叉だからなんだけれど」
瑞姫が言う。
「巨人にすらダンスをリードしてみせる。戦姫という感じとか‥‥、アッシェンらしいと思うけど」
「巨人にすらダンスをリード‥‥」
その言葉で卓人はハッと顔を上げる。大型陸戦強襲用KV、アッシェンプッツェル。
ならば、それに相応しいバージョンアップがあるかもしれない。
「回数増加と、修正値上昇‥‥どっちも捨てがたい」
思いがけない言葉を呟く卓人。セラと瑞姫は顔を見合わせる。
だが、セレスタの「現状で充分強力」という言葉も忘れてはいない。バランスが難しいところだが――。
「アッシェンプッツェルが最も踊りやすい状態を考えればいいんじゃない?」
そう告げる羽矢子は先ほど、エネルギーパリングは強化せずに、能力とツヴェルフウァロイテンの回数上昇に回した方が安定するのではという意見を出していた。
卓人は何度も頷き、ひたすらメモを取っていく。
●ヴィヴィアン&エレメント、そして能力値と副兵装スロット
まずは、アッシェンプッツェル。
「ヴィヴィアンがとても重たいので、装備を強化して貰いたいですね」
セレスタが言う。それは確かにそのとおりだ。
ヴィヴィアンの重量と取り回しの悪さは大きな課題と言ってもいい。
「能力の加算をする場合、私の希望は攻撃系か装備力、次点で防御系です。いっそ回避あたりを多少削ってしまって、その分を他に回すのもありだと思います」
未だレプリカのヴィヴィアンを弄っているセラは、一息ついて話を続ける。
「ヴィヴィアンはもう少し威力が欲しいところではありますが、盾に特化ということですので、そうなると受防ですかね。もしくは、可能なら取り回しを良くして装備の負担を減らすというのもありです」
「ヴィヴィアン‥‥これは私も命中と受防かな‥‥。防御性能を上げるのがメインなのだから、防御を上げても良いのかもしれないな。外見も、そのままって訳もないだろうから‥‥出来るのならば重量は据え置きたいところだけど、無理だろうから+20までかな‥‥」
瑞姫もレプリカのヴィヴィアンを動かし始めた。
「能力値は、練力や装備。グラスヒールという名前なのだし、多少の増強はありかな」
そして今度は、レプリカのヒールにそっと触れる。
「命中と受防かな」
そう言うのは羽矢子。命中と受防という声が多い。
重量のあるヴィヴィアン、強化によりそれが更に増すのであれば、命中を求めるだろう。機体能力値の装備上昇もその表れだ。他の要望も、非常にわかりやすい。
「重量については強化によって若干増すだろうけど、瑞姫くんの言う範囲内には収まると思うよ」
卓人は明るい表情をする。この様子だと、エレメントや能力値の上昇は比較的対応できそうだ。
続いて、ヨロウェル。
「副兵装スロットは‥‥私は特に必要とは思いません。能力値の加算は、ラインの黄金の使用回数を増やしたいので、練力を強化して貰いたいです。素の練力も低めですし」
セレスタの言葉に、卓人はうんうんと頷く。
「そうなんだよね、ヨロ子‥‥スタミナがなくて」
やはり練力の加算というものは、ヨロウェルにとってはかなり優先順位が高いのかもしれない。副兵装スロットは特に強い希望はないようだ。羽矢子がちらりと言っていたが、美空は触れていない。
「美空は防御、抵抗の強化を推すであります。本当は移動が欲しいところですが、性質的には上がらないと判断しているであります」
「うん、わかる」
ヨロウェルのレプリカを撫でる卓人。練力と防御面をどうにかできるといいが――と思案する。
「エレメントはさ、武器として微妙だし‥‥命中と威力上昇かな。練力マイナスも気になるし、宇宙も視野に入れるなら【SP】武器にして燃料タンク付にするとか。これはヴィヴィアンも同じくだけど」
「美空はせめて推奨武器の『ゲイルスケグル』ぐらいは欲しいところであります。いっそ固定武装を入れ替えても良いと考えるくらい。最近の【SP】武器のように練力タンクの追加でもよいであります」
羽矢子と美空の提案に、卓人は首を振った。
「【SP】武器にするのも固定武装を入れ替えるのも、タンクをつけるのも難しいな‥‥」
「そうでありますか‥‥」
声のトーンを落とす美空。「でも」と卓人が続ける。
「ゲイルスケグルくらいに強化するのは難しいけど、能力値を当初の想定より上乗せすることならできるかもしれない」
「本当でありますか?」
「ただ、元々とても安い機体で‥‥エレメントも安い兵装だから、ゲイルスケグルを超えることはできないし、君の望む数値までアップするのは難しいってことだけ覚えておいてくれるかな。でも、僕も最大限の努力はさせてもらうから」
「わかったであります」
こくりと頷く美空。
「ヨロ子のこと、沢山考えてくれてありがとう。少し手の焼ける子だと思うけど、よろしく頼むよ」
卓人はヨロウェルのレプリカの腕を持ち、ラインの黄金の真似をしてみせた。
●給料日前
ひととおりの意見交換終了後、助手が冷めた紅茶を下げ、新しく紅茶を淹れ直した。
「今日はありがとう。貴重な意見を沢山聞けて嬉しかったよ。これからもらった意見を参考にして、上層部とどれを採用するか本格的に検討することになる。‥‥全てに応えられるわけじゃないのが申し訳ないけれど‥‥もらった意見は、上に伝えておくよ」
少しでも納得してもらえるバージョンアップになるといいが――こればかりは、わからない。
納得する者もいるだろうし、しない者もいるだろう。だが、卓人は自身にできる精一杯をするつもりだ。
「少しでも参考になれたのでしたら、幸いです」
セレスタが笑う。
「うん、とても参考になったよ。時間を忘れるくらいね。‥‥でも、もう少し教えて欲しいことがあるんだ」
そう言って、卓人は眉を寄せた。何事だろうと、皆が首を傾げる――かと思いきや。
誰もが言い出すと思ったという顔をする。隣では助手が溜息をついていた。
「わかりました、皆のKVのデータを知りたいんでしょう?」
セラは紅茶を一口飲むと、そう言ってアッシェンプッツェルのレプリカを見やる。
「どうしてわかったんだい?」
「最初に言ってたよね」
「確かに言ってた」
羽矢子と瑞姫が頷きあう。
「次は室長が美空たちのKVへの思いをじっくり聞く番であります」
美空がびしっと卓人を指さす。
「そうなると、夜にもつれこみますね。皆さん、KVは複数乗られていますし」
セレスタが時計を確認した。昼過ぎから始まった意見交換だったが、もうすぐ夕刻だ。今からまた語り合うと一体何時になるのか。
「夕食は室長がご馳走してくれますから、皆さんごゆっくりなさってください」
助手は勝手に言うと、すたすたと外線電話に向かっていく。そしてどこかに何やら電話をし、「七人前」だの「スペシャルコース」だの言っているのが聞こえてくる。
「え、ちょっと待ってよ、僕給料日前なんだけどっ」
卓人が慌てて止めるが、もう注文を終えたあとだった。
「さて、まずは美空が、我がシュバルツ・ベルダンディについてを語るであります」
そして、皆のKV語りが始まる。卓人が今日一番の泣き顔を見せたのは言うまでもない。