タイトル:【AW】天空を駆ける蛇マスター:佐伯ますみ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/26 23:53

●オープニング本文


 エーゲ海の空を、巨大な蛇が駆け抜けていく。
 常に最前線での激戦が続いている競合地帯上空に突如として現れたそれは、人々の目を釘付けにする。あれは一体何なのだろうかと、誰もが我が目を疑った。
 やがて、気付く。
 それは蛇ではなく、ヘルメットワームの群れであるということに――。

 夥しい数のヘルメットワームが一列に編隊を組んで威風堂々と飛ぶ様は、巨大な蛇としか形容できなかった。
 その蛇は真っ直ぐにダーダネルス海峡上空を目指すかのように飛び続けた。マルマラ海へと通じる海峡は、軍事的にも重要な拠点だ。そのダーダネルス海峡への侵空を許してしまうことだけは、避けなければならない。
 UPC軍は「蛇」を迎撃すべく、同様の編隊を組んで正面に躍り出た。UPC軍の「蛇」はもう一匹の真横に並ぶ。そして、一気に絡みついた。
 UPC軍が数において遥かに勝っていたため、かろうじて殲滅できると思われたが、その油断が一瞬の隙を作った。
 絡みついたUPC軍の蛇から、小さな蛇が逃げ出したのだ。
 その数は四機。たった四機のヘルメットワームだが、やはり同じように一匹の蛇となり、真っ直ぐダーダネルス海峡へと向かっていく。しかし、それを追うことのできる機体はなかった。今ここで追撃のために編隊を分けてしまえば、数による優位を保てなくなり、ヘルメットワームが一気に優勢になってしまうだろう。そうなってしまうと、四機どころではすまなくなる。
 だからと言って、その四機を行かせてしまうことなど許されるはずもない。
「行かせるな! 何があっても奴らを海峡上空へ入れてはならん! 誰か‥‥誰か奴らを止めてくれ――!」
 指揮官の声が、エーゲの空に響き渡る。
 ひどくゆっくりと、小さな蛇は進んで行った。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
ハルカ(ga0640
19歳・♀・PN
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
戌亥 ユキ(ga3014
17歳・♀・JG
狭間 久志(ga9021
31歳・♂・PN
三枝 雄二(ga9107
25歳・♂・JG
如月・菫(gb1886
18歳・♀・HD
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD

●リプレイ本文

●天空を駆ける蛇
 八機のKVが、ダーダネルス海峡側から離陸した。遠く、蒼いエーゲの海と空。
「今日はリンちゃんはお休みね♪ 蛇退治はバイパー君に頑張って貰いましょ。少し堅物そうだけど、頼りにしてるわ榊君♪」
 置いてきたリンドヴルムのことを考えながら、狐月 銀子(gb2552)は楽しげに前方を見つめる。榊兵衛(ga0388)の雷電「忠勝」が返事をするかのように軽く左右に揺れた。
「ダーダネルス海峡上空まで進行される迄に仕留めないと、戦線にどんな影響があるかわからないしな。ここは一刻も早く、招かれざるお客にはお帰り頂くしかないだろう」
「詳しいコトはよくわからないけど、敵の侵入は阻止しないとね〜」
 雷電の隣にR−01改を寄せ、ハルカ(ga0640)は頷いた。
「ユキちゃん、よろしく!」
 後衛のパートナーに声をかけると、戌亥 ユキ(ga3014)が笑う。
「初期KVペアだね♪ よぉし! 後輩機にはまだまだ負けてないぞっ! てコト見せちゃおうよ」
 能力者になってからずっと乗っている愛機S−01改。そのコクピットはとても心地よい。
「ヘルメットワーム四機‥‥一人とかなら絶対に逃げですけど、心強い仲間が一杯なので安心です。皆さん、お強いですし足を引っ張らないようにしませんと。初期機体でも頑張れば何とかなるんです! ‥‥多分」
「頼りにしています、如月さん。それにしても‥‥なんだって蛇みたいにべったりくっついて飛んでるんだ‥‥? 意味が何かあるのか‥‥?」
 ペアを組む翔幻の如月・菫(gb1886)に声をかけつつ、狭間 久志(ga9021)はハヤブサを僚機よりも前方に位置取った。
 今回、A(兵衛、銀子)、B(獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)、三枝 雄二(ga9107))、C(ハルカ、ユキ)、D(久志、如月)の四班に分かれて作戦を遂行する。対するHWにも先頭からA、B、C、Dとナンバリングした。前衛を担当するのは兵衛、獄門、ハルカ、久志の四名だ。
 久志を先頭に、五機体分あけて兵衛、獄門、ハルカが横一列に並ぶ。その後方に後衛機が続いた。前衛の初撃時に後衛がいるラインを最終防衛ラインとする。
「HW、目視で確認」
 先頭の久志がやや緊張気味に言う。離陸してからそれほど時間は経ってはいない。予想以上に、四機のHWはダーダネルス海峡に接近していた。蛇状になり、真っ直ぐにこちらに向かってくる。その遥か後方には本隊とも言える、圧倒的な存在感を放つ蛇が見える。
 獲物を一呑みする大蛇と、毒牙で獲物を仕留める小さな毒蛇。
 二つの蛇は、それらをイメージさせた。
「なるほど、こいつは実に傭兵向きの任務なんだよー。ヤツらに我々がラスト・ホープたる所以を見せつけるとしようかねェー‥‥」
 獄門が雷電の操縦桿を握り直した。
 そろそろ行くか。誰かが言った。
「強化型HWって、先輩がアーマー8割持って行かれた、とか言っていたけど、大丈夫っすかねえ? まあ、悩んでも仕方ないっす、pastor、エンゲージ!」
 雄二がどこか楽天的に、しかし鋭く言う。バイパーのコクピット内が震える。元々本職の戦闘機乗りだった雄二の声は、非常にこの状況に似合う。
「スクランブルだ! 機体まわせーっ!!」
 そして、獄門の声と共に、前衛がブーストをかけた。

●エンゲージ
 接近するKVと対峙するべく、頭と尾にあたるHWが陣形を崩し始める。それよりも一瞬早く、久志は反応した。
「させるかっ! 何の思惑か知らないけれど、集まってくれるなら都合がいい!」
 中央に突っ込み、グレネードを二連射。全てを巻き込む攻撃は、自身をも危険に晒す。しかし爆風の第一波が届く直前に、久志は機首を上げて急上昇、そのままインメルマンターンに似た動きを取る。続いて第二波が襲いかかる。HWの破片と思しきものが引力を無視して飛び散り、弾丸のように機体に当たってゆく。久志はその嵐を抜けることに成功した。
「自分の攻撃で墜ちるほど、マヌケでもないですからね!」
 敵の攻撃を回避して死角から反撃する戦法へ特化し、軽量化された機体だからこそ、成功率が上がったとも言える。しかしそれは決して、機体性能だけで得られた成功ではない。久志はHWと再び対峙するべく、飛び散る破片の海へ向けて旋回した。その瞬間、目の前にHWが一機、飛び込んできた。頭部のHW・Aだ。
「く‥‥っ!」
 相手の反応が一瞬早い。こちらが先手を取ることはできない。このまま正面から撃ち込まれてしまえば、大ダメージを食らうだろう。久志は奥歯を噛みしめた。
 その時、三時の方向から次々とHW・Aに向けて攻撃が放たれた。兵衛機のG放電装置と、距離を詰めながらの弾頭ミサイル、ヘビーガトリング。アクチュエータを起動した獄門機のホーミングミサイルG−01、そしてハルカ機のホーミングミサイルG−02だ。三機の攻撃は、流れるようにHW・Aに命中。先ほどのグレネードでダメージを受けていたHWは、この連続した攻撃によって若干降下するが、すぐに体勢を立て直して急上昇をかける。獄門はそのまま弾頭ミサイルに移り、現時点で蛇最先頭のHWから順に火線を集中、そして確実に蛇との距離を詰める。
「蛇さん、こんにちは〜」
 そしてハルカが旋回し、ライフルで追撃した。
「助かった」
 仲間の様子を見ながら久志が言う。兵衛が応答した。
「見事だった」
 短い、一言。そして横に並ぶ。続くようにして、獄門機が上方に、ハルカ機が前方に躍り出た。HW・Aがすぐ後ろに迫る。獄門機とハルカ機は旋回、久志機と兵衛機はそのまま急上昇をかける。そして示し合わせたように散開。標的を失ったHW・Aは一旦隊列に合流し、再び蛇となる。そして双方は交錯した。

 後衛機もHWをその射程内に捉える位置にまで達していた。
 A班の銀子がライフルを、HW・Aが射程に入った瞬間に狙いを定め狙撃、敵機左脇腹に着弾。敵機が距離を詰めてくるが、銀子も動く。一定の距離を保ったままの牽制が続く。シャンデル、ロール、急降下、急上昇。機体を暴れさせ、ミサイルを視界に入れる。被弾した敵機の注意は完全に銀子に向いた。後ろから確実に兵衛が迫る。
「華は男性に持っていかせるのがいい女ってね♪ 君には難しかったかしら?」
 銀子は兵衛の位置を常に注意しつつ、敵機への牽制を続ける。もっとこっちを見るのよ、あたしの役目は時間を一瞬でも多く稼ぐこと。機首を上げた。
「予想以上にタフだな」
 兵衛は自身が追う敵機を見て眉を寄せる。このHW・Aは戦闘開始直後から集中的にKVの攻撃を受けている。とっくに墜ちていてもおかしくはないはずだ。だというのになぜ、墜ちない。どうやら苦戦しそうだ。
「‥‥面白い」
 思わず頬を緩めた。

 獄門は再び蛇となったHWとの相対距離0で反転、平行する。自身が担当するHW・Bが一瞬速度を落とし、その後急上昇、単独で前衛を抜けた。一気に海峡を目指し始める。後衛の雄二は進路上に常に陣取り、前進を阻止するべくミサイルの射程ギリギリまで引きつける。すぐさま敵機は雄二への攻撃を開始、回避するも左翼に被弾した雄二は舌打ちした。
「く、被弾した、もう少し待ってくれっす!」
「Scheisse! よくも仲間をやってくれたねェー!」
 獄門が後方からライフルを撃つ。HW・Bに着弾すると、HW・Dが獄門への攻撃を仕掛けた。しかしそれを無視するかのように獄門はブーストをかけ、HW・Bとの距離を詰めてヘビーガトリングの近接射撃で確実にダメージを与えていく。着弾する度に敵機が踊る。そして持ち直した雄二との挟撃で進撃を止めにかかる。
「もう大丈夫っす! pastor、FOX2! 当たれ!」
「一気に行くよー!」
 雄二と獄門のミサイルが続けざまに発射され、敵機は墜ちていった。
「エネミー、ショットダウン! 他編隊の支援にまわるっす」
「思ったより手応えがなかったけど、面白くなってきたねェー」
 二機は未だ激しい交戦の続くHW・Aへと向かった。

 HW・Bの前衛突破直後、HW・Cも突破をかけた。後衛のユキが操縦桿を強く握る。
「来たっ! でも、そう簡単には抜かせないんだから!」
「ユキちゃん、よろしくなのだ〜!」
「任せて!」
 ユキが足止めにかかった。威力よりも命中度の高い武器を優先的に使う。連続で攻撃を与え続け、敵機のミスを誘った。敵機はユキの攻撃を回避するべく急降下したが、その先には撃墜されたHW・B。今度はそれを回避しようとするが、機首がわずかに接触し、バランスを崩す。そこに再び撃ち込むユキ。敵機の注意は完全にこちらに向いた。常にプレッシャーを与え続けたユキは主導権を握る。
「これ自分がされたらストレス溜まるだろうな〜」
 そう言いながらも、攻撃の手は休めない。G放電装置、バルカン、効率よく武器を使い分け、確実に敵機を追い詰めていく。攻撃のメインはハルカだ。そのための下地作りに余念はない。
「さすがユキちゃんっ!」
 ハルカは満足げに頷き、攻撃態勢に入る。すでに機体は敵機の間近に迫っていた。アグレッシヴ・ファング、エネルギー付与を一時的に高め、ヘビーガトリング掃射。
「あったり〜!」
 リロード、掃射。その間にもユキのプレッシャーは続く。敵機は完全に自由を失った。それでもユキを抜けようと動く。ユキは笑う。
「そうやって私にばかり気を取られていると‥‥」
 ハルカによる三度目のアグレッシヴ・ファング、そしてガトリング。
「ほら! 墜とされた♪」
 黒煙を上げ、墜ちてゆく敵機。二人は相手に反撃の余地を与えず、撃墜することに成功した。
「やったねっ! ハルカさん、撃墜成功だよ♪」
「ユキちゃんのおかげだよ〜。じゃ、次行くのだ〜!」
 二人はHW・Aへと機首を向けた。手応えの無さに、言い知れぬ違和を抱きながら。

 次々に前衛を突破していく他のHWと違い、HW・Dは前衛突破をかけなかった。ただじっと滞空している。余程強化されているのか、それとも囮か。後者だったとしても、引っかかるような能力者たちではない。突破をかけたHWには確実に追撃の手が伸びる。D班の久志と如月以外誰も、HW・Dには目もくれなかった。
「若しくは、戦力の分散が目的か」
 久志が呟いた。ちらりと他へ目をやると、明らかに「異常」と思われるHWが一機、海峡を目指していた。追うのは兵衛機。HW・Aだ。前衛の初撃により最もダメージを受け、そしてなお、迎撃する銀子の攻撃を食らっていた。しかし、墜ちない。ここでぐずぐずしている暇はなさそうだ。一刻も早く撃墜し、兵衛の援護を。久志と如月は同時に頷いた。
「一気に撃墜を狙う!」
「わかりましたっ!」
 如月の応答を受けるや否や、久志は翼面超伝導流体摩擦装置で機体に制動をかける。初撃のグレネードといい、この制動といい、リスクをものともしない久志。
「さあ‥‥この動きについて来れるかっ!?」
 普段は自分に自信がないが、今は失敗という文字は頭にはない。敵機を翻弄し、追い詰めてゆく。如月もそのリズムに乗った。ミサイルを発射、強引に射程から抜け出ようとした敵機を足止めする。ドッグファイトはKVに軍配が上がった。そして一瞬の隙を見逃さず、如月がロケットランチャーをぶち込んだ。敵機は吹き飛びながら降下していく。もう戦う力はないだろう。しかしよろよろと、それでも戦闘を続けようとした。
「ラスト! お願いします!」
 如月の声に、久志は行動で応えた。高分子レーザー砲が敵機を襲う。C班同様、敵機に反撃する余地を与えることなく、撃墜に成功した。あまりもの手応えのなさに二人は眉を寄せる。
「‥‥嫌な感じだ」
「そうですね‥‥」
 久志と如月は墜ちてゆく敵機を一瞥し、A班と合流するべく旋回した。

●蒼の境界線
「明らかにおかしいのだっ!」
「どうして墜ちないんでしょう」
 最初にA班の援護に到着したハルカとユキは、目の前を悠然と飛行するHW・Aに攻撃を続けていた。兵衛と銀子も攻撃の手を休めない。
「君のいいとこ見てみたい♪ いけっバイパー君! 蛇相手なら、必殺マングースアタック! なーんてね♪」
 銀子が言いながら、スタビライザーを使ってミサイルを連射する。
「蛇‥‥毒蛇、か」
 兵衛がはっと目を見開く。
「そういうこと、ね〜」
「では私たちはマングースとして徹底しないと」
 ハルカとユキが頷く。その時、獄門と雄二が、やや遅れて久志と如月が到着する。そして全機すかさず攻撃態勢に入る。敵機が一瞬射程から外れた隙を見て、如月は幻霧発生装置を使用する。これが無駄遣いに終わればいいが――如月はそう思った。しかしその思いを裏切るかのように、敵機は反撃をかけてきた。KVに向けて高速で突っ込み、縦横無尽に暴れながら、しかし確実に狙いを定めて撃ち込んでくる。だが、先ほどの幻霧発生装置によって回避能力の上がっていたKVたちには、発射された攻撃を回避することは難しくはなかった。
「何を考えてるんだろうねェー」
 獄門が何度目かの回避をすると、敵機は急上昇し、再び海峡を目指し始めた。しかし先ほどまでのスピードは感じられない。バラバラと破片が落ちる。くすんだ煙が細く尾を引く。
「最後の抵抗か。では、引導は俺が」
 兵衛はそう言って、狙いを定めた。
「男ならビシっと決めちゃってね♪」
 銀子の声が終わると同時に、兵衛は攻撃を開始した。
 回避を強いるため、弾数の多いUK−10AAMを発射する。思惑通り、敵機は回避行動に移る。速度が少しだけ落ちた。そこを突き一気に距離を詰め、弾道ミサイル、そして高分子レーザー砲と容赦なくぶち込んでゆく。
「もう、墜ちろ」
 兵衛が深く息を吐く。HW・Aはまるで悲鳴を上げるように火炎を噴き出すと、そのまま落下していった。
「終わった‥‥かな?」
 銀子が現在位置を確認する。最終防衛ラインのおよそ五百メートル手前、上出来だ。
「それにしても、最後の一機は一体‥‥?」
 ユキが呟く。しかし誰も答えない。
 皆、本隊の蛇を見る。蛇は二つに分裂していた。HWのそれと、UPC軍のそれと。そしてHWの蛇は撤退を始め、エーゲの空を南下していく。最も強い毒牙を持った頭を失ったからだ。そう、最後の一機、HW・Aはまさにその役割だったに違いない。それを海峡に侵空させることで、脅威を見せつけようとしたのだ。しかし彼らは、能力者達の見事な働きによって撤退せざるを得なくなった。とは言え、充分なインパクトを人類に与えたのは確かだ。もしかしたらそれが目的だったのかもしれない。
 だが、誰もそれを口にはしない。どす黒い予感が広がる。
「帰投しよう」
 兵衛がぽつりと言った。
「了解、ミッションコンプリート、RTB」
 雄二が答える。そして全機は旋回した。
 エーゲの海と、遠く、蒼い空。
 蛇はうねるように、海と空の境界線へと消えていった。